絆道~始まりのミチシルベ~   作:レイリア@風雅

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第32話 冷たい写輪眼

真っ白な空間に、サスケはいた。

そして、向かい合うように同じ空間にいたのは、ボロボロと涙を流し、憎しみに表情を歪めるサスケによく似た小さな男の子。

 

 

――――誰だ?

 

 

サスケの問いかけに少年は答えなかった。

ただ涙を流していた少年は、唇を薄く開く。

 

 

『…父さんも母さんも、死なずに済んだんだ…』

 

――――昔の…オレ…!?

 

『結局…力が無ければ何も出来ないじゃないか…僕に力が無かったから…。

一族は滅んだんだ…みんな殺された…。

そして、あの子も傷付いた…。』

 

 

少年の懺悔にも似た独白。

血を流して倒れる父と母が、そして大蛇丸との戦いに敗れ、瞳から光を失っていくユウの姿がサスケの頭に蘇る。

 

 

『いや……お前が見殺しにしたのだ。ただ見ていただけだった……。

力さえあれば……。』

 

 

幼い自分は、歪んだ笑みを浮かべると、その片目を大蛇丸の瞳に変え、語りかけてきた。

 

 

 

+++++

 

 

「うっ……」

 

 

現実のサスケはアザと悪夢に苦しめられ、呻く。

そして、そんなサスケのすぐ傍で、彼を守ろうと木ノ葉が誇る第十班……シカマルら3人が音忍三人衆と対峙していた。

 

 

「いの…どうして…?」

 

「サスケ君の前でアンタばっかり、いい格好はさせないわよ――――!」

 

「またウヨウヨと…木ノ葉の小虫が迷い込んできましたね」

 

 

ギロ、ドスに睨みつけられたチョウジは半泣きになる。

元々彼は進んでこの場へ躍り出たわけではなく、シカマルにマフラーを引っ張られ、参上した次第であった。

 

 

「2人とも何考えてんだよォ~~!コイツらヤバすぎるって!食われるって!

シカマル…マフラーはなしてよォ~~~!」

 

「放すかバカ!めんどくせーけどしょーがねーだろ!

いのが出ていくのに男のオレらが逃げれるか!死ね!」

 

「巻き込んじゃってゴメンね――――!

だけどどーせ三人一組…運命共同体じゃなーい

それに、アンタだってあの子を放っていけないでしょー?」

 

「まぁな……」

 

 

かつてない強敵と遭遇しているという事態に恐怖はある。

だが、とチラリと音忍たちのすぐ傍で倒れているユウを視界に入れ、激しい怒りを感じているのは事実で。

余裕そうな表情を作りつつ、シカマルの瞳は激しい怒りに満ち溢れ、氷のように冷たかった。

 

 

「ま、なるよーになるさ」

 

 

だからシカマルは自分の意思で戦いにきたのだ。

勝てなくてもいい、せめて早くユウに治療を施すために。

 

 

「クク……お前は抜けたっていいんだぜ、おデブちゃん」

 

 

小馬鹿にした笑みを浮かべ、ザクが言い放った一言にチョウジの肩がぴくりと揺れた。

 

 

「え?いま、なんて言ったのあの人…。

ボク聞き取れなかったよ……」

 

「あ!?」

 

 

俯き、そう呟くチョウジに苛立ったように声を荒げる。

未だ俯いているチョウジを睨み、苛立ちを隠せぬ様子で言い放った。

 

 

「嫌ならひっこんでろっつったんだよ、このデブ!!」

 

 

チョウジの中で何かがキレた音がした。

 

 

「ボクはデブじゃない!!

ポッチャリ系だ!コラ――――!!」

 

 

般若の表情で怒鳴り、ポッチャリ系バンザーイ!!と両腕を上げるその勢いに、サクラは圧倒される。

 

 

「よ――――しィ!お前ら分かってるよな!!これは木ノ葉と音の戦争だぜぇ!!」

 

「(ラッキー!切れたァ!)」

 

「ったく、めんどくせーことになりそうだぜ……!」

 

「そりゃこっちのセリフだぜ……。」

 

 

苛立っている様子のザクに先ほどのビビっていたのが嘘のように怯えず、むしろ闘士すら燃やしているチョウジ。

いつもやる気のないシカマルも静かに怒りの炎を宿しているし、チームの士気はあり過ぎるくらいだと判断したいのは、少し口元に笑みを浮かべた。

 

 

「サクラ!」

 

「!!」

 

「ユウは必ず助け出すわ。

後ろの2人……頼んだわよ」

 

 

頼もしい後ろ姿に、ようやくサクラに笑顔が戻った。

彼女はしっかりと頷く。

 

 

「それじゃ、いのチーム全力で行くわよ―――!」

 

「「おう!!」」

 

「フォーメーション猪鹿ちょ―――う!

チョウジ頼んだわよ―――!」

 

「オーケー!!」

 

 

“倍化の術”!!

 

掛け声を合図に地面を蹴ったチョウジは術を使い、胴体の部分のみを巨大化させる。

倍化の術は秋道一族秘伝の技だ。

続けざまに大きくなった胴体に頭と四肢を埋め、勢い良く地面を転がり、ザクへ一直線に向かっていく。

 

“肉弾戦車”!!

 

 

「!なんだこのヘンテコな術は……。

フン!デブが転がってるだけじゃねーか」

 

 

“斬空波”!!

 

迫ってきたチョウジに空気圧をぶつけるが、チョウジの勢いは止まらず、そのまま上空へと跳ねた。

 

 

「(あの回転じゃいまいち空気圧は効かねーか……)」

 

 

どうするべきか必死に頭を回転させ、チョウジを睨みつけるザクの動きが止まった。

それを見て舌打ちを打ち、ドスが腕を構え、地面を蹴る。

 

 

「(させるかよ!てめーが一番厄介だからな…)」

 

 

“忍法影真似の術”!!

 

シカマルの影が伸び、ドスの影と繋がった。

その直後、走っていたドスの動きが止まる。

回転したまま落ちてきたチョウジを紙一重でザクは避けた。

 

 

「!?なっ!」

 

「!?

こ…こんな時に何をやってる……ドス!」

 

 

変なポーズをするドスにキンが怒鳴るが、それは彼の意思でやったことではなく、ドス本人も困惑していた。

忍法影真似の術。

それは奈良一族秘伝の術で、己の影とターゲットの影をつなぎ合わせ、相手に自分と同じ動きを強要する術だ。

以前、ユウを引き止めるために使用したシカマル十八番の術でもある。

 

 

「いの!あとはあの女だけだ」

 

「うん!シカマル、私の体お願いね―――」

 

「おう!」

 

 

“忍法心転身の術”!!

 

術を使用し、倒れるいのの体を受け止める。

この術は山中一族秘伝の術で、相手の精神の中へ自分が入り込むことにより、相手の体を支配することができる。

 

 

「これでおしまいよ!」

 

 

つまり今、キンの中にはいのがいて、そのキンの体を内側から操っているということだ。

キンはクナイを取り出し、自身の喉に突きつける。

 

 

「アンタたち!一歩でも動いたらこのキンっていう子の命はないわよ――!

アンタたちのチャクラの気配が消え次第この子は解放したげる!

ここで終わりたくなければ巻物を置いて立ち去るのね!」

 

 

そう脅しをかけたいのだったが、音忍たちはニヤニヤと笑うだけ。

 

 

「(こいつら…何がおかしいの…)」

 

「!!ヤバイそいつらは……!!」

 

 

警戒を促すサクラだったが時すでに遅し。

追い詰めたと油断もあったのか、ザクの斬空波によりキンの体は吹き飛ばされ、強かに木に叩きつけられてしまった。

血を吐き出すキンと時を同じくしていのの口からも血が流れる。

 

 

「!!いの……!」

 

「…な…なんてやつらなの…。

仲間の体を傷付ける…なんて…!」

 

「フン…油断したな」

 

「我々の目的はくだらぬ巻物でもなければ…

ルール通り無事この試験を突破することでもない…」

 

 

思いもよらぬ告白に目を見開くサクラたち。

ドスは、口を開いた。

 

 

「サスケ君だよ!」

 

「(チィ…そろそろオレの術が解けちまう…)」

 

 

まさかの逆転された状況に内心舌打ちを打つのと同時、ドスと繋げられていたシカマルの影がスっと離れていった。

 

 

「ホー…この術5分が限界ってとこですか。

その子の術…相手の精神に自分の精神を潜り込ませ、体を乗っ取る術のようですが…

フフ…その吐血から見て、キンを殺せばその子も死ぬことになるようだね…」

 

 

ドスは冷静にシカマルたちを分析していたらしい。

腕に装着された忍具を構えたドスに第三者から声がかけられる。

 

 

「フン…気に入らないな……。

田舎者の“音忍”風情が…そんな二線級をいじめて勝利者気取りか」

 

 

上空からかけられた声に全員が見上げれば、黒い長髪の少年とお団子頭の少女がいた。

その額あてのマークは“木ノ葉”。

心底不愉快だ、と眉をしかめ、腕を組む少年にザクは苛立たしげに舌を打つ。

 

 

「ワラワラとゴキブリみたいに出てきやがって…」

 

 

それを無視し、少年と少女はリーを見る。

ボロボロになって呻いているリーに、少年はヘマしたな、と呆れたようにつぶやき、少女は心配そうに名を呼んだ。

 

 

「そこに倒れているオカッパくんはオレ達のチームなんだが…

好き勝手やってくれたな」

 

「「「!!」」」

 

「(なんだ…こいつの全てを見透かすかのような目は…)」

 

 

ギン、殺気を滲ませ、音忍を睨む少年の瞳の周りには血管が浮かび上がり、通常のそれではなかった。

 

 

「これ以上やるようなら…全力で行く

ん?(このチャクラは…)」

 

「フフ…気に入らないのなら…格好つけてないでここに降りてきたらいい…」

 

「…!!

いや、どうやら…その必要は無いようだ」

 

 

そっと瞳を元に戻した少年に疑問符を浮かべる。

が、その理由をすぐに知ることとなる。

倒れていたサスケが、ゆっくりと起き上がったのだ。

 

 

「サスケ君!!目が覚め……!」

 

「!」

 

「…(アレって…サスケ君…?)」

 

 

立ち上がったサスケの体中にアザと同じ模様が這うように広がっていた。

チャクラを溢れ出させ、すでに写輪眼すら発眼させているサスケは誰がどう見ても異常だった。

 

 

「サクラ…誰だ…お前をそんなにした奴は…」

 

「…サスケ君…」

 

 

「どいつだ…」

 

「(呪印が…体中を取り巻いている!?)」

 

「オレらだよ!」

 

 

呆然と名を呼ぶサクラを睨みつけるように見ながら威圧感のある声色で再度問いかける。

その問いに答えたのはサクラではなく、ザクで、サスケの視線はそちらへ向けられる。

そして、そのザクたちのすぐ傍で倒れている血だらけのユウを見て、憎悪に顔を歪めた。

 

 

「サスケくん……その体……!?」

 

「心配ない。それどころか……力がどんどんあふれてくる。今は気分がいい……。

あいつがくれたんだ」

 

「え?」

 

「……オレはようやく理解した。

オレは復讐者……。

たとえ悪魔に身を委ねようとも、力を手に入れなきゃならない道にいる」

 

 

目の前にいるサスケが自分の知るサスケではないようで、何故か酷く孤独の闇に包まれているような気がして……。

サクラはただ、呆然とサスケを見上げることしかできない。

 

 

「さぁて お前だったよな」

 

 

憎々しげにザクを睨み、殺気をぶつけるサスケの姿に、その場にいる全員の本能が危険を告げた。

 

 

「いの!そのカッコじゃまきぞえだぞ!元の体へ戻れ!!

チョウジもこっち来い!隠れんぞ!」

 

 

その中でも冷静に動いたのはやはりというべきかシカマルだった。

シカマルの指示に従い、草陰に身を隠すチョウジと、解除の印を結び、いのの体に戻るいの。

サスケの負の感情に呼応しているのか、呪印が更に広がっていく。

 

 

「チャクラがデカ過ぎる!」

 

「ドス!こんな死に損ないにビビるこたぁねぇっ!!」

 

「よせ!ザク!分からないのか!」

 

 

ドスの必死の静止も虚しく、ザクは両腕を構えた。

 

“斬空極波”!!

 

斬空波と比較にならない程の強烈な空気圧に、いのから悲鳴があがる。

煙が晴れると、ザクが術を放った方角は見事更地になっており、サスケたちの姿もなく、勝った、と口角をあげた。

 

 

「へっ!バラバラに吹っ飛んだか」

 

「誰が?」

 

「!!ぐォ!!」

 

 

ザクがサスケの存在に気が付いた時には、すでに裏拳を喰らい、地を転がっていた。

しかも彼のすぐ傍にはサクラとナルトもいる。

あの状況下で二人を抱えてザクの真横へ移動していたのだ。

息を大きく吸い込み、口の中に貯めながら印を結ぶ。

 

”火遁 鳳仙火”!!

 

吹き出されたいくつもの火の玉はザクへと飛んでいく。

 

 

「図に乗るな!!かき消してやる!!」

 

 

腕から発せられた空気圧に火の玉は完全にかき消されたかに思われた。

 

 

「!!なに!?(火の中に手裏剣!!)

ぐあぁっ」

 

 

火の中に包まれていた手裏剣がザクへ突き刺さっていく。

後退し、顔を庇うザクの足元へ素早く移動するサスケに気づき、ドスが声を張り上げる。

 

 

「ザク!!下だっ!!」

 

「え?

!!くっ……!」

 

 

両腕を拘束され、力が入れらないように背中を踏みつけられ、ザクは苦しげに呻く。

そんなザクを見下し、歪んだ笑みを口元に浮かべるサスケに気づき、ふと脳裏に大蛇丸が過ぎった。

 

―――サスケ君は必ず私を求める……

 

想い人の変わり果てた姿と、大蛇丸の言葉が耳について離れなくてサクラの視界が滲んでいく。

ぴくり、それに反応し、指を跳ねさせた者に誰ひとり気付かなかった。

 

 

「お前……この両腕が自慢なのか」

 

「!」

 

 

拘束していた腕と足にぐっと力を込め、歪んだ笑みが深まったその直後。

骨がへし折れる音が辺りに響き渡った。

 

 

「ぐぉおおおおおおああ!!」

 

「「「!!」」」

 

「う…うぅ……」

 

「残るはお前だけだな……」

 

「!!」

 

「お前はもっと楽しませてくれよ」

 

 

腕を折られ、立ち上がることも出来ず、苦痛に呻くザクから興味が失せたように視線を外し、残るドスへと移し、ゆっくりと歩み寄っていく。

が、突然その歩みは止まった。

 

 

「……何のつもりだ。ユウ」

 

「!!?」

 

 

恐る恐る、視線を降ろした先にサスケの足を掴み、その歩みを止めるユウの姿が映った。

彼女はガクガクと膝を震わせながらゆっくりと立ち上がる。

 

 

「そっち、こそ……いい加減に…してよ……。

こんなの、に負けて……サクラ、泣かせて……。

あなたは……何の為に…力を求めた、の……?」

 

 

ユウの指先がサスケの首筋にあるアザに触れた。

アザが微かに柔らかな光を帯びる。

不愉快そうに顔を歪めるサスケは、ユウたちの知っている彼とは思えないほど冷たくて。

 

 

「復讐のため……本当にそれだけ?」

 

 

ううん。違うよね。

 

ユウは無理矢理笑みを口元に張り付ける。

 

 

「もう、誰も失わないためでしょう……?」

 

 

彼の少年は言っていた。

人は大切な誰かを守りたいと思った時に本当に強くなれるものなのだと。

 

だから、きっとサスケだって同じはずだ。

だって彼はあんなにも強くて優しい人なのだ。

今は憎しみで、その想いが見えなくなってしまっているだけ。

 

見失うことはあるかもしれない。

でもその優しさが憎しみで本当に失ってしまうわけが……。

 

 

「フン……お前も随分と甘い奴だな」

 

 

嘲笑うような笑みを浮かべるサスケにユウの表情は凍り付いた。

 

 

「オレはアイツを殺すためだけに力を求めてきた。

それはこれからも変わらない…絶対にな」

 

 

これは、誰だ?

彼はこんなにも冷たい目をしていた?

そんなはずはない。

彼は……サスケは……大蛇丸の残した呪印なんかに負けるわけが……。

 

 

「話は終わりだ。さっさと退け。

邪魔なんだよ」

 

 

かつて迷惑だと言われた時よりその言葉は何倍も冷たくて、ユウの心を抉った。

動けずにいるユウに溜息をつくと、ユウを退けてドスの方へと向かおうとする。

そのまま何処かに居なくなってしまいそうなサスケの腕を反射的に掴むと、彼は振り返り、面倒だと言いたげに眉を寄せた。

 

 

「邪魔だと言っただろう、ユウ……。」

 

「さす、け……?」

 

「ユウ危ねぇッ!!」

 

 

警戒を促すシカマルの声にハッと我に返り、咄嗟に右手を頭上へと動かした。

次の瞬間には鋭い痛みが走り、ただでさえ赤に染まっていた手には彼のであろうクナイが突き刺さっている。

 

 

「次はない。

これ以上邪魔するって言うならたとえお前だろうが……殺す」

 

 

ユウの霞んだ視界に歪んだ笑みでクナイを振り上げるサスケ。

 

 

――――ああ、でも……。

本当にそれで死ねるなら、それでもいいかなぁ……。

 

 

サクラはただただその受け入れがたい光景を見つめる。

悪い夢なら覚めて欲しい。

いくらサクラとて分かる。

サスケは本当にユウを殺すつもりだ。

あんな、歪んだ笑みまで浮かべて……あんなに彼女の身を案じていたサスケが、彼女を殺そうとするなんて……。

 

 

「うそ、でしょ……サスケくん……」

 

 

照れたようなサスケの顔と今のサスケの顔。

少し微笑むサスケの顔と、歪んだ笑みを浮かべるサスケの顔がサクラの脳内を埋め尽くした。

 

 

「(こんなの……サスケ君じゃない!!)」

 

 

堪えていた涙がこぼれ、次の瞬間には衝動的に体が動いていた。

 

 

「やめて!!」

 

 

抱きつき、止めに入ったサクラを冷たく睨む。

サクラは堰を切ったようにポロポロと大粒の涙を流していて……。

 

 

「おねがい……やめて……」

 

 

サスケの動きが止まった。

その瞬間、淡い光がサスケの呪印から発せられた。

光が消えたと同時に呪印が引いていき、禍々しいチャクラも消えていく。

 

 

「くっ…」

 

「サスケ君!!」

 

 

完全に呪印が引くと、力が抜けたのか、尻餅をついたサスケに寄り添うサクラ。

それにホッと肩の力を抜き、ユウは音忍を見据えた。

 

 

「君は強い…」

 

「「!!」」

 

 

ドスの言葉に警戒するサクラたちの前に自身が所持していた地の書を前に出した。

 

 

「サスケ君…今の君はボクたちでは到底倒せない

これは手打ち料…ここは退かせて下さい」

 

 

トン、と巻物を置き、ザクとキンを抱え、少しずつ後退していくドスに嘘はないと判断し、ユウも少しほぅっと息をつく。

 

 

「虫が良すぎる様ですが…ボクたちにも確かめなきゃいけないことができました

そのかわり約束しましょう。今回の試験で次、アナタと闘う機会があるのならボクたちは逃げも隠れもしない…」

 

「待って!!」

 

 

サクラに呼び止められ、ドスは振り返る。

 

 

「大蛇丸って一体何者なの!?サスケ君とユウに何をしたのよ!

なんで二人に!!」

 

「分からない…ボクらはただ…サスケ君を殺るように命令されただけだ」

 

 

もう答えることは何もない、とばかりに踵を返し、音忍たちが立ち去っていくのを、サクラはずっと睨みつけるように見ていた。

 

 

「おい!大丈夫かよお前ら!!

めんどくせーけどいのはリーって奴頼む!」

 

 

冷静なシカマルの指示が飛ぶ中、サスケは先ほどユウを傷付けた自身の手を見つめ、震えていた。

 

 

「……オレはいったい……」

 

「……げほっ」

 

 

ビチャ、ユウの足元に吐き出された血に、全員表情を凍りつかせた。

そのまま体制を崩し、倒れそうになったユウは誰かに受け止められたかと思うと、温かい温もりに包まれた。

重い瞼を開くと、ぼやけた視界に苦しげに顔を歪めたシカマルがいた。

 

 

「……しか、ま、る……?」

 

「この、超バカ!

こんなになるまで戦いやがって……!!」

 

「くるしい、よ……シカマル……」

 

 

震える腕で抱き締められ、ユウは必死に意識をつなぎ止めながら弱々しく訴えた。

横に抱きかかえられ、ぼうっとしたまま身を預けるユウから視線を外すとサスケを横目に睨み、ゆっくりと歩き出す。

近くの木にあまり負担をかけないようにと上着を脱ぐとそれを畳み、厚みを持たせてユウの背中にあて、そのまま木に寄りかからせる。

相変わらずぼうっとしたままのユウの顔に張り付く髪を退かしてやり、シカマルは膝をついた。

彼女と目を合わせ、シカマルは出来るだけ優しく声をかける。

 

 

「ちょっと他の奴らのこと終わらせてくる。

その後になっちまうけど、そしたらゆっくり傷手当てしてやるからな。

…今、辛くないか?大丈夫か?」

 

「……うん……」

 

 

そのぼんやりとした彼女の表情にやばいな、と内心焦燥を覚えながらシカマルは笑いかける。

 

 

「、そっか……すぐ戻ってくるから、ちょっとだけ大人しく待ってろよ」

 

「っぁ……」

 

 

後ろ髪を引かれながらナルトの元へ走っていくシカマルにユウは手を伸ばす。

思わず伸ばした手は虚しく空中を漂って、なんだかとても寂しくなった。

 

 

「……」

 

 

何にもいらない。

手当ても、何も。

だってどうせ勝手に治るんだから。

 

だから……。

いっしょ、に……。

 

 

少し俯いて、ユウは手をぱたりと地面に下ろした。

結局、届きはしないのだと、あの暖かさを欲するなと、戒めるかのように。

 

 




サスケの暴走はサクラにしか止められないと思うのです……。

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