絆道~始まりのミチシルベ~   作:レイリア@風雅

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第28話 大蛇丸

 

取り敢えず、いきなり走っていても仕方がない、と木から降り立ち、ゆっくりと森の中を進む。

わざわざ探さなくても、恐らく向こうからやってくるだろうと判断してのことだ。

 

 

「(ヤバイな……)」

 

 

全く感覚が元に戻らない。

それだけあの強い殺気は、ユウの神経を尖らせる要因となっているのだ。

 

あれだけの殺気を放つなんて、下忍とは思えないな……

 

一応誰かに伝えた方が良いだろうかと思案していると、カサカサと葉が音を立てた。

 

 

「お前が一人参加の琥珀ユウか……」

 

「いきなりぶち当たるなんてツイてるねぇ」

 

 

霧隠れの忍がユウの前に立ちふさがった。

しかも、全員勢揃いで。

 

 

「……あたし、巻物持ってませんよ?」

 

「知ってるよそんなこたぁよ!

とっとと潰しといた方がオレ達が合格できる可能性もあがるってなもんだ!」

 

「……つまり、戦う、と」

 

 

あー、まだ感覚戻ってないのに、と冷えていく思考の中、ぼやく。

しかし、もうすでにそれぞれの得物を手にユウへと襲いかかってくる。

迷ったのも一瞬、けれど腹を括ったのも一瞬だった。

キッと鋭く相手を見、クナイを手に相手と向かい合った。

一瞬のことだった。

赤い軌跡が舞ったのを視認した直後、彼らが手にしていた武器は粉々に砕け散り、何事だと目を見張った直後には気絶していたのだ。

一方のユウはクナイを手にしていたが、ほとんどその場から動いていなかった。

 

 

「えーと、巻物は……と」

 

 

巻物が発する微弱な術式の気配を感じ取り、懐を漁ってお目当ての巻物を手にする。

 

 

「んー……天の書か」

 

 

つまり後は地の書を狙うだけである。

先ほどの戦闘で少し感覚を戻すことが出来たのか、ほうっとした表情を浮かべた。

しかし、程なくして新たな刺客が現れた。

 

 

「おい、その天の書をよこしな」

 

「そうすれば見逃してやっからさ」

 

「……えーと……」

 

 

再び全員揃ってのご登場だった。

そんなに巻物を取られたいのだろうか。

数瞬どうしようか悩むが、ペコリとお辞儀する。

 

 

「ごめんなさい」

 

「はぁ?」

 

 

疑問の声をあげた直後には、ユウは既に行動を開始していた。

跳躍し、敵の後ろに回り込むとワイヤーを付けたクナイを2本、彼らへ投げつける。

驚きながらも敵がそれを弾けば、弾かれたことによってワイヤーも動きを変え、自分たちで自分たちを木に拘束してしまった。

しまったと気づくもすでに遅く、ふわりと漂ってきた甘い香りと共に意識を失った。

 

 

「さて、あなたたちの巻物いただきます」

 

 

ぼんやりと幻術にかかったままの男から巻物を拝借し、確認する。

地の書だった。

 

 

「……」

 

 

運がいいのか、相手の運が悪すぎるのか……。

こうしてユウの巻物は早くも1セット集まったのだった。

天地、両方の書をポーチにしまったその時、遠くの方で嫌なチャクラの気配を感じ、ハッと振り返る。

 

 

「あれは……」

 

 

あの髪の長い草忍の姿が、脳裏によぎる。

要注意人物であるその人はどうやらしっかりとした目的を持って行動していたらしい。

一切の迷いのない進行先にはナルトたちのチャクラがあった。

そして、草忍がナルトたちへ接近した直後、三人のチャクラはバラバラになってしまった。

どうやらサスケとサクラから引き離され、ナルトは一人遠くへ吹き飛ばされてしまったようだ。

 

 

「あちこちで術使っているから探知しにくいっ……!!

この感じは……風遁?」

 

 

同意書を提出する直前、彼らと握手を交わしたあの時に実は細工をしていたのだ。

嫌な予感がしていたユウが、保険に付けておいたマーキング、闇遁・追影子(ついえいし)は、相手の影に術者のチャクラを忍ばせることにより、他の受験者のチャクラよりも濃密に感知することの出来るのだ。

風遁系の術で飛ばされたナルトはともかく、サスケとサクラのすぐ傍に草忍がいる。

二人が危険だ。

自分の予感は間違っていなかったと焦燥の表情を浮かべ、ユウは一気に駆け出した。

 

 

「!く……」

 

 

人目も憚らず木から木へと素早く移動していくと前方に網が仕掛けられており、何とか体を捻って交わす。

その先に現れた雨忍。

 

 

「ッ(邪魔しないでよ……!!)」

 

 

今こうしている間にもナルトたちに危険が迫っているというのに!!

 

余裕のないユウは問答無用でクナイを振るい、手早く三人を気絶させ、彼らが手にしていた地の書を1つ手に入れ、再び駆け出した。

 

 

「間に合って……!!」

 

 

あともう少し、というところで走り続けるユウが感知したのはいつの間にかサスケたちと合流していたナルトの中の九尾のチャクラだった。

ナルトがきっと持ちこたえてくれてる、それを信じてユウは突き進んだ。

 

 

+++++

 

見慣れた桃色の髪と黒髪に安堵を隠せない自分がいた。

だが、そんなユウの目の前でナルトの腹部へ突き立てられた、青白い炎を宿した草忍の手。

 

 

「なる……と……?」

 

 

呆然と立ちすくむユウの目の前で、見開かれた瞳がゆっくりと閉じられていく。

ダラン、垂れた四肢。

すべてがスローモーションのように感じて、悪夢なら覚めて欲しいと願った。

フツフツと、頭が沸騰してしまいそうな程の怒りがユウの頭を支配する。

 

どくん

 

目の前が真っ赤に染まるような感覚に心臓が一つ跳ねた。

ナルトから天の書を奪った草忍は、用済みだとゴミを捨てるかのようにナルトを放り投げる。

 

 

「ナルトォ!!」

 

 

このままでは落ちる、とクナイを飛ばそうとしたサクラの目の前を、光が弾丸のように通り過ぎていった。

 

 

「え……!ユウ!!?」

 

 

ナルトを受け止めた光……ユウは、彼を寝かせ、安否を確認すると口から滴る血をそっと優しく拭ってやり、立ち上がった。

すぅっと翡翠の双眸を冷たく細め、草忍を見据える。

再び二人の視線が交わった。

今は仮にも敵同士となってしまったのに、それでも助けにきてくれたユウ。

彼女の姿に安心してしまう自分を叱咤し、サクラは瞳に涙を溜めながらサスケをにらみ、言葉を投げかけた。

 

 

「サスケ君!!ナルトは……確かにサスケ君と違ってドジで……足手まといかもしんないけど……

少なくとも臆病者じゃないわ!ねえ!!そうでしょ!!」

 

 

サクラの必死に訴えに、草忍と対峙していたユウの口元に柔らかな微笑が浮かんだ。

サスケは何かを耐えるような表情で、辛そうに唇を噛み締め、瞳を閉じる。

脳裏によぎる、冷たい写輪眼。

 

 

『愚かなる弟よ……このオレを殺したくば恨め!憎め!

そしてみにくく生きのびるがいい

……逃げて逃げて……

生にしがみつくがいい……』

 

 

違う!!

 

瞳を再び見開き、写輪眼を宿した彼に恐怖や怯えは残っていなかった。

そこにいたのは先ほどまでの怯えていた彼ではなく、下忍第七班のうちはサスケ。

確かに一人の忍だった。

 

 

「(オレは兄貴を殺す為に生き残らなきゃならない……そう思った…!

だが間が抜けてたのはオレの方だったようだな…ナルト…サクラ…!)」

 

 

印を結び、大蛇を消した草忍から白煙があがると共にサスケは口にクナイを、右手に四本のクナイを、残る左手に風魔手裏剣を構える。

チラリ、ユウに目を向ける。

彼女はただ微笑んでいて、『行ってこい』と背中を押された気がした。

 

お前には本当に助けてもらってばかりだな…。

オレが初めて心から守りたいと思った人。

なのにオレ自身がこんなじゃダメだな……。

お前を守れるくらい、強くならねーと……

 

その為にもまずは

 

 

「(コイツを絶対に倒す!!)」

 

 

今はまだ、見守っていてくれ

 

サスケと草忍の戦いの幕が開いた。

先手をとったのはサスケ。

クナイを投げ、上手く草忍を狙っていた場所へと誘導していく。

やってきた敵を向かい打つように木に手をかけ、勢い良く風魔手裏剣を草忍目掛けて放った。

跳んでかわされてしまったが、これはサスケの読みの内だったのだろう。

ぐるりと木を一回りし、チャクラを込めて飛ばしたクナイにワイヤーが付けられていたのをユウはしっかり見ていた。

草忍の逃げ道を奪うようにワイヤーがサイドに貼られ、身動きが取れなくなってしまう。

放たれたクナイによってワイヤーが引っ張られ、先に放っていた風魔手裏剣が進行方向を変え、逃げ道を失った草忍へ目掛けて帰ってくる。

 

そこでようやく草忍もサスケの思惑に気付いた。

 

 

「これは…写輪眼操風車三ノ大刀!!」

 

 

手裏剣に気を取られ、振り向いた草忍の顔面に手裏剣が直撃した。

 

 

「やったぁ!!」

 

「(いや……)」

 

 

かのように思えた。

 

 

「フフ……残念だった……(私の逃げ道を完璧に読んでそこに見えない三手目を打つとはね……)」

 

 

手裏剣は口で受け止められていた。

余裕の表情を崩さず、振り向いた草忍だったが、サスケが結んでいる印の形を見て目を見開く。

最後に結ばれていた印は、“寅”。

 

 

「フン」

 

 

“火遁 龍火の術”!!

 

口から吐き出された炎は糸を伝い、繋がっていた手裏剣へと一直線へ燃え広がった。

目を見開いた直後、炎は草忍を襲い、顔を覆い尽くした。

息を荒げ、警戒を解かずに草忍の出方を伺うサスケとサクラ。

ユウもクナイを構える。

 

 

「その歳でそこまで写輪眼を使いこなせるとはね…

さすがウチハの名を継ぐ男だわ……」

 

 

シュー、と煙が立ち上る中、苦しんでいる素振りすらなく、ただ淡々と言葉を紡ぐ草忍は明らかに異常だった。

顔に重度の火傷を負い、それでも尚平然としているのだ。

警戒を強める中、草忍は不気味な笑みをこぼす。

 

 

「やっぱり私は…君が欲しい…」

 

「サスケ君……」

 

 

明らかに尋常ではない草忍の言葉にサスケの安否が気になったのか、サクラがサスケの元へ駆けつける。

草忍は額あてのマークを手で覆う。

 

 

「いろいろと君の力が見れて楽しかったわ」

 

 

その直後、ユウたちを凄まじい圧迫感が襲った。

かなしばりの術だ。

体を動かせず、恐怖の表情を浮かべるサクラたち。

 

 

「やっぱり兄弟だわね……あのイタチ以上の能力を秘めた目をしてる」

 

「!!お前はいったい何者だ!?」

 

「私の名は大蛇丸。もし君が私に再び出会いたいと思うなら……

この試験を死に物狂いで駆け上がっておいで」

 

「あ!!」

 

 

草忍…否、大蛇丸は“草”から“音”を示すマークへと変えた額あてを晒し、ナルトたちが所持していたのであろう天の書を燃やす。

 

 

「私の配下である音忍を破ってね……」

 

「な……なにワケ分かんないこと言ってんのよ!

アンタなんかの顔こっちはもう二度と見たくないっていうのよ!」

 

「フフ…そうはいかないのよ…」

 

 

印を結んだ大蛇丸の首が伸び、動けないサクラたちへと襲いかかってきた。

サスケを狙って大きく口を開ける。

 

 

「させないよ」

 

 

凛、響き渡った声と共に、ふわりとサスケとサクラの頬を撫でるように優しい風が吹いた。

その直後、クナイで一閃を放たれ、それを避けるためやむを得ず伸ばした首を元に戻す。

元凶をにらめば、静かな怒りを燃やす翡翠の瞳と交わった。

三度目に交わった視線。

 

 

「ユウ……」

 

 

今にも泣き出してしまいそうなサクラの声に、少しだけ雰囲気を和らげる。

 

 

「大丈夫だから。二人は少しそこで休んでて

後はあたしが引き受ける」

 

「でもそれじゃあユウが……っ」

 

「そうだ!お前だけでも逃げろ!!」

 

「ゴメン。あたし、ここで逃げたら……もう本当に“七班”のメンバーとして認められないと思うから。

せめて今は……今だけは……下忍第七班の琥珀ユウでありたい」

 

 

ユウの言っている意味がよくわからなかった。

けれど、逃げろと訴えても逃げる素振りすら見せず、背を見せ続けるユウにホッとしている自分たちがいるのも確かで、サスケは悔しくなった。

 

 

「フフ……そうね、うっかり貴女のことを忘れていたわ

忘れていた分もたっぷり可愛がってあげましょうか……」

 

「御託はいい……大蛇丸、貴方だけは絶対に倒す!!」

 

 

凄まじい殺気に大蛇丸が冷や汗を流す。

 

 

「(この殺気……既に下忍レベルじゃないわね……それどころか暗部レベルじゃない)」

 

 

だが、浮かんできたのは獲物を見つけた時の喜び。

くつくつと不気味に笑う。

 

 

「やっぱりいいわね……ずっと狙っていただけはあるわ

貴女がずっと欲しかったのよ?

木ノ葉の里が創立される前から存在していた、最強の一族であるあの琥珀一族が“造り出した”唯一の……」

 

 

ヒュン、頬を掠めていったクナイ。

表情は全くないのに、瞳は燃えたぎるような怒りに染まっていて、翡翠の瞳にチラチラと赤がちらつく。

 

 

「余計な話は終わりにしましょう。

次は、殺します」

 

「っ……可愛い形して、中身は“あの頃”と変わっていないようね……

フフ、安心したわ

貴女まであの耄碌爺に絆され、平和ボケしていたのかと思ってたけど……」

 

「……耄碌爺?」

 

「三代目火影のことよ。この試験が終わったら伝えておきなさい

“その程度の術で私の目は誤魔化せない”とね……」

 

「!」

 

 

咄嗟に身構えるユウに楽しくて仕方がないといったように笑みを浮かべた。

スラリと一本の刀を出現させ、一つ振るう。

 

 

「いいわ……相手をしてあげる。

存分に楽しみましょう……殺し合いを」

 

 

二つの殺気のぶつかり合いに当てられたサクラたちは体を震わせる。

ユウが緩和してくれているのか、先ほどのように幻覚を見るようなことはなかったが。

フッ、二人が姿を消したと思った次の瞬間に、サスケの真横で火花が散る。

ギィン、と激しく金属がぶつかり合う音。

それが絶え間なく、火花だけを残してまた姿を消し、ぶつかり合う。

正に一進一退の攻防。

 

 

「す、すごい……(あの大蛇丸とかいう奴相手に互角だなんて……)」

 

 

踊るように回転しながら大蛇丸の進行方向へ先回りし、クナイを振り続ける。

サスケたちがいるのもあり、かなり不利な状況。

おまけにユウは自分の力に幾重もの封印術を駆使して制限をかけているのだ。

今、術を解く時間などなく、今持てる最大のスピードで必死に先読みをしているからこそなんとか食らいついている現状。

結果、一進一退の攻防に見えるだけで、実はかなりの防戦一方だった。

 

 

「(チャクラでコーティングしているとはいえ、このままクナイだけでどうにかできる相手じゃない)」

 

 

冷えていく思考の中、見えてくる大蛇丸の行動パターンに目を光らせる。

相手の刀は特別性なのか、クナイがどんどん刃こぼれし、脆くなっていく。

力の限りクナイを振り続けているせいか、手の傷が開いてしまったようで包帯は既に意味をなしていない。

 

元々“守る戦い”などしたことがなかった。

いつも“壊す戦い”のみをしていたから。

そんな自分が今、慣れない“守る戦い”の中で、出来ること……

 

再びサスケの前方から狙ってくるのを感じ、先回りし、彼らの前に姿を見せる。

計算通り迫ってきた大蛇丸にフッと笑い、ユウは脆くなってしまったクナイを放り捨てた。

それは予想外だったのか、刀を斜めに振り上げながら目を見開く大蛇丸。

振り上げられた刀は、ユウの脇腹を貫いた。

 

 

「ユウッ!!」

 

「つ……」

 

 

二人分の悲鳴。

そのまま刀が振り抜かれないように手で押さえ込む。

 

 

「!(刀が抜けない……!?)」

 

「っ、あたしは……“守る戦い”には慣れてないんですよ

だから……っ!!」

 

 

一気に印を組みあげ、先ほど放り捨てたクナイが眩い光を発する。

危険を察知した大蛇丸がユウから離れようとするが、刀を更に引き寄せ、腕を捕まえる。

 

 

「“壊す”だけ……!!」

 

 

 

“光遁 粒子散弾(りゅうしさんだん)の術”!!

 

クナイが細かい粒子状になり、一斉に大蛇丸目掛けて無数の光の弾丸が飛び交う。

右腕を粒子に貫かれ、ユウも一緒に被弾したのを見逃さず、刀を引き抜いてユウを突き飛ばし、後ろに跳躍することで弾丸をかわす。

弾丸はユウを貫く直前で勢いを失い、一つの球体となってより一層眩い光で森を照らした。

 

 

「くっ!」

 

 

あまりの眩しさに思わず手で顔を隠し、光から庇う。

大蛇丸が顔を覆った隙を見逃さず、さっと印を結んでいく。

大蛇丸が自分の行動にしまったと思ったときには既に遅く、彼の持っていた刀から漆黒の蔦のような物が生え、大蛇丸の体をも拘束した。

 

 

「な……これは……!?」

 

「“闇遁 爆華昇(はっかしょう) 一ノ舞”」

 

 

スッと印を構えると、大蛇丸を拘束した蔦から漆黒の小さな華が咲いていく。

 

 

「 爆 」

 

 

ドカァアアアアアアン

 

巻き込まれた大蛇丸は爆発の中に消えていった。

煙が完全に晴れるまで警戒を解かずに待っていると、晴れた先にはボロボロに砕け散った刀。

間違いなく大蛇丸が使っていた刀だとわかると、気を緩め、緩慢な動作だがサクラたちへと振り返り、安心させようと微笑んだ。

 

 

「やはり……甘い」

 

 

その声にゾクリと悪寒が走ったその直後。

 

 

「……え……?」

 

「!ユウっ!!」

「!!」

 

「がは……ッぅ!!」

 

 

ゆっくり視線を下ろすと、血が滴っている銀色に光る刀身。

刺されたと気付いた時にはもう遅かった。

続けざまに二、三度切りつけられ、最後にトドメと言わんばかりに鳩尾付近に突き刺された。

勢い良く刀を引き抜かれ、倒れ込むユウを見つつ、大蛇丸は印を結ぶ。

 

 

「!(……封印術を何重も……通りで以前のキレがないわけね

抑えていてこの力……本当に彼女は素晴らしい)」

 

 

舌なめずりをした大蛇丸に激痛に震える体を叱咤し、殴りかかるが、逆に手を掴まれ、拘束されてしまう。

 

 

「く……離して……っ!!」

 

「フフ……それは“あの頃”の忌まわしい記憶を思い出してしまうから、かしら?

手が震えているわよ」

 

 

毅然と立ち向かってきた彼女はどこへやら、恐怖に震え、不自然な呼吸を繰り返す。

当の本人であるユウはこの状況にパニックになりかけ、必死で自我を保とうとしていた。

 

 

「な、んで……!?」

 

 

戦いの最中でこんな風になることは今まで一度もなかった。

何度も襲い来るフラッシュバックに発狂してしまいそうだ。

それをなんとかこらえながら、原因を探っていると、先ほどまで感じられなかった薬品の匂い。

 

 

「やっと気付いたみたいねぇ……

あの刀を破壊されてすぐ、新しい刀を口寄せし、その刀の刀身に……毒を含めた大量の人体実験用の薬品のサンプルを浸したのよ……

毒と言っても直接脳に影響を及ぼす物で、簡単に言ってしまえば幻覚を見やすくさせる物でね。

貴女には最も効果的な組み合わせでしょう」

 

「ッ……!」

 

 

臭いに頭がガンガンと痛み出す。

視界も霞んできて、大蛇丸の姿なんて当に見えていない。

 

 

「立って!立ってよユウ!!」

 

「っう……」

 

「あらあら……貴女の仲間とやらは随分と酷なことを言うのねぇ……」

 

「テメェ、何しやがった!!

今すぐユウから離れろ!!」

 

「や……っ!」

 

 

サスケの怒声にガタガタと体を震わせながら耳を塞ぐ。

そんなユウに戸惑いを隠せないサスケ。

 

 

「う……あぁ……!!」

 

「(これでこの子に邪魔をされることはないわね……

でも一応念には念を打っておきましょうか)」

 

 

額あてを取ると、そこには赤い刻印が額に刻まれていて、淡い光を放っていた。

チャクラを込めた手を額にゆっくりと押し当てた途端、ユウは目を見開いた。

 

 

「な……!」

 

「貴女の封印を解いてあげるわ。

“神龍”の力、そして琥珀の力……

この中忍試験で私にたっぷり見せてちょうだい」

 

 

“解”

 

パキン、何かが割れたような音が響き渡り、ユウの額から刻印が消える。

フッと瞳から完全に光が消え、糸が切れた人形のようにふらりと体制を崩し、そのまま倒れ込んだ。

ユウから手を離しニヤリと笑う。

再び首を伸ばし、サスケの首筋に噛み付こうとしたその時、大蛇丸の視界が金色で一杯になる。

 

 

「っ……あ……」

 

「!!(まだ動けるなんて……想定外ね)」

 

「ユウ……なんで?!」

 

 

首筋に噛み付かれたユウは倒れ込む。

浅い呼吸を繰り返し、脂汗を滲ませながら首筋を抑えた。

 

 

「っ……ぅ……ぅぁあああああああああああああああああああああああ!!」

 

「ユウ!!」

 

 

チャクラを流し込まれたのをきっかけに、理性で捩じ伏せた恐怖や幻覚やらが一度にユウに襲いかかってきた。

苦しそうに叫び、呻くことしか出来ないユウをショックのあまりに呆然と見つめていたサスケの首筋に今度こそと噛み付く。

 

 

「サスケ君は必ず私を求める…力を求めてね…」

 

「!!ぐっ、な、なんだ……急に……苦し……」

 

 

突然サスケまで苦しみ始め、サクラはキッと大蛇丸を睨みつける。

 

 

「アンタ!二人になにをしたのよ!」

 

「サスケ君には別れのプレゼントをあげたのよ……

ユウちゃんのは、そうねぇ……私の物にするための予約をしただけ。

この子はこんな平和ボケした里には勿体ない“道具”。

私が持っていてこそ真価を発揮できるのよ……」

 

 

そう言い残し、大蛇丸は姿を消した。

かなしばりが解け、しゃがみこんで苦しむサスケの傍に膝をつく。

 

 

「サスケ君!!」

 

「うっ……ぐああああああああ!!」

 

「サ、サスケ君……!?

しっかりしてサスケ君!!ねぇ!!」

 

 

苦しむサスケに何度も呼びかけるサクラ。

意識が遠のく中、手を繋ぐ二人を霞む視界に入れ、ユウは浅い呼吸を繰り返す。

 

ああ……結局

まもれなかった……

 

サスケの苦しみ、叫ぶ声が響く中、自我を保った状態で最後にユウを支配したのは、サスケを、サクラを、ナルトを守れなかった無力感だった。

 

 

「グゥオオオオオオオオオ!!」

 

「うっ……うっ……」

 

 

どうしたらいいのか分からくて、どうしようもなくて、サクラはとうとう泣き出してしまう。

 

 

「ナルト…ナルト……サスケくんが……」

 

 

キョロキョロと辺りを見渡し、ナルトの姿を求める。

しかし、見つかったナルトはといえば、少し離れた木の上に寝かせられていて。

サクラたちを守るために必死に戦い、ボロボロの状態でユウに寝かせられていたことを思い出した。

 

 

「ユウ…どうしよう、私……ユウ……!!」

 

 

次に探したユウは、ここにいる誰よりも血だらけで、薄く開いた瞼からは何も写していない曇りきった瞳が覗いていて、弱々しく不自然な浅い呼吸を繰り返していた。

既に気を失っていて、明らかに危険な状態であることは明白で、そんな彼女の姿に更に涙が流れる。

 

 

「!きゃあ!!」

 

 

鳥が鳴く声にすら恐怖を感じて、サスケに抱きついてしまう。

不安で、心細かった。

頼りになる、誰よりも信頼していた仲間たちは自分一人を残してボロボロになって倒れている。

そんな状況にどうしようもなく涙が零れ落ちた。

 

 

「(私……私……

どうしたらいいの……!!)」

 

 

サクラの不安に答えてくれる者も、安心させてくれる者も、守ってくれる者も、ここにはいなかった。

 

ユウたちは大蛇丸という強大な敵に完全なる敗北をし、4人に大きな爪痕を残すことになった。

後にこの戦いが4人を引き裂くことになるきっかけの一つになることを、この時はまだ、誰も知る由もなく……

 

 

 




戦闘シーンが!
上手く書けない!!

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