絆道~始まりのミチシルベ~   作:レイリア@風雅

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中忍試験編
第22話 相反する感情


 

現在の時刻、午前6時。

まだ時間に余裕があることを確認し、髪が乾いていることをしっかり確かめ、タオルをかける。

ベッドへと寝転がり、ぼうっとただ天井を見上げてみた。

シカマルと遊んだ日から早3日が経った。

習慣である朝修行を終えたユウはぼんやりとした表情で瞳を細める。

 

 

「んー……何か忘れてるような……」

 

 

この時期に大々的に行われている行事があったはずだ。

はて、なんだっただろうか、と考え込む。

 

あ、中忍選抜試験か

 

多分、まだまだ忍者成り立てである自分たちにはあまり関係がないだろうが……。

今年はなんだか嫌な予感を感じていた。

こういう時、杞憂で終わってくれた試しがない。

ゴロリと不安を誤魔化すように寝返りを打ち、横向きになる。

ふと、綺麗に畳まれた上着が目に入った。

あの時、シカマルに返すのを忘れており、洗濯して返そうと思いつつ、未だに返せていないのだ。

 

あたし、最近可笑しいな……

 

夢で何度あの温もりを追いかけただろう。

ユウにとってあの時間はあまりにも優しくて、温かくて、いけないと分かっているのに欲しくなる。

それはまるで麻薬だ。

シカマルが自分を呼ぶ声が離れなくて、腕の感触が、頭を撫でてくれたあの動作が忘れられなくて。

あの心地よい心音と体温が、忘れられずにいた。

 

また、甘えたくなってしまう。

 

 

「……あたし、そんなに甘えん坊だったのかなぁ……」

 

 

まるで父親を求める幼子のようだ、と思う。

父親という存在を知らないから何とも言えないが……。

いやいやそもそも甘えたこと事態がなかった、と頭を降って白紙に戻す。

苦し紛れにそっと枕を抱きしめる。

 

……抱き枕が欲しい。

 

会いに行ってしまおうか

最近、この誘惑に負けそうな自分がいて、一生懸命負けないように気を張っているせいで無駄に疲れているような気がする。

 

 

「離れられなくなっちゃうって……遅かったかも」

 

 

苦しむのは自分だというのに、まったく成長していない。

成長している気が、しない。

その時、決まって太陽のようなナルトの笑顔を思い出すのだ。

……彼はあんなに、成長しているのに、と。

焦りが出るわけではなく、なんとなく、置いていかれてるような感覚に囚われるのだ。

立ち止まってる自分の横を猛スピードで駆け抜けていく金色に、寂しく思うのだ。

 

これが、最近のユウの悩みであり、毎朝行われている葛藤である。

そして気がつけば時間なんて過ぎ去っていて……

 

 

「!!さっきまで6時だったのに!?」

 

 

ヤバい!!と悲鳴をあげながらベッドを飛び降りるユウの時計が指し示すのは9時30分。

任務開始時刻、15分前。

これが習慣化されかけているユウの朝の光景なのであった。

 

 

+++++

 

 

「おはよう!みん、な……?」

 

「お、おはよう、ユウ…」

 

 

集合場所に着いた時、サクラがなんだか疲れきったような表情をしていた。

その原因は、ナルトとサスケ。

お互いにそっぽを向いていて、険悪なムードが漂っている。

 

それは、きっとお互いに焦りが出ているからだ。

良くも悪くも、白と再不斬、あの二人との死闘はナルトたちに影響を与えていた。

何かきっかけがあれば、それも落ち着くのだろうが、そのきっかけがなかなか無く、日に日にサクラの精神にストレスが積み重なるばかり。

ユウとサクラはこの雰囲気に耐えながら、あの遅刻魔上忍を待っていなければならなかったのである。

もちろん、今日この日とて例外では無く……

 

 

「や―― 諸君おはよう!

今日は道に迷ってな……」

 

「「いつも真顔で大ウソつくなっ!!!」」

 

 

本日もお約束通り遅刻してきたカカシにたいがいにしろ、と仲良くツッコミを入れるサクラとナルト。

 

 

「あのさ!あのさ!カカシ先生さぁ!オレら7班最近カンタンな任務ばっかじゃん!?

オレがもっと活躍できる何かこう もっと熱いのねーの!?

こう オレの忍道をこう!! 心をこうさぁ…!!!」

 

「あー、ハイハイ……いーたいことは大体分かったから…」

 

 

困ったようなカカシの様子には気づかず、サスケに対し臨戦体制をとる。

 

今日こそは「まったく世話のやける奴だ……」とか言ってやりたいって思ってるんだろうなぁ……

 

いつも以上に燃え滾っているナルトに怒鳴るサクラという、最近では見慣れた光景を苦笑しつつ眺め、ユウたちは任務へと向かった。

 

 

+++++

 

 

本日の任務がすべて終了したが、ナルトはボロボロで結局ユウとサクラに支えられながら帰還しなければならない状態であった。

 

 

「フ~~」

 

「もうムチャするからよォ!」

 

「フッ、ったく世話のやける奴だな」

 

 

あ、地雷、とユウが認識したのとナルトがカッチーンと切れるのはほぼ同時。

 

 

「ムッキィーーー!!ザズゲ―――!!」

 

「これ以上暴れたらとどめさすわよ!」

 

「フン」

 

「……ある意味フリーダムだね」

 

 

そっぽを向いて距離を取るサスケとムキになるナルト、両名をなんとも言えない目で見つつ、カカシはユウに同意するように頷いた。

 

 

「ん――…最近チームワークが乱れてるなぁ……」

 

「そーだ! そーだ!チームワーク乱してんのはテメーだよサスケ!!

いつも出しゃばりやがって!!」

 

「そりゃお前だウスラトンカチ。

そんなにオレにカリを作りたくねーならな……

オレより強くなりゃいーだろが」

 

「!!」

 

 

チームワークが乱れてるのはどちらのせいでもある気がする、とユウは思っていたが、流石にこの雰囲気でそれを言う彼女ではない。

 

波の国での戦いで庇われたことを未だに引きずり、焦りながらも敵対心をむき出しにするナルト。

同じく波の国での死闘で外の世界を知り、追い打ちをかけるようにナルトが成長しつつあることを実感して焦りと苛立ちが増しているサスケ。

 

噛み合っているようで噛み合わない二人がチームワークを乱さないようにする方が無理な話しだ。

しみじみ、とユウがそれぞれの心情はこんなところだろう、と当たりを付けていると、頭上から鳥の鳴き声が聞こえ、空を仰ぐ。

 

 

「!」

 

 

あれは、伝令用の鷹だろうか?

この時期に招集をかけるということは、中忍試験についてだろう。

 

 

「さーてと!そろそろ解散にするか。

オレはこれからこの任務の報告書を提出せにゃならん……」

 

「…なら帰るぜ」

 

「! あ!ねー!サスケ君待ってー!

ねェ あのねェ…これからぁー」

 

 

あ、とナルトが伸ばした手を所在なさげにしているのを見て、ポンと肩に手を置いた。

完全に出遅れてしまった彼は泣きそうな目でユウを見る。

 

 

「ユウ~……」

 

「うん、まぁ……あれはしょうがないよ」

 

 

猛烈アタックをしに行く女の子とは本当に凄まじい、と感心してしまう。

しかし、どうやらサスケはサクラの誘いを蹴ってしまったらしい。

沈んでいる様子のサクラに首を傾げていると、大きく手を振りながら彼女に声をかけるナルト。

 

 

「サクラちゃーん!サスケなんかほっといて3人で修行しようってばよ!!!」

 

「あれ?いつの間にかあたしもカウントされてる?!」

 

 

ん?ダメだったってば?

ダメじゃないけど、あたしまでいいの?

もちろんだってばよ!

 

金髪コンビがお互いに首を傾げながら会話している中、涙を滝のように流しながら青筋を浮かべるサクラ。

その時、隣りに立っていたカカシが瞬身を使い、立ち去った。

不思議そうに辺りを見渡したナルトは、岩を模した四角い物体を発見する。

と、言っても十人中十人が気付いてしまうような代物だったが……。

それと戯れるナルトを眺めつつ、ユウは深々と考え込む。

今回は中忍試験のことでの招集があったのだろうが……

 

……推薦、したりしないよね?

 

いや、でも相手はあのカカシである。

あのカカシなのである。

意外にも推薦してしまう可能性も否めない。

というか、むしろ推薦してしまう可能性の方が高いような気がするのは何故だろう。

思わず頭を抱えたくなったユウの目の前で、ようやく隠れるのをやめたらしい少年たちが姿を現した。

 

 

「さすがオレの見込んだ男!オレのライバルなんだなコレ!!」

 

「なんだぁ、木ノ葉丸たちか……

ん!?なんだお前ら…ゴーグルなんかしちゃってさ……」

 

「へへへェ、昔の兄ちゃんマネしちゃったのさコレ!」

 

 

得意げにゴーグルを弄る少年、木ノ葉丸。

彼は三代目火影、ヒルゼンの実の孫であり、色々な経緯を経てナルトと仲良く(ライバル?)なったらしい。

彼と一緒にいる眼鏡をかけた少年と髪を結んだ少女、ウドンとモエギ。

彼らもまた、木ノ葉丸の友達であり、ナルトを慕っている子たちで、とてもいい子なのである。

そんな彼らがナルトを意識して真似っこしている、というのは見ていてとても微笑ましい。

が、当のナルトはというと……

 

 

「ふ~~~ん」

 

「!ふ~~~んってコレ!!なんか最近兄ちゃんリアクション冷たいぞォ!!」

 

 

素っ気ない態度に木ノ葉丸が憤慨する。

思わず苦笑していると、木ノ葉丸たちが駆け寄ってきた。

 

 

「なぁ!ユウ姉ちゃんも兄ちゃんのリアクション冷たいと思うよな、コレ!!」

 

「う~ん、この前の長期任務でね、色々あったから……」

 

 

ナルトも、すごく成長したんだよ

 

自分で言っていて、はたと気がついた。

そうだ、ナルトも成長しているのだ。

寂しく思っている自分がいるのも事実であり、嬉しく思っている自分がいるのもまた事実。

サスケは言わずもがな、サクラだって自分で気がついていないだけでかなり成長している。

 

それなのに、素直に喜べない、のは……

自分は成長していない事実に不安が生じてきているから?

 

あの、真っ白な少年が脳裏によぎり、胸に何かがつっかえたような感覚に襲われた。

ギリギリと痛む何かが、ユウの不安を煽る。

 

 

「ユウ姉ちゃん?」

 

 

名前を呼ばれ、ハッとする。

不思議そうな、やや心配そうな顔をした木ノ葉丸たちが顔を覗き込んでいた。

 

 

「あぁ、ゴメンね……

ちょっと、ぼーっとしてた」

 

「ユウ、お前疲れてんじゃねーのか?

最近任務中もボーっとしてるし」

 

「そんなことないよ」

 

 

首をふって、大袈裟だ、と宥める。

別にそんな大したことではないのだ。

 

こんなことで迷惑かけて、あたし本当に何やって……

 

 

――もう、我慢すんな

 

 

「!」

 

 

――そんなことねー、なんて言わせねーぜ?

――オレはもう、お前に我慢させるつもりはねーんだよ

 

 

「……ッ」

 

 

――本当になんでも言うこと聞いてくれんなら、言い方はあれだけどよ……我が儘になって欲しい

 

――お前の、本当の笑顔が見てぇんだ

 

 

どうして、思い出してしまうんだろう

あの心地よい温もりを思い出したら、自分が辛くなると分かっているというのに

 

会いたく、なってしまう

 

 

「……本当に大丈夫だから」

 

 

最後は自分に言い聞かせるように、いつもどおりに微笑んだ。

いつもどおりに、“笑った”。

どうやら納得してくれたようで、ナルトは当初の疑問を木ノ葉丸たちにぶつける。

 

 

「――で、お前らは何か用なのか?」

 

「あのね!リーダー!これからヒマ?」

 

「ん~ん!これから修行ォーー!!」

 

 

ビシィと親指を立てて宣言したナルトだったが、ちびっ子たちはご不満だったようでブーイングの嵐が起きた。

 

 

「えェ~~!!今日は忍者ゴッコしてくれるって言ったじゃあん!!コレェー!!」

 

「あ……ハハ、そうだっけかなぁ……(こいつらと遊ぶと一日中付き合わされるってばよ……)」

 

「忍者ゴッコ?」

 

 

木ノ葉丸たちは忍者学校に通っているはずでは?と疑問符が頭を飛び交う。

なぜ忍者ゴッコとやらをやる必要があるのだろうか?

 

 

「忍者ゴッコって、修行みたいなもの?」

 

「全然違うってばよ……えーとな、忍者ゴッコってのは~」

 

「フン……忍者が忍者ゴッコしてどーすんのよ……」

 

「「「「「………」」」」」

 

 

的外れなユウの質問に答えようとした時、的確なサクラのツッコミが炸裂した。

その上、どんよりとした空気を纏っており、ゆらり、とこちらに近づいてくる様は非常にホラーチックである。

サスケに何か言われ、沈んでいることは間違いないだろうが……

 

サクラに何言ったんだろう、サスケ……

 

苦笑したまま固まっているユウは意外にも本気で怖がっていた。

何を思ったのか、こちら(主にナルト)をジーッとガン見してくるので、ユウはますます怯えてしまう。

 

 

「「な……何でしょう?」」

 

 

照れているナルトと怯えているユウの声が綺麗にハモッた。

全く違う感情を抱いているのにも関わらず、綺麗にハモるものである。

 

 

「兄ちゃん、この姉ちゃん誰?」

 

 

サクラを指差し、問いかける木ノ葉丸だったが全く答えてくれる雰囲気ではなく、仕方なく観察を始めた。

 

 

「(ずっと兄ちゃんと姉ちゃんのこと食い殺すような目で見てるな、コレ……)」

 

 

そんな微妙な空気の中、不意に彼の中で何かが繋がったらしい。

手の平に拳をポンと当て、スッキリしたような表情をする。

 

 

「兄ちゃんもスミにおけないなぁ」

 

「は?」

 

「あいつって兄ちゃんの……コレ?」

 

 

小指が立てられ、示されたそれにサクラは殺気を放ち始めた。

ユウは?を浮かべながらもそんな彼女に聞くわけにもいかず、一歩後ずさりする。

 

 

「も――!君達はガキのわりにスルドイ……」

 

「ちがーう!!!」

 

「「「兄ちゃん!!」」」

 

「……」

 

 

うわぁ……

 

未だ苦笑したまま固まるユウの目の前を殴り飛ばされたナルトが転がり、壁にぶつかった。

しかも壁はブッ壊れており、先程とは違う意味で頭を抱えたくなった。

 

あれ、後で三代目に謝っておかなくちゃ……

 

ナルトに駆け寄った木ノ葉丸たちは、あわあわと慌てる。

勇気ある(無謀とも言う)木ノ葉丸はサクラに拳を向けた。

 

 

「な……なんてことすんだコレ!!」

 

「ヤダァーリーダー!!死んじゃやだー!!」

 

「う~」

 

 

ぶつけたのだろうか、頭を抑えるナルトに必死で声をかけるモエギ

そんな二人の前に立ち、木ノ葉丸はサクラと対峙する。

そして、

 

 

「このブース!ブース!!」

 

 

ブチ、とサクラの中で何かが切れる音がした。

流石に顔を引きつらせていると、彼女は木ノ葉丸に歩み寄りタコ殴りにし始めたのだった。

 

 

 


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