絆道~始まりのミチシルベ~   作:レイリア@風雅

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やっと中忍試験編……
ハーメルンで書くと長く感じるのはなぜでしょう←

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第24話 葛藤

 

砂からの訪問者と対面した翌日。

ユウたち第七班のメンバーはいつものようにカカシのことを待っていた。

 

 

「は~~あ

ねェ!ねェ!ねェ!!こんなことが許されていいワケぇ!?

何であの人は自分で呼び出しといて常に人を待たせるのよ!!」

 

「そーだ!そーだ!サクラちゃんの言う通りだってばよォ!!」

 

 

痺れを切らしたサクラの怒声があがり、ナルトも激しく同意する。

 

 

「寝坊したからってブローをあきらめて来る乙女の気持ちどうしてくれんのよ!!」

 

「そーだ!そーだぁ!オレなんか寝坊したから顔も洗ってないし歯も磨けなかったんだってばよ!!」

 

 

それは、いささか汚いのではないだろうか……さすがに

二人の会話に思わず苦笑いを浮かべ、ユウは暇つぶしに読んでいた本から顔をあげた。

 

 

「アイツら、なんで朝っぱらからあんなにテンション高いんだ……」

 

「そういうサスケはテンション低いよね

低血圧?」

 

「いや、そうじゃない が、あそこまでテンションが高いとちょっとな……」

 

「イライラする?」

 

「……ユウにはなんでも分かられちまうな」

 

 

図星だったのだろう、苦笑するサスケに同じく苦笑で返す。

そりゃあ隣りでずっとムスッとされていれば、誰だって気付くと思うのだけど。

サスケの機嫌が悪くなるのが目に見えているから、それは胸の内に留めておくことにする。

 

そして、ようやくカカシが現れ、嘘くさい弁解にサクラとナルトの鋭いツッコミが炸裂したのだった。

いつものやり取りを終え、鳥居から降りてきたカカシはさっそくと言わんばかりに本題に入る。

 

 

「ま!なんだ……いきなりだが、お前たちを中忍選抜試験に推薦しちゃったから」

 

「え!?」

 

「……やっぱり……」

 

 

驚愕する三人に聞こえないくらい小さく呟いた。

こういう嫌な予想ほど当たってしまうことを理解していたつもりだが……実際に突きつけられるとキツイものがある。

冷静にいつもの冗談だろうとナルトがあしらおうとした時、ユウたちに4枚の書類が突き出された。

 

 

「志願書だ」

 

「カカシ先生大好きーっ!!」

 

「おい よせ、離れろって……抱きつかれるならユウがいいんだけどなー」

 

 

チラ、と期待の眼差しを向けるも、当の本人は難しい顔で書類を見つめ、「ホントにホントの志願書だ」と呟いている。

どことなく哀愁の漂うその姿に自分の願望が叶わないことを悟り、4人に向き直る。

 

 

「……と いっても推薦は強制じゃあない。受験するかしないかを決めるのはお前達の自由だ。

受けたい者だけその志願書にサインして明日の午後4時までに学校の301に来ること。

伝達は以上!解散だ。

―――ユウ、お前には一つ話しておかないといけないことがあるから、残ってくれ」

 

「?あたし?」

 

 

カカシのやけに真剣な眼差しに再び嫌な予感が胸にうずまいて、ユウはこっそりため息をついた。

 

 

+++++

 

 

自分も聞きたいと駄々をこねるナルトたちを強制的に帰らせた後、ユウはカカシについていった。

目的地に着いたようで、顔をあげるとどこにでもある普通の一軒家が目に入る。

 

 

「あの、ここって――?」

 

「あー、行き先を言ってなかったか?ここはオレの家だ」

 

「カカシ先生の?」

 

 

パチクリと目を瞬かせていると、入るよう促されたので戸惑いながらも素直に従う。

リビングに通され、椅子に座るよう指示されたので席につく。

向かい側に腰を下ろしたカカシは少し気まずそうに視線をそらしていて、不安になった。

 

 

「あの、カカシ先生?お話しって、なに?」

 

「あ、ああ……話し、ね……。

実は中忍試験のことについてなんだが……本来は3人1組で参加しなければならないことは知ってるか?」

 

 

こくりと頷く。

カカシはしばらく視線を彷徨わせ、再び口を開いた。

 

 

「つまり、なんだ……オレたち第七班は4人1組だろう?

そこで、ユウ、お前は別枠で参加してもらうことになった」

 

「……べつわく、って?」

 

「……」

 

「あたしだけ、ナルトたちと一緒に受けられないってこと、だよね?」

 

「っ……」

 

「カカシ先生」

 

 

バカだなぁ

先生がそんな顔しなくていいのに

はっきり言ってくれたら、ちゃんと受け入れるから

 

困ったように小首を傾げ、苦笑してみせるユウは諦めの色を翡翠の瞳に滲ませていた。

そんなユウに胸が締め付けられる。

 

 

「先生?」

 

「っ……ユウ、お前はナルトたちと一緒に試験を受けることは出来ない……

オレも三代目に掛け合ってはみたんだが……

アイツ等はまだ未熟で、お前以外切り離せなくて……

すまない」

 

 

何を言っても言い訳にしか聞こえない自分の言い草に腹が立つ。

 

結局、いつもオレは……

 

 

「そっか、分かった。

残念だけど、仕方ないね」

 

 

お前を傷つけてしまう。

 

 

「それじゃあ、あたしは別の人と一緒に受験することになるのかな?」

 

「い、いや……上層部の連中がそれもダメだって……」

 

 

ズキズキと痛む胸。

これを自分の口から言わなくてはならない現実から逃げたくなる。

 

 

「ユウには、一人で受けてもらうことが決まった。

お前にはそれくらいの実力が備わっている、と……上の判断だそうだ。

実は試験を受けなくても、この試験が終わり次第、中忍へ昇格させようという話しも出ている。

火影様は無理に試験を受けなくても、いいんじゃないかとおっしゃって―――」

 

「先生」

 

 

静かな声色で静止をかけられ、ハッと顔を上げる。

貼り付けていた微笑を引っ込めた、無表情のユウと眼が合った。

どこまでも深い闇が見え隠れする翡翠の瞳はガラス玉のように曇っていて何も映さない

あの透き通った瞳を持つ少女と同一人物とは思えない、澱んだ瞳だった。

 

 

「あたしだけ特別扱いなんて、誰が許そうとあたしが許せない。

ナルトたちと一緒に受験できないのは仕方ないよ、だって規則だもん。

規則は守らないと」

 

 

だけどね

 

 

「”それ”は、違うよ」

 

 

だから試験は受ける

ちゃんとした手順を踏まえて中忍になる

 

どこまでも真っ直ぐにそう言った少女にカカシは言葉を失った。

自分が今、提案していたことは彼女をずっと苦しめてきた奴らと変わらない対応だったのだ。

ユウが普通の少女であることを望んでいたのをカカシは知っている。

知っていたのに、自分はまた、彼女を傷付けてしまっていた。

その事実が深く胸に突き刺さり、カカシはユウと目を合わせることもできず、項垂れた。

 

 

+++++

 

 

カカシの家を後にしたユウは目深にフードを被り、宛もなくフラフラと散歩をしていた。

一つ、二つとため息が溢れる。

 

カカシ先生を、傷付けてしまった

 

胸中に後悔が溢れ、自然と俯く形になってしまう。

いつの間にか商店街の方まで来てしまったらしく、聞きなれない活気の良い声があちこちから湧いてくる。

ユウだと気付いていないのか、店を見ていかないかと声をかけられる。

慎重にフードを深く被り直しながら丁重に断っていくと、ふと目に着いたキラキラと輝くショーウィンドー。

引き寄せられるようにそれに近づくと、アクセサリーだと分かった。

ピアスに指輪、ネックレスにバングル、眼鏡など種類は豊富で、思わず物珍しく見つめてしまった。

少し路地に入った先にあるので客も寄り付きづらいのか、辺りに人の姿はなく、非常に勿体無い。

 

 

「おや、珍しいねぇ。お客さんかい?」

 

 

威勢の良い声で話しかけられ、言葉に詰まってしまう。

おそらく店主なのであろうその人は恰幅の良い女性で、人当たりのいい笑顔を浮かべている。

 

 

「あ、あの……えと……綺麗なお店だなと思って……」

 

 

緊張で口の中がカラカラになり、拙い言葉遣いになってしまい恥ずかしくなった。

そんなユウに女性はカラカラと快活に笑う。

 

 

「そう言ってもらえると嬉しいねぇ。

いやー、ここを見つけられる人はあんまりいなくてね……

ああ、でもこの間元気のいい男の子が来たっけか」

 

 

こういう場所は、大人より子供の方が見つけやすいのかもね。

いたずらっぽく笑った店主は楽しそうに見えて、ユウの口元にも笑みが浮かぶ。

その後も店主とポツリポツリと話しをしながらショーウィンドーを眺めていた、そんな時。

 

 

「あ?―――もしかしてユウか?」

 

 

聞き覚えのある声にふと顔を上げると、それと同時に視界が白いので一杯になった。

予想していなかった顔面への衝撃に二、三歩後退し、転びそうになる。

が、それは誰かに支えられ、事なきを得た。

 

 

「う?!」

 

「赤丸お前なんでいっつもユウに飛びつくんだよ!?危ないだろうが」

 

 

ったく、と呆れたような声が聞こえ、程なく顔に飛びついてきた何かがどかされ、視界が開けた。

 

 

「大丈夫か?!」

 

「き、キバ……うん、大丈夫だよ」

 

 

ちょっとビックリしたけど、と苦笑する。

幸運なことにフードは取れなかったようで、少しほっとした。

どうやらキバは店主と知り合いなようで、軽い挨拶を交わしている。

 

 

「いつもキバくんは元気ねぇ~。

もしかしてこの子、キバくんの彼女かい?」

 

「ばッ……ち、違ぇよ!」

 

「そんな照れなくてもいいじゃない!この色男め!!」

 

「~~~~っオバチャン!!」

 

「あっはっはっは!」

 

 

ユウを気にしているのか、チラチラと様子を伺うように盗み見ながら必死に反論するキバの顔は真っ赤だ。

しかし当の本人にそんな話しが分かる筈もなく、首を傾げて赤丸と戯れているだけ。

 

 

「あはは、キバの顔真っ赤っかだね~赤丸?」

 

「ワン!」

 

「うんうん、いい子いい子」

 

 

相棒だけ構われている現状にいい加減イラついてきたのか、キバはユウの腕を引っ張る。

 

 

「あら、帰っちゃうのかい?」

 

「今日は予定が狂っちまったからな!また今度遊びに来てやるよ」

 

「ふふ、それは楽しみだねぇ!

お嬢ちゃんもまたおいでね」

 

 

店主の笑顔に見送られ、キバとユウは店を後にした。

そしてやってきたのは木ノ葉の森。

先程とは売って変わり、静かな雰囲気に心が和む。

 

 

「ったく、完全に予想外だったぜ……ユウがあの店知ってるなんてよー……」

 

「ん?どうかした??」

 

「い、いや、なんでもねーよ!」

 

 

焦ったような様子に訝しく思うも、取り敢えず納得しておく。

 

 

「そ、それよりユウ お前なんで今日はフード被ってんだ?

一瞬誰だか分かんなかったじゃねーか」

 

「あ、と……」

 

 

そういえば、と思い出したようにフードを取る。

さて、どう言い訳しようか……。

 

 

「気分かな?」

 

「気分って……まぁ、オレもフード被ってっから人のこと言えねーけどよ。

そういや、もうすぐ中忍選抜試験ってのがあるの、知ってるか?」

 

「あー、うん……キバたちも受験するんだ?」

 

「もってことは、ユウたちもか!」

 

「いや、どうだろう……。

ナルトとサスケは出たがってたけど、サクラは悩んでたみたいだし」

 

 

自分はその中にはいないと思うと、どうしても歯切れの悪い返事になってしまう。

そんなユウの様子に違和感を覚えたのだろう。

キバは訝しそうにユウを見つめる。

 

 

「さっきから他人の話しばっかだけど、ユウは受験しないのかよ?」

 

「あたしは受験するよ?

でも、ナルトたちと一緒に受けられないんだって」

 

「は?どう言う意味だよそれ」

 

 

これは一番にキバに言っていいものか、と悩むもいずれ分かることならと掻い摘んで説明することにした。

中忍試験には3人1組で受験しなければならない規定があること。

自分たちの班は4人1組だから、どうしても1人減らさなくてはならなかったことを説明する。

 

 

「ほら、サスケは七班以外の人と上手くやっていけるような器量の良さはまだ無いし、

ナルトも猪突猛進タイプだから、慣れ親しんでいる人と一緒の方がいい。

サクラはまず受験すること事態に悩んでる。自分に自信がないのが、この場合は大きいのかな?

そうなると消去法であたししかいなくって。

他の班と一緒に受けるにも人数が足りない所がないから、結局一人での参加ってことになるみたい。

えへへ、一人で参加なんて、なんかちょっとズルイよね」

 

 

一部でっち上げだが、そう間違ってもいないだろう。

ユウの話しを聞き終えたキバは俯き、肩を震わせる。

 

 

「……だよ…れ……!!」

 

「キバ?」

 

「なんだよ、それ!!」

 

 

激昂するキバにユウはひゅっと息を詰まらせる。

どうしていいか分からず、戸惑っていると怒りを隠そうともせず瞳に宿し、真っ直ぐにユウを見据えてきた。

 

 

「それでユウは『はい分かりました』って素直に受け止めたのかよ?!

いつもみたいに仕方ないって……そう言って笑って頷いたのかよ!?」

 

「……だって、」

 

「だってもクソもあるか!!お前はナルトたちと一緒に受けたかったんだろ?!

ならなんでそれを口に出して言わねーんだ!

規則?そんなもんクソくらえ!!それくらい言ってやりゃあ良かったじゃねーかよ!!」

 

「っ」

 

 

頭の中がぐちゃぐちゃになる。

キバの素直な怒りを見せられる度、真綿を詰められていくような息苦しさがユウを襲う。

 

だって仕方ないじゃないか。

規則なんだ。

自分だってナルトたちと一緒に受けたかった。

 

そんな素直な一言は声にならず、喉に鈍い痛みを与えるだけ。

胸もとをギュッと握りしめる。

どうすればいいのか分からなくなってきたその時、ザリっと砂利を踏みしめる音が響き渡り、シンと心地の良い沈黙が広がった。

 

 

「―――お前もめんどくせー奴だな、そのへんでやめとけ。

まぁお前の気持ちも、分からねーでもねーがな」

 

 

気怠そうな声色に顔をあげる。

そこにはキバの肩を掴んで静止をかけているシカマルの姿があって―――。

 

 

「……シカマ、ル……」

 

 

絞り出した声は情けないほど震えていて、か細くて、消え入りそうなほど小さかった。

 

あぁ 会ってしまった 彼は危険だ

頭のどこかで警告音が鳴り響く。

だけど、それさえも心地よくて、思わず安堵してしまう自分を隠すことを放棄した。

自分で再び作り上げようとした仮面は彼の前じゃ脆すぎて、ボロボロとヒビが入っていく。

 

やっぱり 遅かった。

離れられなくなっていた。

そうならないようにするためには、元より会わない他無かったんだ。

一度温もりを知ってしまえば、今まで以上に求めてしまうのは当たり前。

それを一番よく分かってるつもりだったのに……。

少しだけ、と求めた結果がこれ。

 

なんて なんて弱くなってしまったのだろう……。

 

 

「キバ、おめーは取り敢えず頭を冷やせ。本当に責めるべき相手は、ユウじゃねぇだろうが」

 

「ッ……悪い」

 

「あ、いや……あたし……」

 

 

必死に言葉を紡ごうとするが、未だに喉の圧迫感が取れず、上手く声が出せない。

焦るユウを宥めるように頭に置かれた手。

 

 

「落ち着けよ、ユウ。」

 

 

辛いなら今は何も考えなくていいから

優しく微笑んだシカマルはユウの頭を何度か撫でた。

バツが悪そうに俯いていたキバはそんな二人に背を向ける。

 

 

「キバ……?」

 

「ガキくせーって分かってるけど、それでも怒りが収まんねー。

だから、またユウに酷ぇこと言わない内に今日は帰る。」

 

 

シカマル、ユウのこと頼んだぜ

そう言い残し、この場を立ち去ろうとするキバ。

 

 

「ッキバ!」

 

「?」

 

「あたしの代わりに怒ってくれてありがとう!

嫌な役回りをさせてゴメン……。

……でも、嬉しかった」

 

 

だから、ありがとう

微笑もうとしたが、表情は引きつって失敗してしまった。

お世辞にも綺麗とはいえない、不格好な笑顔を浮かべたユウに目を見開く。

頭をガシガシとかき、片手を上げ、再び背を向けて歩き出した。

先程までの淀みが、少しだけ晴れた気がした。

 

 

+++++

 

 

その後、ゆっくりリラックスすべきだと判断したシカマルからユウの家へ行くか、シカマルの家で休むか、選択権を与えられた。

彼の上着を返そうと思っていたのを思い出し、ユウは自宅へ一度帰ることを選択した。

そして今に至る。

 

 

「シカマル、これ……」

 

「ん?……ああ、この間の」

 

「遅くなってごめんね。

任務とか色々忙しくて、タイミングなくって……」

 

 

シカマルに上着の入った袋を手渡してすぐ背を向け、食器棚へ向かう。

そんなユウの様子に違和感を感じないハズもなく、訝しげに眉を潜めた。

 

 

「別にそんなの気にしてねーけど……」

 

「今日は、ビックリしたなー!

まさかキバに叱られるなんて思ってなかったし、あのタイミングでシカマルが来るなんて本当に驚い」「ユウ」

 

 

震える手を必死で制しながらコップを取り出した時、強い口調で名前を呼ばれ、ビクリと肩を震わせた。

シカマルの、一オクターブ低い声色が部屋に響く。

 

 

「ユウ」

 

 

さっきの反応に気を使ったのか、今度は優しく名前を呼ぶ。

ゆったりとした足取りで歩み寄り、腕を伸ばしたその時だった。

 

 

「来ないで」

 

 

小さな、けれど強い、拒絶。

伸ばそうとした手が思わず止まる。

傷付いたように目を見開くシカマル。

しかし、自分の口から付いて出た拒絶の言葉にユウ自身が一番驚愕しているようだった。

 

 

「ご、ごめん……こんな酷いこと、言うつもりじゃ……」

 

 

困惑したように瞳を揺らし、泣きそうな顔をして振り返ったユウに言葉を詰まらせる。

ユウはユウで傷付けてしまったことにパニックになり、言葉を探す。

 

何か、言わなければと思った。

ここで自分の素直な気持ちを伝えなければ、きっと本当に後悔する。

 

 

「っ本当は、本当はずっと会いたかったよ。

あの日からずっと……ずっと会いたくて会いたくて仕方なかった」

 

 

たった数日のことで大袈裟だと思われるかもしれない。

だけど……だけど……

 

 

「独りでいるのが、初めて怖くて苦しいと思った」

 

 

本当はただ怖かった、苦しかった

 

 

「寂しくて、冷たいこの部屋にいるのが、耐えられなくなった。

……辛かった」

 

 

寂しかった、辛かった。

 

 

「会いたくて仕方がないのに、シカマルを思い出す度に独りなんだって自覚して……」

 

 

会いたい、会いたくない……二つの矛盾した気持ちが渦巻いた。

 

 

「こんな、こんな弱いあたしは“要らない”から……ッ。

”私”は、強くなくちゃ……強くならなくちゃ……ここにはいられないから」

 

 

道具である自分は、使えなければこうしてシカマルたちと会わせてもらえなくなってしまうから。

本当は会いたかったけど、もっと近くにいて欲しかったけど……

 

 

「本当は……本当は……ッ」

 

「もう、いい」

 

 

感情を押し殺したような声に身を縮こまらせる。

そこで初めて、自分がずっと震えていたのが分かった。

今度こそ、嫌われたかもしれない。

キュッと瞳を閉じ、唇を噛む。

 

真っ暗になった視界。

今は、もう何も感じたくなかった。

 

そう思ったその時、フワリと温かい物に包まれ、驚きに目を見開く。

視界の隅に結えられた髪の毛があり、シカマルに抱き締められたことが分かった。

ヒュッと息が詰まる。

 

 

「し、かま、る……?」

 

「ッ……」

 

 

知らなかった。

この少女が、自分が深く関わったことで追い詰められていたとは。

カカシに、言われた通りだった。

いつだって苦しむのはユウなのだ。

自分がまた、必要以上に関われば、ユウが苦しむことになる。

そう、身を持って自覚した。

だが……それでも……

 

 

「ッ悪ぃ……本当にゴメンな」

 

「ぇ……?」

 

「お前が苦しんでるの、分かってやれてなかった……。

全然理解してなかった……」

 

 

支えになりたいと願ったシカマル本人が、一番ユウを苦しめる原因を作ってしまっていた。

カカシは、きっとこの壁にぶち当たるのを知っていたのだろう。

支えたいのに、傷付けて苦しめてしまうという、矛盾した現実に。

 

 

「シカマル……」

 

「ユウ、オレ……お前を嫌いになってやれそうにない。

お前に会いたいし、こうしていたい」

 

 

強く抱き締められ、震えが大きくなるのが分かった。

再び与えられた温もりに恐怖を覚えたユウはギュッと目を瞑る。

 

 

「!やッやだ……離してッ!」

 

「ッ……悪ぃ」

 

「やだやだやだ!!またッ独りになるのに……ッ耐えなくちゃいけないのにッ!!」

 

 

シカマルの腕の中で抵抗するように暴れ始めたユウ。

悲痛な叫びに胸が痛くなる。

 

 

「お願い……離して……」

 

 

ガクン、と膝から崩れ落ちてしまったユウを支え、シカマルも座り込む。

 

 

「なんで、離してくれないの……?」

 

「……」

 

「私は……どうせまた、独りになるのに……」

 

「ユウ、目開けろ」

 

「……」

 

「ユウ」

 

 

首を振り、頑なに瞳を閉じるユウの後頭部に手を添え、顔を近付ける。

ちゅっとリップ音と共に頬から離れていった柔らかなそれに驚愕したユウの瞳が見開かれた。

真っ暗だった視界に映った、悲しげに優しく笑うシカマル。

 

 

「やっと、見てくれたな」

 

「ぁ……」

 

「今、ユウは独りじゃねーだろ?

流石にずっとって訳にはいかねーが、お前さえ良ければ、いつでもここに来てやるよ」

 

 

そうすりゃ、もう独りじゃねーよな。

微笑んだシカマルを見て、ようやくユウは落ち着きを取り戻した。

ふらり、視界が揺れる。

倒れこみそうになったユウを慌てて支えてくれるシカマルの温もり。

それは、やっぱり優しくて、温かくて……同時に恐怖でもあって。

それでもユウも、こうしていたいと思う。

 

 

「ごめ、ん……シカマル。

いっぱい、傷付けて……」

 

「バーカ、オレは大したことねーよ。

それより、大丈夫か?」

 

「う、ん……

あ、ナルトたちに……言わなきゃ」

 

「……中忍試験のことか?」

 

「うん……」

 

 

弱々しく呟いたユウの声色は、酷く疲れきっていた。

瞳も今にも閉じてしまいそうだ。

 

 

「とりあえず今は休もうぜ。

明日の試験に影響が出ちまう。

どうせ会いに行く予定あっから、ナルトたちにはオレから伝えておいてやるよ」

 

「う、ん……ゴメン……お願いしても、いい……?」

 

「ああ」

 

「ありがと……シカマル……」

 

 

すぅ、と眠りに落ちていったユウをベッドへと運ぶ。

苦しげに眉を寄せていることに気付き、その手を一度握ってから踵を返す。

こんな状態で放っておくのは気が引けたが、試験があるのは自分も同じだ。

何より先程、ナルトたちに伝えておくと約束した手前、ここに残っているわけにもいかない。

後ろ髪を引かれる思いを押し殺し、ユウの家を後にした。

 

……明日、迎えに行くか

 

取り敢えずユウから頼まれたことを済ませてしまおうと第七班のメンバーを訪ねに足を運ぶことにした。

 

 

+++++

 

 

「えー!?ユウがオレたちと受けられないってどーゆーことだってばよ!?」

 

 

一番面倒そうな奴を後回しにした自分を殴りたくなった。

サスケとサクラは色々思うところもあるだろうが、己の中に押し留め、シカマルにぶつけるなんてことはしなかった。(サスケは写輪眼を発動させていたが)

しかし、未熟な面が色々と多いナルトは我慢ならなかったらしい。

 

 

「どうもこうもそーゆーこととしか言い様がねーんだけど……」

 

「なんだよそれ!!ユウ……!!」

 

「待てナルト!!」

 

 

走り出そうとしたナルトの腕を掴み、引き寄せる。

苛立ちと焦燥を隠そうともせず、こちらを睨む。

 

 

「離せよシカマル!!」

 

「どこ行く気だ?」

 

「そりゃ直接ユウに話しを聞きに……」

 

「今のお前が行った所でユウを傷付けるだけだぜ」

 

「ッ……」

 

 

その一言で冷静になれたのか、一つ小さく舌打ちをしてシカマルから腕を振り払う。

しかし、もう走り出すようなことはなく、シカマルも安堵の息をついた。

 

 

「つか、なんでシカマルがそれを伝えに来たんだってばよ?

アイツなら、自分の口で言いに来るはずなのに……

もしかしてユウになんかあったのか?」

 

「ちょっと、な……」

 

「そっか……

いつもユウには助けられてばっかなのに、何も出来ないんだな……オレたち」

 

 

いつも前向きなナルトから発せられた弱々しい一言に目を丸くする。

その表情は本当に苦しげで、悲しそうで、悔しそうだった。

 

 

「シカマルはいつの間にか、オレよりもユウに近いとこにいたんだな。

ちょっと妬けちまうってばよ」

 

「あ?妬けるって……ナルトお前、サクラが好きなんじゃ……」

 

「んー……オレってばうまく言えねーんだけどさ。

ある意味ではサクラちゃん以上に大切にしたいと想ってるのはユウなんだってばよ。

友達とか親友っていうより、なんかもっとこう近い感じで……家族って感じに近いかもしんねぇ。

オレには家族なんていねーから、よくわかんねーし、バカだからこれ以上の言葉も思いつかないけどよ」

 

 

それでもユウのことが大好きだってのはホントだってばよ

満面の笑顔で言ってのけたナルトに、シカマルは目を細めた。

 

自分には家族がいる。

本当の意味で孤独を感じたことなどない。

目の前にいるナルトや、自分の想い人であるユウには家族がいない。

おまけに里の奴らから忌み嫌われ、冷遇を受けている立場だ。

だからこそ、誰よりもお互いの心の闇に敏感で、何を言われずとも感じ取ってしまうのだろう。

様子を見ただけで、他の人の何倍の情報が入ってくるのだろう。

ナルトが自覚していなくても、ユウが気付き、さりげなくフォローしてきたのだろう。

それはまるで、血の繋がりこそないものの、双子のそれを連想させる。

 

だからこそ、ナルトは恋愛対象ではなく、家族としてユウが大好きだと言ったのだ。

そんなユウに頼られない自分に、憤りが隠せないのだ。

そんなナルトが眩しく感じられた。

 

 

「これからもユウのこと、頼むってばよ」

 

 

オレじゃユウの傷は癒せねーみたいだから

シカマルなら任せられる

 

そう言ってナルトはシカマルの胸に拳をあて、去っていった。

 

 

「簡単に言ってくれるぜ……」

 

 

言われなくても、ユウを支えるっての

シカマルの覚悟を乗せた呟きは雑踏の中へと消えていった。

 

 

 


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