外伝ですが、楽しんでいただけると幸いです。
それにしても、萃……香?
ってなる可能性が高いですね。
かなりやりすぎた感があります。
伊吹萃香が俺の嫁的な方はブラウザバック推奨です。
あと、キャラに対してこうでなければならないという思いを持っている人も注意です。
それでは、どうぞ!!
魔法の森と玄武の沢の間。
木々と岩が乱立する広い土地がある。
妖怪がほとんどおらず、貴重な動植物が生息していない土地だ。
どう考えても周囲が無事じゃ済まないから広くて害のない地域を選択したって感じだ。
周囲には俺を連れてきた魔理沙と話を聞きつけてきた幽香さんが居る。
目の前では萃香さんが準備運動をしている。
表情は笑顔。
幼い容姿だから正直微笑ましい気持ちにもなるのだが、この現状と周囲の人たちの反応がそんな気持ちも吹き飛ばしてくれる。
魔理沙は青い顔で祈るようにこちらを見ているし、幽香さんは
これで逃げ出したくならない人は、勇者だと思う。
「さぁ、早くやろう! 参護とやり合うのすごい楽しみにしてたんだ! 私もう我慢できないよ!」
こいつワザとじゃないだろうな?
卑猥に聞こえたら負けって感じだろうな。
「私が、審判役を務めるわ。死にそうになったら止めてあげるから、存分にやりなさい」
あれか、死にそうになったら止めるが、結果的に死んでなきゃ大丈夫的な匙加減で助けられそうな気がする。
「よーし! そんじゃさっそく!」
ドンッ!
という音が聞こえたと同時に、萃香さんが……いやもう萃香でいいか。
彼女が眼前までワンステップで接近してきた。
空を飛んだとか、能力で近づいたとかそんな複雑な話じゃない。
単純に彼女自身の力だ。
大体、野球のピッチャーとキャッチャー程度の距離がたったの一歩で眼前にまで距離を詰めてきた。元々彼女が立っていた場所は、足元がひび割れて陥没していた。
単純に力のみで今の行動をしたのだ。
慌てて杖でガードすると、ものすごい力で吹き飛ばされ、一本の樹に当たってその幹を削ってしまう。
なんて威力だよ。
だが、見た目派手な一撃だったけど、実は大したダメージは無い。
彼女なりの開始合図といった所か。
痛いは痛いが……。
**********
初手で大木に叩きつけられた参護だったが、何事も無かったように立ち上がった。
幽香は当然だと言わんばかりにうなずき、萃香は思った以上にダメージが少なそうな参護を見てさらに笑みが深くなる。
萃香なりの開戦の合図。
そして参護なりの、受けて立つ構え。
呼吸と共にその身体から湧き上がる波紋の力。
気功と混ぜて使うことはまだできないが、それでも二つ使えるというのは十分な強みになる。
(ようやく兄貴に一歩だけ近づけたのか)
参護が考えるのは兄である男。
彼は波紋、気功、魔力、霊力を同時に混合させながら戦うことができた。
現状を考えると、とんでもないことだと知らされる。
二種類だけでもこれだけ大変なのだ、四種類など雲の上の話だろう。
杖を太刀の上段で構える。
波紋で武器を、気功で全身を強化したその姿はまさに戦士のそれだ。
ゾクゾクと萃香の全身が喜びで震える。
長い年月を通して、気功の使い手にも波紋の使い手にもそれぞれ出会った経験がある。
今思い出しても最高の戦いだった。
戦いへの渇きを感じる間もないぐらいに何度も何度も闘えていた時代。
その中で色濃く記憶に残っている戦士たちと同じ力を持ち、それ以上の強さを持っているであろう人間が目の前にいる。
開戦のあいさつにも全くダメージの気配が無い。
それを感じた萃香はここ数百年で最も楽しい時間が来ることを確信した。
すると眼前に参護が杖を構えたまま近づいていた。
予備動作も無い、音も無い。
そして振り下ろされる一撃を、萃香は頭突きをするように額で受け止めた。
「……へへ、いい一撃じゃん。双方開戦の一撃を見舞ったんだ。楽しませてよ!!」
言葉と同時に、身体を参護の懐まで潜らせて、懐からのショートアッパー。
踏み込みが強烈過ぎて地面が陥没するほどの威力を参護は胸に受けて吹き飛ばされる。
追撃に飛び上がり、がら空きになった顎めがけて拳を放つ。
次の瞬間、あっという間に体勢を立て直した参護が脇腹に杖を突き立て、地面へと送り返す。
「グッ!?」
叩きつけられた萃香は思わず唸るが、そこでは終わらない。
「
銀の雨が、萃香の上から降り注ぐ。
それは地面を抉り、萃香の全身を杖でメッタ突きにした。
着地すると同時に後ろに下がり、構え直す。
「フツ―、追撃する場面じゃない?」
パンパンと服に付いた埃を払うようにして萃香が土煙の中から現れる。
その姿は多少服が破れ、土埃を被っているがダメージは少ないだろう。
今の攻撃など効いていない。
そう思わせるのに十分な姿だ。
「あの連撃の後半、ほとんど地面の感触しか無かった。効いていると考えるはずもない」
密と疎を操る程度の能力、数発を受けた後は能力を使ってすべてを回避していた。
霧のようになれば、その突きは風を切る様に何にも当たらず、ただ地面に穴を開けるだけしかできなかった。
「効いてないって訳でもないんだけどね?」
そう言うと両手を見える様に前に出す。
右手は通常の手であるが、左手が異常だった。
霧のように散った状態で、手の形を成していない。
何度か戻そうとしているが、霧状になった小さな粒同士が反発しているように弾かれている。
「どういうことだい? 左手は密にし辛いし、右は逆に疎にできない。固められてるみたいにね」
「……波紋には二種類ある。対象をはじく正の波紋と、くっつく負の波紋だ。その波紋の効果だよ」
左手には正の波紋が流れ、密にしようとすると粒同士が弾き合って元に戻せない。
右手には負の波紋が流れ、疎にしようとすると粒同士がガッチリとくっ付いて離れない。
「へー、面白いね。そんな方法で私の能力が封じられるとは思わなかったよ! でもさ……」
一瞬だった。
ほんの一瞬、膨大な妖力が彼女から吹き出し、すぐに収まる。
その一瞬で両手の波紋はきれいに押し流されていた。
「こうしちゃえば、元に戻るよね?」
完全に力技だった。
見ていた魔理沙は完全に顔を青くして、幽香は笑いをこらえていた。
あまり上等な手段ではないが、一瞬の開放で吹き飛ばされる自身の波紋に口元がヒクついてしまっている参護。
「無茶苦茶やるなぁ」
「鬼だからねー。さて、面白いもの見せてくれたお礼だよ? 受け取れ!」
参護の胴体を薙ぎ払うように蹴る。
中段大廻し蹴りだ。
それを鬼の力でやるとどうなるか?
参護は真横に吹き飛び、木々を数本巻き込みながら、大岩の上半分を粉砕するような形でようやく止まった。
いくら硬気功や波紋で防御や回復を底上げしていても、間に合わないほどの威力だった。
「すごいすごい! 今のなら上半身と下半身分かれててもおかしくないのに! 最高! 最高だよ参護!! もっとやろう! もっと私の渇きを潤して!!」
表情は新しいおもちゃを貰った子供のようだった。
伊吹萃香は戦いが好きだ。
正々堂々と全力で殴り合うような単純かつ明快な戦いが好きだ。
妖怪と戦うのも、強くてすごく良いと彼女は言うが、何よりも彼女は人間の強者を好んだ。
妖怪よりも弱いのにどうして?
それは、彼女が妖怪だからだ。
強い人間を倒せば多くの畏れが手に入る。
しかしそれ以上に、戦う人間が持つ様々な感情が彼女の身体を満たし、畏れのみを糧にしている頃よりもずっと日々が充足していて、酒がおいしかった。
そして気づけば、酒呑童子などと呼ばれるほどに力をつけていた。
強者との戦いが、人間との戦いが、自分を高めてくれる。
あの満たされた日々をくれるのだ。
そんな人間が目の前にいる。
感情が高ぶらない方がおかしいだろう。
「銀色の!!」
参護は形が変わってしまった岩から立ち上がると、まっすぐに、萃香に向かって駆けていく。
その手には、あれだけの攻撃をガードして、あれだけの木々や岩に叩きつけられても折れることも曲がることも無い最高の武器が握られている。
ゆっくりパチュリーのかけた強化術式。
それはこうして参護を守り、彼の支えになっていた。
「波紋疾走!!」
放たれた突きは、萃香の右腕に突き刺さり、彼女を吹き飛ばす。
そして再び感じる波紋の胎動。
「負の波紋に切り替えたね? 疎になる前に固めてダメージを与えるか。いいねいいね! 強いよ強いよ参護!! 全身が震えるよ! ゾクゾクする!! 全部頂戴! 全部私のモノだ!」
興奮して徐々にテンションがおかしくなっている萃香。
そして悲劇が起きた。
パァン!!
何かが破裂するような音と、その音よりも先にものすごい勢いで先ほどの岩に突っ込み、クレーターを作る参護。
明らかに今までの彼女の拳の威力ではなかった。
音を置き去りにする拳。
音速を超えたその拳は参護の全身を破壊して地面に叩きつけたのだ。
「萃香!!」
そう叫んだのは審判だと言いながら見学していた幽香だった。
今のはまずい一撃だったと判断したのだ。
彼の実力ではこの威力は強すぎる。
これは妖怪同士が戦う時の威力だし、完全に興奮していた萃香が威力を調整していたとも思えなかった。
「参護!!」
ただただ顔を青くしていた魔理沙はこの光景を見てさらに顔色を悪くする。
今までだって人間の戦いだとは思えなかった。
それなのに、それを超える一撃が参護を襲ったのだ。
ガキィン……
金属音に振り返った魔理沙は更に言葉を失う。
飛んできたのは参護の使っていた杖。
どんな戦いでも手放さなかった武器を手放している。
最悪の予想がこの場の全員によぎった。
**********
痛てぇなぁ。
硬気功で防御あげて、波紋で回復力あげてたのに、今の一撃で左腕が動かなくなった。
杖でガードしたが打点が左に近かったのだろう、武器ごと左腕を砕かれた。
全身がだるいし、呼吸も苦しい。
ここで呼吸を乱せば死ぬかもしれないと、無理やりでも波紋の呼吸を続ける。
ああ、死ぬかもしれないな。
兄貴にやられた時よりひどいもんなコレ。
左腕、千切れ飛ばなかっただけ運が良いのかね?
全身ボロボロ。
結局兄貴がやっていた、別の力を混ぜ合わせるなんてできなかったな。
波紋と気功。
ああ、コーヒーにミルクを混ぜるみたいにいかないものかね?
こう……波紋と気功を回しながら……?
今、混ざった?
回して、回して……
**********
変化に気づいたのは、ずっと対峙していた萃香だった。
陥没している地面の中央から、倍々に膨れ上がる力を感じたのだ。
虫の息程度の小さなものが今は、人間一人分の力まで膨れ上がっている。
倍に、倍に……。
そして、ついにその力は動き出した。
左腕は赤黒く変色し、両足も腫れ上がっている。
しかし、その足取りはしっかりとしていて、むしろ万全の彼を思わせた。
気が全身に満ちていて、波紋が気を取り囲むように弾けている。
その姿は、全身から溢れる力はまるで銀色の波動。
気も波紋も銀色に輝いていた。
「!?」
一瞬。
奇しくも最初に萃香自身がやった初手の一撃と同じ構図。
何の技も無い、ただのパンチだ。
しかし、その拳に萃香は吹き飛ばされた。
多くの木々を巻き込みながら、地面を派手に削りながら、大岩に当たり、その大半を吹き飛ばしたところでようやく止まった。
全身が痛かった。
妖怪同士の殺し合いだったら普通に放たれる一撃だ。
それを人間が放った。
別に致命傷には程遠いし、何発食らっても闘うのに支障はない。
だけど、酒呑童子である伊吹萃香は人間に吹き飛ばされ、大空を見上げていた。
「すごい……」
それを実感した時、自然と出た呟き。
そして、全身を駆け巡る歓喜の感情。
妖怪同士の戦いのように、人間と戦える。
そう考えただけで、萃香は震えていた。
(海原参護。まだまだ強くなるよね? もっと強くなったら、もっと楽しいかな? あの力で強化されてただけで、技も力も万全じゃない。あの状態でこれだけの威力なんだもん。万全でやり合えれば、もっと楽しい!)
何百年と乾き続けた彼女は、久々にその渇きを存分に潤せた。
しかし、何百年ぶりの潤いが、極上すぎた。
(海原参護、欲しくなっちゃうな)
チロリと無意識に唇を舐める。
その極上の潤いに依存していくのがわかるが、萃香はそれに抗う気が無い。
(しっかりと身体治しなよ? またやろうね!)
視界には、前のめりに倒れている参護を映していた。
その頬は戦いの後からか紅く染まり、その瞳は感激からか潤んでいた。
いかがだったでしょうか?
いや、本当にすいませんm(__)m
ほのぼのの反動なのか、外伝は過激っぽくなります。
え? 萃香のセリフが卑猥に感じる?
気のせいじゃないかな?(すっとぼけ)