遊戯王GX 転生者が精霊達と過ごす学園生活   作:星無

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※今回はデュエルはありません、若干の鬱展開にご注意ください


第十七話 恋する乙女とカイザーとの再戦 後編 失われし物

レイちゃんは私がカイザーにとどめを刺そうとするのを

抱き着いた状態で必死に止める

 

「これ以上…私が恋をしてここまで追いかけてきた亮様を…

 

追い詰めないであげて…!」

 

泣きながらそう私に言うレイちゃん

 

「でも…レイちゃん…ここでまたカイザーにトドメを刺さなかったら…

 

私は2度、カイザーのプライドを傷つけることになる…」

 

「…また?」

 

「私は以前、カイザーにトドメを刺す直前にサレンダーをして

 

デュエルを止めているの…」

 

「どうしてそんなことを…」

 

「……私は…」

 

『マスター…』

 

『主…』

 

私の身体から分離したネフィとマヤが悲しそうな顔で私を見つめる

私は…転生して新しく命を貰い…何をやっているんだろう…

学園ナンバー1を追い詰め…トドメを刺そうとした…

レイちゃんの人生に深く干渉し、余計な事をした…

レイちゃんが恋をした相手を一方的に蹂躙し、

カイザーのプライドとレイちゃんの心を傷つけた…

 

…私の方こそカイザーにトドメを刺さなかった理由が、全然わかってなどいなかった…

この時代には無いカード達を使用し、一方的な蹂躙を繰り返してきた

私に…そんな事を言う資格なんて…無い…

 

『マスター…おやめ下さい…そんなに自分を責めないでください…』

 

私は…

直後、私の頭に酷い激痛が走った、転生前も転生後も経験したことのないような

痛みだ、

 

「あああああああああああああああああ!!!!」

 

「アネゴ!?」

 

「聖!?」

 

私はそのまま頭を抱えその場に倒れ込んだ

 

「おい!中務!しっかりしろ!」

 

「聖さん!」

 

「聖ちゃん!」

 

その場に居る全員が私に駆け寄ってくる

その私を呼ぶ声もだんだんかすれて聞こえなくなり

意識が薄くなっていく

 

そして私の頭にいくつものフラッシュバックが起き

次々と景色が浮かぶ

 

この学園に来てからの記憶が次々と思い出されていく

いくつもの記憶が浮かんでは消えを繰り返し

最後に一つの砂嵐のかかったような景色が浮かぶ

 

アスファルトの上に広がっている血だまり

マヤとネフィがそれを見下ろし、涙を流している

 

なんなの…!?この記憶…私の物じゃない…!?

 

『…スター!…………!』

 

『主!………!』

 

マヤとネフィの声が遠くなっていく…

その最後の景色を見た後すぐに、私は意識を手放した

 

 

 

 

 

 

レッド寮

聖の部屋

 

「………お姉ちゃん?」

 

「どうした?幽鬼お姉ちゃん、聖がどうかしたのか?」

 

「……ううん、なんでもない…」

 

「?…変な幽鬼お姉ちゃん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢を見た…

幽鬼の夢だ…

 

とある病院の一室、赤ちゃん用のベッドに寝ている赤ちゃん

何故かはわからないが、その赤ちゃんは女の子だとわかった

それをにこにことした顔で見ている幽鬼

幽鬼が指を赤ちゃんの前に出すと

あーとかうーとか赤ちゃんは笑いながら、その指をつかもうとする

 

「どうしたの?…ちゃん、何か見えるのかな~?」

 

赤ちゃんの名前にはもやのようなものがかかって聞こえなかったが

あの名前を呼んだ人が母親らしい、しかし、その顔も何故か視界にもやが

かかりよく見えない

目の前から赤ちゃんを取り上げられて幽鬼は少しムッとした顔をするが

赤ちゃんの顔を見てすぐににこにこ顔に戻る…

 

そこまで見たところで時が早回しになったかのように

外の景色と場所が変わった、

病院に居た時は紅葉が見えたので秋くらいだったが

今はセミが鳴いているので夏くらいだろうか…

赤ちゃんはつかまり立ちが出来るようになっており

ふらふらとしながらも母親の元へ向かおうとしている

幽鬼はそれを見てとても嬉しそうな顔をしている

と、赤ちゃんが倒れそうになる、危ない!と声を出そうとするが

夢のためか声が出ない

すると幽鬼が赤ちゃんが倒れ、床に激突する直前

自分の横の雪うさぎのような半霊を飛ばし

クッションにする、赤ちゃんはやわらかい半霊のお蔭でふわりと床に顔をおろした

母親は慌てて赤ちゃんに近寄るが

きゃっきゃっと笑っている赤ちゃんを見て安心したと同時に

不思議そうな顔をする

 

また時が早回しになる

赤ちゃんはぐんぐん成長し、小学生くらいの女の子になる

女の子は、テレビを見て、CMに出ていた孔雀舞に憧れ

デュエルモンスターズに興味を持ち始める

幽鬼はそれを見て一層嬉しそうな顔になる

 

女の子は小さい時に見えた幽鬼が見えなくなっており

幽鬼は時折、1人で膝を抱えて泣いていた…

 

『……ちゃん……は、寂しいよぉ…早く……てきてよ…』

 

幽鬼の言葉にももやがかかっており、よく聞き取れなかった

 

再び時が早回しになり

今度は大分時間が飛んだ

女の子は中学生くらいになっていたが

伸び悩む身長に悩んでいるようだった

柱に成長の記録の傷を付けているが途中からほぼ同じところに傷が付いている

それを見てけらけらと笑っている幽鬼

 

幽鬼はまだ1人で泣く時があるようだ

 

再び時は流れる

女の子はデュエルアカデミアの入学試験、筆記試験を受け

見事合格し、合格通知を見て喜んでいた

次は実技だと、張り切っているところで

女の子は頭を抱えて苦しみだした

幽鬼は女の子に駆け寄って心配そうに覗きこむ

すると、女の子はスッと立ち上がり幽鬼の方を見ると

 

「…幽鬼うさぎ…?」

 

と幽鬼が見えているかのように名前を呼んだ

それを聞いた幽鬼は涙を流しながらも

 

「やっと…ううん…お帰り!お姉ちゃん!」

 

と、笑い女の子に抱き着いた…

 

この場面には覚えがある…まさか…あの女の子は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこで私の目は覚めた、

 

「ここは…?」

 

私はベッドから起き上がる、カーテンに囲まれた白いベッド…

デュエルアカデミアの保健室だった

私が起き上がったのに気付いたのか、カーテンを開けて

鮎川先生が入って来た

 

「よかった…!中務さん目が覚めたのね?」

 

「あの…私は?」

 

「覚えてない?一昨日の夜、貴女は倒れたのよ、頭を抱えてね

 

びっくりしたわよ?あんな夜中に宿直室に大勢で押しかけてくるんだもの

 

翔君なんてアネゴを助けて!って大声で叫んで…」

 

「…一昨日?私…そんなに眠ってたんですか?」

 

「ええ、昨日は高い熱が出てうなされていたのよ?」

 

マヤとネフィはどこへ行ったのかしら…?

私は、枕元にデッキケースが置いてあることに気付き

それを手に取り、中を取り出す、そしてカードを捲っていき、

私は戦慄する…

 

「あっ!ちょっと中務さん!?どこに行くの!?まだ安静にしてなきゃ…」

 

鮎川先生の話を聞かず保健室から出て

裸足のまま外に飛び出す、外は土砂降りの雨が降っていた

だが、そんなことは気にせずに寮の自分の部屋に向かう

 

「嘘だ…嘘だ嘘だ!」

 

私は一気に部屋の前まで行くと勢いよく扉を開ける

そして机の上のカードを確認する…

 

「…どうして…?」

 

そんな声が私の口から漏れる

 

私のデッキケースに入っていた

エルシャドール・ネフィリム、アルティマヤ・ツィオルキン、

決闘竜のカード全て、クリアウィング・シンクロ・ドラゴン

机の上に置いてあった、ゴーストリックのデッキ、幽鬼うさぎのカードが、

私の精霊達のカードが、白紙になっていた…

何一つ描かれていない真っ白な白紙に…

 

「…ミストラルのカードだけ白紙になっていない…?お願い出てきてミストラル!」

 

しかし、その声は誰も居ない自室に虚しく響くだけだった…

No.96ブラック・ミストのカードは確かに白紙にはなっていなかったものの

ナンバーズの力が一切感じることが出来なくなっていた

デュエルディスクにセットし召喚するも、

そこにあるのはただのソリッドヴィジョン、喋りもしないし、反応もしてくれない…

私は、部屋から逃げるように外に走り出した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どれくらい走っただろう…

どれくらい精霊達を探して回っただろう

島中を探し回った末、私が居たのは

ヘリポートのある港だった、海はこの雨のせいか高い波が押し寄せ激しく荒れている

この島に最初にヘリ来たとき、幽鬼が言ったことが頭の中で何度も再生される

 

『楽しかった~!また乗ろうね!お姉ちゃん♪』

 

また…一緒に乗ろう?だから…姿を見せて…幽鬼…

ヒタヒタと音を立てながらコンクリートの上を歩く

痛い…

裸足で走り回ったせいか…私の足は皮が破れ

血が噴き出していた…

 

と、激しく荒れた波が私に押し寄せ高い波が私を飲み込もうとする

 

「あ…」

 

「何やってんだ!聖!」

 

と、声が聞こえ私の手が引っ張られる

小柄で体の軽い私はそのまま後ろに倒れる

 

「まだ波が来る!高い所まで逃げるぞ!」

 

私は手を引かれるまま連れられて高い所まで逃げる

 

「…十…代君?どうしてここに?」

 

「はあッ…はあッ…!

 

どうして?はこっちのセリフだぜ…お前なんでこんなところに居るんだよ…

 

鮎川先生から、聖が急に、起きたら走ってどっか行ったって聞いて皆で

 

探してたんだぞ!

 

…ハネクリボーがお前の場所教えてくれてなかったら今頃どうなっていたか…

 

なあ相棒!」

 

十代は何もない所に話しかけている…

 

「十代君…ハネクリボーがそこに居るの?」

 

「何言ってんだ聖…?お前にも精霊は見える筈だろ?」

 

「ねえ…十代君…このカードがなんだか分かる…?」

 

私は白紙のカード3枚とブラックミストのカードを見せる

 

「なんだ?その白紙のカード…1枚は前に見せてくれたミストラルって奴の

 

カードだよな?そういえばお前…いっつも一緒にいる精霊はどうしたんだ?」

 

やっぱ…り…十代にも…カードは白紙に見えるし…

精霊達も見えないだけじゃなくて私の所に居ない…

 

私は全身の力が抜け、膝から崩れ落ちた…

そして…天を仰ぎ

 

「うわあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」

 

声を上げながら泣いた…

 

「お、おい…聖?どうし…」

 

声を上げ泣き続ける私を見た十代は、それ以上は何も言わず

黙ったまま私を抱き上げて歩き出した

 

私には精霊が居ない…そう自覚した途端

私の視界の世界が急速に色を失っていく…

校舎の3色の色も…荒れた海も…

私を抱き上げてくれた十代の顔さえも…私自身の色以外の全てが白黒(モノクロ)

の世界へと変わっていく…

 

 

 

私は…

 

 

 

 

 

 

 

かけがえのない精霊達と…精霊を見ることが出来る力を…

失った…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第一章 貴女達が居る世界はあまりに幸せで…

 

~完~




後書きです
一旦ここで一章の終わりとして区切りをつけます
前回ネフィリムの禁止化で大分取り乱しておりましたが
今回の話は別にそれに影響を受けたから鬱展開、というわけではありません
元々プロット上、GXの後半の鬱展開に重ならないように聖ちゃんに
鬱展開を入れようとは思っていました
ただ禁止化によってそれが早まっただけの話です
こんな展開で申し訳ありません
精霊達は少しだけ出番がなくなりますが
次回もきちんと投稿させていただきます

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