絆道~始まりのミチシルベ~   作:レイリア@風雅

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第35話 ユウVSガイ

 

ハヤテの指示により、ユウとガイ以外は上にあるギャラリーへ向かうよう誘導される。

 

 

「ユウー!無理しない程度に頑張ってねー!」

 

「ボクたちも応援してるよ!」

 

「いの、チョウジ……うん、ありがとう。頑張るね」

 

 

ユウの肩に手を置き、ウインクしたいのは微笑んでいたチョウジを引き連れ、ギャラリーへと向かった。

 

 

「ユウちゃん!が、頑張ってね……!

き、きっとユウちゃんならだ、大丈夫だと思う!」

 

「うん、ありがとう、ヒナタ」

 

「…無理、すんなよ?」

 

 

血の匂いがする、と心配そうな眼差しでユウを見つめ、右手をそっと包み込んだキバに苦笑する。

 

 

「心配かけちゃってごめんね…キバ…いつもありがとう」

 

「…本当に無理、すんなよ?」

 

「オレも微力ながら応援しよう。

なぜなら、仲間として当然のことだからだ。

それに上忍との対戦で本選出場権を獲得するのは簡単なようで一番難しい」

 

「だー!シノ、お前ユウの不安煽るようなこといってどうすんだよ!?

ほら行くぞ!」

 

「二人共、ありがとう」

 

 

ポンポンと頭を撫で、後ろ髪引かれる様子だったが、キバはシノを引き摺り、ヒナタと共に上へと向かう。

 

 

「ユウさん頑張ってくださいね!!

ガイ先生は強いですから!!

ボクも全力で応援します!!」

 

「頑張ってね、ユウ!」

 

 

ガイ先生もファイトです!と熱くなるリー、心から応援していると分かる笑顔で去っていくサクラに笑顔で応えていると、恐る恐るサスケが近付いてきた。

 

 

「ユウ、その………」

 

「ん?」

 

「この間は……すまなかった」

 

 

この間……。

呪印が暴走した時のことだろうか。

一瞬ピクリと右手が揺れたが、ユウは首を横に振る。

 

 

「ううん。あんなの、気にしなくていいよ」

 

「だが……!」

 

「大丈夫。あれは仕方ないことだったから」

 

 

そう、仕方がなかったのだ。

呪印の暴走が第一の要因だとユウは理解している。

 

……呪印のことだけじゃない。

本当はあたし……サスケに敵意を向けられて当然の立場にいるんだから。

 

 

「……だから、大丈夫だよ」

 

「でも……いや、これ以上は何を言っても納得しねーか、お前は……。」

 

 

溜息をついたサスケはユウを真っ直ぐ見据える。

あの時の冷たさなど微塵も見えない綺麗な眼差しに、ユウは少しだけ苦しくなった。

 

 

「……無茶はするなよ」

 

 

最後に少ないながらも応援し、サスケは上の観覧席へと昇っていく。

カカシと目が合い、サスケをお願いと口パクで伝えると、僅かに目を見開いた。

仕方ないなと苦笑し、頷いたカカシもそれを追ってギャラリーへ行く。

 

 

「…ユウ」

 

「!我愛羅?」

 

「……お前はまた試験前に怪我しているのか」

 

 

どこか呆れたような我愛羅に苦笑し、問題はないことを伝えると鼻で笑われてしまった。

当然だ、という意味だろうか。

そのままこちらに小さく手を振ってくれていたカンクロウとテマリを引き連れ、フィールドから出ていく。

 

 

「…本当に、無理すんな」

 

「大丈夫だよ、シカマル。

もう動くことに支障はないんだし」

 

「怪我もそうだけどよ…試験前、お前を殴ったのアイツだろ?」

 

 

ボソと耳打ちされ、動揺して肩を揺らす。

やっぱりな、とため息をついたシカマルは一度ユウの左手を握った。

 

 

「すっげー殺気立ってるし、右手は出来るだけやられねーようにしろよ?」

 

「その前に使えないし…」

 

「それでも気をつけとくに越したことねーだろ?

…無理無茶やらかしたら罰ゲームだからな」

 

「ええ!?ちょ、シカマル!?」

 

「頑張れよー」

 

 

慌てるユウを他所にヒラヒラと手を振り、シカマルは去っていった。

項垂れるユウの肩をぽん、と叩いたのはナルトだった。

 

 

「ユウ、お前本当に気を付けろってばよ」

 

「ナルトまで…大袈裟だよ、試合なんだし、殺す気はないって」

 

「…明らか殺す気満々だろ、激眉先生」

 

 

真剣に見つめられ、ユウも貼り付けていた笑みをはがし、真剣にナルトを見据えた。

少し柔らかな眼差しで、こくりと頷く。

 

 

「うん…そう、だと思うよ。

きっと容赦なんてしてくれないと思う」

 

「…なんで…っ」

 

 

ユウが何をしたというのだ、と悲痛に顔を歪めるナルトに苦笑し、彼を抱き締めた。

驚くナルトの背を大丈夫大丈夫、と呟きながら撫でる。

 

 

「知ってるでしょう?

あたしだって、結構強いんだから」

 

 

だから大丈夫。

笑顔で言われ、ナルトは泣きそうになりながらも頷き、そっと拳を向けてきた。

その意図が分かり、苦笑してユウもその拳に左のそれを合わせ、二人は瞳を閉じる。

こうすると不思議なことに、お互いの気持ちが伝わってくる気がするのだ。

 

 

「っ頑張れよ!上で激眉先生がやられるのを高みの見物してやるってばよ!!」

 

「あはは、あたしも期待に添えるように頑張るよ!」

 

 

もう一度コツン、と拳をぶつけ合い、ナルトとユウは同時に背を向けた。

お互いの気持ちは、もう痛いほど伝わっていたから。

それ以上の言葉は……何もいらない。

ユウとガイ、それから審判のハヤテ以外が観覧席に着いた。

 

 

「全員上に行きましたね…。…!?」

 

 

ハヤテの呟きを合図に弾丸のような速さでガイが消える。

目を見開いたハヤテの目に拳を握り、ユウへと叩きつけようとするガイが映った。

 

 

「ガイ上忍!まだ開始の合図は…!!」

 

 

ダァン!!

叩きつけられた拳により、土煙が舞い上がった。

シカマルたちは思わず手すりから身を乗り出し、ユウの名を叫ぶ。

 

 

「…流石は琥珀ユウ、と言ったところか…かなり本気だったのだが…。

あの時は本当に無抵抗だったということだな」

 

 

振り返り、底冷えするような冷たい眼差しでユウを睨む。

ユウはかなり距離を取った所で腕を組み、静かに佇んでいた。

 

 

「そりゃあまあ……今は試験中ですから」

 

 

にこ。

微笑を貼り付け、殺気立つガイへと向かい合う。

全くの無傷な様子にほうっと安堵の息をつく。

しかし安心したのも束の間のことで、弾丸のように距離をつめ、蹴りや拳を繰り出す猛攻に彼女の同期たちは冷や汗を流した。

 

 

「あんなの下忍が勝てるわけないってー…」

 

「ユウやばいんじゃない!?」

 

 

サクラといのは最早見ていられない、と悲痛に顔を歪め、ヒナタに至っては涙すら浮かんでいる。

紙一重でかわしていくユウだが、うまく動かない右手を中心に狙われ、もう一度大きく距離を取る。

しかし距離を取れば詰めてくるという悪循環。

 

 

「どうした!?かわしてばかりではオレには勝てんぞ!!」

 

「っ…」

 

 

今度こそ、右腕を狙った蹴りをかわしきれないと判断し、左腕で庇い、受け流す。

流石上忍、受け流したというのに攻撃が重い。

衝撃に痺れる腕に内心舌打ちをして、ユウは大きく後ろに跳躍し、宙返りをしながらポーチに手を突っ込んだ。

追いかけてくるガイへ向かい、クナイを投げつける。

 

 

「そんな物は効かん!!」

 

 

かわされてしまったクナイは地面に刺さり、目の前に迫りくる拳を見ながら左手で素早く印を組む。

空中では避けようがない、とガイが勝利を確信し、拳を叩きつけようとしたその時、ユウの身体が光に包まれた。

かと思えば瞬く間に目の前から消える。

 

 

「!なに!?(あれは“アイツ”の…!?)」

 

 

クナイの方へ転移したユウは親指を少し切りつけ、再びポーチから巻物を取り出し、宙へと広げる。

術式の中央に大きく鎖と書かれたそれに触れ、チャクラを流し込んだ。

勢い良く術式から鎖が飛び出し、ガイを拘束していく。

こんなもの、と鎖を引きちぎろうとしたガイに札を貼り、トドメとばかりにクナイを突きつける。

 

 

「…終わりです」

 

「!終わってなどいない!!この程度の鎖で拘束したと…」

 

「その札は特製のチャクラ封じの札です。

動こうとすればするほど微弱なチャクラは流れ、拘束が強くなる。

決してその鎖は外れないでしょう」

 

 

穏やかに終わりだと告げるユウを憎々しげに睨む。

そんなガイの様子に、彼の教え子であるリーはかなり動揺していた。

 

 

「ガイ先生のあんな姿…初めて見ました」

 

「リーさん…」

 

「ユウさんと、何かあったんでしょうか…。

だからガイ先生はユウさんを…」

 

 

ショックを隠しきれないリーの呟きは、背を向けているユウにもしっかりと聞こえていた。

そんなリーに気づくことすら出来ない憎悪の感情に囚われているガイの瞳を見て、ユウは可哀想だと思う。

憎しみに囚われている者の瞳は、どうしてこんなにも冷たいのだろうか。

 

 

「フン…流石は琥珀一族が造り上げた“殺戮兵器”……。

オレのような体術が取り柄のたかが上忍など、本気を出すまでもないということか」

 

「「「「!?」」」」

 

 

殺戮兵器。

その単語に目を見開き、仲間たちに動揺が走っていくのを感じ、ユウはそっと目を伏せた。

 

 

「…この里の人間にそう言われたのは、久しぶりですね」

 

 

力なくそう言って笑ったユウの声は、自分が思っていた以上に情けなかった。

 

 


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