モグラだってドラゴン名乗っていいじゃない!   作:すこっぷ

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偽カズキの正体を考えていたら風邪をひきました。
皆さんも体調にはお気を付け下さい。


58話

「ほ〜、じゃあ子フェンリルの片割れをグレモリーの嬢ちゃんとトレードしたってのかぃ?」

 

「今回限定だけどね。スコルはウチの大切な家族だし、簡単に嫁には出さん」

 

「へぇ、スコルってメスだったのかぃ」

 

「いや俺も知らんけど」

 

「おい」

 

美猴さんに担がれながら、今回仕掛けたイタズラについて説明していく。

身体は拘束されたままだが、口だけ自由に動かせる様にして貰った。

本当はさっきまで何の拘束もされてなかったんだけど、美猴さんの持ってた焼きそばを食べたらまた動けなくされてしまったのだ。

反省はしてない、美味しかったです。

 

モグラさんは落ちると危ないから俺の中。

ハティも俺に着いてきてくれたので、今は二人に並走して走っている。

そういや君たちって空走れたんだね、いつも普通に散歩してるからどうもこの子たちがフェンリルだって忘れそうになるんだよね。

本当にハイスペックでいらっしゃる。

 

「あら、でもおかしいわねぇ? グレモリー眷属の《戦車》には白音がいるんだから、駒二個分のスコルちゃんとはトレード出来ないんじゃニャい?」

 

黒歌さんが口元に指を当てながら小首を傾げる。

ごもっともな御意見です。

 

「実はこないだ、スコルのお尻から《戦車》の駒が一個プリッと出てきてね?」

 

『ブフォッ!?』

 

俺の発言に美猴さんと黒歌さんは揃って吹き出し、美猴さんは担いでいた俺を落としかける。

 

ちょ、手ぇ離さんといて!?

今の俺動けないんだよ!?

このまま落とされたら地面と濃厚なキスしちゃう!

 

「ハァ!? いや尻からって……ハァ!?」

 

「え、なに? 《悪魔の駒》ってそうやって出てくるものなの? なんかばっちいニャア……」

 

驚愕しつつも俺を抱え直した美猴さんと、まるで汚物を見るような視線を俺にくれやがる黒歌さんをよそに、俺はザックリとした説明を続けた。

 

「いえね? 何時も通り散歩先でスコルが力んだら、その力作がやたらと光っててさ。片付けついでに調べてみたら、中に《悪魔の駒》があったんだよね」

 

「俺もよくわからないし心配だったから、《悪魔の駒》を作ったアジュカさんに聞いてみたんだよ。そしたらどうもスコルの中の駒が一つ《変異の駒》に変わったらしくて」

 

「アジュカさんは『恐らくキミの中のミョルニルが身体に馴染んだ事と、眷属であるフェンリルの駒が同調して変質したのだと思われる。この様な事例は聞いた事がないが、私にはそうとしか考えられない』って言ってた」

 

「まぁそんな訳で今のスコルは《戦車》一個分の眷属なんだよ。だからトレードの数的にも問題はない……筈」

 

ぶっちゃけ、かなりグレーゾーンスレスレの事をやっている。

レーティングゲームについてザッと調べた時、『ゲーム前のトレードは対戦相手の同意が必要』ってルールにあったけど、こないだサイラオーグさんが『何をしてこようと、相手の全てを受け入れる』とか言ってたし問題ないよね?

まぁあの人なら笑いながら許容してくれるだろ!

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

「–––とまぁ事のあらましは大体こんなもんか。で、どうするよサイラオーグ?」

 

「どう、とは?」

 

堕天使総督であるアザゼル殿がカズキの眷属であるヴァルキリー、確かロスヴァイセ殿と言ったか。

そのロスヴァイセ殿から受け取った手紙をヒラヒラと揺らしながら尋ねてくる。

何とも不機嫌そうだが、それもその筈。

アザゼル殿が上手く纏めていたが、実況の者が読み上げた内容の殆どはアザゼル殿をおちょくる様な内容だった。

 

横で正座をしながら涙目になっているロスヴァイセ殿が、若干不憫に見える。

あの様子を見ると、手紙の内容を自分の眷属に知らせていなかったな。

全く、子どもの様なイタズラが好きな奴だ。

 

「この状況はちっとばかしイレギュラー過ぎる。お前さんの同意が得られなければ、取り下げてもいいと思うが?」

 

アザゼル殿に問い掛けられると、スタッフからマイクを手渡された。

ふむ、つまりどうなるかは俺の匙加減な訳か。

ならば俺の答えは決まっている。

 

「リーバン! ガンドマ! お前たちはどうしたい!」

 

俺はマイク越しに己が眷属に問い掛ける。

この戦い、決して俺だけの物ではないのだ。

あの神をも喰らう魔狼と戦うのは俺ではない、あの二人。

何よりも、あの二人の意思が尊重されなければならない。

《騎士》であるリーバンは顎に手を添えながら、わざとらしく悩む様な仕草を見せる。

 

「そうですな、私としてはサイラオーグさまが気に掛けるカズキ殿と戦えると思ったのでちと残念ですが……相手がかの神喰狼ならば、相手にとって不足なし! 我が剣技の冴えの程、この会場の皆さまに! そしてなにより、我が主サイラオーグさまにとくと御覧に入れましょうッ!!」

 

リーバンは不敵な笑みを浮かべそう言うと、腰に備えた剣を抜き放ち天に高々と掲げた。

その光景に呼応する様に、観客たちから大きな声援があがる。

《戦車》のガンドマも同意の様で、その強靭な両腕を掲げて観客たちの熱を煽っていく。

 

「よく言った、頼もしき我が眷属たちよ! ならばその力! その勇姿ッ! 貴様らの意思を持って、眼前に示して見せよッ!!」

 

『応ッ!!』

 

俺の呼び掛けに力強く応えてくれる二人。

俺には勿体無いくらいの、本当に素晴らしい眷属たちだ。

 

「そう言う訳でアザゼル殿、こちらに依存はない。思う存分やり合わせて頂きましょう」

 

「……そーかい、お前さんがいいならこれ以上何か言うのは野暮だな」

 

強いて俺の言いたい事があるとすれば、一瞬で滾ってしまったこの戦闘意欲の発散が出来ない事くらいだ。

布の下からあいつの顔が現れた瞬間。

普段はやる気のないあいつとこの最高の舞台で、本気で死合えるかと期待してしまった。

その高ぶりが、俺の身体を焦がして止まない。

 

しかし違ったのなら仕方ない。

リアスの陣地で控えている赤龍帝、兵藤一誠もまた俺を期待で震え上がるほどの相手。

その他の眷属たちも、己の主に勝利を持たらさんと必死になる素晴らしき者たちだ。

決して侮ってはならない。

 

赤龍帝だろうが神喰狼だろうが、好きな奴を連れて来い。

相手が何者であろうと、俺たちのやる事は変わらない。

今日この時間、この場所で!

全身全霊をかけて、グレモリー眷属を打ち倒すッ!

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

「お、見えてきたぜぃ? ここが俺っちたちの持ち場だ」

 

ようやく目的地に着いた様で、美猴さんはスピードを緩め始めた。

完全に停止すると、黒歌さんが俺を拘束していた術を解いてくれる。

俺は背中に堕天使の翼を広げ、首や肩をグルグルと回して身体を解す。

 

モグラさんは勝手に俺の中から出てきて頭の上を陣取り、ハティは心配そうに近寄ってきたので思い切り撫で回す。

ハティをモフりながら辺りを見渡すと、さっきまでいた都市がかなり小さく見える。

結構遠くまで来たもんだな。

俺が翼を出した事でもわかるだろうが、ただいま上空ウン千メートル。

足下には鬱蒼と生い茂る木々が溢れているが、見上げた時の紫色の空は実に目に痛い。

 

「わぁ、すっごく高ぁい! ……俺帰っていい?」

 

「却下」

 

「何でだよ! 俺が地面に足着いてないとポンコツなの知ってるでしょう!?」

 

俺の素敵な提案を、問答無用で叩き潰す美猴さん。

俺ってば空を飛べる様になったばかりだから、空中で上手く戦えないのだ。

具体的には、素手のゼノヴィアにフルボッコにされる位。

朱乃さんやロスヴァイセさんに至っては、近付く事すらできずに燃やされたり丸コゲにされる。

 

攻撃を受け流そうとすると、どうしても踏ん張りが利かずに身体ごと攻撃された方に流されて吹き飛ばされる。

アザゼルさん曰く『そのうち慣れる』らしいが、それっていつよ?

ゼノヴィアにドヤ顔されるのがメチャクチャ腹立つのだ。

そして地面に倒れてる俺を、光悦とした表情で見つめてくる朱乃さんが色んな意味で実に怖い。

 

「ここまで極端なスタイルも珍しいわねぇ、 美猴はなんかアドバイスとかニャいの?」

 

「んな事言われてもなぁ、俺っちは筋斗雲で足場作れるし……お得意の気合でなんとかするしかないんじゃねぇかぃ?」

 

「所詮なんちゃって孫悟空か……こんな事なら初代さんに聞けばよかった」

 

「おいこら、誰がなんちゃってだ」

 

あの人気持ち悪いくらいなんでも出来たからな。

戦闘技術はもちろん釣りに狩りに勉強、歌や彫刻なんかの芸術と料理まで。

ああいうのが『天才』って奴なのかね?

 

「てかお前さん爺様に会ってたのか。どうだ、俺っちの言った通りだったろう?」

 

「初代さんが『あのバカは見つけ次第折檻じゃ』って玉龍さん連れて仕事ついでに探してたよ。俺も美猴さんたちがいそうな所伝えといたから気を付けてね?」

 

「なぁ、なんか今のおかしくね? 心配すると見せかけて、俺っちの事売り飛ばしてなかったか?」

 

「気のせいです」

 

そのまま空中で取っ組み合う俺たち。

地上ですら勝てない俺が空でこの人に敵うはずもなく、美猴さんのいい様にオモチャにされる。

ちょ、孫悟空がコブラツイストとか掛けてくんなや!

 

つうかいい加減テロリストなんて辞めなさいよ。

大規模な破壊活動とかしてるって話は聞かないけど、世間様に顔向け出来ない事には変わりないんだから。

なんかしら目的があって動いてるのはなんとなくわかってるけどさ。

俺に内緒にしてるのが気にくわん。

 

「ほらほら、そこの仲良しニャお二人さん? じゃれついてるのもいいけど、な〜んか面倒臭そうな団体が御出でになったわよん?」

 

そんな事をしているうちに、呼んでもいないお客さんが来てしまった。

見覚えのある制服みたいな服装で統一した集団、たしか英雄派だっけか?

その先頭に、これまた見覚えのある女の人が。

 

「貴方までこんな所にいるなんてビックリ。凄い偶然ね、ヘラクレスが知ったら大騒ぎだわ」

 

わざとらしく目をパチパチと瞬かせ、大きく広げた手を口に当てている女性。

そう、以前修学旅行中に襲いかかってきてくれやがった連中の一味であるジャンヌとかいう奴だ。

嬉しくない縁もあったもんだ。

 

「お久しぶりですねクソッタレ」

 

「あら、酷い挨拶ね? 私、何か嫌われる様な事しちゃったかしら?」

 

「俺の修学旅行を邪魔しただけでは飽き足らず、俺が祭りを堪能してる時にまで来やがって……!」

 

俺の怨みの籠った視線を受けても平然としてやがる。

少しは良心の呵責に苛まれたりしろよ!

……って、テロリストに言っても無駄か。

俺はモグラさんを禁手状態で素早く身に纏い、身体から蒸気を噴き出し排熱する。

 

「美猴さん、俺ってばなんだかやる気が湧き出てきちゃったからさ。こいつの相手は俺がやる、ハティも美猴さんたちを手伝ってあげて」

 

「ウォフ!」

 

「別に構わねぇけど……やれんのか?」

 

ハティは元気一杯に返事をし、美猴さんは如意棒を取り出して構えつつそんな事を聞いてくる。

既に周りは敵さんに包囲されており、正に一触即発と言った感じだ。

にしても、美猴さんもつまらない事を聞く。

 

「当然でしょう? こいつがゼノヴィアを痛めつけたのは本人から聞いてるからね、簡単に終わると思わないで貰おうか」

 

「そうかい、そんならこれ以上言わねぇよ。周りのザコは引き受けてやっから、存分にやり合いな。行くぜぃハティ、お前の御主人に良いトコ見せてやんな!」

 

「ウォフッ!!」

 

「あれ? なんか私ってばすごい空気じゃニャかった?」

 

美猴さんは如意棒を肩に引っさげ、ハティを伴い敵陣に突撃していった。

黒歌さんもそんな事を呟きつつその後を追っていく。

 

そしてごめんねゼノヴィア、正直今の今まで敵討ちとか忘れてた。

本人もリベンジは自分でするって言ってたし、精々俺の憂さ晴らしに付き合わせよう。

 

 

 

 

 

 

「アラ生意気ね、いいわよ? この間は戦えなかったけど、今日はタップリと遊んであげる♪」

 

ジャンヌも乗り気のようで、何処からか剣を取り出す。

何も持ってなかった筈だけど……木場と似た様な神器なのかな?

 

まぁ何はともかく、地面に降りないと話にならない。

幸い相手にはまだバレてないんだ、上手く誘導すればどうとでもなる。

 

「ハッ、好きなだけ吠えるがいいさ。さぁ、下に降りて戦おうか」

 

「いいえ、このままで結構よ?」

 

ジャンヌはそう言いながら、剣を正眼に構える。

……ん?

 

「いやいや、見た所剣を使うんだろう? 地面の上で決着を着けようじゃないか」

 

「別に構わないわ。地上でも空中でも、貴方が負ける事には変わらないのだから」

 

俺が構うんだよバカ野郎。

 

「まぁそう言わずに、レディファーストって奴さ。それに俺はね、どうせなら全力の君と戦いたいんだよ」

 

「あら、紳士なのね? でもお気遣いは不要よ、私は何処でも……ねぇ貴方、もしかして空での戦闘に不慣れなのかしら?」

 

あかん、バレた。

 

「そうなの……別に私は下に降りてあげても良いんだけどね?」

 

マジで?

 

「でも私、無抵抗の相手を一方的に嬲るのも大好きなのよねぇ……♪」

 

ふぁっきん。

 

 

 

 

ねぇ、なんでこっちを見ながら舌舐めずりしてるの?

なんでそんなに嬉しそうなの?

なんでそんなに頬を染めながら息を荒げているの?

 

なんで、変なスイッチ入った時の朱乃さんと同じ様な顔してるの?

 

……へ、へるぷみ〜!?




最近、この作品を書き終えたら何を書こうか考えます。
昔少しだけ書いてたアクセルワールドの続きを書くか、それともいっそ小説家になろうでオリジナルでも書こうか……悩みます。

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