キリト・イン・ビーストテイマー   作:クジュラ・レイ

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やはり戦闘回は時間がかかるようです。

二週間ぶりとなってしまいましたが、KIBTでのセブン戦をどうぞ。


11:The Place of Death ―歌女神との戦い―

          ◇◇◇

 

 

《一番はあたしだ……あたしは負けられないんだッ!!》

 

 

 闇の帳が降りているかのような空間の中を飛び回る俺達の頭の中に、少女の声色の《声》が送られてくる。発しているのは闇夜の海を照らす夜光虫の如き青、白、水色の粒子をその身に纏って(そら)を泳ぐ白き龍。

 

 俺達と戦って勝利を収めるべく、様々なデータを自身のアバターにダウンロードし、データ過多をわざと引き起こさせ、自身の姿を変貌させたセブンその人だ。その証拠に、《白の女神龍》の頭上に表示されているのはセブンのアバターネームであり、それ以外の特徴は見受ける事が出来ない。

 

 セブンは優れた才能と能力、その可憐な容姿の影響もあってか、シャムロックやその他の大衆から女神や天使と呼ばれる事もあった。その今のセブンの容姿は白と青の鎧と毛に身を包み、身体の至る所から天使のそれを連想させる翼を生やした龍という、大衆が思うセブンへのイメージが歪んだ形に発現したようなものとなっている。

 

 これまでのセブンからは想像も出来ないような姿、差し詰め《白の女神龍》と呼ぶべき姿となったセブンと、俺達は戦いを開始したのだ。

 

 

「セブンちゃん、まさかこんな事になっちまうなんて……」

 

「こんな奴、どうやって倒せばいいんだ。先が全然読めてこない」

 

 

 刀を構えつつ、目の前の出来事が信じられないような顔をしてクラインが言い、続いて盾と片手剣を構えたディアベルが険しい顔で呟く。

 

 ここまで来るのに何匹ものボスモンスターを相手にしてきて、エリアボスという呼称を授かる強大なボスモンスターとの戦いを切り抜けてきたのが俺達であり、俺とリランに至ってはヴァナルガンド、デビルリドラ、白き妖狐といったエリアボスよりも強い者達を相手にしてきた。

 

 今更どんなモンスターが出て来た所で驚かず、冷静に対処できる余裕が合ったつもりだったのだが、流石に位置プレイヤーが《使い魔》やそのデータと融合してモンスターとなった存在と戦う事になるなんて言う展開は読めていない。

 

 そのため、《白の女神龍》となったセブンと戦う事となった皆には焦りや混乱の色が濃く出ていた。実際俺も、あんな姿となったセブンにどう対処すればいいのか、全く思い付けていないような状態だ。

 

 しかし、《白の女神龍》の中で様々な《使い魔》の持つ特徴の影響が出ているのはHPを除くステータスと外観だけのようで、肝心な《HPバー》は普通のプレイヤーと同じ一本しかない有様だ。

 

 最早セブンはプレイヤーアバターではなくモンスターに身を(やつ)しているに等しい状態だが、どんなモンスターよりも体力がないらしい。どのような戦い方を繰り広げてくるかは未知数だけれども、戦い方を間違えなければこれまでのボスよりも早く倒せるはず。

 

 その戦法を頭の中で練ろうとしたその時、行動を起こしたのは《白の女神龍》だった。

 

 

《あたしの邪魔はさせないッ》

 

 

 頭の中に《声》を送りつつ、《白の女神龍》はその身を捻りながら、勢いよく突進を繰り出してきた。環状氷山のエリアボスであった黒蛇龍ニーズヘッグほどではないものの、戦神龍ガグンラーズとなったリランの一回り以上の身の丈を持つ《白の女神龍》の突進の範囲は非常に広大だ。唐突な広範囲攻撃の最初のモーションを見た俺は咄嗟に皆に指示を加え、身体の下にいる《使い魔》と共に攻撃の射線より外れる。

 

 だが、白化熱エネルギーを噴射して空を駆けるリランが回避を行った時に、《白の女神龍》は俺達のすぐ目の前まで迫って来ていたものだから、俺は背中に冷や汗が流れるのを感じた。

 

 これまでのゲームでは巨大なものほど動きが遅いという特徴が恒例とされていたが、《白の女神龍》はかなりの巨体を持っていると言うのに、かなりの速度で空を泳ぐように動く。これまでプレイしてきたゲームのお約束や恒例が通用しない相手、それこそが今のセブンであり、《白の女神龍》だった。

 

 

「デカいくせに早いっていうのかよ」

 

《我のように何かを噴射して飛んでいるわけでないのにか。これは一筋縄では行かなそうだな》

 

「そんな気は薄々感じてたけど、予想以上だよ」

 

 

 リランの《声》に応じつつ、黒き空間の中を突き進んでぐるりと向きを変えた《白の女神龍》に向き直ったその時に、《白の女神龍》の周囲に大きな竜巻が突如として二つ起き、《白の女神龍》の身体を包み込んで行った。風魔法を使う事を何よりも得意としているシルフであるリーファとカイムによる攻撃だ。

 

 巨大な竜巻を発生させて広範囲を連続攻撃する、高出力風属性魔法《タイラント・ハリケーン》。それがシルフの二人によって発動されると、《白の女神龍》に容赦なく風の刃が連続して襲い掛かる。だが、その風の刃が届くまでのわずかな時間に《白の女神龍》の身体から三色の粒子が大量に放出されたのを、俺は見逃さなかった。

 

 それから一秒にも満たない時間で《白の女神龍》は竜巻に呑み込まれ、その身を風の刃に晒す事になった。普通のプレイヤーやモンスターならば甚大なダメージを受ける風の刃を受けているはずなのだが、《白の女神龍》は平然としているだけだ。そして竜巻の発生が終了した時にも、《白の女神龍》はやはりダメージをほとんど受けていないに等しい状態だった。

 

 

「嘘、魔法が効いてないの!?」

 

「冗談でしょ……何かチートみたいなものも使ってるっていうのか」

 

 

 魔法を放ったリーファとカイムは勿論、その一連の流れを見ていた者達が驚きの声を上げている。確かに二人は魔法を発動させて《白の女神龍》に炸裂させたはずだった。なのに《白の女神龍》はダメージを受けていないというのだから、《白の女神龍》となっているセブンが変化の際にチートも使ったと思っても仕方が無いだろう。

 

 セブンが何をどうする事であのようになって居るのかなんてわからないし、そもそもどのようなプロセスを踏んであぁなったのかだってわからない。もしかしたら俺達に勝利をしたいがためにチートも使った可能性もあるのかもしれない。

 

 

 しかし、セブン程アイドルという者――大衆に信奉される存在であり続ける事に固執する娘が、その大衆に自身を見せつける場を自ら無くすような行為であるチートなんてものを使うとは考えにくい。

 

 きっとセブンはチートは使っておらず、攻撃の無効化手段は恐らく、取り込んだ《使い魔》のデータを利用する事で実現しているそれなのだろう。

 

 

「魔法が駄目なら、接近でやるだけだよ!」

 

「これでどうよッ!!」

 

 

 俺が思考を回す傍らで飛び出して行ったのがストレアとフィリア。二人の接近はすぐに感知されたのだろう、《白の女神龍》は二人に身体の向きを合わせて、粒子をまき散らしつつ羽毛に包まれた腕を振るったが、その攻撃が繰り出されるよりも前にストレアは急上昇、フィリアは急下降をして回避。《白の女神龍》の背中と懐に飛び込み、そのまま各々の武器に光を纏わせて振るう。

 

 

「てやあああッ!!」

 

「はああああッ!!」

 

 

 掛け声の後にストレアが《白の女神龍》の背中を両手剣で縦方向に一閃し、同じくフィリアが短剣で腹部を下方向から斬り払う。単発攻撃両手剣ソードスキル《アバランシュ》、単発攻撃短剣ソードスキル《ラピッド・バイト》が放たれる。

 

 魔法は無効化されてしまったけれども、これならば効くのだろうか。いや、効いてほしい――そう願って二人の動きを目にしたその時、きぃんという鋭い金属音が鳴り響くと同時に目の前で起きた出来事に俺は驚いてしまう。

 

 《白の女神龍》の身体を魔法の代わりに斬り裂くはずだった二人の刃。それは《白の女神龍》に到達するよりも前に何かに弾かれ、明後日の方向へ向かってしまった。何が起きたのかわからないのだろう、ストレアとフィリアは武器に引っ張られるようにして体勢を崩してしまっている。

 

 その隙を突くようにして《白の女神龍》は身体を思い切り捻り、溜め込んだ力を解放するようにしてその場を勢いよく旋回。あらゆる攻撃を無力化する力を持つ粒子を纏いつつも巻きながら、その巨躯を二人にぶつける。二人は悲鳴を上げつつ《HPバー》の残量を減らして、それぞれ別方向に吹っ飛ばされていった。

 

 間もなくして、攻撃動作を終える事によって作られた《白の女神龍》の隙に乗じる形で、シノンとシュピーゲルが手持ちの弓から矢を放ってみせたが、矢は《白の女神龍》に届く寸前で粒子の壁に遮られ、落ちてしまった。その一連の流れを見て、俺は驚きのあまり言葉が出せなくなる。

 

 

 何という事だろう。あの《白の女神龍》は魔法攻撃だけではなく、物理攻撃までも無効化してしまうようになっているのだ。

 

 まるでSAOに居た時に二度戦う事となった、SAOの開発者であり全ての元凶であった茅場晶彦/ヒースクリフが使っていた盾。全ての攻撃を防ぎ切り、強力な一撃でカウンターを仕掛けてくる人型の要塞。

 

 それが今、時空と世界を超えてここに実現している。

 

 

「まさか、攻撃が全部効かないのか!?」

 

《ならばこれならどうだッ!》

 

 

 初老女性に似た《声》を発し、リランは体内の白化熱エネルギー発生器官を振るわせ、咢を開いてブレスを放った。高熱過ぎるあまり白以外の色を失った熱球が空間を飛翔し、フレーム単位の時間で《白の女神龍》に激突、炸裂して白き大爆発を起こす。

 

 ヴァナルガンド、デビルリドラ、白き妖狐と言った強敵達にも甚大なダメージを与える事の出来るリランの熱球だ、攻撃手段を(ことごと)く無効化してくる《白の女神龍》にだってダメージを与えられるはず――そう思いつつ空中で巻き起こった爆炎の幕を見つめた次の瞬間、それを切り裂くようにして中から巨大な影が飛び出して、そのまま真っ直ぐ俺とリランの元へと向かって来た。

 

 「リラン、回避するんだ」――俺がその指示を出すよりも先にリランは白化熱エネルギーを強く噴出して高機動を得て、迫り来た巨影から逃れる。素早く振り向けば、そこにあったのは粒子を纏いながら空間の外れまで飛んでいく《白の女神龍》の後姿。

 

 それが突進攻撃を終えて振り返り、その身体を見せつけて来たところで、俺は思わず驚いてしまう。《白の女神龍》は確かにリランの白化熱弾をその身に受けたはずだと言うのに、傷一つ負っていないうえに《HPバー》も残量を減らしていない。――様々なボスに大きなダメージを与えてきた白化熱弾ですらも、《白の女神龍》の前では無効化されているのだ。

 

 

「まさか、リランの攻撃さえも効かない……!?」

 

《馬鹿な……あり得るのか、そんな事が》

 

 

 リランの攻撃の始終を見ていたアスナが驚愕して、攻撃した張本人であるリランも驚きの混ざった《声》を出す。

 

 先程から物理攻撃、魔法攻撃、リランによる攻撃と言った出せる全ての攻撃を俺達は繰り出しているが、全て何らかの方法で無効化されてしまっている一方で、《白の女神龍》に一切のダメージを与える事が出来ていない。

 

 《白の女神龍》はセブンであり、《HPバー》も一本しかないから、倒すだけならばこれまで相手にしてきたどのモンスターよりも容易だろう。だが、それをそうでなくする防御手段を、あの《白の女神龍》は発揮しているのだ。

 

 あまりの光景を目にした俺は、敵の解析も行える小さな妖精の姿となっている娘、ユイに咄嗟に声をかける。

 

 

「ユイ、あいつについて何かわからないか!?」

 

「わたしでも今のセブンさんの事は何もわかりません。今のセブンさんは正確にはモンスターではなく、それ以外の極めて異例な存在ですから、解析が上手くいかないんです」

 

「やっぱりそうか」

 

 

 俺は咄嗟に《白の女神龍》の、神々しさと猛々しさの混ざり合ったその全身を視界に入れる。その周囲には夜光虫のような粒子が舞い踊っており、それは絶えず《白の女神龍》の身体から生み出されているように見える。いや、恐らく《白の女神龍》は常にあの粒子を体内で生成し、身体から放出しているのだろう。

 

 そして、先程のリーファとカイムの魔法攻撃、ストレアとフィリアのソードスキルを無効化した時、《白の女神龍》の身体を大量の粒子が覆っていたように思えた。その時の事から考えるに、《白の女神龍》の攻撃の無効化は、あの粒子によるものなのだろうか。

 

 頭の中で更に模索しようとしたその時、頭の中にリランのものではない《声》が飛び込んできて、俺は咄嗟に目の前に意識を戻す。視界の中に映り込む白き龍は宙で(うずくま)るような姿勢を取っており、まるで力を体内にため込んでいるかのような風貌を見せていた。

 

 あのような構えを取ったモンスターが次に起こす行動と言えば、一つしかない。頭の中で次の瞬間を描け、それを皆に教えるよりも先に、《白の女神龍》は行動を起こした。

 

 

《これでも喰らえぇ――ッ!!》

 

 

 セブンの絶叫が頭の中に響いたその時、《白の女神龍》は溜めこんだものを解放するかのように思い切り身体を広げた。同時に《白の女神龍》の背中から猛烈な勢いで高濃度の粒子が放出されて、《白の女神龍》の更に上空へと立ち昇り始める。何事かと思って目線を向けたその時には、粒子と同じ色をした大きな光弾がこちらに向かって落ちてきているのが見えた。

 

 

「拙い、皆、避けろッ!!」

 

 

 夜光虫が群れを成して作り上げているかのような流星群。つい見惚れてしまいそうな美しさを持つ光弾の群れの襲来を知らせるよりも先に、仲間達は回避行動を取って流星群の射線から離れ始めた。しかし――恐らく粒子で構成されているであろう――光弾の群れは次から次へと猛スピードで飛来してきて、短時間で回避しきれる攻撃ではない事を知らしめてくる。

 

 まさしく光の雨とも言えるその中を、俺を乗せたリランは間を縫うように飛んだが、雨が止んだのと同時に、爆発に似た音と悲鳴が聞こえてきた。

 

 

「うわあああッ」

 

「きゃあああッ」

 

 

 吹き付けてくる風に背く形で振り向いてみれば、降ってくる光弾に当たってしまったのだろう、後方にいる仲間達のうち、リズベット、シリカ、クライン、シュピーゲルの四人が地面へ引っ張られるように墜落して行くのが認められた。

 

 だが、それをいち早く察知したアスナ、リーファ、カイムの三人が接近攻撃と魔法攻撃の両方を得意とする者達が回復魔法を唱えた事で、四人はすぐに立ち直って上空へ戻ってきた。

 

 その頃、《白の女神龍》は攻撃を終えて動きを緩慢にさせており、その隙を突く形で、墜落したシュピーゲルよりも遠距離攻撃を得意としているシノンが矢を放ったが、先程と同じように《白の女神龍》の身体に届くよりも先に、何かに弾かれるようにして落ちた。

 

 

「駄目、やっぱり攻撃が効かないわ!」

 

「そんな事があってたまるか!」

 

 

 シノンの呟きの直後に、剣と盾を携えたディアベルと両手斧を構えたエギルが《白の女神龍》に突撃を開始した。外敵の接近を感知した《白の女神龍》は咢を開き、粒子が収束する事で形を成している光弾を作り上げ、リランが白化熱弾を吐き出すのと同じ要領で放ってくる。

 

 しかもリランのように一発だけではなく、三発ほど連射して迎撃してきたものだから、ディアベルもエギルも驚きの声を上げながら咄嗟に射線上から退避。そのまま突撃をやめて《白の女神龍》から離れて行った。

 

 

「なんて力なんだ。まさかセブンがここまでだなんて……」

 

《これはゲーム的にも完全な予想外の形(イレギュラー)であろうな。このままでは(らち)が明かぬぞ》

 

 

 リランの《声》に思わず頷く。これまでと同じように、ある程度攻撃を受けてもアスナやリーファやカイムが回復魔法をかけてくれるけれども、それらはMPを回復させるアイテムを使っているからこそ継続できているものであり、あまりに連続で発動させるような事になればMP回復アイテムが無くなってしまい、最終的に回復魔法は発動出来なくなる。

 

 そして今、彼女らは結構な頻度で回復魔法を使用しているため、MP回復アイテムもどんどん減っている事だろう。

 

 だからこそ、《白の女神龍》との戦いを長期化させてはいけないのだが、先程から何度攻撃しても武器を弾かれ、魔法を無効化されてしまう。この突破口を見つけない限り、俺達はろくに《白の女神龍》にダメージを与える事も出来ず、敗北する事となるだろう。

 

 けれども、先程からずっと《白の女神龍》の動きや様子を見ていると言うのに、一向に《白の女神龍》がダメージを受けない理由を把握できない。何かしらのプロセスが働いて《白の女神龍》の身が守られていると言うのは確かのはずなのだが、何が《白の女神龍》の身を守る堅牢な盾や鎧となっているというのかがわからないのだ。それさえわかれば攻略の糸口が掴めるはずなのに。

 

 

「一体何がどうなって……」

 

「キリト君ッ!」 

 

 

 考え込もうとしたその時に耳元に声が飛び込んできて、俺は咄嗟にそっちへ顔を向けた。そこにあったのは背中からレプラコーン特有の翅を生やした、俺達と共にずっと戦い続けてきた仲間であり、今ここで《白の女神龍》となっているセブンの実の姉で、思いをぶつけて、真実を教えようとしている赤髪の少女の姿。

 

 その呼び声に応えるように、俺は少女の名を呼んだ。

 

 

「レイン、どうした!」

 

「わたし、今のセブンの能力の正体、わかったよ!」

 

「本当か!?」

 

 

 レインによると、あの《白の女神龍》となっているセブンの防御能力は、全てあの粒子によるものであり、同時にあの粒子こそが《白の女神龍》の飛行能力と運動能力を齎しているモノなのだと言う。

 

 確かに、《白の女神龍》は身体には常にあの夜光虫のような粒子が纏われていて、何か動きを見せた時には必ずあの粒子が身体から湧き出ていたし、俺達が攻撃を仕掛けた時にはより一層強く、粒子を身体から放出させていた。

 

 この事から考えるに、《白の女神龍》の身体を覆って攻撃を無効化しているのはあの粒子であり、俺達の攻撃を防いでいたのは《白の女神龍》の身体から放出されている粒子の壁だったのだ。

 

 

「そういう事だったのか! あいつの防御と攻撃は全部粒子によるものだったんだな!」

 

「そうだよ! だからあれにダメージを与えるには、粒子を全部落とせばいいんだよ!」

 

 

 俺が答えを導いた事に喜んでいるかのような表情を見せるレイン。思わず俺も喜んでしまいそうになったが、すぐさまそれを止める事となってしまった。

 

 《白の女神龍》の防御は全て粒子によるものだから、その粒子を止めてしまえば防御力を削ぎ落す事が出来るのだろう。けれども、《白の女神龍》の粒子を止める方法、粒子による防御をさせない方法など思い付かない。

 

 ましてや相手はただのボスモンスターではなく、様々なモンスターのデータをいっぺんに集めたそれに、セブンと言うプレイヤーが融合しているという極めて異例な存在、普通のボスモンスターの対処方法が一切通用しないと思われる相手だ。そんな異例極まりないモンスターの仕組みがわかったとしても、対処方法まですぐに思い付けない。

 

 レインの話を聞いて俺と同じ考えに至ったのだろう、シノンが俺の傍へやって来て、レインに声をかける。

 

 

「けど、どうするっていうのよ。あいつの粒子をどうやって止めるっていうの」

 

「あいつはどんな攻撃にも粒子を使ってて、それを消費してるの。攻撃にも移動にも粒子を使って消費して、また生み出して補充するを繰り返してるんだよ。しかもあいつ、攻撃をする時には多く粒子を消費してるみたい」

 

 

 そこまで聞いたところで、俺は頭の中に一筋の光が走ったのを感じた。《白の女神龍》の防御力は文字通り完璧であり、俺達の魔法攻撃も物理攻撃も無効化してしまうくらいのものだけれども、それら全てが粒子によるもの――そんなものを実現するのは並大抵の事ではないはずだ。あれだけの防御力を発揮するには、きっと発揮する直前までとても多くの粒子が存在している必要があるはずだろう。

 

 そして粒子は防御だけではなく攻撃にも運動にも使われていて、いずれの時にも消費されてしまうようになっているというのがレインの話。

 

 もしこれが本当なら、《白の女神龍》が攻撃や運動を高頻度で繰り出して粒子を消費し続けるような事になれば、粒子の供給が追い付かず、いざ防御する時になっても防御できないなんて言う事に(おちい)るかもしれない。

 

 《白の女神龍》そのものの防御力がどれほどのものなのかは未知数だけれども、粒子で頑なに自分の身体を守っているのならば、基礎の値はリランよりも少ないものなのだろう。つまり、《白の女神龍》の粒子を枯渇させて、絶対防御の壁を取り払ったその時こそが、俺達が勝利を掴むチャンスとなるはずだ。

 

 

「……そういう事だったのか。つまり、あいつに沢山攻撃をさせればいいんだな!?」

 

「そうだよ! あいつに沢山攻撃を放たせて、粒子の供給を追いつかなくさせて。それだけじゃない、あいつにどんどん攻撃を仕掛けて防御をさせて。そうすれば粒子が減って防御も出来なくなる。それがあいつの弱点だよ!」

 

 

 もう一度喜んでいるかのような顔をするレイン。情報を確認する事は出来た。そして何故レインがこのような事を知っているのか気になりはするけれども、今はそんな暇なんかないし、そんな事をしている場合でもない。

 

 今はあの《白の女神龍》と戦い、決着を付ける事が最優先事項だ。それをしっかりと認識した俺は《白の女神龍》に向き直り、皆に聞こえるように指示を下した。

 

 

「皆、あいつに攻撃を仕掛け続けて、尚且つ攻撃させ続けろ! 粒子を削いでやるんだ!!」

 

 

 直後、皆から威勢の良い声が届けられてきて、それぞれが別々な方向に飛んでいき、《白の女神龍》を取り囲むような立ち位置に就いたのが確認された。間もなくして、魔法攻撃中心から物理攻撃中心に変わったのだろう、細剣を鞘より抜いたアスナと片手剣を構えたリーファが《白の女神龍》の元へ飛び込んでいく。

 

 本人はそう呼ばれる事を嫌うようになっていたけれども、一筋の《閃光》のように青い光を翅から出しながらアスナが飛んでいくと、すぐさま《白の女神龍》はそちらにターゲットを移して振り向き、口内に粒子を収束させ、ビーム光線状にして照射を開始した。粒子を収束、加速させる事で放たれるそれは最早、荷電粒子砲と言うべき代物だ。

 

 だが、流石はSAOで血盟騎士団の副団長を務めていて、尚且つ同じような攻撃を放つ事を得意としているリランを親友とするアスナ、ビームの先端が到達するよりも先に横方向へ動く事でその射線から退避しつつ、一気に距離を詰めていく。

 

 しかし《白の女神龍》も執念深くビームを照射し、周囲を薙ぎ払いながらアスナを追いかける。その隙をシルフ族一位の剣士であるリーファが見逃すわけがなかった。

 

 

「そこぉぉッ!!」

 

 

 アスナを追いかける事に夢中になっている《白の女神龍》の懐に潜り込んだリーファは、その手に握る片手剣の刃に光を纏わせて、渾身の力を込めて突きを放った。SAOの時から存在しており、片手剣のソードスキルの中でも抜群の使いやすさを持っているのが特徴的な、突属性片手剣ソードスキル《ヴォーパル・ストライク》。

 

 しかし、普段ならば敵に甚大なダメージを与えるそれも、やはり刀身が《白の女神龍》の身体に辿り着く前に粒子の壁にぶつかり、鋭い金属音と共に弾かれてしまった。勢いをそのまま返されたリーファは剣に引っ張られるように体勢を崩し、攻撃を受けた事を認識した《白の女神龍》はブレス照射を止め、カウンターを仕掛けるかのようにその場で蜷局(とぐろ)を巻き、急旋回攻撃を放つ姿勢を取る。

 

 誰もがリーファに攻撃が当たってしまうと読んだ次の瞬間、リーファは体勢を立て直して急加速。《白の女神龍》が急旋回攻撃を放ったのとほぼ同時に攻撃を回避して見せた。そして《白の女神龍》が急旋回攻撃を終えて動きを緩慢にしたその時に、アスナが《白の女神龍》の頭部の真上に到達。細剣に光を纏わせながら落下し、《白の女神龍》の頭頂部に超高速の四連続突をお見舞いする。

 

 《ヴォーパル・ストライク》と同じくSAOの時から存在していて、簡単に出せるうえに高い威力を誇る事が特徴である、四連続突攻撃細剣ソードスキル《シューティングスター》。

 

 アスナ自身の攻撃速度もあってか、肉眼で捉えられないくらいの速さで繰り出されたそれは、リーファ同様《白の女神龍》の身体を覆う粒子の壁に全て遮られてしまったが、リーファの時よりも弾かれた際の姿勢が大きなものではなくなっていた。――攻撃と防御を繰り返しているせいで、《白の女神龍》の粒子の防御力に薄れが出ている。

 

 攻撃が、効いているのだ。

 

 

「カイム、息を合わせてッ!!」

 

「簡単ッ!!」

 

 

 アスナとリーファの二人とスイッチするかの如く、今度はユウキとカイムのコンビが《白の女神龍》の元へ飛翔を開始した。闇妖精族と風妖精族という一見何も繋がりのないように見える二人は息をぴったり合わせているように《白の女神龍》の周囲を飛び交う、まるで二機の戦闘機による曲芸飛行にも思える光景。

 

 それを邪魔しようと《白の女神龍》はタイミングを合わせて急加速し、その場で宙返り攻撃を繰り出すが、ユウキもカイムも攻撃を読んでいるように動いて回避する。そして《白の女神龍》が攻撃を終えた際に必ず起こす動きの緩慢化に合わせ、ユウキとカイムが腹部に回り込み、それぞれ片手剣と刀に光を宿らせた。

 

 

「はああああッ!!」

 

「たああああッ!!」

 

 

 二人の声がほとんど同時に空間に鳴り響き、片手剣と刀の刃が《白の女神龍》の腹部を斬り上げる。どちらも思い切り力を込めて剣と刀を振るい、対象を斬り払う技、二連続攻撃片手剣ソードスキル《レイディアント・アーク》と高出力単発攻撃刀ソードスキル《辻風》が炸裂したが、《白の女神龍》の身体に刀身は届いて行かず、弾かれる。

 

 だがそれでも、二人が弾かれた際の動きはついさっきのストレアとフィリアの時と比べて小さいものであり、二人はすぐさま体勢を立て直して《白の女神龍》から離脱した。その時には、《白の女神龍》の周囲に漂う夜光虫のような粒子は薄くなっているように見えた。

 

 それを機にして皆が一旦《白の女神龍》と距離を置き始めると、《白の女神龍》はターゲットをカイムにして宙を高速で泳いで突進攻撃を繰り出したが、その速さが戦闘を開始した時よりも遥かに遅いものとなっているものだから、カイムは比較的ゆっくり迫る《白の女神龍》の巨躯を容易く回避してみせる。

 

 

「なんだかセブンの動きが遅くなってきてるわよ」

 

「なるほどな、こんなふうになっててもスタミナがあるって事か」

 

 

 宙をゆらゆら泳ぐ《白の女神龍》を見つつ呟くリズベットとディアベル。確かに《白の女神龍》と言えど結局《使い魔》のデータの集合体だから、スタミナの概念は存在しているのだろうし、そもそも《白の女神龍》という圧倒的な存在を操作している時点で、セブンには相当な負担がかかっているはずだ。

 

 それがあんなに激しい動きと攻撃を繰り返しているのだから、無茶をしていないはずがない。それだけじゃない、レインの言うように《白の女神龍》は粒子を大量に生産してばら撒く事であの運動能力と飛行能力を獲得しているのだから、その粒子が少なくなれば思うように動けなくなるのだ。

 

 もしあの粒子を完全に失うような事になったならば――思いかけたその時に、《白の女神龍》は突然宙へと舞い上がり、俺達との距離をぐんぐんと離していく。そしてある程度上空まで登って行ったところで急に振り返り、その咢をかっと開いてみせると、周囲に散らばっていた粒子が凄まじい勢いで《白の女神龍》の口内に集まり始めた。

 

 あまりに多くの粒子が集まった事により、《白の女神龍》の周囲は夜光虫が大発生した時の海のようになり、水色と青色と白色の三色で一気に明るくなっていく。《白の女神龍》自身は大きな隙を晒しているけれども、あまりに周囲の粒子の濃度が高くなりすぎていて、攻撃をしても無効化される事がわかっているためか、誰も攻撃をしようとしない。

 

 その光景を見るや否、レインが急にこちらに振り向いて声をかけてきた。

 

 

「皆、大技が来るよ! それも飛び切り大きいのが!」

 

「わかってる! 皆、何が来てもいいようにするんだ」

 

《キリト!》

 

 

 直後に響いてきたリランの《声》に反応した俺は、咄嗟に身体の下側を見る。リランが装着している兜のバイザー部分を上げて、その紅玉のような瞳でこちらを見つめていた。

 

 

《あいつの放とうとしているのは恐らくビームブレスだ。そしてそれを放つために、あれだけのチャージを行っている》

 

「それはわかる。それで」

 

《あれだけ大量の粒子を使ってしまうのだ。防御に使うための粒子も一緒に使うに違いない。次にくる攻撃をしのぐ事が出来れば、その時こそがあいつに止めを刺すチャンスだ》

 

 

 リランの《声》による言葉にハッとする。

 

 確かに《白の女神龍》は大量の粒子を口の中にため込んでおり、それを次の瞬間にブレスとして吐き出そうとしているのだろう。しかし、既に《白の女神龍》はかなりの粒子を使ってふらふらになっているような状態であり、そのうえで長時間チャージ後の技など、最早自分の身を守る粒子も使い切ってしまうようなものとなるはずだ。

 

 リランの言うとおり、次の攻撃を凌ぎさえしてしまえば、その時《白の女神龍》は防御力を失った状態――俺達の攻撃を当てる最後のチャンス。そして俺には、俺達には敵の放つビーム光線による照射に対抗する手段が存在している。それを既に認識していた俺は、それが可能な相棒に再度声をかける。

 

 

「そういう事か……ビームが来るなら、リラン」

 

《……任せよ。お前達は次の攻撃()に備えるのだ》

 

「頼むぜ、相棒」

 

 

 リランがバイザーを閉めたのを認めると、俺は(あぶみ)状になっているリランの項から離れ、そのまま背中の鞘から二本の剣を抜きつつ翅を生やして飛行し、シノンの隣に並ぶ。

 

 

「シノン、リランがあいつの放つ攻撃に太刀打ちする。その攻撃が終わった時には、あいつは隙だらけになるはずだし――」

 

「防御力を失った状態になるって事ね。その瞬間を狙って私達で攻撃するわけかしら」

 

「そういう事。俺と君で、やるんだ」

 

「わかったわ。キリトも準備して頂戴」

 

 

 シノンに頷いた次の瞬間、俺と《人竜一体》を解除したリランが《白の女神龍》に狙いを定めてホバリングを開始し、咢を開いて体内の白化熱の流れを激化させ始めた。リランを中心に猛烈な熱が起こり、あまりに周囲と温度差が開いて陽炎が起きてリランの姿がゆらゆらと揺れる。もしあの中に居たら俺もただではすまなかっただろう。

 

 そう思いながら、俺は右手に嵌めているシノン/詩乃のお守りを目にし、頭の中に()()()の記憶を浮かべて自分の身体にトレース。両手に握っている剣の柄同士を繋ぎ合せて折り曲げ、三日月に似た形を作り上げ、呪文を唱えて両方の刃先を魔法の弦で結び付け、弓を作る。

 

 そしてさらに呪文を唱えて魔法の火矢を作り出して(つが)え、隣に並んでいるシノンと同様の体勢を作り、《白の女神龍》に狙いを定める。その時既にシノンも火矢を番えて、いつでも《白の女神龍》に目掛けて放てるような状態となっていた。

 

 周囲からすれば二人の弓使いが並んでいるように見えるであろう光景を作り上げたその直後、頭の中に《声》は響いてきた。

 

 

《これで、終わりぃぃ――――――ッ!!!》

 

 

 セブンの《声》のすぐ後に、周囲の粒子を全て収束させた《白の女神龍》は溜め込んだ粒子を口先で圧縮、巨大な粒子玉を作り上げ、それを解放させるようにして極太のビーム光線を照射した。

 

 太さが《白の女神龍》の頭の大きさは勿論、俺達の事を容易く呑み込んでしまえるくらいの範囲となっているビーム光線の先端は、すぐさま俺達の元へと向かってきたが、同刻俺達の誰よりも《白の女神龍》と距離を詰めていた白き狼龍が体内で燃え盛らせていた白化熱を口内まで昇らせ、ビームブレスとして照射。

 

 放たれし白化熱光線は向かって来ていた《白の女神龍》の粒子光線とぶつかり合い、轟音と閃光を巻き起こしながら、その接近を途中で押しとどめ、鍔迫り合いを巻き起こす。太さこそは《白の女神龍》のそれとよりも細いものだったが、同等の威力を持っていたためなのか、全く《白の女神龍》の放つ光線の勢いに負けずに押しとどめ続ける。

 

 猛烈な光と熱風が吹き荒れてくる中でも、俺はシノンと息を合わせて矢を引き続けた。あまりに強力な光と熱い風が巻き起こるせいで《白の女神龍》の姿は見えなくなっているけれども、その気配だけはしっかりと感じ取る事が出来、矢の先に《白の女神龍》がいるのがわかって仕方が無い。

 

 どんなに姿が見えなくても、矢の先に敵がいるのがわかるというこの感覚は、シノンの記憶が俺に齎してくれているモノなのか。そんな事を頭の片隅で思いつつ、弦を強く引いたその時に、《白の女神龍》とリランの間で起きていたブレスの衝突の中心で、エネルギーが暴発したかのような大爆発が発生し、周囲が真っ白に染め上げられた。

 

 あまりに強い閃光に思わず目を瞑り、光が収まったタイミングで目を開けてみれば、《白の女神龍》がリランとのブレスの鍔迫り合いを止めて、疲れ果てたように宙に浮いているのが、そしてその周囲に散らばっている粒子がほとんどなくなっているのが認められた。リランとのブレスの撃ち合いで周囲の粒子を使い切ってしまったのだ。

 

 それを見逃すわけがなく、俺は隣にいるシノンに叫ぶ。

 

 

「今だッ!!」

 

「そこよッ!!」

 

 

 じっと引き続けていた弦を二人で息を合わせて離すと、二本の燃え盛る矢が空を裂いて《白の女神龍》の元へと飛翔していった。その中で俺の放った白い火矢はその姿を狼の輪郭に変え、更に並んで飛んでいる火矢を取り込んで、まるで空を駆ける狼龍のようになって《白の女神龍》との距離を詰めていく。

 

 そして白き炎の狼は数秒足らずで《白の女神龍》の元に到達し、炸裂するようにして白い炎の大爆発を引き起こした。

 

 シノンの記憶を持っている俺だからこそ使える、二刀流オリジナルソードスキル《結剣弓》。その直撃によって発生した白き爆炎を、ついに《白の女神龍》はその身体で受け、《HPバー》を大きく減少させた。それも緑から一気に赤になる寸前のオレンジにまで、だ。《HPバー》の変動が終わったその瞬間、頭の中に《声》が響く。

 

 

《嘘だ、あたしが、あたしが……》

 

 

 《白の女神龍》から聞こえる戸惑いの《声》。恐らく《白の女神龍》となっているセブン自身も、自分の身に何が起きているのかわからないのだろう。そして今ならば、この戦いを終わらせる事が出来る。俺達が最後の攻撃を放てば、セブンとの戦いに決着がつく。

 

 その事を瞬間的に理解して、皆に号令をかけようとしたそこで、俺は驚く事となった。

 

 これから止めを刺そうとしている《白の女神龍》の元に、既に一人の妖精が駆け付けており、両手に握る二本の剣に光を纏わせている。俺に《白の女神龍》の弱点と言えるものを教えてきた張本人であり、《白の女神龍》となっているセブンの実の姉、レインだ。

 

 あの()、いつの間にあんなところにまで――思った直後、レインの方から耳元へと声が流れて来たのがわかった。

 

 

「セブン、あんたは自分の置かれてる状況を理解してない。……あんたは実験に失敗したの」

 

《違う、違う! あたしは失敗してない! あたしは、あたしはあたしは》

 

「……今のあんたの事、わたしはわかるよ。あんたは使命感に燃えて、大勢の期待に必死に答えようとして、身を粉にしてまで無理して……壊れようとしてる。わたしはもう、そんなになってるあんたを見てられないの。だから今……終わらせるね、()()

 

 

 そう静かに言ったレインは、両手に構える二本の剣を振るい始めた。縦斬り、水平斬り、突進薙ぎ払い、交差斬りが織り成す剣舞が次々と《白の女神龍》の頭部を斬り裂いて行き、瞬く間に《HPバー》の中身を消し去っていく。

 

 その剣舞による攻撃の回数が十連撃目に到達したその瞬間で、俺はレインの剣舞が俺自身も使っているものである事を把握、次の動作を予想する事が出来るようになった。そんな俺の目線が向いている事は気にしてもいないであろうレインは剣舞を踊り続け、そしてそれを使った時の俺と全く同じ動きをして、最後の十六連撃目である突きを放った。

 

 

「はあああああああああああッ!!!」

 

 

 レインの絶叫と共に最後の一撃が放たれて、その手に握られる剣が《白の女神龍》の頭部に突き立てられた。SAOの時からずっとあり、尚且つその時には二刀流使いである俺だけが使えた代物だったもの。

 

 十六連撃二刀流ソードスキル《スターバースト・ストリーム》。

 

 その十六連撃目が終わると、《白の女神龍》とレインの動きは完全に静止し、闇の帳落ちる空間の中に静寂が満ちた。何の音さえしなくなったその数秒後に、《HPバー》の中身の全てを失った《白の女神龍》はぐらりと体勢を崩し、そのまま地面へと落下。

 

 どぉんという鈍くて重々しい音を鳴らして墜落するなり、《白の女神龍》は全身を白色のシルエットに変え、やがて無数のガラス片となって爆散した。

 

 俺達のスヴァルト・アールヴヘイムのラスボスが、撃破されたその瞬間だった。

 




次回、ついに?

とにかく一周空く事だけはないと思われるので、とりあえず乞うご期待。





――小ネタ――

The Place of Death →ファンタシースター2、ファンタシースターオンライン2の楽曲。読んでる時のBGMにその最新版であるPSO2版をどうぞ。

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