IS~インフィニット・ストラトス~ ―I AM…ALL OF ME…―   作:ヱ子駈 ヒウ

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第1話 「朴月 姫燐」

「よぅ、朝から不景気な顔してるねぇ」

 

 彼は身を投げ出していた机から億劫そうな動きで身体を起こすと、恐らく自分に声をかけたのであろう妙にオッサン臭い口調で喋る少女の方に向き直った。

 

「……なんだよ」

「そう邪険にしなさんなって。オレは感動したぜ、あの生意気なイギリスっ娘に『日本人を無礼るなぁー!』って叫んだ所は懐にこう、グッとくるモノがあったな。うん」

 

 そう言って、ワザとらしく目頭を押さえながら気分爽快といった表情を浮かべた彼女を彼は胡散臭そうな目で見遣る。

 背は男である自分より少し低い位だろうか。それでも女子の中では大分高い方で、女性なのにスカートではなく自分と同じズボンを着用しているが、開けた上着の下のインナーから激しく自己主張する2つの浪漫が、彼女は女ですよと大合唱している。

 顔立ちは間違いなく美少女と呼ぶに相応しく整ってはいるモノの、今現在浮かべているお淑やかさとはかけ離れた悩みの『な』の字すらなさそうな笑顔と、自分の事を女なのに『オレ』と呼ぶせいでむしろ、美少女と呼ぶより『近所の悪ガキ』と形容した方がしっくりと来てしまう。もったいない。

 そして特に目を引いたのが、全世界から人が集まるこの学校でも一際珍しい燃え上がる様な赤い髪で、それをセミロングで適当に切り揃え、どこかに妖怪でもいるのかレーダーがぴょこんと1本と立っていた。

 

「はぁ……」

 

 さっきの口喧嘩でそんな啖呵を切った覚えは全くないのだが、今は心身共に疲れており、つっこむ気力も無いので彼は適当に生返事を返す。

 

「あー、なにか用か? 何も無いなら……」

「おっと、そう急かすなよ。今のは挨拶みたいなもんで本題はこっからだ」

 

 そうして彼女は一度大きく息を吸い、キッと目を見開き、彼に向かい叩頭しながら手を合わせ叫んだ。

 

 

「たのむ織斑一夏! オレの恋愛に協力してくれ!」

 

 

 ピシィ! と空間に亀裂が走った――ような気がした。

 さっきまでの喧騒が嘘のように、休み時間の教室が静寂に包まれる。

 1年1組に所属する生徒全ての視線が、1番前の席に座る彼と、頭を下げる少女に集中砲火された。

 懐疑、好奇、驚愕、そんな感情が飛び交う張りつめた空気の中、彼―――織斑一夏は、

 

「…………はぁ?」

 

 そんな、覇気の無い返事を返すのが精一杯だった。

 

 

第1話 「朴月 姫燐」

 

 

 このままでは訳が分からないので、話を少し巻き戻そう。

 全世界で今、もっとも注目を浴びている少年、織斑一夏は、ここ最近の自分の人生を振り返り、ふと憂鬱のため息を漏らした。

 ぶっちゃけこれだけ言うと、タダの厨二病が激イタな自己陶酔をしているだけにしか見えないが、もし本当にそうだとしたら彼は今頃、どれほど幸せな男だっただろうか。

 いや、ある意味一夏の現状は、男ならこれ程の幸せは無いと断言する猛者が少なからず居るモノだが、生憎と彼はそう思う事ができない草食系でチェリーなボーイだった。

 女、女子、婦女子、乙女、おなご、ミス、ガール、べっぴん、デラべっぴん。教室を見渡す視界に映るはそればかり。渡る廊下も女子ばかり。トイレも離れにある1つを除けば女子用ばかり。

 そう、ここは女子校。入学初日の朝のホームルームが終わり、女子生徒達がわき合い合いと新たな学友たちと戯れるここは本来、正真正銘の『男』である一夏が居ていい場所ではない……のだが。

 

「はぁぁぁぁ~~……」

 

 ああ、なんで自分は『あんな物』を動かせてしまったのだろうか。

 机に身を投げ出しながら特大のため息と共に、一夏は自分の手のひら……正確には自分の身体自身とにらめっこする。彼は別に、祖父の遺言でここに来た訳でも、不登校が祟って母親に無理やり入学させられた訳でもない。だが、不条理という点ではこれらといい勝負をしているだろう。

 『IS』……正式名称『インフィニット・ストラトス』。

 とある天才で天災なイカれた科学者が創り出した、現代戦最強にして究極の機動兵器。

 核となるコアを中心に、手足に部分的なアーマーを装着するパワードスーツ。

 その力は、重力を無視し空を鳥の様に自由に飛び、バルカンやミサイルが直撃してもバリアを展開することで傷一つ付かず、圧倒的な出力と人だからこそできる柔軟性を併せ持つ。しかもISの本体を粒子化させる事によって持ち運びにも長けると、ニュートンやライト兄弟、歴代の科学者全員にケンカを売った超兵器。

「戦争は変わった……」と言う言葉が、まさか現実世界で、しかも自分が生きている内に聞く日が来るなど誰が予測しただろうか。 

 その現代戦の常識を全てひっくり返してゴミ袋にまとめ、ポイっと捨てた驚異的な兵器は際どい所で成り立っていた世界のバランスをいとも容易くぶち壊し、人々の価値観すらも狂わせた。

 だが、そんなISにも唯一にして最大の欠点がある。

 それは何故か『女性』しか操れないという、全国のフェミニストが裸足で逃げ出すようなもので結果、世界は女尊男卑が当たり前。男など、女の奴隷であるという風潮が全国的に広がり、全国の野郎共は涙を呑む生活を強いられてきた。そう、

 

「あー、疲れた……」

 

 ここで身を投げ出しながら、ポヘ~と腑抜けている男以外は。

 織斑 一夏、全世界でたった1人だけ『男』でありながら、『女』しか動かせない筈のISを動かせる人間。それが彼の通り名だ。

 そしてここは『IS学園』。その名の通り、ISの操縦者を養成するために作られた世界唯一の高等学校だ。分校も無いため、世界中から国籍を問わず様々な生徒が集まって来るのが特徴の1つだが、まぁ当然、女性しか動かせないので世界中から集まってこようが結局女性だらけな訳で。

 たった独りのロンリーボーイ、一夏は肩身が狭い思いをしながら過去を羨む。

 思えばここ最近、ロクな事が無い。

 高校受験の会場を間違えた事から始まり、迷子になった先にあったISを起動させてしまい此処への入学が勝手に決まってしまった事や、そこには女の子しかおらず一時も気が休まらない事や、今まで何をしているのか知らなかった姉がここで教鞭を振るっており、今朝さっそく自分もその鞭を出席簿で叩かれるという形で受けた事や、極めつけは先程のイギリスからの代表候補生――セシリアとか言ったか。に、よく分からない理由で目を付けられてしまった。

 ……まぁ、千冬姉が何をしているのか分かった事や、幼馴染の篠ノ之 箒と6年振りに再会できたのは素直に嬉しかったのだが。

 

 だが、一夏はまだ知らない。

 ここから先、もっとかつ、最も疲れるイベントが待っていることに。

 織斑一夏が犯した失態はただ1つ。それは先程のイギリス人、セシリア・オルコットなど可愛く思えてくる『変人』に目を付けられてしまったことだ。

――オレの想像以上に、コイツは使える。

 口元を楽しそうに歪ませた彼女はヘッドホンを外して首にかけ、己が愛するヘヴィメタルと自分の席に心の中でしばしの別れを告げると、定めた獲物の正面へと脇目も振らずに進み、言った。

 

 

「よぅ、朝から不景気な顔してるねぇ」

 

 

 そうして、物語は冒頭に戻る……。

 

              ●○●

 

「……おい、これはどういうことだ一夏」

 

 沈黙が支配する教室に響いた第2声は、いつの間にか一夏の隣までボソンジャンプしていた6年振りに再会した彼の幼馴染みこと、篠ノ之箒だった。それが起爆剤であったかのように、他のクラスメイト達による質問と言う名の爆撃が投下される。

 

「ねぇねぇねぇ、今のってどういう事!? 告白なの!? コンフェションなの!?」

「うわぁ~、先越されたぁ~~~~!!」

「速さは文化の基本法則と言うけど、いくらなんでも速過ぎじゃない!?」

「さぁ吐けッ! いつの間にこんな女を作ったのだ!?」

「い、一体なにがどうなっていますの!?」

 

 それはこっちが聞きたいよ。

 一夏が心の中でそんな事を切実に思ってると、いきなり女性のモノとは思えないバカ力でグイっと腕を引っ張られ、

 

「ここじゃちょぃと話辛いな。屋上に行くぞ、織斑」

 

 次の授業まであと数分と無いのに、物凄いスピードで屋上へと拉致られてしまった。

 ちなみに教室を出た瞬間、千冬と副担任の山田先生とすれ違ったが、2人共ポカーンとした表情で自分達を見送ったとき、一夏が「千冬姉があんな顔するとこ初めて見た」とか思ってしまったのはどうでもいい余談である。

       

                  ○●○

 

「はぁ~、風が気持ちいいなぁ~」

 

 屋上の扉を開き、フェンスの方へと小走りすると両手を広げ、身体を優しく撫でる春風を全身に感じながら彼女は、この解放感に心から酔いしれていた。

 

「授業、始まったなぁ……初日なのに……」

 

 一方、鳴ってしまった2時間目が始まるチャイムを背に一夏は、サボタージュの背徳感と帰ったら待ち受けているであろう教師であり姉である千冬の説教を、今日の空模様のように心から憂鬱に思っていた。

 

「どうした、暗いぞ織斑。晴れて無いのは確かに残念だけどなぁ」

「誰のせいで暗くなってると思ってるんだ……」

「あー……その件は悪かった。謝罪する。だが、ちょっと急を要する件だったからな」

 

 急を要する件? 一夏が首を傾げるのを図ったように、彼女は事情を説明しだした。

 

「まず始めに誤解を解いておこう。オレは、別にお前の事を愛してる訳じゃない」

「そりゃ、俺達は初対面だからな。ここでいきなり愛してるなんて言われても、正直困る」

「あー……そういう訳じゃないんだが、まぁいいや」

 

 アレで誤解しないのか……と小声で聞こえたが、どういう訳だったのだろう。と心底分かりませんといった表情を浮かべる唐変木。

 

「とにかく、織斑にはオレの恋愛に協力して欲しいんだ」

「恋愛……?」

 

 その言葉に眉をしかめる一夏。

 どこか要領が掴めない。このIS学園には女性しかおらず、『彼女』の恋愛対象になるような男は1人も……そこで、ようやく自分の見落としに気が付く。

 

「も、もしかして俺と!?」

 

 そう、必然的にそうなってしまうのだ。

 この女体パラダイスであるIS学園において唯一の例外。恋愛対象である男は自分しか居ない。生まれてこの方、異性に告白されるなど初めてで、どう返事しようかあたふたしていると一夏を見て彼女は心底呆れたような表情を浮かべ、

 

「お前……人の話聞いてたか? 勘違いするなよ。さっきも言った通りオレは、お前にライクは抱いていてもラヴな感情はこれっぽっちも無い。因みにツンデレでもないぞ」

「え……じゃあ、どういうことだ?」

 

 少しばかりがっかりとした気持ちになるが、まぁ仕方ない。

 一夏は、更に膨れ上がった疑問を投げかける。

 

「恋愛に協力するもなにも、相手がいないじゃないか。男は俺だけだし……もしかして遠距離恋愛ってヤツか? 文通とか」

「年の割に随分古典的な恋愛手段思いつくなオィ……まぁ、それも悪くは無いがハズレだ」

 

 これもハズレ? 自分は決して頭が良い方ではないが、これ以上の可能性なんてあるのか? と先程から頭をフル回転させているが、答えは見付からない。

 そんな一夏の姿を面白そうに眺めながら、彼女は人差し指をピン、と立て、

 

「じゃあ1つ目のヒントだ。まず、この学校は何でしょう?」

「何ってそりゃあ……ここはIS学園だろ?」

「うーん、惜しいな。もうちょっと根本的な所だ」

 

 根本的……? この学校は、ISの事を教える為に作られた学校で、IS以外に特徴なんて……あ。

 

「もしかして、女子校って所か?」

「大正解だ。聡明な奴はお姉さん嫌いじゃないぞ」

 

 同年代じゃん……というつっこみを何とか飲み込み、その時ふと思いついた可能性を提示する。

 

「まさかお前、俺と同じで間違えてここに来たんじゃ……」

「残念、続いて2つ目。オレはこの学校が女子校だという事を知って入学した。つーかお前くらいだ、自分の進路を決める試験会場を間違えるバカなんざ」

 

 いや、まぁ事実だが、もうちょっと言い方ってもんが……と傷ついてる一夏を無視し、彼女は3本目の指を立てた。

 

「じゃあ、ラストに大ヒント。オレは、ここIS学園に新たな『恋』を求めてやって来た。お前が居るとは知らずに、だ。ここまで言ったらもう分かるよな」

「え……だって……えぇ?」

 

 流石の一夏でも、もう予想はできていた。だが理解ができない。

 確かに、この予想が確かなら今までの彼女の言動全てが納得いくモノになる。だが、それは正にチェス盤をひっくり返すなんてレベルではなく、全ての前提を、この世界の必然すらひっくり返した……あえて言うなればチェス盤をちゃぶ台返ししたような予想なのだ。

 

「ふふん、どうやらデッドエンド(真実)に辿り着いたみたいだな」

 

 そう呟くと、彼女は大手を広げ、まるで城に辿り着いた勇者と対話する魔王の如く威風堂々と宣言した。

 

 

「そう! オレは! 可愛い女の子が、大ッ、大ッ、大好きなのだぁぁぁぁぁーーーーー!!!」

 

 

 ズガガーン! と雷のようなイメージが彼女の背後を奔り、その全身全霊を込めた叫びは木霊となり、蒼い海と曇り空へと溶けていく。

 無論、ライクじゃなくてラヴで! と締めくくる彼女の声で、半放心状態になっていた一夏の脳みそがようやく稼働を始め、そこでようやく

 

「えええええぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーー!?!?」

 

少し遅れて、また特大の木霊が屋上から世界へと消えていった。

 

                  ●○●

 

「よーう、少しは落ち着いたか?」

「あ、ああ……」

 

 2人はいつまでも立っているのに疲れたので、適当に座れそうな所に並んで座ることにした。

 彼女が持っていた水を貰い一息つく一夏だったが、まだ頭の中は混乱のるつぼだ。

 

「あ、あのさ、念のためもう一度確認するけど、お前ってもしかして、その……レズビアンって奴……なのか?」

「格調高く言うと百合だが、まあ大方間違っては無いな」

 

 改めて宣言され、一夏は強烈なカルチャーショックを受けた。

 そういう人が居るって言うのは聞いた事があるし、悪友の家でその手のマンガを読まされそしてその場で力説されたことがある(無論、ドン引きした)が、まさかこうして目の前に、しかも自分のクラスメイトとして出会うとは思ってもみなかったからだ。

 

「なんだ、同性愛がそんなに珍しいか?」

「だ、だって……そりゃ……」

 

 自分と、価値観が全く違う人間。

ただ、それだけだというのに、一夏には彼女がどこか、とても遠い存在に思えてしまう。

 

「まぁ、無理もないわな。多分オレだってお前がホモだったらドン引きする」

「えー…………」

 

 なんか、とても理不尽な物を感じるが……いやそれ以前に自分はホモなどでは断じて無いが。

 

「織斑が引くのは自由だし、オレだって気にしない。でもな、なんでそれを今、お前に告白したのか。その理由だけは考えて欲しい」

「告白の……理由?」

 

 そう、そもそもなんで俺達はここで話しているのだったか。

 この話のルーツは―――

 

「恋愛に協力してほしい。……って奴だよな」

「ザッツライト、その通りだ」

 

 なぜ、彼女が俺にこんな話をしたのか。

 その理由が……イマイチよく分からない。

 一夏の混乱は更に深まっていくばかりであった。

 

「分かりませんって顔だな。理由としては、まず協力関係を結ぶ前にオレの事を少しでも理解して欲しかった。って所かな」

 

 理解と信頼なき協力などあり得ない。

 簡単な事だ、例えその人物の事を一切知らずとも、信頼に値し、目的のために使えると判断できる力さえ有れば人と人は協力する事ができる。その逆も叱り。利害さえ一致すれば、数が多い事に越したことはないからだ。

 だが、その両方を知らない人物と協力するとなれば別だ。

 人は見ず知らずの力量も分からない人間に、己の背中を預けられるだろうか?

 答えはNO。勝手に裏切る可能性だってあるし、自分の足手まといになる可能性もある。無論、その両方が襲いかからないとも限らない。

 当然、前者でもその可能性が無いとは言い切れないが、まだある程度の予測を立てる事ができる分マシだ。しかし、後者に至ってはそれすらできない。

 

 だから彼女は己の秘密を暴露した。少しでも、一夏の信頼と理解を得るために。

 

「……それでも分からないな。そもそも、なんで俺に頼むんだよ?」

 

 恋愛経験皆無の自分よりも、もっと相応しい人物がこの学園には居るんじゃないだろうか?

 その疑問に、彼女はとっても簡素な言葉で答えた。

 

「それは織斑、お前が男だからだ」

「男だから?」

「そうだ、お前も知っての通りこのIS学園はお前以外全員女のパラダイス。言わば桃源郷。もしくはヘブン」

「は、はぁ……」

 

 そこまで言う物だろうか? 彼女を見ていると、もしかして自分は女子への執着というか、そういう物が枯れているのではないかと思わず錯覚しまう。

 

「そこに1匹男(イケメン)を投げ込んでみろ。どうなったかは身に沁みてるはずだぜ?」

「ああ、確かに……」

 

 この学園に入学して以来、一夏は常に誰かの視線に晒されて来た。

 教室はもちろん、校庭、廊下、門、あげくの果てにはトイレまで、ありとあらゆる所でまるで見世物動物のような扱いを受け、彼は心底ウンザリとしていた。

 

「だからこそ、意味がある」

「意味?」

「織斑、オレがお前に頼みたいのは、紹介だ」

「しょ、紹介?」

「非常に歯がゆいがオレが1個人である以上、限界がある。1日に会ってお茶に誘える量も、お互いの将来について語り合う時間もほんの少ししか無い」

 

 確かに、この学園の敷地は非常に広大で、それに見合う全校生徒がいる。

 その全てをチェックすることは、1個人の力では到底不可能だ。

 

「だが織斑、お前は逆だ。お前はほっといても逆に人を夜中の蛍光灯の用に自分から引きよせてくれる。そこでお前の眼にかなった女の子をオレに紹介してくれるだけで良い。無論、それなりに謝礼は弾むぜ?」

「……確かに、そうだな。その表現はどうかと思うけど」

 

 今日だけでも、一体何人の女子と出会っただろうか? 中には間違いなく自分より学年が上の人だって居たし、教師だって居たような気がした。確かに彼女の言う事は利に叶っている。

 

「納得したけど全く、勘弁して欲しいよなぁ。なんかここ最近、厄介事ばっかりだ。俺が男でISを動かせるって理由だけで……」

「……お前、本当に、本当にそれだけだと思ってんのか?」

「へ? それって、どういう……」

 

 彼女の非常に驚いたような、それでいて壮大な呆れと、ほんの少しの怒気を孕んだような表情に、思わず一夏の声が詰まる。今までの、どこかおどけたような声色が一切成りを潜め、真剣で、冷淡な眼差しが一夏を突く。

 

「織斑、こいつはオレからの忠告だ。お前が思っているほど、お前が今口走った『だけ』ってヤツは決して軽く無い。むしろこっから先、お前はその『だけ』のせいで2度と今までの過ごして来た生活には戻れないだろうな」

「なっ………!?」

 

 一夏は、彼女の言ってる事がすぐには分からなかった。

 もう、2度とあの平穏な、普通に学校に行って、将来役に立つか分からない勉強を眠気眼でノートに取って、帰りに友人達とバカをしたり、家に帰って晩御飯を作って姉の帰りを待ち、共に笑いながら夕食をつつき、明日に供えて寝る。

 そんな退屈ながらも素晴らしく、毎日が輝いていたあの日々が戻らない……?

 

「な、なんでそんなことが……」

「言えるのかって? 答えは簡単、それはお前が世界のバランスすらひっくり返せる超兵器を動かせる唯一の男だからさ。今頃、世界各国のお偉いさんはお前の腹を解剖したくてウズウズしてる頃だろうな」

 

 立て続けに突き付けられる事実に、脳の処理が追い付いていない一夏の目の前に座り、彼の胸をトントン、と突きながら、明日の天気でも言うかのように起伏のない声で彼女は話を続ける。

 

「お前が自分の事をどの程度だと思ってたのか知らないが、お前の身体には膨張抜きにこの世界をぶち壊せる秘密が隠されている。当然、その秘密を狙う輩はこの世に腐るほどいるぜ」

「……教えてくれ、その事についても」

「ああ、OKだ。今のお前はオレにとっても、いや誰にとっても金の卵だ。例えばオレが、今この瞬間お前を拉致って然るべき所に連れてったとする。きっとそれだけでオレは一生遊んで暮らせる金を得られるだろうな。当然、俺の場合なら個人だからこんな事しかできないが、国クラスならもっとエグイ方法も平気で使って来る。だからだろうな、織斑先生がお前をここに入学させたのも」

「千冬姉が!?」

「そうとしか考えられねェよ。あらゆる国家機関に属さないIS学園は言ってしまえば1つの国だ。国家権力に対抗するには、国家権力しかない。無茶な要求はつっ返せるし、誘拐でもしようものなら即国際問題だ。そのうえ、弟を自分の手元に置く事ができる。よくもまぁ、ここまで完璧な環境が有ったモンだぜ。って、おい織斑?」

 

 一夏は、ただ俯き歯を食いしばる事しかできなかった。

 どれほど、自分は今まで無知で愚かだったのだろう。

 誰かを護りたい? 自惚れもいい所だ。結局、俺はまた千冬姉に護られている。そんな俺が、誰かを護る事なんて出来るわけが無い。

 結局、俺はあの日から何も成長していないッ……!

 

 そんな無力感に打ちひしがれる少年を見て、彼女は思う。

 

(……あちゃー、もしかして地雷踏んじゃったかなこりゃ……)

 

 始めは軽い警告のつもりだったのだが、思わず熱が入り過ぎてしまった。

 何度反省しても思った事を包み隠さず、しかもやたら刺々しく言ってしまうのは何度やってしまっても止められない悪癖だ。こんなんだからモテないんだろうか。

 このまま気まずい空気にしとくのは耐えられないので、立ち上がってとにかく何か話題を……、

 

「あー、その、まぁ何だ。クヨクヨすんなって! 人生は長いんだから」

「……いい?」

「ドンストップキャリオンな精神で……はぃ?」

「教えてくれ、俺はどうすればいいんだ!? どうすれば俺は千冬姉に護られずに、1人で立つ事ができるんだ! 昔から親が居ない俺を何時だって、どんな時だって俺の代わりに千冬姉は傷ついてくれた。護ってくれた! 嫌なんだよ、もう俺の為に千冬姉が傷つくのは!! 俺は……俺は……」

 

 彼女の肩を潰れてしまいそうな程の力で握り、溢れそうな涙を堪えながら一夏は叫ぶ。それは彼の本心。今まで誰にも、千冬にすら吐露しなかった心からの叫びだった。

 力無く、その場に力無く膝を付く一夏。

 いつまで、2人はそうしていたのだろうか。

 彼女は、そんな情けない彼の姿を見てため息を1つ付く。

 そして少し考えた後、うん、と首を1回縦に振るとゆっくりと口を開いた。

 

「……なら、強くなるんだな」

「…………え?」

「誰かに護られるのが嫌なら。誰かに護られる必要が無いくらい、お前自身が強くなっちまえばいいのさ。簡単だろ?」

「でも……どうすれば……」

「とりあえず、男ならシャキッと立つ! ハリィアーップ!」

「は、はいぃ!?」

 

 強く命令されたせいで、思わず敬語で返してしまい、なぜかしっかり直立してまでしまっている。

 

「そう、背筋は真っ直ぐ、顎は引く! これからオレの問いには口で(ピー)たれる前に言葉の前と後ろに『サー』を付けろ! 分かったかこの(禁則事項)が!」

「サ、サーイエッサー!」

「ふざけるな! 大声を出せ! (都知事による規制)落としたか!?」

「サーイエッサー!!!」

 

 とうとう受け答えすら軍人風になってしまった。

 

「織斑一夏訓練兵! ここは何処だ!!?」

「サー! IS学園でありますサー!」

「では、お前の特技はなんだ!!?」

「え? ええっと、家事全般とマッサージ……」

「んな事は聞いていないバカ者!! お前が、お前にしかできない事を聞いているんだ!」

「サ、サー! お、男でありながらISを動かせることであります! サー!」

「そうだ! そしてオレは誰だ!?」

「サー! 教官はええっと……あれ?」

「なんだと!? そんな事も忘れたのかこの……」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!? 冗談抜きで、お前は誰なんだよ!? まだ名前すら聞いて無いぞ俺!?」

「………………へ?」

 

 その言葉に彼女は質問を止めると、顎に手を置いてあっちをウロウロ、こっちをウロウロ、結構広い屋上をぐるっと1周してまた一夏の所に戻って来た辺りで、

 

「……オレ、まだ名前言ってなかったっけ?」

「言ってないよ! つーか前フリ長いな!?」

 

 普段はこんな大声を出すことが滅多に無い一夏だが、今回に限っては全くの無意識に腹の底から全身全霊でつっこんでいた。

 

「いやー悪い悪い。今まであんまりにも会話がスムーズに進んでたからつい……ははっ、ははは」

 

 苦笑いを浮かべながら後頭部をポリポリする謎の少女A(仮)。

 一夏はもう色々と脱力が止まらなかった。今まで完全に忘れていた彼女と、そして自分自身に。

 

「ほんじゃま、改めまして! 耳の穴かっぽじってよーく聞きな。オレの名は」

 

「朴月(ほおづき)! 朴月(ほおづき) 姫燐(きりん)だ!」

 

「朴月……姫燐……いい名前だな」

「だろ? でも褒めたって惚れないぞ? めんどかったらキリでもいいぜ。そっちのが慣れてるし」

「ああ、それじゃあこれからよろしくな、キリ。代わりに、俺の事も一夏って呼んでくれないか?」

「おう! よろしくな一夏!」

 

 お互いに笑いながら名前を言って握手を交わす。ああ、これぞ青春。これぞ学園モノ。

 

「……なんつー奴だ、オレも一応女だってのに。オレがノンケだったら即死だったかも。織斑一夏、恐ろしい子……後でメモっとこ」

「ん、なんか言ったか?」

「なんでもねーよ、ケッ」

(……え、俺なんか嫌われる様な事した?)

 

 天然の特1級フラグ建築士、ああ、なんて眩しい。その能力さえあれば……と羨む眼差しどこ吹く風か、鈍感を極めた彼には届かない。

 

「それよりキリ、さっきの質問なんだけど……」

「ああ、その事だな。さっきも言ったが、お前は護られるだけの自分が嫌なんだな?」

「……ああ、その通りだ」

「だったら、この学園ほど最適な機関はそうそう無いぜ。なんせ、ここは現代最強の兵器の専門学校だ。お前より強い奴は山ほど居るから相手には困らないし、授業でも強くなる為の方法も教えてくれる。そして何より……」

 

「このオレが、協力者としてお前を全力でサポートしてやるからな! 問題無しだ!」

 

「ふむ、確かに……ここはISの専門学校、トレーニングマシンだってあるし、それにキリも……キリも?」

 

 なぜだ、一体いつの間にそういう話になっている?

 ようやく無くなりかけてた疑念がまた沸々と顔を出す。

 

「あ? 決まってるじゃねえか。一夏がオレの恋をサポートする。その代わりにオレが一夏が強くなるのをサポートする。世の中は等価交換で出来ているんだぜ?」

「ちょ、ちょっと待て! 何でもう俺が協力することが決定して……」

「大丈夫大丈夫、オレこう見えてもそこそこ強いから」

 

 姫燐はそう言って堂々とその豊満な胸を張るが、一夏としてはどうしても一抹の不安がのこる。

 

「……本当に強いのか、お前?」

 

 何て言うか、一夏がイメージする実力者と呼ばれる人種と目の前の彼女は、余りにもかけ離れすぎている。少なくとも、一夏の中では同性愛者ではない。

 

「うーん、じゃあオレが『専用機』を持ってるって言えば少しは分かるか?」

「専用機? なんだそれ?」

「あー、まずそっからか。ホント何も知らないなお前」

「う………」

「あーもう、いちいち落ち込むなって。これから知ってけばいいんだからさ」

 

 姫燐がそう言って背中を叩きながら励ますも、それでも、一夏の顔が晴れることは無い。

 

(うーん、本当は校則違反だからやりたくないんだけど、まぁいっか)

 

 オレは、一夏をサポートすると決めた。そして今、彼の精神状態は好ましくない。

 何事もスタートがダメなら全てダメになる。それが彼女の持論だ。

 だから、ちょいと一肌脱ぎますか!

 

「よっし一夏!」

「ん、なんだよキリ」

「行くぞ!」

「へ? あ、ちょ、どこまッ!?」

 

 突然、姫燐は一夏を軽々とお姫様抱っこすると、反対側の柵目掛け全力疾走を始めた。

 

「ま、待てキリ! ぶつかる、ぶつかるーーー!?」

「大丈夫だ、せ~のッ!」

「ッ~~~~~~~~~~!?!?」

 

 そのまま姫燐は、3メートルはあるだろう柵を何と軽々と飛び越えて見せた。しかも、大の男を1人担いだ状態で。

 冷静に考えればそんなこと、出来るはずが無い。だが、今その冷静さは一夏の頭からドロップアウトしていた。

 ここで問題です、屋上の柵の向こうには何があるでしょう?

 

「お、落ちる!?」

 

 正解は、『何も無い』でした☆ 分かった方から抽選でハワイの代わりに、一夏くんが天国へ行きそうです。

 どんどんと遠ざかる空、吹き荒れる風、近付く地面。

 あ、わかった俺死ぬんだ。どうせなら、最後に1度くらいは千冬姉に恩返ししたかったと瞳を閉じて――

 

「一夏ぁ!」

「なんだよ、俺が心安らかに最後を」

「飛ぶぞ!!!」

「迎えようと……え?」

 

 そこで、一夏はようやく気が付いた。自分を抱く腕が、人間のそれでは無く、深く吸い込まれそうな濃い黒に近い蒼色をした鋼鉄であった事に。

 それだけでは無い。いつの間にか自分を抱いていた筈の彼女は足も、身体も、顔さえも、深く蒼い装甲を見に纏う、鋼の鉄人と化していた。

 耳を澄ませば微かだが姫燐の足元から、何かを放射するような音が聞こえる。

 それがゆっくりと落下速度を殺していき、とうとう空中で完全に停止すると、唯一変わらない姫燐の声だけが高らかに響いた。

 

「IS起動! Go for It、『シャドウ・ストライダー』!」

 

 その声と共に、一夏を抱っこした鉄の騎兵は大空を駆け抜けた。

「うわぁぁぁぁぁーーーーーーーー!?」

 殺人的な加速で行われる急上昇に彼は今日、何度目か分からない絶叫を上げる。

「イィィィヤッホォォォォォォウ!!!」

「無理死ぬ落ちる堕ちちゃうぅぅぅぅぅぅ!!!」

 テンションがハイに成り過ぎて奇声を上げる姫燐と、別の意味でハイになって良く分からない事まで叫び倒す一夏。

 体中を駆け巡る風圧と、胃の中身を全てぶちまけそうな重圧に目を瞑りながらでも、意識を失わないように必死にしがみ付くその根性は称賛に値するだろう。

 そうして数分後、ようやく姫燐の動きは止まった。

 

「ヘイ、見てみろよ一夏!」

「ああ分かってる。キリ、お前俺を殺す……つも……り……」

 

 何があっても開くものかと閉じていた瞳を開いた一夏が見たのは、先程までの灰色の世界では無く、ただただ光さす蒼の世界だった。

 何も無い、ただ蒼と太陽と風だけが果てしなく流れていくだけの世界。

 ふと下を覗き見ると、そこには見慣れない白い地面があった。柔らかそうでアレの上で昼寝したらきっと気持ちがいいだろうななんて事を考えてしまう。

 

「どうだい、最高の景色だろう?」

「あ、ああ……」

「空はいいぞー、悩みとか重い物全部、地上に置いて行けるからな」

 

 ただの人間である一夏は生まれてこの方、空を飛んだ事など無いが彼女の言う事が何となく分かるような気がした。それほどまでに、この空間は壮大で、寛大で、美しく、息すら忘れてしまいそうなくらい一夏の心を鷲掴みにして放さない。

 実際この時、一夏の頭には自分が抱えていた悩みなど、まるで別世界の事であるかのようにちっぽけに思えていた。

 

「なーんも無い蒼と白。オレ達の始まりに、ピッタリな景色だ」

 

 そう言って彼女は笑った……様な気がした。仮面の下で。

 

「オレは! このIS学園で! 必ずオレの嫁を見つけて見せるぞーーーーーー!」

「……なにやってんだ?」

 

 いきなり叫びだした姫燐を訝しむような顔で睨む一夏。

 

「何って、意志表明だけど。一面の蒼空に誓うってなんかカッコいいじゃねぇか」

「ぷっ、なんだそれ」

 

 ふっ、と一夏の顔から笑顔がこぼれた。

 

「おお、初めて笑ったな」

「え、そうか?」

「ああ、オレは初めて見る。ツチノコの盆踊りよりレアだねこいつは」

「………………」

「………………」

 

 僅かな沈黙、そして、

 

「くくく、ヒヒヒッ、だぁーーーーはっはっはっはっはっはっはぁ!!!」

「ぷくく、アハハッ、ひぃーーーーはっはっはっはっはっはっはぁ!!!」

 

 2人はこの大空に響く程のバカ笑いをした。数分間、気でも触れたかのようにただひたすら笑い続けた。

 彼女は、初対面から1度も笑わなかったバカを見て。

 彼は、ここ最近、笑うということ自体を忘れていたバカを見て。

 嫌な事も、憂鬱も、全てを吹き飛ばしてしまうくらいに彼等は大笑いした。

 

「ようやく元気が出て来たじゃねぇか、オイ!」

「そうだな! 何か今までふて腐れてたのが勿体無いくらいだ。うっし、じゃあ俺も!」

 

 一夏は呼吸を大きく吸って、空を揺らす勢いで叫ぶ。

 

「俺は、絶対に誰かを護れるぐらい強くなってみせるぞぉーーーーーー!!!」

 

 この大空に、必ず誰かを護れるほど強くなるという誓いを乗せて。

 

「だから、キリ。協力して欲しい」

「ん?」

「俺が、ちゃんと強くなれるように。この誓いが嘘にならないように、見ていて欲しい」

 

 そう言って二カっと笑う一夏。

 その言葉を受け、姫燐は一瞬動きを止めるが、すぐに首をぶるんぶるん振り、

 

「よく言った! それでこそ男ってもんだ。あと、分かってるとは思うが」

「分かってるよ。どこまでできるか分からないけど、俺もキリの恋を全力でサポートする。約束だ」

 

 見届け人は、この世界。

 一夏は思った。俺は絶対に強くなって見せる。そうして、今度は自力でここに来て見せる。

 この蒼と白の世界に、恥じない男に俺はなってやる、と。

 

「ははっ、しかし、レズに男を説かれるなんてな」

「なっ、言いやがったなコイツ! 落とすぞ!?」

「………………」

「……ん? あ、一夏? 流石に冗談だぜ、今のは」

 

 突如、一方向を向いたまま黙りこくった一夏の顔を心配そうにのぞき込む姫燐。

 そんな一夏は顔面蒼白で、自分の視線に捕らえたある物を震える指で指した。

 

「な、なぁ、なんだよアレは?」

「何って、ジャンボジェットだな」

「いや、それは分かる。でもな」

「でも?」

「なんでココまで『ジャンボ』なんだ?」

 

 一夏が指刺した物は、自分達の前を『横切る』民間の旅客機であろうジャンボジェットだった。

 しかし、それは彼がいつも地上で眺めている奴よりも遥かにジャンボで、しかもあろうことか、ジェットエンジンが赤く光っているような気がした。と言うより、まず飛行機が一般ピーポゥである自分の目の前を横切るということがあり得ない。

 

「そらな、高度3万5千フィートだ。旅客機くらい普通にいるだろ」

 

 ちなみに高度3万5千フィートとはメートル換算すると、地上から約1万メートルもある。

 良い子はここまで旅客機以外では来ないようにしよう。

 

「大丈夫だ、ISのシールドバリアーのちょっとした応用で酸素とか寒さは問題ない様になってっから……っておーい、一夏?」

 

 姫燐が声を掛けるが反応が無い。

 あばらを持つ様な形にして、一夏の顔を見るとプラーンと口からエクトプラズムを出しながら白目向いて気絶していた。想像を絶する事態に遭遇したとき、人はオートで気絶するように作られていると言われている。まさに、今の一夏がそうであるように。合唱。

 

「むぅ、肝っ玉が小せぇ奴だ。IS乗りになるんだったらこれ位の高さには慣れとかなきゃならねぇのに」

 

 流石にそれは酷である。

 

「まぁ、いいか。全てはこれからだ。こっから強くなればいいだけなんだからな」

 

 また一夏をお姫様だっこの体型にして抱きかかえると、姫燐は踵を返し地上へと向けて雲の中へと帰っていった。

 

「これから楽しみにしてるぜ、一夏」

 

 その無骨な仮面の下に、頬笑みを隠して。

 

 こうして、IS学園唯一の男とガチレズ男女の奇妙な協力関係は始まった。

 2人の決意の果てにある物は何か、茨道の終わりはまだ誰も知らない……。

 

 

 因みに一夏が次に目を覚ますと、保健室で阿修羅すら凌駕する存在と化した姉が土下座する姫燐を足蹴にしながら、説教と言う名の罵倒を浴びせかけていたので即座に2度寝を決め込んだのは余談である。


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