登校して教室に入ると兵藤に絡まれてた。
何やら聞きたそうにしていたが、俺は知識がまるでないから期待しないでほしい。
先輩が説明してくれるって言ってたんだから大人しく待ってろよ。
「なぁ、何であんな事出来たんだ? なんか格闘技でも習ってるのか? 」
「いや、小さい頃に悪の組織に改造人間にされてね」
「真面目に答えてくれよぉ……」
正直に答えてるのに。
テラ理不尽。
放課後になると、隣のクラスのイケメン王子、木場祐斗が使いとしてやって来た。
兵藤が同類である松田と元浜が絡らまれてる間に俺は帰ったけど。
今日はスーパーのタイムセールがあるのだ、悪いが関わってる暇はない。
グレゴリに仕送りを貰っている立場なので節制しなくては。
まずはモグラさん用のジャガイモからだ!
次の日、兵藤に文句を言われたが知らん。
俺はお前よりも、冷蔵庫の中身の方が数倍大事だ。
兵藤はこれから、グレモリー先輩が部長をやっている『オカルト研究部』に入って悪魔としてやっていくらしい。
お前も悪魔だったのか、しかも神器持ち。
いまだに悪魔とか天使の区別がつかない。
俺? 俺は人間ですよ、改造されてるけど。
この間からオカルト研究部の連中がやたらと絡んでくる。
塔城さんが迎えに来たり、木場が校門で待ち伏せしてたり。
皆無駄に人気者だから嫉妬の視線が凄まじい。
やめて下さい、死んでしまいます。
逃げ帰る途中、兵藤が金髪シスターと仲良さそうに歩いてたのを目撃。
その情報を流して嫉妬を男の分だけでも兵藤に流しておいた。
すまん兵藤、俺の為に死んでくれ。
そんな日々を生き抜き、ようやく休日である。
休みには、よくモグラさんを頭に乗せて散歩している。
最初は驚かれたものだが、ご近所さんも見慣れたものなので普通に接してくれる。
むしろ小さい子供やお年寄りには大人気で、ちょっとしたアイドルだったりする。
その日は、たまたま例の金髪シスターさんと遭遇した。
怪我をした子供を慰めていたらしい。
流石シスター、優しいね。
その光景を見つめていると、シスターさんも見つめ返してきた。
俺の頭の上のモグラさんを。
どうやら俺ではなくモグラさんに興味津々らしい。
悔しくなんかない、全然。
「えっと、抱いてみる? 」
「い、いいんですかっ!? 是非ッ! 」
モグラさんに許可を得てからシスター、アーシアちゃんに預ける。
ベンチに座った後に、両手で優しくモグラさんを受け取ると、膝に移して満面の笑みを浮かべて喜んでくれた。
撫で方がいいのか、モグラさんも仰向けになって満足気だ。
「そういえば、さっきの子供にしてたの凄いね? 」
話題がないので先程の事を話題にすると、アーシアちゃんの肩がビクッと震えた。
「み、見られちゃいました……? 」
うん? あぁ、泣き止ませてる所だろ ?
黙って頷くと、アーシアちゃんは自分の話をしてくれた。
違ったよ。
さっきのは泣き止ませてたんじゃなくて、神器で怪我を治してたんだそうです。
そう、じつはこの子神器持ちでした。
なんだよ神器使いっていっぱいいるじゃん。
アザゼルさんにまた騙された。
アーシアちゃんのはどんな傷でも治せるなんたらヒーリングって名前の物。
昔、それを使って瀕死の悪魔を助けたら教会から追い出されたそうだ。
アーシアちゃんが良い子すぎてつらい。
「ん〜……難しい話は解らないけど、後悔してないんだろ? アーシアちゃんが間違ってないと思ったんなら、それが正しいんだよ」
「ですが、私は……」
しかも夢が友達と買い物する事とか……マジもんの聖女様じゃないか。
「それにホラ、モグラさんともう友達になったじゃないか。俺とも友達になってよ」
「カズキさんは……私と、友達になってくれるんですか? 」
やめて、本当にやめて。
これ以上はマジで泣くから。
俺が耐え切れずにベンチから立ち上がると、それに反応してアーシアさんの膝で仰向けだったモグラさんが、俺の服をよじ登って頭の定位置に戻ってくる。
「もう友達だろ? また今度、モグラさんと遊んであげてね」
アーシアちゃんが手を口に当てながら涙を零す。
それを見てもう涙腺が決壊しそうなので、持ってたハンカチを渡して手を降りあった後、その場から離脱した。
家に帰ってからおんおん泣いた。
隣の人に怒られた。
別の意味で悲しくなった。
ぐすん。
いつものように夜にモグラさんをグローブにしながらランニングしてると、ふとアーシアちゃんの住んでいる高台の教会が目に入った。
そういえば教会なんてちゃんと見たことないな。
一度行ってみるか、もう夜だから会うことはできないだろうけど。
坂の傾斜がなかなかキツくて少し後悔したが、無事に到着。
でも教会が無事じゃなかった。
扉が開きっぱなしで、中の椅子やら像やらがメチャクチャに壊されている。
なにこれ、押し込み強盗?
アーシアちゃん無事だよね?
恐る恐る教会のなかに入っていくと、目の前の台座みたいな所から兵藤が出てきた。
もしかしてこれお前がやったの?
悪魔だからってこんな事しちゃダメだろう。
注意しようと近づくと、彼の腕の中にはアーシアちゃんの姿が。
やたら薄い服なうえ、胸が片方はだけてる。
よし兵藤、歯を食いしばれ。
今なら前歯だけで許してやろう。
よく見ると、兵藤は普段からは考えられないほど真剣な眼をしながらアーシアちゃんを抱きかかえ、悲痛な声で話しかけている。
アーシアちゃんは震えながら兵藤の手を握っていたが、俺に気付くと小さくだが微笑んでくれた。
え、シリアス? シリアスなのか??
「あぁ……イッセーさんだけじゃない、カズキさんまで来てくれた。本当にもう、思い残すことは……ありがとう……」
「アーシアっ……アーシアァァァァっ!! 」
そう呟くと、アーシアちゃんは目を閉じて喋らなくなり、兵藤が泣きながら吠えている。
は……? なにこのお別れみたいな台詞。
本当に死んじゃったのか?
あんなに優しくて、いい子だったのに……?
「ようやく死んだのね、その子。あら? 知らない顔ね……なんだ、ただの人間か」
呆然としていると、堕天使が笑いながら現れる。
兵藤との会話から察するに、どうにもこいつが元凶か。
なるほどね、いいよわかった。
モグラさん、頼むよ。
「兵藤、俺があいつの面倒見てやるよ」
神器を装着して、兵藤の隣に立つ。
「だから止めはお前が刺せ。あの子の友達である、俺たち二人で倒すんだ」
俺の言葉を聞いて兵藤はゆっくりと頷き、自分の神器であろう籠手を構え直す。
やる気充分じゃないか、カッコいいね。
それじゃ
『やってやるぞ、くそったれ! 』
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
くそっ! 守れなかった……っ!!
せっかく木場と小猫ちゃんが手助けしてくれたおかげで辿り着いけたのに。
俺の目の前でアーシアは神器を抜き取られてしまった。
目に見えて弱っていくアーシアを抱え、木場と小猫ちゃんが敵を引きつけてくれてる間に教会の入り口近くまで戻ると、そこにはジャージ姿の瀬尾がいた。
不思議には思ったが、今はアーシアをどうにかしなくちゃ!
アーシアを長椅子に寝かせて休ませる。
くそ、どうすればいい?俺には何も……
そうだ! 瀬尾なら……っ!
状況を瞬時に理解したのか、瀬尾は目に見えて驚愕し、怒りから体を震わせている。
以前聞いたが、瀬尾はアーシアの友達だ。
落ち込んでいるときに励ましてくれて、友達になってくれたと。
そうか……こいつにも、どうしようもないんだな……。
もう出来ることがない。
そう思うと情けなくて、悔しくて。
アーシアと話ながら涙が溢れてくる。
アーシアが瀬尾に気付くと、弱々しくだが微笑んでいた。
「あぁ……イッセーさんだけじゃない、カズキさんまで来てくれた。本当にもう、思い残すことは……ありがとう……」
そう呟くと、いままで握ってくれていた手がスルリと落ちてしまった。
「アーシアっ……アーシアァァァァっ!! 」
なんでこんな良い子が死ななきゃならないんだ!
色んな人に尽くして、頑張って来たんじゃないかっ!!
俺か!? 俺が悪魔だから悪いのかっ!
「ようやく死んだのね、その子。あら? 知らない顔ね……なんだ、ただの人間か」
声に反応して振り向くと、そこには俺たちを嘲笑う天野夕麻……堕天使レイナーレがいた。
奴はアーシアの神器である指輪を見せつけるような仕草を続ける。
それはお前のもんじゃない。
アーシアの、優しい力なんだ!
俺が憤慨して飛びかかろうかと思ったその時、今迄黙っていた瀬尾が口を開いた。
「兵藤、あいつの面倒見てやるよ」
瀬尾はそう言うと、いつの間にか宝石見たいなのが付いたグローブをはめて俺の隣に立っていた。
部長が、瀬尾も神器を宿してるって言ってたけど、あれがそうなのか……?
「だから止めはお前が刺せ。あの子の友達である、俺たち二人で倒すんだ」
二人で倒す、瀬尾はそう言ってくれた。
こいつがどのくらい強いのかわからない。
多分一人でも余裕で倒せるんだろう。
でも、こいつはアーシアの友達である【俺たち二人】で倒すと言ってくれたのだ。
熱くなるじゃないか。
最高じゃないかっ!
ここでやらなきゃ男じゃねぇ!!
行くぞ俺の神器っ!
お前は想いを力に変えてくれるんだろう?
一発、一発だけでいい!
俺に、あのクソ天使をぶっ飛ばす力を貸してくれ!!
『やってやるぞ、くそったれ! 』
カズキ「次回、モグラさんの秘められた力が明らかに! 」
モグラさん「キュイーッ! 」
カズキ「かかって来いやと申しております」