超弩弩々級戦艦の非常識な鎮守府生活   作:諷詩

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第七章 教練編
77.候補生襲来!急降下!


 

 

ーーーーーーーーーーーアメストリアsideーーーーーーーーーーーーー

さて、大本営からの、相変わらずの突然の通告。

要は提督候補生に実戦の空気を感じてもらいたいらしく、提督の仕事など、現場でなければわからない事を学ばせる目的であるとの事。

んな事知らんと言えればよかったのだが、今更抵抗しても大将の負担が増えるだけで何も変わらないので文句は言わない。()()はするがな。

 

それで、この通知書は幾つかの他鎮守府にもきていたらしく、大混乱の嵐。

恒例のテレビ会議でも各人が揃って頭を悩ませるというシュールな光景にありつく事ができた。

しかし他とは決定的に異なる点は我がナウル鎮守府には特に成績優秀者が送られるという点。

 

こんな常識の次元が三次元ほどズレている鎮守府を見せても意味ないと思うのは私だけだろうか?同封されていた名簿によるとあの男モドキやテスト満点だったオタクもここらしい。

 

候補生受け入れに当たって全艦娘に召集をかけ、対処を検討した結果取り敢えず提督棟の客間を開ける事になり機密情報の隠蔽作業が始まった。

やってくるのは今日から一週間後。

それまでに受け入れ態勢を完成させなければならない。

候補生がいるのにいつも通りテキトーに出撃するわけにもいかんので演習を全て取りやめ、全艦を桟橋に係留する事に決まった。

まぁプチ休暇だ。

それで、当日の日程は色々と考えてはいるが、ここの常識で語ってもまず役に立たないのでとても悩ましく、頭が痛い。

新規艦娘だからと言って候補生に実態を見せるわけにもいかないので、夕立、親潮、初月は川内姉妹の地獄の周回に強制連行させた。今頃ヒィヒィ言ってるだろう。

実戦は兵士を成長させる。なぜなら実戦以上に経験を積めるものなどないからである。

訓練の難易度を上げ、死者が出るクラスにしたとしても、訓練のは反復、実戦でも基礎が動かせるように、という反復練習でしかない。

模擬戦を実戦さながらにするのは良いが、模擬戦には横槍がないし、後ろから撃たれる事もない。しかし実戦では卑怯なんていう言葉はリストラされるので容赦なく裏取りされて奇襲される事もあるし、思いもよらぬ手段で攻撃される場合が多々あるーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーと、回想しつつも書類をさばいてゆく。

案外有能だったという事が最近判明したノイトハイルを援軍に、割と減少した出撃、遠征報告書、演習報告書を手早く処理して大本営に送ってゆく。後はあちらの仕事だ。

提督執務室にはいつ間にか設置されていたジュークボックスやBOSEの高性能スピーカーが並んでおり、現在はそれを使用せず外から聞こえる演習の砲声をBGMに作業を進めている。曲を流しても良いんだが、そっちに気を取られて作業効率がむしろ落ちるというのがよくあるので、いつも無音で事務仕事をするのが専らの慣習だ。

「.......来たか」

「そーだねぇ、丁度防空識別圏に入ったね。妖精さんよろしくね〜」

私達の電探がナウル鎮守府に接近する超巨大航空機を捉えた。113号対空電探の敵味方識別装置で所属が明かされた。

 

【大日本帝国海軍呉鎮守府所属 富嶽1号機】

 

との事。とりあえず味方なのはわかったが、富嶽って...いつの間に作ってたん...?

大方、日米安保の破棄に伴う軍備拡張に私達から提供した技術や実機を元にオリジナルまたはリスペクトして変なの作ったのだろう。

私達が技術供与したものはアメストリアの時代で約4800年前。つまり創立直後の第一世代だ。何よりも量産が効きそれでいて高水準の性能を誇っているからだ。

あれだぞ?戦闘機に75mm二門とか基本武装に30mm、40、50mmはざらにあったんだぞ?

当然それを積んだ上での機動性や速力を確保するために大出力発動機が投入されている。

零戦の21型とかは1000馬力ちょっと位という貧弱極まりない発動機だった為にあまり装甲も貼れなかった。それでいてあの航続距離と機動性はおかしいと思うが。

 

しかしアメストリアはその更に三段階上を行った。

零戦21型の機動性に呑龍とかのバ火力を足したのだ。そんなキチガイ染みた戦闘機を実機で渡したのだが、何処をどう学んだのか、富嶽が出来上がってしまった。

アメストリアにあった富嶽とはだいぶ違うだろうが。

アメストリア版富嶽は30mm十二門に50mm三門、1t爆弾25発を積めたからな。頭おかしい。

今回の候補生の搭乗する機体だと思われる。まぁ自力でこっちに来るならそういう長距離爆撃機とかじゃなきゃ無理だわな。

一応、防空識別圏の1200kmに入ったのでナウル航空基地の管制妖精さんへ連絡を入れ、護衛機としてF-222を四機スクランブルさせた。

今頃到着している頃だろう。宇宙空間での戦闘を前提としているF-222ならば1200kmという距離は目と鼻の先だ。

 

全艦に連絡を入れ、念の為対空警戒をさせておく。こういうのって高高度から尾行してきた敵機とかが襲いかかってくる場合があるからな。

時刻は14:30。到着は16:45位だろうか。まぁのんびりするとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

6発の大型発動機がけたたましい空気を叩き付ける爆音を響かせながら、富嶽は降着装置を下ろし、エルロンやフラップなどを全開にした。

全長50mは超えているだろう超巨大航空機。両端は実に85mを記録し、ウチのCT-7にも迫る勢いだ。ただ、CT-7は空飛ぶ駆逐艦だが。

 

タイヤが噴煙を上げながら回転し、一気に減速してゆく。

4000mの長すぎる滑走路を贅沢に使用し、陸上で移動する速度まで遅くなった富嶽は漸く鮮明に見る事ができた。

日本機特有の暗緑色に彩られた円筒の胴体に高翼の大きな主翼。

鋭く絞られた尾翼部分は水平、垂直共に機体相応の大きさになり、ワイヤーで補強されている。

所々に旋回式の対空機銃が設置されているようで20mmだろうか、連装が散見できる。

底面には一切の構造物が飛び出しておらず、今は降着装置が降りている以外は何もなかった。

思えば、二式大艇に似ている気がする。

 

 

ーーーーーーこれ、飛行艇なん?

え、マジで?本当に?そんな長すぎる巨体とか海面に叩きつけられて終わりだろうに。

アレだろうか。ソリがせり出てある程度の高さを確保できるようになっているのだろうか。

というか鰹節あるんかね?

 

ある意味船になるのかもしれん。形的に。主翼が飛び出してるけど。

ーーあ、主翼にもフラップ有りましたわ。......マジでか。

日本がこんな変態機作るとは夢にも思わなんだ。何この変態機。

誰だ作ったの。あれか、現代の堀さん出てきたか?

 

富嶽が停止し、発動機が切られたのか徐々にプロペラの回転が緩んで行く。

密閉式の扉が開かれ、内部からラッタルが飛び出して地上との架け橋が完成した。

一応、途中で奪われて敵国の戦闘員が乗っていたら、などの敵対行動を想定して要塞山には一七式戦車一個中隊と航空基地の管制塔や格納庫が集まるエリアには一七式戦車や五七式重装甲輸送車改、七九式装甲輸送車改が。

そして「出迎え用」として五七式重装甲輸送車改二輌に一七式戦車が一輌。

現在は要塞山の一個中隊と施設防衛用の車両群の砲口が向いているはずだ。

 

その標的たる富嶽のラッタルに姿を現したのは、多少髪が伸びたと思われる男モドキ。

後ろで一房に纏めているその姿はどう見ても女性のものだが、本人はバレてないと思っているんだろう。候補生の紺色の軍礼装に身を包んだその姿は様になっている。

続いて現れたのは何やら荷物が妙に多い海軍オタク。何やってんだあいつ。

男モドキがトランク一つなのにお前30Lバックパックにトランク二つって何積んできたんだ。

アレか、ラノベ満載してきたのか。

 

「.......ようこそ、我がナウル鎮守府へ。貴官らはご存知の、アメストリア型戦艦一番艦アメストリアこと私が今回の派遣に関して案内をさせて頂く。」

「はっ、この度のご歓待、誠に感謝の至りであります。若輩者どもでありますが、どうか何卒ご教授ご鞭撻をお願い申し上げます。」

「よろしい。ではまずこの輸送車にお乗り頂きたい。此処は鎮守府中枢から些か離れすぎている故な」

 

私が五七式重装甲輸送車改を指すと、妖精さんが察して後部ハッチを開けてくれる。

外界との干渉を一切断ち、窓は厚さ85mmの防爆防弾防光学の鋼鉄の籠。六角形の容器にはこの後部ハッチと、天板に開けられた円形のターレットリング。

ターレットリングで繋がれた砲塔には88mm戦車砲が積まれ、仰角を僅かに上に向けている。

候補生らはそのゴテゴテの軍事車両に萎縮しながらも乗車してくれた。

 

候補生を乗せた五七式重装甲輸送車改と、私を乗せた五七式重装甲輸送車改が整備された軍用道路を走って行く。いやまぁ軍用道路しかないのだが。

私達を乗せた二輌の五七式重装甲輸送車改は埠頭を通って要塞山の内部を通過する予定だ。

検問所にも似たゲートとトーチカの置かれた防衛線を通過すると、視界はトンネルを抜ける。

するとそこは一面雪の世界だった、というように一気に変貌する。

 

広く開かれた巨大な10kmの埠頭には両側に数え切れないほどの桟橋が伸ばされ、巨大な二本のレールにはキリンと呼ばれるガントリークレーンや各桟橋に備え付けの固定式クレーン。

他にも工廠から弾薬やその他補給物資を運び出す埋め込み式の通用路が点在する。そんな後方支援としては最上級の、珍しく満席のドックに収まるはナウル鎮守府に所属する全艦。

駆逐艦から軽巡、重巡、戦艦、航空母艦。そして隅には一応存在する間宮の船体。

 

日本艦独特の正面から見たら三角形に見える、軍艦の黄金律を惜しげもなく表現した猛者たち。小柄な駆逐艦は姉妹ごとに区画分けされた桟橋に係留しており、現在は半舷上陸の状態なのか妖精さんが遊びまわっていた。

最近の妖精さんブームとしてはうず高く聳えるマストに張られたワイヤーに使った降下訓練もどき。適当な材料を使ってワイヤーに引っ掛けて滑り落ちる。そして途中で手を離して如何に面白い技を繰り出して着地するかがポイントらしい。

割と本気で挑んでいる妖精さんが多いらしく、前は大車輪モドキを披露していた妖精さんがいた。因みに所属は給糧兵。何やってるんだろう。

 

電探や装甲、目視での索敵をするための台場やマスト。煙突に主砲と多種多様な装備品が満載された船体はどこから見てもよく映え、数が少なくても立派に見える。

 

灰色の桟橋に並ぶ現代艦ゲフンゲフン軽巡洋艦。

駆逐艦より一回り大きい船体の艤装配置は現代艦や戦艦に近いものになり、軽巡の標準主砲の15.5cm三連装砲を幾つも搭載した小回りのきく船体には両舷にハリネズミのように45mm対空機関連装砲が生え揃い、厳つい。

 

反対側の桟橋には重巡、戦艦が立ち並び、その姿はさながら海上の城。

軽巡らとは比較にならないほどの大きな艦橋には演算装置や会議室、夜戦艦橋や果ては浴室や居住区まで備えている。遠目から見ても巨艦が並び、視点故か重なって見える様は海軍という印象を濃く見せる。

もう一つの埠頭には私達四隻が係留しており、その大きさ、規模は比較にならない。

地球上に存在するどの艦よりも15倍以上ある全長に物言わせた豪華絢爛な艤装は30km先からも視認できるほど。

本当ならもう少し高くできた艦橋は防空面を考慮して360m。此処に喫水線30mと海面下の30mを合わせて420m。十分巨大だし、大和縦にしても高いんだから大して意味ないと思うけども。

 

おっと、要塞山方面に道路が切り替わったらしい。

視界は回転し、一気にナウル島中心の要塞山が見えてきた。

八角形に整形された要塞山には大量の火砲が潜んでおり、その総火力は想像ができない。頂上には全海域対応型万能電探後期型が搭載され、四方には三次元立体全天電子探査機が予備として搭載されるなど、固定版アメストリア型戦艦みたいなスペックを誇り始めている。

と言うのも妖精さんが暇過ぎるのか気分的に魔改造、改修が加えられ続けているからだ。気づいたら要塞砲が別のものに変わっていた、何てことはザラにある。最近は浪漫だからという理由だけで波動砲を乗せようとして、私達全員で必死に阻止した記憶がある。

 

 

そんな曰く付きの要塞山内部は思いの外質素だ。

車輌や戦車が通れるように広いトンネルが貫通しており、全海域対応型万能電探後期型の直下を中心に交差点が作られている。等間隔に設置されたオレンジ色の照明に照らされ、横断してゆく。

途中、幾つかの五七式重装甲輸送車改のグループを見たが、何かあったのだろうか。

 

まぁ、何かあったら妖精さんか妹達から報告が入るだろう。

道は提督棟に繋がっており、直通ではないが、比較的早く行ける手段ではある。

一番は徒歩だがな。これにも理由があって、想定はしたくないが、このナウル鎮守府に深海棲艦が強襲上陸してきた際に、何も防衛設備が無くて一気に提督棟や工廠に攻め入りられたら目も当てられない。

できる限り可能性は潰しておきたいのが本音。後から追加しておいた。

トーチカや検問所モドキにはM634や固定機銃で45mmの単砲身機関砲を配備している。流石に、45mm対空機関連装砲についている回転砲身をつけるのは大きさ的に無理だった。残念で仕方がない。誠に遺憾である。

 

 

 

五七式重装甲輸送車改が停車した。どうやら提督棟に到着したようである。

圧力の抜ける音と共にハッチが徐々に開いてゆく。南国という地理上、強烈な太陽光線が降り注ぎ、このわずかに開かれたハッチの隙間からも容赦なく侵入し、思わず目を細める。

最近は雨もなく、カラカラに乾いた、しかしほんの少しばかり潮の匂いがする風に靡かれ、髪が揺れる。

手で押さえて、振り向くと、ちょうど降りてきたであろう男モドキが、顔を真っ赤にして停止しているのを見て、思わずこちらも止まってしまう。

「......こほん、こちらが我がナウル鎮守府の司令塔であり、貴官らが宿泊する宿でもある。先に荷物を下ろすか。ついてきていただきたい。」

言うだけ言って、足を提督棟へ向ける。

気休め程度に打ち水のされた、提督棟と道路を繋ぐ石畳。

其処を革靴と軍用ブーツと硬い足音がコツコツと硬い音を立て、それに気づいたのか提督棟のメインエントランス、その大きな()()()()()()()()のドアが重い音を響かせて開いた。

大体こういうのに気付くのはウチの妹達か、天龍田。

今回はカイクルであったようだ。大太刀を腰に差し、加えて50cmのホルスターを下げた重武装の艦娘。カイクルは候補生らを一瞥して男モドキをみてニヤリとすると、提督棟へ入るよう促した。そのお陰で見えたのだが、リバンデヒも居た様だ。

珍しく...本当に、珍しくポニーテールにしたリバンデヒはその手にM145-S1Aを持ち、腰に五式自動拳銃を下げていた。一応、警戒はしていたということだろう。

姿の見えないノイトハイルも、どうせ19.8mm重機関銃やら115式対艦機関狙撃銃でも構えて今も監視しているだろう。

 

いつぞやの大和暴走回でも話したが、我がナウル鎮守府の提督棟、艦娘寮は和洋折衷なデザインとなっている。主に景観上の都合で煉瓦が最外殻に張られているが、周囲は森の為ズイズイみたいな若草色と暗緑色の商船迷彩が施されている。

しかし内部は豪華堅牢な物で、最外殻の煉瓦と内装の白い壁の間には1200mmもの分厚い妖精さん印の特殊装甲が張られて、シェルターと化している。

見事に磨き上げられた木目が映える、杉色の道。

大体板張り...そうだな。睦月シリーズの家具見たいなデザインを基調としたインテリアの数々には、実に多彩なものがある。

どこから持ってきたのか巨大な旭日旗や青葉が撮ってきたと思われる戦闘、平時問わずの軍艦の写真の数々。更には実弾が装填されている骨董品のG43やKar98.三八式歩兵銃まで。

そんな些か物騒な廊下を、候補生を私達が挟んで歩いて行く。

時折用事があったのか通り過ぎる艦娘と適当に会釈しながら、目的地へと向かって行く。

提督候補生の宿泊する客間は提督棟の中でも東側の出っ張りに位置し、元々客人を意識して設計された部屋だ。今まで使用されることがなかったのが、今回は日本側の使者ということで使用することになった。因みにアメ公共は西側に詰め込んでいた。

「此方だ。この部屋とその部屋を使って頂きたい。ここでの扱いは海軍司令部からの客将だ。起床時間はこれといって決まっていないのが此処だが、それは此処が異例だからである。

起床時間は朝六時。担当の艦娘が訪れるであろうから、艦娘の指示に従っていただきたい。」

「......一つ質問をしても?」

「何だ?」

いかん、さっきから敬語が崩れてきてしまっている。

やはり私に敬語は合わない様だ。何というか、ムズムズしてしこりがあるみたいにぞわぞわする。

「ここの風紀は随分と緩いようですが、軍規の方はどうなっているのでしょうか」

「...前線などこういうものだ。一応私達は軍隊である以上、規律にしたがって生きてはいるが、何しろ此処は攻められる側ではないのでな。特に逼迫した状況でもないからこうなっている。」

「......」

男モドキは納得がいっていないようである。

しかし、現実問題こんなもんである。非番なら起床時間とか自由だし、特に何やっていても構わない。別に自主練だろうと遊び倒そうと引きこもろうと艦娘の自由なのだ。

流石に当番というシフトは艦隊ごとに設定して一日ごとに警戒は切り替えているが、そっちも特に規則があるわけでもなく、誰が決めたものでもなく自然に早めに集まって軽い会議。そして適当に出撃しているだけである。

航路はパターン化されているがな。

 

「確かに、他の鎮守府ならばこうもいかないだろう。ここまでの戦力と技術があるからこそ、此処ナウル鎮守府は安定した戦況を維持できているのだ。前線のなかでも此処は特異すぎて参考にならんだろう」

「......そう、ですか」

ナウル鎮守府は特殊すぎるのだ。

運用方針も、技術も、何もかも。

例えば他の鎮守府の主力艦の速力は精々20ノット後半。

翔鶴型は非公式に40ノット出せたらしいが、他艦艇はそうもいかないし、燃費によろしくない。作戦行動なんか取れたもんじゃないしな。

 

他にも、砲だって違う。ウチでは最早型落ちになりつつある46cm三連装砲とて、他では未だに最強の火砲だ。射程は40kmを超えるし、その威力は改良型砲弾でバイタルを抜けば戦艦とて屠ることが可能な圧倒的な火力。三十秒毎発という威力にしては高レートな発射速度も合わせて持った名実ともに最強の砲だ。

駄菓子菓子、悲しきかなナウルには500cm四連装砲がある。

最強の座は受け渡し、積んでいた大和でさえ56cm三連装砲を積んでいる。

あとは、電探か。未だに二十一号とか三十二号とかで頑張っているのだろうが、ナウル鎮守府では全海域対応型万能電探後期型、三次元立体全天電子探査機、113号対空電探をはじめとしたミリコンマで探知可能な高性能電探のオンパレードだ。

 

あとはアレだ。魚雷が無い。

よって水雷という概念がなくなり、攻撃手段の大幅なレンジ拡大につながった。

ミサイルは言うなれば火薬を積んだロケットである。当然ロケットは大気圏、果ては宇宙空間にまで到達するためのものであるからにしてそれに火薬を積んだのだ。当然だが魚雷とは比較にならない射程と速度を誇る。これほど便利で使いやすい兵器は中々無い。

まぁデメリットが無いわけでは無い。現実的に考えればミサイルは単価が高くまた搭載量も小さくならざるおえない。デカイしな。

しかし、アメストリアにはそんなことは関係が無い。便利な事に艦娘のシステムとして〔弾薬〕という概念が砲弾からミサイルまで一緒くたにしているため装弾数はモーマンタイ。

しかも〔弾薬〕で生成しているから単価なんかあってないようなもの。量子変換器もあるし。

魚雷は当時の価値で一億円という話は有名だが、現代のミサイルはもっと高額である。

誘導装置やら希少金属を使用した噴進部分など馬鹿みたいに金がかかる部分が多いからだ。

私達が使用しているハープーンやグラニート、トマホークも例に漏れず高額で1発が空飛ぶフェラーリだが其処は妖精さんクオリティ。改造されているし、繰り返しになるが〔弾薬〕があれば幾らでも作れるので全く問題が無い。

 

軍隊の抱える装弾数の少なさと精度の問題から解放されたナウル鎮守府だからこそ特異で強靱なのだ。無論、それを使いこなす艦娘の練度もあるのだが。

 

 

さてさて、候補生らには荷物を置いてもらい、その足で提督室へ。

途中リバンデヒは予定があると言って離脱したが、代わりにノイトハイルがパーティに加わった。

「提督、提督候補生をお連れした。入ってもいいだろうか」

「どうぞ」

扉を開けると、多少は片付いた、しかし山盛りに積み重なった書類に囲まれた空間が広がった。まるで雑誌の編集社のような有様に候補生らは絶句している。

おおよそ提督になったらこんなに書類が湧いてくるのかと戦々恐々しているのだろう。

いやいや、まず無いですからこんなこと。

 

「あぁ、ごめんねこんな有様で。ナウル鎮守府は周辺の鎮守府のハブだから書類が集まるんだ。他の鎮守府はこんなになってないからね。ははは、」

 

提督は余裕たっぷりに笑っていた。随分と面の皮が分厚くなったようで。

上手いこと誤魔化せたようで、何よりだ。

 

「えっと、提督の業務内容だったね。まず、提督は指揮官だ。後方に引き籠って艦娘に戦ってもらう。僕らは実質何もできないんだ。そこは重々承知していてほしい。」

 

「じゃあ提督はどうやって支援するかというと、一応軍隊だから演習や遠征、出撃をするとその成果や戦闘記録を報告しなきゃならないんだ。この報告書の作成や艦娘のシフトを組んだり編成を決定したり。でもこれは前線に居ない僕らが決めたら大惨事になるから『秘書艦』といって補佐をする艦娘を任命するんだ。」

「その秘書艦と相談して最終的に編成や艦隊を決定。作戦を実行したりする。だから君たちも最初は秘書艦選びが最初の仕事になるんじゃ無いかな。」

 

そう語る提督は、実に様になっていた。

パラオ鎮守府から続いて早二年。もう新人では無いだろう。鎮守府を放棄するという苦渋の決断を下すことだって経験しているんだ。事実私達が提督業務としてこなしているのは事務方。編成は作戦でも無い限り提督が決定している。

あれだ、最初は酷かったぞ?新造した戦艦を遠征に入れてガン回ししようとしとたからな。

そんなことしたら破綻する。

 

「寺塚中佐殿、質問をしてもよろしいでしょうか」

「うん、何かな。」

「先程港を拝見していたのですが、四連装砲や回転砲身などといった新装備が散見でき、46cmを超えると思われる主砲を多数見かけたのですが」

「あー、それは此処の工廠妖精さんは物好きでね、よく変な兵装を開発するんだ。けど、その観察眼には恐れ入ったよ。遠目から見たら分からないはずなのに」

 

確かにそうである。港は姉妹ごとに固めて係留しているにしても重巡、戦艦、空母は出来る限り外見に変化は無いように努めていた。あ、空母はその限りじゃ無いけどな。加賀とか。

 

「代々軍人の家系でしたので幼い頃から実艦は拝見させていただいておりました」

 

成る程。それなら違和感に気付くのも当然と言える。ウチの金剛型や長門型は三連装砲積んでるしな。

 

「あぁ、成る程。だからかな聞き覚えがあったよ」

「恐縮です」

「うんうん、では見破った報酬に、情報をあげよう。現在我がナウル鎮守府には金剛型、長門型がいるんだけど全艦、51cm三連装砲を装備しているよ。大和型は最高機密だから教えられないけどね。」

 

尚私達の500cm四連装砲は普通に暴露されている模様。

まぁ明かした所で対策できんわな。絶対干渉結界でももってこい。

 

「.......51cmは試作のみで終わっていた筈では...」

 

流石オタク。だがしかし工廠妖精さんを舐めてはいけない。

ノリで核を作る危険民族なのだ。私が頼んだ戦力拡充を不具合なく完璧に仕上げたその実力はこの鎮守府をもって証明されている。

 

「うん、でも最近深海棲艦も脅威度が上がってきていてね。現状の兵装じゃ対抗できなくなってきたんだ。」

 

深海棲艦にも二種類いる

一つが今までの燃料を燃やして足を動かし精度の悪い電探と砲弾で攻撃してくる旧式深海棲艦。

もう一つがアメストリアスペックを誇る新型の深海棲艦。

脅威度が高いのがどちらかは言うまでもない。

 

「あとはーーーーーっ!?」

突如鎮守府に警報が鳴り響き、俄かに騒々しくなる。

急いで意識を中央演算処理装置に潜り込ませれば、全海域対応型万能電探後期型が突如出現した不審艦をキャッチ。第一戦闘体制に移行し、警戒態勢が戦闘態勢に切り替わったのだ。

「こちらアメストリア。状況を知らせ」

『こちら吹雪です!巡回中に目視にて不審艦を確認!現在追尾中です!』

「了解した。現在即応艦隊が急行している。付かず離れずの距離を保ち追跡を続行せよ」

『了解ッ!』

砲声が聞こえるのは、例の不審艦と砲撃戦になっているからだろうか。

ちらりと窓を覗くと警報に追われた第六駆逐隊と川内が緊急出撃している所だった。

 

 

 

あ、

 

 

 

 

 

 

.......あれ程湾内で緊急加速するなと言って聞かせたのに...

派手な水飛沫を上げて大きくせり上がった艦首が着水すると一気に加速し、目にも留まらぬ...追えたけど素早い動きで出撃していった。

当然ながら突如出現した着弾の水柱のようなものや爆発音ような全速で進んだことによる水の叩きつけ合いに他の艦娘が騒然として出撃しかけた。

またか...

 

「全艦落ち着け。今のは川内の湾内における全速前進に伴う水柱である。着弾ではない。繰り返す。着弾ではない」

 

慌てて旋回させていた主砲を元の位置に戻す艦娘が多発。

気の早い艦娘は既に湾内に漂っている。

 

『...こちら神通です。川内姉さんがご迷惑をお掛けしました...後でキツく言っておくので、ご容赦ください』

 

....南無三。

君のことは忘れないぞ夜戦バカ!

 

 

 

.......冗談はこれほどに、不審艦は十中八九深海棲艦だろうが、問題は全海域対応型万能電探後期型が探知できなかったことにある。

曲がりなりにもアメストリアの技術で作られた全海域対応型万能電探後期型は優秀な性能を発揮する。しかしその電探をもってしても探知できなかったのだ。これは異常だ。

深海棲艦が全海域対応型万能電探後期型すら欺くステルス艦を作ってきた可能性がある。以前のようにトンネルを掘られてはたまらないので、三次元立体全天電子探査機によって海底はくまなく探し出されている。その結果がトンネルは無し。

ならばステルス艦を開発してきたと言う線が濃厚だろう。

またはあまり考えたくないが、転移してきたか。

これもあながち否定できない。だってアメストリア軍は出来るんだもの。

何らかの転移技術を確立して、今回テストしたと言う可能性は否定できない。

まぁ普通こんなとこにテストで送り込まないと思うが。

 

「吹雪、不審艦の外観的特徴を報告してくれまいか」

『えっ!?あ、はい!えっと...全体的に黒く、突起が少ないです。あと主砲も変な形をしています』

「......そうか。引き続き警戒しつつ追尾していてくれ。もう少しで援軍も到着する」

『はいっ!...あ、でもどうしましょうかこと不審艦...』

「何、やることは変わらぬ。撃沈してサンプルを幾つか見繕ってきてくれ」

「了解です!』

「提督、先に失礼する」

「うん、気をつけてね」

「承知した」

 

転移して、直ぐに妖精さんを集合させる。

 

「妖精さん、集まってくれ」

 

その一言に暇してたであろう妖精さんがわらわらと集まってくる。

 

「話に聞く通り現在鎮守府近海に不審艦が出現。現在吹雪が追撃中である。

私達の目的は不審艦の残骸の調査だ。例の艦内工廠は空いているか?」

''現在例のブツの開発中です?''

''場所とるです?''

''危険ですなー''

「そうか...ではナウルの方の工廠にて解析する。周囲に同型艦がいないか注意して警戒していてくれ」

''あいあいさー''

''かしこまりー!''

''サーチアンドデストロイです?''

''デストロイアンドデストロイです?''

 

なんか破壊論者が混ざってる気がするが、妖精さんにも色々あるんだろう。触れないでおく。

帰投するため反転を始めた吹雪らを傍目に私も工廠へ足を運ぶ。

ナウル鎮守府の場合工廠は別途、地下にあるから移動に時間がかかるのだ。

工廠とドックは間反対の位置にあり、それを結ぶのは物資輸送用の細かい地下連絡網のみ。

島を囲むように工廠、航空基地、修理工廠、軍港、提督棟防衛用の人工島にある高射砲塔。

そして中央に鋼鉄製の要塞山があるわけだ。

当然ながら移動にはとてつもない時間がかかる。だから車両を使用して移動しているわけだな。

 

 

五七式重装甲輸送車改を使って直ぐに工廠に移動。

工廠の地上施設は一部海に接しており、私達は無理だが大和や加賀でも接岸できるある程度の機能を持った港湾設備を備えている。

見ると既に吹雪が接舷しており、その周りには工廠所属の三一式特大型輸送車両や二九式半駆動式大型輸送車両が集まっており、仮設クレーンが残骸らしき黒い破片を吊り上げ、輸送車に乗せるという作業を開始していた。

珍しく工廠地上設備が息吹を吹き返している。いつもは地下で完結しているので地上設備は一切稼働していないのだが、今回の不審艦残骸回収の為地下へ通じるハッチなどが稼働。俄かに活気付いている。

 

「吹雪」

「あっアメストリアさん!」

「よくやってくれた。見る通り妖精さんは大喜びだ」

 

主に未知の技術が目の前にあるお陰で。

 

「い、いえ!私はただ不審艦を撃沈して妖精さんに残骸を回収してもらっただけですし...」

「いや、不審艦というのは未知の塊だ。どういった攻撃手段でどんな威力があるかもわからない。それに近づけというのだ。酷な任務を置きつけてしまって申し訳ない」

「いやいやいや!わざわざアメストリアさんが謝ることじゃありませんってば!それに、昔と比べてだいぶ安全な任務ですからっ!」

「......そうか。すまない」

 

あとから考えたら、あまりにも軽率な命令だった。

さっきも言った通り不審艦は何もかも分からないから不審艦なのだ。

艤装の技術的年代。装甲や兵装、速力一切が不明。

無線から砲声が聞こえていたから火薬を使用した砲熕なのだろうと推測したが、レーザー兵器を副武装に備えていても何ら不思議はない。反省がひつようだな、これは。

 

''艦娘さん艦娘さん!残骸の回収完了したです?''

''輸送車できゃりーしてるです?''

''解析は時間かかるです?''

''よんあわーです?''

「...承知した。解析は慎重に正確に頼む。.......全艦に通達する。全艦準戦闘体制に移行せよ。繰り返す。全艦準戦闘体制に移行せよ。あと川内、第六を連れて巡回に出てくれ。大和は適当に戦艦、重巡を第二艦隊から抽出して臨時編成。鎮守府近海12海里にて戦闘待機していろ」

『...こちら川内、了解だよ!第六はどこだ〜!』

『大和、承知しました。武蔵と長門さん、鳥海さん、摩耶さんを連れて戦闘待機致します』

 

此処からでは伺えないが恐らく大和と武蔵、長門、鳥海、摩耶が動き出しているだろう。

巡回には川内、暁、響、雷、電。

川内は高練度かつ高火力。六駆は一応古参だし信頼を置いている。旗艦の方が心配だ。

追撃には大和、武蔵、長門、鳥海、摩耶。

大和、武蔵は56cm三連装砲。長門は51cm三連装砲、鳥海、摩耶は35.6cm三連装砲。

火力は十分。尚全員神通の教練の犠せ...卒業生だ。


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