絆道~始まりのミチシルベ~   作:レイリア@風雅

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第6話 サバイバル演習、前編

翌日。

待ち合わせの1時間前にユウは演習場に着いた。

毎日の日課である朝修行のプランはもう終えていて、今はただ他のメンバーを待つだけである。

しかし、じっと待っているのもなんだか暇で、家から持ってきていた本を読む事にした。

 

 

「……ユウ?」

 

「……ん?あれ、サスケ?おはよう??」

 

 

いつの間にかやって来ていたサスケに取り敢えず挨拶すれば、フッと微笑んでおはよう、と返される。

 

 

「来るの早かったね!」

 

「そうか?もう待ち合わせ時間の10分前だぜ?」

 

 

可笑しそうに笑いながら、ユウに時間を教えてやる。

その言葉にあれ?と首をかしげ、自分の時計を確認すればなるほど、と納得する。

どうやら本に熱中しすぎて時間が経つのを忘れていたらしい。

 

 

「ユウこそ、一体いつから待ってたんだ?」

 

「うーん、今から50分前くらいかな?

演習場の確認もしたかったから」

 

「いや、それでも早いだろ!

お前、もし何かあったらどうするんだ?!」

 

 

突然怒り出すサスケに、困ったように頬をかく。

正直、なんでそんなに怒っているのかが分からないのだ。

 

 

「う、うん……ゴメンね?」

 

「……これからは、早く来る時はオレを呼べ」

 

「え?」

 

「い、一緒にいてやるよ……仕方ないからな」

 

 

そっぽを向きながら、顔を赤くするサスケをきょとんと見つめる。

思わず、口元を綻ばせてしまった。

 

 

「……ありがとう、サスケ」

 

「!……お、おう……」

 

 

花が咲いた様な笑顔を向けられ、サスケはうつむいてしまう。

沈黙がおり、穏やかな空気が二人を包む。

しかし、サスケの至福の時間は呆気なく過ぎ去ってしまうのだった。

 

 

「あ!サスケく~ん!ユウ~!!おはよう!!」

 

「サクラ!おはよう」

 

「……」

 

「ほら、サスケも!」

 

 

何故自分の至福の時間を奪った奴に挨拶しなきゃならないんだ。

そう思ったサスケだったが、確かにこれは自分勝手だとも理解していたので、素っ気なく返す。

しかし、サクラにとってはこれもヒットのようで、メロメロである。

 

 

「ユウ~!サックラちゃ~ん!!おはようだってばよー!!」

 

「おはよ、ナルト」

 

「ナルト朝からうっさい!!」

 

「酷いってばよサクラちゃん!!?」

 

 

お前もうるさい、とサスケがため息をついていたことは誰も知る由もなく、ワイワイガヤガヤと一気にうるさくなってしまった演習場を切ない気持ちで見渡すのだった。

 

そして、カカシはというと、2時間程の遅刻で到着。

 

 

「やー、諸君おはよう!」

 

「「おっそーい!!」」

 

 

暢気に片手を挙げて挨拶してきたカカシに、全力で突っ込むナルトとサクラだった。

サスケは無言で睨んでおり、ユウは苦笑を浮かべている。

カカシは持参してきた時計を切り株の上に置き、何やら時間をセットする。

 

 

「よし!12時セットOK!!」

 

「「「?」」」

 

「……」

 

「ここにスズが3つある……。

これをオレから昼までに奪い取ることが課題だ。

もし、昼までにオレからスズを奪えなかった奴は昼メシぬき!あの丸太に縛り付けた上に目の前でオレが弁当を食うから。」

 

 

朝ご飯食べてくるなって……そういうことか……。

 

自分は1週間、下手したら1ヶ月くらい何も食べなくても空腹をそこまで感じないが、他の3人にとってはキツイだろう。

自分以外の3人を案じ、チラリと見やると、やはり絶望的な表情を浮かべていた。

 

……朝ご飯を食べないことによっての思考力低下、しかもスズは3つ……。

これだけでも充分チームワークしずらい状況下ではあるけど……。

カカシ先生、さらに仕込んでくるかも……。

 

緊張した面持ちでカカシを観察していると、当の本人は見せびらかすようにスズを鳴らす。

 

 

「スズは一人1つでいい。3つしかないから……必然的に一人丸太行きになる。

……で!スズを取れない奴は任務失敗ってことで失格だ!

つまりこの中で最低でも一人は学校へ戻ってもらうことになるわけだ…」

 

 

ドキン…4人の緊張が高まる。

 

……参ったなぁ…。

このチームは人数の関係によって4人…。

つまり、先生のあの言葉が、どこまでハッタリなのか読みにくい…………。

完璧に一杯食わされた。

やられたなぁ…………。

 

それでも答えはチームワークでまず間違いないだろう。

そう、結論づけたユウは、一先ずその問題は頭の隅においやることにした。

 

 

「手裏剣も使っていいぞ。オレを殺すつもりで来ないと取れないからな」

 

「でも!!危ないわよ先生!!」

 

「そうそう!黒板消しもよけれねーほどドンくせーのにィ!!!

本当に殺しちまうってばよ!!」

 

「ナルト!それは…」

「世間じゃさぁ……実力のない奴にかぎってホエたがる。」

 

 

それは違うと伝えようとしたユウの台詞を遮り、そう強がるなよ、と完全に見下したように言い放ったカカシはトドメと言わんばかりの台詞を吐く。

 

 

「ま……ドべはほっといてよーいスタートの合図で」

 

 

それが起爆剤となり、ナルトはホルスターからクナイを引き抜くと一気にカカシに襲いかかった。

 

 

「え!」

 

「っナルト!!」

 

 

制止の声をかけつつ、間に合わないと察したユウは瞬時に動いた。

一瞬で移動したカカシはナルトがもっていたクナイを腕ごと捕まえ、彼自身に向け、頭を鷲掴みにして取り押さえる。

 

 

「そうあわてんなよ、まだスタートは言ってないだろ」

 

 

余裕綽々と言って除けたカカシに驚くナルトたち。

彼らには全くカカシのスピードが目で追えなかったのである。

 

 

「先生こそ、スタートにはまだ早いんじゃないかな?」

 

「?!」

 

 

いつの間に、といいたげにカカシは首だけで背後を振り返れば、そこにはユウが自分の背中に向けてクナイを突き立てていた。

 

 

「ユウ?!いつのまに?!!」

 

 

カカシのスピードに着いていったユウに驚いたのは当然カカシ本人だけではなく、ナルトたちも目を見開いていた。

 

 

「そうだな……。

でも、ま……お前ら全員オレを殺るつもりで来る気になったようだな……。

やっとオレを認めてくれたかな?

ククク……なんだかな、やっとお前らを好きになれそうだ……」

 

 

それを聞き、そっとクナイをポーチに戻す。

 

 

「……じゃ始めるぞ!!

……よーい…………スタート!!!」

 

 

それを合図に四人はそれぞれカカシの前から姿を消した。

 

 

「忍たる者━━━━基本は気配を消し、隠れるべし」

 

 

よし、みんなうまく隠れたな。

……にしても、さすがユウだ、このオレが全く気配を感じとれないなんてな……。

 

カカシが心の中で拍手を送っていると、目の前に堂々とナルトが現れた。

 

 

「いざ尋常に勝~~~~負!!

しょーぶたらしょーぶ!!」

 

「……あのさァ……お前ちっとズレとるのォ……」

 

 

そんなナルトに頭を痛めるサスケとカカシであった。

そして、その様子を近くの木の上から見守るユウも、あちゃー、と苦笑していた。

 

ナルトらしいっちゃらしいけど……。

さて、ナルトが気を引いてくれてる間にサスケとサクラを探しますか!

 

目を閉じ、サスケとサクラの気配を探り始める。

それはすぐに見つかり、ユウはサスケの方へと静かに移動を始めた。

その間にもナルトは無謀にも我武者羅にカカシに殴りかかっていく。

しかも、カカシは本を読みながら戦っている。

実質、ナルトは完全に遊ばれているようだった。

 

もうちょっとだね……。

ん?

 

静かに移動していたユウだったが、カカシに背を向けてしまっているナルトに向かい、虎の印を組んでいるのを見て思わず口元を抑えた。

 

 

「ナルトー!!!早く逃げなさいって!!!アンタ死ぬわよォ!!!」

 

「え?」

 

「遅い」

 

 

サクラが警告を発したが、既に時遅し……。

 

 

「木ノ葉隠れ秘伝体術奥義!!!

千年殺し~~っ!!」

 

「ぎぃやあああああああああああ!!」

 

「…………なんだァ…忍術じゃないのかァ…。

…何が奥義よ…ただのモノスゴイカンチョウじゃない」

 

「…………ウスラトンカチが2人……フン!」

 

 

それぞれ隠れながら呆れたように呟くサクラとサスケ。

しかし、ユウは何故かキラキラと尊敬の眼差しでカカシを見つめた。

 

 

「なるほど!忍術と思わせてあの印の形から体術の攻撃に入る!!

油断していた敵はまさに虚を突かれるんだね!

やっぱカカシ先生はすごいなぁ!あたしじゃあんな攻撃の仕方思い浮かばなかったよ」

 

 

非常に残念な方向にズレている思考回路だった。

しかし、当初の目的を思い出し、すぐそこにいるサスケの元へ気付かれないように一気に移動する。

 

 

「サスケ」

 

「ユウ?!おま、なんでここに……?どうかしたか?」

 

「んー……あのね、サスケ。サスケは先生のこと、どう思う?」

 

「……ああ、あのカカシの野郎、あんな面してるが相当のやり手だな……。

ナルトとやっている間でさえ全くスキがねェ……。

それがどうした?」

 

 

問いかけられ、真剣な表情でサスケを見据えた。

 

 

「あのね、サスケ……これから一緒にスズを……」

 

「断る」

 

「え、まだ言い切ってないのに?!しかも即答!?」

 

 

自分の発言にガーンとショックを受けてしまったユウに、サスケは罪悪感で一杯になる。

しかし、彼には彼のプライドがあり、それゆえに少女のその提案に頷くわけにはいかなかった。

 

 

「別にお前と協力したくない訳じゃねェ……むしろ協力してやりたいが、とにかく今回はダメだ!

オレはオレの実力でカカシの野郎からスズを奪い取ってやる。約束する。

だから、ユウ……お前も自分でスズを取りに行くんだ。

オレたちなら……ユウなら出来るさ。

一緒に合格しよう。な?」

 

 

出来るだけ優しく諭そうと思ったのだろう、ユウの目を見ながら言葉を選びつつ、安心させるように微笑んだ。

 

そういう意味じゃ、ないんだけど、な……。

 

一緒に合格しよう、という気持ちがサスケの中にあると分かっただけでも、ある意味良かったかもしれない。

が、合格しようと思うなら一緒に取りに行くのがベストだということを知っているユウは複雑そうに、力無く笑った。

これ以上ここにいても進展はないだろうと察し、一旦サクラの元に向かう方がいいだろうと内心結論を出す。

 

 

「……サスケの気持ちは、うん、分かったよ。

それじゃあ、お互い頑張ろうね」

 

「ああ」

 

 

言い残し、ユウはサクラの元へ向かった。

サクラはさほどサスケと離れていなかったので、すぐに見つかった。

 

 

「サクラ」

 

「きゃっ?!

もう、ビックリしたじゃない、驚かさないでよ」

 

 

カカシが来たと思ったのだろう、一瞬こわばったサクラは、安堵したように息をついた。

ゴメンと謝りながら、カカシの方を見やれば、イチャイチャパラダイスと書かれた本をニヤつきながら読んでいた所だった。

ナルトのチャクラを探ってみると、どうやら水中に身を隠したらしい。

現状確認を終え、ユウはサクラに向き直る。

 

 

「ねぇ、サクラ。一緒にスズ、取りに行かない?」

 

「え……?」

 

 

何を言っているか分からない、と言いたげなサクラに身振り手振りで説明する。

 

 

「カカシ先生は上忍で、あたしたちは忍なりたての新人下忍だよ?

サシでやりあっても勝敗は見えてる」

 

「だ、だけど……スズは3つしかないのよ?!

一人はアカデミー行きになるのに、協力なんて……!!」

 

 

戸惑っているかのようなその台詞に、ユウは少し考えを巡らせた。

 

そんなくだらないこと言っていたら、一人どころか全員アカデミーに戻されちゃう…!

だったら、それが協力できない理由だって言うんなら……

 

 

「あたしがアカデミーにもどるよ」

 

「……え…………?」

 

「だから、みんなで協力しようよ!

あたしがカカシ先生を引きつけておくから、動きを止めたその隙にサクラたちが…………」

 

「っふざけないで!!」

 

 

今度はユウが呆然とする番だった。

サクラがなんで怒鳴ったのか、なんで泣きそうに顔を歪めているのか…………。

何一つ理解できなかったからだ。

 

 

「どうして、どうしてまだ戦ってみてもないのにそんなこと言うの?!

私…私……!!

ユウを犠牲にしてまで、合格なんてしたくない!!

だって……絶対、後悔するもの……。

せっかく友達になれたのに、その友達を犠牲にしたって……!!

だから……ゴメン」

 

 

そのまま呆然としているユウに気付かず、サクラは移動してしまった。

ユウは手首に結んである黒いバンダナに目を落として、自嘲気味に笑う。

 

絶対、後悔する………か…………。

 

 

「ホント、あたしなんかにはもったいないよ…………。

サクラもサスケも、ナルトも…………」

 

 

くしゃり、と前髪を掴む。

 

 

「ホラ、どうした。昼までにスズ取らないと一人だけ昼めし抜きだぞ」

 

「…!?」

 

 

ビックリした…!

油断しすぎて見つかったのかと思った……。

 

自分に向かって言われたと勘違いしたそれは、どうやら水辺からあがってきたナルトに向けて言われた台詞のようだった。

 

 

「ンなの分かってるってばよ!!」

 

「火影を超すって言ってたわりに元気ないね、お前……」

 

「くっそ!くっそ!腹がへっても戦はできるぞ!!」

 

 

そう言った所で強がりでしかなく、心無しか三方向から同時に腹の虫がなく音が聞こえたような気がした。

 

 

「……ん?」

 

 

ナルトの企みに気付き、ユウはなるほど、と微笑んだ。

 

 

「さっきはチット油断しただけだってばよォ!!」

 

「世間じゃ油断大敵って言うんだよね」

 

 

そう言って踵を返し、ナルトに背を向ける。

そのまま遠ざかって行こうとした彼にむかって、水中から7人のナルトたちが飛びかかった。

 

 

「ん?」

 

「へへーん!!お得意の多重影分身の術だ!!油断大敵!今度は一人じゃないってばよォ!!」

 

「ん!分身じゃなく影分身か……。

残像ではなく、実体を複数作り出す術……」

 

 

ナルトたちに背を向けていたカカシは迎え撃つべく向き直る。

 

 

「(ミズキをやった例の封印の書の中の禁術だな……)

お前の実力からして、その術1分が限界ってところだろ……。

御託ならべて大見得切ったってしょせんナルト……。

まだその術じゃ、オレはやれないね」

 

 

油断大敵だよ?カカシ先生。

 

次の瞬間、カカシは後ろから羽交い締めにされた。

首だけで振り返ればそこには自分を羽交い締めにするナルトの姿。

 

 

「な……なにィ!!!後ろ!!?」

 

 

してやったりな笑みを浮かべるナルトに、思わず見とれてしまうサクラ、驚愕にあいた口が塞がらないサスケ、目を見開くカカシ。

 

 

「へへ……忍者ってのは後ろ取られちゃダメなんだろ……。

カカシ先生ってばよォ!!!

影分身の術で一人だけ川下からこっそり上がって、裏手に回り込んどいたんだってばよ!

……さっきケツやられたぶん!せっかくだからここで一発……」

 

「(ナルト!!結構やるじゃない!!)」

 

「(コイツ……)陽動作戦ってヤツか……」

 

 

う~ん、いい作戦だったんだけどね……。

やっぱカカシ先生には通用しないか。

 

ユウだけは苦笑を浮かべていた。

ナルトは思いっきり拳を振り上げる。

 

 

「なぐらせてもらうってばよ!!」

 

バキャ

 

 

痛そうな音が辺り一体に響く。

だが、それはカカシが殴られた音ではなく……。

 

 

「!!?」

 

 

ナルトが自分自身を殴ってしまった音だった。

殴られたのはナルトだったのだ。

 

 

「いってェー!!」

 

「お前ってばカカシ先生だな!変幻の術で化けてんだろ!!」

 

 

それが起爆剤となり、ナルトは互いを疑い、とうとう殴り合いに発展してしまった。

ナルトがナルトを殴り、ナルトがナルトに殴られているというのは、中々に奇妙な光景である。

 

 

「あのさ!あのさ!とりあえず術解いてみろってば。

そしたら2人になる……それで分かる」

 

「あ!もっと早く気づけバカ!」

 

「お前はオレだバカ!」

 

 

術を解いてみたナルトだったが、そこに残ったのは本体のナルトのみで、ぽつん、と一人立っていた。

あまりの惨めさにホロリと涙が出そうになる。

 

今、カカシが使用した術は変わり身の術であり、本来は動物や植物と己の身をすばやく入れ替える術なのだが、今回は影分身と自分を入れ替え、むしろナルトの術を利用する形で使用したのだった。

 

 

「!」

 

 

トボトボと歩きだしたナルトは、ふと視界にキラリと光る何かを見付けた。

それはお目当ての物であった。

 

 

「スズゥ!!!

ニシシシ、さっきはよっぽど慌ててたんだな、スズ落としていってら……へへ……」

 

 

しかし、ナルトがスズを拾い上げようとすると、足を何かに引っ張られ、宙吊りにされてしまった。

 

 

「なんじゃこりゃあ!!!」

 

 

罠に決まっている、とサスケは呆れ果ててしまう。

ぶらぶら~と力無くぶら下がっていたナルトの目の前にカカシが現れ、スズを拾い上げる。

 

 

「あ!」

 

「術はよく考えて使え。だから逆に利用されるんだよ……。

それと……バレバレのワナのひっかかるなバカ」

 

 

スズを弄びながらのんびりとそう言われ、ナルトはムッキィーっと敵意を露にする。

そんなまだまだ未熟者の新米下忍を気だるげに見上げた。

 

 

「忍者は裏の裏を読め!」

 

「ンなの分かってるってばよ!」

 

「あのね、分かってないから言ってんの」

 

 

仰るとおり、とユウは苦笑してしまう。

あえてできた隙に気がつきつつも、それではカカシは倒せないだろうと、のんびりと傍観を決め込んだのだ。

しかし、約一名はやっとできた隙を逃したくないようで、一箇所から大量の手裏剣が標的へと襲いかかった。

 

 

「ったくお前は……」

 

手裏剣がカカシに襲いかかった。

油断していたのか、その攻撃をかわすことも受け止めることも出来ずにカカシの体へと突き刺さる。

 

 

「うわぁ!!うわぁ!!モロだぁー!!サスケのヤローやりすぎだろォー!!」

 

 

話しの途中で串刺しになったカカシの身を案じ、目の前で起こった惨劇にパニック気味に叫んだナルトだったが、それはカカシの体が丸太になったことによって杞憂に終わる。

 

 

「「!!!」」

 

 

場所を知られたことに気づいたサスケは即座に後ろに跳ぶ。

 

 

「わざとスキ見せやがって……!

ざまあねェ…ワナにかかっちまった」

 

 

ナルトの様にバレバレのワナに引っかかったわけではないが、先ほどワナに決まってると呆れていた自分がワナにかかったことは悔しいだろう。

サスケはなるべくその場から離れるように後退していった。

サクラもサスケが場所を移動したのに気付いたのか、移動を始めた。

そして、二人を追うためにカカシの気配が遠ざかっていくのを見送ったユウは、二連敗中の今、あまり気は乗らないが、ナルトの元へ向かう。

 

 

「ナルト」

 

「!ユウ~!!ワナに引っかかっちまった!!」

 

「見れば分かるよ……。

今、助けるからじっとしてて」

 

 

ロープがくくりつけられている枝へとのぼり、トラップ解除へと行動を移す。

話しはそれからでもいいだろう。

 

ん??

これ、二重トラップになってる……。

 

カカシ先生ってば抜け目ないなぁ、と苦笑しながら、ついでにもう一つのトラップも解除し、足にかかっていた縄を解き、開放する。

空中で一回転し、ナルトは無事着地する。

 

 

「サンキューな、ユウ!助かったってばよ!!」

 

「どういたしまして!

……それでね、ナルト、提案があるんだ」

 

 

枝からナルトの正面へと跳び、真正面から向き合う。

ナルトは首をかしげてユウの言葉を待っている。

先ほどの二人のこともあり、気を抜いてしまえば重くなってしまいそうな口を開く。

 

 

「あの、ね……一緒にスズを取りに行かない??

ほら、先生強いし、絶対にみんなで協力すれば、取れる確立があがると思うんだ」

 

「……悪い、それは無理だってばよ。

だって、オレってば頑張ってようやく卒業して……ここでちんたらしてられねェ。

火影になるために、もたもたしてらんねェんだ!

協力して、スズを取りに行ったって誰か一人はアカデミー行きなんだぞ?!

今は、ユウ……お前とも敵だ!」

 

「そう、かもしれないけど……でもナルト!!

そもそものこの試験の目的は……」

「何がなんでも!!今回だけはお前と協力なんて出来ないってばよ!!

今回だけは、ユウのお願いでも無理だ…。

……ゴメン」

 

 

そう言い残し、ナルトはユウの前から去っていく。

その場に残されたユウの頭を占めるのは、ナルトの表情と、“お前も敵だ”の一言だった。

 

 

「……っはは、キッツイなぁ」

 

 

くしゃり、と前髪を掴み、笑って誤魔化す。

誤魔化すのは得意だ。

大丈夫、そう言い聞かせ、ユウはカカシの気配を探り、その場から姿を消した。

……途中、もの凄いサクラと思しき人物の悲鳴が聞こえたが、大丈夫だろうとスルーしたりしたが……。

 

カカシの気配を辿っていけば、丁度サスケとにらみ合っているところだった。

どうやらナルト相手では本を読む余裕を見せていたカカシだったが、サスケが相手となるとそうもいかないと感じているらしい。

 

 

「里一番のエリート、うちは一族の力……。

楽しみだなぁ……」

 

 

それが合図だったかの様に、サスケから手裏剣が放たれる。

正確に放たれているそれらを横に跳躍することによってかわす。

 

 

「バカ正直に攻撃してもダメだよ」

 

 

冷静に助言してくるカカシに、しかしサスケも余裕の表情でニヤリと不敵に笑ってみせる。

その時、放った内の手裏剣の一つがロープを切る音が聞こえ、瞬時にトラップに気がついたカカシは横っ飛びにかわす。

かわしたカカシの動きを正確に読み取っていたサスケは、その隙にカカシの背後へと回っていた。

 

その下忍にしては高レベルな戦い方にユウも感嘆する。

蹴りや拳を繰り出すも、ことごとくいなされ、左手以外は封じられてしまった。

しかし、その左手は少し手を伸ばせばスズに届く範囲であり、結果としてサスケの計算通りだったというわけだ。

スズを指がかすめたとき、カカシは彼の意図に気付き、瞬時に距離をとる。

 

 

「ま!あの2人とは違うってのは認めてやるよ」

 

「2人?」

 

「まだ、ユウとは戦ってないからな、それ以外の2人」

 

「フン…アイツがそう簡単にやられるはずがないからな」

 

「言うねぇ……案外ああいう子の方が、コロッと負けちゃったりするのよ。

……意外と押しに弱かったりするしな……色々な意味で、ね」

 

「っお前!!」

 

 

安い挑発のつもりだったのだが、これは相当キたらしい。

殺気だって先ほどまでとは段違いだ。

 

 

「あらま嫉妬?小さくて弱くておまけに重い男は嫌われるだけだぞ?」

 

「…っ殺す!!」

 

 

ニヤニヤと、本当に楽しそうに笑うS気全開のカカシに気がつく余裕すら今のサスケには皆無で、消し炭にしてやる…と射殺さんばかりに睨みつけ、そっと印を結んでいく。

最後に馬、虎の順に印を結び、深く息を吸い込む。

その動作によって放たれてくるであろう術の予想がついたカカシは冷や汗をかいた。

 

火遁!豪火球の術!!

 

 

「なっ…なにィ!!」

 

 

その術は下忍のできるような……。

チャクラがまだ足りないはず……!!

 

しかし、思考がまとまらない内にサスケは溜めていた息を吐き出し、炎を吐く。

巨大化していく炎の球体は自分へと迫い来る。

 

サスケ、すごいなぁ……。

あれだけの火遁を、あの年で……。

 

遠目に見ていたユウもほう、と感心するほどの規模の火の球は、まさに豪火球と呼ぶのにふさわしいものだろう。

 

ボコゥ……!!

 

 

「!」

 

 

しかし、煙が晴れた先にはカカシはおらず、サスケは困惑し、焦ったようにあたりを見渡す。

 

後方!?いや、上か!?どこだ!?

 

 

「サスケ!!下だよ!!!」

 

「!!」

 

 

思わず、と言った様に助言してきたユウの存在に驚きつつも、ハッと下を見るが、時既に遅し。

突如現れた手に足首を掴まれる。

 

 

「遅いよ、土遁 心中斬首の術……」

 

「ぬおぉ……」

 

 

サスケは成すすべなく地面に引きずり込まれ、生首状態になってしまった。

遅かったか、と苦笑し、サスケを見下ろしていると、カカシが現れ、降りてくるように合図を出され、しょうがなく二人の前に出る。

 

 

「忍……戦術の心得その3!忍術だ。

……にしてもお前はやっぱ早くも頭角を現してきたか」

 

「……」

 

「でも、ま!出る杭は打たれるって言うしな、ハハハ」

 

「くそ!!」

 

 

そのままユウの前を通り過ぎ、そのまま去っていこうとしたカカシだったが、ふと思い出したように少女を見やる。

少女は、ずっと目でカカシを追っていたのか、バチっと目があい、首を傾げた。

 

 

「に、してもよく気が付いたな。

オレも結構本気で気配を消してたつもりだったんだけど」

 

「んー……まぁ、なんとなくというか……。

先生が印を結んでるのが見えたから、姿が見えないなら地面の下しかないと思って」

 

「……ふーん、よく観察してるな」

 

 

腑に落ちないような、納得のいかなそうな表情をしつつも、カカシはそれ以上言及せず、ユウの頭を軽くなで、その場から立ち去った。

てっきりこの場で戦わなければならないのかと思っていたユウは、撫でられた頭に手をおき、首を傾げる。

しかし、すぐに生首状態のサスケに向き直り、できるだけ視線を合わせようとしゃがみこんだ。

その行動によってサスケは顔を真っ赤にし、視線を逸らしているが、ユウが気がつくはずもなかった。

 

 

「サスケ、アドバイス遅れてゴメンね」

 

「い、いや…気付かなかったオレがわるかったよ」

 

「あ、あのさ……サスケ……。

何回も聞いて本当に悪いんだけど、一緒にスズ……」

 

「断る!!」

 

「えぇ……また即答……」

 

 

ショックにより、肩を落として困ったように力無く微笑む少女に、顔を真っ赤にしつつもムッと不機嫌になる。

 

 

「オレのことそんなに信用できないのか?」

 

「い、いや、信用してるからこそ協力、したい、なぁって……」

 

 

どんどん消え入りそうに小さくなっていっていることに気付かず、サスケはそっぽを向いたまま言葉を荒くしていく。

 

 

「第一、迷惑なんだよ!

オレは真剣にアイツからスズをとってやる気で戦ってる。

お前もオレに構う暇があるならスズ、とりにいけよ。

約束したのにお前だけスズ取れないぞ」

 

 

迷惑。

サスケの容赦ない一言にユウはうつむき、立ち上がる。

 

 

「……ゴメン。

あたしがやってること、みんなにとって迷惑でしかないことだって思いもしなくて、何度も誘ったりして……。

迷惑かけて、ゴメン。」

 

「ユウ?」

 

「もう誘ったりしないから……本当にゴメンね」

 

「っおいユウ!!」

 

 

少女は抑揚のない声でそう言い残し、生首状態のサスケをその場に残し、走り去った。

一部始終をただじっと見守っていたカカシは、そっとユウの後を追う。

 

カカシには見えていた。

泣きだしそうな、笑い顔。

それが脳裏に焼き付いて、離れなかった。

 

 

 

 

 




長くなったんで後編に続きます

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