絆道~始まりのミチシルベ~   作:レイリア@風雅

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第27話 交わる視線

 

アンコに誘導され、着いた場所は鬱蒼と木々が生い茂る怪しげな森だった。

ご丁寧に『立入り禁止区域』と注意書きが書かれ、挙げ句の果てには封印の札まで貼ってある。

 

 

「ここが『第二の試験』会場、第44演習場…別名『死の森』よ!!」

 

「何か薄気味悪いところね…」

 

 

不安そうに森を見上げ、呟いたサクラ。

試験官のアンコはただ不気味に笑うだけ。

 

 

「ここが”死の森”と呼ばれる所以、すぐ実感することになるわ」

 

「『死の森と呼ばれる所以、すぐ実感することになるわ』

なーんておどしてもぜんっぜんへーき!怖くないってばよ!」

 

「そう……君は元気がいいのね」

 

 

やっちゃった……

 

他の受験生たちと距離をあけたところに木に背を預けていたユウはあちゃー、と頭を抱える。

そしてユウの勘は正しかったらしい。

袖から出したクナイを手にするなり彼女はそれをナルト目掛けて飛ばしてきたのだ。

ナルトの頬をかすめ、飛んでいったクナイは草忍の女を横切り、地面に突き刺さる。

その刹那。

 

 

「!」

 

 

凄まじい殺気が溢れたのを敏感に感じ取ったユウは、その場から掻き消えた。

一方、一瞬でナルトの背後へ回ったアンコは彼を拘束する。

 

 

「アンタみたいな子が真っ先に死ぬのよねェ、フフフ……

私の好きな赤い血ぶちまいてね」

 

 

語尾にハートマークが付きそうな声色で上機嫌に囁いたアンコは、ナルトの頬から垂れた血を舐め、恍惚の笑みを浮かべた。

しかし、警戒するように背後を振り返り、クナイを構えた。

 

 

「クナイ…お返ししますわ……」

 

「わざわざありがと」

 

 

ピン、と張り詰める不穏な空気を感じ、ナルトも緊張と恐怖で固まった顔を何とか動かし、状況を見ようと試みる。

 

そこには異様に長い舌でクナイを差し出す草忍と、その草忍にいつでも攻撃できるように腹部の急所にクナイを突きつけるユウがいた。

いつもほんわかとした雰囲気を醸し出す彼女と同一人物なのかと疑う程、その顔に表情はなく、ただ草忍を脅すように鋭い眼差しを向ける一人の忍がいて、人知れずゾクリとした悪寒に身を震わせた。

三人はそれぞれを牽制するように殺気を当て合う。

 

 

「でもね……殺気を込めて私の後ろに立たないで

早死にしたくなければね」

 

「いえね…赤い血を見るとついウズいちゃう性質でして

……それに私の大切な髪を切られたんで興奮しちゃって……」

 

「悪かったわね」

 

 

クナイを受け取ったのを確認した草忍は異様に長い舌をしまった。

ユウは警戒したように草忍の一挙一動に目を光らせ、クナイを突きつけたままだった。

 

 

「(な、何よこの試験官……はっきり言ってヤバい!

そ…それにこいつも……

なにより……こんなに怖い顔するユウ、初めて見た)」

 

 

サクラは泣きそうな顔でいつもと違うユウを見つめる。

ナルトが危ないと思い、助けにきてくれたのだろうユウは、まるで別人だった。

まるで、戦い慣れているような……

不安で不安で仕方ないといったサクラの表情にいつも気が付いてくれるユウは、敵かどうかを見定めるような眼差しを草忍に送っていた。

不安で泣いてしまいそうな彼女の目の前で、草忍とユウの視線が交わる。

草忍は面白いものを見るような目で、ユウは無機質なガラス玉のような目で。

草忍の口角が、確かに上がった。

 

 

「ほら、アンタもいつまでもクナイ突きつけてないでしまいなさい。

失格にするわよ」

 

「……勝手なことをしてすみませんでした。」

 

 

ゆっくりとクナイを戻し、無理矢理草忍から視線を外したユウはアンコに非礼を詫びた。

 

 

「いいわよ別に。アンタが殺気に反応してくれるような奴で助かったわ。

もし奴が敵だったら、きっとアンタに守られてたでしょうし」

 

「……いえ、そんな大したことはしてませんから」

 

 

ポム、とユウの頭に手を乗せたアンコはどこか優しげだった。

また傷跡が傷んで、逃げるように先ほどの定位置に戻る。

 

 

「どうやら今回は血の気の多い奴が集まったみたいね。

フフ……楽しみだわ」

 

「(アンタが一番血の気が多いってばよ!)」

 

 

頬の傷を抑え、ナルトは無言で訴えた。

 

 

「それじゃ第二の試験を始める前にアンタらにこれを配っておくね!

同意書よ。これにサインをしてもらうわ。

こっから先は死人も出るからそれについて同意をとっとかないとね!私の責任になっちゃうからさ~~~」

 

 

アハハと朗らかに笑うが、受験生たちにとって決して笑える事態ではなかった。

 

 

「まず第二の試験の説明をするから、その説明後にこれにサインして班ごとに後ろの小屋に行って提出してね

じゃ、第二の試験の説明を始めるわ。早い話ここでは―――極限のサバイバルに挑んでもらうわ」

 

 

やっぱりサバイバルだった。

まあ、演習場でやることと言えば逆にサバイバルくらいな物か、と回ってきた同意書を受け取りながらぼんやり思考する。

強い殺気に当てられたせいで、昔の感覚に戻っているらしいと冷たい思考回路の中で考え、ちゃんと試験開始後には”今”の琥珀ユウの感覚に戻らなければと冷静に判断する。

 

 

「(いくら保健にストッパーの封印術を何重にもかけてるとはいえ、このままじゃ無意味に人を傷付けてしまうかもしれない……)」

 

 

頭を抑えるが、アンコの説明はどんどん先へ進んでいた。

無駄に冷静な頭はアンコの会話はちゃんと記憶してくれてるらしく、アンコが示した地形を記憶した。

この”死の森”という限られた地域内であるサバイバルプログラムを行うらしい。

 

 

「その内容は各々の武具や忍術を駆使した……

なんでもアリアリの―――”巻物争奪戦”よ!!」

 

「巻物?」

 

「そう。「天の書」と「地の書」……この2つの巻物をめぐって闘う

ここには79人。つまり、27チームが存在する。

その半分13チームには「天の書」。もう半分の13チームには「地の書」を―――

それぞれ1チームひと巻ずつ渡す。

そしてこの試験の合格条件は…天地両方の書を持って中央の塔まで3人で来ること!」

 

 

天、地と書かれた巻物を持ち、ルールを説明したアンコに一つ疑問が残る。

初期状態で天の巻物を持つ13チーム、地の巻物を持つ13チーム。

二つのチームを合わせても合計26チームだ。

では、残った1チームはどうなるのか。

 

 

「ちょっと待ってください!それじゃチームの数が合わないわ!!

残りの1チームはどうするの!?」

 

「あー、それも説明しなきゃね……今回の試験には一人だけ例外が存在しているわ。

一人一組で参加した琥珀ユウがね。

彼女には一人で参加することで既に一つメリットを得ている。

3人……つまりチームで塔まで来る必要がないということよ」

 

 

確かに、チームが一人でも欠けてはならないこの試験で、これは大きな強みになるだろう。

しかし、逆もまた然りだ。

実力がなければ、一番に落ちていくのは間違いなく一人参加のユウにほかならない。

なぜなら、一人参加のユウを既にターゲットとして認識しているものも少なくはないからだ。

 

 

「だから彼女には一つデメリットを付けた。

それは天の書、地の書を持たないという、他のチームより不利な条件でスタートすること」

 

「そ、そんな!

ユウちゃんは試験前に怪我を……」

 

 

いつもおどおどしているヒナタが不条理だと反対したことに、内心少し驚いた。

しかしアンコは彼女の意見は聞かず、ユウへ視線を向けてくる。

 

 

「一応確認とるけど、異論はないわね?」

 

「はい」

 

「ユウちゃん……っ」

 

 

いつもなら安心させようとゆるりとした笑みを貼り付けられたのだが、今回ばかりは無理だった。

表情筋が全く動いてくれず、少し目元を和らげた程度。

いい加減戻れー、と言わんばかりに頬をペチペチと叩いてみるが、効果は無かった。

 

 

「つまり巻物を取られた半分のチームは、確実に落ちるってことね……」

 

「ただし、時間内にね。この第二試験期限は120時間、ちょうど5日間でやるわ!」

 

「5日間!!」

 

「ごはんはどーすんのォ!?」

 

「自給自足よ!森は野生の宝庫。ただし人喰い猛獣や毒虫、毒草には気をつけて。

それに13チーム33人が合格なんてまずありえないから。

なんせ行動距離は日を追うごとに長くなり……回復に充てる時間は逆に短くなってゆく。

おまけに辺りは敵だらけ。うかつに寝ることもままならない

つまり巻物争奪で負傷する者だけじゃなく…コースプログラムの厳しさに耐え切れず死ぬ者も必ず出る」

 

 

そこそこに厳しい環境でも生き抜くような知識と体力を持たぬ者は中忍になれるわけがない、ということらしい。

続いて失格条件について笑顔で説明を始めた。

 

 

「まず1つ目……時間以内に天地の巻物を塔まで3人で持ってこれなかったチーム。

2つ目。班員を失ったチーム又は再起不能者を出したチーム。

ルールとして…途中のギブアップは一切なし。5日間は森の中!

そしてもう1つ……巻物の中身は塔の中にたどり着くまで決して見ぬこと!」

 

「途中で見たらどうなるの?」

 

「それは見た奴のお楽しみ」

 

 

何が起こるかは分からないが、おそらく5日間は動けないような細工をしているのだろう。

一度見ただけで殺されるような過酷さは、流石にないと思うのだが……。

 

 

「中忍ともなれば超極秘文書を扱うことも出てくるわ。信頼性を見るためよ。

説明は以上。

同意書と巻物を交換するから、そのあとゲート入口を決めて一斉スタートよ!

最後にアドバイスを一言――――死ぬな!」

 

 

確かに死んだら元も子もないが、アドバイスとしてはどうなのだろうか。

少し真剣に悩みながら同意書にサインをするユウだった。

 

 

+++++

 

少し休む時間を貰い、同意書にサインする者や不安を語り合う者など、チームで行動している受験生たちを離れた所からユウはポツンと見ていた。

その表情には相変わらず何も映っていなかったが、その瞳は眩しそうに、寂しそうに細められ、木を背に座り込んでいる。

そんな姿を目にし、一言いのたちに断りをいれ、シカマルはそちらに向かう。

駆け寄ってきたシカマルに何の反応も示さず、膝を抱えて座る彼女はなんだかとても小さく見えた。

黙ったまま、シカマルもすぐ傍に座り、ユウの顔を見つめる。

 

 

「……どうしたの?」

 

「別に……ただ、気になっただけっつーか……」

 

「いのたちの所にいなくていいの?」

 

「一応ちゃんと言ってきたし、同意書を提出する時間までくらいなら大丈夫だと思うぜ」

 

「そっか」

 

「おう」

 

 

なんだか、落ち着かない。

いつものほんわかした彼女はどこへ行ってしまったのか、今はただ無表情を浮かべるだけ。

何か話題はないだろうか、と上手く働いてくれない頭を必死に働かせ、口を開く。

 

 

「あー……あのよ……お前、その腹は誰にやられたんだ?」

 

「……え?」

 

 

少し驚いたように目を見張り、ようやく顔をあげた。

翡翠の瞳は少し曇っていたものの、自分の知っているユウの姿に少しほっとする。

 

 

「なんか、ずっと腹と背中気にしてるみてーだったからよ……何かあったのか?」

 

「……いつものことだから、気にする必要なんてないよ」

 

「いつものことって……お前っ」

 

「シカマルこそ、どうしてあたしに優しくするの?」

 

 

不思議そうに、本当に可笑しそうに聞いてくるユウになんだか悲しくなって、怒鳴り散らしてしまいたくなった。

それを何とか押さえ込む。

 

 

「っオレにとって、お前が……ユウが大切な奴だからに決まってるだろ」

 

「いのたちもいるのに?」

 

「は……?」

 

 

なぜ、そこでいのたちが出てくるのだろうか。

戸惑いながらユウを見つめると、ユウは再び受験生たちに視線を移し、また瞳を細めた。

 

 

「ナルトにはサクラたちがいて、キバにはヒナタたちがいて……シカマルにはいのたちがいる。

そこにはあたしなんかが入れる隙なんて、ない」

 

「……」

 

 

なんだ

やっぱり、気にしてたんじゃねーか

 

膝を抱え、顔を埋めるのは寂しさを埋める行動なのかもしれなかった。

泣けないユウの、精一杯の強がりだったのかもしれない。

どんなに気にしてない風を装っていても、ユウだってチームで参加したかったのだ。

初めて組んだ四人一組の、第七班の仲間と。

一人でずっと寂しさを抱え、ここまで来たのだろう。

バカだなと想いながらも、そんなユウが愛おしいと想った。

 

 

「だから、別にあたしが怪我していたって気にしなくていいんだよ」

 

「バーカ」

 

「え?」

 

「お前って、ホント超バカ」

 

 

くつくつと笑うと、困惑したような眼差しを向けてくるから、そんな彼女の頭を優しく撫でた。

そうすれば一瞬震え、また逃げようとするから、今度は肩を組み、引き寄せて頭をコツリとぶつけ、また撫でる。

動けなくなってしまったユウが瞳を揺らしているのを知りながら、知らないフリをした。

 

 

「お前がどう思っていようが、オレはお前が心配だ。

ましてや怪我を隠したり、その上で無理をしちまうような奴だから尚更な」

 

「……」

 

「お前は自分にはそんな資格はない、とかまた言い出すんだろうけど、オレがしたいからこうしてるだけなんだよ。

お前が気にするこたぁ何もねー……

やりたいことやってるオレを、優しい奴だってお前が勝手に勘違いしてるだけだぜ」

 

 

しばらく落ち着かない様子でもぞもぞとしていたユウだったが、シカマルの話を聞いて力が抜けてきたのか、気が抜けてしまったのか、そのままおとなしくなった。

ふぅ、と震えながら深呼吸を一つし、ユウはいつも以上に不器用な笑みを見せた。

 

 

「やっぱり、優しいよ……シカマルは」

 

「ほっとけ」

 

「うん。

シカマル、あのね……

この試験が終わったら、聞いて欲しいことがあるの」

 

「ああ」

 

「っこの試験が終わるまでに、あたしのこと嫌いになってたら聞かなくてもいいから……」

 

「嫌いになんてならねーよ。約束する。

どこで話ししたい?」

 

「誰にも聞かれないところ……かな」

 

「じゃあオレの家だな……また将棋でもすっか」

 

「……うん」

 

 

また、お前の弱さを垣間見えた気がして、不謹慎だが嬉しいと思う。

お前の新たな一面を見るたびに、どうしようもない程愛おしくなる

だから怖がるな

お前を嫌いになったりしないから

 

ポツリポツリと他愛のないことを話ながら、変化がなくなってしまった顔を見つめた。

だが、彼女の目はいつもと変わらなくて、寂しさで溢れていたそこに喜びという光を宿していて、それを与えたのが自分なんだと思うととても愛おしくなった。

 

 

「次は、笑って話せたらいいな」

 

 

不意に呟いた言葉の意味を問おうとした所で、同意書を提出する時間だと知らされた。

いのたちの元に戻らなければ、という思いと、このままユウと一緒にいたいという思いに挟まれ、動けなくなってしまったシカマルに目元を優しく和らげた。

 

 

「ほら、いのたちが待ってるよ」

 

「ユウ、オレは……」

 

「試験が終わったら、話を聞いてくれるんでしょう?

だったら頑張らないと」

 

「……そうだな。

じゃあ、また会おうぜ」

 

「うん」

 

 

さみしそうな瞳に戻ったユウは、シカマルの背を押してバイバイと手を振った。

そして何かを決意するとナルトたちの元へ歩き出す。

ユウに気付いたナルトが手を振ってくれた。

 

 

「ああ!ユウ~~!!

さっきは助けてくれてありがとな!!」

 

「大したことしてないよ。それよりも、次の試験は何が起きるか分からない……

本当に気をつけてね」

 

「もう、ユウが一番危ないのにどうして私たちの心配ばっかりするのよ!」

 

「サクラの言うとおりだ。オレは、寧ろ一人でこの森に入るお前が心配だ」

 

「あたしは大丈夫、なんとでもなるから……。

お互い、頑張ろうね」

 

 

そう言って差し出した手に3人の手が乗る。

今だけは、四人一組の第七班に戻れたような気がして……。

その暖かさを失いたくないと想った。

そっと、3人に気付かれないように手を動かし、ユウはお先にと同意書を提出しに行った。

 

 

+++++

 

同意書と交換で番号札をもらう。

18と書かれたそれに首を傾げると、試験官の一人がぶっきらぼうに答えた。

 

 

「それは開始するゲートの番号だ。

担当の試験官がいるから、その札を見せろ。

お前の場合、18番ゲートからスタートのようだな」

 

「ありがとうございます」

 

 

丁寧に頭を下げ、ユウは番号札を試験官の一人に見せると、担当となる人がやってきた。

 

 

「皆、担当の者についてそれぞれのゲートへ移動!

これより30分後に一斉スタートする!!」

 

 

アンコの指示が飛び、ユウも担当の試験管と共に18番ゲートへ向かった。

試験管が鍵を開け、いつでもスタートできるように準備をしてくれる。

合図を待つこと5分。

 

 

「これより中忍選抜第二の試験!開始!!」

 

 

無線を合図にユウは鬱蒼と木々が生い茂る”死の森”へと突入する。

それぞれの思惑が渦巻く中、第二の試験が始まった。

 

 

 

 

 


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