超弩弩々級戦艦の非常識な鎮守府生活   作:諷詩

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80.新しい物ってワクワクするよね。

 

ーーーーーーーーーアメストリアsideーーーーーーーーー

私だ。第二隔壁の巡回は順調に進み、妹達が改装終了する時間...三隻で360分。

六時間を潰した。

 

現在は新改装が済んだ四隻で並んで外海を航行中。

データリンクには問題なし。処理能力が上がったおかげか、迅速かつ正確な情報共有が可能に。

対空砲の火力は主砲よろしく馬火力になり、破壊力バツグン。

現在第二艦隊の...大和、武蔵に同様の改装を施しているところだ。何れは全艦で対空砲の強化をして行く予定だが、一斉入渠など愚の骨頂の為段階的に、同艦隊でも順番に改装していって戦力の減少を最小限に留めている。

 

その為今第二艦隊での臨時旗艦は長門。

最近衣装が変わったらしく、SAMURAIのような服装にグレードアップしていた。

本人曰く、「暑くてかなわん」との事。

ナウルには合わない服装だと言うことは私も分かった。一応術式を刻み込んで快適化を計ってみたが、当の本人は現在艦隊行動中の為聞けない。

他の艦娘らの制服とかにも応用するから感想を聞きたいところなのだが、大切な演習の為自重している。

 

その演習というのは、例の深海棲艦新兵器の所為でお釈迦になった出撃の代替として、第一、第二隔壁間で第二艦隊によるもの。

動員艦は長門、陸奥、高雄、愛宕、摩耶、鳥海、矢矧、吹雪。

 

長門、陸奥を先頭に複縦陣で航行中。

いま先頭の二隻が砲撃を開始した。

装備した前方三基9門の51cmが高々と砲声を響かせ、それを合図に全艦が散開を始める。

 

散開したことによって確保された射界。一斉に砲撃が開始され大小様々な砲弾が目標に叩き込まれる。

その砲弾は当然の如く全弾命中。流石はナウル鎮守府の艦娘。

他の鎮守府も装備更新が行われているが、ここまで高レベルに纏まった艦隊はそういないだろう。

 

雷鳴が轟き、煌々とした赤い花火が上がる。

毎秒で連射される51cm、35.6cm 、20.3cm、15.5cmの衝撃波は凄まじく、観覧席として用意した私の露天艦橋にまで到達する。

 

データリンクによって各艦の位置は共有され、一見乱雑に見える航路も重ならない順路に沿って進んでいる。

 

そんな人外技を見せつける艦隊を前に、候補生は圧倒されたのか微動だにしない。

 

「これは凄い...既存の戦術が使えない訳ですね」

「その通りだ。連射速度、砲撃精度、速力、装甲。どれをとっても今までとは比べ物にならない」

 

ーーーん、ドミートリーから入電だ。

要約すると、休暇長すぎて暇や。出撃していい?

 

との事。アンタもバトルジャンキーになってしまったか。いや、今の今までまともに休暇を過ごしていなかったのだろう。

''再教育''もあったことだし。

 

もしくは己の船体が一番落ち着くという場合もある。

うちの艦娘にも何人かいるからこれは分かる。

 

しかし「出撃、いいっすか?」は駄目だろう。

海の上でのんびり、なら分からんこともないが、常に闘っていたいとかカイクルかよ。

 

ドミートリーの船体は最新鋭伊号潜水艦風にしていたはず。もう出来ていて不思議は無い。

作業してたの妖精さんだし。

 

一応許可を出しておく。

なんだかんだでドミートリーという情報収集手段は貴重なので、普通に航行させるだけで何個か機密を拾ってくる。なので本人の自由にさせておくのが一番の運用法なのだ。

 

 

 

 

 

 

本題だ。

演習の終了後、候補生には私の会議室に移動してもらった。

これからは私による大事な講義。ズバリ、

 

「はじめての鎮守府運営」

 

で、ある。

これから鎮守府運営を任せられる候補生らにこれだけはやっておこうという重要事項をレクチャーする時間。

 

現役軍人からそんなノウハウを聞ける機会はそうそう無い。

てかまず無い。普段は大学校に篭ってるしな。

 

「では、鎮守府運営初期段階において、まず初めにするべきものはなんだと思う?」

「...鎮守府全体の把握でしょうか」

「開発、建造であります」

 

若干まだ距離のある例の娘に精神的ダメージを受けながら、典型的な返答を受け流す。

チッ、チッ、チッ、そんなことでは無い。

 

「初めにやることはズバリ立地の確認、その次に海図での潮流の確認だ。現在海軍では新規設営鎮守府に対しては近辺の鎮守府から水雷戦隊が暫くの間派遣されるように手配されている。

まずはその艦娘らに鎮守府近海の状況を探ってもらい、まず安全確認をして貰う必要がある。」

 

本土の鎮守府なんぞ有り余ってるので、自動的に新規設営鎮守府はこっち側、つまりオーストラリア方面になる。

残念ながら大日本帝国海軍支配域はオーストラリアまで到達しておらず、現在一進一退の攻防が繰り返されている。

といっても最近は小康状態だが。睨み合ってるだけだし。

私達は最前線の為第三艦隊、第二艦隊を出している。

私達が行くと一発なのだが、あまりにも呆気なく海域解放をすると油断が生まれるし、艦娘達には経験を積んでもらいたいので私達以外の艦娘らを動員している。

 

「そして、鎮守府には本土より資材が支給されている。まずは工廠妖精さんらに発注してみるのも一つの手だろう」

「工廠妖精に対して発注してもその物が出てくる確率が低いとされているのですが、これは本当なのですか?」

「恐らくそうなのだろうな。いや、私達ナウル鎮守府では私が仕切っているから妖精さんには大体望む物を生産してもらっている。といってもこれは特異例だ。一般的には回数を重ねて目的の装備を揃える」

「建造に関しても同様でありますか?」

「基本的にはそうだ。しかし投入する資材の量が桁違いに多い【大型建造】では流石に発注した艦娘が出てくるぞ。アレは国家級の計画艦艇のみの建造だからな。」

「そうでありますか」

 

「まぁ、初めは資材を節約するのが良いだろう。現場は戦場だ。何がいつ起こるかは予測不可能だ。鎮守府が襲撃を受けるのも珍しくは無い。まずは二、三隻建造し、装備を開発し改修し強化して行くのがいいだろう。派手な動きができるのは戦力的に余裕のある鎮守府だけだ」

「あの、こと鎮守府には隔壁があるようですが、実際どれだけの効果があるのでしょうか」

「そうだな...我が鎮守府にある隔壁は大体のものを防ぐ。それこそ水爆や戦術核、突撃してきた戦艦だって防ぐ。だが我が鎮守府にあるのは比較対象になりえない。巨大すぎるからな。貴官らも設置を考えているならもう少し小型のものを作るといいだろう」

 

正直、あの隔壁は規格外。比較対象として適切では無い。

見るたびに硬くなってる気がするし、なんか色々装備が追加されている気がする。

内部を一七式戦車が走行できるぐらいだしな。

入り口は幅五百メートルの分厚い鉄板が二枚。しかも二重。何を防ごうと考えたらこうなるのか全くもって理解できない。

 

「後はそうだな...周辺の鎮守府や本土との連絡網やら、通信設備の確認、工廠の設備に不備がないか確認だな。それのついでに開発やら建造をやってみるのもいいだろうな」

 

通信の確保は大事。

これ古事記にも書いてる。

有線が通信網を構築し、無線が空軍を強化したように、本土から遠く離れた孤島には無線設備が必須なのだ。

 

通信の重要性に関しては語るべくも無いと思う。

狼煙と無線、どちらが情報を正確に伝えられるか、考えなくてもわかる。

敵の規模や装甲車両の有無、空軍の有無など、送信できる情報量が全く違う。

 

工廠に関しては妖精さんが大体やってくれるが、建造はこちらが支持しなければ実行されることは無い。開発?ナウル鎮守府では勝手に兵器が増えたりしてるから断言できんわ。

 

てかさ、勝手に防衛兵器が増えてるっておかしく無い?

お陰で私も毎回武装の把握が苦労する。いざという時に何があるのかわからない状況で防衛線を築くとか私はやりたく無いからな?

 

「...アメストリア殿?」

「ん...すまない。まぁ、基本的には提督がするのはデスクワークだ。遠征報告書に出撃報告書、開発、建造、修繕、消耗品補充要求書やら鎮守府全体の運営が主だ。戦闘やら深海棲艦に関することは全て艦娘が請け負う」

「では、初期段階では何人程度の艦娘が居るのが望ましいのでありますか?」

「...ふむ、興味深い質問だ。」

 

確かに、初期段階の鎮守府に必要な艦娘が何人なのか?

これは議論の余地がまだまだあるテーマだろう。ゲームシステムの制約が無いこのリアルの世界では、賄えるなら何人でも艦娘が居ても問題が無い。

しかしその分資材は消費するし、趣向品というシステム外の消耗だってある。

深海棲艦が鎮守府を攻撃してくることだってあるし、都合のいいレベリングスポットなんかない。

私が使ってる3-2-1だってあれつまり最前線だからあんなに多種の深海棲艦があるし、いつもいるのだ。

 

ゲームシステム的に考えれば、1-1で無限周回すれば理論上は99になる。

しかし同じ作業を繰り返させてもこの世界でレベルなどあがらないし、艦娘だって経験が詰めない。

 

初期は最寄りの鎮守府から二個水雷戦隊、つまり十二隻の軽巡洋艦、駆逐艦が貸与されるが、それに頼りきりにはなれない。

出来れば軽巡洋艦、重巡洋艦が居るのが望ましい。

 

「初期艦を除く二、三隻の駆逐艦と軽巡洋艦、重巡洋艦が合計三隻。これくらいいれば取り敢えずは大丈夫だろう。航空母艦や戦艦はもう少し安定してからだな。装甲空母や潜水艦、揚陸艦はもっと後だ。あれらの運用は複雑だからな」

「成る程...勉強になります。」

「打撃力という意味では軽空母は必要ではないですか?」

「軽空母は確かに必要だが、載せる航空機の運用まで手を出すのは性急だろう。大体鎮守府には基地航空隊があるからな。最初からそっちに航空機は少量だが配備されているぞ。」

「成る程」

「ぐ、具体的にはどんな航空機が配備されるのでありますか!?」

 

そういえばパラオ鎮守府、基地航空隊無かったよな?

基地航空隊って何が配備されるんだろね。そもそも基地航空隊って海軍か?陸軍か?空軍か?

配備される航空機は今後の運用を考えると海軍機が望ましい。空母との連携が出来るからな。あと機種転換が楽だ。

 

しかし他の鎮守府では以前、九六式と一式陸攻、飛燕、疾風やらを運用していたらしい。

一部の大陸寄りでは連山が運用されていたと言う記録も見覚えがある。

...割と雑食じゃね?政治的に考えたら陸軍が出しゃばってきても可笑しくないのに。

 

いや、そんな余裕が無かったのか。

でもまぁ、よく燃えやすい日本機で戦ってきたものだ。

ワンショットワンライターやら、数々の不名誉かつ不愉快極まりないあだ名がつけられる陸軍機、海軍機だが、一応性能は高かったんだぞ?

防弾性以外は。防弾性以外はな!

航続距離やら機動性では群を抜いて強かったんだが、防弾性を犠牲にしたせいでまぁよく落ちる。ダメコン機能は艦船でも大事。これは信濃でお分かりだろう。

航空機だって機銃を大量に浴びるわけで、ミサイルのようにワンパンしてこない。

だからこそ多少の被弾をモノともしないタフネスさが必要だった訳だが、それをすると航続距離が大幅に縮んでしまう。航続距離の縮小は戦闘時間の短縮に繋がり結局継戦能力が無くなり弱くなってしまう。この匙加減がかなり難しい訳だな。

 

ちなアメストリアでは燃料を使わないという大胆な手段で解決したそうな。

そんなの出来るのあんたらだけだよ。

 

「恐らく海軍機だろう。現在は噴進機に入れ替わっているのであまり差は無いが、爆撃機、戦闘機はある程度揃っているだろう。連絡機や偵察機は不明だ。所属する鎮守府によるな。」

「そちらの運用の方が難しいのでは?」

「いや、操縦も整備も製造も全て妖精さんが行うからな。こちらは指示するだけでいい」

「そうですか。では、補給はどうなるでしょう?食料、燃料、弾薬...」

「そちらは本土から月一で補給船が来る。400m級の大型補給船を海軍は大量に保有しているからな。一気に運んでしまうのだ。無論近海などで取れる場合もあるし、大体製油所地帯

は近くにある。海底から掘削することに成功したからな。資源に関しても同様だ」

「では燃料を必要としない艦娘が居るという噂はデマカセだったのでしょうか?」

「否。私達がそれにあたる。また他の鎮守府の艦娘に関しても段階的に機関や船体強度の改装が行われている。流石に私達のようなサイズでは無いがな。まず見かけないのは習熟訓練に時間がかかり現在も少数しか配備されていないからだ。しばし待て」

「そう、ですか...あのシステムがあれば燃料は不必要となります。それだけでも補給面で大きな利益がありますが...」

 

確かにね、万能生産装置やら船舶用粒子エンジンやらを各鎮守府に置けば戦線は有利になる。

しかしそれでは鎮守府の独立性が一層強力なものになってしまう。なんたって補給を必要としないのだから。

それでは海軍というシステムが崩壊してしまい、結果戦線を維持することが不可能となってしまう。好き勝手に独立やクーデターを起こされても困るのだ。

店だってレジ員が職務放棄したら商売にならんだろう?アレと同じだ。

 

おっと、どうやら私達は随分と話し込んでいたらしい。

正午を報せる鐘が響いてきた。この後の予定を考えるとそろそろ移動したほうが良いだろう。

何しろ本土まで返さなあかんし。

 

「む、正午になってしまったようだ。この後は丁度今日は金曜日なのでな、海軍カレーを昼食にとって頂く。その後は本土まで私が送らせてもらおう」

「海軍カレーは、かしまカレーでありますか?」

「いや、間宮カレーだ。」

 

艦艇によってカレーの味が異なるというのは良くある話。

中にはホテルのカレーレシピのちょっと高級なものがあったりと、探ってみると案外面白いものに出会える。

因みに間宮さんが作るカレーは駆逐艦にも配慮し甘口。ビーフシチューにも似たまろやかな甘みが特徴の、自然と手が止まらなくなる絶品だ。余談だがかしまは現存している。確か今は佐世保の方で保存されていたはず。今頃かしまカレーを作っているだろう。

 

他にも赤城や長門、大和カレーなども偶に出てくる。

大和カレーだけホテルクラスの一品料理なのはご愛嬌。他にも神通や大鳳、高雄らも稀にカレーを作ってくれる。神通のはちょっとピリ辛。その中にほんのりと甘みが隠されておりこれまたたまらない。

大鳳カレーは中辛位のビーフシチュー。具材をよく煮込んで二日前から仕込む本格さ。

その分味は格別で何より深みが違う。

高雄カレーは大和カレーにも似たホテルっぽい味わい。司令部があった名残なのだろうか。そういえば高雄型の四人は全員カレーがおいしかった記憶がある。やはり艤装の充実さなども影響しているのだろうか?

私的にはながもんが割と食べれるモノを作れることに驚きを禁じえなかった。

ながもんって案外器用やね。あ、比叡は別格なんで。あれは兵器だから。

 

私の船体から脱し、妖精さんに回してもらっていた一式重武装車輌に乗り込む。

私は補助席に座り、候補生は後部座席。

車体中央にある旋回式キューポラから覗く青々とした晴天から差し込む日の光が車内を明るく照らし、装備品が鈍く反射する。

 

一式重武装車輌も例に漏れずチート化しているものの、モデルがハンヴィーという事もあってか車内はスッキリしており、シャフトが無い分むしろモデルよりスッキリとした印象を受ける。

しかしキューポラの下には足場があり、其処には予備の弾帯が満載された弾薬箱が数個安置され、他にも手榴弾やらが入った箱がぎっしりと詰め込まれ、座席の隣にはガンラックが其々据え付けられており、既に全席に145式歩兵小銃が配備済み。天井には19.8mm重機関銃が格納状態で吊るされ、ランチャーらしきものも吊るされている。

 

なにこの走る武器庫。

どうせ後ろのトランクにも大量の重火器が積んであるんでしょ?知ってるよ。

これ一両でも鹵獲されたら終わりなんだが、其処らへんアメストリア軍はどう考えていたんだろうか?とても気になるなお姉さん。

 

途中、二五九式装輪装甲輸送車や七九式装甲輸送車改の車列や偶に一七式戦車の列とすれ違いながら幹線道路を利用して提督棟に向かう。

要塞山を経由して棟へ向かうと既に多くの艦娘が集まっているようで、七式装甲車輌やら一式重武装車輌が並んでいる。きっちりと駐車されている所は流石軍隊か。

 

「す、すみませんアメストリア殿?」

「...何か気になる点でもあっただろうか」

「い、いえ...この鎮守府は艦娘達に車輌を貸与しているのですか?」

「あぁ。このナウル鎮守府は設備が何もかも巨大でな。移動にも時間がかかる。よって許可制だが希望者には軽車輌を与えている。流石に輸送車は無理だがな。」

 

一応、万が一上陸された時に各自で抵抗し逃走が容易な様に、という思惑もある。

その為艦娘に与えている七式装甲車輌、一式重武装車輌には全車19.8mm重機関銃、147式軽機関銃が備え付けられている。

まぁ専らは移動用だな。ナウル鎮守府って赤道近いから暑いんだよ。

冷房必須。あ、年中な。

 

幸いというかアメストリア軍兵器は冷暖房はおろか某紅茶陸軍の様に給湯器や一七式戦車には簡易的な調理セットまで完備されている始末。

居住性最高なのだ。なんなら一七式戦車は暮らせる。てかそういう事も想定されてる。

海底に沈没して救助待ちでも普通に生活できる様に、ってかなりの設備が用意されている。

まぁ185tだから沈んだら一発アウトなのだ。海溝とか脱出不可能だしな。撃てないし。

 

一式重武装車輌が停車した。

提督棟には続々と艦娘らが入って行き、私の妹達が既に待機していた。

装甲ドアを開け、外界に出る。......やっぱ暑すぎるってこれは。私も巫女服だから割と薄着の筈なんだがすんごく暑い。

候補生は襟詰だから余計にやばいのでは?礼装も紺色だし。

さっさと棟内に案内し、残りをリバンデヒとカイクルに任せる。私とノイトハイルは少々用事があるのだ。乗ってきた一式重武装車輌でそのまま工廠へと向かう。

 

 

 

相変わらず毒々しい色の煙をもくもくと出す怪しげな施設群。

構造物の殆どが地下にあるナウル鎮守府の心臓部の地上施設。其処の一番ドックは珍しく注水されており、「とあるブツ」が浮かべられていた。

防熱の為か遮熱シートが張られ全貌を知ることは出来ないが、その大きさは駆逐艦以上。

縦にも横にも大きく、端はドックの陸地に届いている程。

 

「お〜〜、どうやら完成してるっぽいねぇ〜」

「その様だな。流石は工廠妖精さんだ。」

''えへへー、がんばったです?''

''艦娘さん褒めて褒めてー!''

''珍しいものつくたです?''

''おもしろかったー!''

 

妖精さんを持ってしても珍しい、と言わしめるアメストリア軍では珍兵器に入る部類のブツ。

今回私はこれを候補生の送還の為の手段に活用する事を思いついた。

妖精さんの気紛れで製造されたが、別に其処まで必要性のなかったこれを私が有効活用した訳だ。

 

「塗装はもうしたのか?」

''したです?''

''いぇっとです?''

''ダズル迷彩はあきらめたです?''

''ですです?''

''でもでもこっちに合わせたです?''

「そうか。よくやってくれた」

 

駆け寄ってきた妖精さん達を抱き上げてよしよしする。

うむ。とても可愛い。成果には然るべき報酬を出すのは当たり前なので、撫でまくる。

妖精さんに金銭や権力といった形での報酬は通用しない為、また本人達の希望によりこうなっている。私としてもフニフニしてる妖精さんを撫でるのは楽しい。

 

でもさ、アレにダズル迷彩は合わんと思うのよ。そもそもダズル迷彩自体目視での照準の妨害が目的だったんだしさ、今じゃ全く役に立たんよね。

でもレーダー関係の対策は絶対にしてあるだろう。

 

「90分後に出発予定だ。準備をしておいてくれ。」

''あいあいさー!''

''よーそろー!''

''つみこむぞぉ''

''やっちゃうです?''

''ですです?''

「お姉ちゃん、随伴はどうするの?」

「そうだな...まぁ不要だろう。その間の指揮権はリバンデヒに移譲。一応警戒態勢と引き続き改装計画を進めておいてくれ。」

「らじゃー!むふふふ、この兵器の対応させる改装はどうするのぉ?」

「......先ず赤城、加賀に施してくれ。実際の運用をしてみなければ判断出来ない」

「はいはーい。そういう事にしておくねー」

 

何故かるんるん気分で歩いて行くノイトハイルを見送り、私もさっさと提督棟に戻る。

間宮カレーが私を待っているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼食後、私達は荷物を纏めた候補生らと共に提督棟側にある桟橋にて待機していた。

妖精さんによるとそろそろ例のアレが動き出すとの事。

「アメストリア殿、私達が帰還する為の手段とは一体何なのでしょうか?」

「それは会ってからのお楽しみ、というやつだ」

「......?」

 

ふふふふふ。遂に巨大兵器が稼働するのだ。

誰だってワクワクするだろう。以前、大将殿を送り返す時はヘリを使ったりCT-7を使ったが、送り先は呉海軍大学校。最寄りの私達の輸送機が着陸可能な飛行場が存在しなかった為、今回は海路?で向かう事にしたのだ。

飛行場さ、ある事にはあるんだが関空なんだわ。

遠すぎて陸路での移動が時間がかかってしまうし、C-134しか離陸不可能だった為この手段をとる事になった。

 

何処からか轟音が聞こえてくる。

ヘリのローター音にも似た、空気を切り裂き叩きつける力強い音。

強力なエンジンから生み出される騒音は8基で、より大きなものとなり本体を動かして行く。

 

「.............な...」

「何という、大きさ...」

「...飛行艇?」

 

そう。何を隠そう。アメストリア軍が最初で最後に作り出した超巨大飛行艇。

正式名[四式8発超大型攻撃機]だ。

全長は250mを記録し、全幅に至っては脅威の325m。

そのお陰で航空機にしては破格の6780t。

 

その巨体を動かす、今時珍しいレシプロエンジンはアメストリア製とあってスペックは頭おかしいの一言。[10式48気筒大型噴進発動機]という前方にレシプロエンジン、後方に航空機用粒子エンジンを積み込んだ変態エンジンを8発積んだ空飛ぶ要塞。

 

搭載砲は128mm航空機関砲、75mm機関砲、88mm航空機関砲35.6cm単装砲を備え、まさかの短距離滑走路及び格納庫まで完備。

また機体後部には空挺団用のスペースまで用意され、側面には爆弾倉も完備。

160連誘導噴進弾砲や480連噴進弾砲というミサイルランチャーが多数用意され、対空砲は128mm三砲身対空機関連装砲、45mm対空機関連装砲、新規開発した75mm対空機関連装砲を使用。

 

二式大艇を大型化して重装甲化したようなゴツイ見た目。

今回の為に機体は暗緑色と明灰緑色に塗装され、まさかの日の丸が描かれている。

 

まぁその隣にアメストリアの徽章がプリントされているが。

 

 

それが()()存在した。

そう。二機だ。一機は私達が乗る四式だが、もう一機は予備。囮でもある。

 

何故ならこの四式、とても遅いのである。

零戦に追い抜かされる程の鈍足で、機動性は最悪。

旋回半径は170mと広く、容易く攻撃されてしまう。しかしそれをこの四式は重装甲で補った。機体全体に対15.5cm装甲が張られ、武装で対応力を上げた。

 

詰まる所の脳筋方式である。

この四式で候補生を送り返す訳だが、勿論四式二機のみで飛行する訳では無い。

基地航空隊からF-222を8機配備する。

四式には短距離滑走路と滑走路がある為、其処に駐機すれば陸地に土地を用意しなくても良いからな。

 

二機の四式から聞こえるエンジン音が低くなった。

回転数が落ち、推進力が抵抗を下回ったのだろう。しかしちょっとした大和型の大きさを持つ機体なので安定はしている。

主翼にフロートがつけられているので尚更安定性は高い。

 

静止した四式は桟橋から大体2、300m。

四式までは内火艇で向かう。その内火艇も私にある隼ではなく今回四式に合わせて新規開発した新型内火艇だ。

それを【四四式小型内火艇】という。

外観的には硬化ゴムボートに近い。てかそれをモデルだ。

全長は8.2m、全幅1.9m。良好な速力を有し、本当に中継ぎを目的としている為非装甲、軽武装だ。まぁ19.8mm重機関銃つんでるんだが。

 

今回四式に既に搭載済み。

機体後部の側面ハッチが開き、四四式小型内火艇が降ろされる。

妖精さんが船舶用粒子エンジンを駆動させ、桟橋まで持ってくる。

 

その機動性から1分で桟橋まで到着。

一定間隔に設置された舫に縄を掛け、臨時に固定される。

 

「こっちに乗ってくれ。この後はすぐだ。」

「わかりました。荷物も積んだ方がよろしいので?」

「うむ。」

「了解したのであります。よっと...」

 

私も手伝い、候補生の荷物も四四式に積み込み、縄を解く。

私の合図で妖精さんがレバーを上げ、四式へ舵を切る。と言ってもモーターボートみたいに船舶用粒子エンジンを可動させてそれ自体を舵として活用するタイプだ。

 

隔壁のおかげか、穏やかな海を進む四四式。

その進路の先には超巨大飛行艇が二機。アイドリング状態の控えめな轟音を響かせながら静止する飛行艇。上空には赤城の航空隊が編隊を組んで飛行し、またCH-4やCH-31がプラトーンを組んで移動している。80cm野砲を吊るしてるのは気にしないでおく。どこに運んでるんだろねアレ。設置できる場所は隔壁なり色々あるから特定はしない。

 

ハッチを跨いで四式へ乗り込む。

此処は最下層5階。大部分が貨物室だからか骨組みが剥き出しになっておりまさに最低限の設備のみが設置されている。私達が乗り込んだのは空挺エリア。降下猟兵が待機するエリアだ。その為機体最後部に三つのハッチが並んでおり、歯弧式とピストンが可動部だと思われる。

 

四四式は妖精さんに任せ、私達は最寄りの階段から上の階に上がる。

四階が降下猟兵用の居住区画及び128mm連装砲、88mm連装砲、爆弾倉のエリア。

 

爆弾倉は量子変換器を利用して各種爆弾を任意でばら撒ける素敵機能付き。

 

連装砲は左右45度ずつの限定旋回、

丁度長門や金剛の15.2糎単装砲のような砲塔。

連射速度は御察しの通り毎秒。しかしそれに発生する大量の薬莢は一方方向に開くように工夫されたシュートから廃棄される。例によって海面にダイナミック不法投棄だが軍事兵器にそんな事求められても困る。

 

それいったらレベリング会場とか水深が若干ゃ浅くなってるんだ。薬莢に溶けたりする機能はないので、数世紀掛けて分解されるしかない。

態々引き上げて一々処分しろなんて命令は聞けない。魔のマリアナ海峡とかまだ未占領だがあんなとこに薬莢取りに行きたくない。

 

「こんな巨大な飛行艇は初めて見ました...」

「右に同じくであります。貨物船か戦列艦のような構造。こんな巨大な構造物が飛行するとは...」

「まぁ此処まで巨大な飛行兵器は中々無いからな」

但し空軍艦艇を除く。アレらは比較対象にならんからな。大体30kmとか桁がおかしいんだよ。

小回り効かないのにどうするつもりなんだろうか。あ、私も他人の事言えんわ。

旋回に15分。旧大和より早いのは気にしては行けないがその代わり新しい海流を生み出すのだ。

一ヶ月で収まるけどさ。

 

 

ぐん、と慣性に引っ張られたたらを踏む。

どうやら離水を開始したらしい。猛々しい発動機の唸り声が大きくなっている。

 

窓から流れる景色は段々と早くなって行き、それに比例して轟音は肥大化する。

片翼四発の発動機は二重反転ベラをフル回転させ、海面を風圧で抉っていた。

 

おっと、離水も最終段階に差し掛かったのか、発動機の後部、Su-57の様な生物的なデザインのノズルから粒子が噴きだし、より一層四式は速度を増す。

「あ、あの発動機は噴進だったのでありますか!?」

「しかしブレードは二重反転...」

「うむ、あれは前方に二重反転の発動機を積み、後方に噴進発動機を装備している大変珍しい発動機だ。恐らくこの四式にのみ装備されているだろう」

 

だって必要ないのだもの。

発動機自体が胴体から外れていないと複合型は組み込む事が出来ない。

なぜなら発動機の全長が機体の全長になってしまうからだ。ドルニエの爆撃機よろしく機首、尾につけるなら話は別だが、そこまでしてレシプロを採用する意味がないのだ。

 

ならなぜこの四式はレシプロの、二重反転なんか導入しているのか?答えは簡単。噴進発動機のみだと飛べないからだ。

緊急用、というやつだ。レシプロエンジンのみでも離水可能だが、短距離離水なら噴進も合わせて使う。

 

あ、あと例に漏れずこいつも星間運用を前提にされているからだ。レシプロは宇宙空間じゃ使えないからな。

宇宙空間での戦闘もあるだろうから実体弾が使われているのだし、発動機も噴進発動機を混載しているのだ。

 

一階に着いた。

ここは大部分がミサイルハッチとなっており、機体後部はF-222の格納庫になっている。

そして乗員居住区。

といってもF-222の操縦士らと四式の操縦士、レーダー員、砲手がいるだけで、そこまで広くはない。

ビジネスホテル位だろう。あ、個室な。

 

「ここらの部屋を使ってくれ。明日には着くだろうから、寛いでくれ」

「分かりました。因みに何時頃になりますか?」

「そうだな...着水はマルキュウサンマルを予定している。そこからは内火艇での移動だ」

「なるほど、この巨体では水道を通る事は困難でありますから先ほどの内火艇で移動するのでありますね」

「その通りだ」

 

実際、水道には行けないこともない。

しかし瀬戸内と外界を結ぶ戦略上でも重要な水道の為、対潜網は引かれ、監視所が24時間目を光らせ、定期的に呉鎮守府の警戒艦隊が巡回する。

 

他にも漁船やらタンカーやら民間船舶だってくるのだからダイヤを破壊するのは忍びない。

 

...そこ、以前全力で破壊してただろとか言わない。

あれは私の船体の制御が効かなくなるわ攻略艦隊が全滅するわで大変だったのだ。軍事上の緊急事態につき、走らせて貰った。

 

部屋に入る候補生を見送り、私は操縦区画に足を踏み入れる。

相変わらずの武骨なデザイン。梁と装甲板しか視界には映らず、明るい照明が酷く不似合いに見えてしまう。

流石というべきか、等間隔に私の船体にもあった武器庫が設置され、壁には88mm歩兵携帯砲が掛けられている。

 

こんな機内でアハトアハトは不似合いだと思うが、いつ使われたのだろうか。

三重の隔壁を通り、独立した隔壁に守られた操縦区画。

 

その外観は意外にも現代のジェット機に似た随分とアメストリアからみたらレトロな意匠だった。

機器こそ最新で、ホログラムが浮き上がっていたり映し出しているのか広い視界があったりと近代化改修をした機体、といった印象を受けた。

 

というのも、アメストリア軍にはここまで巨大な航空機の設計経験などなど無かったのだ。

C-203やらCT-7はあるが、あれも35やら108m。

この四式には遠く及ばない。

しかも初の飛行艇と来た。さぞ悩んだのだろう。

 

結果同系列の二式大艇をコピペ。

機材だけ流用して丸々大型化して解決させた。

その割には駆逐艦の艦橋位の大きさがあるのだがそれは。

 

操縦士は二人。

それにレーダー員が一人に操縦区画に設けられた砲手席に四人。交代要員はニシフト制なので14人。14人でこの巨大を動かしている。

今は7匹の妖精さんによって運用されているのだ。

......ブラックになってません?

大丈夫なん?

 

「妖精さん、交代はしなくても良いのか?」

''大丈夫です?''

''のーぷろぶれむです?''

''我ら社畜なり''

''疲労知らずです?''

 

成る程、妖精さんに「疲労」という概念は無い訳か。だからこそナウル鎮守府の異常な生産量はある訳か。建造だって早いだろう?

 

ゲームでも18分で睦月型を作り上げるのだ。

疲労という概念があっては到底できない技だろう。

 

投影式の視界にF-222が映り込む。

二機ペア、計4組の編隊で周りを囲むように飛行するF-222の姿は異様であった。

というのも諸氏ご存知の通りF-222は速すぎて、四式は遅すぎるのだ。航行速度を限界まで落としても700km/h。こっちの全速力を軽く超えているわけで護衛が成立しない。

 

Q.妖精さんはどのようにお考えで?

 

A.主翼を回転させて抵抗を増やすです?

 

まさかのF-222の垂直離着陸用の主翼回転機能を悪よ...利用して抵抗を増やして無理やり減速しているのだ。いや、普通に失速して堕ちません?

8の字飛行すれば問題ないと思うのだが、そこら辺どうなのだろうか。

 

「妖精さん、護衛機に8の字飛行を指示してくれ。あれでは墜落しかねん」

''わかたです?''

''ぐるぐるです?''

 

F-222の軌道が急激に変化し、700km/hの状態とは思えない機動性能を持って8の字飛行に移行した。

いつ見ても見てるこっちがヒヤヒヤする光景だ。

物理法則を全力で殴り飛ばした様な変態機動は宇宙空間でも機敏に動ける様にと機体に散りばめられたスラスターを活用したものだが、当然操作には細心の注意が必要だ。

ズレたりしたらたちまちバランスを崩しブラックホークダウン状態だ。

それな何気に高等技術を通常空間でやってのけるあたり妖精さんの技量は高いことが伺える。

 

操縦区画から離れ、私に割り当てられた部屋に移動する。

荷物、と言ったものはない。全部作ることができるからな。

 

プシュ、という圧縮空気の抜ける音と共にドアが開き、居住区画の一室が全貌を明らかにする。

第一印象は意外にも広い、という事だ。

ベット完備。てっきり潜水艦の艦長室位かと想像していたのだが、案外広く縦に長い。

 

しかし構造上壁は薄く、棚も少ない。

限られた場所を最大限活用すべく、様々な工夫が見える。

まずシャワーはなし。これは大浴場があるからだろう。あと水道。

あとは壁から引き出すタイプの棚や机。取っ手を引けば折り畳まれていた机が広がり、通路を占領する。

幸い天井は高く、読書灯らしきライトも完備されている為窮屈には感じないだろう。

ずっと吊り下げていた五式自動拳銃を降ろし、仕込んでいたFN5-7も机に乗せる。

FN5-7は最近カイクルに勧められて使い始めたのだが、軽くて使いやすい。

弾薬もライフル弾を模している為貫通力に優れ、ツーマンセルには最適。

またコンパクトで太股に付けたホルスターにも収まって丁度良いのだ。

 

バタフライナイフや苦無を小型化した様な、一見ペーパーナイフにも見える投擲用暗器も降ろし、ベットにダイブ。

わさりと降りかかってきた長い髪を振り払い、シーツにスリスリする。

仄かな香の香り。妖精さんが炊いてきたのだろうか。

これは祇園香か。チョイスが渋いなおい。

 

だが、いい。

なんとなく落ち着く気がして、ついついウトウトしてしまう。

...寝ちゃって、いいよね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーハッ!!

いかんいかん。不覚にも寝落ちしていた。

最近は無かった...いや妹らによる攻撃でトんだのを除けばないな。うん。

 

くしゃくしゃになってしまった髪を纏め、首筋あたりで纏める。

チラリと鏡を見ると、普段とはまた印象の違う美少女が。イイっすねー。

 

ちょいちょいキスマークらしき痕や歯型っぽいナニカが見えるが、大体ノイトハイルの所為なので気にしないでおく。

あいつの表現方法は精神的にクルものがあるのだが、文句言ったら四肢の何処かをバキバキにされてしまうので、死んでも言えない。

 

以前聞いたら、罰ゲームを何種類か用意しているらしい。怖くて内容は聞けなかったが、ノイトハイルのことだ。どうせロクでもないものだろう。

多分、アメストリア型戦艦の艦橋、観測機器を設置するためのツノみたいな部分を目隠しで往復とか平気で言ってきそうだ。

多分落ちても助けてはくれないだろう。ノイトハイルだし。

または一七式戦車かなんかでひき回しにされる可能性も否定できない...

 

 

やめだやめ。

こんな事考えてるからノイトハイルに実行されるんだ。

あいつ、小五ロリよろしく心を読んでくるのか、というぐらい考えている事をピシャリと当ててくるので私の想像を実行してくるのだ。やめてくれませんかねぇ。

 

机にあった五式自動拳銃を拾い、浴場へ向かう。

こういう時は風呂に限る。服装もラフなものに変え、浴場に向かう。

たしか大浴場は居住区画の中央にあったはず。候補生案内してた時に「ゆ」って見えたし。

 

相変わらず碁盤の目の様な整理された通路を通って大浴場へ。

時刻は大体丑三つ時。現在地点は予定では最南端の300km南くらい。

防空圏の関係上ここから大きく迂回しなければならない。

というのも南鳥島や沖ノ鳥島には鎮守府と要塞があるのだが、それより南にも人工島がいくつもあり、それらはすべて対空砲陣地になっているのだ。

 

この対空砲陣地が厄介で、現在故障中。

敵味方識別が不完全でこちらを攻撃しかねないので射程外を一旦迂回しなければならないのだ。あの対空砲陣地には私達の技術力提供のテストヘッドの新型高性能対空砲がわんさか積まれている為、迂回半径もとても大きくなった。

 

その分時間もかかり、どうせならと余裕を持って夜をまたぐ事にしたのだ。

深夜なら候補生も寝静まっているだろうし、ゆっくり湯船につかる事ができるだろう。

 

朱で「ゆ」と描かれた暖簾を潜り、服を脱ぎ捨てる。

籠に服を入れた後、髪を結ってたリボンを解き、最後に乗せる。

思えばこのリボンとも長い付き合いだ。改ニになったと同時に結んだまっさらな白いリボンも激戦の為か、不本意だが私の負傷のせいか所々がよれており、赤い染みもいくつもある。

そろそろ新調したほうがいいのだろうか?これは妹らに聞いてみる必要があるな...いや、妹らに聞くと首輪しか貰えないから止めておくか。

 

ならば誰が良いだろうか?

リボンを付けている艦娘というのも案外少ないな。

駆逐艦娘には結構いるのだが、残念ながらナウル鎮守府には居ない。

あ、神通が居たな。あとは初月も鉢巻みたいに結んでいたな

たしか〔第六十一駆逐隊〕だったか。史実基準の鉢巻だが、私もリボンをあんな感じで結んでいる為、相談するのも良いだろう。

 

飛行艇にしては異様にスペースのとられた大浴場。アメストリアの気風が濃く現れているな。アメストリア人はローマ人よろしくテルマエが大好きだからね仕方ないね

防水扉を開けると、タイル張りの床と、湯気の立つそこそこ大きな湯船が見えた。

 

.......ん?人影が無いか?

いやまさか。丑三つ時だから、()()か?

 

「そこに誰かおるのか?」

「ひゃっ!?ア、アメストリアさん!?」

「あぁ、谷村候補生か。いやなに、このような時間帯に相見えるとは思わなんだ」

「そ、そうですね...」

 

何故か距離を取られる件について。

現に私が浴槽に入ると、反対側で縮こまっている。ほほう、中々のモノをお持ちで。

 

しっかしやはり風呂は良いものだと思う。

気分転換になるし、とても落ち着く。ゴウンゴウンというタービンのようなエンジン音もまたBGMとして機能し、ちょうど良い温度の湯船が睡魔を誘う。

いかんいかん。せっかくこれからも付き合うんだし、あの男モドキとはある程度関係を持たなければ。

 

「谷村候補生、貴官は艦娘をどう思っているのだ?」

「へ?...そ、そうですね...共に戦う仲間、でしょうか」

「ふふ、それは良かった」

 

どうやら人情派の提督らしい。

兵器派とか言うブラ鎮生産装置はこっちからも、大本営からも掃除が進んでいる為もう居ないが、若干疑惑のある鎮守府は幾らかある。

私とて万能では無いので詳細は知らないし、現地の艦娘がどう思っているのか不明の為断定はできない。

 

ちゃんと艦娘の事を一生命体として捉え、仲間して迎えるのならば、艦娘達は自ずとついてきてくれる。これは私の経験則。

当然それなりの努力やら苦労はまず間違いなくあるだろうが、どう成長するか見ものだ。

ふふ、と笑みを零すと男モドキが真っ赤になった。初心だわぁ。

 

「だが谷村候補生、忘れないでほしい。私達艦娘は自らの意思で()()しているにすぎない」

「はい。承知の上です。愛想をつかれたのならば、所詮僕はそういう存在であったというだけの事です」

「...そうか」

 

やはり、自分を卑下し過ぎるきらいがあるな。

ある意味覚悟を決めているとも言うが、何かの拍子にポックリやられそうで危うい。

 

「まぁそう自分を卑下するな。卑屈な上官など艦娘は付いて来てくれないぞ」

「そうなのでしょうか...」

「そうだ。司令官たる者、皆の先頭に立ち進み続けなければならない。それを止めた者から負けてゆくのだ。現在は戦線が拮抗しているとはいえ、いつ崩れるともしらない危険な状態だ。そんな状況下を艦娘は敏感に感じ取っているぞ」

 

あとはどう感じるかは候補生次第。

実際艦娘が敏感に感じ取っているのは事実。私を含めな。

大和から吹雪に至るまで現状は知っているし、戦況がどう傾くか、其々考えておくように言い含めてある。まぁ腐っても軍艦だったし、それくらいは自分でしていたのだが。

 

 

床を軽く蹴り、スイーっと候補生の近くに接近する。

候補生が狼狽えているのは気にしない。ほら、裸の付き合いとも言うじゃまいか。

 

「なっ、なぁぁぁーーー」

「谷村候補生、ここだけの話な。私達としては、新規鎮守府設営に伴う支援艦隊だが、望む艦種があれば言ってくれ。叶えよう」

「えっ、でも鎮守府設営の講義で...」

「分からぬか?私は貴官に期待しておるのだ。」

 

ずずいっと顔を近づけると、候補生がますます真っ赤になってゆく。

見ていて面白いなこの娘。

 

「しかし...いえ、出来れば、航空機の運用は早期から確立したいのです。ですから、空母を一杯。あとは戦艦と軽巡洋艦を派遣していただければ幸いです」

「そうか...あいわかった。こちらで選抜した精鋭を送らせてもらおう」

「感謝致します。......あと、ち、近い...です...」

「ふふふ、そうか?妹らとはこれが普通だぞ?」

「えぇっ!?いや、あの...でも......」

「ふふ、すまない。若者を揶揄うのは楽しい故な。つい興が乗ってしまった」

「...艦齢、お聞きしても?」

「黙秘したいところだが、確かそろそろ5000になるな。」

「ご、五千!?」

「そうだ。私達は少々特殊でな。日本艦艇ではない」

「やはり、そうでしたか」

「うむ。私達はとある軍隊の創設当初から在籍していてな。数多の改修の後、現在の形になっている」

 

「では、電探や主砲などの技術力が高いのも...?」

「そうだ。日本出身ではない、別の軍隊の技術だ」

「そう、だったのですね...。つまりその技術が新型艤装の砲熕や機関に使われており、その技術に対応した艦隊を率いることになるのですね」

「そういう事だな。全長等は変わらないが、排水量や耐久性が上昇している」

「なるほど...戦術が変わる、というのはそれが根拠なのですね」

 

「そうだ。...あぁ、そう言えば本土はどうなっておるのだ?」

「と、いうと...?」

「いやなに、私達の技術供与は民間にも及んでいると聞く。どうだ、生活に変化はあったか」

「そう...ですね。確かに以前のように物資不足は少なくなったように感じます。空襲のサイレンもここ最近は聞いていませんし、停電もありません」

 

成る程。暫く聞き取ってみると、私の供与した万能生産装置は有効に使われているようだ。

あれは一機あるだけで全てを変えるからな。

 

いうなれば対価不要の錬金術。

なんでも要望の物を作り出してくれるため建材、エネルギー、食料も生産ができるのだろう。

また電子技術の進歩も進んでいるらしく、最近VRとやらが一気に普及を始め、拡張現実 AR技術が浸透を始めているらしい。

 

近代化は止まらず、周辺に反比例するように成長を続けているらしい。

プチ鎖国状態の大日本帝國だが、今の所なんとかやっていけているようだ。安心安心。

 

その異様な成長具合に他国から色々と言われているらしいが、知らん顔。

だって防衛力は持ったのだから。今にも滅びそうな自称大国に下手の弱腰外交をする必要はない。むしろ海域を防衛しているのは大体大日本帝國なのだから文句言われるののは不本意である。

 

ここで世界情勢に関して少し話しておこう。

我らが大日本帝國は絶好調。戦線は膠着し、その間を利用して軍事力増強を続けている。

維持費など掛からない物を作っているのだから財政に影響なし。寧ろ町工場やら技術系の産業が賑わい、雇用が創出されているらしい。

 

日本海を挟んだ大陸側は絶賛内戦状態。

核が使われたーとかいう噂も耳にしたが、まぁ元から人口過多だし深海棲艦海からだから瞬殺されたし特に気にしない。

 

北海。

樺太には日露共同の鎮守府が最近新設され、双方なかなかに友好関係が結ばれつつある。

あちらもバカではないのか、こんな時に睨み合ってる場合ではないと分かっているのか協調が取れている。

国土の方では海はよく凍るため深海棲艦もノータッチ。北極海では深海棲艦の航路があるらしく、そちらで激戦になっているらしく、一部陸上型の深海棲艦に上陸されており地上戦が繰り広げられているらしい。

 

欧州に関しては距離的にあんまり情報が入ってこないのだが、かなり逼迫した状況らしい。

複雑な地理や政治的にも邪魔され協調はなかなか上手くいかず、あちらにもアメストリアスペックがいるらしく完全に手詰まり状態。

運河もそろそろ塞がれるんではないかという緊急事態で、近々支援要請がくるのではないかと大日本帝國は予想している。

実際、それを裏付けるかのように日本側に〈駐在武官〉の名目で欧州艦娘の派遣が打診されているらしい。

 

...どう見ても戦力の退避温存ですありがとうございました。

候補はまさかのビスマルクにウォースパイト。パスタの国からはリットリオやローマが検討されているらしい。一大戦力ですね本当に(ry

 

流石に虎の子の航空母艦は居ないようで、殆どが戦艦か重巡だった。

あっちにはドイツやら紅茶が居るんだから大丈夫だと思っていたのだが、案外ダメだったらしい。

なんでも小型兵器が深海棲艦から多数投入され手を焼いているらしい。真偽は定かではないがな。

 

「あの...」

「んあ、すまない。考えていた。まぁ、復興か。進むのは良い事だ。...そう言えば修了はいつになるのだ?」

「確か、二ヶ月半後と記憶しています」

「その後着任となると約三ヶ月か」

「そうなると考えられます」

「ふむ...これは私の勘なのだがな、その間に一戦ありそうだ」

「そう、ですか...どちらで?」

「まだ分からん」

 

しかし戦力の拮抗がある中、打開を図るのは深海棲艦も同じ。

恐らく、絶対に深海棲艦は戦力を集結させているだろう。

三ヶ月、いやもっと早い内に一回武力衝突があるだろう。そのキッカケが人類側か深海棲艦側かは不明だが、相当大規模な戦闘になるだろう。

 

長射程のぶどう弾頭の噴進弾でも新規開発するか?

他の鎮守府に攻撃があった場合、どうなるか分からない。

こちらから支援できる手段があったほうがいいだろう。現在私が持っている手段はBGM-9のみ。これでは力不足といいざるおえない。

 

''艦娘さーん!護衛機が飽きたといってまーす!''

 

ポヨン、と妖精さんが降ってきた。

妖精さんの服からして操縦士。内容が内容だが、まぁ妖精さんだし仕方がない。

 

 

ずっ飛び続けているだけじゃ妖精さんは飽きてしまうだろう。

航路予定ではあと六時間。どうしたものか...

 

「これが、妖精...」

「む?そうかそうか。妖精さんを見た事がなかったのか。そうだ、ことちっこうのが妖精さん。我々艦娘にとって必要不可欠な、協力者だ」

''艦娘さん艦娘さん、この人が提督候補です?''

「そうだ。今後、何かと関わりを持つかもしれん。他の妖精さんにもそう知らせておいてくれ」

''かしこまり?そな、ばいならー''

 

てくてくと妖精さんは帰って行く。

その様子を男モドキは興味津々といった風で見つめる。

やはり人の子女の子か。確かに妖精さんは可愛いし、プニプニしてて感触に飽きがこない不思議生命体だが、目下最大の(胃の)敵でもある。

 

毎回私の予想の斜め上所か範疇を突き抜けて行く突拍子もない行動の数々には散々苦しめられてきた。特にあのダイナミック解体に関しては一生モノのトラウマになりつつある。

 

なんやねん解体の手間を省くために要塞砲の500cmを叩き込むって。

普通に考えて頭おかしいやろ。せめて以前みたいに麻酔薬入れて欲しかった。

確かに速やかな解体は出来ただろう。

でもさ、あれめっちゃ痛かった。それはもう。

 

これまで幾度と無く大破を繰り返してきた私が経験したトップの痛みだった。

もうアレは味わいたくない。二度と。

 


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