絆道~始まりのミチシルベ~   作:レイリア@風雅

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第34話 第二の試験、終了

 

 

 

早く……早く知らせないと……!!

 

大蛇丸との激闘は、明らかに異常であり、すぐにでも三代目火影である猿飛ヒルゼンに知らせなければいけないことだ。

しかし、試験に参加している最中のユウには、ヒルゼンに直接連絡を取ることは禁じられている。

だから出来るだけ早くこの試験を終わらせ、ヒルゼンなりカカシなりに報告しなければと思っていたのだが、予想以上に深手を負ってしまいこのザマである。

ヒルゼンに限って何も情報を掴んでない、ということはないと思うが、報告すべきことは間違いのないようにきっちりさせておくべきだ。

つまるところ、ユウはかなり焦っていた。

 

右手が使えないため、白が使っていた片手印をユウ用にアレンジした物を駆使し、瞬身を使って塔へとやってきた。

試験開始から2日目の内にたどり着いた塔の中、2本の巻物を地面に置き、サッと開く。

 

 

「!口寄せの術式……?」

 

 

即座に読み取ったユウが巻物から離れた直後、白煙と共に試験管のひとりであろう中忍の男が現れる。

男、はがねコテツはフラフラなユウの姿を見るなり険しい表情になる。

 

 

「お前、その怪我……!?

っ第二の試験は合格だ、とにかく今すぐ医療班のとこに連れて……」

 

「ッ待ってください!」

 

 

コテツの腕を掴み、ユウは深く深呼吸をしてから彼と目を合わせた。

 

 

「カカシ先生……はたけカカシ上忍は今この塔にいますか!?

火影様は!?」

 

「ちょ、ちょっと待った。カカシさんは今は居ないが、火影様ならいらっしゃる、けど……」

 

「今すぐはたけ上忍をこの塔へ呼んでください!!

それと火影様にすぐにご報告申し上げなければならないことが……!!」

 

「待て、落ち着け……!

その前にその出血でブッ倒れちまうぞ!?」

 

「お願いします!!お願いします!!」

 

 

頭を下げ、何度も何度も懇願を繰り返すユウに困り果ててしまう。

コテツとて、この少女が里中から嫌悪されている存在だということは知っている。

だが、今のコテツにとってそんな事実はどうでもいいことだ。

どうしようか、とほとほと困り果てていたコテツに思いもよらぬ救い声がかけられる。

 

 

「コテツ」

 

「!ほ、火影様!?」

 

「火影様!!ご報告したいことが……ッ!」

 

「わかっておる。じゃが、お主は少しでも体を休めることが先決じゃ。

……コテツ、医療班への連絡はしなくていい。ただ、控え室までユウを連れていってくれんかの?

わしもカカシを呼び、すぐに向かおう」

 

「わ、分かりました」

 

「……」

 

 

コテツに支えられながら、ゆっくりと部屋を後にするユウを見送り、ヒルゼンはフゥ、とため息と共に紫煙を吐き出した。

何よりも優しいあの子のことだ、責任を感じているに違いない。

そう思うと、良心が痛んで仕方なかった。

 

コテツによってベッドに放り込まれてしまったユウは居心地悪そうにしながらも大人しくベッドに横になっていた。

 

 

「……カカシさんが来るまで少しでいいから寝とけよ」

 

「大丈夫です…記憶が鮮明な内に報告したいので…」

 

「…」

 

 

全くもってガキらしくない、とコテツはため息をつく。

そのため息にビクッと過剰に反応するユウに困り果て、どうしたものかと頬をかいた。

嫌な沈黙が続いていたが、それは突如として終わりを告げた。

激しい音をたて、開け放たれたドアの先には見慣れた銀髪。

 

 

「ハァ、ハァ…!ユウッ!!」

 

「!…カカシ先生…?」

 

 

余裕なんて一切ない、必死の形相で息を乱しながらベッドへ駆け寄ったカカシにコテツは驚き、一歩後ずさった。

 

 

「こんなに酷い怪我して…!痛むか?何か必要なものは…!?」

 

「あはは…先生も大袈裟だなぁ…。

だいじょうぶ、死にはしないから」

 

「っそういう問題じゃないだろ……」

 

「…ごめんなさい」

 

 

比較的重症ではない左手を取り、震えながらカカシは自身の頬へ当て、俯く。

むしろ困ったような微笑をたたえているユウは随分と落ち着いていて、カカシの好きなようにさせていた。

 

 

「(あれがいつも飄々として涼しい顔でポーカーフェイス保ってるカカシさん……!?)」

 

 

固まってしまったコテツは何度か目を擦るが、目の前の光景は変わらず……。

同じ中忍で同僚の神月イズモが開けっ放しのドアからヒルゼンと共に現れるまで、コテツの石化は解けなかった。

 

 

「カカシ、少し落ち着け…それではユウが話せないじゃろう…」

 

「!三代目……すみません、気が動転していて……」

 

「よい。それだけお主がユウのことを大切にしてくれているのが確認できたからのぅ」

 

 

笑いかけられ、カカシは気まずそうに視線をそらす。

寝転がったままでは失礼だと思い、上体を起こそうとするユウに気付き、背中の傷に触れないように肩を支えながら起き上がるのを手伝う。

小さくありがとう、とお礼を言い、ユウは真っ直ぐヒルゼンを見据える。

またヒルゼンもその眼差しを受け止めた。

 

 

「イズモ、コテツ。一回アンコの所へ戻っていてくれるかの?

あやつも今危険な状態…何かあったらすぐに知らせるのじゃ」

 

「「御意」」

 

 

話が気になり、少し後ろ髪を引かれるが、火影命令では従わなければならない。

二人が退出し、気配が完全に遠のいたのを確認するとヒルゼンはユウへ向き直った。

 

 

「それでは…聞かせてくれるかの?

死の森で何があったのか…お主が何と戦い、そこまでの手傷を負わせられたのか…。

おまけに封印まで解かれるとはお主らしくもない」

 

「順を追って説明します。

まず、今回の事件の一連の首謀者は伝説の三忍がひとり、大蛇丸。

中忍試験に参加する草忍に成り代わり、はたけ上忍率いる第七班に接触。

私が彼らの元へ駆けつけた時には既に戦闘中であり、うずまきナルトが戦闘不能となっていました。」

 

「!ナルトは…無事なのか?」

 

「はい。うずまきナルトへ攻撃する際の印、そしてそれからチャクラの乱れが大きく見られることから、九尾を封印する術式に何らかの細工をしただけだと考えられます。」

 

「何の術か、分かるか?」

 

「…あのチャクラの質から考えると…五行封印、かと…」

 

 

思い出すように視線を巡らせ、答えたユウにヒルゼンは一つ頷く。

カカシは二人のやり取りに少し驚愕が隠せなかったが、ユウの出自を思いだし、少しうつむいた。

 

 

「(…そんなに驚くことでもない、か…)」

 

 

辛そうに顔をしかめるカカシに気付き、少し心配そうな表情をする。

だが、まだ報告は終わっていないと再びヒルゼンへと向き直った。

 

 

「また、春野サクラは負傷していますが、今後の試験に支障はありません。

しかしうちはサスケの方に、問題が」

 

「何があった……?」

 

「大蛇丸に噛まれた首すじに奇妙なアザが浮かび上がっており…」

 

 

ちょうどこの辺に、と自身の首すじを指し示し、報告を続ける。

 

 

「大蛇丸の配下である音忍の襲撃で目を覚ましたのですが…。

体中にアザの模様が広がり、身体・精神に何らかの作用が働き、暴走。

春野サクラを始め、その場にいた受験者を無闇に傷付ける恐れがあったため、私が間に入り、収束を図りました。

チャクラを流し込んだ直後は効き目が薄かったようで再び暴走をしかけました。が、春野サクラが引き止め、暴走が収束。

…間違いなく、呪印かと」

 

 

あの冷たい写輪眼が、あの冷たい笑い声が、ユウの脳裏に蘇る。

ずきりと右手の刺し傷が疼いた。

あれは呪印の影響だと分かっている。

それでも、ユウの心を抉るには充分過ぎた。

 

まるで、本当に憎き敵を見るかのような、あの目……。

 

ユウの中である予感が確信に変わった瞬間でもあった。

 

 

「!サスケが…あの呪印を…!?」

 

「一応光と闇のチャクラを混ぜ合わせた物を流し込み、応急処置程度の簡単な封印は施しておきました。

第二の試験は問題ないはずですが、次の試験では負担がかなりかかるかと思われます」

 

「そうか…」

 

 

ユウの光と闇のチャクラは特殊だ。

普通のチャクラの何倍も強い力を持ち、ユウ自身の血を間接的、直接的に使うことでより強力な物となる。

あの時はかなり出血もしていたため、簡単な封印術式でも十分な効果を期待することができたのだ。

 

 

「カカシ先生、サスケたちがこの塔へ辿り着く前に封印の準備をしていた方がいいと思う。

サスケのことだから、相当無茶して試験受けちゃうだろうし、すぐに封印を施さないと……」

 

「ああ、分かった」

 

「お願いします。

火影様、それから……額にかけていただいた封印なのですが……」

 

 

申し訳なさそうな表情に大体の察しがついていたヒルゼンは、彼女の額へと触れる。

…触れる時に怯えたような反応が、痛々しかった。

 

 

「やはり大蛇丸に消されてしもうたか……」

 

「はい……それから大蛇丸から伝言が。

“その程度の術で私の目は誤魔化せない”…と…」

 

「フー……端から誤魔化し切れるとは思うておわんわい。

そもそもこっちはフェイクの意味が大きかったからのぉ……。

“あっち”の術式のほうは……?」

 

「ご覧になった方が早いですが……」

 

「えっ、あっ、ちょっと!?ユウ!!?」

 

 

サクラに巻いてもらった額あてを解き、ハイネックになっている忍装束を少し捲る。

それに慌てるカカシに首を傾げ、不思議そうにするユウと、呆れたようにため息をつくヒルゼン。

少し捲られたハイネックの下には細かい装飾のされたチョーカーが付けられていた。

初めてユウがチョーカーを付けていたことを知り、少し驚くカカシ。

 

 

「ふむ…異常はなさそうじゃな…。

(問題はこのチョーカーが壊され、その奥の封印まで解かれてしまった場合、だが…)」

 

「はい。こちらの方は気づかれなかったようです…。

あの、火影様…額の封印をもう一度施すことは…」

 

「…無理じゃろうな…何重にも重ねていた封印ゆえ、やつに解かれてしまった時に粉々になってしまっておる。

もう一度無理に再構築すれば、それこそ“神龍”の眠りを覚まし、封印が完全に解かれてしまうことになるじゃろう…」

 

「…そう、ですか…」

 

 

困りましたね、と苦笑し、ハイネックを元に戻す。

額あてを首に付けようとして、カカシに奪われた。

 

 

「?先生……?」

 

「オレが付けてあげるよ」

 

「……あり、がとう」

 

 

なんかつい先ほどのサクラとのやり取りと同じような…。

額あてを付けてもらいながら、うーん、と首を傾げるユウだった。

 

 

「して、ユウ。その怪我じゃが…」

 

「あぁ…恐らく右手は次の試験でも使い物にならないと思います。

背中の傷は、大した毒じゃないので、一応ふさがるかと…。

まぁ、あまり支障はないと思いますし、なんとかします」

 

「そうか…」

 

「え、毒って……!?」

 

「ちょっと大蛇丸に神経に作用する毒を喰らっちゃったみたいで…。

幻覚作用が強すぎるだけの物だし、そんなに心配しなくても大丈夫だよ」

 

 

大げさだなぁ、と笑うが、カカシにとっては非常事態らしく、包帯ー、やら騒いでいる。

むしろ今薬品の臭い嗅いだ瞬間に理性がブッ飛んで暴れる自信のあるユウとしては冷や汗ものである。

温度差の激しい二人を見てため息をついたヒルゼンは、ユウの頭を一度撫でた。

 

 

「ユウは第二の試験が終了するまでここで待機じゃ。

少しは怪我の治りも早くなるじゃろうて…。

カカシよ、お前はユウの傍にいるように」

 

「本当ですか!?」

 

「大蛇丸の行動から見て、奴がサスケとユウを狙っておることは間違いないようじゃ。

それに此奴のことじゃ、どうせ怪我など気にせずにまたすぐ抜け出して修行だなんだと言いかねん…」

 

「分かりました。バッチリ監視しときます」

 

「頼むぞ」

 

 

こっそりとカカシに耳打ちし、指示を出すと素晴らしい笑顔で引き受けた。

よっぽどユウの傍にいたかったらしい。

そんなカカシにフッと笑みを零し、ヒルゼンは部屋を出た。

ドアが閉まる音が、大きく木霊した気がした。

 

 

「さ、ユウは早く横になって少しでも回復しないとね」

 

 

優しく微笑んで、労わるような手つきでユウを横にさせる。

シーツを握り締め、ユウは不安に震える瞳をカカシに向ける。

しかし、当の本人はユウのためにと新しい包帯を取り出したりと実に忙しそうにしている。

 

 

「先生……ゴメンなさい」

 

「え?」

 

 

思いもよらぬ謝罪の言葉に、かすかに瞳を見開き、ユウへと目を向ける。

 

 

「ナルトたちのこと…守れなかった」

 

 

シン、静まり返った室内。

左腕で顔を覆うユウの表情はカカシには見えない。

用意した包帯を机に置き、ベッドの端に腰を下ろす。

 

 

「…守れなかったって言うけどさ…。

ユウは一生懸命守ろうとしてくれたんでしょ?

こんな怪我まで負って…」

 

「…でも…」

 

「オレは…ユウがいつも自分のことより仲間のことを優先してくれる優しい子だって知ってる。

確かにナルトたちは可愛い教え子だよ……。

けどな、ユウだってオレの大事な生徒の一人なんだ。

むしろ、ユウに一人で任せきりにしちゃって本当にすまないと思っている」

 

「っ…でも、あたしは…!!」

 

「…ガイに言われたこと、気にしてる?」

 

「っ!」

 

 

ビク、震えた肩が、肯定を示していた。

徐にユウの頭を撫でる。

 

 

「悪かったな…でも、オレはユウのこと本当に大切だと思ってる。

誰がなんと言おうが、お前もオレの可愛い可愛い教え子だよ。

…それじゃ、ダメか?」

 

 

ふるふる、小さく首を振ったユウに、そっか、と微笑んだ。

 

緊張の糸が切れたのか、すやすやと寝息をたてるユウの頬を撫でる。

誰よりも愛情や人の温もりが必要なこの少女は、それを手放しで素直に受け取ることが出来ない。

もうとうの昔に、伸ばしていた手を引っ込めて背を向けてしまっている。

特に、カカシのような大人から差し出された手を見るなり、すぐに逃げ出してしまうのだ。

かといってナルトたちのそれは受け取るのかと思いきや、そうでもない。

必ず自分は普通じゃないと一線を貼り、それを踏み越えることを許さない。

そのせいで、どこか大人びた雰囲気を醸し出す、年齢不相応の子供になってしまった。

 

そんなユウに、最も歩み寄っているのがシカマルである。

 

 

「悔しい、なぁ…」

 

 

ユウを今、一番安心させてあげられる存在が自分ではないことを、カカシは理解していた。

何故シカマルなのか、と苦笑いを隠せない。

 

 

「ホント、お前が羨ましいよ。

―――シカマル」

 

 

ポツリと呟かれたそれは、淋しげに響いて消えていった。

 

 

 

+++++

 

 

「怪我の調子は?」

 

「んー…右手は完全に使い物にならないけど、あとは大丈夫。

十分動ける許容範囲だよ」

 

 

ぐっ、と腕を伸ばし、心配そうにユウを見ているカカシに穏やかに微笑み、応えた。

 

第二の試験、終了10分前。

お世話になったベッドを整え、パチン、とポーチを器用に片手で付け、テーブルに置いていた額あてへと手を伸ばす。

しかし、額あてはさっとカカシの手によって奪われ、ユウはそれを目で追った。

長い腕が首に回され、キュッと額あてを付けてくれたカカシに微笑を浮かべる。

 

 

「ありがとう、カカシ先生」

 

「どういたしまして!さ、会場へ向かおうか」

 

「うん」

 

 

第二の試験が終了し、塔へとたどり着いた各班が、担当上忍や試験管、そして火影の前に既に整列していた。

チラリ、と横目で合格者を確認していく。

 

ナルトたち第七班を始め、キバら第八班、シカマルら第十班、リー、ネジ、テンテンのガイ班、そしてカブト班。

砂隠れの3人、そして音隠れの6人。

 

会場へやってきたユウに気づいたのか、レイナが振り返り、視線がぶつかった。

艶やかに口角をあげるレイナから視線を外し、シカマルたちの班の隣りに並ぶ。

 

 

「!ユウ、あんたもう怪我は大丈夫なのー?」

 

「ん、右手は使えないけど…問題はないと思う」

 

「良かったわー!シカマルったら、ずっとユウのこと気にしてピリピリしてたのよ?」

 

「え?」

 

「っいの!!」

 

 

くすくすと笑ういのに首をかしげるが、シカマルが怒鳴ったので少し首を傾け、横目で見やる。

珍しく焦った様子のシカマルは耳まで真っ赤に染まっていた。

チョウジもうんうんと頷いている。

 

 

「…なんか、ゴメン…迷惑かけた?」

 

「バカねー、ユウが迷惑かけたんじゃなくて、シカマルが私とチョウジに迷惑かけたのー!」

 

「?」

 

 

いまいちいのの言っていることがよくわからず、ますます不思議そうに首を傾げるユウに彼女はただ綺麗に微笑むのだった。

 

その後、アンコ試験管により第二の試験終了の労いの言葉を貰い、ヒルゼンから中忍試験の目的を聞かせられた。

そして、第三の試験についての説明をすることになり、何故か言いにくそうに言葉を濁すヒルゼン。

 

 

「…恐れながら火影様…。

ここからは“審判”を仰せつかったこの…月光ハヤテから…」

 

「…任せよう」

 

 

瞬身で現れた男、ハヤテは跪いていた体制から立ち上がり、ユウたちへと向き直る。

 

 

「皆さん初めまして、ハヤテです。

えー、皆さんには“第三の試験”前に…やってもらいたいことがあるんですが…」

 

 

新しい試験管であるこのハヤテという男はかなり体の弱い者らしい。

目の下に隈を作り、ゲホゴホと咳をしながらようやっとというような調子で説明しようとするハヤテはとても体調が悪そうだった。

 

 

「えー…それは本選の出場を懸けた“第三の試験”予選です」

 

「?予選!!?」

 

「予選って…どういうことだよ!!」

 

「先生…その予選って…意味がわからないんですけど…。

今残ってる受験生で、なんで次の試験をやらないんですか?」

 

「えー、今回は…第一・第二の試験が甘かったせいか…。

少々人数が残りすぎてしまいましてね…。

中忍試験規定に則り予選を行い…“第三の試験”進出者を減らす必要があるのです」

 

 

もう身体的にも精神的にも疲れているのだろう、サクラがそんな、と脱力したような声を零した。

第三の試験には大名たちや一般の者も見学に来ることから、だらだらとした試合はできず、時間も限られてくるのだと説明された。

 

 

「え―――、というわけで…。

体調のすぐれない方…これまでの説明でやめたくなった方、今すぐ申し出てください。

これからすぐに予選が始まりますので…」

 

「…!!

これからすぐだと…!!?」

 

 

そんな無茶苦茶な、と言いたげなキバ。

そして、一人、挙手する。

 

 

「…辞退させていただく」

 

「…!!」

 

 

第一の試験前、ユウを襲った音忍の男だった。

思わず驚いて目を見開く。

感情の読めない淡い黄色の瞳がチラリとユウを見た気がした。

 

 

「えーと…音隠れの雪闇白兎君ですね。下がっていいですよ」

 

「…」

 

 

音忍の男、白兎は丁寧に頭を下げ、もう一度ユウへと視線を向け、去っていった。

なんだったのか、と混乱するが、再び手が挙がる。

 

 

「あのー…ボクもやめときます」

 

「え!?カ…カブトさん」

 

 

ショックを受けたようなナルトの声に思わず眉を潜める。

いつの間に、あのカブトとやらと仲良くなったのだろうか。

再びハヤテが確認を取り、下がるように言う。

 

 

「カブトさん…何でやめちゃうの!?何でだってばよ!?」

 

「すまない…ナルトくん…。

けどボクの体はもうボロボロなんだよ。実は第一の試験前に音の奴らとモメた時から左の耳が全く聞こえないんだ……。

その上命懸けって言われちゃボクにはもう…」

 

 

しゅん、と落ち込んでしまうナルトに困ったような笑みを向ける。

だが、ユウにはしっかりと見えていた。

その瞳の奥に強い闘争心が見え隠れしていて、それを更に隠すように眼鏡のブリッジを押し上げているのを。

それも、ナルトやサスケのような純粋な闘気じゃない。

生半可な戦闘ではなく、大きな戦いに身を投じ、人を殺したことのあるそれだ。

必死に押し殺そうとしているのが見て分かり、つい、と視線をそらした。

 

人畜無害そうな顔して、ご苦労なことだ。

 

 

「勝手な行動をとるな。大蛇丸様の命令を忘れたのか」

 

 

ボソッと聞こえてきた、カブトの後ろに居た男が発したその名前にピク、と瞳を鋭く細め、横目で見やる。

大蛇丸。

それは、サスケたちを襲い、ユウが屈辱の敗北を味わった忘れもしない敵の名。

ここで堂々とその名を口にするとは…本当に誰にも聞かれてないと思っているのだろうか。

自分の聴力が人並み以上のものであることを知らないユウは敵のことながら呆れてしまった。

 

 

「アンタ達に任せるよ。

特にヨロイさん…アナタの能力があればここは問題無いはず。

ここは力の見せどころですよ…最近ボクに先を越されていら立っているアナタのね」

 

「フン…大蛇丸様のお気に入りか…。

図にのるな、ガキめ…」

 

「分かりましたよ、先輩」

 

「…(なるほど)」

 

 

カブト班は全員グルらしい。

しかもあの大蛇丸の部下で、先輩後輩の仲…。

 

 

「(…いや)」

 

 

それは表向き、だろう。

大蛇丸は恐らく、カブトを信頼しているに違いない。

 

音のマークの額あてを付けている、一人の上忍に一度目を向ける。

上手く紛れ込んでいるつもりか、あるいは隠れるつもりもないのか……その意図は分からないが、確実にあの上忍が大蛇丸だということは分かる。

音忍の担当上忍であるはずなのに彼の視線は先ほどからずっとカブトに向けられていた。

明らかな意思を持ち、時折アイコンタクトを取って見せる様子から、カブトを信頼し、スパイをやらせているのではないかとユウは考えていた。

 

 

「…嘘が下手だな…」

 

 

隣にいたいのにすら聞こえない程度に呟き、ユウはカブトを見据えた。

流石に視線に気付いたらしく、こちらを見たカブトは一瞬だけ驚いたような顔をして、わざとらしく微笑みかけ、白兎と同様に去っていった。

 

 

「えー、では…もう辞退者はいませんね」

 

 

確認を取るように尋ねられ、焦燥感を露わにしたのはサクラだった。

囁くように交わされる会話を聞いていると、どうやらサスケの呪印が痛むようだった。

封印を施しても支障が出るほどに酷いらしく、思っていたよりサスケに付けられた呪印は強い物らしいと分かり、眉を潜める。

 

しばらく揉め、サクラが涙を流すのを見たナルトが仲介に入るも“お前とも戦いたい”という初めて彼を認めるサスケの発言に心を動かされ、止められなくなったようだ。

 

そして、もう一つ。

上忍たちの間でもサスケを受験させるかさせないかで揉めていた。

しかし、大蛇丸に何か脅されているらしい。

結局呪印が暴走した場合のみ止めるということで落ち着いていた。

 

 

「…なーんか、あっちこっちで騒がしいわね」

 

「まぁ、色々あるんだよ」

 

 

不愉快そうな呟きに苦笑し、いのを宥めるユウの表情の変化を鋭い瞳で見ていたシカマルに彼女が気付くことはなかった。

 

 

「えー、ではこれより予選を始めますね。これからの予選は一対一の個人戦、つまり実戦形式の対戦とさせていただきます」

 

 

実戦なら第七班の面子ならば、一部の対戦相手次第だが十分勝ち残っていけるだろう、とユウは内心ほっとする。

波の国の戦い、そして大蛇丸との戦いを経験している七班は木ノ葉のルーキーの中では間違いなく一番忍としての戦闘経験があるからだ。

 

 

「それで今、23名いるわけなんですが…。

まず、第三の試験はその1名以外の22名で合計11回戦行い、その勝者が“第三の試験”に進出できます。

余りである1名は抽選で決め、始めの1回戦目で試験官、又はこちらにいる上忍の方々と戦い、その場にいる上忍、試験管に審査を行い、決めます。

賛成過半数以上で本選出場決定、半数以下で失格となります」

 

 

それ以外の22名のルールは単純明快だった。

ルール一切なしの真剣勝負。

どちらか一方が死ぬか倒れるか、あるいは負けを認めるまで戦うだけ。

 

 

「そしてこれから君たちの命運を握るのは…」

 

 

開け、アンコの指示により、壁の一部に電光掲示板が出現する。

 

 

「これですね…えー、この電光掲示板に…初戦は1名、それ以外は一回戦ごとに対戦者の名前を2名ずつ表示します。

では、さっそくですが、第一回戦の1名を発表しますね」

 

 

息を飲み、誰もが電光掲示板に注目する。

そして、表示された名前は……。

 

コハク ユウ

 

 

「…やっぱり…」

 

 

なんとなくそういう予感はしてた、と肩をすくめた。

どうやら第三の試験、予選までは普通にやらせてくれないらしい。

 

 

「琥珀ユウさん、前へ」

 

「はい」

 

 

ザッとハヤテの前に進み出れば、カカシがとてつもなく心配そうな顔をしていて、思わず苦笑し、大丈夫、と口パクで伝える。

 

 

「さて…ユウさんの対戦相手になってくれる方ですが…」

 

「オレがやろう」

 

 

誰にしましょうか、と視線を巡らせたハヤテの前に進み出たのはガイだった。

敵意にギラギラと暗く輝く瞳に中忍試験前のことを思いだし、苦笑する。

 

予選もどうやら、前途多難なようだ。

 


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