絆道~始まりのミチシルベ~   作:レイリア@風雅

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第33話 自責

「ぎゃあああああ!!」

 

 

殴打する音に続いてナルトの絶叫が響き渡る。

しばらく理解が追いつかず、辺りを見渡すナルト。

あの草忍の姿が脳裏に過ぎり、パッと身構える。

 

 

「みんな隠れろ―――!!いや!すぐふせろ――――!!

あ…あいつはどこだってばよ!!」

 

「!…ナルト……」

 

「(あのバカー、やっと目ェ覚ましたね――!)」

 

「……」

 

 

大きなたんこぶをつつかれ、痛みでか大人しくなったナルトにシカマルは呆れたような目を向けた。

 

 

「すごい天然だな、お前は……」

 

「は?」

 

「つーか見ててむかついてくるな」

 

 

まあ、あれだけ殺伐とした戦闘なんて下忍時代に味わったのは同期ではユウたち第七班くらいだろう。

音忍たちとの死闘を繰り広げたシカマルたちからすれば、ナルトの反応は大袈裟に見えて少しイラっとくるものがあるのかもしれない。

 

 

「ん?あ!!!サクラちゃん!!」

 

「!……何よ!」

 

 

ナルトはサクラに駆け寄りながら切羽詰ったように疑問を口にする。

 

 

「サクラちゃん…その髪!!」

 

「あ!コ…コレね…。

……イメチェンよ!イメチェン!」

 

「「……」」

 

 

ザックリと散切りに切られた髪をクイクイと引っ張り、事も無げに言ってみせるサクラを複雑そうな面持ちで見つめるサスケといの。

やはりあの大蛇丸との戦いは、ナルトたちの心に大きな傷を付けてしまったようだった。

サクラも、サスケも……傷付いた。

 

 

「(あたしが……守れなかったから)」

 

 

みんなを傷付けた。

震えっぱなしの左手をゆっくり持ち上げ、くしゃ、と前髪を掴む。

その時、初めて額あてがなくなっているのに気付いた。

 

……あれ?

額あてがないってことは封印の術式が……!?

 

青ざめたユウだったが、そういえば、と思い出す。

額あてを大蛇丸に取られ、そのまま封印を解除されてしまったのだから、術式は消されてしまったはずだ。

つまり隠す必要はないのである。

だがいつも付けていた物がないというのは、些か落ち着かない心地になる。

しばらくは、チャクラも不安定で危険になるだろうが……。

 

……三代目にもう一度封印術かけてもらわないといけないな。

 

そう考えていたユウの鼻に、薬品の臭いが思い出したように溢れだしてきた。

ドクン、思いもよらぬことに目の前が歪み、チカチカとフラッシュバックが起きて、どちらが現実でどちらが幻覚なのか分からなくなってくる。

どうやら毒はまだ完全に抜けていないらしい。

 

 

「私は長い方が好きなんだけど、ホラ…。

こんな森じゃ動き回るのに長いと邪魔なのよね!」

 

「ふぅーん。

ところでなんでお前らこんなとこにいんだってばよ!?」

 

「ふ―――…お前に説明すんのがめんどくせー!」

 

「みんな助けてくれたのよ……ユウもね」

 

「え?ユウが?」

 

 

驚いたようにサクラの視線を辿り、そちらを向けば、何かを耐えるように左手で前髪を掴み、俯いているユウの姿が目に入り、驚愕に目を見開いた。

誰から見ても一番深手を負っていること間違いなしの彼女は動けないのか、木にもたれかかったままで……。

気付いたらナルトは駆け出していた。

 

 

「ユウ!!」

 

「!ナルト……」

 

「お前、それ……!!」

 

 

近くで見れば見るほど酷い怪我に思わず言葉を失う。

何より、その表情が、その瞳が……。

 

 

「(まるで……殺してくれって頼んできた白みたいじゃねーか……!)」

 

 

困ったように口元に浮かべる笑み。

それはナルトを安心させようとするものと、自身を嘲笑するものが混ざっていて、その瞳は自分の存在価値を失った白と似て光を見失ってしまったかのようで……。

 

 

「ごめん…なさい……」

 

「え?」

 

「守れなくて、ごめんなさい……」

 

「ど…どうしてユウが謝るんだってばよ!

変な奴だなー ユウは!!

むしろそんなになるまで必死に守ろうとしてくれて、オレらの方が申し訳ないってば」

 

 

違う違う、と首をふるユウに、ナルトは泣きそうになった。

どうしてそんなに自分を責めるんだろう。

もう十分ユウは頑張ったじゃないか。

十分すぎるほど、自分たちを守ろうとしてくれたじゃないか。

 

 

「ユウ……」

 

「…まもれ、なかった……あたしのせいだ……これじゃ……っ」

 

「ナルト」

 

「シカマル……」

 

「後はオレに任せてくれねーか」

 

「……頼むってばよ」

 

 

悔しさに奥歯を噛み締め、背を向けたまま頷き、踵を返す。

今のナルトや、草忍に関わった第七班のメンバーが何を言っても、ユウは自分を責めてしまう。

なんとなくそう察していた。

 

 

「ユウ、少し落ち着こうぜ……な?」

 

「っ……」

 

「熱でも出てきたかなこりゃ……」

 

 

浅い呼吸を繰り返すユウの額に手を当てるとビクリと震える。

完全に怯えてしまっている彼女を名を呼ぶことで宥めつつ、シカマルは顔をしかめた。

 

 

「(この傷でこの高熱……早くいのに看てもらう方がいいな)

いの!ちょっと来てくれ」

 

 

サクラの髪を整えていたいのに声をかけると、すぐに頷き、駆けつけてくれた。

ナルトとのやり取りを見ていたのか、サクラを連れてこなかったので少しほっとする。

 

 

「……相当ヤバそうね」

 

「ああ……痛みもほとんど麻痺状態。

後は……毒かなんか食らってんな。刀傷から来る熱にしちゃ熱が高すぎる。

毒の種類は多分……神経に直接作用するものだな……現実と幻覚がごっちゃになってる。

多分、オレらの声もほとんど聞こえてない」

 

「!よくそんな状態で、あんなに動けたわねー……」

 

 

ユウの左手をシカマルに両手で包ませ、触るわよーと一声かけながら熱の具合や傷の具合を見ていく。

まず、一番治療のしやすい右腕をいのの膝に置き、水筒の水で傷を消毒するそのついでに血がこびりついている所をタオルで拭ってやる。

一連の処置を見守りながら、ポツリとシカマルは呟いた。

 

 

「……守らなきゃって……」

 

「ん?」

 

「守らなきゃって、自分のせいだって……ずっと言ってた。

ずっと……謝ってた……」

 

「……バカね、ユウは……」

 

「ああ、超大バカだ……。

サスケがあんなんになってる原因も経緯もオレは知らねーし、ナルトがあんなに警戒していた理由も知らねー……。

だけど、ユウのせいじゃねぇってことだけは分かる。

ズタズタのボロボロになっても何度もナルトたちを守ろうとしたんだって……」

 

「……シカマル」

 

 

ずっといのの決断を、シカマルは待ってくれた。

本当はすぐにでも飛び出して行きたかっただろうに、自分の気持ちは全部押し込めて、いのを信じて決断を託してくれたのだ。

右手の止血を終え、応急処置に包帯を厚めに巻きつけた。

しばらく右手は使えないだろう。

沈黙した二人の耳に、時折苦しそうに息をするユウの声が響く。

 

 

「幻覚に悩まされてるんなら素直に辛ェって…苦しいって、そう言えばいいのにな……」

 

「……ああもう!アンタが泣きそうな顔したってしょうがないでしょー!

ユウが一番辛いんだから、しっかり手ェ握って安心させてあげなさいよ!

…アンタが安心できる存在だから、ユウだってずっとアンタのこと見てるんじゃないの?」

 

 

え、と顔をあげた先には、夢と現と彷徨うようなそれだが、確かにジッと自分を見つめるユウがいた。

きゅっと控えめに手を握り返す動作に気づき、胸が熱くなる。

 

 

「さ、今のうちに背中もやっちゃいましょ!

アンタ後ろ向いてなさいよねー」

 

「わ、分かってるっての……」

 

 

少し顔を赤くしてそっぽをむくシカマルにこっそり笑って、ユウの背中を診る。

貫通している傷もあり、ユウを自分にもたれかけさせながら応急処置を施す。

細かい傷はたくさんあるが、ひとまずこれで大丈夫だろう。

 

 

「毒に関してはどうしようもないから、私に出来るのはここまでねー」

 

「……悪い。ありがとな、いの」

 

「アンタのためにやったわけじゃないからいいのよー!

ユウ、早く良くなるといいわね……」

 

「ああ……」

 

 

もう少しそばにいてあげなさい。

パチンとウインクを送ってきたいのに苦笑しつつ、内心感謝する。

 

 

「……しか、まる……」

 

「!どうした?なんか欲しい物とか、あるか?」

 

 

立ち上がろうとしたが、きゅ、と控えめに握られたままの手に止められて、座りなおす。

 

 

「えーっと……?」

 

「いら、ない……な、から……。

っしょ……いっしょが、いい……」

 

 

不安そうな瞳が、一人にしないで、と必死に訴えかけているようで……。

そっと手を放した途端、傷付いたように目を見開くから、苦笑してユウの体を抱き上げ、自身の足の間に座らせ、寄っかからせる。

 

 

「傍にいるならよ、こっちのが楽だろ?」

 

「!……うん」

 

 

控えめに頬をすり寄せてくる。

寂しさを必死に埋めようとしているようでもあり、幻覚に耐えようとしているようでもあり……体を支えてやりながら、やりきれない気持ちで一杯だった。

 

 

「……少し寝ろよ」

 

「!」

 

 

ユウの体が強ばり、強い拒絶の反応を示した。

 

 

「や…だ……夢…みたく、ない……」

 

「ユウ……?」

 

「また……あの、ゆめ……っ。

誰も……こ……し、たく、ない……みんなを、たく、ない……」

 

「……ユウ……」

 

 

夢の中で、一体どんな悪夢に苛まれているのだろうか。

その全貌は分からないけれど、こうしてユウと共に居てやれる時間は、今は無いに等しいのだ。

今のうちに少しでも回復させてやりたい。

 

 

「オレがついてる。大丈夫だ、ユウを怖がらせるような夢なんて絶対ェ見せないからよ」

 

「ほん、と……?」

 

「おう。お前が起きるまで一緒にいてやる。

だから、少しでいいから寝てろ」

 

 

元々精神肉体共に体力をかなり消耗していたからだろうか。

あやすように背中を撫でられ、時折頭も撫でられて、不器用だけど優しさが一杯に詰まった行為にだんだん睡魔が襲ってきて、段々と瞼が重くなっていく。

少し温かい気持ちで瞼を閉じたユウは逆らうことなく睡魔に身をゆだねた。

 

少し、重さが増し、眠ったようだとほっとする。

しかし時折傷が痛むのか、苦しげに表情を歪め、息を詰める。

少しでも楽になれればと怪我があまり酷くない左手を握り、頭を撫でる。

すると、ほぅっと表情を和らげるので、シカマルも満たされた気分になってずっとなでていた。

ふと、不謹慎ながらも幸せに浸っていたシカマルに陰がさす。

仏頂面のナルトと、微笑ましそうないのとチョウジ、申し訳なさそうに沈んだ顔をしているサクラ、シカマルを射殺さんばかりに睨むサスケがいた。

 

 

「な、なんだよ……」

 

「ユウ眠ったのねー……良かったわ。

今は少しでも体力回復しないといけないし。」

 

「こうしてみるとユウもまだまだ子供みたいだよね」

 

 

可愛いー、といのとチョウジが微笑ましそうにユウを見つめる。

 

 

「……あのさ、オレってばさ、確かにシカマルに頼むって言ったけどよ……。

そんな抱きしめろなんて言ってないってばよ!」

 

「……」

 

「これは成り行きというか、なんつーか……あー!もうめんどくせー!!

サスケお前なんかユウの手刺しただろうが!!自分のこと棚にあげて睨むんじゃねぇ!!」

 

「はぁああああ!?なんっだそれ!?オレってば聞いてねーぞ!!

サスケ!!いくらお前だろうとなぁ、ユウを傷付けるようなことするのは許さねーってばよ!!」

 

「あ、あれは不可抗力で……!」

 

 

ナルトの興味がサスケに移ったので、少し息をつく。

これでサスケの睨みからも逃げられる、これぞ正に一石二鳥。

 

 

「ユウ……ごめんね……」

 

「……ユウだって、お前らだからあんなに必死になって助けようとしてたんだと思うぜ。

謝るんじゃなくて、お礼言った方がコイツ喜ぶんじゃねーの?」

 

「そうね……ユウが目を覚ましたら、ありがとうって言うわ」

 

「おー。そうしとけ」

 

「……ん」

 

 

少し身じろぎをしたユウを慌てて支える。

すぐにまた寝息を立て始めたユウを、愛おしげに見つめるシカマルにくすりと笑むいの。

 

 

「…もうちょっと寝かせてあげたいけど…試験中だし、後20分くらいが限界ね…」

 

「…そうだな」

 

 

それから、比較的に怪我をしていないいのとチョウジ、ナルトが周囲を見張り、ユウを起こしたら解散しようということになった。

 

そろそろ起こさねーとな……

 

可哀想だが、時間も限られている。

意を決してユウを揺すり起こそうとした時、タイミングよくくぐもった様な声を出し、うっすらと瞼を持ち上げた。

寝起きのためか、その瞳は潤んでいて、いつもよりその翡翠がキラキラと光ってみえた。

 

 

「…あ、れ…シカマ、ル?」

 

「!お、はよ……具合はどうだ?」

 

「ん…まだ、クラクラ?する…。

でも、大丈夫だよ」

 

 

ゆっくり上体を持ち上げ、少し眉をしかめる。

…やはり、日常生活に支障が出るくらい、痛みがあるのだろう。

しかし、彼女は何かを発見し、あ、と目を見開いた。

 

 

「シカマル……上着!」

 

「……あ?上着??」

 

「血で汚れちゃってるよ……!

どうしよう……あたしのせいだ」

 

 

かけてやっていたシカマルの上着に自身の血がベットリと付着しているのを見て、青ざめる。

お前…そんなことで気にしなくても、とシカマルは呆れながらも、上着を腰に巻きつける。

 

 

「お前のせいじゃねーよ…オレが勝手にやったことだ。

まぁ、川でも見つけてそこで洗えばいいしな」

 

「……ごめん」

 

「気にすんなって」

 

 

ポム、と頭に手を置いて、そういえば、とユウの顔をマジマジと見つめる。

彼女の額を隠すものは何もなくて、いつもよりなんだか可愛らしく見えた。

 

 

「…額あて、ない方が似合ってる」

 

「え?」

 

「ほら、お前アカデミーの頃からずっとデコ隠してただろ?

見慣れてたから特に気になったことはなかったけど…改めて見ると隠さない方がなんていうか……しっくりくるっつーか」

 

 

照れくさそうなシカマルをポカンと見て、ユウはそういえば、と自分の額に手をあてた。

 

自分では、良く分からないけど…。

 

 

「ユウ―――ッ!!」

 

「ッ~~~~~!?」

 

 

どう返事したものか悩んでいた時、タイミングが良いのか悪いのか、サクラが起き上がっているユウに気づき、抱きついて来た。

体中に激痛が走り、声にならない声で絶叫しそうになるのを必死で堪え、プルプルと体を震わせる。

 

 

「ちょ、おいサクラ!!傷!!」

 

「え?……あ~~~!!

ご、ゴメン!!私ったらつい……」

 

「ついで済まないだろフツー」

 

 

慌ててサクラに注意すると、ったく、とプルプルと痛みを耐えているユウの頭を撫でてやる。

申し訳なさそうに視線を外していたサクラは、あっと声をあげ、ポーチから何かを取り出し、ユウへ差し出した。

 

 

「はい、これ」

 

「!……あたしの額あて?」

 

「大蛇丸との戦いの後に拾ったの。中々渡せなくて……」

 

「……ありがとう」

 

 

そっと額あてを受け取り、額につけようとした所ではた、と止まる。

額に付ける必要がないのなら、と少し思案し、シカマルを見上げた。

 

 

「……ん?」

 

「……額、出してた方がいいかな?」

 

「あー……オレはその方がその……似合うと思うけど……」

 

「あ、確かに!ユウ、額出してた方が可愛い!

寧ろ隠すと勿体無いし、そのまま出してなさいよ」

 

「うーん……それじゃあ……」

 

 

どこへ付けようか一瞬迷ったが、ハイネックで覆われている首へと巻く。

縛ろうとしたところで右手がほとんど動かせないことに気付いた。

 

 

「貸して」

 

「?サクラ??」

 

「付けてあげる」

 

 

きゅっと音を立て、結ばれた額あて。

首からぶら下がっているせいか、少し重く感じた。

 

 

「ありがとう、サクラ」

 

「……ううん、お礼を言うのは私の方」

 

「え?」

 

「……こんなになるまで守ってくれて、本当にありがとう」

 

「!で、でも……あたし、守れなかった、よ?

みんな、傷付いた……あたしが、傷付けてしまった……」

 

「そんなことないわよ」

 

 

バカね、と困ったように笑い、今度は優しくユウの頭を抱き締めた。

抱きしめられたユウは落ち着かない様子で、助けを求める視線をシカマルへと向けるが、彼は気付かないフリをしてそっぽを向く。

どうしよう、と内心戸惑っているとサクラに頭を撫でられた。

 

 

「ユウのおかげで、私変わりたいって思った。

強くなりたい、ユウたちの隣りで堂々と一緒に戦えるようになりたい。

私もユウを……ユウたちを守りたいって、そう思ったの」

 

「サクラ……」

 

「ユウ、いつも私たちを守ってくれてありがとう。

これから少しずつ変わっていくから……少しずつ、強くなるから……。

いつかユウの隣りで、私も一緒に戦わせてね」

 

 

ユウはその言葉に目を見開いた。

恐る恐る、サクラの背に腕を回し、控えめに抱き締め返す。

 

 

「……サクラが一生懸命戦ってたの、あたし知ってるよ」

 

 

大切に伸ばしていた髪を自ら切って、音忍たちに立ち向かっていったサクラの姿を、ぼんやりと覚えている。

サスケを止めようと危険を冒したことも。

かろうじて状況を掴もうとしていた頭のどこかが、覚えている。

 

 

「だから、焦らないで?

戦うってことは…強くなるってことは、時には綺麗なままでいられないから……。

サクラには、ずっと綺麗で居てほしい……」

 

 

自分の分も。

 

最後の言葉は飲み込み、そっとサクラの腕を外してユウは立ち上がった。

痛みは絶え間なくユウを襲うが、足に大きな怪我はしていないので、背中に負った傷と右手の痛みさえ我慢すれば問題ないだろう。

心配そうに立ち上がったユウを見つめる二人に微笑み、そうだ、とポーチの中から地の書を取り出す。

 

 

「これ、シカマルたちにあげるよ」

 

「え、でも、お前……」

 

「あたしはもう揃ってるし、サクラたちにあげると音忍たちの置き土産と被っちゃうから……。

助けてもらったお礼ってことで、受け取って欲しいの。

本当はリーのチームにも渡すべきなんだろうけど、もういっちゃったみたいだし」

 

 

申し訳なさそうに眉尻を下げるユウ。

それでも受け取るべきか悩んでいたシカマルの手に押し付けるように渡し、ユウは踵を返した。

 

 

「本当はナルトたちにも一言挨拶したいところなんだけど、そろそろ行かなくちゃ…。

二人共、色々と迷惑かけてごめん…。

第二の試験、絶対に合格して、また塔で会おうね」

 

「ああ……気をつけてな」

 

「うん」

 

 

ニッコリと笑い、頷いた。

さぁ、と風が吹いて、瞬きをした時にはもうユウの姿はなかった。

 

 


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