絆道~始まりのミチシルベ~   作:レイリア@風雅

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第2話 卒業試験

 

 

翌日、ユウはいつもより早く起きた。

起きてしまったのだ。

 

 

「……なんか、落ち着かないなぁ……」

 

 

時計をジッと見つめながら、よく分からないこの落ち着かなさと妙な焦燥感に疑問を抱いていた。

 

試験前の緊張?

いや、緊張とか、そういう類じゃない。

 

じゃあ、なんだろう?

……胸騒ぎ、……そう、これは胸騒ぎと同じような感じだ。

 

 

「……嫌な予感がする……」

 

 

とりあえず家にいたって何にもならないと結論付け、軽い朝食を済ませると身支度などを整え、荷物を持って朝修行へと出かけた。

今日も今日とて胸騒ぎがしようともユウの修行バカは健在なのである。

 

 

 

 

結局胸騒ぎのせいで修行に身が入らず、いつもよりずっと早い時間にアカデミーに着き、そのまま教室へと向かう。

いつもとは違い、人気が無く、シンと静まり返った廊下を音を出さないように歩いているはずのユウの足音ですら聞こえてくるようだった。

教室についたユウは誰もいないだろうと予測していたが、中に人の気配を感じ少し驚いた。

誰だろう?と思いながら戸を開ける。

 

 

「!あ……」

 

「あ……おはよう、サスケ君!」

 

「ッ!あ、ああ、お、おはよう……」

 

 

そう、ユウよりも先に教室に来ていたのはサスケだった。

ニコッと微笑んだユウに挙動不審になるサスケを不思議に思うも、挨拶を返してくれたことが嬉しかったのかふわりとまた微笑んだ。

 

今日はどの席にでも自由に座って良いと言われていたのか、サスケはいつも座ってる席とは違う席に座っていた。

 

 

「……琥珀は朝早いんだな」

 

「え?……ううん、いつもはもっと遅いよ。今日はたまたま早く起きちゃったから早く来ただけだし。

サスケ君こそ、朝早いんだね?」

 

「いや、オレも今日はたまたまだ。」

 

 

そう答えたサスケはとんとん、と自分の隣の席を叩き、座るように促してきた。

素直に頷き、サスケの隣に座る。

 

 

「なぁ」

 

「ん?何?サスケ君。」

 

「その……オレの、事、呼び捨てで良いから」

 

「へ?」

 

 

俯き、赤面した顔を見られないようにそっぽを向いて言ったサスケにユウは目を丸くして呆然とサスケを見つめる。

サスケの顔は見えないが、辛うじて見える耳は真っ赤になっていて……。

何故耳が真っ赤になってるのかユウにはさっぱり分からなかったが、嬉しそうにクスッと控えめに笑った。

 

 

「うん!じゃあ、サスケもあたしのこと、ユウって呼び捨てにして欲しいな。

……琥珀って呼ばれるの、あまり慣れてなくて……」

 

 

一瞬ユウが暗い顔になったのを、背を向けていたサスケは気付けなかった。

 

 

「……ユウ。これで、いいか?」

 

「……有難う!なんかあたし達友達みたいだね!」

 

 

そう言ったユウは先程の暗い顔の面影も無く、屈託の無い無邪気な笑顔で嬉しそうだ。

サスケはユウの友達発言に少し複雑な心境ながらも、ああそうだな、と頷いた。

 

 

 

 

 

 

あの後、ユウは術書の巻物に目を通したり、サスケと話したりして時間を潰していたのだが、やがてほかの生徒達も登校する時間になり、サスケはあっという間に女子達に囲まれてしまったのを見て相変わらずモテモテだな、と苦笑し、やがて登校してきたナルトを発見した。

サスケに申し訳なく思いながらも、とりあえずナルトの隣へと移動し、二言三言交わしているとイルカが教室に入り、いよいよ卒業試験の説明に入ったのだった。

 

イルカが卒業試験についての説明を始めたが、ナルトは緊張して顔が強張ってる。

 

 

「で……卒業試験は分身の術にする。呼ばれた者は一人ずつ隣の部屋に来るように」

 

 

実体を作る影分身とは違い、自分の残像を作り出すのが分身の術。

忍にとって基礎の忍術だけど、コツを掴むのに苦労する人が結構いる。

特にユウやナルトみたいに……中に何かを封じられた人達にとっては難しい。

 

 

「(ガーン……よりによってオレの一番苦手な術じゃねーか……)」

 

 

ちらりと隣にいるナルトに視線をやると、案の定苦手な術だったのかあたふたと慌てていた。

 

……大丈夫かな、ナルト……。

 

 

 

 

 

いよいよナルトの名前が呼ばれ、ナルトは強張っていた顔を更に強張らせた。

しかし観念したように立ち上がる。

 

 

「な、ナルト!」

 

 

思わず声をかけたユウに振り返ると、ナルトは顔を引きつらせながら笑った。

 

 

「だ、大丈夫だってばよ!さくっと行ってさくっと合格してみせるからさ!!」

 

 

そう言ってユウの頭を撫でようと手を伸ばしたナルトに反射的に眼をつぶったユウは、その手を掴む。

一瞬、動きを止めた彼女は何を思ったか、持ち方を変えて両手で包み込んだ。

 

 

「うん……頑張って、ね!」

 

 

何とか笑ってみせたユウにナルトは目を丸くし、ニカッといつものように笑ってオウ!と返した。

ナルトが教室を出た後、若干震えている自分の手や体を見てユウは悲しそうに笑みを浮かべた。

 

 

 

 

次の生徒の名前が呼ばれても、ナルトは教室に戻ってこなかった。

 

……ナルト……どうしたのかな?

 

つい先程サスケが呼ばれ、戻ってきたときにはその額に額あてをつけて片手を挙げてくれた。

応えるようにユウもサスケに手を振ったら、小さく微笑んでくれた気がした。

 

 

「次、琥珀ユウ」

 

 

名前を呼ばれ、仕方なく立ち上がり、教室を出た。

 

 

 

隣の教室には2つの気配。

一つはイルカで、もう一つは……。

何となく嫌な気持ちになりながら、失礼しますと言ってから引き戸を開け、頭を下げた。

 

教卓に座ってるのはやっぱりイルカと、ユウの苦手なミズキ。

他の生徒達からは人気があるミズキだが、どうしてもユウは好きにはなれなかった。

……というか苦手だ、あの作り笑いも、ユウやナルトを見るときのその冷たい眼も……。

 

 

「ユウちゃん、どうしたのかな?」

 

 

ミズキに名前を呼ばれ、肩がビクッと跳ね上がる。

 

 

「あ、いえ……なんでもないです」

 

 

……やっぱり、苦手である。

でも今は試験に集中しなければ、とユウは思考を巡らせた。

どれくらいに分身すれば良いのだろうか?

多すぎても変だし、少なすぎても落ちてしまう。

 

……10人くらい、でいいかな……。

 

印を結び、チャクラを練る。

 

 

「分身の術!!」

 

 

ボフン、と煙が辺りを包み、煙が晴れるとそこには10人に分身したユウの姿があった。

そんなユウを見てぽかん、と開いた口が塞がらないイルカとミズキ。

 

 

「え、えっと……不合格、ですか?」

 

 

おずおずと自信無さげに問いかけると2人はハッと我に返った。

 

 

「い、いや!……合格だよ、ユウ。」

 

「でもすごいね。10人に分身するなんて……」

 

「え?……そうなんですか?」

 

「ああ、みんな良く出来ても3人が限界だったよ。

とにかく、おめでとうユウ!」

 

 

イルカに笑顔で額あてを渡され、少しほっと安堵の息を吐く。

 

 

「あ、イルカ先生!」

 

「なんだ?」

 

「ナルトは……ナルトはどうだったの?先生に呼ばれてから教室に戻って来なくて……」

 

 

その問いかけにイルカ先生の表情が曇る。

 

 

「あ、ああ……ナルトは………」

 

「ナルト君なら……失格、だったよ……残念だけど……」

 

 

失格……?

ナルト、が……?

 

頭を何かに思いっきり殴られたみたいに思考が回らなくなった。

 

とにかく、ナルトを探さなきゃ……!

 

 

「……失礼します」

 

 

深く頭を下げ、教室を出た。

一度荷物を取りに教室に戻る際、サスケに合格したことを告げ、荷物を取ると外に出る。

 

多分……ナルトならあそこにいるはず……!!

 

気配で位置を確認し、ユウは額あてを鞄に突っ込んで走り出した。

 

 

 

ナルトはユウの予測通り校舎前のブランコに座っていた。

それを見たユウはホッと安堵の息を吐き、駆け寄ろうとしたが、足を止めた。

 

 

「良くやった。さすがオレの子だ!!」

 

「これで一人前だね、オレ達!!」

 

「卒業おめでとう!!今夜はママ、ごちそう作るね!!!」

 

 

そんな家族の会話が耳に入ったからだ。

受験者達の家族は校門の前で待っていて、額あてを身に付けた我が子と対面し、良くやったと褒める声があちこちから響いている。

 

……こういう時、嫌でも実感する……。

自分には 祝福してくれる“親”も、“兄弟”もいない……。

“ひとりぼっち”なんだって事……。

 

自嘲的な笑みを浮かべた、その時だった。

 

 

「ねェ、あの子達……例の子達よ。

あそこにいる子、一人だけ落ちたらしいわ!」

 

 

誰かの母親が2人、ナルトを指差しながらヒソヒソと話す。

存在すらも否定するような、そんな冷たい母親達の目を見て、ユウはまたか、と人知れず小さなため息を吐いた。

 

 

「フン!!いい気味だわ……あんなのが忍になったら大変よ」

 

「そういえば知ってた?あっちにいる子はくノ一クラスでトップで受かったんですって!」

 

 

 

もう一人の母親が話に混ざり、その矛先はユウへと向かう。

 

 

 

「どうせバケモノの力でも使ったんでしょ?

ムカツク子!!火影様も何で放っておいてるのかしら?」

 

「あんなの、火影様の手にかける程でもないもの。

任務でさっさと死んじゃえば良いのよ」

 

「あはは!!そうすれば木ノ葉は平和になるのにね!!」

 

 

……分かってるよ……。

あたしには死ねば良いって思う人はいても祝福なんてしてくれない……。

そんなこと、誰に言われなくても分かってる……。

 

でも、とユウは俯いた。

太陽のような笑顔が脳裏を過る。

自分のことはどうでもいいが、ナルトのことを悪く言われるのは我慢ならなかった。

 

 

「だって本当はあの子達って……」

 

「ちょっと、それより先は禁句よ」

 

 

それを聞いたユウはいてもたってもいられなくなり、帰ろうとする母親達の前に立ちふさがった。

 

 

「あの、待ってください」

 

 

それは、小さい声だったが、不思議と良く通る声だった。

母親達はビクッとしながらも嘲笑いながら言葉の刃をユウに浴びせる。

 

 

「な、何よ!文句でもあるの?このバケモノ!」

 

「それとも泣いちゃうのかしら?バケモノのくせに!!」

 

「やめときなさいよ、用があるなら早く言いなさい。こっちは一生アンタの顔なんて見たくないんだから!」

 

 

嫌な笑い声を上げる彼女達を前に顔色を変えず、真剣な表情で口を開いた。

 

 

「あたしのことは何と言おうが構いません。

……でも、ナルトのことを悪く言うのは許さないのでそのおつもりで」

 

 

言い切った後、母親達は怯み、逃げるように去っていった。

微量の殺気を放ちながら言い切ったユウの左目はいつものそれではなく、銀色の牙のような模様に血のように紅い瞳だった。

 

瞳を閉じ、もう一度開けたときには翡翠色の瞳に戻っていて、どこか憂いげにすらも見えるその翡翠はゆらゆらと揺れていた。

 

 

 

 

 

+++++

 

 

……あーあ、また失格かよ……。

 

ハァ、とナルトはため息を吐いた。

 

今年こそは!って意気込んでたのに……。

ユウとだって、友達になれたのに……。

そういや、ユウはどうだったんだろ?

ユウは成績優秀だし、きっと合格だな……。

……あ、アイツに何も言わないで出てきちまった……。

 

少し後悔していると、額あてを身に付けた生徒達が門から姿を現し、待っていた家族と喜びあっている。

 

 

「良くやった。さすがオレの子だ!!」

 

「これで一人前だね、オレ達!!」

 

「卒業おめでとう!!今夜はママ、ごちそう作るね!!!」

 

 

当たり前のような家族の会話に、ナルトは余計に孤独を感じてしまう。

 

……こういう時、嫌でも実感しちまうんだよな……。

オレには祝福してくれる“親”も、“兄弟”もいない……。

“ひとりぼっち”なんだってこと……。

 

ナルトが瞳を伏せた、その時。

 

 

「ねェ、あの子達……例の子達よ。

あそこにいる子、一人だけ落ちたらしいわ!」

 

 

誰かの母親が2人、ナルトを指差しながらヒソヒソと話す。

 

例の子……?達……?

 

母親達の言い方に引っかかりを感じながらもナルトは少し視線を上にあげる。

 

っ!……また、あの目……。

オレの存在全てを否定するかのような、冷たい、目……。

 

 

「フン!!いい気味だわ……。

あんなのが忍になったら大変よ」

 

 

外していたゴーグルをつけようとした、その時だった。

 

 

「そういえば知ってた?

あっちにいる子はくノ一クラスでトップで受かったんですって!」

 

 

会話に新たに加わった母親のその言葉で、その目はナルトだけに向けられていたわけじゃなかったと分かった。

そっと親達の視線を辿っていくと、ワイワイと喜び合っている家族達から距離を置いて俯いているユウがいた。

 

 

「どうせバケモノの力でも使ったんでしょ?

ムカツク子!!火影様も何で放っておいてるのかしら?」

 

「あんなの、火影様の手にかける程でもないもの。

任務でさっさと死んじゃえば良いのよ」

 

「あはは!!そうすれば木ノ葉は平和になるのにね!!」

 

 

ユウ……なんで……なんでお前まで……!?

それにコイツら……酷すぎるってばよ……!!

 

ナルトは怒りに震えながら母親達を睨む。

 

ユウが死ねば木ノ葉は平和になる?っなんでだよ!!?

ユウは……ユウはすっげぇいい奴で、優しくて……。

なのになんで……!どうしてなんだってばよ!?

なんでアイツがそんな風に言われなくちゃなんねえんだよ!?

 

 

「だって本当はあの子達って……」

 

「ちょっと、それより先は禁句よ」

 

 

嫌な笑い声を上げながら帰って行く彼女たちを眼で追っているとユウが立ちふさがった。

 

 

「あの、待ってください」

 

 

それは、小さいけど、不思議と良く通る、綺麗な声だった。

彼女たちは一瞬、ビクッとしたが、うつむいているユウを見た途端嘲笑った。

 

 

「な、何よ!文句でもあるの?このバケモノ!」

 

「それとも泣いちゃうのかしら?バケモノのくせに!!」

 

「やめときなさいよ、用があるなら早く言いなさい。

こっちは一生アンタの顔なんて見たくないんだから!」

 

 

また笑い声を上げる母親たち。

ユウの表情はナルトのところからは見えない。

 

 

「あたしのことは何と言おうが構いません。

……でも、ナルトのことを悪く言うのは許さないのでそのおつもりで」

 

 

そう力強く言い切ったユウ。

 

……ユウは自分の方が悪く言われていたのに、オレの為にそう言ってくれた。

その事実が無償に嬉しかった。

 

……ありがとな……ユウ……。

 

ナルトは心の中でポツリとそう呟いた。

 

 

 

 

 




結構長くなったんで一回区切ります。
次はあの人に事実を知らされます

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