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詩乃/シノンの風邪が治ったその次の週の休み、俺達は草原浮島ヴォークリンデの攻略を完了し、ついに草原浮島の主であろうエリアボスの潜むダンジョンへと進む事に成功した。
休日というだけあってか、これまで攻略を進めてきたイリス以外のメンバー達が全員揃っており、そこにシルフ族領の領主であるサクヤとケットシー族領の領主であるアリシャ・ルーも来ているものだから、俺達の攻略はいつも以上にスムーズに進み、あっという間にボスの部屋の前まで来る事が出来てしまった。あまりに速度に、攻略を進めていた張本人である皆も、驚いていた。
そしてダンジョンの最深部に到達した俺達の目の前には石造りの巨大な扉が重々しく存在しており、誰もがこの先がボス部屋である事を把握していた。その中の一人であるリランが扉を見つめながら、小さく口を開く。
「この先がボス部屋で間違いないようだな」
「あぁ。それもそこら辺にいるボスモンスターとはかなり格の違うものだってわかるな。これは間違いなく、三神獣のうちのどれかがこの先にいるパターンだ」
「三神獣……フレースヴェルグ、ニーズヘッグ、ラタトスクのどれかがこの先で待ってるのね」
北欧神話の知識を持つシノンが顎もとに手を添えながら呟く。大きな鷲の姿をしている神獣フレースヴェルグ、巨大なヘビもしくはドラゴンのような姿をしているニーズヘッグ、栗鼠の姿をしているラタトスク。それらがこのスヴァルト・アールヴヘイムの三つの島を守っている三神獣であり、俺達はそのうちの一体の前に立ち塞がっているのだ。
「皆、準備は良いか。この扉を抜けたらすぐにボス戦だぞ」
そう言って振り返ってみると、皆揃いに揃ってそれぞれの武器を構えて、得意そうな笑みを浮かべていた。その様子は、SAOに居た頃、階層ボスにこれから挑もうとしている時の様子に非常によく似ており、既に臨戦態勢である事の証明に他ならなかった。ここにいる全員が、既にボスに挑める体勢となっている。
「その様子だと、皆大丈夫そうだな。よし、皆行くぞ!」
そう言うと、皆一斉に「おぉっ!」と声を上げた。まるで本当にSAOに居た時のボス攻略の時のように思えて、俺は胸が高鳴るのを感じながら、扉に触れた。直後、物々しい石造りの扉は轟音と震動を立てながら横に開いていき、やがて開き切ったところでドスンという音を立てて止まった。
真っ暗な闇の広がるボス部屋と思わしき部屋の中を覗き込もうとしたその時、開かれた部屋の中からこっちを引っ張り込もうとするような暴風が吹き始めて、俺達は驚きの声を上げてしまった。部屋の中に引きずり込まれそうになっている最中、俺はポケットの中にいるユイに声をかける。
「ユ、ユイ、これはなんだ!?」
「これは、強制転送です! パパ達は今、強制的にどこかへ転送されようとしてます!」
「強制転送だって? 行先はどこに繋がってるんだ!?」
「こればかりは、飛ばされてみないとわかりません!」
そんな娘の言葉を最後に、俺達は一斉に闇の広がる部屋へと引っ張られた。そして部屋の中に入り込んだ瞬間、転移する時に発生するものと同じ蒼白い光景が広がり、すぐさま止んだ。
そして目を開けると、そこはダンジョンの外であり、青空と草原の広がり、暖かい風の吹いてくるフィールドの上空だった。よく見てみれば、いつの間にか自動的に翅が展開されており、ホバリング状態となって宙を浮いている。
「なんだ、何が起きたんだ」
周囲を見回してみれば、皆が俺と同じように翅を開いて宙を浮かんでいた。しかし、いまいち自らの身に起きた事が理解できずにいるのか、周囲を頻りに見回したり、自分の身体を見たりしている。やはり突然転移させられるのは、皆予想できていなかったようだ。そして混乱していた一人であったアスナが、俺の元へとホバリングしてきた。
「キリト君、今のって!?」
「強制転移させられたらしい。ボスとの戦いは、別な場所で行うっていう形式になってたんだろうな」
しかし、ボス部屋から飛んできたというのに、どこにもボスの姿は見えず、ボス戦が始まる気配も感じられない。もしかしたらボス部屋ではなく、ハズレ部屋を引いてしまって、フィールドに戻されてしまったのではないのだろうか――そんな事を考えながら皆と同じように周囲を見回していたその時、背後の方から声が聞こえてきた。
「皆、あれ! こっちにくるよ!!」
声の主を探して振り向いてみれば、そこに居たのはカイムだった。その指は天高く向けられており、視線も同じところに向けられている。その指差す方向を見てみれば、そこには青と白が織り成す空が広がっていたのだが、その中に一つだけ、こちらに高速で向かって来ているものが見えた。一体何者かと思って目を凝らした直後に、それはかなりの速度で大きくなっていき、やがて俺達の目の前までやってきたところで、停止した。
「なっ……!」
天高い空からやってきたモノ。それはかなり長い胴体と先端が刃のようになっている長い尻尾を持ち、背中から八枚もの大翼を生やし、全身を白銀の剛毛と甲殻に包み込み、鋭利な刃鱗の生えた腕と足を、一対の銀色の湾曲した巨大な角の生えた鷲の頭を持つ、白銀の鳥というよりも龍だった。
突如として現れた、狼竜形態のリランよりも巨大な白銀の龍の、そのあまりの姿に唖然としていると、彼のモノの頭上に四本の《HPバー》が出現し、更にその上に英語の名前が出現する。そこには、《Hraesvelgr》とあった。
「《Hraesvelgr》……フレースヴェルグ!」
北欧神話に登場する鷲の姿をした巨人であるフレースヴェルグ。それが草原浮島の主である三神獣であること自体はある程度予測できていたものの、まさかそれが龍のような姿をしているとは予測できなかったのだろう、北欧神話の知識を持つシノンが焦ったように声を出した。
「ちょ、ちょっと待ってよ! フレースヴェルグは鷲よ!? なんでドラゴンみたいな姿をしてるのよ!」
「そこはデザイナーの解釈による違いだろうな。それにしても、まさかリランよりもでかいのが出てくるなんてな。血が騒ぐぜ」
三神獣というくらいだから、どれほどのモンスターが出てくるのかと思っていたけれど、そんな俺の想像を超える姿を、目の前にいるフレースヴェルグはしていた。このようなモンスターを目の前にして、興奮しないゲーマーがどこに居ると言うのだろうか。いや、きっといないに違いない――そんな事を頭の中でほんの数秒考えた後に、俺は武器を構え直して、いつの間にか隣に来ていた相棒であるリランに声をかけた。
「リラン、準備は良いか」
「あぁ。我も久々の大ボス戦で胸が騒いでいるところだ。キリトこそ、準備は良いのだろうな」
「決まってる!」
そう言うと、リランは俺とフレースヴェルグの間をホバリングし、やがてその身体を強い白金色の光に包み込み、その光は爆発したかのように周囲に広がった。そして光が止んだ頃、リランは背中から四枚の翼を生やし、ほぼ全身を赤と白金色の混ざった鎧のような甲殻と毛に包み込み、額から聖剣のような角を、頭に人間の頭髪を思わせる金色の鬣を生やし、尻尾が大剣のようになっている、狼の輪郭を持つドラゴンに姿を変えていた。
そう、リランのもう一つの姿であり、SAOに居た時に俺を導き続けてくれた、狼竜リラン。俺は片方の剣を納刀してから、翅を強く羽ばたかせて狼竜に接近すると、すぐさまその項に飛び乗り、空いた手でその剛毛を掴んだ。SAOに居た頃、ボス戦を思い切り有利に進める事の出来る俺達だけの形態、人竜一体がなされるや否、リランは力強く目の前の巨鷲龍に向かって咆吼する。
「皆、準備は良いな。行くぞ!!」
力強く号令を響き渡らせると、皆は一斉に武器を取り、巨鷲龍を包囲する形で飛行を開始した。SAOに居た時はボス戦の際、人竜一体をしてしまえば一気にボス戦を終結させる事が出来たものだけれど、このALOにはリランよりも強いモンスターが大勢おり、リランでも歯が立たない事がままある。きっと目の前にいる巨鷲龍も、リランの今のところの種族である鳳狼龍を超える力を持つドラゴンだろう。
どのような攻撃を仕掛けてくるのか、よく観察した後に攻撃を叩き込むようにしなければ。そんな事を頭の中の片隅で考えたその時に、SAOに居た時には攻略組の司令塔とも言える活躍をしていたディアベルが咆哮するように言った。
「相手はどんな攻撃を仕掛けてくるかわからない! 行動がわかるまで慎重に行動するんだ!」
今まさに俺が考えていた事をディアベルが伝えるなり、皆の動きが様子見に近い形に変わる。やはりSAOで数多くのボスを相手にしてきているためか、ディアベルだけではなく、皆もどのような戦法でボスを相手にすればいいのか理解できているようだ。最近大きなボス戦が無かったから、皆戦い方とかを忘れているんじゃないかと思ったけれど、杞憂に終わった。
しかし次の瞬間、目の前で大きな翼で羽ばたき空を浮かんでいる巨鷲龍はその口を突然開き、凄まじい音量で咆吼。あまりの音量が飛んできたものだから、俺達全員で耳を塞いでその場を動けなくなってしまった。そして次に顔を上げた時には、巨鷲龍はその身体をしならせて、尻尾でこちらを薙ぎ払おうとしている姿勢を取っていた。先手を取られた事に驚いた俺は、すぐさま皆に指示を下す。
「拙い! 皆避けろッ!」
そう言って巨鷲龍の目の前から全員で離れた次の瞬間、巨鷲龍はその身体を勢い良く振り回して、俺達が先程まで居たところをその樹齢何千年もの巨木のような太さと長さを持つ尻尾で薙ぎ払って見せた。何とか全員が直撃を防ぐ事は出来たものの、巨鷲龍の尻尾が起こした強い風圧に呑み込まれてしまい、俺達はバランスを崩して飛ばされてしまった。
尻尾で薙ぐだけでこれだけの風圧を起こす事が出来るのだ。きっとあの尻尾に直撃していようものならば甚大なダメージを受けていただろうし、もしかしたら一撃でHPゲージをすべて持って行かれたかもしれない。
あの体格、あの風貌、そしてあの攻撃力と《HPバー》の数。間違いなく、この巨鷲龍フレースヴェルグはファフニールと言われる龍の上位種の上位種であるリランを上回った力を持っているエリアボスだ。出来れば接近しないで攻撃し、そのまま撃破に持っていきたいところだけれど、遠距離攻撃や魔法だけで倒せるとも思えないから、結局は接近するしかない。
「皆気を付けろ! こいつの力はリランを軽く超えてる! 気を付けて戦うんだ!」
俺の指示が戦場に響き渡ると、皆気を引き締めたように武器を構え直して、一部の者達は巨鷲龍に突撃を開始し、一部の者達は一斉に魔法の詠唱を初めて、アスナやリーファに至っては補助魔法の詠唱を始める。あれだけの力を持つ巨鷲龍を撃破するのだ、とてもじゃないが後方支援組による
だけど、やはりSAOの時で前衛攻撃組と後方支援組に分けた戦術を使ってボス戦を乗り切ってきたためか、補助をかけるタイミングや攻撃を仕掛ける瞬間などの把握は良く出来ていた。そして、前衛攻撃組となっているディアベルとクラインが素早く巨鷲龍の背後に回り込んで、攻撃態勢に入った。
「たああああッ!!」
「どおりゃああッ!!」
二人の力強い咆吼の直後、巨鷲龍の背中の甲殻に片手剣と刀が振るわれる。SAOの頃から多数のボスを切り刻んできた二人の剣と刀は巨鷲龍の背中に大きな傷エフェクトを作り上げたが、その割には巨鷲龍の《HPバー》はほとんど減る気配を見せなかった。やはりエリアボスというだけあってか、防御力もかなりのものになっているらしい。それを把握したのか、二人は巨鷲龍が振り向くよりも先に後退。やがてクライン、ディアベルの順で呟いた。
「くそっ、やっぱりエリアボスだな、攻撃が全然通らねえ!」
「駄目だ、攻撃する箇所を間違えたのか……!?」
攻撃したところの関係もあるだろうけれど、二人の攻撃を受けてそれなりのダメージしか受けていない巨鷲龍の防御力はかなりのものだ。これでは、少人数で攻撃を仕掛けたところでほとんどHPを減らす事は出来ず、かなりの時間がかかってしまう事だろうし、かなりの確率でじり貧になってしまうところだろう。ここはなるべく前衛全員で攻撃を仕掛け続けるしかない。
「フレースヴェルグは硬くて攻撃力も高い! 攻撃する場所に気を付けるんだ!」
《ならば我らも攻撃を仕掛けねばならぬな!》
頭の中に初老女性の《声》が響いてきた次の瞬間、リランはその口を大きく開き、身体の奥底から炎を迸らせる。その炎はリランの口内から燃え盛る火炎弾となって発射され、真っ直ぐ巨鷲龍に向かい、やがてその身体に着弾して大爆発を引き起こし、巨鷲龍の身体を呑み込んだ。
その際に、クラインやディアベルの攻撃でなかなか減らなかった巨鷲龍のHPが、その時よりも多く減ったのが見えて、リランの攻撃がかなり効き目のあるものだという事を俺は察する。確かに巨鷲龍はリランよりも強いけれど、リランの力が通じないというわけではないのだ。
「やっぱりお前の力は頼りになるな」
《我だけ頼られても困る。皆もしっかり戦うのだ》
リランからの声が届いて来た次の瞬間、燃え盛る爆炎を切り裂いて巨鷲龍が飛び出し、そのまま猛スピードで飛行を開始した。一体何事かと皆で向き直ったところ、巨鷲龍はその翼を羽ばたかせて大空を駆け、俺達のいる高度よりも遥かに高い高度で方向転換、そのまま俺達目掛けて飛んできた。
「拙いッ、突進攻撃が来るぞ!」
普段風妖精族達を率いているサクヤの指示が広まると、皆一斉に巨鷲龍が通るであろう場所から一気に遠のこうとしたが、それよりも先に巨鷲龍が到達し、逃げ遅れた数人が巨鷲龍の突進に巻き込まれ、跳ね飛ばされた。その者達のHPが瞬く間に減少し、赤くなったものだから、俺は思わず息を呑んでしまった。たった一撃で赤ゲージまで減らされてしまうなんて、あの巨鷲龍はなんという攻撃力を持っているんだ――そう思ったその時に、ポケットの中からユイが飛び出して、俺に声をかけてきた。
「パパ、あのフレースヴェルグの攻撃の中で最も強力なのは今の突進攻撃のようです。皆さんに突進攻撃に注意するよう呼びかけてください」
「あれが一番威力の高い攻撃なのか。それ以外はなんとかなりそうなのか」
「はい。あの突進攻撃はフレースヴェルグの必殺技みたいなものです。繰り出してくる頻度もかなり低いみたいですね」
「なるほどな。一番強い攻撃がわかればこっちのものだ」
あの巨体による突進攻撃こそが巨鷲龍の必殺技。あれにさえ気を付ければ、この巨鷲龍も倒せる相手という事だ。しかし、皆が巨鷲龍の突進をまともに受けてしまったため、今は回復し、巨鷲龍の隙を探すべきだろう。
――そう思っていると、アスナとリーファ、カイム、サクヤと言った回復術を使えるメンバー達が一斉に全体回復魔法と補助魔法を詠唱して発動させ、HPを赤まで減らされてしまったメンバーの体力を回復させ、更なる補助効果を付与させる。当然、あまり減っていなかった俺とリランのHPもまた回復し、防御力大幅上昇、体力自動回復、攻撃力上昇、移動速度上昇の補助効果がステータスバーに現れた。
「一斉に補助効果が来たな」
《それでも奴の力は我らを上回っている。油断するでないぞ》
リランの《声》が頭の中に響いた直後、それまで様子見に徹していた、もしくは巨鷲龍の突進攻撃を受けて少し動けなくなっていたメンバーが一斉に動き始めて、突進を終えて動きを一旦止めている巨鷲龍に突撃を開始した。
その中で、まず最初にSAOの時とは違って黒髪となっているフィリアが巨鷲龍の元に到達し、短剣で毛に包まれている部分を切り裂いていき、続けて同じく短剣を持つシリカが巨鷲龍の腹部に到達して、ソードスキルを放っていく。二人の鋭い攻撃を受けた巨鷲龍のHPは、明らかにクラインとディアベルが同時に攻撃を仕掛けた時よりも多く減っていった。
「ちょ、俺達が攻撃した時よりも多く減ってるじゃねえか!」
「どうやら、俺達が攻撃したところは切断属性を弾く部位だったらしいな。なら、狙いどころは決まりだ!」
クラインとディアベルは呟くなり同じように滑空して巨鷲龍に突進する。巨鷲龍の身体はこれまでのモンスター達と同じように毛に包み込まれている部分と甲殻に包み込まれている部分があるが、クラインとディアベルの同時攻撃とフィリアとシリカの同時攻撃の利き具合を見る限りでは、甲殻部分は切断属性を弾いてしまうが、毛に包まれている部分は切断属性が逆に効くようになっているようだ。
これならば、剣のような切断属性武器を持っているメンバーがどこを攻撃するべきで、打撃属性武器を持っているメンバーがどこを攻撃するべきなのか、はっきりしている。同時に、俺とリランがそれぞれ攻撃するところも、だ。
「なるほどな。皆、切断属性武器を持っているメンバーは毛の部分を、打撃属性武器を持っているメンバーは甲殻を狙うんだ!」
まだ血盟騎士団のリーダーだった時のように指示を広めると、それを聞き取ってくれた者達が一斉に立ち位置を変えて、巨鷲龍に向かい始める。まず最初に純粋な打撃属性武器であるメイスを持っているリズベット、打撃と切断の両方を兼ね揃えた武器の両手剣を装備しているストレア、意外にも打撃武器であるナックルを装備していたアリシャが巨鷲龍の元へ到達したが、そこで巨鷲龍は身体をしならせて先程と同じように尻尾による薙ぎ払いを繰り出してきた。
「そんなのが当たるわけないでしょがッ!」
「こっちだよッ!」
「もう当たらないヨッ!」
かなり巨大である巨鷲龍の攻撃だから、当たるかと思いきやリズベットとストレアは迫り来た巨鷲龍の尻尾を回避、巻き起こった暴風の中を力強く飛び抜けて巨鷲龍の甲殻に接近し、共に渾身のソードスキルを繰り出す。
「てぇやああああああッ!!」
「とりゃああああああッ!!」
「よっと!!」
リズベットの放つ、敵に突撃した後に片手棍で力強い一撃を繰り出すソードスキル《アサルト・タイプ》、ストレアの放つ、両手剣で前方を思い切り叩き斬るソードスキル《アバランシュ》、アリシャの放つ、敵の懐に一気に飛び込んで力強い一撃を放つナックルのソードスキル《スマッシュ・ナックル》が轟音と共に甲殻に炸裂すると、巨鷲龍のHPがかなり減ったのが見えた。先程のフィリアとシリカの攻撃が効いたのもあったのか、巨鷲龍の《HPバー》は一本目が半分以上失われていた。しかし、巨鷲龍の《HPバー》は四本もあるので、まだまだ討伐は先になるだろう。
ここは一つ、人竜一体を解除してリランに個別で攻撃を仕掛けさせ、俺も皆と同じように攻撃をするべきだ――考えを頭の中でまとめた次の瞬間に、俺はリランの毛から手を離してもう片方の剣を抜き、翅を広げてから、リランの項に立って声掛けする。
「リラン、人竜一体を解除する。俺も剣で奴を斬る!」
《了解した。必要な時は戻ってこい!》
リランの了承を得ると、俺はその項から飛び出して滑空し、倒すべき敵である巨鷲龍に突撃した。同刻、リランがその翼で巨鷲龍の背後に移動して火炎弾を放ったのが見え、俺が到達する寸前で巨鷲龍に着弾して大爆発した。燃え盛る爆炎の中に俺は突っ込み、それを両手の剣に纏わせるようにして巨鷲龍の白い毛に包まれている部位を切り刻んだ。
リランの攻撃もあってか、巨鷲龍のHPがかなり減ったのが、巨鷲龍から離脱した時に確認できた。