ただ一つの、あこがれだけは   作:インノケ

13 / 14
終息


13話

「MAのパイロット、聞こえるか。ヨハンだ、返事をしてくれ」

『ヨハンさん! 戻ってきたんですか』

「ユキ? これに乗っているのはユキなのか」

ただただ驚くヨハンであったが、とりあえずユキの無事は確認できた。安堵に胸を撫で下ろすが、すぐに切り替え現状の把握に努める。

「チュワンさんたちは?」

『交戦中です。ヨハンさんも加わってください。私たちだけでは相手をするのが精いっぱいで、状況が好転しないんです』

「了解した」

ヨハンは操縦桿を操作するとフリントを再び走らせた。

 次に視界に現れたのは、テラ・スオーノにつながったいくつかのビットとクラウダ1機が必死に4機のMSと艦二隻を相手にする光景であった。クラウダは、撃墜されていないのが不思議なほどに装甲を抉られ、攻撃をかわすのに手いっぱいになっており、時折放たれる致命打をビットが防いでいるという状況であった。

 

 フリントはビームマシンガンを手に、一番近くにいた1機に迫る。

 優勢であることで油断をしていたのか、マシンガンは直撃しなかったものの体制を崩し、勢いに乗ったフリントはすれ違いざまにビームザンバーで腰から下を切り落とした。

 突然現れ瞬く間に1機を撃墜したフリントに注意が向くと、その隙を逃さずビットが別の1機を爆発に変える。

 ヨハンはクラウダに下がらせると、残りの2機へと食らいついた。X字のスラスターを複雑に動かし予測不能な機動を描くフリントを2機のライフルの銃口が追いかけるものの、追いつくことはない。

 距離を詰めようとするも、今度はビットに横から撃たれ思うように動くことができない。そして、今度はビットに注意を向けてしまった1機がビームマシンガンによって四肢をもがれ行動不能になる。

 逃げ出した残りの1機も、それを上回る速度で迫るフリントに真っ二つにされ、行動不能にされてしまったのだった。

「あとは艦を叩けば……」

『ヨハン、聞こえるか』

突如通信機にチュワンの声が響く。チュワンはヨハンに質問する隙を与えずまくしたてた。

『そこのアマセネル級をいただくことにした。うまくやれ!』

「いただくって……」

聞き返す間もなく通信が切れてしまうが、いただくといったからにはそうするしかないのだろう。

フリントは先ほどから援護射撃を浴びせていた艦の下へと飛ぶ。

「こっちは沈めていいんだよな」

アオヤギ級の側面に取り付いたフリントはマシンガンを撃ちながら先端から後部へと一気に振り抜く。所々で小さな爆発が起き、後端の機関部でひときわ大きな爆発を起こすと、アオヤギ級は沈黙した。

 

 

「さて、いただくと言ってもな……」

 コックピットのヨハンは思案する。直掩機のいなくなったトリダクナではあるが、少しでも油断しようものなら絶え間なく続く対空砲火に期待はあっという間にハチの巣にされてしまうことだろう。

「とはいえ、むやみに攻撃して壊しでもしたら」

 チュワンは性格こそ粗暴だが、その裏には綿密な計算があることをヨハンは知っている。そして、チュワンはヨハンにできると思ったからこそ「うまくやれ」といったのだ。

「やるしかないだろう!」

 顔に着いた汗を頭を振って払い落とすと、ヨハンはビームサーベルをセレクトしフリントに握らせた。スマートとは言えないが、これしか思いつかなかったのだ。あとは実行するのみである。

 フリントはビームサーベルを突き出しながらトリダクナの側面へと急加速した。もちろん黙って見ているトリダクナではない。一斉に対空火器がフリントへと照準を合わせ、雨のような弾幕を浴びせてくる。

 しかし、既にそこにフリントの姿はない。

 フリントは機銃が火を噴くその瞬間に、驚くべきことに右に直角に曲がったのだ。めちゃくちゃな機動のせいかヨハンの身体だけでなくフリント自体もきしむ音が聞こえたが、今はそんなことに構ってはいられない。

 フリントは再び方向を変える。今度は来た軌道を戻るように、180度回転し急加速をする。それはトリダクナの壁面ギリギリを、艦尾から艦首に向かって舐めるように飛ぶコースだ。

 確実に、安全に機銃だけを破壊するのにヨハンが考えた方法は、単純なものであった。

 艦に備え付けられた機銃はあくまで敵の接近を防ぐためのものであるため、射角には限界がある。ヨハンは、機銃の死角である真横からビームサーベルで“ひっかく”ことで武装解除を狙ったのであった。

 フリントは左腕のビームシールドを展開、右腕でビームサーベルを突き出しながら飛び出す。特徴的な艦形をしたアマセネル級は、一度内側に入られると対空火器以外の武装がないため、それすら奪われると為す術がなくなる。

 

フリントは一直線にひっかき傷をつけ左舷の対空火器を焼き切ると、そのまま艦首のハッチへと取り付いた。ヨハンは少し考えてからフリントの左腕で、ハッチをノックした。

なんとも馬鹿馬鹿しい光景ではあるが、中に意思が伝わればいいと考えての行動だ。ビームサーベルで無理やり焼き切ってしまえば、格納庫内の人間は外に吸い出されてしまうだろう。それは、ヨハンの望むところではなかった。

3分ほど後、そろそろこじ開けてもいい頃かとヨハンが考え始めていたが、その前にハッチのほうが開いた。中からの奇襲に備えビームシールドを展開し身構えたが、格納庫内にMSは見られない。既にエアロックを作動させていたのか何も吸い出されることなく、数人がノーマルスーツでフリントを見上げていた。

ヨハンは接触回線で格納庫内に呼びかける。

「あー、こちらバルバロス。パイロットのヨハンだ。そちら側とコンタクトがとりたい」

数秒後、通信が返ってくる。

『こちらトリダクナ副長のアカハネだ。要件を聞こう』

「俺はウチのボスからこの艦を奪えと言われてやってきた。譲り渡してはくれないか」

『断ったら、どうなる』

「……こうするさ」

 ヨハンは一瞬トリガーを引き、目の前に見えていた格納庫のキャットウォークに向かって頭部のバルカン砲を発射した。ヨハンは要領は悪いが、間抜けではない。もとより、会話だけで奪えるとは思っていなかったからこそ、格納庫へと直接侵入したのだ。

 通信機越しにアカハネはしばらく沈黙していたが、やがて諦めたような声を出した。

『そちらに、我々を皆殺しにしてやろうという意思はあるか』

「……? それは俺の望むところではないが」

『15分待ってくれ。退艦準備にかかる』

あまりにもあっさりとその要求は受け入れられた。こんなものでいいのだろうか、ヨハンは頭を掻きながらため息をついた。

 

 

そのころ、トリダクナの艦橋にはアーノルドの絶叫が響いていた。

「退艦だと! なんでそんなもの認めた! 艦長は僕だぞ、僕がイエスと言わなければイエスじゃないんだぞ!」

「いい加減にしてくださいよ艦長。大体ね、俺たちはあんたのわがままで非番だったのを叩き起こされたんだ。もう十分やったでしょう」

対するのはアカハネだ。アーノルドは今にもアカハネに掴みかからんとしていたが、両脇を別の青年たちに抑えられ身動きが取れない。

「コネだか何だか知りませんけどね、わがままが過ぎますよ。ここまで付いてきただけでもありがたく思えって感じですよ」

 淡々と言いながらアカハネは艦橋内のクルーに手振りで合図する。クルーたちは頷くと、それぞれ席を離れ外へ出ていく。

「これは俺のモットーなんですがね、やばかったら逃げろと。あんただって死にたかないでしょうよ」

 アカハネは取り押さえられ歯ぎしりをするアーノルドに詰め寄る。アカハネは、アーノルドのことが嫌いで嫌いでならなかった。軍幹部の肝いりでアカハネの部隊の司令官になったアーノルドは、頭は切れるもののヒステリックな青年であった。一度艦に傷をつけられようものなら三日でも一週間でも追いまわし、やっつける。その結果、自分たちの休暇がつぶれても、だ。

 早い話、こいつは子供なんだ。アカハネは心の中でつぶやく。頭でっかちの子供、そんな指揮官に付いても生き残れる望みは薄い。今回私怨でアマセネル級を失ってしまったことはアーノルドにとって決定的だろう。

 願わくば、今度はもっとマシなボスが来るように。アカハネは顎で合図し、青年たちと艦橋を後にする。

 




 今回も、読んでくださりありがとうございます。

 GBWFwikiでは他小説へのリンクや舞台・登場人物・機体設定などが掲載されており、併せて読んでいただくと、より深く楽しめるものとなっております。

 ぜひご覧になってはいかがでしょうか。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。