絆道~始まりのミチシルベ~   作:レイリア@風雅

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第9話 再不斬襲来、前

ユウたちはその後、タズナから事情を聞かされた。

彼の命を狙っているのはガトーという男らしい。

世界有数の金持ちと言われる、ガトーカンパニーの現社長で、表では海運会社として活動する一方、裏では相当悪どい商売を生業としている悪どい男だ。

 

1年ほど前、そんなガトーに狙われた波の国の人々は、島の全ての海上交通と運搬を牛耳られてしまったのだ。

島国である波の国では海上交通は生きていく上で必要不可欠な物であり、現在はガトーに富の全てを独占されてしまっている現状。

しかし、完璧に独占している彼にも恐れるものがあった。

 

それが、タズナの作っている橋の完成なのである。

 

少しは波の国の経済状況を知っていたユウも、ここまで理不尽な話だったとはしらず、真剣にタズナの話しを聞く手前、ショックを受けていた。

話し終えたタズナは、仕方がない、と言いたげな顔で口を開いた。

 

 

「まあ……お前らがこの任務をやめればワシは確実に殺されるじゃろう……が……。

なーにお前らが気にすることはない、ワシが死んでも10歳になるかわいい孫が一日中泣くだけじゃ!!

あっ!それに、ワシの娘も木ノ葉の忍者を一生恨んで寂しく生きていくだけじゃ!

いや、なにお前たちのせいじゃない!」

 

 

笑いながらなんだかんだいいつつ、脅しのように強調してくるタズナに目が半目になるカカシたち。

だったが、約一名だけは、タズナの両手を己の手で包み込み、強い意志を宿す瞳で彼を見上げた。

 

 

「タズナさんそんなこと言わないでください!

カカシ先生がもしここで任務を放棄したとしてもあたしだけでもこの任務を完遂してみせます!!

安心してください、あたしが必ず守りますから」

 

「おおなんと心優しいお嬢ちゃんなんじゃあ!!

しかし、いいんじゃ、お嬢ちゃんを巻き込んではいかん!!

先生さんがこの任務を放棄したら、お嬢ちゃんもちゃんと帰るんじゃぞ!

気持ちだけで充分じゃ!!」

 

「そんな……っカカシ先生……」

 

 

ユウはカカシの元へ駆け寄ると、控えめにキュっと彼の服の裾を掴む。

そして眉をハの字にし、縋るような瞳で見上げてくる。

幻覚だろうか、犬の耳と尻尾が見える……。

カカシは思わず目をこすったが、消えない。

取り敢えず、ポーカーフェイスを保つがしかし、顔が真っ赤なのは隠せない。

 

 

「しょ、しょうがないですね、ユウもこう言ってることですし。

国へ帰る間だけでも護衛を続けましょう!」

 

 

そう言いながら、真っ赤な顔を隠せず、サスケとナルトとサクラに痛いお灸を据えられたカカシだったとか……。

 

とまぁ、そんな経緯があり、今は波の国へ向かってボートに乗せてもらっているという訳だ。

前が見えないほどの霧が、ユウたちの視界を覆っている。

 

 

「すごい霧ね、前が見えない!」

 

「そろそろ橋が見える。その橋沿いに行くと波の国がある」

 

 

しばらくすると、前方にまだ未完成のとても大きな橋が姿を表し、思わずナルトは「でけェー!!」と叫んでしまった。

 

 

「コ…コラ!静かにしてくれ!

この霧に隠れて船出してんだ、エンジン切って手こぎでな。

ガトーに見つかったら大変なことになる」

 

「「「………」」」

 

 

ガトー。

その名に緊張が張り詰める。

 

 

「もうすぐ国に着くぞ。

タズナ……どうやらここまでは気づかれてないようだが……念のためマングローブのある街水道を隠れながら陸に上がるルートを通る」

 

「すまん」

 

 

橋のトンネルのようになっている所を通り、視界が開けると、目の前には海に浮かぶ森を連想させる、マングローブと呼ばれるものが姿を表し、ナルトは感嘆の声を漏らす。

桟橋に無事着き、一行は桟橋に上がる。

 

 

「オレはここまでだ。

それじゃあな、気ィつけろ」

 

「ありがとうございました」

 

「ああ、超悪かったな」

 

 

そのままエンジンをかけ、ボートを走らせる姿を見送った後、一行は歩き出す。

 

 

「よーしィ!ワシを無事送り届けてくれよ」

 

「はいはい」

 

 

深くため息をつき、カカシは次にやってくるであろう強敵を思い、やだやだと首を振る。

そんなカカシを見たユウは、苦笑しながらカカシの隣へと駆け寄った。

 

 

「大丈夫?先生」

 

「んー、問題なーいよ」

 

「そうは見えないけどなぁ」

 

 

そう言って苦笑した後、チラリ、とタズナたちが聞いていないことを確認し、再び口を開く。

 

 

「次にやってくるとしたら、上忍クラスは覚悟しないとかな」

 

「やっぱり?そうだよね~」

 

「きっと大丈夫だよ。カカシ先生は強いもん。

それに、あたしも頑張るから」

 

 

ガックリ、と肩を落とすカカシに笑いかけると、それは頼もしいね、と微笑まれた。

頭を撫でようと手を伸ばせば、少女はビクリと震え、その瞬間金色の少年によって少女を奪われた。

彼、ナルトは警戒するようにカカシを見て、フンッと顔をそらすとユウの小さく細い手を握り、ズンズンと進む。

 

 

「ちょ、ナルト??」

 

「ユウ、もちっと気をつけろよな?カカシ先生はロリコンなんだから」

 

「ろり、こ?」

 

 

ユウの様子に、ああ、そういえばこういうのに弱かったな、と思い出したナルトは、なんでもない、と苦笑してみせた。

そんな二人の様子をイライラと見つめるのはカカシとサスケ。

 

 

「ウスラトンカチが……」

 

「もう万死に値するよね、サスケ、ここだけ手を組まない?」

 

 

突然あたりをキョロキョロしだしたナルトに、殺気だっていると突然ナルトが振り向いた。

 

 

「そこかぁーっ!!」

 

 

振り向いたと同時に投げられた手裏剣は、二人の間にあった草むらへと消えていく。

当然、何かがいるはずもなく、しーんと妙な静寂だけがその場を包んだ。

 

 

「フ……なんだネズミか」

 

「って何かっこつけてんの!!そんなとこ初めから何もいやしないわよ!」

 

「コ……コラ!たのむからお前がやたらめったら手裏剣使うな……。

マジでアブナイ!!」

 

「こら!チビ!!まぎらわしいことすんじゃねェ!!!」

 

 

思わずタズナまでもがナルトに怒鳴るが、当の本人はどこ吹く風。

あそこに人影が、とかありもしないことを言い出す始末である。

しかし、その時。

 

 

「「!」」

 

「そこかァー!!!」

 

「だからやめろー!!」

 

「ぐがァ!!」

 

 

カカシとユウが同時に何かの気配を感じた。

その直後、ナルトは手裏剣を投げ、怒ったサクラに殴られる。

 

 

「ホ……ホントに誰かがこっちをずっと狙ってたんだってばよ」

 

「はいウソ!」

 

 

再び草むらへと消えていったそれを追い、ユウは草むらに入り、それを追うようにカカシも草むらの中へ足を踏み入れる。

そこにいたのは、真っ白な毛を持つ兎。

 

 

「ナルト!なんてことすんのよォ!」

 

「なんだ……ウサギか!」

 

 

しかし、そのウサギが問題だった。

あれはユキウサギという種類で、太陽の光を受ける時間の長さによって毛の色が変わる。

春は茶、そして……。

白は冬の季節だ。

今は春、よってユキウサギが白い毛並みをしているはずがない。

 

 

「カカシ先生!!」

 

 

警告するように叫んだユウに反応したのは、カカシの中でようやく思考がまとまった直後だった。

 

 

「!!」

 

「全員伏せろ!!」

 

 

風を斬るような音に反応し、ユウは咄嗟にタズナを庇うようにふせさせる。

飛んできた何かは、巨大な刀。

刀は木に刺さり、その柄に長身の男が佇んでいた。

即座に体を起こしたユウは、静かに男を睨むように見据える。

 

 

「へー、こりゃこりゃ霧隠れの抜け忍、桃地再不斬君じゃないですか」

 

 

茶化すように切り出したカカシの後に続くように飛び出そうとしたナルトをそっと片手でユウが制止させ、それをちらりと確認する。

 

 

「ナイス判断だ、ユウ。

邪魔だから下がってろ、お前ら。

こいつはさっきの奴らとはケタが違う」

 

「……」

 

「このままじゃあ…………ちとキツイか…………」

 

 

ビリビリと緊迫とした空気がこの場に立ち込める中、カカシは再不斬と呼ばれた男とにらみ合いながら斜めに傾けた額あてに手をかけた。

 

 

「写輪眼のカカシと見受ける………」

 

 

写輪眼、その一言に過剰なまでに反応したのはサスケだった。

他の者はなんなのか、と頭に?を浮かべる。

 

 

「ん?そこのガキは…」

 

 

ふと、ユウへと視線をずらされ、視線がかち合う。

少女はただ、静かに再不斬を見上げた。

 

 

「ほぉ?お前が琥珀の…………ククッ、裏じゃお前、かなり有名だぜェ?

どいつもこいつも、みんなテメェを欲しがっている」

 

 

その一言にピクリと眉を動かす。

一方、カカシは一気に機嫌が悪くなった。

 

 

「何しろお前…………」

 

「おしゃべりを楽しみたいところ悪いが、この子に構わないでくれないか?」

 

「なんだカカシ、お前そういう趣味があったたのか?

まぁ、それだけ容姿が良ければわからなくもないが……。

まあいい。代わりといっちゃなんだが…………じじいを渡してもらえないか」

 

「卍の陣だ、タズナさんを守れ。お前たちは戦いに加わるな。

それがここでのチームワークだ」

 

 

静かに、カカシの額あてがあげられる。

 

 

「再不斬、まずは…………」

 

「!!!あ!」

 

「オレと戦え」

 

 

ギロリと再不斬を睨んだ左目は、赤い瞳の中に、黒い巴文様が三つ。

その不思議な瞳の模様は、近くにいたナルトが旋律するほどだった。

 

 

「ほー、噂に聞く写輪眼を早速見れるとは……光栄だね」

 

「さっきからシャリンガン、シャリンガンって……なんだそれ?」

 

 

ナルトの疑問に答えるため、口を開いたのは意外にもサスケだった。

 

 

「……写輪眼。

いわゆる瞳術の使い手は、すべての幻・体・忍術を瞬時に見通し。はねかえしてしまう眼力を持つという……。写輪眼とはその瞳術使いが特有に備え持つ瞳の種類の一つ……。

…しかし写輪眼の持つ能力はそれだけじゃない」

 

 

そう締めくくったサスケに、え?と疑問の声が上がる。

 

 

「クク……御名答。ただそれだけじゃない。

それ以上に怖いのはその目で相手の技を見極め、コピーしてしまうことだ。

オレ様が霧隠れの暗殺部隊にいた頃、携帯していた手配書にお前の情報が載ってたぜ。

それにはこうも記されていた。

千以上の術をコピーした男……コピー忍者のカカシ」

 

 

両者は静かに睨み合う。

サクラは予想外のカカシの評価に戸惑い、ナルトはスゴイと興奮していた。

そんな中、訝しげな視線をカカシに投げかけるサスケ、そしてそれをチラリと見やったユウ。

 

まぁ、戸惑うのも無理はないか。

だって、サスケはうちは一族だもんね。

 

 

「さてと……お話しはこれぐらいにしとこーぜ。

オレはそこのじじいをさっさと殺んなくちゃならねェ」

 

「「「「!」」」」

 

 

その言葉に反応し、ユウたちはクナイを片手にタズナを中心に守るように囲う。

卍の陣だ。

 

 

「つっても……カカシ!

お前を倒さなきゃならねェーようだな」

 

 

木から跳び移った再不斬を目で追う。

再不斬は水の上に立ち、印を構えていた。

 

 

「あそこだ!!」

 

「しかも水の上!?」

 

 

あれは…霧隠れの……。

 

ユウの片瞳に、チラリチラリと赤い光がチラつく。

 

 

「忍法…霧隠れの術」

 

 

すぅーっと文字通り霧の中に消えた再不斬。

ナルトたちが動揺しているのが、立ち込め始めた霧の中でも伝わってくる。

 

 

「消えた!?」

 

「まずはオレを消しに来るだろうが……。

……桃地再不斬。こいつは霧隠れの暗部で、無音殺人術、サイレントキリングの達人として知られた男だ」

 

「気がついたらあの世だったってことにもなりかねないってことだね」

 

 

いつも通りのふんわりとした明るいユウの声が、異様にこの場に似つかわしくないように感じた。

 

 

「その通り。オレも写輪眼を全てうまく使いこなせるわけじゃない……。

お前たちも気を抜くな!」

 

 

ドクン、ドクン、と緊張が高まっていき、それぞれ顔を強ばらせた。

そんなナルトたちの不安を煽るように、霧は深くなっていく。

 

 

「どんどん霧が濃くなってくってばよ!」

 

「8か所」

 

「!!え?なっ何なの!?」

 

「咽頭・脊柱・肺・肝臓、頚静脈に鎖骨下動脈、腎臓・心臓……。

…さて……どの急所がいい?クク……」

 

「「「「!!」」」」

 

 

追い打ちをかけるかのように、不気味な再不斬の声が辺りにしん、と響き渡った。

 

 

「じゃあ、心臓でお願いします」

 

「ちょ、ユウ!!何考えてんの!?」

 

「ほぉ?……本当に面白い小娘だ……肝が座ってる……。

いや、“場馴れしている”と言った方がいいかな?」

 

「あはは、褒められちゃった」

 

「ユウっアンタいい加減に……ッ」

 

 

ヘラッと答えたユウの瞳は笑っていない。

いつもの少女と同一人物とは思えないその表情に、サクラは言葉を詰まらせた。

 

間違いなく、それは戦う者がする表情だった。

 

余裕にすら見える不敵な笑顔、物怖じしない態度、かといって警戒は怠らないその姿勢……。

どれをとっても、こういう場面に慣れている者のそれとしか思えなかった。

そんなやり取りを交わす間に、カカシはいつの間にか印を結び終え、おびただしい殺気を流し始めた。

 

 

「「「!!!」」」

 

 

敏感に感じ取ったナルトたちは、ゾクリと背筋に悪寒が走る。

中でも、サスケは敏感過ぎるのか、カタカタと震え出した。

そんなサスケの変化に気付き、そっと彼の手を握る。

 

 

「!」

 

「大丈夫だよ、サスケ。大丈夫。カカシ先生が守ってくれる。

それに何かあっても、あたしがサスケたちを守るよ」

 

 

ふわり、といつもの様に微笑んでみせた。

それに少し安心したのか、キュッと手を握り返す。

 

 

「ユウの言うとおりだ。

サスケ、安心しろ。お前たちはオレが死んでも守ってやる。

オレの仲間は 絶対 殺させやしなーいよ!」

 

 

そのカカシの笑顔は、その台詞は、ナルトたちを安心させた。

 

 

「それはどうかな……?」

 

 

その声が聞こえた時、再不斬はユウたちの卍の陣の中心に立っていた。

不敵に笑みを浮かべる。

 

 

「終わりだ」

 

 

風を斬る再不斬の刀。

ユウは再不斬の刀を受け止め、カカシはその他の四人を突き飛ばして突進し、クナイを突き刺した。

しかし、突き刺した傷口から滴るのはただの水で……。

カカシの背後に、再び再不斬が現れる。

 

 

「先生!!ユウ!!後ろ!!」

 

「「!」」

 

 

手傷を負わせた再不斬はただの水となり、背後の再不斬が刀を振るう。

風を切る音に瞬時に現状を理解し、ユウは前方へ転がるように跳躍し、かわすが、カカシは避けることができず、胴体を真二つに切り裂かれ、サクラの悲鳴が辺りにこだました。

しかし、真っ二つに裂かれたカカシの体は水と化す。

驚き、目を見開く再不斬の首に当てられるクナイ。

 

 

「動くな……」

 

「!!!」

 

「終わりだ」

 

 

それは、カカシが勝利をつかんだという宣言だった。

張り詰めていた空気が少し緩み、ナルトたちはホッと一息をつく。

しかし、一方でユウは訝しげに再不斬を見つめた。

 

なんだろう、この違和感……。

 

 

 

 


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