絆道~始まりのミチシルベ~   作:レイリア@風雅

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第5話 担当上忍

 

「ム~~~~」

 

「ナルト!じっとしときなさいよ!!」

 

 

キョロキョロと落ちつきなく廊下へ顔をのぞかせるナルトにサクラが呆れたように声をかける。

しかし、サクラもイライラしているようでその声は苛立ちを隠せていない。

 

 

「何でオレ達7班の先生だけこんなに来んのが遅せーんだってばよォ!!」

 

 

注意を受けたナルトは振り返りざまに抗議し、ムスっとしながらほかの班はみんな新しい先生とどっか行っちまったし、イルカ先生も帰っちまうし!と愚痴る。

確かに遅いなと思っていると物音がし、そちらを向けばナルトが黒板消しをドアの間に挟んでいた。

悪戯目的の簡単なトラップだ。

得意げに笑っているナルトを注意するサクラもいささか楽しそうだ。

 

 

「フン、上忍がそんなベタなブービートラップに引っかかるかよ」

 

「まぁ、確かにサスケの言うことも一理あるよね」

 

 

何の思惑も無ければ、の話だけど……。

 

呆れたようにいうサスケにあはは、と笑いながら密かに分析し始める。

その時、教室の戸に手がかかった。

そして、黒板消しは見事にバフッと銀髪の男の頭に白煙を散らしながら落ちた。

 

引っかかった……?

 

男を見据え、じっと考え込む。

しかし、ナルトはそんなユウの様子には気付かず、銀髪の男を指差し、大爆笑だ。

サクラは男に謝りつつ、喜んでいる内心がモロバレである。

一方でサスケはこれが上忍?と文句を言いたげに訝しそうに男を睨んでいる。

とまあ、四者四様の反応を観察していた男は、なるほどね、と目を細めた。

男は、顎に手を当て、笑う。

 

 

「ん―――……なんて言うのかな。

お前らの印象はぁ……嫌いだ!!」

 

「……」

 

 

大人げない、容赦ない一言だった。

考え込んでいて聞いていなかったユウ以外の3人はズーン、と空気が重くなる。

しかし、忘れていたかのようにユウの方を凝視した男はニンマリと笑い、歩み寄る。

ふと、自分に影がかかり、我に帰ったのだろう。

きょとんとした顔で見上げてくる少女に、うんうんと頷いた。

 

 

「君以外はね」

 

「!!?」

 

「?」

 

 

コテン、と首をかしげるユウと、雷を受けたかのようにショックで固まるその他3人。

男はその他3人に構うことなくユウに抱きついた。

ユウの体がビクゥッ!と震え、固まってしまう。

心なしか、表情まで凍りついたように引きつっているようだが、男はお構いなしのようで頬ずりしてくる。

 

 

「いや~、ほんっと可愛いね~♪

どう?センセーと二人でチーム組まない??」

 

「ぁ……ぅあ……!?」

 

 

抵抗しようとするも、体が震えて上手く力が出ないようで、ビクビクしている腕の中の少女を見て目を細める。

 

……なるほど、ね。

 

少しの怒りと、悲しみで一瞬顔を歪める、が、そんな男のことは当然ナルトたちが知る由もなく、少女を奪還するべく攻撃を仕掛ける。

 

 

「コォラァァこのエロ教師ィイイイ!!」

 

「ユウから離れなさいよ!!息の根止めるわよ!!?」

 

「……殺す!!!」

 

「ちょっタンマタンマっ痛い痛い痛い痛いッ!!!

ゴメン!!先生が悪かった!!悪かったから!!

得にそこの黒髪!!さり気なくクナイやら手裏剣やら投げようとするな!!

洒落にならないからァアア!!」

 

 

殴りかかってくるナルトたちから防御の体制をとるため、少女を開放する。

少女は強ばる表情で震える体を抱きしめた。

 

……あ、あたし、まだ……。

 

目をぎゅっと閉じ、ものの数秒で体と気持ちを落ち着かせ、すっと開いた瞳には先ほどの恐怖は微塵も出していない。

それをボコボコにされるのを防ぎながらチラリと見た男は、内心舌を巻く。

 

……ものの数秒であんなに落ち着かせるとはね……。

 

それは正直、喜ばしいことでは、ないけれど――――。

それだけ、何度も恐怖を、自分にとってのトラウマを、その身に味わって来た、ということなのだから―――――。

 

 

アカデミーの屋上。

あれから殺気だったナルトたちを宥め、なんとか落ち着かせた後、一先ず場所を移そうということになったのだ。

 

 

「そうだな……。

まずは自己紹介してもらおう」

 

「……どんなこと言えばいいの?」

 

「……そりゃあ、好きなもの、嫌いなもの……将来の夢とか趣味とか……。

ま!そんなのだ」

 

「あのさ!あのさ!それより先に先生、自分のこと紹介してくれよ!」

 

「そうね……見た目ちょっとあやしいし」

 

 

えー、とユウを見れば、苦笑しながらお願いします、と頭を下げられる。

そりゃそうだろう、今日一番被害を受けているのは紛れもない彼女なのだから、自己紹介くらいして欲しいというのが彼女の本音だろう。

ため息をつき、非常にやる気のなさそうなしまりのない顔で男は口を開いた。

 

 

「オレ、ね……オレは〔はたけ カカシ〕って名前だ。

好き嫌いをお前らに教える気はない!将来の夢……って言われてもなぁ……。

ま!趣味は色々だ……」

 

「ねェ……結局分かったの……名前だけじゃない?」

 

 

サクラの一言に、ユウは苦笑で返す。

そのあまりにも味気ない自己紹介に呆れるナルト、サクラ、サスケ。

そんな中で唯一ユウは、ある意味上忍の鏡だなぁと感心していた。

情報は忍にとって命にかかわる物である。

必要最小限なのも、まぁうなずけるというのがユウの考えだ。

 

 

「じゃ、次はお前らだ。右から順に……」

 

 

右から、ということはナルト、サスケ、サクラ、そして最後にユウということになる。

 

 

「オレさ!オレさ!名前はうずまきナルト!

好きなものはカップラーメン。もっと好きなものはイルカ先生におごってもらった一楽のラーメン!!

嫌いなものはお湯を入れてからの3分間」

 

 

コイツ、ラーメンのことばっかだな……。

 

カカシが少し呆れたように興味なさげに聞いていた、その時だった。

 

 

「将来の夢はァ、火影を超す!!

ンでもって里の奴ら全員にオレの存在を認めさせてやるんだ!!」

 

 

言い切ったナルトを思わず、というように目を見開いて見つめるカカシ。

一方でユウは何度聞いても揺らがない意志のあるナルトの瞳を見て、満足げに微笑む。

 

なかなかおもしろい成長をしたな、こいつ……。

 

密かにカカシがナルトへの評価が上げたが、最後の締めで趣味はイタズラかなと答えたナルトにガクっとなる。

 

なるほどね……。

 

頭を書いて、締まらないなぁと言いたげな表情で次、と促す。

 

 

「名はうちはサスケ。

嫌いなものはたくさんあるが、好きなものは…………」

 

 

チラ、とユウを見ればバチっと目が合ってしまい、勢い良く逸らした。

クエスチョンマークを浮かべながら首を傾げるユウと、視線をさ迷わせながら顔を真っ赤にするサスケを見て、思わず苦笑する。

 

意外とコイツも分かりやすいのね…………。

 

それに気付かないユウやサクラは鈍いとしか言いようがないが……。

 

 

「そ、それから……夢なんて言葉で終わらす気はないが、野望はある!

一族の復興とある男を必ず……殺すことだ」

 

 

燃えるような憎悪を目に宿し、静かに言い放ったサスケに抱いた感想は人それぞれだった。

かっこいい、と惚れ直してしまうサクラ。

自分のことかもしれない、と青ざめるナルト。

やはり、と眼光を鋭くし、サスケを睨むカカシ。

そしてユウは、何か言いたげにサスケを見て、悲しそうにそっと瞳を伏せるだけだった。

気まずい空気が流れる。

 

 

「よし……じゃ、次、桃色の髪の女の子……」

 

「私は、春野サクラ。

好きなものはぁ…ってゆーかあ、好きな人は……。

えーとぉ……将来の夢も言っちゃおうかなぁ…………。

キャー!!」

 

「……」

 

 

頬を赤く染め、サスケをチラチラ見ながら自己紹介していく内にスイッチが入ってしまったのだろう、自分の世界に突入してしまったサクラにカカシはなんとも言えない表情を浮かべてしまう。

隣にいるユウも、少し引いてしまっている。

 

 

「嫌いなものはナルトです!」

 

 

ガーンとショックを受けているナルトを知ったことかと趣味について話し始める。

もちろん、サスケをチラチラ見ながら。

 

この年頃の女の子は……忍術より恋愛だな。

 

ため息をつき、ユウを見ればちょうど目があったので、ニコッと微笑む。

 

 

「最後、金髪の女の子♪」

 

「あ、あたしの名前は琥珀ユウです!

好きなものは……うーん、友達、かなぁ…。

嫌いなものは病院と薬品の匂い……あと薬…………」

 

 

思い出してしまったのか、青ざめた表情で苦笑し、口元を押さえる少女。

意外にも子どもらしい一面にナルトたちはへぇ、と意外そうな顔で見る。

何も知らない者にとってはちょっと子どもっぽいと思うが、トラウマとなってしまった理由を知っているカカシとしては全く笑えないものであり…。

止めようか、と迷っているとユウは至って普通に自己紹介の続きを始めた。

 

 

「将来の夢は……強くなりたい。

誰にも負けないくらい、強く……。」

 

 

誰も傷つかないように……。

誰も傷つけないように……。

 

 

「みんなを守れるくらい、強くなりたい……。」

 

 

その少女の表情は、あまりにも年不相応で……。

あまりにも、儚すぎて……。

カカシは何も言えなくなった。

同時に、悲しみを感じてしまった。

 

……そんなに、独りで頑張らなくていいのに、な…

 

頑張っている彼女に、そんな無責任なことを言える立場の人間じゃないから、カカシは喉まででかかった言葉を飲み込んだ。

 

 

「趣味は修行とお菓子作り!以上です」

 

 

とても綺麗に微笑んで、ポン、と手を合わせて明るく終わらせた少女を、何か言いたげに見つめたカカシだったが、ふと視線を戻した。

 

 

「よし!自己紹介はそこまでだ。明日から任務やるぞ」

 

「はっ!どんな任務でありますか!?」

 

 

サッと敬礼し、任務だ任務だ!とワクワクしながらナルトが問いかける。

 

 

「まずはこの五人だけであることをやる」

 

「なに?なに?」

 

「サバイバル演習だ」

 

「サバイバル演習?」

 

「なんで任務で演習やんのよ?演習なら忍者学校でさんざんやったわよ!」

 

 

意味が分からない、抗議するサクラと、無言で抗議するサスケ。

そんな中、ユウは何か引っかかりを覚えた。

そう、それはカカシが黒板消し落としなんてベタなブービートラップに引っかかった時と同じような……。

 

 

「相手はオレだが、ただの演習じゃない」

 

「?」

 

 

相手が……カカシ先生?

 

頭の中で、バラバラのピースが埋まっていく感覚がユウを包む。

 

 

「じゃあさ!じゃあさ!どんな演習なの?」

 

「……ククク」

 

「ちょっと!何がおかしいのよ先生!?」

 

「いや……ま!

ただな…………オレがこれ言ったらお前ら絶対引くから」

 

「引くゥ…?は?」

 

 

ユウはじっとカカシの次の言葉を待つ。

次の言葉で、答えに繋がると、妙な確信があった。

 

 

「卒業生28名中、下忍と認められる者はわずか9~10名。

残り18名~19名は再びアカデミーへ戻される。

この演習は脱落率66%以上の超難関試験だ!」

 

 

絶望の表情を浮かべるナルト、顔をひくつかせるサクラ、険しい顔をしてカカシを睨むサスケ…………。

静かにカカシを観察するユウ。

 

 

「ハハハ、ホラ引いた」

 

 

楽しくて仕方がない、と言わんばかりの顔で笑う。

そんな自分たちの担当上忍にナルトが黙っているはずがなかった。

 

 

「ンなバカな!!

あれだけ苦労して……じゃ!なんのための卒業試験なんだってばよ!」

 

「あ!あれか……。ユウ、なんだと思う?」

 

「んー……そう、だなぁ……。話しの流れから察するに、下忍になる可能性のある者を選抜するだけ、ってところかな?」

 

「正解!!」

 

 

流石ユウ、と褒めていると、ナルトは絶望したように唸る。

 

 

「とにかく、明日は演習場でお前らの合否を判断する。

忍道具一式持って来い。

それと朝めしはぬいて来い……吐くぞ!」

 

 

フルフルと震えるナルトを心配そうに見つめるが、気付くはずもなく、ユウはため息をつく。

 

 

「くわしいことはプリントに書いといたから、明日遅れて来ないよーに!」

 

「吐くって!?そんなにキツイの?!」

 

 

カカシから渡されたプリントをじっくり読みながら、思考は止まらない。

 

この演習…………絶対に裏がある……。

まずはその裏を正確に読み取らなくちゃ、まず合格は無理だね。

頑張らないと!!

 

各々がそれぞれ、強い思いを胸に抱き、その日は解散となった。

 

 

 

 

 

 

 

「……ただいま」

 

 

誰もいない自宅に恒例の挨拶をし、若干苦笑を浮かべ、しっかり靴を揃えて室内に入る。

必要最小限の家具しか置いていない、一見女の子らしくない部屋。

綺麗に整理整頓され、掃除が行き届いている自室。

 

修行を終えてから帰ってきたので、とりあえず荷物を置き、明日の用意と確認を済ませ、ほっと息をつき、汗を流そうとシャワーを浴びた。

 

シャワーを浴び終えたユウは、机に向かう。

日記を書くためだ。

サラサラとペンを走らせながら、今日あった出来事に思いを馳せる。

 

今日は色々なことがあったな。

 

いつもよりあきらかに多い文字数に気付き、思わず笑ってしまう。

ナルトと初めて友達になった日以外では、初めてこんなにスペースを使ったんじゃないかと思う。

ベッドに寝転がりながら、カカシの言っていたことを思い出す。

 

演習相手はカカシ先生。

多分、あのブービートラップに引っかかったのは完全にあたしたちを油断させるためと見て間違いない。

普通に考えて、なりたての新人下忍と上忍、サシで戦っても勝てないよね……。

 

 

「……ん?1対1??」

 

 

1対1で来い、だなんて……。

言ってない……?

全員で来いとも言っていない……。

つまり……!

 

 

「これは、咄嗟にチームワークが優先出来るかどうかのテスト……?」

 

 

だって、上忍と1対1で戦って勝てるようなら苦労しない。

新人の相手が上忍のカカシ先生という時点でおかしかったんだ!

 

それなら今までの疑問点もうなずける。

 

 

「後は……明日、先生がどんな手を使ってくるかどうかで、この答えが正しいか決まるってことだね」

 

 

このまま考え込んでも仕方がない、とそのまま目を瞑った。

 

 

 

 


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