萌えっ娘もんすたぁSPECIAL -Code;DETONATION-   作:まくやま

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一つの勝利は、次への挑戦の鍵。
鍵を持って開いた扉の先にあったのは、月に最も近いと呼ばれた場所。
待ち受けるは黒き意志か、白銀の魂か。


第4話『巡り至るは銀月の命』 -1-

 

 「ノア、電光石火!」

 「たああああッ!」

 ノアの一撃が雄のニドランに直撃、そのままKOする。

 「よっしゃ!やったぜノア!」

 「あぁー、ニドラン!くっそー、イケると思ったのに…!」

 倒れたニドランをボールに戻しながら、悔しそうに地団駄を踏む短パン小僧。

 ここは3番道路。ニビとオツキミ山を繋ぐ、山道への入り口。

 ここにはトレーナーが多く集い、力比べやジム戦に向けた特訓、うちの子自慢など…皆が其々、様々な思いを持ちながら萌えもんバトルに励んでいた。

 その一方でダイヤは、挑戦してくるトレーナーと連戦し勝利を収め続けながらオツキミ山へと進んでいった。

 「あーしんどっ…。もう完全に山道だよくっそう」

 愚痴りながら勾配のある道を進んでいく。まだ日は天辺に来ていないものの、帽子の中やジャケットの内に着た下着はシッカリと汗を含んでいた。

 「休憩されますか、ご主人様?」

 「そうすっかなぁ…。…ん、アレは…」

 少し心配そうに尋ねるノアに同意しようとしたところで、街でよく見るピンク色の屋根が見えた。萌えもんセンターだ。

 「ぉおお、あった…センターだ!よっしゃ、そこまでは頑張るぞ!」

 「えっ、えっと、ご主人様!?」

 「ノア、折角目標が見えたんだし、あと少し頑張ってもらいましょうよ」

 「センターならみんないっしょにやすめるもんねぇ。マスターふぁいとー」

 声援を受けてやや駆け足で歩を進める。そうして徐々に大きくなっていくセンターの姿に、ダイヤは歓喜を覚えていた。

 …が、実際そこに辿り着いたのは屋根が見えてから1時間以上経った後ぐらいになったのでした。

 「遠いよ畜生ッ!!」

 「お、お疲れ様ですご主人様…」

 おいしい水を一気飲みしながら叫ぶ。割と開けていたからといって、山道を侮るのはいけないことだと痛感した。

 一息ついて壁にかかった時計を見ると、時間はもうお昼時。

 「あー…ちょっと早いけど、このままセンターで昼メシ食っちまうか。そしたら出発して、洞窟抜けちまおう」

 「そうですね。今のうちに体力を戻しておきましょう」

 「ごっはんごはーん!」

 和気藹々としているトレーナーと萌えもん達。そんな彼らに向けて、何処からか視線を向けられていることを、今はまだ知らない…。

 

 

 「…ロケット団、ねぇ」

 危険注意の張り紙を見ながらダイヤが呟く。そこには黒いシルエットで胸に大きな【R】が目立つ絵が描かれていた。

 そこに、一足先に回復を終えたノアが隣に立つ。

 「なんの張り紙ですか、ご主人様?」

 「危険注意だってさ。他所の街で事件起こしてるらしいから気を付けろっていうヤツ」

 「…危ないんですね。でも、なんでそんな悪い事をするんでしょう…」

 ノアの言葉に、つい考えてしまう。なぜ悪を為すのか…そんなことについて、マトモに考えたこともなかったからだ。

 今まで見てきたアニメや特撮などでは、それぞれの首魁には大なり小なり何かしらの理由があったが、その末端は何を目的としているのだろう。その悪事は、いったい何のために。

 「…なんでだろうな。ノアはどう思う?」

 「わかりません…。でも、悪いことはいけないと思います」

 「そうだな。俺もそう思う」

 「…ご主人様は、悪いことなんかしませんよね…?」

 どこか不安げに見上げるノア。それを見て、優しく頭を撫でながら答える。

 「大丈夫だって。悪事なんざ面白くもないし、そういうことやる度胸もねぇさ」

 気さくに情けないことを言うダイヤに、ノアの顔も少しほころんだ。

 「ふふふっ、じゃあ大丈夫ですね。私も、悪いことをするような勇気はないですし」

 小さく談笑をしていると、センターのスピーカーからダイヤを呼ぶ声が響いた。メルアとサーシャの回復も終わったのだ。

 「それじゃ、迎えに行くか」

 「はいっ」

 そう言って、二人は仲間を迎えに歩き出すのだった。

 

 

 「さって、いい具合に休憩にもなったし、オツキミ山攻略と行きますか!」

 「目指すは今日中に攻略、ですね」

 「洞窟だと回復手段が限られますからね。なるべく早く越えちゃいましょう」

 「そうだな。…ん、メルア?」

 と意気を高めたダイヤの耳に、メルアの呼ぶ声が聞こえてきた。すぐにチャンネルを合わせて、彼女の言葉に耳をやる

 「マスター、さっきからあのおじさんがこっちを見てるけど、ともだち?」

 「あのオジサンって、どの――」

 と言いながら振り返ったら、バッチリと目が合ってしまった。

 中年男性が物凄くいい笑顔でこっちを見ているその様相は、ある種の怪しさも見受けられる。

 正直引いてしまったが、目が合ってしまった以上無視するわけにもいかないだろう。変にツケられても困るし。

 「…えーっと、なん、ですか?」

 「いやぁよく来てくれたよ坊っちゃん…!実は、あ・な・た・だけに…いいお話がありまして」

 「あ、いえ、そういうの間に合ってるんで…」

 「いやいやいや絶対損はしないから…ちょっと、ちょっと聞いてってよねぇねぇねぇ…!」

 ヒソヒソと話を続ける中年。怪しさが更に増している。さすがのダイヤもすぐさまここから離れたかったが、身を捩ったり離れようとしたら謎のフットワークで先回りされてしまう。

 なんでこんな目に…と思うが、もはや手遅れだった。

 「あぁもうなんなんですか一体…」

 「ふふふ…実はね、このボールに入っているのは…な、なんと秘密の萌えもんトゲピーでして…!しかもメス。この希少価値溢れる萌えもんが、なんと500円でキミの手に!

  ……どうかな?」

 ヒソヒソ声の中にも大仰な身振り手振りに声まで振ってくる。トゲピーという萌えもんがどう稀少かとかそういう詳細は分からなかったが、さすがに一つは分かることがあった。

 「それこそ萌えもんなら間に合ってますし…。つーか、萌えもんの売買って犯罪じゃなかった?」

 怪訝な顔で中年に詰め寄るダイヤ。犯罪という言葉を聞いた途端、男の顔から汗が吹き出てきてひどく不快な顔に変わった。

 だが、その言葉のペースは落ちるどころか逆に早くなってしまう。なにをそんなに必死なんだろうと疑問視するほどだ。

 「いやいやいやそんな固いこと言わないでさ…!500円だよ、ワンコインだよ?君がさっき食べてた昼食より安く買えるんだよ??」

 「いや、でもホントそう言うの良くないと思うんですよ。だから折角ですが…」

 「水臭いこと言わないでよぉぉぉぉ…!ホントお願い。人助けだと思ってさ、このトゲピー買い取ってよぉぉぉぉ…」

 「あーもう、分かった分かりましたよ!だからこんなところで泣き付くなしがみつくな!」

 勢いに負けてついそう言ってしまう完全敗北の瞬間。ボールの中からサーシャの深い溜息が聞こえてきたようだ。NOと言えるようになることも、大人への一歩なのである。

 一方で勝利を収めた中年男は、明るい顔になってすぐさまボールを手渡してきた。…なにか、よっぽど早く手放したかったかのような動きだ。

 「あぁぁぁありがとう~!それじゃコレがボール。あと返品はお断りだよ。それじゃっ!」

 ボールを渡して金を引き取り、まるで脱兎の如くセンターから走り去っていった。

 「…なんだったんだ一体。あー…しかし面倒な事に遭ったもんだ」

 「うゆぅぅ…ごめんなさい、マスター…」

 「メルアは悪くないよ。俺がもっとシッカリしてりゃ良かったんだ」

 項垂れるメルアを優しくフォローする。すぐに元気な声を返してくれたんで、こちらも気に病む必要はないだろう。

 「さて…カタチはどうあれ、秘密の萌えもんとやらをゲットしたんだ。折角だし顔見せさせてもらおっか」

 ボールを上へ軽く放りながら、なんとなくセンターの外に出たダイヤ。ほんの僅かな期待感を胸に抱き、スイッチを入れて放り投げる。

 パカァンという小気味良い音を立てて、白い光が小さな卵のような姿に変わり、顕現した。

 寝惚け眼を擦る萌えもんはノアやメルアよりも小さく、白銀の丸いショートヘアはその頂上が角のように3本出っ張っている。白い小さなワンピースは、赤と青の丸や四角や三角といった柄が散りばめられた可愛らしいものだ。

 見た目は少女というよりは幼児と言った方が正しいような、そんな萌えもん。だがその口振りに、ダイヤたちは皆驚いてしまうのだった。

 「…ふあぁ~…うむ、よく寝たわい。しかしあのオヤジ、この妾をずっとボールに閉じ込めておくとは…やってくれよったのう。

  まぁ良いわ、せっかく出れたのだ。あやつには死よりも苦しい地獄の責め苦を味わわせて……」

 トゲピーはそこで気付く。自分の置かれた状況が、変わっていることに。

 具体的に言うと、彼女の眼前に居たのは小汚い中年男ではなく、口を開けてポカンとしている赤いジャケットと帽子をかぶった少年が一人。

 装備からしてトレーナーだということは分かったが、彼女の理解できる現実はそこまでだった。

 「…なんじゃ、お主ら?」

 

 

 センターにすぐさま戻るトゲピー。だが、件の男はすでにその場から消え失せていた。

 「おのれ、逃げよったか…」

 (そりゃまぁ…これだけ恨み買われてたら、言われなくてもスタコラサッサだよなぁ…)

 口惜しそうに呻くトゲピー。さっきから思っていたが、その口調は可愛らしい外見とは大違いである。

 自分を売りに出した中年男を一頻り口汚く罵った後、大きな溜め息をつくトゲピー。そして、改めてダイヤの方へ向き合った。

 「まぁ良いわ。あんな下郎、放っておいても勝手に天罰を食らうじゃろうて。

  それで、お主らはどこの馬の骨じゃ?」

 「う、馬の骨って…。まぁ、うん、俺はダイヤ。そのオッサンから君を買った、マサラ出身のトレーナーだ。んでもって…みんな、出てこーい」

 軽く言いながらボールを放る。その言葉からすぐに、3つのボールが開いて其々から萌えもんが姿を現した。

 「ヒノアラシがノア、メリープがメルア、サンドがサーシャ。3人共俺の仲間だ」

 呼ばれた順にノアは粛々と、メルアは元気よく、サーシャは礼儀正しく簡単に挨拶した。ただ、ノアはどこかぎこちない笑みであり、サーシャに至っては笑顔を見せることはなかった。

 トゲピーはそれらを一瞥し、再度視線をダイヤの元へと戻す。

 「ふむ、それではお主が、妾の次の主ということになるのだな。

  我が名はソーマと言う。世話になるぞ、ダイヤ坊」

 「…だ、ダイヤ坊ぉ?」

 聞きなれない言葉に戸惑い、思わずもう一度言ってしまう。

 そんな、どこか相手を舐めきったような…吐き捨てるようなソーマの言葉に対し、口火を切ったのはノアだった。

 「ち、ちょっと貴方!ご主人様になんて口の利き方を…!」

 「それ以前にさっきから思ってましたが…本当に、随分上から目線ですね。貴方何様のつもりですか?」

 「お、おいノア、サーシャ…!」

 思わず不満をぶつける二人。サーシャに至っては、敵意も込められているように感じられる。

 だがそれを向けられているはずのソーマは、そんな事も意に介さず、逆に二人を鼻で笑い飛ばした。

 「ハンッ、主をどのように呼ぼうかなど妾の勝手ではないか。これだから生娘(ガキ)は…」

 「あははははー今なんて言ったんですかねー。なんて書いてガキって読んだんですかねー」

 「さ、サーシャ!暴力は禁止ですよ!?」

 笑顔で手をワキワキと動かすサーシャを見て、思わず羽交い締めにするノア。こんなところで血を見るのは嫌だし、ジョーイさんにも迷惑がかかるのだから、止めない理由がない。

 一方ソーマはと言うと、そんな激昂に駆られるサーシャを嘲笑いながら更に煽ってきたもんだから恐ろしい。

 「生娘と言ったのじゃが、解らんかったかのぅ。それとも初心い処女の方が良かったかぇ?」

 「な、なななななにを言うんですか!!」

 「…ねぇマスター、しょじょとかきむすめってどういういみ?」

 「…メルアが大人になったら分かることだよ」

 さすがにその言葉で意味を理解するノア。思わず赤面してしまいながらよく分からない言葉を言ってしまう。図星というヤツだろうか。

 隣ではメルアが無自覚にダイヤへ言葉の意味を聞いていた。さすがに彼も普通の青少年、分かる言葉ではあるが、だからこそメルアには教えられなかったと言える。

 彼らの多種多様な反応を見てかんらかんらと笑うソーマ。なまじ楽しそうなのもタチが悪い。

 そんなソーマの姿に業を煮やしたのか、力尽くでノアを振り払ったサーシャが、テーブルを強く叩いてダイヤに詰め寄った。

 「マスター、私は反対です。こんな非常識な方は速やかにボックスに預けて先に進むべきです」

 「えぇ~!?せっかくなかまがふえたのにぃ~!ねぇそんなのだめだよねぇノア!」

 「わ…私は、ご主人様の決定に従います、が…」

 「まぁ妾も、坊が言うのであればボックスの中で大人しくしているぞよ?この身が戦力として数えるには弱すぎるぐらい分かっておる。そんなことで責めたりはせんから、思うが侭にするんじゃな」

 反対1、賛成1、そして決定を待つ者が2。つまり50/50。すべてはダイヤに委ねられてしまった。

 少し考えた末に、彼が出した答えは――

 「…よし、決めた。俺はソーマをこのまま連れて行こうと思う」

 「そんな、マスター!?こんな方と一緒だなんて、悪影響です…!」

 「そう言うなよサーシャ。人の出会いは一期一会、人の心は千差万別…。これも、きっと何かの縁だと思うんだ。

  それになサーシャ、遠くの星から来た男が残した言葉に、こんなものがある。

  『優しさを失わないでくれ。弱い者をいたわり、互いに助け合い、どこの国の人達とも友達になろうとする気持ちを失わないでくれ。たとえその気持ちが、何百回裏切られようとも…』

  ――ってな」

 どこかの切断光線技が得意な兄さんを連想させるセリフである。言ってる方も少し誇らしげなのがなんか鼻につくが気にしたらいけないと思う。

 「…だから、私にもそのようになれと?」

 「あぁ、まぁ…できたら、な」

 なんとも煮え切らない返しである。その答えにはサーシャも呆れ気味で、だがそれでも主の決めた方向性を立てるよう、今は我慢することにした。

 「…分かりました。そう仰られるのでしたら、私はもう何も言いません」

 フイッと目を逸らされるダイヤ。いくら鈍感でも、さすがにサーシャの不満が目に見えている。だが、言った手前取り消すことはできない。

 その一方でメルアは、ソーマを歓迎しながら笑顔で話をしている。ノアはと言うと、サーシャの味方をすれば良いのかメルアを一緒に歓迎すべきか分からずに、どこか所在無くしていた。

 (参ったなぁ…。ソーマにも、サーシャとも仲良くするよう言っとかなきゃな…)

 なぜあのオッサンがソーマを手放したかったのか。そんな仲間が増えるとはどういうことか…。そういうことが分かってきたのだった。

 


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