絆道~始まりのミチシルベ~   作:レイリア@風雅

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初めに謝罪しておきます。
すみませんでしたァアアア!!(土下座)


第20話 冷たい視線

 

あれから二日後。

つまり、ユウとの約束の日。

オレはらしくもなく、待ち合わせよりも30分も早く来てしまった。

 

 

「……オレ、浮かれるにも程があるだろ」

 

 

ハァー、と盛大なため息とともに頭を抱える。

今日オレは、何故か妙にニマニマした親父とお袋によってコーディネートされた服を着ている。

正直オレにゃあ似合わないんじゃねーかと思いつつ、少しでもユウにカッコイイと思われたくて、なんだかんだ言いつつ着てきたという訳で

 

服っていや、ユウはどんな格好でくんのかな……

やっぱ、いつも通りのあの忍装束か?

だとしたらそれはそれでいいけど、なんか凹む……。

 

悶々としていると、トットットット、と小さな足音。

 

 

「あぁ!シカマル、待たせちゃってゴメンね!!」

 

「んあ?いや、全然待ってねーからだいじょう、ぶ……」

 

 

振り返った先にいたのは、ユウ。

確かに、ユウだ。

まだ時間前だというのにオレを見つけて走ってきたから、足音がしたのだろう(いつものユウから足音聞こえねーし)

 

フワリ、と風に煽られ、スカートの端が揺れる。

そう、“スカート”。

フリルのついた、ふんわりと柔らかそうなノースリーブのワンピース

その上は、淡い黄色のカーディガンを羽織っていて、明るい茶色のショートブーツ。

 

 

 

「どうしたの?シカマル??

……あ、これ?」

 

 

あまりにもガン見していたため、気づかれてしまったらしい。

恥ずかしそうに顔を赤らめ、スカートの裾を摘む。

 

 

「サクラたちがね、たまにはこういう格好もすれば?って……。

こういうの、よく分からないから昨日一生懸命こーでぃねーと?を考えてみたんだけど」

 

 

その場でくるりと回り、コテンと小首を傾げて「どう?似合うかな?」と上目遣いをするユウ。

いや、文句なしに可愛い……

しかも、自惚れてっかもしれないけど、その服をわざわざ今日、オレのために着てきてくれたっていうのが、なんかこう……

グッとくるっつーか……

 

すげぇうれしい

 

 

「シカマル??」

 

「え?あ、いや……似合ってる」

 

「ほんと?」

 

「っ、ほら、行くぞ」

 

「うん!」

 

 

顔が熱い。

絶対真っ赤になってるこの顔を見られたくなくて、ユウの手を取って大股に歩き出した。

こういう時、サスケのようなモテる男はもっと気の利いた台詞の一つでも吐くのだろうが、そんなの自他共に認めるイケてねー派のオレには無理な話しだ。

 

チラリと振り返ってみると、ユウはニコニコと笑っていた。

幼馴染みのいのとは違う、落ち着いた表情。

無邪気にも見えるが、どこか違和感が残る、笑顔。

 

なんでそう感じるのかは分からない

分からねーからこそ、気になるんだ

 

 

「シカマル、これからどこに行く?」

 

「……あ。」

 

 

マズッた。

完璧忘れてた。

昨日までに頭に叩き込んでおいたスケジュールはユウの姿を見たとたん、消し飛んじまった。

……ヤッベー、オレ超かっこわりー……

 

 

「あー……ユウはどこか行きたいとこ、あるか?」

 

「んー、特にないかな……シカマルは?」

 

「オレ?そうだなー……とりあえず商店街の方に行かねー?」

 

 

商店街の方ならイベントがやってるかもしれないし、それぞれ欲しい物が見つかれば途中で買うこともできる。

何より女の子のユウが興味を持ちそうな小物とかは商店街の方に行かないとあんまりいいものがない。

なかなかベストなチョイスだとシカマルは思った。

だが、シカマルは鋭かった。

ナルトたちでは捉えられなかったであろうユウの表情の変化に気付き、瞬時にそれは間違いだったと悟った。

 

 

「うん。じゃあ行こうか?」

 

「……いや、やっぱやめとくか」

 

「え?」

 

「そんな欲しいモンがある訳でもねーし、オレ人混み苦手……」

 

 

だからよ、と続けるつもりだった言葉が途絶える。

その時、シカマルは見てしまったからだ。

ユウに突き刺さる、いくつもの冷たい眼差しに。

ヒソヒソと話す声が、突然大きくなった気がした。

 

 

「……シカマル?」

 

 

きょとん、と首を傾げるユウは気づいてないのだろうか。

それとも……気付いていて気付かない振りをしているのだろうか。

平和だと思っていた木ノ葉の里が、この空間だけひどく寒々しく、刺々しく、殺気立っていて……まるで戦場のようだとシカマルは思った。

不思議そうにしていたユウは、シカマルが見ている先に気がついたのだろう。

ハッとしたように目を見開いて、一瞬、寂しそうな顔をして、俯いた。

一瞬だけ見えた、諦めきったような、曇った瞳。

それにしまったと思った時には、遅かった

 

 

「あ……、ユウ……」

 

「ごめんね。嫌な思い、させたよね」

 

 

狼狽えるシカマルに、ユウはただ微笑みかけた。

 

最近あまりにも楽しくて、忘れていた

ナルトたちと共に過ごす時間が幸せで、その温かさに包まれているだけで、ユウは自分に対する敵意を受け止めることが怖くなくなっていた。

感覚が麻痺していたと言ってもいい。

 

独りの時間が減りすぎて、忘れていたのだ

 

その視線の冷たさを他人はどう感じるのか

ユウの傍にいるだけで、その人にまでどんな視線が向けられてしまうのか……

 

ナルトは九尾の人柱力だ。

こう言ってはなんだが、ユウと二人でいても、“いつも通り”冷たい視線を浴びるだけ。

だからユウは彼に友達になろうと言われたとき、素直に頷けたのだ。

計算高いと言われてしまえばそれまでだが、わざわざ“普通の人”にまでその視線を浴びさせることをユウは良しとしなかった。

ナルトに関してだって本当はそうだ。

その視線を浴びる機会が増えることを躊躇った。

彼から友達になろうと言ってくれなかったら、今でも独りでいただろう。

 

ではサクラたちはどうなのか。

彼女らについても同じことだ。

仮に一瞬白い目が向けられても、額あてを付けて一緒にいればまず間違いなく班を組んでいるのだと分かる。

思うところはあるだろうが、そのおかげで見逃してくれるだろう。

同情こそされはしても、彼らが個人的に冷たい目を浴びることはないはずだ。

 

でもシカマルは違う。

元々冷たい目を浴びているわけではない。

むしろ奈良一族の当主の息子として、様々な期待を背負い、誰もが暖かく見守る存在だ。

ましてや同じ班でもない。

ただ、忍者学校で共に学んだだけの顔なじみ、というだけ。

 

自分の浅はかな判断のせいで、シカマルに自分と同じような想いをさせてしまった。

そう思うだけでユウの手はガタガタと震えが止まらなくなる。

 

 

「せっかく誘ってくれたのに、ゴメン。

すごく、嬉しかった。

……じゃあ、元気でね」

 

「っユウ!!」

 

 

手を振り切り、走り出すユウを追いかける。

慣れない服や靴を履いていて、動きづらいはずなのに、ユウはそんなことを微塵にも感じさせない身軽さで走り去っていく。

縮まらない距離、むしろ離されていく彼女との距離に苛立ちを感じ、舌打ちをした。

 

……自分が追いつけるのか?

アカデミーでくノ一1の秀才であった、彼女に

 

 

「っ」

 

 

とっさに印を結び、ユウが曲がり角に消えていく前に自身の影を伸ばした。

凄まじいスピードで伸びていった影がユウの影を寸でで捉え、ピタリと動きが止まる。

 

 

「っ!」

 

「……影真似の術、成功」

 

 

自分の意思に反し、シカマルと全く同じ動きをする体にため息をついた。

これくらいの術ならすぐに跳ね返せる。

だが、この時ばかりはそうしようと思えなかった。

 

本当は、ずっと誰かにこうして気にかけて欲しかったのかもしれない

 

その望みがもしかしたら目の前にあって、触れることができるかもしれない

そんな甘い誘惑を、ユウは振り切ることなんて出来なかった。

 

 

「逃げないって約束するなら術を解くぜ?」

 

「……しょうがない、か。

うん、約束する」

 

 

降参、と言うように肩をすくめた。

 

 

+++++

 

その後、二人は奈良一族が管理している森の中、その開けた場所へとやってきた。

バッグを持ったままでは辛いだろうと考え、ユウのバッグはシカマルが持っている。

可愛らしい洋服に汚れがついてしまわないかと心配だったが、ひょいひょいと服に汚れ一つ付けずにここまで来れたユウは流石だと内心感心する。

森へ入る前に自販機で購入していたペットボトルのお茶をほい、と渡し、上着を石の上にかけた。

 

 

「ほら、座れよ」

 

「別に、あたしなんかに気を使わなくても大丈夫だよ?

シカマルの服、汚れちゃうし……」

 

「んなの気にしねーよ。オレは男だから、尚更な。

……足、痛ぇだろ?」

 

「……気付いて、たんだ?」

 

 

上手く隠せてると思ったのに、と肩をすくめてみせ、大人しくシカマルの上着の上に申し訳なさそうに腰掛けた。

そんなユウに盛大なため息を一つつき、シカマルもすぐ隣りに腰掛ける。

そりゃ靴擦れもするだろう。

なんせ履きなれてないくせにあんな全力ダッシュを決め込んだ上、シカマルがおぶろうかと提案しても断固として首を縦にふらず、こんな森の中をひょいひょいと歩くのだから。

 

 

「……何も、聞かないの?」

 

「聞いて欲しいのか?」

 

「うーん……どうかな」

 

 

どうでもいいかも

ユウにしては珍しく、投げやりな口調。

思わず顔を見れば、そこにはいつものように微笑んでいるユウがいて、その微笑があまりにもこの場に合っていなさ過ぎて。

いつもなら胸が高鳴るそれも、今は気持ち悪いと、不気味だとまで感じた。

 

 

「シカマルが聞きたいなら聞けばいいし、聞きたくないのなら聞かなければいい。

あたしは、シカマルにただ答えるだけ」

 

「お前の意志は……ないのかよ」

 

「うん」

 

 

だからシカマルが決めていい。

聞くも聞かないも、シカマルの自由だよ?

 

 

「シカマルは、あたしにどうして欲しい?

何を、して欲しいの?」

 

 

微笑を顔に貼り付けながら、伺うようにシカマルを見上げる。

正面から、真っ直ぐに。

その視線と問いかけに、動揺した。

視界が揺れて、ブレてもユウが視界に入ってしまうことに妙な焦燥感を感じる。

 

待て、冷静になれ。

考えろ。

 

まずは頭を冷やそう。

一度瞳を閉じ、再びユウを視界に映す。

動揺が収まっても視界に映るユウは変わらない。

その姿に何故か、ツキリと胸が痛んだ。

 

ユウは、ずっと……きっと、ずっとずっと前から……

 

 

「シカマル?」

 

「なんでもして、くれるんだな?

オレが聞けばなんでも答えてくれるし、オレが頼めば必ず応えてくれるんだな?」

 

「……うん」

 

 

シカマルの問いかけに落胆のような、希望が全て消え去ったかのような、絶望したような、そんな様々な負の感情が混ざった色が瞳に浮かぶ。

心なしか瞳が揺れているような気がした。

 

 

「じゃあ……笑うな」

 

「……え?」

 

「無理に笑うなって言ってんだよ。

ついでにオレの前では素直に自分の気持ちを出せ。

あとは……本当に笑いたい時に、本当の笑顔を見せてくれたらそれでいい」

 

「え……あ、の……え??」

 

 

困惑する彼女にそっと笑い、手を伸ばす。

びくびくと怯えを示すように震える小さな体、きゅっと閉じてしまう綺麗なガラス玉みたいな瞳。

その反応がどこまでも悲しくて、哀しくて、辛くて……痛い。

壊れ物を触るかのような優しい手つきで、頬をなぞった。

ビックリしたのか一瞬、大きく震え、瞼を開ける。

 

 

「っ……シカマ、ル……?」

 

「もう、我慢すんな……本当は怖いんだろ?」

 

「そんな、こ、と……」

 

 

薄い膜が翡翠の目を覆っていく。それでも、ユウは泣かない。

いや、泣き方を知らないのかもしれない。

 

戸惑うように瞳は揺れ、逸らそうとしても逸らせないようで、冷静になれず、パニックを起こしているのかもしれない。

頬を撫で、シカマルは本当に愛おしそうに柔らかく目を細め、ユウを見る。

ユウの瞳に映る自分は、なんと泣きそうな顔をしながら、自分でも見たことがないような優しい眼差しを向けていることかと心の中で苦笑した。

 

 

「そんなことねー、なんて言わせねーぜ?

オレはもう、お前に我慢させるつもりはねーんだよ」

 

 

苦しいなら苦しいと助けを求めて欲しいし

怒ったなら怒って欲しいし

泣きたいなら涙を流して欲しいし

怖いなら怖いと震えて、

不愉快なら不愉快だと言って、そして……

嬉しいなら、輝かんばかりの笑顔で笑って欲しい。

 

 

「本当になんでも言うこと聞いてくれんなら、言い方はあれだけどよ……我が儘になって欲しい。

ほかには、何も要らないから。

ただ、自由に、素直に、自分の気持ちを出して欲しい。

お前の、本当の笑顔が見てぇんだ」

 

 

本気で思っているんだと、少しでも気持ちが伝わって欲しくて。

コツン、額と額をくっ付ける。

ひゃっ、と小さな悲鳴に思わず笑みが溢れた。

名残惜しく思いながら額を離し、小柄な体躯を自分の腕の中へ閉じ込めた。

震え続ける体は最早隠しきれないほど大きく震えていて、見ているこちらが痛々しいほど。

 

 

「ここに居てくれよ、ユウ」

 

 

この腕の中で、あの冷たく鋭利な眼差しから守ってみせるから。

 

 

「っ……シカマル……」

 

「オレ……お前のことが好きだ」

 

 

するりと、あっけなく溢れ出た自分の本音は、少女の耳元で囁くように紡がれた。

きっとこの少女の脳内では友達として、と変換されていることだろう。

それでも構わない、と思った。

だって、本当に少女が望んでいたのは、欲しかったものは“これ”だと思うから。

ここに居ても良いのだ、という一言が。

存在を認めてくれるものが。

 

 

「“好き”だ。

だから離れていこうとすんなよ……。

“傍”に居てくれ」

 

 

大きくなる、体の震え。

ギュッと足元で作られていた拳は次第に開かれ、シカマルの背中へゆっくりと戸惑いがちに回された。

しかし、回される途中でピタリと動きが止まり、次第に腕が降りていく。

それはまるで、期待するな、拒絶しろ、希望を持つなと自分を叱責しているかのようだった。

それに当然のように気づいていたシカマルは完全に落ちかけた左手を素早く掴み、包み込んだ。

右腕で肩を抱くようにしながら手の平でユウの頭を自身の胸に押し付ける形に変え、左手を膝の上に置く。

 

 

「ユウ、好きだ」

 

「っ……あたしには、シカマルにそう言ってもらえる資格なんて……ないっ……。

ないんだよ……っ。

絶対に一緒にいなきゃよかったって後悔する……。

今ならまだ、戻れるから……!

だから……っ」

 

 

最後の抵抗、と言わんばかりに震える唇で絞り出すように拒絶の言葉を紡ぐ。

それに小さく笑い、包み込んだ左手を自分の唇まで持ち上げた。

 

 

「資格?そんなの必要ねー……つかそれこそ諦めろってーの。

お前のことが好きかどうかはオレが決める問題で、お前がどう思っていようが変えようの無い事実だ。

絶対に後悔なんかしない。

何回でも言うけどな……ユウのことが好きだ」

 

「っ……」

 

「好きだぜ。

めんどくせー、なんて言えなくなるくらいにな」

 

 

あんなにも震えていた体が、少しずつ、少しずつ落ち着いていく。

キュっと、初めてユウが包まれていた左手をそっと離し、繋いだ。

シカマルに、応えるように。

疲労の色を浮かべながらも諦めたように、泣きそうな顔を歪めて不器用に微笑む。

“今”しかないだろう、この幸せを噛み締めるかのような、“本当の笑顔”。

甘えるようにシカマルの胸に頬をすり寄せる。

 

 

「ありが、とう……“わたし”も、好き……。

シカマルが、シカマルのことが、大好きだよ。

……ごめんなさい」

 

「なんで、謝ってんだよ……」

 

「傍にいて欲しいって思ってしまった……。

好きに、なってしまった……。

ごめんなさい。

“わたし”なんかが、おこがましいのも分かってるの……」

 

 

その時、シカマルは初めて気付いた。

ユウの頬を伝う一筋の涙と、彼女の意識が朦朧としていることに。

 

 

「我が儘、か……ずっと、一緒にいたいなぁ……。

ナルト、と……サスケと……サクラと、カカシ先生……。

キバ……ヒナタ……シノ……いの。

それから、シカマル。

みんなと、ずっと、一緒にいたい…なぁ……」

 

 

切ない呟きだった。

聴いてるこっちが胸が締め付けられるような、哀しそうな声色だった。

 




……えー……
謝罪の意味を分かって頂けたでしょうか……。

うん。自分でも久しぶりに書いてて砂糖と共に吐血しそうでした。
シカマルこんなこと言わないし……たぶん。

あ、一つだけ一応補足しておきます。
この二人、これで恋人になったとかでは決して御座いません。
ええ。うちのユウは好き=恋愛ではないので……。
というかそういう知識といいますか、普通一般的な常識がちょっと欠けているので……。

もう一つだけ言っておくと、実はそういう意味でユウのことが好きなのはシカマルとキバだけだったりします。
え?サスケとカカシはどうなのかって?
それは後ほど……ということでお願いします。

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