ーーーーーーーーーーーーアメストリアsideーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
翌日、アメストリア型戦艦は四隻で海を滑っていた。
しかしその操り手である艦娘は本来の艦橋にはおらず、私の会議室に集まっている。
「恐らくというか私がわざわざハッキングして調べた情報だが、私達''三隻''は横須賀鎮守府に転属となる。」
「......何故なの?」
「まだ調べていないが、アメストリア型戦艦の深海棲艦が出現し、重要拠点である東京を守るために同様の存在の私達が盾として配置されるのだろう。どうせ守る対象も霞ヶ関とかいうどうでもいい場所だ」
「僕の存在が...」
「落ち込むでない。私とてイライラいているが、基本守らなくて良い。重要なのは私達が三隻と認識されている事だ。ノイトハイル」
「何〜?」
「私達三隻は指示通りに動くが、ノイトハイルには影として動いて貰いたい」
「分かったよぉー」
頼もしい限りだ。既に船体が光学迷彩によって消え、少し後ろに離脱している。
「そして近隣諸国だが、リバンデヒ、報告しろ」
「了解、私の中央演算処理装置の情報収集で分かったのだけれど、Chinaはポンコツを量産中。アジア連合は必死ね。気にしなくていいわ。ロシアはまた最近最新鋭の艦娘が開発されたらしいわ。
けれど私達の敵ではないから気にしなくていいわ。米国は...何も言わないわ。反省していないのだもの」
「後で削除しておいてくれ。カイクル、ノイトハイル、リバンデヒの言いたいことはわかるな?
私とてブチ切れる寸前なんだ」
「既に知っている。BGM-9の核発射態勢に入っている。」
「僕はウンターガング弾頭をBGM-9に載せていつでも撃てるよ」
はぁ...妹達は...確かに私もあれだけ忠告して仕返しもしたのにまだ懲りずに裏でやっていると分かった時は思わずペンを握り潰し、2500mmの特殊装甲を幾つか叩き割ったが。
私よ既に全ミサイルにウンターガングを積み発射態勢に入っている。
許せないのだ。''人間の戦争に艦娘を投入した''米国が。
さて、ノイトハイルは1200km離れた位置で離脱し、隠密行動を開始。
私達は無事入港。ミサイル関係と主砲以外の武装をロックし、念の為F-105を飛ばせるようにしておく。私の妹に手を出したら...戦争だ。全て叩き潰してやる。
「貴様がここに来たということは何か反論があるのかね?」
そう。何かと気があう大将の元に来た。この人間、地味にハイスペックで人事も担当している。
「いや、無い」
「ふん、どうせ貴様の事だ。ハッキングでもして知っているのだろう?」
「まぁな。私が言いたいのはそれでは無い。私達を兵器として見るな。感情があるしプライドがある。人間より遥かに長く生きた年長者なんだがな。
あと土産だ。米国が大人しくなるだろう」
そう言って米国の実験結果や研究所の位置、犠牲者、人間の戦争に艦娘を投入したという証拠、その他諸々の機密を纏めた書類とUSBを置いて行く。
さて颯爽と戻ったわけだが、何故か、
憲兵隊がMP-5を、リバンデヒがベガルM145を、カイクルがM115-AXと自律起動のM2を十五基展開させて膠着状態に陥っていた。
いや、なんでよ?まだ面倒事...
という事で腰のM93Rでは無く、太腿に巻きつけておいたホルスターからSOCOM Mk23を取り出し、重いトリガーを引く。マグナム級の破裂音が鳴り響き、45口径弾が地面を抉る。
遅れて重い衝撃が走り、反動が来るが私は艦娘だ。太腿のホルスターに戻す。
「何事だ」
ついでにベガルM145を瞬間転移で武器庫から取ってくる。そしてマガジンを装填しコッキング。
「いや...こいつらが私達をモノ扱いしてきてな...しかもアメストリア軍人としてのプライドを踏み躙ってくれたのでな」
「はっ!妄想が過ぎるんだよ雌豚が!お前らはさっさと独房で腰振っておけば良いんd--
パパパパパパパパパパパパパパパパパパンッ!
ドガンッ!
おっと無意識に引き金を引いていた。マガジン全弾をぶち込み、遅れてミンチが出来上がる。
カイクルの持つM115-AXの銃弾は12.7×99mm
内部で大爆発を起こし、人間を跡形もなく吹き飛ばす凶悪な銃弾だ。
何故私の知らないアメストリア製の銃器はゲテモノが多いんだろうか?
「カイクル、弾薬が勿体無いだろう」
「あぁ...そうだな。すまない」
別憲兵隊の一人や二人死んでも影響は無いだろう。
むしろ軍人でも無い人間如きが艦娘という戦争当時を知る本物の軍人を侮辱したのだ。
死をもって償え。
自分勝手?艦娘至上主義?好きなだけ言え。私達艦娘はモノじゃ無いんだ。
「リバンデヒ、カイクル一応提督の挨拶に行くぞ」
憲兵隊を置いて行き、提督のいう執務室に移動する。
「今日パラオ鎮守府より着任したアメストリア型戦艦一番艦アメストリアだ。」
「アメストリア型戦艦二番艦リバンデヒよ。」
「アメストリア型戦艦三番艦カイクルだ。よろしく頼む」
「横須賀鎮守府提督の寺塚中将だ。早速だが、武装を下ろして付いてきたまえ」
言われた通りに全ての銃をおろし、置いて行く。身体が動きを覚えているとはいえ、咄嗟に動けないのが私である。
そして暫く歩き、第一尋問室と書かれた部屋に私のみ押し込まれる。
中はツルツルとした建材で覆われ、天井から二つ何かぶら下がっているが、気にしない。鎖みたいだったけど気にしない。絶対ここO★HA★NA★SHI★する所じゃん。
テーブルと椅子が二つあるだけで、なんか嫌な空気だ。怨念も強くなっている。
指示されて片方の椅子に座る。なんか手枷と足枷があるけど気にしない。
「さて、君をここに連れてきたのは他でもない。」
「分かっている。私達は誓って艦娘に攻撃をしていない。味方を撃つほど落ちぶれてはいない。ついでだがその警戒している新種の深海棲艦は既に私達で討伐済みだ」
「......よかろう。君達は一ヶ月限定だが、この鎮守府所属だ。息子の所属だからと言って手を抜くつもりはない」
「そうか。別に構わない。しかし私達は奴隷ではない事をよく注意しろ?」
「無論だ」
さてさて尋問室でのやり取りの後、無事解放され、軍港にて集まっているのだが、
リバンデヒやカイクルから凄く心配された。別に拷問されたわけではないんだけどなぁ...
「さて、私達はここに一ヶ月軟禁される訳だが、できる限り人脈は揃えておきたい。
もしもの時や大本営の動きなどはチェックしておきたい。四人での会議は2300だ。解散」
必要なことのみ伝え、各々の人脈を築くために散る。
出来るだけバレない土地も探さなければならない。
そして私は横須賀に来たら行きたい場所がある。
以前も何回か来たが、それどころではなかった為、丁度良い今日を選んだ。
それは慰霊碑だ。太平洋戦争にて横須賀では大量の死者が出た。
特攻する者、勝てないと分かっていても艦に乗る者。それに艦娘が現れる前に起きた戦闘での犠牲者も記されている。皆一様に悲壮な決意、帰ってこれないとわかって散っていった兵の声。海路が死にながらも離島の避難活動の為に文字通り命を糧にして囮を務めた艦、協力して巻き込まれた民間の船舶乗務員。
私とて艦娘だ。ここでの死者の叫びは聞こえる。
しかしあまりにも悲しすぎて、苦しくて耳を塞ぎたくなる。
しかし艦として再びこの世界に来た以上は聞かないというのは逃げになる。
まぁ、私はここに居なかったわけだが。
一応慰霊碑の前に立ち、黙祷。
日が暮れるまでずっといるつもりである。