ーーーーーーーーーーーーアメストリアsideーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
どんよりとした雲に朝日は遮られ、午前中であるにもかかわらず少し暗い洋上に私は居た。
ほんのりと潮と硝煙の香りが風に運ばれ、髪を揺らす。私は、戦場にいた。
天高く伸びるマストには誇り高きアメストリア軍アメストリア海軍旗が堂々と掲げられ、船体の前進する事によって発生する風に煽られゆっくりとはためいていた。
私を先頭とし、大和、金剛、比叡、蒼龍、飛龍が追従し、艦隊を組んで少しばかり急ぎ足で海を進んでいた。
遥か後方にはリバンデヒがおり、榛名や霧島などと言った戦艦や空母を引き連れて別の海域へと進んでいった。
「全艦、戦闘態勢。速度を45ノットに上げ」
警報が鳴り、妖精さんの動きが慌ただしくなる。
500cm四連装砲や150cm四連装砲には実弾が込められ、薬室に当たる部分が密閉される。
給弾レールには九一式徹甲弾が転がり、排気管と煙突が繋がれる。
レーダーが捜索範囲を広め、対空砲が起動する。空母の甲板にF-105が上がり、垂直に離艦して直掩機として上空に留まる。無論、フル武装である。
「針路 0-3-2に変更。」
''了解。0-3-2に変更します''
船体が少し傾き、舵によって人工的に変えられた水流で巨艦がゆっくりと針路を変え始める。
大和、金剛の順で追従艦も続々と続き、北へ進む。
「ってぇー!」
「主砲、撃ちます!」
「全砲門、fire!」
私の一声を機に巨砲が未だに慣れない速射砲も真っ青な連射を見せ、一発で全てを破壊する威力を持った砲弾を大量に撃ち出してゆく。同時に砲身や給弾機構、発射機構の冷却も行われ、膨大な量の水蒸気がパイプを伝って煙突から排出される。それが五基分であるためかなりの量の水蒸気が排気される。船体側面から大きな黒色の薬莢がジャラジャラと排出されてゆき海中に没してゆく。
私を始めに大和も金剛も150cm三連装砲などの主砲を撃ち続けてゆく。
海面が砲撃の衝撃波により激しく乱れ、津波と化しより海を荒らす。
元々、主砲はバカスカ撃つ物ではないのだが最近まともに発砲していなかったため、鬱憤晴らしを兼ねて弾薬無視でフルファイアしている。後で怒られるかも知れないが。
30000m以上先の深海棲艦は一方的に虐殺され、黒い船体を引き裂かれてゆく。
ある船体は真ん中を徹甲弾に後ろにいた艦諸共貫かれ爆沈し、ある艦は正面から全て削り取られ原型を留めないまま轟沈。またある艦は航空母艦から放たれた熟練のは言い切れないが驚愕の技術を持つ航空隊にミサイルで、機銃で沈められる。
私達の砲撃で発生する硝煙や爆煙のみで軽く積乱雲が出来るほどになった頃、砲撃を止め、電探の出力を上げて索敵範囲を強める。今回は時間との勝負である。あと30分で帰投しなければならない。
何故ここまで慌ただしいかを説明しよう。
それを語るには少々時間を遡る必要がある。
世界最強の軍事基地であるパラオ鎮守府とあれど、深夜はとても静かである。
島の存在を告げる照明灯以外は殆ど電灯も付いておらず、艦娘も一部を除き寝静まっている。
その一部というのが私であるが。
私は何時ものようにブラック企業も真っ青なサービス残業でただ何も考えずに書類を機械的に処理していた。提督には無理を言って先に休んでもらっていた。提督は人間であり、多少の攻撃ではビクともしない艦娘とは身体の強さが違うからである。というか倒れられたら私が耐えることができない。絶対に''鎮守府''へ砲撃を開始すると思う。冗談抜きで。
ともあれ、私はひたすらにつまらない、下らないとしか言いようが無い書類にサインを入れてゆき、処理済みとして纏めていた。因みに巫女服で行っていない。辛いんだもん。
襦袢に白衣を纏っただけであり、髪も纏めている。ノイトハイルを起こさないように別室にて処理していた。
しかし、遂に平穏に終わりが告げられた。
地面を揺らす衝撃に襲われ、何事かと窓に駆け寄った。
そこには、鎮守府の地上施設が炎上し、空襲警報がけたたましく鳴り響く。幾つもの対空砲が起動し曳光弾が光の線を空に描いていた。
さながら、真珠湾攻撃だった。上空を超音速で深海棲艦の艦載機が轟音と共に機銃掃射を置き土産に飛び去る。滑走路にはMk.14が投下されたのか小規模な爆発が断続的に起きており、遥か上空から爆弾が投弾された。少なくとも、空母がいる。しかし、B-97は航空母艦からの発艦は色々と不可能である。何故...?
その警報を聴き、流石は根は軍人とあってか全ての艦娘が起き、眠気を吹き飛ばした。
戦艦は私が統率し、航空母艦は一応古参である龍驤と大鳳が。重巡、軽巡、駆逐は高雄や矢矧や龍田が統率して実に十分で出撃態勢が整い、ドックが全て開けられた。艦種関係無く海上に上がり、元々海上にあった船体は既に反撃を開始。ミサイルハッチから多数の対艦ミサイルが放たれた。
それ以降断続的に深海棲艦による襲撃が続き、弾薬の消費が激しくなり、基地航空隊にも被害が出始めた。と言ってもバンカーにあったCT-7であったが。
まぁそういう事もあり艦娘が全体的にイラついていた。当然である。
せっかくの安眠の時間を邪魔された挙句、家が攻撃に晒されたのだ。
幸い湾岸砲や意味不明な程の対空砲で深海棲艦による攻撃は全て防がれ、海上からの襲撃もイライラしていた艦娘によりフルボッコにされていた。
何しろ、あのおとしめやかだと思っていた神通が不機嫌だったのだ。相当な物だろう?
そして、日の出と共に反抗作戦が開始。
不意を突かれる危険性もあったため、パラオ鎮守府を起点として、2000km以内全ての敵性勢力を全て塵に還す事になり、search and deathtroy となっている。
尚、全体的に殺気立っており、龍田の笑みが深くなっていた。あれはちょっと危ない。
今はノイトハイルを旗艦に暴れていると思うが。
しかし、逆を言えば出撃と補給を繰り返し、一切の休憩を挟んでいない。
幾ら戦うことが目的の軍艦であれど、連戦はかなりキツイものがあり、艦娘にも疲れが見え始めている。
''座標固定しました!''
「ってぇーー!」
かく言う私も若干であるが徹夜の後の為疲れが溜まり、それを砲撃でまぎわらしているのが現状だった。一番、二番砲塔が砲弾を放ち、後方の甲板からグラニートが飛び出してゆく。
「すぐに帰投する!全艦最大戦速で離脱しろ!」
これ終わったら少し休憩しよ。幸い鎮守府の隻数は増えて艦隊も五艦隊位は編成できる。
舵を切りゆっくりとであるが船体を反転させる。今尚主砲は無いが46cm三連装砲は幾つか吹いている。90度変えるだけで五分。反転で十分かかる。
それに対して、あの世界最大級の私の大好きな超弩級戦艦、大和型戦艦はアメストリアの技術により魔改造され二分程で反転することができる。うん。それって戦艦か?と思うが、機動性と火力を重視した結果こうなったのだ。仕方ない。仕方ないったら仕方ない。
''レーダーに感あり!敵機接近!数、3です!''
「45mm対空機関連装砲起動。直ぐに撃ち落とせ」
''無理です!敵機の速度がマッハ十を超えています!''
因みに、45mm対空機関連装砲の迎撃可能速度がマッハ8.5だったりする。
それだけでも十分だがそれでも迎撃出来ないのがアメストリアクオリティである。
は?ふざんなって?私が言いたいところだよ。なんたって被害と痛みを受けるのは私なんだから。結構痛いんだぞ?1000kg級爆弾とか殴られたような感じがするし500cm砲弾なんか命中したら傷口を引き裂かれ中に手を突っ込まれてぐちゃぐちゃにされる様な痛みが来る。あ、食後の方ごめん。まぁ、妖精さん特製の特殊装甲を喰い破れたらの話だが。
''敵機距離20000!''
「対空砲一応撃っておけ。SM-3発射」
右舷の対空砲が一斉に起動し大量の対空火を浴びせる。左舷のミサイルハッチからは黄色のカラーリングがされたミサイルが飛び出し、シャベリンの様な変態起動をして飛んで行く。
ブラックホーク(アメストリア製)の様な空中戦闘機動とはいかないものの、近接迎撃システムのミサイルのためそれなりの運動力を持っている...はず。
だったな?全弾迎撃されたんだよ。45mm砲に。ちょっと可笑しくない?最近深海棲艦の艦載機のレベルが段違いに上がってる気がするんだけど。今までは対空砲でフルボッコになるか三式弾に馬鹿正直に突っ込んで撃墜されたりとアホだったが、なんか頭良くなってる。
なにこれ。
「大和!直ぐに追従艦を連れて離脱しろ!全速力だ。私は少し足止めをする」
『り、了解です!』
恐らく、艦載機の目的は鎮守府。
幾ら兵器のスペックが素晴らしく、威力が恐ろしくても、その兵器の運用には補給、整備という前提条件が存在する。私達アメストリア型戦艦は全て自分で出来るが、大和達既存艦娘は出来ない。
弾薬が切れたら工廠まで降りて補給しなければならないし、駆逐艦などは紙装甲(特殊装甲積んでる。アメストリア型戦艦基準。)なので破損したら工廠で船体を直さなければならない。
その工廠への通路は今の所ドック(地上)、戦闘機用昇降版、エレベーターしか無い。
その中で一番大きいのはドック(地上)である。壊してしまえば、補給が止まり、私達艦娘は大打撃を受ける。当然わかっていたのでドック(地上)には装甲を張り巡らし、ミサイルは積んでいないが、対空砲は針山の様に設置している。
恐らく、エース級の戦闘機を深海棲艦は出してきた。F-222を二機にFB-99が一機。これで来ている。最新鋭機とあり迎撃が極めて難しい。大丈夫か...?
船体の反転を途中で辞め、主砲を五基全部起動。大量の三式弾を投入。副砲も使える側だけ全て起動し、三式弾を入れる。巨砲が素早く旋回し、砲身をあげる。
ここまでに30秒。そして、
「ってぇー!」
''砲''と呼ばれる装備が全てたった三機の敵機に狙いを定め発射する。
空気を叩き割った様な轟音が響き渡り、大量の弾幕が張られる。空を埋め尽くす程の弾丸が空を舞い、三式弾が炸裂し中の炸薬を爆発させる。
二つの炎の塊が出来、速度を急激に落とし海上へ堕ちてゆく。
よしっ!取り敢えず目標の二つを撃墜した。後一つだ。
第二砲塔を旋回させ大量に三式弾を打ち込んでゆく。あとはFB-99のみである。
例えFB-99がMk.14を発射したとしても対空砲による面の防御により穴だらけになり爆散する。
私も撃つべきか?一応、M115AXを持つ。念の為であるが。
太いコッキングレバーを引き初弾を装填する。
「......どうだ?」
''......撃墜しましたっ!''
''やった〜!''
''撃ち落としたよー!''
との事。どうやら意味なかった様である。
弾帯を抜いてから再度コッキングレバーを引き薬室から弾丸を弾き出す。
「全艦反転。直ぐに帰投する」
''了解しましたー''
私は船体を鎮守府へ向け速力を上げた。
「調査...?」
「そうだよ。一応、万が一の拠点としてね」
鎮守府へ帰ると提督に呼び出された。
内容としては、このパラオ鎮守府の第二拠点として基地を築くとの事だった。
その調査として揚陸艦の役目も持つアメストリア型戦艦が選ばれた。
リバンデヒは深海棲艦撃滅の為にフルで動き回っているし、カイクルに至っては遂に人間を辞めた。元々人間では無いけども。深海棲艦に対して砲撃と白兵戦をテイストした悪夢の様な攻撃をゲリラ攻撃を繰り返しているし、ノイトハイルは軽巡洋艦や駆逐艦を連れて水雷戦隊を組んでいる。最も、本人は主砲や副砲を使った支援や自らを盾とした戦艦らしい攻撃方法で深海棲艦を撃滅せんとしている。
ともあれ、私しか空いているアメストリア型戦艦が居ない為必然的に私が調査に充てられる事となる。
「僚艦は要るかな?」
「......一応、空母と軽巡か重巡が欲しい。」
「分かった。なら...川内型三隻と龍驤をつけるね」
「了解だ。早速行ってくる。」
船体へ直ぐに転移し、装備を整え直す。船体は補給の為ドック(地下)へ入っており、弾薬箱が運び込まれている。武器庫からベガルの弾帯とボックスを二つ運び出し、軍刀と鉈を引っさげてベネリM4を背中に下げベルトには大量のシェルを入れている。
『またよろしゅうなアメストリア』
『よろしくねアメストリアさん!さぁ夜戦だー!』
『那珂ちゃんだよー。今回は守らせてもらうねー!』
『神通です。よろしくお願いします』
うん。それぞれのキャラが濃いのでは無いだろうか?
龍驤にはF-222を積み、川内型は弾薬をフルで積み込み主砲には使わないと思うが粒子弾も積んだ。これは別で作って積んでいる。川内型は当然旧海軍の艦娘である。つまり、粒子弾を積んだ事がなく、使用経験も無く〔弾薬〕から粒子弾を作り出すことができない。
つまり使ったこと無い砲弾は作れないぜ?っということだ。
「仮称パラオ鎮守府第二拠点調査艦隊、出撃する。」
『了解や』
『了解っ!夜戦あるよね!』
『りょーかーい!』
『分かりました。錨上げ!』
機関がうねりを上げ湾を出発する。
正直ヤバイと思う水流を作り出し、船体が前進してゆく。龍驤達は前方にいる。
波に巻き込まれて転覆とか笑えないし。
鎮守府は滑走路が臨時の修理が施され、時折対空砲が火線を引く。
湾外では待機しているもがみんこと最上や三隈が洋上へ浮かび、最近パパラッチ活動を何故か辞めた青葉が対空射撃をしている。ん?何故かって?聞くか?トラウマになるが?
ともあれ、比較的安全である。さっさと行こ。