絆道~始まりのミチシルベ~   作:レイリア@風雅

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第37話 ライバルというもの

 

第二回戦はサスケの番だった。

対戦相手は赤胴ヨロイ、あのカブトと同じ班の者だ。

彼はチャクラを吸い取る吸引術を持つ忍で、呪印によって上手くチャクラが練れず、おまけに写輪眼も使えないサスケは苦戦を強いられることとなった。

しかし、土壇場でサスケはその才覚をユウたちに見せつける。

リーと以前戦った時に見ていた影舞葉を用い、新技・獅子連弾を炸裂させ、ヨロイに勝利したのである。

 

 

「第二回戦勝者うちはサスケ…予選通過です!」

 

「ふぅ…」

 

 

呪印に飲み込まれかけるという肝が冷える場面もあったが、なんと気力でねじ伏せるという荒業さえやってのけた。

上出来だが、もうサスケの体力、精神力は限界だろう。

カカシとアイコンタクトを取ると、理解してくれたようで試合を見たいというサスケを丸め込み、呪印を封印しに向かった。

続いて第三回戦はシノ対ザク。

あの音忍の一人で、両の掌から空気圧を放つ男だ。

だが、恐らくシノが勝つのではないだろうか、と予想を付けていると、ふとナルトが神妙な面持ちをしているのが見えた。

 

 

「サクラちゃん、そういえば試合中…サスケの首に変な傷みたいなの見えなかった?」

 

「「!」」

 

 

黙り込んだサクラは、少し思案するように瞳を逸らした。

 

 

「私も…分からない」

 

「そっか…」

 

 

納得のいかなそうな顔をしているナルト。

ユウはシカマルたちに断りを入れ、サクラを呼び、ナルトから少し距離を取った所に誘導した。

 

 

「大丈夫だよ…今、カカシ先生があれを封印しに行ってくれてる」

 

「!ユウ…やっぱりあれ、ヤバイもの、なのよね?」

 

「…下手したら、サスケが死んでたかもしれないくらいには」

 

「…サスケ君…」

 

 

不安そうなサクラに微笑みを向けた。

 

 

「サクラがそんな顔してたら、良くなるものもならないよ?

あたし、サクラの笑ってる顔が一番大好きだから」

 

「ユウ…」

 

「サクラの笑顔に、サスケもナルトも、もちろんあたしも沢山救われてる。

サスケがもし、大蛇丸の所に行こうとしても」

 

 

ふと、言葉を切り、サクラと向き直る。

真っ直ぐサクラの瞳を見つめ、微笑んだ。

 

 

「あたしがなんとかする。

サスケを大蛇丸なんかに殺させたりはしない……。

約束だよ」

 

「…ありがとう、ユウ」

 

 

この時、ユウたちは知らなかった。

この約束が二人を苦しめることを、そして、もう一人の仲間とも同じような約束をすることになることを。

 

 

「ただいま」

 

「おう!もうすぐ始まるみたいだぜ!!」

 

 

ニカリと笑ったキバはシノの勝利を信じているようで、ユウの腕にポスと赤丸を乗せる。

乗せられて上機嫌な赤丸の頭を撫でつつ、ふと氷袋がないことに気づいた。

 

 

「っひ!?」

 

「クク…面白ぇ反応」

 

 

無くしたみたいだからもう一個もらってきた、と言いつつユウに氷袋を押し当てるシカマル。

最近意地悪だ、と涙目で睨んでも涼しい顔である。

唯一の癒しは間違いなく赤丸だ、と赤丸に反対側の頬を摺り寄せた。

両腕をサスケに折られているザクだが、無理に腕を動かし、シノへと攻撃する。

しかし、シノは巧みに寄壊蟲を駆使し、ザク掌にある風穴を塞ぎ、斬空波を放った彼の腕は暴発し、弾け飛ぶ。

そのまま殴り、意識を飛ばすことによってシノは勝利を飾った。

 

 

「…すごいね、シノ。

さすが蟲使いの油女一族」

 

「いや、オレらの中で間違いなく一番すげぇお前が何言ってんだよ」

 

 

呆れたようなキバのツッコミが入るが、シカマルに無自覚だから何言っても無駄だと言われ、それ以上は何も言わなかった。

ふと、カカシの気配がしたのでまた断りをいれ、赤丸をキバに返し、今度はちゃんと氷袋を頬に当ててナルトたちの元へ向かう。

 

 

「カカシ先生サスケ君は?サスケ君は大丈夫なの!?」

 

「ま、大丈夫だ。今病室でぐっすりだ」

 

「お疲れさま、カカシ先生」

 

「あぁ、ありがとうね、ユウ」

 

 

僅かに漂う薬品の混ぜっ返したような匂いに眉を寄せる。

 

 

「…(大蛇丸と遭遇したのかな…)」

 

 

だとしたら、カブトは今頃暗部だらけのサスケの部屋に向かっているのではないだろうか、と不安になるも、今はどうしようもないと試合に集中する。

次の試合はカンクロウ対ツルギ・ミスミ。

ミスミという忍はカブトと同じ班の者だ。

フィールドへと降り立つ二人だが、違和感を感じる。

 

 

「?」

 

「ユウ 、どうした?」

 

「いや…」

 

 

微弱にしか感じられないチャクラに、そういえば彼は傀儡師だったと思い直し、再び静観の体制に入る。

ミスミが自分の体の関節を外し、グニャグニャになってカンクロウを拘束し、ギリギリと締め上げていく。

ギブアップするよう脅しをかけるが、寧ろ煽るように拒否を示し、死にたいのかと問われ、彼は苦痛に顔を歪めながらも口角をあげた。

 

 

「死ぬのはてめーじゃん?」

 

 

嫌な音がして、ブランブランと力なくカンクロウの頭が揺れる。

誰もが息を飲み、呆然とする中、リーが険しい表情でつぶやく。

 

 

「首の骨が折れてる…」

 

 

驚愕に声をあげるナルト。

 

 

「…いや」

 

 

残念ながらそれはカンクロウの本体じゃない。

 

 

「じゃあ今度はボクの番」

 

「な、なに!!?」

 

 

180度回転し、カンクロウだと思っていた何かがミスミへと不気味な笑みを浮かべる。

ビリビリと衣服を破り、細い四肢をミスミに絡ませる。

 

 

「なんだってばよあれ!!?」

 

「あれは傀儡人形」

 

「傀儡ゥ…?」

 

「砂隠れの里では有名な忍具の一つだよ。

指先から糸状のチャクラを放出し、人形にくっつけることで操っているの。

しかもあの傀儡人形は天才傀儡造型師と謳われている人物が造った、傀儡の中でも最上級と言われる一品。

そして…それを継承しているカンクロウは間違いなく…」

 

 

説明を中断し、試合へと意識を集中させるユウにならい、説明を受けていたナルトたちも試合へと目を落とす。

試合開始直後にカンクロウに偽っていた傀儡が置いた荷物から、カンクロウが現れる。

ニヤリとあくどい笑みを浮かべているカンクロウの勝利は確実だろう。

 

 

「骨まで砕けばもっとグニャグニャになれるじゃん…」

 

「ぎ…ギブアッ……あぐわぁあああああああああ」

 

「ただし…首以外にしといてやるよ」

 

 

バキゴキと音が響き渡り、終わりだな、と判断したユウが再度口を開く。

 

 

「相当な実力の持ち主だよ」

 

「…」

 

「舞台演出、フィニッシュまでの持っていき方…。

傀儡師としての実力は、かなり高い…トップレベルなんじゃないかな」

 

 

冷静に分析した結果を述べた直後、カンクロウの勝利が言い渡された。

 

 

「どいつもこいつも変な奴ばっかりだってばよ!」

 

「お前が言うなよ」

 

「アハハ言えてるー!」

 

 

穏やかな雰囲気も束の間で、パネルに表示された名前に気付いたユウがサクラの肩を軽く叩き、報せる。

カカシもそれに気づき、あぁ、と声をもらした。

 

 

「笑ってる場合じゃないな…サクラ」

 

「えっ」

 

「ホラ」

 

「あ!」

 

 

第五回戦、サクラVSいの。

ライバルであり、親友でもある二人の対戦になってしまった。

なぜか、試合開始の合図と共に額あてを取るサクラ。

二人の因果関係をよく知っているらしいチョウジとシカマルは心配そうにいのを見守っていて、ユウも二人をじっと見守る。

 

くノ一クラス。

今となっては懐かしいが、女子だけのクラスで、特別授業を行うのがくノ一クラスだった。

ユウは普通のクラスに入っていたのだが、時折イルカに無理矢理参加させられ、慣れないながらも通ったものだ。

その中でも、ユウの印象に強烈に残っているのが、ある日の生け花の授業だった。

あの頃は今よりずっとおどおどしていたサクラはいのにべったりで、よく二人で授業を受けていたのを目にしていた。

ユウは基本小奇麗な女の子たちが何だか苦手で、いつも一人離れた所で授業を受けていた。

 

―――生け花…?

 

楽しそうに友達と雑談しながら花を積む女の子達を横目に、見よう見真似で花を集めていたユウの目の前に、偶然サクラといのがしゃがみこんでいた。

何やらアドバイスをしているらしいいのの話を聞きながら、笑っていたサクラとそれを何気なく見ていたユウの間に、イジメっ子で有名なアミとその取り巻きが現れた。

何やら揉めていたのだが、そのアミに頭に来たらしいいのが、彼女の口目掛けてクナイよろしく忍花鳥兜を飛ばし、生けてしまったのだ。

あれはかなりインパクトがあり、今でも良く覚えている。

女の子とは何故かよく団体で連み、キャッキャとしているイメージしかなかったユウが考えを改めたのはまさにこの時である。

なんとも強かな女の子もいたものだ、と感嘆の息をついたものだ。

 

あの時のことを思いだし、くすりと笑みを浮かべてしまう。

 

 

「今となっては…アンタとサスケくんを取り合うつもりもないわ!!」

 

「なんですって――!」

 

「サスケくんとアンタじゃ釣り合わないし…もう私は完全にアンタより強いしね!

眼中ナシ!!」

 

「サクラ…アンタ誰に向かって口きいてんのか分かってんの!!

図に乗んなよ泣き虫サクラが―――!!」

 

 

本当に、強くなったものだ

いつもいのに隠れていたあの頃が懐かしい、と瞳を細めて手すりに体重を預け、優しげな眼差しで見守る。

 

 

「うっ…なんかさ!なんかさ!サクラちゃん言い過ぎだってばよ…

いのの奴すんげー目してコエーもん」

 

「ん……サクラはいたずらに自分の力を誇示したり…人を傷付けるような子じゃあない。

いのに容赦されたり、手加減されるのがイヤなんだよ」

 

 

難しい表情でそう説明するカカシだったが、ナルトはよく理解できていないようで、苦笑する。

いつも自分はすぐサスケに必要以上に突っかかるのに、とくすくす笑った。

きっと、ナルトとサスケにしか分からないライバルとしての何かがあるようにサクラといのにしか、この戦いの本当の意味は分からないのだとユウは思う。

 

 

「なんであんなに2人とも熱くなってんだってばよ!?」

 

「そう?ナルトとサスケもいつもあんな感じだよ?」

 

「そんなわけないってばよ!!サスケの奴は超クールだしよー」

 

 

あらら、本当にわかってない、とカカシと二人で苦笑する。

カカシは横目でガイを見、口を開いた。

 

 

「ま、ライバルってのは不思議なもん…ってとこだな…」

 

「ん!?」

 

「(…いいなぁ…)」

 

 

あたしにもそういう人がいたらな、と少し羨ましく思った。

サクラと同じように額あてを外し、額に付け直した二人は白熱した戦いを繰り広げていた。

もう何回目か数えられないほどのぶつかり合いの末、互いに殴り飛ばされる。

 

 

「うわぁ~~~」

 

 

痛々しい光景にナルトが若干引き気味である。

これではキリがない、とユウとカカシは難しい顔をするが、既に10分はやり合っているのだ。

彼女たちのスタミナを考えても、そろそろ決着がつくことだろう。

 

 

「アンタが私と互角なんて―――あるはずないわよー!」

 

「フン…見た目ばかり気にしてチャラチャラ髪伸ばしてるあんたと…私が互角なわけないでしょ!」

 

「アンタ!私をなめるのもたいがいにしろ!」

 

 

クナイを握り締めたいのはとうとうキレてしまったようだ。

 

 

「バカが…挑発に乗りやがってアイツ何するか分かんねーぞ」

 

 

シカマルがそう呟いた直後のことだった。

 

 

「!」

 

 

結んでいた髪を持ち上げ、根元の方でバッサリ。

毎日欠かさずケアしているのだと語っていたいのは、サクラと同じく髪を伸ばす明確な理由があったはずなのだ。

それを、バッサリ。

 

 

「そんな…いののキレーな髪が…勿体ない」

 

「なんでユウが落ち込むの…」

 

「だって、サクラもこう自分でバッサリやっちゃったし…

胸が痛むというか…」

 

 

あう~、と無残に切られてしまったいのの髪を見つめるユウの頭を無言で撫でてやるカカシ。

 

 

「オラァアアアアアアア!!

こんなものー!」

 

「うわああ…」

 

「…」

 

 

投げ捨てられてしまい、宙を舞う髪の毛を涙目で見つめるユウにカカシは思わず呆れたような視線を向けた。

自分だって女子であることを忘れたように大怪我を負っているくせに、と。

 

 

「こ……こわいってばよ…」

 

「ゴメン…否定できない……」

 

 

いのの迫力に怯える金髪コンビ。

だが、いのには何か考えがあるはずだ、と気を取り直して見る。

 

 

「さっさとケリつけてやるわ!すぐにアンタの口から参ったって言わせてやるー!」

 

 

印を結んでいくいのに気づき、まさか、と慌てたように手すりから身を乗り出すシカマルたち第十班。

ユウもあの印には見覚えがあった。

心転身の術だ。

 

 

「焦る気持ちも分かるけど、それはムダよ」

 

「フン!どうかしらね―――!」

 

「忍法心転身の術…術者が自分の精神エネルギーを丸ごと放出し、敵にぶつけることにより…相手の精神を数分間のっとりその体を奪い取る術…」

 

 

確かに恐ろしい術ではあるが、それには重大な欠点がある。

一つ、それは放出した精神エネルギーは直線的かつゆっくりとしたスピードでしか飛ばない。

二つ、放出した精神エネルギーは相手にぶつからず、それてしまった場合でも数分間は術者の体にも戻れない。つまり、その間いのの体はピクリとも動けない人形状態になってしまうのだ。

 

 

「だからって何よー!!やってみないと分かんないでしょ!」

 

「はずしたら終わりよ…分かってるの……ねえ?」

 

 

そもそも山中一族秘伝の術である心転身の術は、奈良一族の影を使った拘束術と連携するからこそその実力を発揮することのできる技だ。

今、サクラを拘束する術がない以上、いのの心転身の術はまず当たらない…

 

 

「…ん?(拘束術?)」

 

 

バッとフィールドを確認すれば、いのによって巻かれた長い髪の毛がサクラといのの周りに散乱している。

と、いうことは、だ…。

サクラがいのの動きに気づき、駆け出した。

宙へと舞ったいのの髪が、サクラの足首に絡みつく。

そして、がっくりと項垂れ、膝をついたいの。

 

 

「どっちだ…」

 

 

ゴク、唾を飲み込み、緊張して強ばった表情で戦況を見守るシカマル。

 

 

「フフ…残念だったわね…

いの」

 

 

笑みを浮かべたのは、サクラ本人だ。

じゃあ終わりだと歩き出したサクラは、違和感に気づく。

全く足が動かないのだ。

 

 

「こ…これは!」

 

「かかったわね、サクラー」

 

「!」

 

「フ―――やっとつかまえたわ」

 

 

あの散乱した髪にチャクラさえ流すタイミングがあれば、それは強力な縄へと化し、サクラを拘束する十分な術となる。

それは、先ほどの印を結ぶ行為が芝居だったらの話だった。

しかし、いのはずっとそのつもりでいたようだ。

キレていたのも芝居だったらしい。

 

 

「これなら、確かに100%ハズれない」

 

 

サクラの体で“ギブアップ”と言ってしまえば、全てが終わる。

なんとか逃げようとするが、チャクラを流し込まれ、強度が上がっている髪の毛は外れない。

 

 

「じゃ…」

 

 

“心転身の術”!!!

今度こそ力の抜けたいのの体は糸が切れたように座り込む。

 

 

「残念だったわね…サクラ!」

 

 

サクラの体に入ったいのは、勝利を確信した笑みを浮かべた。

状況が掴めないナルトたちは、カカシから今サクラの体にはいのの精神が入っていると説明を受ける。

そして、サクラの手が挙げられた。

 

 

「私…春野サクラはこの試合…棄権……」

 

「ダメだぁっ!!サクラちゃん!!

ここまでガンバって来たのに…サスケバカ女なんかに負けたら…女がすたるぞ―!!」

 

「!!」

 

「…?」

 

 

ナルトの声援を受けた瞬間、サクラに異変が生じた。

プルプルと震え、フラフラしながら苦しそうに頭を抑えるサクラ。

 

 

「どうしたんですか?棄権ですか?」

 

 

ハヤテが助け舟を出すようにそう問いかける、が…

 

 

「棄権なんかして……たまるものですか―――ッ!!」

 

「あはは、サクラってばすごいなぁ」

 

 

心転身の術を破る様な、強い精神力を持っているとは…。

楽しそうに笑うユウと、どうしたのだと焦るシカマル。

暫く耐えていたいのだったが、耐え切れない、といったように解印を結び、自分の体へと戻る。

二人は既に息切れしていて、誰がどう見ても限界だ。

 

 

「精神が2つあるなんて…あ…あんた何者よ!?」

 

「ふ…知らなかった?

女の子はタフじゃないと生き残れないのよ!!」

 

 

確かに。

サクラのある意味真理的なセリフに同意するように頷いてしまった。

しかし、チャクラ量から考えても、次の攻撃が最後だ。

寸分違わず同じ瞬間に入った互いの拳。

額あては外れ、殴り飛ばされた二人はなんとか立ち上がろうとするが、同時に力尽き、倒れ込んだ。

 

 

「両者続行不可能…ダブルノックダウンにより―――予選第五回戦通過者なし!」

 

「え―――!!」

 

 

カカシとアスマがフィールドで気絶している二人のもとへ向かい、抱き上げ、帰ってきた。

 

 

「オイ…いの!」

 

「サクラちゃん大丈夫か―――っ!?」

 

 

心配で一気に駆け寄る七班、十班のメンバーにカカシは口元に指を立て、静かにするように促す。

ボロボロだったが、医療班の治療は必要ない程度の傷なので、ただ気絶し、眠っているだけ。

30分もすれば目を覚ます、と告げるアスマに、ユウたちは安心し、笑みを浮かべる。

 

 

「しかし…驚いたな…」

 

「ああ…ナルトとサスケはともかく…あの頼りなかったサクラまでがこんなに成長してるとはな…。

いろいろあったけど…この中忍試験に出して良かったと…心から思ってるよ」

 

 

優しい、カカシの言葉に、ユウは居た堪れなくなってそっとその場を離れた。

皆と少し離れ、階段に近い位置から第六回戦の挑戦者であるテンテンとテマリの対決を見ることにする。

 

自分はやはり、彼らと‟同じ”にはなれないのだろう。

その事実がユウの胸を深く抉り、ズキズキとした痛みが走った。

 

 

「…」

 

 

今回はテマリの勝ちだろうな、と氷が溶け、ぬるくなってしまった氷袋を外す。

風使いであるテマリと、忍具の使い手であるテンテン。

 

 

「つまらないな…ホントに…」

 

 

結果はユウの予想通り、テンテンの攻撃を完封したテマリの圧倒的勝利だった。

恐らく我愛羅も勝ち残るのだろうし、砂の忍は強敵揃いだな、と思う。

その後、テマリがテンテンを投げ飛ばし、リーがキレるというアクシデントもあったが、そこはガイが仲介に入り、その場をおさめた。

最後に一言。

 

 

「この子は強いよ…覚悟しといた方がいい…」

 

 

そう言い残して。

我愛羅が一瞬殺気立ったのは、気のせいではないだろう。

恐らく彼の扱いも、ユウやナルトと大差ないのだろうから。

そして次の対戦が発表される。

第七回戦、シカマル対キン。

 

 

「次はシカマルかー…」

 

「呼んだか?」

 

「ふぉう!?」

 

「(ふぉう…って…)」

 

 

突然声をかけられ、驚くユウに更に驚くのはシカマル。

めんどくさそうな顔をしつつ、その瞳はちゃんと生きているのでどうやら真剣にやるつもりはあるらしい。

 

 

「えへへ…ちょっとビックリしちゃって……。試合、頑張ってね」

 

「まー、めんどくせーけどやれるだけやってくる」

 

 

実にやる気のなさそうにそう言ったのだが、しかしユウはとても優しく微笑んでいて、シカマルは目を丸くする。

そんなシカマルの頬を両手で包み、少し体ごと前へ傾けさせ、ユウはコツンと額を合わせた。

いきなりのユウの行動に顔を真っ赤に染め、慌てる。

 

 

「ちょ、ユウ…!?」

 

「大丈夫。シカマルは絶対勝つ。……あたしは、そう信じてる」

 

「っ…」

 

 

そっと顔を離すとニコッと笑いかけられ、手で顔を隠し、誰かに気付かれてないかと視線を巡らせるが、誰もユウの行動に気付いていない。

本当にどうしようか……緩む顔が抑えられない。

恐らく今なら、本当に誰にも負けないだろう。

不思議とそんな自信まで溢れてくる。

 

 

「おう」

 

 

頭を一頻り撫で、シカマルはユウへと背を向けた。

そのまま手を挙げる。

 

 

「絶対ぇ、勝って戻ってくる」

 

「うん」

 

 

いってらっしゃい。

心地の良い声色に送り出され、シカマルはキンと向かい合ったのだった。

 

 

「…あ!(そういえば女は殴らない主義って前に言ってたような…?)」

 

 

すごくやりづらいのではないだろうか。

シカマルはやる気0に見えて、自分の主義は貫く男だということをユウは知っている。

少し不安になるも、シカマルは単純なようで気づきにくい作戦を一気に組み上げてしまっていたらしく、最終的には影真似の術一つで勝敗を決めてしまった。

最後は壁との距離を利用し、手裏剣を投げ合い、かわすときにシカマルがブリッジをすることによってキンが思い切り頭を打ち付け、気絶し終了。

 

 

「…やるなぁ、シカマル……自分の主義はちゃんと守ってるし」

 

 

ほぅ、と試合の興奮も相まって感嘆の息をついていたユウの頭に乗せられた掌。

 

 

「ちゃんと勝って帰ってきたぜ」

 

「うん!ちゃんと見てた。シカマル格好良かったよ」

 

 

女の子殴らなかったし、と感想を告げられ、シカマルは素直なそれに照れてしまう。

 

 

「ちょっとごめんね」

 

「いっ…!?」

 

 

気を抜いた直後、刺さりっぱなしだった千本を抜かれ、悲鳴を押し殺す。

もう一本の千本も抜かれ、いきなりなんなんだと恨みがましくユウを見つめれば、困ったような顔をされてしまう。

 

 

「早く治療した方がいいでしょう?

いくら千本だからって甘く見てると治りも遅くなっちゃうよ」

 

「っ…だからっていきなり抜くことねーだろうが…」

 

 

それもそうか、と素直に謝り、ユウは密かにチャクラを練った。

淡い光を放つ左手でそっとシカマルの傷に触れ、癒していく。

 

 

「…ユウ、医療忍術使えたのか…?」

 

「んー……医療忍術とはちょっと違うかな……これ、自分自身には使えないしね」

 

 

言わんとしていることが分かってしまったのか、苦笑して先に釘を打つ。

傷を全て癒し終え、ユウはおしまいだと笑いかける。

 

 

「まぁ、詳しいことは約束通りちゃんと説明するから。

今は内緒ってことでもいいかな?」

 

「あぁ……治してくれてサンキューな」

 

「どういたしまして」

 

 

微笑んだユウから真っ赤になった顔を隠すようにパネルを見上げ、表示された名にあ、と声をもらす。

ユウもパネルを見上げ、おぉ、と声をもらした。

 

第八回戦 ナルトVSキバ

 

またもや顔馴染み同士の対決である。

 

 


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