絆道~始まりのミチシルベ~   作:レイリア@風雅

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第7話 サバイバル演習、後編

 

 

「……どうしよう…あんな物言いしちゃって、サスケ、傷ついてないかな……」

 

 

足を止め、俯き、呟くが、当人がここにはいないため、確認することもできない。

ユウは、ちゃんと理解していた。

この試験は、自分で正解にたどり着かなければ意味をなさない。

だからこそ、できるだけ言わずにやってみようと思った。

……信じてみようと思ったからである。

 

 

「思うようには、なかなかならないね」

 

 

うつむいたままため息をついたユウの肩は、何者かによってポンと叩かれた。

勢いよく振り返ると、そこには微笑するカカシ。

 

 

「よ!」

 

「先生……」

 

「どうやら、ユウには答えが分かってるようだな」

 

 

思わず目を見開き、カカシを見上げると彼は困ったように微笑んだ。

 

 

「実は、ナルトの所に行っててな、『一緒にスズをとりに行こうと誘われた』と教えてくれてね」

 

「そう、だったんですか……」

 

「……その様子だと、みんなに協力するように提案しに行ったのか?

じゃあ、なんで答えを言わなかった?」

 

 

その質問に一瞬、思考をまとめるために考えをめぐらし、おずおずと口を開いた。

 

 

「この試験の本当の目的は、〔どんな条件下においてもチームワークを優先することができるか〕、ですよね?」

 

「ああ。その通り。

……いつ気付いた?」

 

「昨日、カカシ先生が黒板消し落としなんてベタなブービートラップに引っかかった時から、なんとなく裏があるんじゃないかなって。

それで、昨日の説明と今日の演習内容を照らし合せれば、答えにたどり着くのにはそんなにかからなかったかな。

だって先生は1対1で来い、だなんて一言も言ってなかったし、そんなルールは提示しなかったから。

だけど、アカデミーに戻されるっていう焦りが、こんなにシンプルな答えに辿りつきにくくする。

しかも朝食抜いてるし、みんな思考力低下状態で、先生の仕組んだワナにどっぷりハマっちゃってたから……」

 

 

まぁ、先生が仕組んだ試験は簡単なようでとても複雑で、とてもよくできてるし、と最後に感想を述べる少女に、カカシは感嘆の息をつく。

まさかここまで正確に読み取られていたとは思わなかった、というのがカカシの本音である。

 

 

「だけど、だからこそ、この試験は自分で気がつかなきゃ、意味がないと思った」

 

「ん?」

 

「答えを教えて、みんなで先生からスズを奪いに行くのはとても簡単なことだよね?

だけど、それじゃあみんなはこの答えの本当の意味に気付けないと思ったし、その意味に気付かないと成長に繋がらない。

次に続かないと思ったんだ。

だからあたしは、答えを教える気は全く無かったの」

 

「……で、見事に玉砕したってわけね」

 

 

なんだかなぁ、とカカシは空を見上げる。

自分が仕組んだ試験で、この子がここまで他の連中のことを考えてやる必要などないだろうに。

そうおもいながら、それがこの少女の長所だということもしっかり認識していたので、余計複雑な気持ちになる。

 

 

「お前の気持ちはよく分かった。

まぁ、でもこれは一応実力も試す試験でもあるから、オレと手合わせしてくれない?」

 

「!分かりました!!」

 

 

カカシの申し出に深く頷き、後ろに跳んで距離をとる。

二人はにらみ合い、一陣の風が二人の間を過ぎ去った。

 

 

「じゃ、そっちからどうぞ!」

 

「それでは遠慮なく!!」

 

 

クナイを5本程カカシに投げれば、難なくよけられる。

もう一度、今度は数枚の手裏剣も混ぜて投げつければカカシはその内の一本をとり、弾いた。

 

 

「我武者羅に突っ込んでも、オレはヤれないよ?」

 

「はい。それは分かってますよ?」

 

 

でもこれは、先生を殺る試合じゃない……。

 

不敵な笑みを浮かべユウはもう一度今度は一本だけクナイを投げる。

 

 

「だから無駄だって……っ!?」

 

 

しかしそれは通常のクナイではなく、起爆札がついていた。

起爆札が起爆する際に発する光が発せられると同時に、回りに投げられていたクナイや手裏剣から紋様が浮き出し、カカシを取り囲むように鎖となって回りを囲う。

これは本当にマズイ、冷や汗をかいたカカシだったがそれは杞憂に終わることになる。

 

 

「なっ!?」

 

 

しかし、起爆札は爆発を起こさず、爆発したように大量の白煙を出しただけであった。

ユウの姿も煙に包まれる。

急いで印を組み、風遁で煙を吹き飛ばすが、既に目の前には少女の姿はなかった。

ふ、と背後から少女の手が伸び、カカシはそれを捕まえる。

 

 

「捕まえた。全く、可愛いからって油断できないね」

 

「先生がいったんだよ?」

 

 

背後のユウがにっこり笑い、瞬時にカカシの両手を拘束した。

それと同時に頭上に影が落ち、見上げればもう一人のユウの姿。

 

 

「!?」

 

「━━━━油断大敵ってね」

 

 

不敵ににっこりと笑い、少女は蹴りを入れようとするが、カカシは瞬時に背後にいたユウを蹴り飛ばし、腕で防御する。

蹴り飛ばされたユウは煙となって消えてしまう。

 

 

「なるほど?影分身の術でオレの気を引きつけ、その隙に自分は近くの木の上で待機。

んで、頃合をみて攻撃を仕掛ける……ね。

本当、下忍にしておくには勿体ないセンスだよ」

 

「お褒めあずかり光栄です……なんてね」

 

 

中途半端だった体制から体を捻り、殴りかかってくるユウの拳を受け止める。

更にそれを利用し、体を反転させてカポエラのように蹴りを繰り出す。

カカシは手を離し、なんとか後退して攻撃をかわす。

 

 

「まさかあの体制から攻撃を仕掛けてくるとは思わなかったよ」

 

「先生さっきから褒めてばっかりだね。

でも、この勝負……」

 

「あたしの勝ち、だよ」

 

 

背後から聞こえてきた声に振り返ると、そこには既に印を結び終えたユウの姿。

マズイ、と思って後退する。

 

 

「光遁・光風連斬の術!!」

 

 

術を放ったその直後、カカシの視界で何かがキラリと光った。

そう認識した刹那、カカシがぶら下げていたスズを突風が襲う。

プチン、と音を立てて紐が切れ、地面へと落ちていくスズをカカシが拾い上げる前に、ユウがキャッチし、なんなく3つとも手中に収めた。

 

 

「……いや~、完全にしてやられた気分だよ」

 

「そんな、今の状態で先生とマジで殺りあったら流石に勝てませんよ」

 

 

滅相もない、と首を振る少女に、カカシはくつくつと笑う。

そして、優しい眼差しで少女を見つめた。

 

いや、ホント参ったな……。

まさか、このオレが本気になりかけるなんて、ね……。

 

出来れば、もう少し二人で……。

そう思っていたカカシの思惑を邪魔するかのように、盛大に目覚まし時計が鳴り響いた。

ガックリと肩を落としてしまう。

 

 

「はは……じゃ、行こうか」

 

「うん!」

 

 

 

 

 

「……あれ?なんでナルトは縛り付けられてるの??」

 

 

何か悪いことしたの?と純粋に聞いてくるユウに、まぁな、と罰が悪そうにそっぽをむいた。

他の二名も絶望したような顔をしていて、なんだかカオス状態だ。

 

 

「あ!忘れてた……ハイ、みんなにプレゼント」

 

 

そう言って、ユウは手元にあったスズを三人に手渡す。

なにがなんだか分かっていない3人は目を見開いて彼女を凝視する。

 

 

「カカシ先生から奪ってきちゃった。だから……ごめんなさい!!

たくさん、迷惑なことしちゃって本当に本当にごめんなさい!!

許して、くれるかな……?」

 

「ゆ、許すも何もオレ怒ってないってばよ?!

つか、オレの方こそゴメンな?

キツイ言い方しか、出来なくて……傷つけたよな、本当にゴメン」

 

「私も、折角協力しようって言ってくれたのに……ごめんね、ユウ」

 

「オレの方こそ……悪かった。

ついカッとなっちまって……本当は迷惑だなんて思ってない。

すまなかった」

 

 

何とか4人とも仲直りできたものの、スズだけはもらえないと言って返却されたのだった。

それを影から見ていたカカシは、静かに微笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

ぎゅるるるる。

あれから10分間もの間、待たされていたナルトたちは約1名を除き、空腹を訴えていた。

そんな中、のんびりとした足取りでカカシがやって来た。

 

 

「おーおー、腹の虫が鳴っとるね……君達。

ところで、この演習についてだが、ま!お前らは忍者学校に戻る必要もないな」

 

「「「!!」」」

 

「……」

 

 

カカシのその一言に、認めてもらえたのだと解釈したナルトたちは、それぞれ歓喜の声を上げる。

そんな中、ユウだけは不安そうにカカシを見つめていた。

当のカカシ本人は、ナルトたちを冷たい眼差しで見つめている。

 

 

「じゃあさ!じゃあさ!ってことは4人とも……」

 

 

興奮のあまりに足をバタつかせるナルトに、カカシは嫌なくらいにっこりと笑ってみせた。

 

 

「……そう3人とも……。

忍者をやめろ!」

 

 

ショックのあまり、固まってカカシを凝視してしまう。

しかも、カカシは4人ではなく、3人と言ったのだ。

 

 

「忍者やめろってどーゆーことだよォ!!

そりゃさ!そりゃさ!確かにスズと取れなかったけど!なんでやめろまで言われなくちゃなんねェんだよ!!

しかも、3人って!?意味わかんねェーってばよ!!!」

 

「お前ら3人、ユウ以外は忍者になる資格もねェガキだってことだよ」

 

 

衝動が抑えられず、サスケはユウたちの制止も虚しくカカシに突っ込んでいく。

 

 

「あ!」

 

「サスケ!!」

 

「サスケ君!!」

 

 

しかし、突っ込んでいったサスケがカカシにかなうハズもなく、呆気なく一瞬で踏み倒されてしまった。

グリ、と靴で頭を押さえつけられ、身動きができない。

 

 

「━━━━だからガキだってんだ」

 

「サスケ君を踏むなんてダメーーー!!!」

 

 

そうヒステリックに泣き叫ぶサクラには、どうやら現状理解というものができていないらしい。

そんなサクラを、ナルトを、カカシは殺気を込めて睨みつけた。

 

 

「お前ら忍者なめてんのか、あ!?

何の為に班ごとのチームに分けて演習やってると思ってる」

 

「っ……」

 

「え!?……どーゆーこと?」

 

「つまり……お前らはこの試験の答えをまるで理解していない……」

 

「答え……!?」

 

 

理解が追いつかないナルトは、首をかしげる。

 

 

「だから……さっきからそれが聞きたいんです」

 

「……ったく」

 

「あ~~~も~~~!だから答えって何なんだってばよォ!?」

 

 

本当にコイツらは考えてから聞いてるのか、とカカシは呆れたようにため息をつく。

そして、先ほどからずっとうつむいて、肩を震わせているユウを心配そうな眼差しで見やる。

 

 

「ユウ…この試験の答え、言ってみろ」

 

「それ、は……チームワーク、です」

 

「「「!」」」

 

「そうだ。4人でくれば……もっと早くスズを取れたかもな」

 

「なんでスズ3つしかないのにチームワークなわけェ?

4人で必死にスズ取ったとして一人我慢しなきゃなんないなんて、チームワークどころか仲間割れよ!」

 

 

納得がいかない、と食い下がるサクラに、応えたのは意外にもユウだった。

 

 

「……サクラ、これはわざと仲間割れするように仕組んだ試験なんだよ」

 

「え!?」

 

「そうだ。この仕組まれた試験内容の状況下でもなお、自分の利害に関係なくチームワークを優先できる者を選抜するのが目的だった。」

 

 

そう説明したカカシに、サクラははっとする。

しかし、もう一つの矛盾点を見つけた。

何故、ユウだけそれに合格できたのか?

 

 

「ちょっとまってよ……そんなこと言ったらユウだって!」

 

「チームワークを優先できていなかった…とでも?

サクラ、お前本気でそう言いたいのか?」

 

 

今までと比べ物にならない剣幕でそう問いかけられ、サクラは言葉を詰まらせる。

 

 

「ユウはお前らのところへ誘いに行ったはずだ。『一緒にスズを取りに行こう』ってな……。

その誘いをことごとく冷たくけったのはどこのどいつらだ?あ?

おまけに、お前らのためにスズを手渡した、これ以上に何を望む気だ?

……ユウの優しさに甘えるな。

ユウだって、傷ついたはずだ」

 

「っあ……」

 

「それなのにお前らときたら……」

 

 

カカシは冷たい眼差しをサクラに向ける。

 

 

「サクラ……お前は目の前のナルトじゃなく、どこに居るのかも分からないサスケのことばかり。

ナルト!お前は一人で独走するだけ。

サスケ!お前は3人を足手まといだと決めつけ個人プレイ」

 

 

最もな指摘に、誰も言い返せなかった。

カカシの言うことは、正しいと他ならぬ自分たちが一番理解できていたからである。

 

 

「任務は班で行う!たしかに忍者にとって卓越した個人技能は必要だ。

が、それ以上に重要視されるのは“チームワーク”。

チームワークを乱す個人プレイは仲間を危機に落とし入れ、殺すことになる。

……例えばだ……」

 

 

話しを一旦やめ、カカシはポーチに手を入れる。

そして、クナイを引き抜き、サスケの首筋にあてた。

 

 

「サクラ!ナルトを殺せ

さもなないとサスケが死ぬぞ」

 

「!!」

 

「え!!?」

 

「……」

 

 

今にもカカシの指示に従ってしまいそうな恋する乙女に、ナルトはショックをうけ、ユウは同情の眼差しでナルトを見る。

 

 

「と……こうなる。人質を取られた挙げ句、無理な2択を迫られ殺される。

任務は命がけの仕事ばかりだ!」

 

 

先ほどの剣幕が嘘のように呆気なくサスケを開放し、ナルトたちに背を向け、すぐ傍にあった墓石のようなものにそっと触れた。

 

 

「これを見ろ。この石に刻んである無数の名前。

これは全て里で英雄と呼ばれている忍者達だ」

 

「それそれそれそれーっ!!それいーっ!

オレもそこに名を刻むってことを今決めたーっ!!

英雄!英雄!犬死になんてするかってばよ!!」

 

「ダメ!!」

 

 

突然、大きな声を出したユウに、視線が集まった。

いつも温かい微笑をたずさえている彼女は、今にも泣き出しそうな顔でナルトを見ていた。

 

 

「え?な、なんでだよ……?」

 

「だって……」

 

「任務中、殉職した英雄達だからだ」

 

「!!!」

 

 

ユウの代わりに静かな口調で告げた衝撃的な事実に、ナルトは表情を暗くさせ、視線をそらした。

サクラとサスケも、やや驚愕したような視線をカカシに送る。

 

 

「これは慰霊碑。

この中にはオレの親友の名も刻まれている……」

 

 

嫌な、沈黙が流れた。

 

 

「……お前ら……!最後にもう一度だけチャンスをやる。

ただし昼からはもっと過酷なスズ取り合戦だ!

挑戦したい奴だけ弁当を食え、ただしナルトには食わせるな」

 

「え?」

 

「ルール破って一人昼めし食おうとしたバツだ。

もし食わせたりしたら、そいつをその時点で試験失格にする。

ここではオレがルールだ、分かったな」

 

 

そのまま、ユウたちの前からカカシは立ち去った。

 

 

 

 

 

「へっ!オレってば別にめしなんか食わなくたってへーきだっ……」

 

 

強がりも虚しく、空腹を訴える音によってかき消されてしまう。

三人はそれぞれ弁当を手にし、サスケとサクラは食べ始める、が、ユウはいつまでたっても弁当を見つめるだけだった。

 

……参ったなぁ……。

無理して食べても戻しちゃうだろうし……。

そんな勿体ないことするくらいなら……。

 

ちら、とナルトを見上げる。

 

 

「な、なんだよ、ユウ!オレってば食べなくたって平気だから、遠慮せずに食えよ」

 

「う、ん……」

 

「……ホラよ」

 

「「!!」」

 

 

そんな二人の様子を見ていたサスケは、仕方がないと自分の弁当をナルトに差し出した。

当然、滅多に見れないであろうサスケの姿に、三人は目を丸くする。

 

 

「じゃあ、あたしも!」

 

 

そう言って、便乗するかのように笑顔で弁当を差し出すユウ。

 

 

「あ、でもこのままじゃ食べられないね……。

うーん……じゃあ……はい、口あけて?」

 

 

弁当の中からご飯を箸でとり、ナルトの口元まで持っていくユウに、サスケは目を見開き、サクラはご飯を吹き出す。

 

 

「ちょっ、ユウ!!サスケ君も!!

さっき先生がダメだって言ってたじゃない!!

しかもそれ色々とヤバイって!!」

 

「え?なんで??」

 

 

きょとん、とサクラを見る少女はそれはもう愛くるしいのだが……。

サスケはそんなユウから強引に箸を奪い、無理矢理ナルトの口に突っ込んだ。

 

 

「ふぐぉ?!」

 

「大丈夫だ、今はあいつの気配はない。昼からは4人でスズを取りに行く。

足手まといになられちゃこっちが困るからな」

 

 

むせているナルトには目もくれず、そう言い切ったサスケは清々しささえ見える。

 

いや、かっこよく決めてる所悪いけど……。

カカシ先生、すぐそこにいるんだよなぁ……。

 

その場の雰囲気を壊したくはないので、言えるわけもないが……。

そんな二人の行動に後押しされたのか、サクラもナルトに弁当を差し出す。

ナルトは、3人から差し出された弁当を見て、嬉しさと申し訳なさとが混ざったような顔で笑みを浮かべたのだった。

 

 

「へへへ、ありがと……」

 

 

この班に初めて穏やかな雰囲気が流れた、その時だった。

ボン!と白煙があたりを包む。

 

 

「なんだァ!!」

 

「お前らぁあああああああ!!」

 

「!」

 

「うわぁああああああ!!」

 

「きゃああああああああああ!!」

 

「うわっ…!」

 

 

煙の中から突撃してきたカカシに、それぞれ身構える。

 

 

「ごーかっく」

 

「え!?」

 

「は?」

 

「……」

 

「は、はは……」

 

 

思わぬ肩透かしを食らい、素っ頓狂なリアクションになってしまう4人。

しかし、そんな彼らにニコっと笑いかけるカカシが嘘をついているようには見えない。

 

 

「合格!?なんで!?」

 

「お前らが初めてだ」

 

「え?」

 

「今までの奴らは、素直にオレの言うことをきくだけのボンクラどもばかりだったからな。

……忍者は裏の裏を読むべし。

忍者の世界でルールや掟を破る奴はクズ呼ばわりされる。

……けどな!仲間を大切にしない奴はそれ以上のクズだ」

 

 

おそらく、これまでこの世界で生きてきた中で得てきたカカシなりの答えであり、持論であり、信念なのだろう。

その一言一言は、ユウたちの胸に深く刻まれていく。

 

やっぱり、カカシ先生はすごいなぁ。

 

 

「ユウ、お前がそれを一番よくわかってたよ」

 

「!……えへ、へ……」

 

 

一瞬、近づいてきた大きな手にビクリとするも、撫でられ、ユウは笑った。

幸せそうに、泣きそうに。

 

 

「これにて演習終わり全員合格!!

よォーしィ!第7班は明日より任務開始だァ!!!」

 

「やったああってばよォ!!!オレ忍者!忍者!!忍者!!!」

 

「帰るぞ」

 

「ってどーせこんなオチだと思ったってばよォ!

縄ほどけェー!!」

 

 

そんなナルトの叫びを聞きながら、もう少ししたら影分身に救出に向かわせよう、そう思いながら、ユウたちは笑う。

 

サスケとサクラの後ろを、カカシと二人でゆっくりとしたペースで並んで歩く。

ふと、ユウはカカシの顔を見上げた。

 

 

「ふふ!」

 

「ん?どーした?」

 

 

楽しそうに、笑うユウに首を傾げれば、少女は、ふんわりと微笑む。

全てを包んでしまいそうな、柔らかな微笑み。

 

 

「だって、先生嬉しそう」

 

「!」

 

「もしかして、正式に担当上忍になるのは初めて?」

 

「……ホント、ユウはよく見てるね」

 

 

そんなに自分は嬉しそうな顔をしていただろうか?

……確かに、初めて自分の試験に正式に合格してくれた彼らに、喜びで一杯だったかもしれない、と苦笑する。

それにしても、かなわない。

 

 

「あ、本当にそうなんだ?」

 

「ああ。一度もオレは合格を言い渡したことがなかったからな」

 

「そっか、じゃあお互いに初めてなんだね」

 

 

これから頑張ろう、カカシ先生!

笑顔で言われた一言。

その一言のために生きてきたのかもしれないとさえ思えた。

 

 

「(ああ、オレ、本当にダメかもしれない)」

 

 

全部ユウのせいだ、なんて意味のわからないこじつけをして、目の前で上機嫌に空を見上げる少女の横顔を見た。

 

 

「(……覚悟してよね)」

 

 

このオレを、本気で好きにさせたんだから

絶対落としてみせる、なんて……

 

 

「大人げないかな、オレも」

 

「うん?」

 

「いーや?なんでもなーいよ」

 

 

だけどまだ。

この関係でもいいかな、しばらくは……。

 

頭を撫でてやりながら、そんな事を思ったカカシであった。

ユウは、左手首に巻きつけてあった布にそっと触れる。

 

 

――――――ねぇ、あたし、今日忍者になったよ。

二人が知ったら、なんて言うかな?

友達も、先生もすごくいい人なんだ。

また会えるまで、やっぱり寂しいけど……。

頑張るよ、一生懸命。

二人に負けないように強い忍になるから。

これからも毎日修行して……。

 

いつか……また、会いたいです。

 

 

 

 

想いを、空に馳せたユウは、カカシを、サクラを、サスケを見渡し、ニコリと笑った。

 

 

 




これにて下忍選抜編は終了。
次回からは波の国編に入ります。

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