萌えっ娘もんすたぁSPECIAL -Code;DETONATION-   作:まくやま

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第4話『巡り至るは銀月の命』 -2-

 

 日はまだ高いものの、正午は過ぎてしまっている。

 予定外の仲間が予想外のキャラをしていた為に起こってしまった事態…と言えば聞こえは良いのだろうか。

 しかしそこは追求したくないところなんで考えないでおく。

 少年と萌えもん達は、こうしてオツキミ山洞窟へと入っていくのだった。

 「さー、気を取り直してオツキミ山攻略、いっくぞー!」

 「でもご主人様、道筋は…」

 「勿論解らない!…となると、やっぱり今日は一度戻るぐらいのつもりで進むのが良いかもな…」

 「私もこの辺りまで地形を把握してるわけじゃないですしね…」

 「えー、でもそれじゃあ日がくれちゃうよぉ~」

 頭を悩ませてしまい、なかなか答えを出さない一行。そんな姿を見て、腰に据えた4つめのボールから深い溜息が聞こえてきた。

 「…やれやれ、世話の焼ける阿呆どもじゃ。ほれ坊、妾が案内してやるから出してくりゃれ」

 「道、分かるのか?」と、ボールからソーマを出しながら尋ねる。

 「舐めるなよ小童めが。妾にかかれば、こんな洞窟だけじゃなくカントー全ての道路や洞窟の道筋を事細かに網羅しておるわ」

 「そ、それは凄いですね…」

 「フン、どうせいい加減なものだと思っとるじゃろうが、そうはいかんぞえ。ほれ、坊」

 言いながらその小さな手をクイクイっとこちらに寄せるようなジェスチャーをするソーマ。

 だが、ダイヤにはその意図は伝わって居ないようで首を傾げている。

 「…………?」

 「あぁもう分からん奴じゃのう!案内してやるんじゃから、おぶるか肩車するとかそういうことも無いのか戯け者が!」

 「あ、おう…悪い悪い」

 言いながらすぐにソーマを持ち上げ、肩車の姿勢に持っていくダイヤ。身体に似合わずズシッとした確かな重みが、彼の肩に伸し掛かった。

 「やれやれじゃわい。ほれ、さっさと行くぞ」

 すぐさまあっちこっちと指示を出すソーマの言葉に従い歩き出す。

 薄暗い洞窟は広く、暗い影には小さな翼を小刻みにはためかせたり天井に張り付いたりする小さな影…顔の半分を長い青紫の前髪で隠した萌えもんのズバットや、周りの石をいじったり投げ合ったりして遊ぶ、先日戦ったタケシのパートナーであるイワークに似た色合いの萌えもんのイシツブテが居る。

 毎度の通り野生の娘とは話し合いかバトルでケリを付けているのだが…。

 「ねぇねぇ、ソーマはバトルやんないの?」

 「そんなクソ面倒臭いことが出来るか。妾は楽に生きるのじゃい」

 「それが年の割に進化してなければ力量も低い理由ですか。御大層なことですねぇ」

 「ハッ、小娘が吐かしおる。乙女の過去には秘密が付き物だというに」

 「あーもー喧嘩するなよー」

 頭の上と隣から、視線が交差し火花を散らす。サーシャとソーマは、やはりどうにもウマが合わないようだ。

 「ったく…。んでソーマ、この先は?」

 「まっすぐ進めば下に降りられる。そのまま進めィ」

 あいよ、と軽く返してまた歩き出す。

 階段を降りた先、一つ下の階層へと続く道は明るく照らされており、単純な一本道であることも容易に把握できた。

 岩陰には背中にキノコを背負った茶色い影も見え隠れしている。きのこ萌えもんのパラスだ。

 まぁ見つけただけで特にバトルすくこともなく、ただ通り過ぎていく。そのつもりだったのだが…

 「…おにーさん、この先に行くのかい?」と、一人のパラスが話しかけてきた。

 「…?ん、あぁ。そのつもりだけど」

 「んー、なんかさー、黒服のニンゲンたちが変なことしててさー。なんか見るからに怪しいし、できればどっかに追っ払ってほしいなーって思ってさー」

 「見るからに怪しい、黒服のニンゲン…?んー…まぁ見かけたら注意するよ。追っ払えるかまではわかんないけどな」

 「頼りになんないなーもー。まぁいいや、そこら辺の連中や山男さん達よりはマシっぽいし」

 パラスに呆れられながら軽く別れを告げ、先に進むダイヤ。歩きながら、耳にみんなの声が聞こえてくる。

 「黒服の怪しいニンゲンかぁ…」

 「ヘンなヒトもいるんだねー」

 「出会ったらどうしますか、マスター?」

 サーシャの問いに、曖昧な唸り声を上げるダイヤ。些細ではあるものの、やはり悩ましいものだった。

 「…関わらないのが一番なんだろうけどなぁ…見て見ぬフリってのも、なんかなぁ」

 「私は…助けられるなら助けたい、ですが…」

 「ん~…まぁ、そうだよなぁ…」

 「ハッキリせんのぅ戯けが。それでもタマついてるのかぇ、坊?」

 「自称乙女の言うセリフじゃないでしょうにソーマさん…」

 ソーマの言動に呆れながら先を進む。明るい通路はもう終わり、また薄暗い洞窟が広がっている。

その薄暗さに溶け込むように、何者かが蠢いていた。

 「…なんだ?」

 思わず入口の影に隠れるダイヤ。そっと顔を覗かせて、影の正体を探ろうとする。…その影は、苛立つように何かを呟いていた。

 「あーくっそ…んなとこに化石なんかあるわきゃねぇだろぉ…」

 耳を澄ませると、その声は随分と愚痴っぽかった。

 (…何言ってんだ…?)

 「なるほどのぅ、アレが件の”黒服”か。…ほぅ、あのマーク…」

 「…あ、あれってもしかして…」…と、ダイヤが聞こうとした矢先のこと。

 「あれぇー!?ロケット団の下っ端クズじゃないかあー!こんなところでなにやってんのかなぁー!!」

 などと言い出しやがったもんだからどうしよう。

 「あぁん!?何処のどいつだコラァ!!」

 (ちょおおおおいソーマさぁん!?ナニ言ってくれちゃってんのぉおおお!!?)

 黒服の若々しくも荒っぽい声が響く中、ソーマに小声で激しく突っ込むダイヤ。そこらのピン芸人といい勝負だ。

 それに対してソーマさん、全く悪びれずにテヘペロっ♪って顔をしていた。確信犯である。

 これは一発ぶん殴っても良さそうな気がしたが、さすがにそんな暇はない。怒りを燃やした黒服の男が、真後ろにいたからだ。

 「…今舐めたこと言ったのはお前だな?」

 「…人違いじゃない?」

 思わず苦笑いしながら視線を逸らす。言って通るとは思ってないものの、非を認めるのもなんだか違うのだから仕方ない。

 「おいクソガキ…人を馬鹿にするのも大概にしとけよ?一回痛い目見ないと分からないようだなぁ…!」

 手をパキパキ鳴らせながらダイヤに詰め寄るロケット団の男。さすがにヤバいと思ったダイヤは、おもむろに腰につけたボールへと手を伸ばす。

 だがその行動は男の方が速く、その腰に付けたボールをダイヤ目掛けて投げ付けた。

 「いけぇ、アーボ!!」

 「ノア、頼む!!」

 空中でボールがぶつかり合い、光と共に顕現する。ノアと相対したのは、足の出ない濃紫の着ぐるみを着た蛇目の萌えもん、アーボだった。

 「アーボ、巻きつけ!」

 指示とともにノアへと飛びかかるアーボ。その顔はニヤけた笑みを浮かべながら、キヒヒっと笑っていた。

 その笑顔に一瞬怯んでしまったのか、攻撃を許してしまうノア。まるで尻尾のように蠢く下半身で締め付けられてしまう。

 「くっ、しまった…!」

 「ヒヒッ!まぁアンタに恨みも何もないが、やられてもらうよ!」

 「貴方…どうしてあんなニンゲンに…!」

 動きを封じられ、徐々に締め付けを強くされて体力を削られるノア。その中でなんとか放った言葉は、ロケット団に与するアーボを諌めようとするものだった。

 しかし、相手はそんなことを全く意に介さないような、至極適当な返事をした。

 「簡単だよ、食ってく為さ。トレーナーと居れば食いっぱぐれない。その為にトレーナーの指示には従う。言うなれば、これは仕事ってヤツさ」

 「悪行が、仕事ですって…!」

 「捨てられて苦労すんのはコッチだもんね。割り切りも必要なんだよ、お嬢ちゃん」

 ノアにとって、それは初めてぶつけられた現実の一つ。ヒトの下で育ったが故に生まれた、野生との決定的にして大き過ぎる差。だけど…

 「…だけど、それが正しいなんてことは、絶対にない…!」

 ノアの後ろ髪が赤く燃える。掌に炎が集まり、瞬時に爆裂。巻き付いていたアーボを弾き飛ばした。

 「チッ、やってくれんね…!」

 「なにやってるアーボ、毒針!」

 「はいはい、っと…!」

 「ノア、火の粉で撃ち落とせ!」

 「はい…ッ!」

 口から放たれる紫の毒針。それに反応して、手から火の粉を放つノア。炎は毒針を飲み込んで、更なる威力でアーボへと襲い掛かった。

 「なあっ!?う、っそだぁ…!?」

 驚愕と共に襲い来る炎、巻き起こる爆発。ノアの火の粉たった一撃で、アーボは倒された。

 「ほぅ…中々やるのぅ」

 「ノア、よくやった…。でも、なんだか強くなってないか?」

 「えっと…どうなん、でしょう…?」

 見ると、軽くだがノアの息が上がっている。猛火が発動するほどまでに体力が減っているはずはないのだが…。

 しかし、こちらのその状況を見逃してくれる相手ではない。

 「舐めやがって…!コラッタ!」アーボを引き戻し、すぐさま次を繰り出す。出て来たコラッタの眼は、アーボと同様に敵意を宿していた。

 「ノア、戻るか?」

 「…いいえ、やります!」

 「やっちまえコラッタ!電光石火!」

 「ノア、こっちも電光石火だ!」

 二人の萌えもんが光を纏いながら加速する。互いに対抗するように速度を上げ、ぶつかり合う。先に攻撃を当てたのは、ノアの方だった。

 (…身体が、熱い。速くなってる…強く、なってる…)

 「くぅ…ぉのやろぉー!」

 怒りに任せて前歯を突き立てる。コラッタの得意技、『必殺前歯』だ。肩口を噛みつかれながら、ノアはまたコラッタに言葉を放った。

 「貴方も、なんで…!」

 「バトルすんのに理由なんかあっか!コイツのところに居たら、好きにバトルが出来るもんな!」

 「だから、悪事にも手を染めるの…!?そんな、戦いたいってだけで…!」

 またも髪が炎と化す。何故、こんなにも憤りを感じているのだろう。バトルを楽しむのも手を尽くして生を謳歌するのもそれぞれの生き方なのだから、誰にも口出しする謂れなどない。

 だが…否、だからこそ、それを”間違い”として正しく生きようとすることもまた、一つの生き方なのだ。

 そしてノアは、誰よりもそんな責任感が強かった。だから許せない。だから、どうしようもなく猛りだすのだ。生来の生真面目さが、そうするのだから。

 「――…そんなの、間違ってる。誰かを傷付けて喜ぶなんて、間違ってる…ッ!!」

 肩を咬まれたまま、ノアの声が激昂と変わる。髪の炎がさらに大きくなり、その小さな体から、信じられないほどの光を放ち始めた。

 「の、ノア!?一体何が…!」

 「落ち着け坊。…萌えもんなら誰もが通る道じゃ」

 慌てるダイヤに対し、ソーマは落ち着き払った声で淡々と言い放つ。それは何処か、感情を感じさせないような声のようにも思えるものだった。

 「うあああああああッ!!!」

 叫び声とともに放たれる炎。それによってコラッタが吹き飛ばされる。

 一方でノアは、光り輝きながらその肉体を大きく変えていった。身長も体格も、纏う衣服さえも再構成し、今までよりも大きなものに変わっていく。

 『成長』と言うには急すぎる変化。そう、これこそが萌えもんの最大の特徴の一つである…

 「――進化、か…!」

 進化。ある条件を満たした萌えもんが、自らを上位種へと変態させる独特の生態。その条件には多種多様なものが存在するが、多くは一定力量への到達が挙げられる。

 ただ進化はその外見をも大きく変えるために、自らの意思で進化を止める萌えもんやトレーナーも存在し、現在はそれを補助する道具も存在している。

 だが新米トレーナーにとっては、今迄の全てを変化させる進化に大きな意味を見出す者が多いのもまた事実。それは、ダイヤとて同じなのだ。

 「はぁっ…はぁっ…これは…私、は…」

 少し高くなった目線、開けた視界に少し戸惑いを覚えるノア。自分の手を握っては開きながら、身体の調子を確認する。…問題は、ない。

 周りを見ると、ロケット団の男とそれに与するコラッタはこちらを警戒した目を向けて、ダイヤはどこか感嘆とした顔をしていた。

 「くそっ、こんな時に進化しやがるとは…!怯むなコラッタ、ぶちのめせ!」

 ロケット団員の指示に従い、強く飛びかかるコラッタ。だがノアは、先程までよりも速い反応速度でコラッタの突進を見切り、回避する。

 「…!見える…!」

 その直後、相手の動きに反応して、手の中に燃え上がった炎を投げつけるように振り抜いた。火の粉と言うには威力の高まった炎が、コラッタを吹き飛ばして一撃でKOする。

 「くぅ…ッ!ち、ちくしょう!覚えてやがれ!!」

 あっさりと負け惜しみを言いながら、目を回したコラッタをボールに戻して走り去るロケット団員。周囲にはすぐに、静寂が戻ってきた。

 「…私、一体…」

 「進化、だってさ。お疲れノア」

 「進化…私が…」

 労いの言葉をかけながら、萌えもん図鑑をノアにかざして彼女の変化を一緒に確認する。そこに載っていた名前は、【ヒノアラシ】から【マグマラシ】へと変わっていた。

 「【マグマラシ】、か…。すっげぇな、進化って。見た目も力もこんなに変わるんだな」

 「私も、驚いてます…。身体の全部が進化する前よりも強く鋭敏になったように感じました。…今思うと、ニビジムの後に感じていた違和感は進化の前触れだったのかもしれません。それに…」

 「それに?」

 「あっ!い、いいえ!な、なんでもありません!あ、あはは…」

 少し慌てながら自分の言葉を否定するノア。

 (…さっきよりも、近くハッキリと見えるようになってる、なんて…。それに…バトルの時も私、ついカッとなっちゃって…うぅ~ん…)

 その顔の火照りは、ただ進化をした直後…バトルが終わったからというだけでは無い、のかもしれない…。

 「一回程度の進化で何を呆けておるか阿呆共。萌えもんは多種多様。進化の幅や回数も、種族それぞれにあるのじゃ。

  坊、お主はこれから何度と無くこの現象を見ることになるのじゃぞ?最初の感動は大事じゃが、いつまでもそれに浸っておるでないわ」

 「ははは…ソーマきっついなぁ。まぁ肝に銘じとくよ」

 「フン、分かったら先に進むぞ。まったく、わざわざ喧嘩吹っかけてやったというに、進化までしてぶっ倒してしまうとはのう」

 「やっぱり確信犯か…ったく」

 やれやれと言った感じのダイヤに、ノアが小さく見上げながら進言した。

 「…ご主人様。怒るべきところは、ちゃんと怒った方が良いと思います…。これで危険な目に合うのは、ご主人様ですから…」

 「ん、うーん…」

 「ハッ、何を甘っちょろいことを。どうせあの連中とは避けて通れぬ道じゃよ。やりあうのが嫌なら、その目と口を塞いで貝のように生きるしかあるまい。…いや、それでも連中に通じたものか分かったモンじゃないわ」

 ノアの進言を、一笑に伏せるソーマ。その口振りには、自分たちよりも”世界”を知っている者の風格があった。

 マサラという小さくて平和な町。ダイヤとノアが知っているのは所詮その程度の小さな世界だ。メルアももちろん自分の住処だったところしか知らないだろうし、博識なサーシャにしても、それは所謂【知識】と言う程度。

 空想の中でしか知らぬ現実の暗部に、今は事なきを得たとはいえ彼らは出会ってしまったのだ。平和に生きていれば、出会うことのなかった存在に。

 そんな少年と萌えもん達に比べれば、誰とどんなところを生きてきたかも解らぬソーマの方が、言葉の現実味が強いということも頷ける。

 「…まぁ、これも覚悟しとくべきことなのかもな。それに、誰かを助けるってのも気分の良いことだしさ。な、ノア?」

 「それは、まぁ…そうですが…」

 「でもソーマ、今みたいなのはもう勘弁してくれな。俺はともかく、みんなが危険な目に遭うことだってあるんだ。もちろんお前だってさ」

 「……フン、何を言うか戯けが」

 互いに不服を感じたまま終わりとなった話し合い。ノアの進化には手放しで喜びたいものの、相手がロケット団でありその引き金を引いたのがソーマだったと言うのが、どうにも心にしこりとして残ってしまうのだった。

 体格と共に大きくなったノアの頭をいつもと同じように撫でてやり、ボールへと戻すダイヤ。再度ソーマを肩車し、洞窟の先へと進みだす…。


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