黒歌と美猴の襲撃を乗り切り、明日は遂にシトリー眷属とのレーティングゲームだ。
俺たちは先生の部屋に集まり、最後のミーティングを行う……予定だったんだけど。
「昨日はみんなお疲れさん、大変だったみたいだな。だがまぁ美猴達を追い払った事でリアスはさらに評価を得て、オマケにイッセーは完全な禁手に至った。これはゲームに大きく影響するぞ」
「あの、先生……その傷、どうしたんですか?」
「資料を読んで大体把握しているが、変身するまでの2分は死ぬ気で耐え抜け。そうすりゃカズキなんざ楽勝だ、顔の原型が判らなくなるくらいボコボコにしてやれ」
「ちょっ、先生!? やっぱそれカズキにやられたんですか!?」
「うるせぇ! いいからお前はカズキを血祭りに上げてやればいいんだよっ! なんなら手足の三、四本もいでやれ! 俺が許すっ!」
俺らの先生が壊れた。
どうもあの騒ぎの中この人はカジノで遊び呆けていたらしく、カズキに説教された様だ。
顔がキズバンだらけで、試合後のボクサーみたいに顔が腫れている。
一目で分かる程荒れてるよ。
「ちくしょうカズキめ……確かに俺が全面的に悪いが、何も本部にある俺の秘蔵の品をぉぉぉ……」
「そ、それはもしや大人なアレですか……?」
つい興味本位で聞いてしまう。
なんたって過去に幾つものハーレムを作ったお人の品だ。
さぞかし凄い物に違いない。
「それもだが、とっておきの酒やら色々とな……ベネムネが酒瓶持って上機嫌だったって報告が来た。そもそも何でカズキが隠し場所知ってんだよ……」
今度はひたすらに凹んでらっしゃる。
なんだ酒か、エロい物かと思ったのに期待外れだ。
これはもう放置しといたほうがいいな。
下手に触れると俺にまで被害が来かねない。
「やっぱり、向こうも俺の禁手の事は把握してますよね?」
「そうね、イッセーの事を禁手化前に潰しに掛かってくるのは確実だと思うわ」
俺の質問に、部長は顎に指を当てながら答えてくれる。
「でも、カズキくんが闘気を使いこなせるようになった。これを知れたのは助かります。スピードやパワーはコカビエルの時よりは低くても、それに近いものになってるでしょうから」
「確かに。事前に把握しておけば何とか対処できるし、少なくとも初見殺しに合わなくて済む」
木場とゼノヴィアが戦力解析を行いつつ、カズキへの対処を話し合う。
木場はカズキと戦うのをえらく楽しみにしていたし、ゼノヴィアは以前の借りを返して見せると意気込んでいた。
戦闘前ともなるとキリッとしていて、頼り甲斐があるな二人とも。
「相手はソーナ会長ですし、生半可な作戦は通じないでしょうね。オマケにカズキくんがどんなドS……ではなく、嫌らしい罠を仕掛けてくるかわかりませんもの」
「カズキ先輩の高笑いが聞こえてきそうです……」
「あの、カズキさんはそんな……事、は……してくるかもしれません……」
朱乃さんと小猫ちゃんがなかなかに厳しい事を言っている。
アーシアがフォローしようとしていたが、上手い言葉が見つからずに涙目になりながら遂に肯定してしまう。
いや、アーシアは頑張ったぞ?
しかしあいつは本当に何してくるか分かんないからな、かなり恐ろしい。
「カズキくんばかり気にしてても仕方ないわ、他の戦力も対策していくわよ」
部長が手を叩き、みんなの意識を自分に向ける。
そうだ、敵はカズキだけじゃない。
前回のレーティングゲームでは敗北したが、もう負けられない。
相手が誰だろうが、部長に白星をプレゼントしてみせる!
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ククク……これで準備は万全だ。
サーゼクスの若造の友人だかなんだか知らぬが、あの様な場で儂を愚弄しおって。
身の程をわからせてやる必要がある。
幾ら腕がたとうが所詮は人間。
会場には儂が手を回して細工をしておいた。
ルールも奴の不利になる様に仕向けた。
ゲームに託けて、殺してやるわ。
たかが人間の分際で、悪魔の中でも高貴なる生まれであるこの儂に楯突いたこと、後悔するがいい。
フハハ、ハーッハッハッハッ!!
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試合当日。
用意された魔法陣に立ち、転送された先は何処か見覚えのあるデパートの様な建物。
駒王学園の近くにあるデパートだな、これ。
よく行くから分かる。
『皆さま、この度はグレモリー家、シトリー家のレーティングゲームの審判役を担う事となりました、ルシファー眷属《女王》のグレイフィアで御座います』
辺りを見回していると、アナウンスが流れ出す。
どうやらライザー戦に続いて、グレイフィアさんが審判をしてくれるらしい。
魔王の《女王》って大変だなぁ。
挨拶とルールが説明されると、30分の作戦タイムが設けられる。
リアス先輩の本陣は二階の東側で、こちらは一階の西側になるのか。
今回、特別ルールがいつくか設定されている。
・『フェニックスの涙』をそれぞれ一つずつ支給。誰に持たせるかは自由。
・バトルフィールドを破壊しつくさない事。
・『ギャスパー・ヴラディ』の神器使用を禁ずる。
最後の項目については、ギャスパー君はまだ神器を使いこなせていないと聞いているので、やむなくの処置なのだろう。
しかしなるほど、あの老害はやはり無能だったようだ。
まさか大当たりがくるとは思わなかった。
「あの老害、あんな頭悪いのになんで上役やれてんだ? 悪魔の未来が真っ暗すぎるだろ」
「カ、カズキくん。これ、全体に聞こえてるから」
《戦車》の由良翼紗(ゆらつばさ)さんが、肩をユサユサと揺さぶる。
「マジでか、まぁ平気だって。俺みたいな下等な人間の戯言に一々めくじら立ててたら、自分も同程度のゴミ屑だって認めてるようなもんだし。これでゲームにテコ入れまでしてたら赤面ものだよね?」
「やめて!? お願いだからもうやめて!?」
ユサユサがガクガクに変わる。
そろそろ止めておこう。
みんなも笑顔が出て、少しリラックス出来たようだ。
「あの、カズキくん。なんだかサジの様子がおかしいのだけれど……」
副会長さんが匙を指差しながら質問してくる。
「ん? あぁ、この間のゴタゴタでイッセーが完全な禁手に至ったからさ。一夜漬けしてみた」
「兵藤コロス、兵藤コロス、兵藤コロス……」
「なんだか虚ろな眼で凄い物騒な事言ってるんですけどっ!?」
む、やり過ぎたか。
まぁそのうち戻るだろ、いざとなったら叩けば直る。
「ではみんな、どうやらカズキくんの言う通りになりました。事前に考えておいた作戦を忘れずに、各自役割を全うしましょう。大丈夫、勝つのは私たちです」
会長さんの言葉にみんなの顔つきも変わる。
みんな会長さんを信頼して、命を賭けてこの試合に臨んでいるのだ。
俺も役に立てる様に頑張ろう。
時間が経ち、匙もきっちり再起動した。
準備は万全だ。
このチームなら、どんな敵でも倒せるさ。
『開始のお時間となりました。なお、このゲームは制限時間は3時間の短期決戦形式を採用しております。それでは、ゲームスタートです」
さぁ、事前に許可も得たし、俺も『楽しく』やらせて貰う。
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ゲームがスタートした。
時間制限があるので、みんなで手早く動かなきゃ。
今回は建物の破壊禁止がルールにあるので、ライザー戦みたいに下から奇襲もしてこないだろう。
「指示はさっきの作戦通りよ。イッセーと小猫、祐斗とゼノヴィアで二手に分かれるわ。イッセーたちが店内から……」
部長の指示を確認し、自分の役割を再確認する。
俺は小猫ちゃんと一緒に店内から侵入する事になる。
最近の小猫ちゃんは絶好調だ。
黒歌と美猴の襲撃があってから、小猫ちゃんは何処か吹っ切れた様に仙術を使いこなせる様になった。
朱乃さんも最近何やら機嫌が良かったが、今日はいつも以上にニコニコしている。
なんて言うか、笑顔が輝いている。
ゼノヴィアが理由を聞いても笑うだけだし、何か良い事でもあったのかな?
「さて、かわいい私の下僕悪魔たち! もう負けは見せられないわ! 今度こそ私たちが……なんの音?」
部長の一喝で行動を開始しようとしたその時、何かエンジン音のような物が聞こえてきた。
その音は段々と大きくなり、すぐに俺たちの前に姿を現した。
立体駐車場から来たであろう乗用車が、フロアの商品を蹴散らしながら此方に突っ込んで来る。
あんな事する奴、俺は一人しか知らないぞっ……!
「……は? いや、ソーナがこんな事する訳……カズキくんね!? みんな、あの車に攻撃–––」
「攻撃するな、躱すんだっ! 恐らく爆発物を積んでる!!」
部長が迎撃命令を下そうとしたが、ゼノヴィアが大きな声で攻撃するなと叫び、アーシアを脇に抱えてその場から飛び退いた。
ば、爆発物!?
他のみんなもそれに続いて散り散りに避け、車での突撃をやり過ごした。
車はそのまま急ブレーキをかけ、フロアにタイヤ痕を残しながら停止する。
少しすると、ドアを開けて俺たちのよく知る男が車から出てきた。
「ちっ、一人も轢けなかったか。ゼノヴィアめ、無駄に鋭いな。攻撃してきてくれれば車に積んだガソリンと、柱に仕掛けたモグラさん製の爆弾でこのフロア丸ごと爆破出来たのに」
なにトチ狂った事言ってんのこの人!?
悪魔である俺たちより発想が怖いっ!!
「お、お前ルール聞いてなかったのか!? フロアの破壊なんて……!」
「お前こそ聞いてなかったのか? ルールはあくまで『バトルフィールドを破壊しつくさない事』だ。二階建てが一階建てになっても、まだ一階は残る上に地下駐車場だってそのままだ。ほら、破壊し尽くしてなんかない」
「なんて無茶苦茶な屁理屈を! こんなのソーナが許すわけ……」
「きちんと『言いくるめ』ました。嘘も『一応』ついてません」
シレッと答えるカズキ。
あぁ! 部長が怒りでプルプル震えてらっしゃる!?
「だけど、キミの企みは失敗して包囲されてる訳だけど……ここからどうする気だい?」
「いや、本当はこのまま全員巻き込んで自爆したかったんだけどね? 会長さんにダメ出しされて」
頭をガリガリと掻きながら困った様に喋り出す。
自爆って……。
なんでこいつはこう、自分の身を省みない行動ばかり起こすんだ?
「そんな訳で、しょうがないからお前ら纏めて俺が叩き潰すんでヨロシク☆」
っバカにしてんのか!?
いくらカズキでも、俺らを纏めて倒せる訳が……!
「幾ら何でも驕りがすぎるね、カズキくんっ!」
「私だって以前お前と戦った時よりは強くなっている! 余り舐めてくれるなっ!!」
木場とゼノヴィアが剣を振り被り襲い掛かった。
左右を挟んだ同時攻撃だ、これは躱せない!
それでも、カズキは顔色一つ変えずにポツリと呟いた。
「木場が来たか。ちょっと意外だな、もう少し冷静だと思ってた」
二人の剣に腕を滑らせる様に触れ、自分が元いた場所に打ち付けるように受け流す。
二人の攻撃に床は当然耐え切れず、木場とゼノヴィアは床ごと下に落ちていく。
カズキは木場の肩を足場にして飛び上がり、依然このフロアに残っている。
「あーあー、こんなにフィールド壊しちゃって」
「なに他人事みたいに言ってんだ! 壊したのはお前じゃないかっ!」
「何を言ってる、俺は攻撃を捌いただけだ。その結果、あの二人が床を破壊したんじゃないか」
「お前、さっきはこのフロアごと破壊しようとしてただろ!?」
「結果的に爆破は起こっていない。そんな話をされても困っちまうなぁ?」
くそっ腹立つ顔しやがってぇ!!
駄目だ、こいつに口で勝てる気がしない!
『……審議の結果、問題はありません。試合を続けて下さい』
そして無慈悲なアナウンスが流れる。
「ほら、審判様が何も言ってこない。つまり、俺の行動はルールに則った正しいものだと言う事だ」
手を広げながら大袈裟なアピールを続ける。
「ちなみに、この下の床は『何故か』脆くなっているから、あいつらが落ちたのは一階じゃあなくその更に下の地下駐車場だ。会長さんの眷属がわんさか待ち受けてるぞ? 早く助けに行かないと、あいつらでもやられちまうかもなぁ?」
カズキは右手を高く掲げ、俺たちに突きつける様に指を差してきた。
「そして、お前たちはまたミスを犯した」
は? いきなり何を言って–––。
『はぁっ!!』
「きゃあ!?」
「っぁう!?」
俺の後ろから急に悲鳴が上がった。
急ぎ振り向くと、いつの間にか接近していたシトリー眷属が、アーシアとギャスパーを殴り、斬り倒している場面だった。
「え!? ギャスパー! アーシアッ!」
『リアス・グレモリー様の《僧侶》二名、リタイア』
くそ、耐久力の低い二人を狙われた!?
「俺にばかり気を取られてるからそうなるんだ、よっ!」
カズキがグローブの指先からドリルを飛ばしてきた。
禁手化しなくてもドリルが出せるようになったのか!?
でもスピードはそんなに速くない、これ位なら余裕で躱せるさ!
「ほら、また間違えた」
『違うぞ相棒、あれはお前を狙った物じゃない』
「イッセー、避けてはダメ! 弾いてっ!」
「え!?」
ドライグと部長の言葉を聞いたのは、既に避けた後だった。
俺が避けたドリルはシトリー眷属の二人の近くに刺さり、床を砕く。
「くっ、朱乃!」
「はいっ!」
リアス先輩と朱乃さんがそれぞれ攻撃を放つ。
しかしその砕けた穴に二人は飛び込み、すんでの所で避けられ、この場からの離脱を許してしまった。
「今のもイッセーへの攻撃が『たまたま』避けられて床を破壊してしまっただけだ。先程は問題ないと言われたものだ、これも違反にはならない」
「くそっ、せめてカズキだけでも!」
「俺とやりたきゃ追ってこい」
カズキはそう言うと、こちらを向きながら大きく後ろに飛び退いていく。
「逃がすかよっ! アーシアとギャスパーの敵討ち–––」
「追ってはダメよイッセー、落ち着きなさい」
カズキを追おうとする俺を、部長が肩を掴んで静止してきた。
「っ! でも部長!!」
「いいから落ち着きなさい。このまま追っても、また罠で自滅させられるだけだわ」
「ぐ……くっそぉ!!」
憤りのない怒りを、壁を殴りつける事で紛らわせる。
くそ、完全にカズキにしてやられた!
「イッセーくん、今は焦ってはダメ。初戦は私たちの負け、仕切り直しましょう」
「……はい」
「部長、私とイッセー先輩で祐斗先輩たちを助けに行った方が……」
小猫ちゃんの意見に、部長が頷く。
「そうね、これ以上戦力を失うのは苦しいわ。イッセー、頭が冷えたなら祐斗とゼノヴィアの所に加勢に行ってちょうだい。あなた達で、二人を救うの」
そうだ。
幾ら木場とゼノヴィアが強いといっても、数の暴力は厳しい筈だ。
俺も少し落ち着いた、早く助けに行ってやらなきゃ。
「もう大丈夫です、急ごう小猫ちゃん」
「はい。では部長、行ってきます」
「えぇ。小猫、イッセー、気を付けてお願いね?」
『はい!』
部長に返事をしてから、駆け足で地下駐車場を目指した。
待ってろよ、木場。
もうすぐそっちに駆けつけるからな!
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
「朱乃、私たちも動くわよ」
「もう動くの? まだ中盤が始まったかどうかも怪しい段階よ?」
「遅いくらいよ、完全にカズキくんのお陰で出鼻を挫かれたわ」
多分、このまま動かなければ手遅れになる。
相手はカズキくんだけではない。
アザゼルにも言われていたし、頭ではわかっていたのだが、ド派手な登場に思考を持って行かれてしまった。
思えばあれも最後に繋げる為の作戦だったのだろう。
無秩序に暴れているだけに見えて、狡猾に罠を仕掛ける。
カズキくんだけじゃなく、ソーナも一緒に考えた策なのだろう。
策士に策士をつけたらとんでも無い事になってしまった。
だが、今ならまだ間に合う。
祐斗とゼノヴィアの安全が確保出来れば、まだ逆転は可能だ。
恐らく、読み合い騙し合いではこちらの分が悪い。
ならば、罠や策略は力で叩き壊すしかない。
頭が悪そうで少し思う所もあるが、しのごの言っていられない。
私たちはもう負けられないし、負けたくない。
ライバルであるソーナに、これ以上恥を見せる訳にはいかないのだから。
「さぁ、ここから巻き返して行くわよ!」
「えぇ、全力でサポートして見せるわ!」
このゲーム、絶対に負けないっ!
悪役させた方が映えるね、うちの主人公。
自分で書いてて腹立つわ。