ただ一つの、あこがれだけは   作:インノケ

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続いて出撃


11話

 フランチェスカのレーダーは、ヨハンたちが相手をしているのとは別の艦隊を捉えていた。MSのほとんどが出払っている今、迎撃するには不十分な戦力のように思えたが、チュワンの胸中に不安はなかった。

 彼はあらかじめ、敵に別働隊がいるものとして動いていたのだ。

 もし自分であればそうするからというだけの理由であったが、その予想が的中した今、彼はあくまで冷静に状況を分析していた。

 ヨハンたちに一瞬通信が漏れてしまったが、どちらにしろすぐに戻ってくることはできないだろう。

 向こうは向こうで戦ってくれていればいいのだ。

 

 敵が近づくにつれて、艦隊の構成が判明する。

 アオヤギ級が一隻にアマセネル級が一隻であったが、チュワンの乗機のデータベースには該当するアマセネル級があった。

 アマセネル級「トリダクナ」、見覚えのある名前にチュワンは思わず舌打ちをする。

 嫌な偶然があったものだと不機嫌な顔を浮かべるが、相手をしないわけにはいかない。

 

『チュワン』

 女の声が通信に入る。

 足元で待機しているランチの一つからだ。彼女ナオミは、戦闘にこそ出ないものの、現実世界でもGBWFでもチュワンの側にいたガールフレンドだ。

 チュワンは彼女に、脱出の指揮を取らせたのだった。

「準備ができたら合図する。

 待機してろ」

『……わかったわ』

 必要最低限の言葉しか交わさないものの、彼らにとってはそれが何よりの信頼の証でもあった。

 

『敵艦隊、接敵まであと20分!』

 オペレーターが叫ぶ。チュワンは通信を開くと、フランチェスカに待機していたMS隊に号令をかける。

「出撃だ! いいか、狙いは旗艦だ。アレを奪って俺たちのモンにしてやる!」

 言い終わると、個人の回線でユキに声をかける。

 「おい、行けるな」

「大丈夫です。行けます」

「それでいい」

 チュワンはユキの返答に頷くと、叫んだ。

「チュワン・クラン、デスパーダ。行くぜ」

『タカシロ・ユキ、テラ・スオーノ。行きます』

 

 チュワンは機体をコロニーの外に躍りださせる。それに続いてMSが3機出撃し、デスパーダの後方につく。さらに後方からはゆっくりと、テラ・スオーノが巨体を現す。

 レーダーには既に敵艦から放出されたMSが迫ってきているのが確認できる。

 チュワンは左右のウェポンパックバインダーのミサイルランチャーを数発敵MSの進路にばら撒いた。

 時限式に設定されたミサイルが数秒後に爆発し、回避のため敵MSが散開する。デスパーダは一気に距離を詰めると、備えられた4門のビームライフルを立て続けに発射する。

 突然目の前に現れたデスパーダに戸惑った1機の腹部をビームが貫き、派手な爆発へと姿を変える。続いて手近なもう1機へミサイルランチャーとビームライフルの掃射を浴びせかけ、二つ目の爆発を作る。

 加勢に向かおうと数機が動くものの、チュワンとともに出撃したクラウダの3機がそれを阻止する。

 

 チュワンはそのまま機体を走らせ、トリダクナへと向かわせる。

 目的の二隻は4機の直掩MSに守られながら、ゆっくりとその巨体をチュワンに見せつけた。

 4機の攻撃をかわしながら、チュワンはトリダクナへと通信を試みる。

 「おうおうずいぶんと久しぶりじゃねえか。あ? アーノルドだろ、お前」

チュワンの思った通り、通信は返ってきた。

 『誰かと思ったらチュワンじゃないか。何やってるんだ、君』

 答えたのは、以前ヨハンが襲った艦の艦長だった。アーノルドと呼ばれた彼は、表情を一切変えることなく通信に応じた。

「何もくそもお前らが喧嘩しに来たから迎え撃ってんだよ。見りゃわかんだろ」

 浴びせられる攻撃を避けつづけながら会話を続ける。

 

『喧嘩か。めちゃくちゃなことを言うな、相変わらず。先に喧嘩を売ったのは君の方だろう。僕の艦を傷つけるなんて』

「お前も相変わらずの戦艦気狂いみてえだな。しかも随分とデカいもんで来やがって」

『君たちが壊したんだろう。いい加減にしてくれ』

「そうだっけな。だが今の俺は海賊でな。悪いがその艦はいただくぜ」

 

 一瞬狂ったように叫ぶ声が聞こえたが、チュワンは言いたいことだけ言うと、一方的に通信を切った。

 周りの直掩機を片づけようと機体を振り返らせた瞬間、チュワンは悪寒を感じスラスターを噴かせた。直後、機体のいた場所を正確に狙ったビームが通り抜けた。

 ビームは直掩の4機からではなく、アオヤギ級のMSデッキの中から放たれたものであった。デッキの中から攻撃の主が姿を現す。モニターにはガンダムMk-IIIの表示。

 そして、今度はその機体から通信が入った。

 

『ようチュワン。よく躱したなぁ?』

「ギル……」

『まるで同窓会じゃねえか。嬉しいなあ』

 言い終わらないうちに、Mk-IIIの背部からビームキャノンがせり上がり、デスパーダに向けてビームを乱射する。

 軌道の見え切った攻撃に当たるチュワンではないが、それは相手にもわかっていたのか、息つく暇もなく今度はビームライフルを撃ちながらデスパーダに肉薄する。

 デスパーダはウェポンポッドバインダーのミサイルランチャーをばら撒きながら後退すると、ビームサーベルに持ち変え今度は急接近をかけた。

 

「嬉しいだと? このラリパッパが、馬鹿言うんじゃねえ」

『みんなクスリがなきゃ何も出来ねえくせによお!』

 有効射程も何も考えないライフルでの攻撃であったが、サーベルを手にしたデスパーダにとっては誘爆の危険を考え接近できない状況であった。

 デスパーダは乱射しながら突っ込むMk-IIIに、ウェポンポッドバインダーの大型ミサイルを一発撃ちこんだ。それは直撃には至らないものの、ミサイルランチャーと比較にならないほどの火薬を搭載したそれは、ビーム弾を受け両機の間で巨大な爆発を起こす。

 デスパーダは相手が姿を見せるよりも早くビームライフルを斉射するものの、爆炎の中から紙一重の軌道でMk-IIIが躍り出し、そのままの勢いでデスパーダへと猛チャージをかける。

「てめえ! やっぱりいかれてんじゃねえか!」

『再開のハグだあ!』

 デスパーダは横からMk-IIIを殴りつけると、左側の残りのミサイルランチャーを全弾打ち込む。

 Mk-IIIは右側のバインダーを失ったものの、先ほどまでとなんら変わらない機動でそれ以上の追撃を許さない。

 デスパーダは距離をとって仕切りなおそうとするが、Mk-IIIから離れた途端に先ほどまで相手にしていた直掩の4機が一斉に攻撃を浴びせてくる。

「クソッ、どいつもこいつも気狂い共が!」

 瞬間、背後からの殺気を感じるものの身体の反応が追い付かない。耐衝撃体勢をとるものの、その攻撃は横から入った小さな物体に防がれる。

 

『チュワン様! ご無事でしょうか』

小さな物体は、テラ・スオーノにケーブルでつながれた細長い砲身のようなものであった。ストライカービット改と名付けられたそれは、使用できる範囲に制限こそあるものの、より行為力かつ誰にでも使用できるよう改良された自立砲台であった。

 テラ・スオーノは残り1機になってしまったクラウダとともに前進してきていたのだ。

  直掩の4機と艦艇二隻がテラ・スオーノに攻撃を加えるがMSはストライカービット改とクラウダに攻撃を阻まれ、艦艇の火砲は器用に回避しやり過ごしている。

 

「今のは褒めてやる。そのまま引き付けておけ」

『了解しました』

『よそ見すんなよお!』

 Mk-IIIがサーベルを持って直下から突撃してくるのを、デスパーダは左側のミサイルランチャーを打ち切ることで防ぎ、体勢を立て直す。右腕にサーベルを握らせ、今度はデスパーダが爆炎を潜り抜けMk-IIIに切りかかるが、あらかじめ構えていたMk-IIIのサーベルに阻まれる。

 

『冴えてるなあチュワン。今度は何を入れた、エクスタシーか? メタンフェタミンかあ?』

「黙って死ね!」

『死ぬのはてめえだあ!』

 お互いにサーベルを持っていない方の腕でライフルを放つものの、どちらの攻撃も当たることはない。

 2機は激しい激突を繰り返した。

 


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