ただ一つの、あこがれだけは   作:インノケ

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準備


9話

 格納庫では既に出撃の用意が進められていた。全ての機体に火が入れられ、そこかしこから轟音が響いている。

 

各員がMSの出撃準備を進める中、ヨハンは機体から降りキャットウォークを歩いていた。

 「なあ、ユキを知らないか」

 自分より先に出撃準備に向かったはずのユキだが、格納庫にそれらしい人影が見えず近くにいた整備担当の少女に声をかける。少女はヨハンのほうを向かず、端末を操作しながら答えた。

 「ユキは今、第四ドックで待機中です。お聞きにならなかったのですか」

「ドック? 出撃準備に向かったと聞いていたが」

 コロニー、フランチェスカには入港用のドックが四つある。

 これらは艦艇用の施設であり、MSの格納庫はそこに併設している。ユキは艦で出るのか、と納得すると、ヨハンは踵を返し乗機へと向かった。

 

「ヨハンさん」

 ヨハンのフリントに付いていた少年が、ヨハンを見つけると手でこちらに来るようにと合図をした。

 近くに寄ってみると、フリントは腰に見慣れない装備を下げていた。

「ご要望のザンバスター用パーツ、装備させておきましたよ」

「いいタイミングだな。調整済みか?」

 プラモデルのように装備を開発するGBWFにおいて、調整は非常に大きな意味を持つ。

 どんな用途を想定して作ったとしても、システムがそれを認識しなければその通りには動作しないからだ。通常は何度か調整を行い、性能を確保してから実戦投入へと移す。

 

「いえ、ぶっつけ本番です」

「……前言撤回だ。いいタイミングとは言えないな」

「す、すいません。まさかこんなすぐに必要になるとは思わなくて」

 少し前までは、軽く非難しただけで泣きそうなほどに怯えていた少年たちであったが、今ではヨハンに対しては親しく接するようになっていた。

 今思えば、彼らは大人に対して強い恐怖感があったのかとヨハンは気づいた。

 折角親しくなったのだから、このまま全員で生き延びたいと、人のいいヨハンは強く感じたのだった。

 

 

 フランチェスカ宇宙港第四ドック。本来宇宙戦艦などの艦艇が停泊するためのスペースには、巨大ながら艦とはまるで違うシルエットの巨体が収まっていた。

 この第四ドックは、ゲーム開始直後こそ本来の姿を保っていたものの、コロニーが旧地球連邦と呼ばれる組織の手中に落ちて以降、一度も本来の目的で使われたことのないドックであった。

 GBWF内ではMSの他にもう一つ、メジャーな機動兵器のカテゴリーがある。

 MAと呼ばれるそれは一般的にMSよりもあらゆるコストが高く、整備にも特殊な技術が要るためMSより数こそ少ないものの、強力な武装や高い防御力を誇るため、一機で戦況を覆すほどの力を持つ兵器。

 この第四ドックは、その運用のために改造されたものであった。

 もっとも、この施設を極秘に管理していた旧連邦の人間は、組織の崩壊に伴って姿をくらませてしまったため、その存在を知っているのは現在の管理者であるチュワンだけである。

 

 チュワンはドックの上部に設けられたコントロールルームから、眼下のMAを見下ろし通信機に声をかけた。

「まだリンクはできないのか」

『申し訳ありません。これ以上は専用のパーツがない限りは通常のデータリンク以下のものになりかねない状況です』

 スピーカーからユキの声が返ってくる。

 チュワンはため息を一つつくともう一度通信機に声をかけた。

「もういい。これ以上時間はかけられねえ。武装の確認に移行しろ」

『了解しました』

 通信を切ると、部屋からドックへと下りる。

 彼の行く手には、上からではMAの影に隠れて見えなかった黒いMSがあった。

 

「結局、どこにも居場所はねえのか……」

 彼は呟くと、床を蹴ってコックピットへ取りついた。

 


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