絆道~始まりのミチシルベ~   作:レイリア@風雅

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第3話 ミズキの陰謀

 

「ハァ、ハァ……修行に集中、し過ぎて、夜になったのにも、気付かなかったよ」

 

 

地面に寝転がり、月を見上げながら苦笑した。

辺りにはクナイや手裏剣を投げた跡や、木が数本倒れていた。中には傷だらけの木もある。

そして自分自身も頬に切り傷を作っており、服もボロボロだった。

 

……ん?

 

何かの気配が森に入ってきたのに気付き、鉛のように重い体に鞭打って上半身を起き上がらせる。

気配の動きが止まり、しばらくするとチャクラを練りはじめた。

 

……この……チャクラの感じは……。

 

 

「……ナルト?」

 

 

ナルトのチャクラを感じ取ったユウは荷物を乱暴に掴み、チャクラを辿りながらナルトのもとへと駆け出した。

 

 

 

 

 

 

「ハァ、ハァ……くっそー!なんで出来ないんだってばよォ!!」

 

 

そう叫んだナルトの肩にポンッと誰かの手が置かれた。

 

 

「ナールト!何やってるの?こんな時間にこんなところで!」

 

「!ユウ!!そっちこそ何やってたんだってばよ?服もボロボロだし、こんな時間にこんなところで!危ないってばよ?」

 

「あたしは修行、してたの。それで、たまたまここらへんに来てみたらナルトがいたからビックリしちゃったよ」

 

 

ユウはニコッと笑い、ナルトこそ、何やってたの?ともう一度問いかける。

 

 

「オレも修行だってばよ!ホラ、この巻物のこの術なんだけどさ」

 

 

地面に置いていた大きな巻物をユウに見せようとしたその時、ぎゅるるるる、とナルトの腹部から音が鳴り、ナルトは腹部を擦る。

 

 

「そ、そーいやオレってば昼間っから何も食べてねーや……腹減ったぁ~」

 

 

ユウは苦笑いした後、ふっと思い出したように持ってきていた鞄からクッキーが入った袋を手に取り、ナルトに渡す。

 

 

「はい」

 

「?なんだってばよ?コレ??」

 

「クッキー、だよ?こんなのでよければどーぞ」

 

 

味の保障は出来ないけど、と自信なさげに言うユウの隣でナルトは一口クッキーを食べるとパアアっと顔を輝かせた。

 

 

「う、美味ェ!!!ユウってば料理上手なんだな!!」

 

 

すごいってばよ!!と褒め称えるナルトに照れくさそうに頬を掻く。

 

 

「そ、そんなことないよ……でも、良かったぁ、美味しいって言って貰えて!!

実はあたし、誰かに自分の料理を食べてもらうの、初めてなんだ」

 

 

今までお世話になっている三代目火影には差し入れとして持っていった事が何度かあったが、こうして目の前で食べてもらうのは初めての事だった。

何度も美味いと言いながら食べていくナルトに穏やかに微笑みかける。

ナルトはあっという間にクッキー完食してしまった。

 

 

「ご馳走様!!あー、美味かったぁー!!」

 

 

もっと食べたいくらいだってばよ、と名残惜しそうに呟くナルトに目を丸くして、また嬉しそうにクスッと笑った。

 

 

「また何か作ってきてあげるよ!」

 

「ホントか!?よっしゃあーーーーーーーー!!」

 

 

ガッツポーズして叫ぶナルトはあ、と思い出したように巻物をユウに見せた。

 

 

「今、この術を覚えようとしてたんだってばよ!」

 

「多重影分身……?」

 

「そう!オレ、もうちょっとで修得出来そうなんだ!」

 

 

でも……この巻物って……?

 

嬉しそうに笑いながら話すナルトの隣で、考え込む。

多重影分身は分身のような残像ではなく実体を作り出す高等忍術で、ユウが修行の際、よく活用している術だ。

実体を作り出す為、実体の数が多ければ多い程チャクラを使う危険な術でもあるのだ。

それは火影であるヒルゼンから特別に許可を得て貸してもらった巻物に書かれていた術でそれを修得したからである。

大切な巻物だった気がするが……思い出せない。

 

 

「ユウ……あのさ……」

 

「ん?」

 

「昼間はありがとな!またユウに助けられちまった……」

 

 

何のことだか分からず、首を傾げる。

なんだなんだと記憶を掘り返していくと思い当たる節が一つだけあった。

 

 

「き、聞いてたんだ……?」

 

 

苦笑しながら問いかける。

昼間の事とは卒業試験後、あの母親たちに立ちはだかった時のことだ。

 

 

「ああ……まあな……あんなに酷い事言われたのにオレのこと庇ってくれて……。

……あれ、ホントマジで嬉しかったんだってばよ!

それと……ごめんな!」

 

「え?」

 

「あのまま帰っちまって、ホントゴメン!!

……オレ、てばさ……試験……落ちちまったんだ……」

 

「そっか……でも、そんなこと全然怒ってないよ?

それに……」

 

 

そこで一旦区切ったユウにナルトは?を浮かべた。

何処か遠い瞳をするユウ。

 

 

「昔の方が、もっと今の何倍も辛かったから……」

 

 

思い出したのは一族が滅ぶ前の自分だった。

そして、一族が滅んだあの日……あの夜……。

どんなに辛くても苦しくても、誰も憎んではいけないのだと刻みつけられた、あの日のこと……。

 

 

「だからだいじょーぶだよ。

それに今のあたしにはナルトがいるし」

 

 

ただ、また裏切られるのが怖いだけ。

 

 

「そういえばこの術、まだ修得してないんだよね?」

 

「あ、ああ。そうだってばよ」

 

 

あたしは、キミが夢を叶えるのを側で支えたい……。

そして、見届けたい。

 

 

「手伝うよ?」

 

「へ?!」

 

「この術をナルトが修得するの、手伝うよ!!」

 

 

ニコッと笑って言ったユウにナルトもニッと笑い返す。

 

 

「おう!!サンキューな!ユウ!!!」

 

 

2人で修行開始だ。

 

 

 

 

 

息を切らして2人が地べたに座り込んでいると、

 

 

「……見つけたぞ、コラ!!

そして何故ユウがここにいる!?」

 

 

イルカが鬼の形相でやってきた。

あまりの形相に困惑してしまうユウに反し、ナルトは馬鹿にするように笑って指を差す。

 

 

「あー!!鼻血ブー見っけー!!」

 

「バカ者!!見つけたのはオレの方だ!!」

 

 

 

ふざけて笑うナルトとそれを見て苦笑するユウを見てイルカは2人がボロボロな事に気付いた。

 

 

「へへへ、見つかっちまったか。まだ術一個しか覚えてねーのに」

 

「仕方無いよ、難しい術なんだし、一つ覚えただけでも凄いと思うよ?」

 

「お前ェらボロボロじゃねーか……いったい何してた?」

 

「そんなことより!!あのさ!あのさ!これからすっげー術見せっから!!それできたら卒業させてくれよな!!」

 

 

早く見て欲しくて仕方ないといった様に印を結び始めるナルト。

一方、ユウはナルトの発言に引っかかりを感じ、考え込み始めた。

 

 

「(……じゃあ……ここで2人で術の練習をしてたのか……?こんなになるまで……)

ナルト……」

 

「ん?」

 

「その背中の巻物はどうした?」

 

 

イルカもこの可笑しい現状に気付き、先程までの怒気を含んだ声では無く、真剣にナルトに問いかけた。

ユウも真剣な様子でそれを見つめる。

 

 

「あっ!これ!?ミズキ先生がこの巻物のこと教えてくれたんだってばよ、んで……この場所も……

この巻物の術見せれば卒業間違いないってよ!!」

 

「「(……ミズキ/先生が一一!?)」」

 

 

二人は同じ結論に辿りついた。

その時、殺気と共にクナイが飛んできた。

イルカはそれを察知し、ナルトを突き飛ばして自身にクナイを受け、ユウを飛んできたクナイの何本かをかわしてキャッチし、残りのクナイを弾き落とした。

 

 

「よくここが分かったな、琥珀ユウまでいやがるし」

 

「なるほど……そーいうことか!」

 

 

冷たい声と共に目の前の木の上に誰かが着地した。

いわずもがな、ミズキである。

今まで被っていたやさしい教師という名の仮面をかなぐり捨て、その表情は冷たく、目は里人がユウやナルトを見るときと同じ、あの冷たい瞳だった。

ユウはクナイを持ったまま、ミズキを睨みつける。

イルカも血反吐を吐きながらミズキを睨む。

 

 

「ナルト、巻物を渡せ」

 

「あのさ!あのさ!どーなってんの?コレ!」

 

 

一人現状が理解出来ないナルトはキョロキョロとイルカとユウ、そしてミズキを見る。

 

 

「ナルト!!巻物は死んでも渡すな!!」

 

 

自分に刺さったクナイをズボッと抜きながらナルトに叫ぶ。

 

 

「あたしも今思い出したんだけどね……その巻物は禁じ手の忍術を記して封印した危険なものなの!

ミズキはそれを手に入れるためにナルトを利用したんだよ!!」

 

 

ザッ!

 

解説により、ナルトは自分が騙されていたという事が理解でき、構えてミズキをにらみつけた。

 

 

「ナルト……お前が持っていても意味がないのだ!本当のことを教えてやるよ!」

 

「「!!」」

 

「バ、バカよせ!」

 

 

ミズキの“本当のこと”という単語にユウが僅かにピクッと反応し、イルカは焦ったように叫んだ。

 

それは容易に受け入れられる真実ではない、ナルトが傷つくであろう事はユウにだって分かっている。

しかし、静止をかけるイルカに対し、ユウは黙って見守ることに決めた。

ナルトを信じてみようと思ったのだ。

真実を受け入れ、その真実にナルトが打ち勝つ事を……。

 

ミズキはゆっくりと、真実を語り始めた。

 

 

「12年前……バケ狐を封印した事件は知っているな」

 

「?」

 

 

そう切り出してきたミズキに嫌な予感がしながらも、ナルトはミズキの意図が読めず、頭の上に?を浮かべた。

 

 

「あの事件以来……里では徹底したある掟が作られた」

 

「……ある掟?」

 

「しかし……ナルト!お前にだけは決して知らされることのない掟だ」

 

「……オレだけ……!?

……何なんだその掟ってばよ!?どうして……」

 

 

切羽詰った表情で問いかけるナルトだったが、ミズキはクククッと嫌な笑い声をあげる。

 

 

「どんな……どんな掟なんだよ?」

 

 

恐る恐るもう一度ナルトはミズキに問いかける。

次に来るであろう残酷なミズキの言葉に、拳を握り締めたユウはそっと瞳を伏せた。

そして、ミズキが口を開いた。

 

 

「ナルトの正体がバケ狐だと口にしない掟だ」

 

「え?」

 

 

ナルトは鈍器で殴られたようなショックを受け、一瞬、時が止まったかのような沈黙がおりた。

伏せていた瞳を辛そうに固く閉じたユウの拳からはポタリポタリと血が滴り落ちる。

 

 

「どっ……どういうことだ!!」

 

 

あまりにも衝撃的な発言に、ナルトは後ずさる。

 

 

「やめろ!!」

 

 

イルカの叫び声が虚しく響く中、再びミズキは語りだした。

 

 

「つまりお前が、イルカの両親を殺し一一!!里を壊滅させた九尾の妖狐なんだよ!!」

 

「!!」

 

 

ナルトは再び目を見開く。

 

 

「お前は憧れの火影に封印された挙げ句一一「やめろー!!」里のみんなにずっと騙されていたんだよ!!」

 

 

だんだん顔を俯かせていくナルト、ユウは更に強く拳を握り締め、耐えるように唇をギリッと噛む。

 

 

「おかしいとは思わなかったか?あんなに毛

嫌いされて!」

 

 

ナルトの脳裏に冷たいあの目で見てくる里人達が走馬灯のように浮かび上がり、涙が溢れる。

ミズキは背に背負っていた大形の手裏剣を手に取る。

 

 

「イルカも本当はな!お前がにくいんだよ!!」

 

 

ザッ!!

 

構えて手裏剣を振り回すミズキ。

 

 

「っ(ナルト……ッ!)」

 

 

ゴウ!っとチャクラがナルトから溢れ、風が巻き起こる。

その中、ナルトは何度も何度もちくしょう!と叫ぶ。

そんなナルトに我に返ったユウとイルカが辛そうに見つめた。

 

 

「ぐふっ」

 

――――親の愛情を知らず、里の者にはあの事件のことでけむたがられる。

 

 

吐血するイルカの脳裏に浮かび上がった火影の言葉。

 

 

「お前なんか誰も認めやしない!!」

 

―――だから人の気をひくためにいたずらをするしかなかったのじゃ。

  どんなかたちであれ、自分の存在価値を認めて欲しかったのじゃよ。

 

「その巻物はお前を封印するためのものなんだよ!!」

 

 

嘲笑いミズキは手裏剣をナルト目掛けて放った。

 

 

「死ねェ!ナルトォー!!」

 

「!!ナルトッ!!」

 

 

ユウは咄嗟にナルトを庇う為、ナルトを背に躍り出る。

近付いてくる手裏剣に襲い掛かるだろう激痛を予想して、そっと瞳を閉じた。

 

――――強がってはいるが、つらいのはナルトの方じゃ……。

 

ザク!!

 

肉が裂ける音が辺りに響いた。

 

 

「「………?」」

 

 

いつまで経っても来ない激痛の代わりに、生温かい何かがポタポタとユウとナルトに降りかかる。

そっと瞳を開けると信じられない光景が視界に飛び込んできた。

手裏剣をその身に受けたのは、標的だったナルトでも、ナルトを庇おうとしたユウでも無く……イルカだった。

 

 

「ぐっ……」

 

「!」

 

「……そん、な……」

 

「…何で……」

 

 

痛みに顔を歪めるイルカにユウとナルトは悲痛に顔を歪め、呟くと吐血しながらイルカは口を開いた。

 

 

「……オレなァ……両親が死んだからよ……。

誰もオレをほめてくれたり認めてくれる人がいなくなった。

……寂しくてよォ……。

クラスでよくバカやった。………人の気をひきつけたかったから。

優秀な方で人の気がひけなかったからよ。

全く自分っていうものが無いよりはマシだから……ずっとずっとバカやってたんだ。

苦しかった」

 

 

イルカのその言葉が、ユウとナルトの胸に染み込んでいった。

ポツポツと独白したイルカの瞳から涙が溢れ、2人に優しく降り注ぐ。

 

 

「そうだよなぁ……ナルト……さみしかったんだよなぁ……苦しかったんだよなぁ……。

ごめんなァ……ナルト。オレがもっとしっかりしてりゃ、こんな思いさせずにすんだのによ」

 

 

もう、ナルトは大丈夫だ。

 

イルカの独白を、ただ黙って聞いていたユウはそう思った。

人一倍人の心に敏感なユウは、ナルトを想っているイルカに嘘や偽りは無いと感じたからだ。

それを、面白くなさそうに見下ろすミズキ。

ナルトはしばらくイルカを見つめていたが、少しずつ視線を逸らし、逃げるように走りだした。

 

 

「ナルトォ!」

 

 

その声にも耳を貸さず、とうとうその背中は見えなくなってしまった。

 

 

「クククク、残念だがナルトは心変わりする様な奴じゃねぇ、あの巻物を利用し、この里に復讐する気だ」

 

 

その言葉にピクッと眉を上げたユウは、すっと立ち上がるが、耐えるように拳を握り締め、ナルトが走り去った方向を見つめる。

 

まだだ……まだ、あたしが出る幕じゃない。

 

 

「さっきのあいつの目見たろ!?妖狐の目だ!」

 

「ぐっ!……ナルトは……そんな……奴じゃない……」

 

 

大型手裏剣を抜き、そう言い放ったイルカに内心満足そうに笑みを浮かべ、ユウはイルカを庇うようにミズキの前へと躍り出た。

 

 

「ほう?バケ狐の次は本物のバケモノときたか」

 

「貴方はナルトの……ナルトの何が分かるんですか?」

 

 

静かにそう告げた瞬間、辺りの空気が変わった。

 

 

「あ?」

 

「ナルトはバケモノなんかじゃない……。

ナルトの目は妖狐の目なんかじゃない」

 

 

ユウは先程走り去ってしまった彼を思い浮かべる。

人一倍頑張りやで……誰よりも優しくて……誰よりも傷つきやすい、ナルトの強くて優しい目……。

 

 

「……綺麗な」

 

「ユウ……?」

 

「青空色の、綺麗な瞳だよ」

 

 

サアッと優しい金色の風が辺りに吹いた。

しばらく穏やかな表情でミズキを見据えた後、イルカに大丈夫とでも言うようにニコリと笑いかけ、ナルトを追って駆け出した。

 

 

 

おそらくヒルゼンのことだ、今のこの状況も水晶で見ているはず。

ナルトは今、精神が不安定な状態だ。

万が一九尾にでもなったら、その時はナルトを殺そうとしてくるだろう。

 

 

「急がないと……!」

 

 

全神経を集中させて、ナルトを探る。

 

 

「見つけた!!」

 

 

案外近いところにいたナルトは、例の巻物を抱えて木の根元に座って、ミズキとイルカの様子を伺っていた。

ストッとナルトの目の前に降り立てば、ナルトは目を大きく見開いて声を出そうとしたので、ニコリと微笑みかけて口元に人差し指をあて、静かにと合図する。

ナルトは何か言いたげに口をパクパクさせたが、ミズキとイルカの様子を見ることに専念した。

 

 

「ククク……親の仇に化けてまであいつを庇って何になる」

 

「お前みたいなバカ野郎に巻物は渡さない」

 

「バカはお前だ、ナルトもオレと同じなんだよ」

 

「!……同じ?」

 

 

ユウも訝しげにミズキを見る。

 

 

「あの巻物の術を使えば何だって思いのままだ」

 

 

狂気に染まった顔を歪めて笑みを浮かべるミズキに呆れを通り越して哀れだとユウは思った。

ナルトの瞳が妖狐の目ならばミズキは術に取り憑かれ、心がバケモノになってしまった者の目だ。

この巻物に書かれている術は危険なものばかりな上、下手したら自分の命を早める結末……。

つまり自害してしまう可能性だってでてくるわけだ。

どんなに強力で、凄い術を覚えても所詮は術者次第。

自分の力を過信すれば身を滅ぼすというもの。

正にミズキの今の状態がいい例と言えた。

 

 

「あのバケ狐共が力を利用しない訳がない、あいつはお前が思っているような……」

 

「ああ!」

 

 

まさかのイルカの肯定に、ナルトは傷ついたように目を見開き、前方を睨む。

 

 

「……」

 

「ハハ……やっぱそうだってばよ!

ホラな……イルカ先生も本心ではオレのこと……認めてねェーんだ」

 

「……それは違うと思うけどな」

 

 

ユウにしか聞こえない、ナルトの悲痛の呟きに、意味深に笑いかけるとイルカたちを見つめた。

その表情はどこか嬉しそうだった。

 

 

「バケ狐ならな」

 

 

再びナルトは目を見開いた。

 

 

「けどナルトは違う、あいつは……あいつは、このオレが認めた優秀な生徒だ。

……努力家で一途で……そのくせ不器用で誰からも認めてもらえなくて……。

あいつはもう人の心の苦しみを知っている……。

今はもうバケ狐じゃない」

 

 

あまりにもまっすぐなイルカの言葉の一つ一つがナルトの胸に染み渡り、ギュウっと巻物を抱きしめる。

 

 

「あいつは木ノ葉隠れの里の……うずまきナルトだ」

 

 

はっきりと言い切ったと同時に、ナルトの瞳から涙が溢れる。

ユウはニッコリ笑い、ナルトの両手を優しく包み込んで見守った。

 

 

「!……ケっ!めでてー野郎だな」

 

「!ぐっ!!」

 

 

大型手裏剣を構えるミズキにヤバいかな……と呟く。

イルカは背中の傷口からの出血が酷く、避けられそうに無い。

 

 

「イルカ………お前を後にするっつったがやめだ……さっさと死ね」

 

 

手裏剣を振り回すミズキを見てここまでか、とイルカが穏やかな表情で瞳を閉じた。

 

 

「!!」

 

 

すさまじい金属音に開いたイルカの目に飛びこんできたもの。

それは、ミズキが放った大型手裏剣をクナイ一本で弾き返したユウと、ミズキを殴り飛ばしたナルトだった。

 

 

「!!(ユウ……ナルト……!?)」

 

「グッ……やってくれるじゃねェーか……」

 

 

ゆらり、と立ち上がったナルトはミズキを睨みつけ、ユウもナルトの隣へと駆け寄り、無表情でミズキを睨みつける。

 

 

「……イルカ先生に手ェ出すな……殺すぞ……」

 

「バ……バカ!何で出て来た!!逃げろ!!」

 

「ほざくな!!てめェーらみたいなガキ、一発で殴り殺してやるよ!!」

 

 

スッと同じ印を結ぶ2人はミズキを見据える。

 

 

「やってみろカス!千倍にして返してやっから」

 

「ナルト~、あたしも入るから、二千倍に訂正だよ?」

 

「てめェーらこそやれるもんならやってみろバケ狐共ォォ!!」

 

 

血走った目で二人を睨むミズキ。

 

 

「!」

 

【影分身の術!!!!】

 

「!!!」

 

 

イルカとミズキは目を見張る。

なぜか、それは千人ずつに影分身した二人にミズキは囲まれてしまっているからだ。

 

 

「なっ!なんだとォ!!!」

 

 

さっきまでの威勢はどこへいったのか、完全に怖気づいたように辺りを忙しなく見回すミズキに挑発するナルトたち。

 

 

「「「どうしたよ、来いってばよ」」」

 

「「「あたしたちを一発で殴り殺すんでしょう?」」」

 

 

バカにしたように笑うナルトと、あれれ?というようにきょとんとして尻餅をついたミズキを見るユウたち。

 

 

「(ユウ、ナルト……お前ら……)」

 

「「「それじゃ遠慮なく!!」」」

 

「「「こっちからいくぜ!!」」」

 

 

楽しそうに笑い、拳を構えるナルトたちと共に、ユウたちは申し訳なさそうに苦笑しつつ、同じく拳を構えた。

 

 

「うぎゃあああああああああああああああああああああああああああ」

 

「(へっ!本当に千人に分身しやがるとは……。その上……残像ではなく実体そのものを作り出す高等忍術“影分身”……。

コイツ、ひょっとすると……本当にどの火影をも……)」

 

 

思わずイルカは笑みを浮かべた。

 

 

数分後、ようやく気が済んだのか、二人は影分身を解く。

目の前にはボコボコになって戦闘不能なミズキが大の字に倒れている。

ふと、ユウは空を見上げた。

 

……もうすぐ夜明け、だね。

 

 

「へへ……ちょっとやりすぎちゃった」

 

「んー、これでちょっとは反省するんじゃないかな?」

 

 

ミズキを見て、3人で笑っているとナルトが急に顔を俯かせた。

心配になったユウはナルトの顔を覗き込み、こてん、と首を傾げる。

 

 

「どうしたの?ナルト。元気ないよ?」

 

「ユウ……あのさ……」

 

 

申し訳なさそうなナルトの言わんとする事が分かり、ストップ、とでもいうように手のひらを前に出す。

 

 

「イルカ先生も似たような事言ってたけど、ナルトはナルトでしょ?

むしろナルトは木ノ葉の英雄じゃないかな?」

 

「……え?」

 

「だって、ナルトがいなかったら、今頃木ノ葉はここにないのかもしれないんだよ?

だったら、あたしたちを守ってくれた英雄だよ!

そうでしょ?」

 

「っ……でも……オレの中には九尾が封印されてて……いつ、また暴れだすか分からないんだってばよ……?

その時はお前を傷つけちまうかもしれねェんだ……。

ッそんなの……怖いだろ?」

 

 

泣きそうな顔で、弱音を吐くナルトに驚いたように目を丸くする。

でも、ユウはどこか嬉しそうに笑った。

自分が嫌いなわけじゃないのだ、と。

こんな自分でも、一応必要としてくれているのだ、と……。

 

 

「その時は……あたしがナルトを止めるよ!約束する」

 

 

そう言って、ユウはおずおずと小指を差し出した。

 

 

「えーっと、約束するときは“指きり”っていうのをやるんでしょ?

あたし、ナルトを絶対に助けるよ……だからナルトも……」

 

「……ユウ?」

 

 

俯いたユウを心配そうに呼びかけるナルト。

 

 

「だから、ナルトも……もしもあたしがおかしくなっちゃったりしたら、全力で止めてね?」

 

「?……分かったってばよ!よく分かんねーけど、もしユウが変になっちまったら、オレが全力で助けるってばよ!!」

 

「ホント?……約束、だよ!」

 

「オウ!約束だ!!」

 

 

お互いに指を絡め、笑いあう。

 

 

「フー……ナルト、ちょっとこっち来い。お前に渡したいもんがある!」

 

 

何をしようとしてるのか気付いたユウは、ニコリと笑ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「先生……まだ?」

 

「よし!もう目開けていいぞ……」

 

 

ナルトの視界に入ったのは、夜が明けたのか、朝日に照らされている額あてをつけてない、笑顔のイルカと、嬉しそうに笑っているユウ。

 

 

「卒業……おめでとう」

 

 

そしてゴーグルを付けていた額にはアカデミーを卒業し、一人前と認められた証である額あて。

 

 

「ナルト、一緒に卒業だよ!!」

 

「今日は卒業祝いだ、2人にラーメンおごってやる!!」

 

 

ナルトは泣きそうに口元を歪め、笑いながらそれに気付いたイルカに隠すため、イルカに抱きついた。

 

 

「(ナルト、忍にとって本当に大変なのはこれからだ!!って説教するつもりだったが……。ま!それはラーメン屋まで我慢しといてやるかな……)」

 

 

イルカとナルトがじゃれているのを見て、朝日を見上げる。

 

 

長くて、大変で……ちょっぴり辛かったり悲しかったりしたけど……。

やっぱり、忘れられない一日になりそうです……。

どこかで、2人も見てるのかな。

この綺麗な空を。

 

 

「そうだったらいいな」

 

 

また、2人に会いたいです。

会えたら、いっぱい話したいな。

 

また繋がり、再び会える日を信じて……。

 

 

 

 

 

 




以上、アカデミー編終了のお知らせです。
次からは下忍選抜編に入ります。
いよいよあの遅刻魔上忍が現る!(笑)

感想などなどお待ちしております!

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