萌えっ娘もんすたぁSPECIAL -Code;DETONATION-   作:まくやま

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第4話『巡り至るは銀月の命』 -3-

 

 シャツの裾で汗を拭う。いくら洞窟が涼しいとはいえ、バトルをしたり歩いては走ったりしているだけでも身体は熱を帯びてくる。

 息の切れ始めたダイヤは、もう結構な時間洞窟を歩いているように感じていた。

 「安心せぃよ坊、もうすぐ出口じゃ」

 「おぅ、本当か?」

 「うむ、風が流れてきておる。」

 「よっしゃ…!」思わずそう呟きながら足を速める。出口と分かると洞窟から早々に出ようとするのは、太陽の光と新鮮な空気を求める、日の元で生きるものの本能なのかもしれない。

 「慌てるでないわ阿呆…。まだ何が潜んでいるのか分からんというに」

 やれやれといった感じで呆れるソーマ。出口が近いからといって、注意を怠ることは絶対にしてはいけない。

 往々にして、一度起きたトラブルがそう簡単に…その場は切り抜けたとはいえ、穏やかに解決することはないのである。

 「うわああああああ!!だ、誰かあああああああ!!」

 ……そう、このように。

 

 「おいおい何だってんだよもう…!」

 嫌な予感をひしひしと感じながら、叫び声の方へと走るダイヤ。彼らはつい先ほどにロケット団と出遭い、不本意ながらもバトルして勝利を収めたばかり。

 アングラな組織とはいえ、そこに構成されている団員が、まさか一人で来ているとも考え辛い。ならばこの悲鳴の先に待っているのは…

 「そいつぁ化石だな!よこしやがれ!」

 「ひぃぃぃいい!な、なんなんだよぉ~!!」

 やっぱりか。それを見た瞬間、ダイヤの顔が言い得もない歪み方をした。落胆と困惑と面倒臭さが入り混じったような、思わず嘆息を漏らしたくなるような表情だ。

 「さて、どうする坊よ?」

 「…正直嫌だけど、見て見ぬフリってのも後味悪いしなぁ…。みんな、もう少し頑張れるか?」

 「大丈夫、やれます!」

 「仕方ない…と言えば良いのでしょうかね」

 「わるいことにはめっ、しなきゃだねっ!」 

 3人それぞれの答えに顔を綻ばせながら、小さい深呼吸の後に叫び声の方へ駆け出していった。

 

 「こっ、これは僕が見つけた化石なんだぞ!誰かに渡すなんかゴメンだ!」

 「はン、ガリ勉メガネが言いやがる!オラッ、行けラッタ!!」

 「うおらぁー!!」

 威勢よくボールから現れた茶色い影。鋭い目つきに大きなネズミを思わせるその恰好は、コラッタの進化形であるラッタだった。

 コラッタの倍ぐらいある体格からは強い気合が漲っており、綺麗に生え揃った白い歯が暗闇で怪しく光る。

 「やれ!必殺前歯!」

 「あ…わあああああ!!」

 襲いかかるラッタの攻撃。化石を抱えた理科系の男は、懐から自分のモンスターボールを出すことも出来ずにいる。その瞬間…

 「サーシャ!スピードスター!!」

 「邪魔させてもらいますよ!」

 ラッタに向けて流れるように放たれる無数の星型光弾。真横から割り込むように射たれたサーシャのスピードスターは、ラッタの不意を突き直撃した。

 「な、なんだァ!?」

 「…正義の味方、見参…って感じかな?」

 「マスター、馬鹿言ってないで。来ますよ!」

 サーシャの言葉を即座に解するダイヤ。横から攻撃を受け、怒りに目をギラつかせたラッタがサーシャ目掛けてスピードを上げながら突進してきた。電光石火だ。

 「サーシャ、ひっかく!」

 「了解!」

 ラッタの電光石火に対し、受け止める様に立てるサーシャの左爪。何とか持ちこたえるものの、その勢いに押されて弾かれたのはサーシャの方だった。

 「くっ…!さすが、コラッタとは違いますね…!」

 「生意気なガキが!ラッタ、必殺前歯で噛み千切れ!!」

 「ひっかくで受け止めろ!!」

 大きくジャンプして、サーシャの頭上から襲い掛かるラッタ。その前歯がエネルギーに包まれ、倍ほどの大きさに肥大化、彼女に迫る。

 それに対して、ダイヤの指示を聴いたサーシャはその手に力を溜めて爪を形成。両手で前歯を受け止めて鍔迫り合いのように火花を散らし受け止めた。

 「そんな華奢な爪なんぞでェ!」

 「…ッ!それは、どうでしょうね…!!」

 両の手に力を込めて、生み出した爪をクロスに引き裂くよう押し返していく。やがて、ラッタの前歯に宿ったエネルギーに亀裂が入りだした。

 「なぁっ…!?」

 「受け止める腕は一本より二本の方が強い。当然のことです!」

 高い音を立てて砕けるラッタの前歯。悶えながら吹き飛ぶ相手に、サーシャは追撃の姿勢を見せる。そしてそれは、ダイヤも瞬時に察していた。

 「いけサーシャ!連続斬りッ!!」

 「了解ッ!」

 即座に飛び掛かり、右手の爪を大きく振るうサーシャ。だが一撃の重さは小さく、大したダメージには至っていない。直後にラッタの体当たりで反撃されるも、容易く耐えたサーシャの二回目の連続斬りが外薙ぎに振るわれた。

 「さ、さっきより痛い!?」

 碧色に輝く刃は一度目よりも大きく形成され、見るからに威力が上昇している。そして三度目に備えた刃は、さらに大きく伸びていた。

 これが、連続で当てることでさらに攻撃力を増していく『連続斬り』という技の特徴なのだ。しかしその事を知らないラッタは、眼前で肥大化していく刃の姿に戦慄する以外なかった。

 「止めだ!全力で叩ッ切れ!!」

 「たああああぁぁッ!!」

 小さく跳ねながら振りかぶった右腕を、ラッタに向かって振り下ろす。サーシャの身の丈ほどの大きさにもなる爪を模した碧刃は、更に倍加した威力を以て相手を切り伏せたのだった。

 倒れ込みクルクルと目を回すラッタ。それを見下ろし、髪をかき上げながら黒尽くめを睨み付けるサーシャ。その眼には未だ闘志が見えている。

 「…まだやるか?」

 前に立つ彼女の言葉を代弁するように、ダイヤが告げる。放ったその言葉は、少しぎこちない。

 「…チッ、もういいヤメだクソッ!どうせ化石なんざ、大した価値もねぇんだ!おら、何時まで寝てやがる!」

 忌々しそうに吐き出しながら、倒れたラッタをボールに戻して走り去っていくロケット団員。それを見送ったダイヤの足は、闇に隠れて小さく震えていた。

 「…い、行ったか…」

 「みたいじゃの。やれやれ、中々やるではないか」

 「口だけでしたね。あの程度なら、ジムリーダーの方がもっと強い」

 蔑むように言い捨て、ダイヤの元へ戻るサーシャ。彼女を軽く労いながらボールへ戻そうとかざす彼のもとに、おずおずと襲われていた理科系の男が寄ってきた。どこか、疑いと敵意の孕んだ目線を向けながら。

 「あ…大丈夫、でした?」

 「…お、お前も僕が手に入れた化石が狙いなのか?」

 「――は?」

 思わずマヌケな声が出てしまう。そりゃいきなり横から乱入してきたのはこちら側、不信感を抱くのは分かる。が、危険から助けた相手にそういう風に言われるなど想像していなかった。

 それは、ある意味お気楽な思考だったのかもしれない。『正しいことをすれば、自ずと誰もが喜び讃えてくれる』という、他者に依存した思考。世界はそれだけではないと、知るには彼らはまだまだ若かったのだ。

 「お、俺は別にそんなつもりじゃ…」

 「フン、恩着せがましく助けたからってこの化石はやらないからな。せっかく見つけたんだ…僕のモノなんだぞ」

 強く抱え込みながら睨み付ける理科系の男。化石なぞどうでもよかったのだが、中々そう言って退きそうな感じでもない。

 どうしたものかと考えるダイヤに代わり声を上げたのは、その背にしがみ付いてるソーマだった。

 「坊、そんな輩に付き合ってやることもあるまい、ほっといて先に進め。こんな根性のヒネた奴は、死ぬまで治らんぞ」

 「不本意ながら同意見ですマスター。さっさと行ってしまいましょう」

 見向きもせずに先を急ぐサーシャ。礼儀正しい彼女のことだ、謝辞の一つもない男のことなど眼中にもないのだろう。

 それに続くように歩き出すダイヤ。男の横を通り過ぎる時に、「じゃあ、気を付けて」と一言だけ残して行った。その直後。

 「…そこの角に、要らない化石が置いてあるんだ。もういくつも発見されてるヤツだし、自分でも前に発掘したこともある」

 まるで拗ねるかのように吐き捨てる理科系の男。その言葉を聞いたダイヤが顔を向けた先に、確かに無造作においてある石の塊があった。

 「デカくて持てないんだ。別にレアな物でないし、欲しけりゃもってけよ」

 と、言うだけ言って歩き去る。思わず彼の方を振り向くが、その後姿からはなにも読み取れなかった。

 「…お礼のつもり、かな」

 『どうでしょう…。でも、そうだと嬉しいですね。ちゃんと分かってくれたんだもの…』

 小さな呟きに、優しい声で返すノア。まるで自分の心を代弁してくれたかのような感覚に、思わず笑みが溢れてしまう。

 「やれやれ、甘ちゃんどもめが」

 背中から聞こえるソーマの皮肉。敢えて聞こえないことにして、足元の化石を拾い上げる。ズシッとした重みは、確かにその大きさに比例していた。これを”歴史の重さ”と喩える人もいるだろうが、生憎この少年たちに、そのような感性は持ち合わせていなかったのは幸か不幸か。

 「マスター、もうすぐ出口ですよ。幸いまだ日は沈んでいないようです。さっさと行ってしまいましょう」

 「おう、すぐ行くよ」

 急かすサーシャに応え、やや駆け足で出口に向かうダイヤ。ようやく見えてきた出口からは、西に傾き黄色に輝く日光が差し込んでいた。

 「ここを抜ければ、もうすぐハナダシティだな」

 『やっとつぎのまち~!もうつかれたよぉ~』

 『日も暮れそうですし、早く行って休みましょうご主人様』

 「だな。サーシャも、あとはボールで休んでてくれ」

 「そうさせていただきますわ。マスター、もうひと頑張りしてくださいな」

 赤い光に誘われ、ボールへ戻るサーシャ。手のひらサイズに戻ったボールを、腰のホルダーにセットする。

 「ソーマ、お前はまだいいのか?」

 「構わん。はよ行け」

 短くそう言いながら、ダイヤの後頭部に身体を預けるようにもたれかかる。その重みを感じながら、ダイヤはまた足を進め始めた。

 下りの山道、段差を飛び越えていく。だんだんと日が沈むにつれて街の灯りがハッキリしてくる。目指すハナダシティはすぐそこだ。

 新しい街、新しい世界。そこで少年たちを待ち受けるのは、一体なにか…。薄暮れの空、暗がりに現れだした月は、ただ静かに青く輝きだしていた。

 

 

第4話 了




=トレーナーデータ=

・名前:ダイヤ
 所持萌えもん…ノア(マグマラシ ♀)
        メルア(メリープ ♀)
        サーシャ(サンド ♀)
        ソーマ(トゲピー ♀)
 所持バッジ…グレーバッジ

=萌えもんデータ=

・名前:ノア
 種族:マグマラシ(♀)
 特性:猛火
 性格:せっかち
 個性:ものおとに びんかん
 所有技:電光石火、睨みつける、煙幕、火の粉
 所持道具:無し

・名前:メルア
 種族:メリープ(♀)
 特性:静電気
 性格:おだやか
 個性:ひるねを よくする
 所有技:体当たり、鳴き声、電磁波、電気ショック
 所持道具:無し

・名前:サーシャ
 種族:サンド(♀)
 特性:砂かき
 性格:わんぱく
 個性:うたれづよい
 所有技:連続切り、砂かけ、スピードスター、マグニチュード
 所持道具:無し

・名前:ソーマ
 種族:トゲピー(♀)
 特性:天の恵み
 性格:ひかえめ
 個性:イタズラがすき
 所有技:指を降る、あくび、悪巧み
 所持道具:無し

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