ただ一つの、あこがれだけは   作:インノケ

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終結


最終話

 ヨハンがトリダクナの占拠に成功した頃、チュワンとギルは未だ戦闘中であった。

「そろそろ時間なんじゃねぇのか、おい!」

『あは、あっひゃっひゃ!』

 ところどころに焦げ跡がついているものの目立った損傷のないデスパーダに対し、ガンダムMk-IIIはバインダーが大きく欠け頭部も左半分が消し飛んでいた。それでもなお突撃してくる様子は、まるでゾンビのような恐ろしさを放っていた。

 既にライフルを失っていたMk-IIIは両腕にビームサーベルを握り、両手足をバタバタと動かすことで複雑怪奇な機動をとりデスパーダを攻めたてていた。対するデスパーダは、長時間の先頭にも関わらず精彩を欠くことなく的確にサーベルを向かい撃つ。

 チュワンはためらっていた。

 本当であれば、致命打を与えるチャンスは幾度かあったはずであるが、彼はその度にトリガーを引くのをためらった。

 彼は奇声を上げながら飛び込んでくるギルに、かつて自分の抱いた恐怖を幻視していた。自分の作った薬で壊れ、狂ってしまった人間が、執拗に自分を追い立てる。常に冷静でいたチュワンであったが、目の前のトラウマの塊に対しては平静を保つので精いっぱいであった。

「クソが!」

 飛び込んできたサーベルをこちらもサーベルで受け、腕を振り上げることでMk-IIIを跳ね飛ばす。無茶な体勢で突っ込んできたせいか、跳ね飛ばされたMk-IIIは無様に腹部をさらけ出すが、デスパーダの放つライフルはMk-IIIをかすめもしない。

「クソクソクソ!」

 苛立ちを募らせながらもとどめを刺せず、チュワンは仕方なく距離を取らせる。このままでは埒が明かない。働かない頭をなんとか動かし打開策を練っているところに、通信が入る。

『チュワンさん!』

「ヨハン! 艦はどうなった」

『なんとか。向こうから空け渡してくれましたよ』

「上等だ!」

 張り合う相手を得たチュワンの脳が勢いを取り戻す。

「ヨハン! そいつの足を止めるぞ。合わせろ!」

『了解』

 デスパーダの後方からフリントがマシンガンを撃ちながら一直線に駆けてくる。Mk-IIIはサーベルをクロスさせながらそれを真っ向から受けるが、下方からのデスパーダの射撃に対応できず、左脚部に直撃弾を食らう。

 チュワンが勝ちを確信した瞬間であった。

『え、まさか……きゃあ!』

 悲鳴と爆音が全員のコックピットに響き渡る。

 ここから起きた一連の動作は、わずか5秒ほどであった。デスパーダが爆発の方向へ頭部を向けた瞬間、Mk-IIIが狼のようにとびかかり、デスパーダの両腕をはねる。そして頭部から真っ二つにせんと

腕を振り上げたとき、振り返る勢いの乗ったフリントのサーベルが器用にMk-IIIの腹部を切り裂き爆発が起きる。デスパーダは至近距離の爆発により大きく跳ね飛ばされる。

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

ヨハンは荒い息を吐く。まるで時間が無限に引き延ばされたような瞬間であった。体が思うように動かないが、まだやることがある。ヨハンは通信機に叫んだ。

「ユキ、どうした! 無事か!」

しばらくノイズだけが流れ、しびれを切らしてフットペダルを踏み込もうとしたヨハンだったが、やがてうっすらと声が聞こえてきた。

『ヨハ……さん、ヨハンさん』

「ユキ、無事か!」

『私は大丈夫です……のランチが……』

 ユキの声は、恐怖というよりは戸惑いを含んだものであった。

「すまんよく聞こえない。どうしたんだ」

『艦から出たランチが……機体にぶつかってきて、わたしは脱出……』

 未だ状況を掴めないヨハンであったが、そこに新しい声が割り込む。

『心中されかけたってことか』

「チュワンさん。心中?」

『アーノルドの野郎、タダで明け渡すなんてことはねえだろうと思ったが、馬鹿なことしやがって』

 呻きながらも状況を理解したチュワンが説明する。トリダクナからのランチが追突ということは、アカハネも一緒だったのだろうか。会話したのはほんの数分に満たない時間であったが、次々に知りあった人がいなくなっていく悲しさを覚えた。そして、人が死んでも大きく心が動かされないことに気がつき、ため息をついた。

 

 トリダクナに各々の機体を収容し待機していると、程なくしてあのダギ・イルスの彼らがやってきた。向こうも終息したらしい。こちら側の機体も欠けることなく帰投している。

 先頭のダギ・イルスが着艦し、コックピットからヨハンよりいくらか年下と思われる青年が現れる。

「どうも、初めましてですね」

「ああ、はじめまして。ヨハン・ジルバだ」

「ミヤナガ・ユウです。なんとかなってよかったです」

 先ほど見た戦いぶりからは想像もつかない落ち着いた雰囲気のミヤナガは、ヨハンに握手を求める。ヨハンはそれに応じると、素直に感謝と疑問をぶつけた。

「あんたたちのおかげで助かった、ありがとう。でもよかったのか? 相手は軍だぞ」

「あー、ほら。僕たちも海賊みたいなものですから。それにもうすぐ木星に戻っちゃいますから、問題ないですよ」

「木星? あんた木星から来たのか」

 現実世界ほどではないにしても、木星は非常に遠い。GBWFでも辺境中の偏狭であり、よほどのことがない限りは訪れることのない場所だ。海賊というのは冗談だとしても、ミヤナガが特殊な立場であることが伺えた。

「ところで、ヨハンさん達はこの後どうするんです?」

 今度はミヤナガが質問してくる。もっともな疑問だ。軍と直接戦ってしまったことにより、これ以上フランチェスカにいるのは危険だろう。ヨハンは振り向いてチュワンを見る。

「どうもこうも、変わらず海賊に決まってんだろ。艦も手に入れた。文句あるか?」

「だ、そうだ」

ヨハンは再びミヤナガに向きなおる。ミヤナガは苦笑して肩をすくめると、表情を真剣なものに戻した。

「それならなおさら、ここに長居はできませんね。僕も戻らないといけませんし」

「ああ、そうだな。本当にありがとう。じゃあ」

「ええ、お気をつけて」

 ミヤナガは自分の機体に乗りこむと、外で待機していた僚機とともに飛び去っていった。また出会うことは難しいだろうが、彼らはきっと生き残るだろう。

 

 トリダクナはフランチェスカへと入港すると、大急ぎで次の出航準備にかかった。しばらくは補給のめども立たない。食料やパーツ、私物などを各々がトリダクナへと運んでいく。

「テラ・スオーノは修理できないのか」

「どちらにしろ、艦には積めませんから。コアMSだけです」

ヨハンとユキは、トリダクナの艦橋で積み出しの指揮を執っていた。チュワンはというと、トリダクナの通信室で何やら怒号を飛ばしている、これからのバルバロスが食っていけるかはひとえに彼にかかっていた。

「なあ」

 指示を一通り出したヨハンは、おもむろにユキに声をかける。

「海賊って何をするものなんだろうな」

「え?」

 ぎょっとして、ユキはヨハンを見る。ヨハンは真っすぐ前を向いたまま続けた。

「ここ数か月海賊としてバルバロスにいたが、逆になんだかわからなくなった。それに、結局軍の小間使いをやってただけだしな」

 遠い目で話すヨハンを見て、ユキは少し考えてから答えた。

「でも、これからは自由です。もしかしたら、この世界にも宝の島。いえ、宝のコロニーがあるかもしれないです。見つけてみたくないですか?」

「宝のコロニーか……」

 それまでずっと固い顔だったヨハンはそうつぶやくと、にっと笑ってユキを見た。それはユキがこれまで見た中で最も男らしく、野心的で、喜びにあふれた笑顔であった。

「そうだな、俺たちは海賊なんだ」

「そうです。私たちは海賊なんです」

 ユキが同調する。彼女は初めて海賊という響きに自由を感じた。

「デスゲームがなんだ。ただ一つの、俺のあこがれを消せるもんか」

 海賊船トリダクナの出航は近い。

 




 ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。

「ただ一つの、あこがれだけは」は、これにて完結となります。

初心者ゆえまだまだ未熟な文章でありましたが、楽しんでいただければ幸いであります。

本作品は最終話になりますが、このGBWFは終わりではありません。

他の方の小説や設定wikiは日々更新され、無限に広がっていきます。

引き続き、GBWFの世界をお楽しみください。

ここまでお付き合い下さり、ありがとうございました。

ガンダムバトルワールドフロンティア"攻略"wiki
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