ガアラVSロック・リー。
強敵を相手に何やら聞いてるこちらが不安になりそうな会話を繰り広げるリーとガイ。
熱く、真剣に語っている所申し訳ないが、瓢箪を気にするのは今更ではなかろうか。
本人たちがあまりにも真剣に語っているため、ユウは思わず乾いた笑みを浮かべてしまった。
「よし! リー行ってこい!!」
「オッス!」
師と語り終えたリーは柵を乗り越え、観覧席から飛び降りる。
着地したリーは正面から我愛羅を見据え、不敵に笑んだ。
「早々とアナタと闘れるなんて嬉しい限りです」
「フン」
我愛羅は静かにその場に佇み、リーは構えを取り、二人は向き合った。
「あのオカッパがどんな攻撃するかは知らねーがな……。我愛羅にゃ勝てねーよ。絶対にな」
「いや。あいつは強えェ……」
ユウもナルトの言葉に同意を示した、その時。
リーへ向かって何かが飛ばされた。
彼は難なくそれをキャッチする。
それは瓢箪に蓋をしていたコルクだった。
「そうあわてないで下さい」
試合開始の合図が上がった。
まず仕掛けたのはリー。
勢いのある蹴りを繰り出すが、それは我愛羅の瓢箪の中から出現した砂によって受け止められてしまう。
「砂の楯……?」
やはり我愛羅は……とユウの予想が確信へと変わった。
我愛羅の砂に攻撃され、リーは地面を転がってかわし、距離を取らされてしまう。
負けじと素早い動きで我愛羅へと距離を詰めていき、高速に打撃を繰り出していくが、それは全て我愛羅の砂によって阻まれ、本人には届かない。
我愛羅はその間、ピクリとも動かなかった。
砂が盾になるなんて、”あれ”の特性から考えてあり得ない。
でも砂を操ってるっていうよりあれは砂が勝手に我愛羅を守っている……?
考え込むユウの隣りでナルトが信じられないとばかりに我愛羅を見ていた。
「全然攻撃が通じねーってばよ!」
「アイツにはどんな物理的攻撃も通用しねェ。我愛羅の意思に関係なく砂が盾となって自らの身を守っちまうからな。……だから今まで誰一人としていねーんだ」
「……?」
「……我愛羅を傷付けた奴なんてな」
砂が我愛羅をオートで守っている……?
驚くユウの目に、カンクロウの恐怖に怯える瞳が映った。
それが、どんな武器よりも人を傷付けることの出来る物だということを、ユウは知っている。
我愛羅を見下ろし、ユウは痛みを堪えるように瞳を細めた。
なぜリーは忍術を使わないのか、と最もな疑問をガイへぶつけるサクラ。
ガイはリーは忍術を使わないのではなく、使えないのだと語る。
だから忍者としてリーが生きていくために残された技は体術しかなかったのだと。
迫り来る砂から逃げるためにリーはバク転で後退し、大きく跳躍して石像の上へと降り立ち、なんとか逃れる。
「だからこそ勝てる!」
断言されたそれに訝しげな声があがる。
ガイは親指を立て、リーへ声を張り上げた。
「リー! 外せ――――――!!」
「で……でもガイ先生! それは大切な人を“複数名”守る場合の時じゃなければダメだって……!」
「構わーん!! オレが許す!!!」
「……アハ……ハハハ……」
少し笑みを見せたリーはレッグウォーマーを取った。
露わになったのは、“根性”と書かれた大量の重り。
両足に付けられたそれを外し、レッグウォーマーを再度着用するとリーは立ち上がった。
「よーしィ!! これでもっと楽に動けるぞ――――――――――――――――!!」
重りから手を離す。
なるほど、と何やら納得しているナルト以外は呆れる者、それくらいでとバカにするような笑みを浮かべる者が殆どであった。
しかし、次の瞬間、床へと落下した重りは砂塵を上げ床すらも破壊した。
尋常ではない重さだったということは誰の目から見ても明らかで、誰もが目を見開く中、あれをつけてあんなに素早く動いていたのかとユウは感嘆の息をつく。
「行け―――――――!! リー!!」
「オッス!!」
次の瞬間、リーの姿が消えた。
我愛羅が気配に気付いた時には、一瞬で石像から我愛羅の背後へと回っていたリーの拳が我愛羅へと襲いかかっていた。
ギリギリの所で砂に守られ、流石に予想外のスピードに初めて我愛羅の表情に変化が表れた。
そこから始まるリーの猛攻。
我愛羅の目は追いつかず、砂もギリギリの所で守るのが精一杯のようで、完全に防戦一方である。
「……忍術や幻術が使えない。だからこそ体術の為に時間をついやし、体術の為に努力し全てを体術だけに集中してきた。たとえ他の術は出来ぬともアイツは誰にも負けない……。
体術のスペシャリストだ!」
再び我愛羅の視界からリーが消えた。
否、“消えた”と認識した時には既に、リーは我愛羅の頭上へ移動していて、回転しながらその足を彼の脳天へと叩きつけた。
「!!」
初めて入った我愛羅への痛恨の一撃に全員があんぐりと口を開け、目を見開いた。
ユウも身を乗り出すように階下の戦いに魅入られた。
衝撃に片目を瞑っている我愛羅の頬には、一筋の傷。
「リーはスピードでは誰にも負けない。一言忠告しておいたはずだ……“この子は強いよ”ってな」
「……」
「さあ……これからです!」
リーが強いのは彼自身が努力した成果だけではない、とユウはガイを見て思う。
ガイが信じているから、リーも自分を信じ続けられる。
そして、揺るがないのだと。
「ゲジマユの奴、前よりもっとすっげー速いってばよ!」
「……まさか……」
「本当に、凄いね……。一体どれだけキツイ修行を積んできたのかな」
「リー!! 爆発だぁ―――!!!」
「オッス!!」
また視界から消えたリー。
気配で追っていた我愛羅は首を動かし、背後を振り返る。
が……。
「こっちですよ」
「!」
一瞬で正面へと回ったリーに殴り飛ばされ、自身の操る砂へと叩きつけられる。
「す……凄い! 速い速い!! 完璧砂のガードが追いついてない! 直撃ね!!」
「す……すげェ……」
「攻撃が速すぎて目で追うことすらほとんどできないよ……」
ゴクッと息を飲むシカマル。
誰もがリーが優位に立っていると思っている中、険しい表情をする者が二人。
「……ヤバイな……」
「ああ、ヤベーな! あの目のクマヤロー! けっこー重いのくらったってばよ!」
「……そのヤバイじゃねェーよ……」
恐怖に顔を歪めるカンクロウを訝しげに見上げるナルト。
ユウは険しい表情のまま、呟いた。
「砂の使い方が、上手いな…」
我愛羅の顔からサラサラと砂が流れ落ち、パラパラと固められた砂の破片が落下していく。
その様子を見ていたリーは絶句する。
「!!……なっ……」
ボロボロと崩れていく砂の下から表れた我愛羅の表情は、見る者を戦慄させた。
顔を歪め、凄惨な笑みを浮かべる我愛羅。
その表情に対峙しているリーは勿論、観戦している者たちに恐怖を与えたのだ。
もう一つ恐るべきことがある。
砂をまとっていた我愛羅は、無傷だった。
「な……なんだあ……顔がボロボロ崩れたってばよ!?」
「今の我愛羅に捕まったら……弄ばれて殺されるぞ!」
「…!」
「! 我愛羅っ……」
怯えるカンクロウの表情に、言葉に、ユウはハッとして我愛羅を見やった。
我愛羅は凄惨な笑みを携えたままなのに、どうしてだろうか。
悲しい叫び声が聞こえてくるようだった。
胸に痛みが走り、唇を噛む。
再び砂が我愛羅にまとわりつき、彼を保護した。
「おい! アレってばなんだってばよ! さっきのゲジマユの攻撃もアレでガードしてたのか?」
「ありゃ砂の鎧だ」
「……鎧?」
「ああ。あれは最初から自分の意志で薄い砂の防御壁を身にまとい、ガードするいわば『砂の鎧』……。
普段身の周りを流動する砂がオートでガードする『砂の盾』とは違う。
あれが我愛羅の……絶対防御だ……!」
「……そんなのどーしようもねーってばよ! 弱点なんかねーじゃん……!」
「……いや」
一概にはそう言い切れない。
身にまとっているということは、我愛羅の体は重くなり、その分の体力を使う。
更にオートではない、ということは自身のチャクラを膨大に消費しているだろう。
それをわざわざ身に付けなければならない、ということは……。
「あれを使ってるってことは、我愛羅が追い込まれてる証拠だと思う」
「ユウ……オレにも分かるように説明して欲しいってばよ……」
自己完結するな、と突っ込まれる。
だが、今のユウに懇切丁寧に説明できる余裕はなかった。
ガンガンと痛みを訴える頭に響く幼い誰かの叫び声。
「(誰、なの……?)」
悲鳴が、頭の中に響いてくる。
悲鳴というより、泣き叫ぶ声……。
「それだけか……」
険しい顔で我愛羅とにらみ合っていたリーは、突如ガイを見上げた。
許しを請うような目にガイは笑みを携えたまま頷く。
その意図が分かったリーも、ニコっと笑った。
そして腕のバンテージを外し、垂らして構える。
「(……あの構え……表蓮華か)」
一気に床を蹴ったリーは我愛羅の周りをぐるぐると我愛羅の目にも止まらぬスピードで駆け回る。
「さっさと来い」
「お望み通りに!」
突如真下にやってきたリーに蹴り上げられ、続いて来るであろう猛攻に備え顔の前に腕をクロスさせ、庇う体制に入る。
「まだまだァ!!」
より高くより高くと、我愛羅を何度も空中へ蹴り上げ、追撃を加えていき、我愛羅はかなりの高さまで蹴り上げられた。
「くっ……」
一瞬体に激痛が走り、リーの動きが鈍った。
しかしすぐにカッと目を見開くとバンテージを我愛羅の体に巻きつけ、拘束するとリーは我愛羅を掴み、身体を捻って頭を地面の方へ向けた。
「くらえ!!」
グルグルと回転を加え、そのまま我愛羅と共に地面へと真っ逆さまに落ちていく。
“表蓮華”!!
砂塵をあげながら我愛羅を床へ叩きつけ、リーは大きく跳躍し、距離を取った所へ着地した。
砂塵が晴れ、破壊された床の上に、ぐったりと倒れたままの我愛羅の姿が現れる。
「……し……死んだんじゃねーの……」
「お、おいウソだろ……!!」
「リーさんが……勝った――――――!!」
「よし!」
しかし、ユウは静かに唇を開いた。
「違う……」
「!!」
リーの勝利を確信していたナルトたちの目の前で、我愛羅の体にピシピシとヒビが入っていき、パラパラと破片が落ちていく。
あっという間に我愛羅の体は崩れていき、その中は空洞だった。
誰もが絶句した中、ガイがあり得ないと目を見開く。
「いつの間に砂のガードから……リーがそんなことを見逃すはずが……!!」
「ガイお前が目をつむって祈ってる時だよ……リーは一瞬体の痛みで動きが止まった。その時だ」
「クク……」
いつの間に回り込んでいたのか、リーの背後に我愛羅が姿を見せた。
バッと振り返るが、表蓮華の反動で身動きの取れないリーは座り込んだまま、我愛羅を見上げることしかできない。
そんなリーへと迫り来る砂の波。
不気味に笑みを浮かべる我愛羅は印を組んでいて、逃げようにも動けないリーは砂の波に突き飛ばされた。
「うわぁ!!」
壁に叩きつけられ、呻くリーを追撃する砂。
咄嗟に腕をクロスさせ、顔を庇う。
なんとか攻撃をやり過ごしたリーを見て舌なめずりし、獲物を狙うような獰猛な瞳で捉える。
「ぐっ!」
じわじわとリーを痛めつけていく我愛羅。
戦意喪失しかけていたリーは、チラとガイを見上げ、そして目を見開いた。
「(……ありがとう……ガイ先生…)」
――お前も自分の道を信じて突っ走ればいい! オレが笑って見てられるぐらいの強い男になれ!!
かつて交わした会話を思いだし、じわりと溢れた涙。
ガイは、今まさに、笑ってリーを見ていてくれていた。
眼前に迫り来る我愛羅の砂。
「…リーさんダメ! これ以上は死んじゃうよ!!」
サクラが悲鳴をあげたその時、リーが我愛羅の攻撃をかわした。
その動きは表蓮華を仕掛ける前と変わらぬスピードだ。
「リーさん笑ってる……あんなに追い込まれてるのに……」
「イヤ、今度はこちらが追い込む」
「え?」
「木ノ葉の蓮華は二度咲く!!」
それは音忍との戦いの後、サクラがリーに言われた言葉と全く同じ物。
「……お前はここで終わりだ」
「……いずれにせよ、次で終わりです……」
二人が再びにらみ合う。
スゥッと両腕をクロスさせ、リーは瞳を閉じた。
「! あのチャクラの動きは……」
まさか裏蓮華の方まで……!?
ユウが目を見張った、その刹那、リーの体が赤く染まった。
「(……ネジ……サスケくん……ユウさん……)」
最後に思い浮かんだ、ナルトの笑顔。
「(こんなところでボクだけ……負けるわけにはいかない!!
ガイ先生……認めて下さい。
今こそ……自分の忍道をつらぬき守り通す時!!)
第三 生門……開!!」
「!!」
「(さらに第四 傷門……開!)ハアアアアアアアアアァァアアア!!!」
血管が切れたのか、リーの鼻から血が流れる。
そして地面を蹴ったリーは一気に我愛羅との距離を詰め、蹴り上げた。
あまりのスピードと衝撃に砂塵が舞い上がり、観戦しているユウたちをも巻き込み、あちこちで悲鳴があがる。
ユウはハッと空中へと投げ出された我愛羅を見上げる。
「我愛羅!!?」
「どこだ!?」
「上だ!!」
「けどリーって人は見えないよ……どこ!?」
既に鎧も剥がれかかっている我愛羅を守ろうと砂が動くが、まるでリーの動きに全く追いつくことが出来ず……。
我愛羅は突如目の前に表れたリーに成す術なく殴り飛ばされた。
弾丸のように飛ばされる我愛羅が壁に激突する寸前、リーが我愛羅の背後に周り、再び殴打を食らわせる。
それが何度も繰り返され、我愛羅は空中で上へ右へ左へと殴り飛ばされ続けた。
夥しい闘気にゾクッと悪寒を感じ、目を見開く。
それと同時にリーは仕掛けていた。
「これで最後です!!」
“第五 杜門―――――開”!!!
弾丸のように跳んできたリーが我愛羅の腹部へと体当たりを食らわし、またもや我愛羅の小柄な体躯は吹っ飛ばされる。
しかし、途中で落下スピードが落ち、原因を見れば我愛羅の腹部に絡められたリーのバンテージ。
「(この技で最後です!)はあああああ!!」
「!!」
バンテージにより勢い良く引っ張り上げられてしまう。
そしてリーの拳と足が、同時に我愛羅の腹部へ叩き込まれた。
“裏蓮華”!!!
凄まじい勢いで地面へと叩き落される我愛羅。
それは風圧となり、観席にいるユウたちを襲う。
しかし、地面に叩きつけられる直前、我愛羅の瓢箪が砂になったのをユウは確かに見た。
「ぐわぁ!!」
裏蓮華の反動は表蓮華の比ではないらしく、着地すらままならず地面を転がるリー。
一方の我愛羅は砂に変わった瓢箪で難を逃れたらしく、砂に身を預けたまま、手をかざした。
「!!」
砂がリーの左腕と左足へとまとわりつく。
逃げようとするリーだがそれは叶わなかった。
“砂漠柩”!!
「ぐわぁあああああ!!」
「っ……!!」
左の手足を潰され、リーの絶叫が木霊す。
その時、一瞬、ユウの目の前が真っ白になった。
脳裏に泣き叫ぶ赤毛の子供の姿が脳裏に浮かび上がる。
君は……誰?
手を伸ばした時には再び視界は切り替わっていた。
倒れこみ、完全に動けなくなってしまったリーへトドメを刺そうと我愛羅の砂が迫る。
しかしその攻撃はガイによって防がれた。
「!!」
「我愛羅……!?」
ガイとにらみ合っていた我愛羅は、突然頭を抑えて苦しみ出した。
「なぜ……助ける……」
ガイの脳裏に自分を信じて努力をし続けるリーが過ぎった。
―――たとえ忍術や幻術は使えなくても立派な忍者になれることを証明したいです! それがボクの全てです!!
「愛すべきオレの大切な部下だ」
理解できない、とばかりに我愛羅はガイを睨みつける。
そんな我愛羅をガイも静かに見据え、「それに」、と言葉を続けた。
「お前さんと同じことをした。それだけだ」
「!」
「お前さんも、オレによって理不尽に傷付けられるあの子を……守りたいと思ったんだろう?」
「……守る? オレが……アイツを?」
ばかばかしい。何を言っているんだ、コイツは。
我愛羅の瞳に苛立ちが浮かぶ。
「本当にくだらない男だな……。あんなのはただの気まぐれだ。守りたいなどと思う人間などオレにはいない。……愛する者などいらない」
我愛羅。
我を愛する修羅。
その名を付けたのは、我愛羅を憎んでいたらしい母親だ。
だからその名の通りに生きてやろうと、彼に愛情を教えた男を殺した時に誓った。
己を愛するのは己だけ。己が愛するのも己だけ。
「オレが愛するのは……己だけだ」
視線を逸らした我愛羅は瓢箪を形成し、砂を瓢箪に戻しながら踵を返す。
「……やめだ」
「勝者、我愛羅!」
ハヤテが我愛羅に勝利を言い渡した、その時。
「え!」
「!」
「……リー……」
ミシミシと体中が悲鳴をあげているのにも構わず、立ち上がったリーが構えていた。
その左の手足から、夥しい血が流れ落ちているのにも関わらずに。
「リーもういい、終わったんだ。お前はもう立てる体じゃない……」
トン、肩に手を置いた瞬間、彼の身体はグラついた。
それに気付いたガイは、目を見開く。
「(……リー……お前……)」
堪えきれなくなった涙が、頬を伝った。
「(……お前って奴は……。気を失ってさえもまだ…自分の忍道を証明しようというのか……。リー……お前はもう)」
立派な忍者だよ……!
リーを優しく抱き寄せ、抱き締めた。
我愛羅はその様子を睨むように見つめる。
その姿にユウだけが気付いていた。
ガイによって横たえられたリーの元へ、ナルトが駆けつけ、ユウも追おうと手すりに足をかける。
「ユウ」
いつの間にかこちらへ来ていたらしい。
カカシが険しい表情をしてユウの背後に立っていた。
「リー君にあの術は使うな」
「え……」
あの術とは、ヒナタに使ったあれのことだろう。
戸惑うユウに首を振る。
「で、でもカカシ先生……」
「ダメだ。リー君には悪いが、許可は出来ないよ。……あれはお前が背負うべき痛みじゃない。」
「……背負うべき、痛み……?」
「そう。ヒナタの時とは違って、あれは自分で負うべき物だ。自己責任と言ってもいい。
……それだけ、蓮華はリスクが高い技だと彼も知っていたはずだ」
その言葉はどこか重みがあった。
ユウは思考を巡らせながら、カカシから視線を逸らし、ナルトたちから少し離れた場所へ降り立つ。
「救急班急いで下さい!!」
「す……すみません!」
担架を持ってきた救急班は、リーの容態を見て表情を変えた。
そしてガイを呼び、損傷箇所を述べていくと、言いづらそうに言葉を濁す。
「こんな事を言いたくはないんですが……」
「……」
「彼はもう二度と……忍として生きていく事はできない体です」
「!!」
あまりのショックに、ナルトとガイは呆然と目を見開く。
「そ……そんな、そんなのウソだろ……」
狼狽え始めるナルトに、ユウは拳を握りしめた。
カカシの言いつけを破ってしまおうかと頭の隅でつぶやく。
「それじゃあ……ゲジマユはどーすりゃいいんだってばよ!
……こいつ、サスケやネジって奴と戦いたいってあんなに言ってたのに……どーにかなんないのかよォ! オ……」
ナルトの元へ降り立ったカカシが彼の口を塞ぎ、やめさせた。
「……あるいはそれが災いした……」
「……!」
「捨て身の禁術まで使って勝ち残ろうとした決意の、その結果だ。
あの子はサスケやネジ君、ユウ……そしてナルト……。お前達との言葉の要らない約束に殉じた……!!
彼は命懸けで……お前達と戦うための舞台を目指したんだよ」
それを忘れるな、と頭を撫でられ、ナルトは俯いた。
立ち尽くしていたガイに声をかけた所でふと、ユウの存在を思い出す。
ナルトたちを先に行かせてから立ち尽くしている彼女の元へ歩み寄った。
「ユウ」
「! カカシ先生……」
「……もう一度だけ言うよ。あれはリー君の自己責任。こういっちゃなんだが、自業自得だ。
ヒナタの時とは訳が違う……その術を今、使わなかったのは正解なんだよ」
「……でも……」
「ユウは何も悪くない」
さ、戻ろう?
笑顔で促され、ユウは小さく頷き、カカシと共に観戦席へと戻った。
リーに何もできない自分が、ひどく無力に感じた。