萌えっ娘もんすたぁSPECIAL -Code;DETONATION-   作:まくやま

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第3話『覚悟、完了』 -3-

 

 

 迎えた翌朝。ダイヤ達はまた、ニビジムのジムリーダー、タケシと相対していた。

 「ほう…君は昨日の。確か、マサラタウン出身のダイヤと言ったね」

 「あぁ。…今日こそ勝たせてもらうぜ」

 「自信があるようだね、良い事だ。でも、俺だってこのジムを任されているジムリーダー。

  そう簡単に、勝てると思わないことだ!」

 立ちはだかる壁。タケシの固い意志を前に、ノア、メルア、サーシャの3人がそれぞれ飛び出した。

 「…望むところです!」

 「こんどはまけないもんね!」

 「確かに貴方は強いし、相性もそちらが有利です。ですが…」

 タケシに向かってピッと指差すようにその爪を突き出すサーシャ。眼鏡の奥に見える眼は、強く輝いていた。

 「――一度負けたぐらいで、引き下がると思わないことです!」

 「…いいだろう。その不屈の闘志で、かかって来るがいい!」

 構えるタケシ。その強い顔付きに、気迫に少し気圧されてしまう。

 だが、ダイヤはそれに負けてなどいられなかった。

 自分の前に佇む小さな3つの背中が、自分を支えてくれるのだと朧気ながらに分かり始めてきたから。

 だからこそ、最後は自分自身が決めなければならない。それを肌で感じ、心で感じた。

 小さく付いた一呼吸の後、放たれた言葉はとても自然に…だがしかし、それはとても力強く飛び出してきた。

 「…覚悟、完了ッ!勝負だ、ジムリーダータケシッ!!」

 

 「今度はコイツを抜けるかな?さぁ行くぞ、ウソッキー!」

 「あいさー!」

 タケシが繰り出した萌えもんは、木のような模様をし、しかし岩のようにゴツゴツとした服を着た萌えもんだった。

 その両手には緑の球体の付いた枝のような物を持っており、どことなく植物かと思わせる。

 だがその実態は、れっきとした岩タイプ。その身を木に似せていると言われる萌えもん、ウソッキーである。

 「………ッ!」

 思わず息を呑む。昨日のバトルでは、このウソッキー1人にこちらは3人共突破されたのだ。

 (えぇい、くそっ…!悩むな、迷うな!)

 悪いイメージを払拭するように首を強く振る。そして決めた一手、先鋒は…

 「頼むぞ、ノア!」

 「はいっ!」

 ヤル気に溢れたウソッキーに怯まず、後ろ髪を炎と燃やすノア。

 動き出したのは、互いに同時だった。

 「ウソッキー、叩き付ける!」

 「ノア!電光石火!」

 大きく振りかぶったウソッキーの腕が、しなやかに激しくノアへと打ち付けられる。

 だがダイヤの素早い指示があったのか、ウソッキーの攻撃を躱しながら速度を上げていく。

 二度三度と振り抜かれる攻撃をかいくぐり、ノアの速度を乗せた一撃がウソッキーの腹部へと打ち込まれた。だが…

 「くうっ、固…ッ!」

 「そんなものでぇ!」

 効果はいまひとつ。ウソッキーは怯むこともなく、ノアへと一撃を叩き込んだ。

 なんとか空中で受け身を取り着地するノア。だが、ダメージはウソッキーに与えた其れとは比べ物にならなかった。

 「ノア!まだ行けるか!?」

 「ハッ…ハッ……はい、行けます!」

 「よし…なら、撹乱しながら火の粉で攻撃だ!」

 「はいッ!」

 次なるダイヤの指示に、ノアは再度炎を上げてウソッキーへと走って行った。

 電光石火の応用でスピードを高め、ウソッキーの目を惑わせていく。

 そして一瞬のスキを突き、ノアの両手から放たれた火の粉がウソッキーへと直撃した。

 こちらも効果はいまひとつだが、電光石火よりは良いダメージをしている。

 「よし、これなら…!」

 「ぬぅぅ~…ちょこまかとぉ!」

 相手はこちらに追いつけない。そんな素早さの低さこそがウソッキーの弱点だが、ジムリーダーであるタケシがそれに対策していないはずがなかったのだ。

 「焦るなウソッキー、岩石封じ!」

 「おっけー!」

 手に持った枝らしきもので地面を強く叩く。すると、ノアの周囲の地面から岩が隆起し出して、その素早い動きを抑えられることとなった。

 「くっ…来た…!」

 そう、この技こそが昨日ダイヤ達を苦しめた大きな一因だったのである。

 岩石封じ。岩タイプの技で、相手の周囲に岩石を隆起させることでその素早さを抑える効果を持つ技だ。

 炎タイプで素早さ主体のノアとは、最悪の相性を持つ技だといっても過言ではない。

 どんどん隆起する岩石群に、ノアはそのスピードが完全に殺されていた。そして、ノアの真下から隆起する一発。避けることもできずに、跳ね飛ばされてしまった。

 「くっ、ああああっ!!」

 「ノアッ!!」

 吹き飛ばされ、倒れ込むノア。さすがに限界だと察し、ダイヤもノアのボールを取り出した。しかし…

 「ぐっ、ううぅ…!」

 「ノア…もう良いぞ、下がっても…!」

 「…いいえ、やります。最後まで…!」

 力を振り絞り立ち上がるノア。だが、その体力はだれの目で見てもギリギリだと分かるほどだ。

 「よく立ったものだ。俺の目には、もうこの一発で限界に見えたんだが…」

 ノアのガッツを称賛するように言うタケシ。フィールドに立つウソッキーにも、最初のような余裕のある顔は消え失せている。

 「…ご主人様、指示を…!」

 息を切らせながら、ダイヤに指示を求めるノア。その闘志は、バトル開始時より高まってるようにも思える。

 その闘志に、ダイヤは応えなければならなかった。それこそが、トレーナーなのだから。

 「――ノア、もう一度スピードで撹乱だ!」

 指示が通った直後に、ノアが再度駆け始める。初速は先ほどより遅いが、徐々にまたトップスピードへと持っていく。

 隆起した岩をかいくぐりながら、生まれた障害物をも逆手にとって相手の視界を行ったり来たりする。

 「今度こそ止めだ!ウソッキー、もう一度岩石封じ!」

 「させるかよ!岩を使ってジャンプ!」

 「はいッ!」

 追い立てるように隆起していく岩石封じに対し、ダイヤが出した指示は、既に隆起している岩を使って跳び上がるというものだった。

 その指示通りに動き、ノアはウソッキーの上を取る。そして腰だめに据えた手から――

 「煙幕ッ!!」

 「これでッ!!」

 投げつけられた、黒い塊。地面に当たった直後、周囲は黒い煙に包まれた。

 「くっ!?そう来たか!」

 煙幕に包まれて周囲の状況が分からない。ウソッキーは技も出せずに周りをキョロキョロするだけで、ほぼ完全に視界が奪われてしまった。

 「今だノア!火の粉ッ!!」

 「てえええええいッ!!」

 ノアの髪の炎が普段の倍ほどにも大きくなり、強い力とともに煙の中を目掛けて火の粉が放たれる。広範囲に広がるそれは、まるで火の雨のようだ。

 着弾と同時に連鎖する轟音と爆発。衝撃が黒い煙幕をかき消していく。

 やがて視界が晴れたそこには、ウソッキーが目を回して倒れ込んでいた。

 「ウソッキー!…戦闘不能か。よくやった、戻れ」

 労いの言葉をかけながらウソッキーを戻すタケシ。そこで初めて、ウソッキーに起きていた異常に気付いた。

 「…火傷を負っていたのか。通りで、岩石封じの威力も落ちていたわけだな…」

 「よ…よっしゃ!ノアよくやった!」

 「…はぁっ…はぁっ…ご主人、様…」

 振り返りダイヤの元に戻ろうとするノア。だがその足は数歩で縺れ、倒れ込んだ。

 「ノア…ッ!?おっ、おい!」

 思わず駆け寄り抱きかかえる。腕の中で息を切らすノアは、普段以上に疲れ切っているように見えた。

 「ね、ねぇマスター!ノアはだいじょうぶなのっ!?」

 「あ、あぁ…疲れてるだけだろうが…」

 「ノアの特性である【猛火】が発動されたんでしょう。体力が僅かになったことで、炎技の威力を限界以上に引き出せる特性…。それでギリギリまで力を使い果たしてしまったんでしょう。

  不勉強ですよ、マスター」

 ダイヤを諌めながら、粛々とその前に立つサーシャ。次は自分の番だと言わんばかりの立ち姿だった。

 「行かせてくれますね、マスター?」

 「…あぁ、勿論だ!」

 「サーシャ、がんばって!」

 ダイヤとメルアの声に、サーシャは強い笑顔で返す。それが自信か空元気かは定かではないが、その微笑みは確かな心強さを与えてくれた。

 倒れたノアはボールに戻し、ダイヤもまたタケシと真っ直ぐに相対した。

 「さて、俺の番だな。こっちは次で最後、こいつに勝てば、晴れて君たちの勝利だ」

 「それが容易い相手だとは思いませんがね」

 「その通り。さぁ、いくぞイワークッ!」

 タケシが繰り出した2体目、イワーク。サーシャ達よりも一回りは高い身長に、グレーの岩肌のようなワンピースを纏い、頭には岩の角が生えている。そして特徴的なのは、地面にまで着く程の長さを持つ編んだ髪…否、岩石の連なり。

 ”いわへび萌えもん”の異名を持つに相応しい、そんな様相の萌えもんだった。

 「不足なし、ですね」

 「あぁ…。でも、折角ノアが勝ってくれたんだ!行くぞサーシャ、砂かけ!」

 放たれた指示を即座に反応。前傾姿勢で走り出したサーシャがその爪を地面に抉り込ませる。

 そして放たれる砂かけ。確実に相手の目を狙う一撃だ。だが…

 「薙ぎ払え!」

 強く足を踏ん張り、岩石の後ろ髪を振りぬくイワーク。放たれた砂は吹き飛ばされ、逆にその砂塵に隠れて襲いくるイワークの髪がサーシャに直撃した。

 「ぐううっ!?」

 「サーシャ!」

 弾き飛ばされ転がるサーシャ。なんとかすぐに体勢を立て直せたのは、持ち前の頑丈さがあったからだろうか。しかし、ダメージはしっかり通っているようだった。

 「なんて威力だ…サーシャ、行けるか!?」

 「…行けるか、じゃない。行きます!」

 「そう好き勝手にはさせないさ。イワーク、ステルスロック!」

 「おう!」

 イワークの身体が小さく光り輝き、髪を地面に叩き付けるとサーシャの周りに尖った岩が浮き出した。

 不気味に浮かぶ岩は何をするでもなくそこに佇んでいる。だが、それは岩石封じのようなこちらに不利を与える技だということは直感で分かった。

 「何だか分からないが…待ってるだけでも仕方ない。サーシャ、ひっかく!」

 「体当たりで迎え撃て!」

 「たああああッ!」

 サーシャの爪とイワークの頭がぶつかり合い、両者がともに吹き飛ぶ。だがその時、ステルスロックがその牙を剥きだした。

 自らの陣に戻った時、浮遊する尖った岩がサーシャの身体に食い込み、予想外のダメージとなったのだ。

 声もなく倒れ込むサーシャ。なんとかすぐに立ち上がるものの、ダメージは目に見えて増えている。

 「くっそ、あんな技アリかよ…!」

 呻くダイヤに、したり顔で微笑むタケシ。多くの挑戦者を、この技で苦戦を敷いてきたんだろう。そんな自身に満ち溢れた顔だった。

 「来ないのならこっちから行くぞ!イワーク、穴を掘るッ!」

 「あいさっ!」

 言うが早いか、真下に穴を掘り隠れるイワーク。長い髪の全ても入り込み、穴以外は何も見えなくなっていた。

 「死角から攻めてくるつもりですか…。そして周りにはステルスロック…!」

 息を切らしながらも冷静に状況を把握するサーシャ。正直言って、これは絶望的な状況だった。

 どこから攻められるのか分からない上、当たったらその上からステルスロックの追撃があると思った方が良い。運もあるだろうが、望ましい状況が訪れるなどとは考えない方が良いだろう。

 ならばどうする?自分は。そして我が主は。

 「くっ…どうすれば…!?」

 「考える暇など与えるか!イワーク、やれ!!」

 タケシの声に合わせ、サーシャの足元から飛び出してきたイワークの一撃をもろに受けてしまう。なんとか受け身を取りながら落下するも、ステルスロックの尖った岩がガードの上から食い込んでいく。

 なんとか立つものの、すぐさまイワークが潜りはじめる。

 このままではジリ貧…そして見えるは最悪の状況。

 ノアはもうすでに戦えないし、メルアにはイワーク相手に決定力が足りなさすぎる。そして何より、メルアが自分と同じように弄られる姿など見たくないのだ。

 だからこそ自分が…いや、自分でケリをつける。そうサーシャは確信していた。あとはこの意図がダイヤに届けば良いのだが…。

 一方でダイヤも、自分の持っている知識を総動員しながら打開策を考えていた。だが、そうは思うものの出来ることは少なすぎる。相手の布陣も非常に堅牢で、こちらには相性の良い草、水タイプなど居るはずもない。

 サーシャが使える技、昨日の訓練で覚えた技を確認してもイワークを討てるかは…。

 (…いや、これならもしかしたら…でも、これじゃただの博打じゃねぇか…!)

 出てきた案を振り払うように首を振る。そういうしている間に、またも下からイワークが攻め立ててきた。

 「同じことを何度も…くううっ!」

 読んでいたのか防御は間に合った。だが、辛うじてダメージが減ったぐらいで状況は劣勢のまま。

 それでもサーシャは、ダイヤの方を見ずにしなやかに立っていた。撤退の意思を、何一つ見せないように。ただ少しだけ、彼に向けて言い放つ。

 「…マスター、私はどんな指示にも応えますよ。それが、どんな運任せの攻撃でも」

 その言葉で思い出す。昨日の晩にサーシャが言ってくれたこと…もっと、自分たちを頼っても良いのだと。それが、ダイヤの背をまた押すことになった。

 「…さんきゅ。じゃあお望み通り、博打を打つとするか…!」

 (……何かしてくるか。だが、破れかぶれの攻撃など問題ない!)

 自信満々に身構えるタケシ。一方でダイヤとサーシャに残っていた切り札は、たった一つの技…それも不安定な博打技。しかも一度使ったらもう一度同じ状況にはならないだろう。

 故に、この一撃に賭けなければいけなかった。

 「どんなに防御があっても、あと一発を耐えられるほどじゃないだろう?さぁ、止めだイワーク!」

 

 タケシの声に反応し、地中からサーシャへと向かうイワーク。重い音が、フィールドに響く中で、僅か一瞬を推し量る。

 そして――

 「サーシャ!マグニチュードッ!!」

 「はああああああッ!!」

 イワークが出てくる直前、両手で強く地面を叩きつけるサーシャ。その直後、叩き付けた地点を中心にして小範囲ながらも強い地震が発生した。

 局所的に地震を発生させる技。それが【マグニチュード】である。しかしこの技、発生する地震の規模がまちまちで、最大威力ともなれば相性も関係なく大きなダメージが与えられる反面、全く心許ない威力となることも非常に多い。

 事実、ダイヤ達は森で試しに使うものの大した威力の出ない、所謂残念な技という認識を持っていたのだ。

 しかし、このタイミングで引き当てたのは高威力の震度。そこに加えてイワークは地中に潜っている。倍加した地震の威力をダイレクトに食らい、あまりのダメージにイワークも思わず飛び出してしまった。

 「し、しまった!地中が仇になったか!!」

 「まだだ!サーシャ、スピードスターで追い打ちだ!!」

 「これ、でえッ!!」

 腕を外へ振りぬき、放たれるは星型の光弾。必中とも謡われるその技を、空中で当て続けられるイワーク。効果はいまひとつだが、一気に攻撃するならこれ以外になかった。

 ここでの不安要素は一つだけ。特殊攻撃が苦手なサーシャの放つスピードスターがどれ程のダメージになるだろうかということ。

 サーシャは息を切らせながら、ダイヤとタケシは息を呑みながら、倒れたイワークの動きを見つめていた。

 そして、次の瞬間――

 「うおおおおおッ!!」

 「ッ!?まだ、立つの…!?」

 最後の力を振り絞り、怒りのボルテージを高めて襲い掛かるイワーク。

 それを見てサーシャが瞬時にとった行動は、正しく偶然だったと言う以外にないだろう。

 ゴォン!という重く鈍い音が響き渡る。傍目には、サーシャとイワークが激突したようにしか見えない。

 だが実際はそうではなく、サーシャの手には真横に浮かんでいたステルスロックの岩が握られていた。その尖った岩が、イワークの額にザックリとめり込んでいたのだ。

 ふらふらと倒れ込むイワーク。先ほどまでの怒りも、脳天に一撃食らったせいで完全に消え去り伸びてしまったようだ。つまり…

 「…勝負あり、だな。君たちの勝ちだ」

 イワークを引っ込ませながら、ダイヤに勝利を伝えるタケシ。ダイヤがそれを自覚するのには、やはりいくらかの時間がかかってしまった。

 「……お、俺の…俺たちの、勝ち…?」

 「そうですよ。まったく、しっかりしてくださいな。ギリギリで掴んだ勝利だというのに、もう…」

 フラフラと歩いて戻るサーシャに諌められる。だがその直後、彼の目の前でバタンと倒れ込んだ。ダイヤはその瞬間、自分の意識をハッキリと引き戻した。

 「おっ、おいサーシャ、大丈夫か!?」

 「…さすがに疲れました。ボールの中で休ませてもらいますね。まったく…これだから博打は嫌いなんですよ」

 「あぁ…うん、ありがとうな、サーシャ」

 愚痴るサーシャに一言礼を言い、優しく頭を撫でる。それに対して彼女は何も言わずに、ボールの中へと誘った。

 「マスターもノアもサーシャも、みんなおつかれさま!やったね!!」

 「あぁ…そう、だな。俺達の勝ちだ…ッ!」

 拳を天に突き上げる、あまりにも簡単でいながらもハッキリとしたガッツポーズ。勝利を味わうには、この程度で十分なのかもしれない。

 「おめでとう、良い試合だった。さぁ、ジムを突破したことだしその証であるリーグ公認バッジと技マシンを受け取ってくれ」

 「あ、あぁ、ありがとう」

 少々照れながら、ぎこちない手つきでタケシからバッジと技マシンを受け取る。

 灰色のバッジは、専用のケースに入れられながらも鈍く輝いていた。

 「…まさか、昨日の今日でここまで強くするとはね。大したものだよ」

 「いや…まだまだだよ。どうしてもこれは運頼りの勝利…手放しで褒められたものじゃない」

 「運も実力の一つ。その運を引き寄せたのは、やっぱり君と君の萌えもん達の力さ。

  だが、君たちはまだ一歩踏み出しただけだ。今日の勝ちに驕ることなく、頑張ってくれ!」

 「――あぁ。まだまだ、もっと強くなってやるさ!」

 固く握手を交わす二人。その後は簡単に技マシンの説明を受け、ついでにタケシからニビの観光スポットを紹介されまくってしまった。どうやら彼は、ジムリーダーであると共に自分の街を愛する一人の青年なのだと気付かされた。

 

 

 「…っふうー…。みんな、お疲れ様。ノアとサーシャはよく頑張ってくれたな」

 「いえ、そんな…」

 「当然のことをしたまでですよ、マスター」

 「いやいや、それでもよくやってくれたよホント」

 「むぅー、メルのがんばっておうえんしたもん!」

 「そうだね、メルちゃんの応援もあったからこその勝利ですっ」

 ノアの言葉に、純粋に喜ぶメルア。声だけしか届かないものの、3人の仲はこの僅かな時でも十分に良くなっていたと思える。

 「まぁとりあえず、今日は二人は早いとこ回復してもらうか」

 「あっ、はい…そう、ですね」

 どこか歯切れの悪いノアの言葉。さすがにその程度にも気付けないダイヤではなかった。

 「ん、どうかしたかノア?」

 「い、いいえ、そんな特には! …その、なんだか少しだけ、身体の調子がおかしいかなって。決して悪い状態ではないんですが、何となく違和感が…」

 「違和感か…まぁ、そんな嫌な感じじゃなければセンターでのメディカルチェックで何かわかるだろ」

 「…そうですよね」

 一拍置いたものの、また明るい声で返すノア。彼女の身体に起こる小さな異変には、今は誰も気付くことはなかった。

 「明日はどうするんです?」

 「地図によると、次に行けるのはハナダだからな。オツキミ山を越えていくことになりそうだ」

 「山越えするならしっかりと準備しなければいけませんね。忙しくなりますよ、マスター?」

 「トレーナーってのも大変だな…」

 苦笑いしながらセンターへの帰路を往く。日はまだ高く、この先の明るさを示しているようでもある。

 最初の壁を越えたところで、旅路はまだまだ始まったばかり。

 少年と萌えもん達の行方は、これから大きく揺れ動く…。

 

 

 「そういえばマスター、バトル前に言ったあの言葉は何だったんですか?」

 「ん?あぁ、アレな。まぁなんだ、トップトレーナー達の姿を見てるとそういうのが多くてさ。

  カッコいいから真似しようと思って、な」

 「…アレ、聞いてる方は結構恥ずかしいものなんですよ?」

 「…よし、それじゃ事ある毎に言ってやろう」

 「嫌がらせですかッ!?」

 

 揺れ動く、はずだ。

 

第3話 了




=トレーナーデータ=

・名前:ダイヤ
 所持萌えもん…ノア(ヒノアラシ ♀)
        メルア(メリープ ♀)
        サーシャ(サンド ♀)
 所持バッジ…グレーバッジ

=萌えもんデータ=

・名前:ノア
 種族:ヒノアラシ(♀)
 特性:猛火
 性格:せっかち
 個性:ものおとに びんかん
 所有技:電光石火、睨みつける、煙幕、火の粉
 所持道具:無し

・名前:メルア
 種族:メリープ(♀)
 特性:静電気
 性格:おだやか
 個性:ひるねを よくする
 所有技:体当たり、鳴き声、電磁波、電気ショック
 所持道具:無し

・名前:サーシャ
 種族:サンド(♀)
 特性:砂かき
 性格:わんぱく
 個性:うたれづよい
 所有技:引っ掻く、砂かけ、スピードスター、マグニチュード
 所持道具:無し

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