萌えっ娘もんすたぁSPECIAL -Code;DETONATION-   作:まくやま

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 新たな仲間を迎え、黒き意思に触れ、少年たちは知り得なかった事を知る。
 月に届きそうな山を越え、辿り着いたは水色の街。
 神秘の色に包まれた街で、如何なる壁と出会うのか。


第5話『戦慄のブルー・スター』 -1-

 

 昇る太陽が眩しく照らしだすハナダシティ、その萌えもんセンターでの朝。日差しを浴びながら大きく背伸びする一人の少年がいる。ダイヤだ。

 「んぁぁ~~…。ふぅ、よく寝た」

 伸びをしながら首を左右に動かす。まるでコキコキと音が鳴りそうな具合だ。そのまま大きく深呼吸して、ぼんやりと声を出す。

 「…ハナダジムのジムリーダー…カスミ、か…」

 何となしに呟いたのは、今彼らが滞在している街、ハナダシティのジムリーダーの名前。昨晩の情報収集で、彼女のことと使用する萌えもんのタイプは把握していた。

 ハナダジムはプールにもなっており、ジムトレーナーが扱う萌えもんは、全て水タイプ。その中でもリーダーとして頂点に立つ存在である彼女は、かなりの強敵であろうことは火を見るよりも明らかだ。

 「…とりあえず、ぶつかってみなきゃ分かんないかな」と、溜め息一つ。気を取り直してジムに挑むべく、預けていた仲間を引き取りにセンターへ戻っていった。

 

 

 同時刻、萌えもんセンター内。一つの座席を間借りして、ダイヤの手持ちの萌えもん達がテーブルを囲っていた。

 その中で、サーシャが一際神妙な面持ちでダイヤが残していったパンフレットを見つめている。眼鏡の奥の瞳からは、どこか不安の色が見えるようだ。

 「ねぇサーシャ、どぉしたの?さっきからずっとそれみてるけど」

 「これは…今回挑戦するジムリーダー、ですよね」

 ノアとメルアが覗き込み尋ねる。そこに写っていたのは、プールサイドで綺羅びやかにポーズをとるカスミの写真だった。

 「…どうにも気になるんですよね。今回の相手は…」

 「なんじゃサーシャ、お主そんな趣味があったのかぇ…。同性愛はいかんぞ非生産的な」

 「ぶっ潰しますよクソ卵」

 ソーマの冗句に対し、即座に射殺さんとする視線を向けるサーシャ。だが、視線を向けられた彼女は毎度の通り、怯むわけもなくにやけた笑みを返すだけだった。

 「おぉ怖い怖い。ま、冗談はさておき…お主が不安に思うのも仕方あるまいなぁ」

 「知ってるんですか、ソーマ?」と尋ねるはノア。

 「無論じゃわい。ハナダジムリーダーのカスミと言えば、"ハナダのデススター”の異名を持つ強豪の一人じゃよ」

 「タケシさんよりもつよいの?」

 「相性の有利不利もあるがな。カスミは水タイプのエキスパート。岩タイプを主体とするタケシは相性最悪というわけじゃ」

 「そしてそれは、私たちにも同じことが言える…」

 サーシャの呟きに、思わずハッとするノア。考えてみればそうだ。ノア自身は炎タイプで、サーシャは地面タイプ。どちらも水タイプには相性が良くない。ソーマはフェアリータイプであり特別耐性がある訳でもないが、種族としての力はとても弱い方だ。ジムリーダーとの戦いに耐えられるとは思えない。

 「つまり、勝利のカギは…」

 ソーマの声と共に、3人の視線が自然とメルアに向かれる。それを受けてなお、メルアはまだキョトンとしていた。

 「うに?」

 メンバー唯一の好相性萌えもんは、その視線の意図をまったく分かってないと見える。愛くるしい笑顔にはクエスチョンマークが浮かんでいるようだ。

 「どぉしたの、メルがどうかしたぁ?」

 「…大丈夫かのぅ、こんなので」

 頭を抱えるメルア以外の一同。そんな皆のところにダイヤが現れた。

 「なんだ、みんなもう起きてたのか」

 「おはようございます、ご主人様」

 「おう、おはようみんな」

 「おはようございますマスター。もうすぐにジムへ挑戦されるので?」

 「そのつもりだよ。…ま、相性は悪いとは思うけどさ、やってみなきゃ分かんないさ」

 自信があるのかないのか曖昧な答え。だが相手の力量を推し量るには戦ってみないと分からない。その事はノアもサーシャも分かっていた。 故にノアは力強く、サーシャは小さな溜息を一つつきながら首肯した。

 「メルもメルも!バトルがんばるよぉー!」

 ぴょんぴょん跳ねながら、メルアも自分の意思を主張する。それにダイヤは、嬉しそうに頭を撫でまわした。

 「あぁ頑張ろうな!今回はメルアを一番頼りにしてるからな!」

 「えっへへー、いっぱいがんばるもんねっ!」

 ふわふわした薄黄色の髪を撫でながら、くすぐったそうにしながらも嬉しそうな声で返事をした。

 「坊、分かってると思うが妾は参加せんからな」

 「分かってるよ。ワケは聞かない。が、お前をバトルには参加させない。そういう話だもんな」

 「…分かっておればええんじゃ」と、ダイヤの返答にそっけなく答えるソーマ。ぷいっと背を向け、それ以上こちらに目を向けようとはしなかった。

 さすがにまだ慣れてはくれないなと思いながら、ベルトのホルダーからボールを外し取り出す。

 「それじゃ行くか。みんな、一度戻ってくれ」

 言葉と共にボールから放たれる赤い光線。光は4人を包み込み、それぞれのボールへと戻っていった。

 「よし…」呟いて歩き出す。目指す先は萌えもんセンターのすぐ隣、ハナダジム。

 

 

 

 - ハナダジム -

 

 

 大型の競技用プールを改造したこのジムは、プールがバトルフィールドそのものとなっている。トレーナーはスタート台を指揮台とし、萌えもんはプールに浮かべられた浮島の上で戦うということになる。

 それは陸上生活をしている萌えもんにとって最も不利な条件で戦うということ。加えて、カスミの愛用する萌えもん達は全て水中の活動を得意とする水タイプ。多くの挑戦者にとって圧倒的に不利な条件でのジム戦に、彼女が駆け出しトレーナーの壁…デススターと呼ばれ恐れられているのも頷ける。

 「…こんなところでバトルするのか」

 「こんなところとは、ご挨拶ね」

 どこか可愛げの残る明るい女性の声に呼びかけられる。その口調には、どこか挑発的なものを孕んでいた。ダイヤが振り向いた先には、スポーツウエアを羽織り、内には白い競泳水着を着た山吹色の短髪の女性が佇んでいた。

 「あなた、チャレンジャーかしら?」

 「ああ。えっと、あんたは…」

 「ジムリーダーのカスミよ。ようこそ、『こんなところ』のハナダジムへ」

 強調されてようやく、自分が失言していたことに気付くダイヤ。この鈍感さはどこからきたものだろうか…。

 「あ…わ、悪い」

 「いいわよ別に。うちのジムを初めて見た初心者サンは、だいたいがそう思うもの」

 嘲笑うように言い捨てるカスミ。その言動と表情は、明らかにダイヤを見下している。そんな彼女の言葉に、ダイヤは少し苛立ちを覚えた。

 曲がりなりにもマサラタウンでオーキド博士のセミナーを受けていたし、ニビシティではタケシに勝利してグレーバッジも手に入れている。

 相性の差でこちらが不利だとしても、そう簡単に負けやしない…。そんな勝手な自信が、彼の胸中には存在していた。

 「…ジム戦、受け付けてくれるか?」

 「勇み足ね。ま、いいわ。受けてあげる」

 「よっしゃ。それじゃ、いくぜ…!」

 互いにプールの飛び込み台に立ち、手に持ったボールを突き出しあう。それが、バトルの合図であった。

 「手厚い歓迎してあげましょ。さぁ、お願いねマイ・スタディ!スターミー!!」

 「はーい!アタシにおっまかせぇい☆」

 青紫の、裾の尖ったワンピースを身にまとう少女が勢い良く飛び出してきた。黄色の髪は肩に当たらないぐらいのツインテールにまとめられ、髪留めには中央に赤い宝玉の入った星型のアクセサリーが付けられている。

 浮島に降り立った彼女は、まるでアイドルのように可愛らしくポージングを決めて見せた。中々に、目立ちたがりのようだ。

 「スターミー、か…」

 「さぁさぁ、アタシの相手はだぁれっかなぁー?」

 「…最初っから全力で当たるしかないよな。ノア、頼むぞ!」

 「はいッ!…きゃっ、うわっ…!」

 勇んで飛び出してきたのはノア。だが浮島に降り立った途端、水上足場である浮島のバランスの悪さに驚き、ふらつきへたり込んでしまった。

 「あらあら、そんな調子で大丈夫かしら?見たところ炎タイプ…相性の悪いその子じゃ、プールに落ちたらそれだけでマトモに戦えなくなっちゃうかも」

 「クッ…ノア、気を付けろ!」

 「は、はいッ!」

 なんとかバランスを保ち、立ち上がるノア。その様子を、カスミとスターミーは余裕で眺めていた。

 「先行はあげるわ。好きに攻撃してきてみなさい」

 「馬鹿にしやがって…!ノア、火の粉だッ!」

 ダイヤの指示と共に手から放たれた火の粉がスターミーを襲う。が、相手のスターミーは余裕の笑みを崩さぬままに右手を前へ突き出すだけだった。

 「スターミー、バブル光線」

 「はーいっ☆」

 高速で放たれた泡の連射が火の粉に直撃し、すべて相殺する。否、その威力はそれ以上だった。

 相殺された水蒸気を突き破り、ノア目掛けてバブル光線が一直線に襲い掛かってきた。

 「――ッ!?」

 来る。そう分かった時には遅かった。高速で向かってくる水の泡を防ぐ間もなく、ノアに直撃した。爆発が巻き上がり、ノアの小さな身体は為す術もなくプールサイドへ吹き飛ばされていった。

 「…う、そだろ…!?ノア…!!」

 返事もなく眼を回して倒れるノア。その姿を見て、ダイヤは愕然とした。相手からの技が、相性による効果が抜群だということもあるとはいえ、マグマラシへと進化したノアがたった一撃でノックアウトされるなど思いも寄らなかったのだ。

 「くっ…!戻れノア!」

 悔しそうにノアをボールへと戻す。すぐさま腰に戻し、次のボールを手に取った。…とは言え、ノアで一撃で倒された時点で打つ手が無いに等しいようなものだったのだが。

 「…サーシャッ!!」

 「はぁ…了解ですよ」

 焦りの含まれたダイヤの声にやや気落ちしながら、サーシャが飛び出す。勝敗は目に見えている。相対する全員がそれを理解していたのだが。

 「ふーん…馬鹿にされてるのかそれしか手持ちを用意してなかったのか、理解に苦しむところね。まぁいいわ。…スターミー」

 カスミが一言、彼女の名前を呼ぶだけで指示は通っていた。突き出されたスターミーの小さな掌から、再度バブル光線が撃ち放たれる。

 既に相手の行動を予測して身構えていたサーシャは即座に防御の構えを取るが、スターミーのバブル光線はガードを易々と突き破りサーシャを吹き飛ばした。

 自分の足元で倒れ込み目を回すサーシャの姿を見て、ダイヤはさらに戦慄する。

 「…ま、まだだ!メルア!!」

 サーシャを戻しながら、今度はメルアを呼び出す。三つめのボールから、勢いよく黄色い少女が飛び出してきた。

 「むんっ!」

 「気を付けろメルア…。強いぞ…!」

 「あら、ちゃんと対抗策用意してるんじゃないの。ま、どこまでやれるか見物ってことね」

 キッと、カスミとスターミーを睨み付けるダイヤとメルア。敗北覚悟で挑んだにしても、なんとか一矢は報いたい…ただそう思うのみだった。

 「メルア、電気ショック!」

 「スターミー、バブル光線」

 重なる二人のトレーナーの声。それに合わせ、メルアのふわふわの綿毛が帯電し真っ直ぐにスターミーへ直進する。対するスターミーも、突き出した掌から虹色に煌めくバブル光線をメルアに狙いを定めて発射した。

 プールの中央でぶつかり合い、爆ぜる両者の攻撃。その煙を突き破り、バブル光線がメルアに襲い掛かる。先ほどの…ノアとのバトルと全く同じ様相だ。

 「――ッ!メルア、ガードだ!!」

 「ふぇっ…ぅきゃああぁっ!!」

 咄嗟に頭を抱えるように防御の姿勢をとったメルア。直撃と共にプールサイドへ吹き飛ばされはしたが、なんとか起き上がる。どうにか、あの一撃にも耐えられたようだ。

 「あらー、やるねぇお嬢ちゃん。カスミー、耐えられちゃったよ?」

 「関係ないわ。止めよ」

 「容赦しないねぇ。ま、悪く思わないでよねー」

 悪びれもせずに可愛らしい表情で言い放つスターミー。その手から再度、メルアに向けてバブル光線が発射された。

 「メルアッ!!」

 「――……ふぇ…?」

 ダイヤの言葉が届いた時には、もう遅かった。

 七色の光線のように高速で撃ち放たれた泡は、一瞬でメルアの眼前へと迫り、飲み込んで炸裂した。

 水飛沫とともに、黄色い身体が吹き飛ばされる。プールサイドに打ち付けられ、小さな身体は目を回しながら力なく倒れていた。

 手持ち全滅。挑戦者ダイヤの敗北である。

 「メルア…!くそ……俺の、負けか…」

 「ふん、さっさと帰んなさい」

 カスミの辛辣な言葉を受けながら、ダイヤは小さな三つのボールを抱えて、萌えもんセンターへと駆け出していった。

 


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