ーーーーーーーーーーーーアメストリアsideーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ドックとの接岸!」
''確認しましたー!''
''とーちゃーく!''
「錨下ろせ!機関停止。全武装を一時停止する」
''錨じゃらじゃら〜''
''主砲てーし!''
''上陸する感じです?''
''する感じですなー''
取り敢えず妖精さんはいつも通りの様である。
船体の機関が停止したのを確認し、真新しいドックに降り立つ。
...
......
........
ちょっと色々と突っ込んでもいいだろうか?
妖精さん達を最初に送り出したのが5、6時間前だ。
しかし、ナウル島はすでに改造されており、私が以前砲撃で更地にした場所には少しだけ豪華になった、資材をふんだんに使った頑丈そうな軍事基地が出来上がっており、赤レンガの提督棟、戦艦寮、空母寮、重巡洋艦寮、軽巡洋艦寮、駆逐艦寮が並び、周りは鋼鉄製の壁で覆われている。
そしてその外側には対空砲として45mm対空機関連装砲や10cm、12.7cm、20.3cm口径の高角砲の砲塔が大量に並んでいた。ミサイルハッチも離れたところであるが膨大な数が地面に現れた。
あの滑走路は改造されて地盤自体が強化され地下格納庫にはCT-7やF-105が眠っているだろう。
ちょっとした山は緑が消え、灰色に染まっていた。全て装甲化され、所々に巨大なトーチカが存在し、張り出した土台には500cm四連装砲がその巨大さを堂々と見せつけていた。
重装甲の壁が島全体に幾重にも張り巡らされ、陸軍の駐屯''城''まであった。
完全な要塞である。鉄壁の防御と凶悪な攻撃力を持つ正真正銘世界最強の要塞がたった数時間で完成したのだ。異常性に気づいてくれただろうか?
うん。これはおかしい。何と戦う気だ?GOJIRAか?ウルト○マンか?どちらにしろ勝てる自信がある。断言しよう。どうせ地下も魔改造されてるんだろ?分かるよ妖精さんと付き合ってるんだから。思考回路は分かるよ。はぁ...これは面倒なことになりそうだぞ...電子的防御の面はレーダーが113号電探を四方に設置し、一番外の外壁は厚さ...目測だが20000mmを超えていた。水深は500mまで削られていると思われる。無論、海底まで鉄壁の外壁は刺さっている。
なんか、アル○ジオの横須賀を彷彿とさせる。あとはナチスの要塞だろう。なんか島自体が灰色に染まり、所々、例えば海岸(残り)や赤レンガの寮、黒色の巨大工場の工廠などが偶にあるだけで、正直滑走路より私がでかいから私達が一番目立っている。
ドックには大和達が全艦停泊し、見た所特に損傷もないようで、安堵の息をつく。
良かった...無事、到着したんだ。
それに比べて、と私の船体を見上げる。全高360mを誇っていた艦橋は一部が欠けており、小さく煙を吐き出し、本来硝煙などを吐き出すべき二本の巨大な煙突からは黒々とした煙が上がっていた。
威風堂々とした完璧な黄金比を保っていた船体は甲板が捲れ上がり第二主砲は砲身が折れ中途半端な旋回で停止している。両側面の装甲は激しく損耗し、緊急修理のための継ぎ接ぎの装甲や深海棲艦の主砲弾ゼロ距離直撃により凸凹になったり、対空砲により至る所にひしゃげた45mm砲弾と薬莢が転がっている。45mm対空機関連装砲も幾つかが敵砲弾により崩れ、大破していた。
艦首、艦橋、艦尾の順で張り巡らされていた太いワイヤーは切れ、凸凹の装甲が晒されている甲板に横たわっていた。全体的に煤汚れ、激戦のあとを物々しく語っている。
「姉さんっ!」
背中に重い衝撃を感じ、体制を崩しかける。
カイクルが突っ込んできたのだ。思い切り抱きつかれ、体が締め付けられる。
ちょっ、きついきつい...しかし私に反対する権利は無い。また殴り合いをしたのだ。挙げ句の果てに中破し、巫女服も所々が破れ黒く汚れていた。幾つもの血痕があり、首元には赤黒い吐血痕が生々しく残っていた。緋袴は裾が切り刻まれた様な悲惨さを呈していた。
また着替えなきゃなぁ、と呑気に考えていると今度は前方からポニュンという柔らかい感触がし、誰かに抱かれていることがわかる。しかし視界が完全なに遮られており、カイクルによって一切の身動きが取れないため大変パニクってる。何!?誰が抱いてる!?
息続かんから止めろ!
「ふぐっ....リバンデヒ、か?」
「そ、そうよ!散々心配かけて!お姉ちゃん相応の責任を負っているのよ!?少しは自覚しなさい!」
「僕はお姉さんが死んだら自殺するよ?だって戦う意味がなくなったもん。それ位、お姉さんが大きな存在なんだよ?」
リバンデヒ、ノイトハイルから苦言と暴論によって説き伏せられる。
し、しかし私だって責任は理解しているつもりだ.......いや、認めなければならない。完全には理解していなかったようだ。
私は本当のアメストリアでは無い。
けど、その行動理念には艦娘の精神に対する配慮がなかったようである。無事かどうか、絶対に艦娘だけは助けると決め、そう動いていた。私の被害など眼中にすら入れていない。ただ、結果として艦娘に良い印象を与えていただけで、よりにもよって最も大切な妹達に対する配慮を考えていなかった。
あぁ...私何やってんだろ...
「すまない......」
「........」
「........本当よ...」
背中から泣き声を押し殺したしゃくり声が聞こえる。まーた泣かしちゃたなぁ...
妹達に対して、深く考えていなかった。もしかしたら部下のような感覚だったのかもしれない。一種の信頼であるが、妹としての態度では絶対に無いだろう。
私は、本当に自分の意思で動いていたか...?否。
アメストリア軍籍の末席を頂いていた頃の、本能や経験に従っていただけだ。つまり、前例主義だった訳だ。
私がしたいと思って動いたのは実の所、ほとんど無いのでは無いだろうか?
最初の戦闘然りドック魔改造しかり妹達の建造然り。まぁ、鎮守府の着任は私の意思であったが。
これからは、私のしたいという意思で行動することにしようと思う。無論、妹達と艦娘を第一に置く。護りたいのだ。戦艦の本来の意義として。国なんて大層なものではなく、私が護りたいと思った相手を守りたかったのだ。悪いが、それを邪魔するものは全て撃滅する。
なんであろうと、国であろうが星であろうが全て叩き伏せる。これを狂気と言うのだろうか?『私』の本質であるが何か?元々戦艦にまともな精神を持ったヒトがいるわけが無いだろうに。
人間は知らんが。今の人間って銃の扱い方だって知らないらしいじゃ無いか。
関係なくもなくあるわけでもない。人を躊躇いなく殺せるかどうかだ。
閑話休題
「大丈夫、かな?」
「......私は一応大丈夫だ。妹達の精神状況はかなり危険だが。」
「自覚してくれてなによりだよ。まぁ、僕はこの鎮守府を取り敢えず回ってくれから、休んでおいてね。」
「了解した。カイクル、良い加減離れろ」
「嫌だ...」
「はぁ...」
まぁ、カイクルが駄々をこねるのはかなり珍しいため無理に動かさ無い。
リバンデヒは大人(笑)の為、すぐに離れると表面上だけ取り繕って私が手足を動かせないことを利用し頰にキスをして自らの船体へ帰っていった。は、恥ずかしっ!!
「ノイトハイル...」
「ん〜?」
「すまなかった」
「良いよー!僕はお姉さんが大好きだからね、許してあげるよ。けどね?ちょっと言うことは従ってもらうよー?」
「...わかった」
「やったね。お姉さんは僕のどれ....
そう言ってノイトハイルも去って行く。ちょっと聞き捨てならない言葉が聞こえたが、拒否権などあっても無いものだ。
大和達は私達の空気を察してか既に寮に戻っていた。
私達も海風が吹きオイルや硝煙の匂いが漂うドックに突っ立っているわけにもいかんので私の船体へ転移する。医務室だが。良い加減負傷を治したい。しかし、
カイクルが抱きついていて何も出来ない。これどうしよう。
別に甘えたかったら好きなだけ甘えて貰えて構わないのだが、今だけはやめて頂けないだろうか?結構痛いんだよなぁ...
「カイクるぅ!?」
思わず声が上擦ってしまった。無理もない。何故か突然ベッドに押し倒されたのだ。
その為至る所の傷が痛み、激痛が走る。
「か、カイクル?」
「どうした?」
「何かおかしくないか?」
「何がだ?私が姉さんの四肢を拘束しているだけではないか」
いやいやいやそれどう考えてもおかしいからね?ね?犯罪臭プンプンするよ?どっちも美貌だけは恐ろしくイイ為余計危険臭が!
「元はというば姉さんが私達の気持ちに気づかなかっただけではないか。元々私達は姉さんの事が心から好きなのだぞ?」
「それは、いいから、今は離れろぉ!」
私がきゃんきゃん騒いでも拘束は解かれない。くそぅ...結構痛い...カイクルってヤンデレか?いや違う。確かにちょっと妹達自体病んでるけどこれは違う。ちょっと驚いてるし。わけわかめ。
ちょっと痛い...というか血がやばい。さっきの組み伏せられた時に傷口が開いたらしい。どくどくと容赦無く血が流れ、軽く貧血だ。こういう時は、意図的に意識をブラックアウトするのが良いんだが...何されるか分からんからな...私の周りは知らぬうちに危険になっていたようだ。
まぁ、いいや。意識はーなそ。
ーーーーーーーーーーーーーカイクルsideーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
いま組み伏せた姉さんの体から抵抗していた力が抜け、首が力無くベッドに落ち、横を向く。
気を失ってしまったようだ。しかしその顔は苦悶の表情を浮かべているわけでもなく、狂気や恐怖を感じさせない無表情であった。それでも綺麗なのが姉さんだがな。
やはり、姉さんは綺麗だ。滅多に笑ってくれないが、無表情であってもその美貌だけは衰える事はなく、綺麗に弧を描く眉毛に長い睫毛。閉じられた瞳、小さな鼻に桜色に染まる小さな唇。
病的までに白い肌はすべすべとしており、シミひとつなくいっそ神々しいほどの完璧な美を纏っていた。
腰まである艶やかな鴉の濡れ羽の如く見事な黒髪は押し倒したせいか扇状に広がり乱れていた。
しかし、その中身はえらく空っぽであった。何かがなかった。今まで伊達に4900年妹をしていない。何と無く、分かる。『何か違う』と。しかし今となってはもう気にならない。姉さんが私達の事をしっかりと本当の意味で見てくれるようになった。なってくれた。
けど、あの深海棲艦とのなぐりあいはヒヤヒヤしたぞ...今もこの船体はボロボロになっている。しかしあの妖精さんの事だ。姉さんの船体の修理は始めているだろう。何故か姉さんは妖精さんに好かれているからな。
さて、私も目的であった姉さんの治療をしないとな。
拒否されても困るから拘束していたんだが、姉さんは何を勘違いしたのか抵抗してきたからな。
驚いたぞ。私はリバンデヒやらノイトハイルとは違うんだが...取り敢えず、姉さんの血に濡れた白衣を脱がせ、襦袢をはだけさせる。
形のいい筈の胸が無理矢理押さえつけられ、谷間をより深く作り出している。これ姉さん無自覚か?恐ろしいな...何?私の方が大きいって?知るかそんなもん。ただ大きくても困るぞ?ベガル製重火器が扱えなくなるからな。
妖精さんに包帯とガーゼ、消毒液を持ってきてもらい、慎重に全ての傷を治療してゆく。殴りあったとあって、打撲痕みたいな痣があったが、気にしないでおこう。
ガーゼに消毒液を染み込ませ、傷口に当てる。
「んっ!.........」
すると姉さんが形のいい眉を歪めながら歯を食いしばっていた。おそらく無意識にとっている行動だろう。なるべく手早く終わらせる事にする。
あまり姉さんを痛めつけなくないからな...
『カイクル、お姉ちゃんはどう?』
「む、リバンデヒか。大丈夫だ。少し凹んでいるが問題はない。しかし物理的な傷が酷い」
『そう.......私はすぐに修理次第近海の掃除に行ってくるから、ノイトハイルを送るわ。』
「了解だ。」
ノイトハイルが来るという。外を見ると、リバンデヒの至る所から火花が散り妖精さんが忙しなく動いているのが分かる。修理が始まったのだろう。私は特に損傷していないからな。
姉さんは突っ込んだが。姉さんは突っ込んだが!
「お姉さんは?」
「大丈夫だ。」
数分経ち、ノイトハイルが姉さんの医務室へとやってきた。
急いでいたようで息を切らしているが、転移すればいいだろう...
いや、それほどまで焦っていたのかもしれない。
「ふふふっ...やっと僕もお姉さんを好きにできるね...」
「む......それはいけないな。姉さんは私達の物だ」
「いやいやさっき僕はお姉さんから奴隷宣言もらったからね。もう本人の了承は得ているんだよ」
「.......」
「....貴様ら本人を無視して何話してる.......」
「姉さんっ!」「お姉さん?」
どうやら知らぬ間に姉さんが意識を回復していたらしい。
良かった...
ーーーーーーーーーーーーアメストリアsideーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
凛とした声と優しさのある落ち着いた声が聞こえ、目を開ける。
どうやら医務室のままであるらしい。
「いやいやさっき僕はお姉さんから奴隷宣言もらったからね。」
ん?...あぁ、アレか。というか会話自体すごく危ないと思うんだがどうだ...?
「...貴様ら本人を無視して何話してる.......」
相当な心配をかけてしまっただろうか?いや、私は大切な物を失いかけたがそれを引いても償えない程の心配をかけてしまっている。
しかしノイトハイルに隷属宣言をしたのはまずかったかなぁ...Sだし何されるかと考えるとゾッとする。絶対リバンデヒを呼ぶだろう。今度こそ泣くぞ?
「姉さん、私も好きにしていいか?」
「ダメだ。私は物では無い。」
「むぅ...まぁ、良い。兎も角、体は大丈夫か?」
軽く体を見た。
巫女服は新しい物に変えられ、大量の包帯があちこちに巻かれている。
毎回の事であるため、もう見慣れた。しかも動いた事によりまた血が滲んでいる。
はぁ...どうしよっかなぁ...