絆道~始まりのミチシルベ~   作:レイリア@風雅

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第19話 刻まれた傷跡

 

 

店内へ入ったユウは見知った桃色を視界に捉え、急ぎ足で向かう。

 

 

「サクラ、待たせちゃってゴメンね……ってあれ?」

 

「あ!ユウ遅かったわね!」

 

 

首を傾げたユウに気付いたサクラは、ああ、と頷いて背後を振り返った。

そこにはヒナタと金髪のポニーテールの勝気そうな女の子がいた。

 

 

「ユウおっひさ~!!」

 

「ひ、久しぶり、ユウちゃん」

 

「えーと、いのちゃんだよね?それにヒナタも??」

 

「さーて、今回の主役も来たことだし!ヒナタ、いの、行くわよ!!」

 

「え!?ちょ、どこに?!何がどうなってんの?!」

 

「それは行ってからのお楽しみよー!さ、行きましょ!」

 

 

サクラといのに腕を引っ張られ、引きずられていく。

ヒナタはそんな彼女らに苦笑しながらついていくのだった。

 

引っ張られ、連れてこられた場所は、ユウにとっては馴染みがない所であった。

 

 

「さ、到着よ」

 

「と、到着って……ここ……なんで??」

 

「お洋服買うからに決まってるでしょー?」

 

 

思わず、と顔を引きつらせるユウを更に強引に引っ張り、入店する。

あっちにもこっちにも所狭しと飾られた洋服の山に思わず目を奪われる。

 

 

「わぁ~……あたし、こんなにたくさんの服みたの初めてだ」

 

「……ユウ、あんた……」

 

「今まで服とかどうしてたのよ……」

 

「か、買いに行ったりしなかったの??」

 

 

最もな疑問を持つ、イマドキの女の子たちからの疑問の声に、苦笑いをこぼす。

 

 

「うん。あ、でも忍服は買ったよ?

後はもう大き目の布をいくつか買って、自分で着物とか作ってたし、それ以上は必要ないと思ってたから」

 

 

ふわー、と感嘆の息を吐き、飾られている服を見上げる。

そんなユウに頭痛を覚えるサクラといの。

 

 

「じゃあ今日は徹底的に服を買い漁るわよ!いいわね!?」

 

「ちょ、なんでサクラ怒ってるの?!

ていうか買い漁るって……あたしそんなにお金持ってないってば!」

 

「それくらい私たちが出すわよ。今日はそのために集まったんだから」

 

「そ、そうだよユウちゃん!!」

 

「え……?」

 

 

呆れたようないのの言葉に呆然と立ち尽くす。

 

え、ちょっと待った。

あれ?サクラたちが今回集まったのはあたしのため?

あたしなんかに服を買うためにわざわざ?

 

なんで?

あたしなんかのために……

 

既にサクラたちは服を物色し始めていて、ユウの瞳が一瞬暗く曇ったことに気付かない。

これもいい、あれもいい、キャッキャと楽しそうに見当しあう。

そんなサクラたちの行動は、ユウにとっては全く理解できないもので、認識が追いつかない。

ユウにとってのあり得ない出来事に、完全に脳内はショートしてしまっていた。

 

 

「ユウ!ちょっとコレ着てみなさいよ!」

 

「あ、狡いよいのさん!!ユウちゃん、先にこっち着てみて?」

 

「ダメダメ!ユウは先にこっちを着てもらうんだから!!」

 

「ユウ!ほらちょっとこっちに……ってどうしたの?」

 

「具合、悪いの?」

 

「大丈夫?アンタ酷い顔色よ?」

 

 

だからちょっと待ってってば。

理解が追いつきません。

なんで服を?

あたしには……“私”には、そんな可愛い服勿体ないです。

自分にはそのようなものは恐れ多いですよ。

こんなの知らない。

こんな時の対処法なんて本には書いてなかった。

教えられていなかった。

分からない、理解不能、意味不明、知らない、ああこれ全部同じ意味でしたっけ。

“わたし”はどうすれば……―――!?

 

完全に錯乱状態になりかけたその時、ポンと乗せられた大きくて、温かいモノ。

それにハッと我に返り、勢いよく振り返る。

 

 

「よっ!まーだ道草食ってたの?」

 

「カ、カシ、せんせ……?」

 

「……うん。」

 

「カカシ先生?なんでここにいるんですか?」

 

「オレが服屋にいちゃいけない?」

 

 

そうとまでは言いませんケド、と怪訝そうな眼差しでカカシを見る。

まだ夢と現を彷徨っているような状態のユウをチラリと見て、サクラに向き直る。

 

 

「サクラ、今日はユウの服買いにきたって感じ?」

 

「えーなんで分かったんですか?もしかしてずっとユウのことつけてたとか?!」

 

「……するわけないじゃないの。

オレもこう見えて忙しい身分でね」

 

 

実はシカマルの家までつけていたが。

ユウが会いに行く相手が判明したので、今回はそれで良しということにし、あの場で渋々ながら解散したのだ。

たまたま服屋へサクラたちに引きずられていくユウを見付け、何気なしに通りかかってみたらあの現場だった、というわけである。

 

 

「(忙しい人が服屋なんかに来るか!しゃーんなろー!!)」

 

「んー、なんかユウの顔色悪いみたいだし、一回外の空気に当たらせて来る。

その間に服を決めてたらいいんじゃない?」

 

「え?それはありがたいですけど……」

 

「心配しなくても大丈夫だ」

 

 

じゃ、連れてくから、と言いつつ、問答無用でユウの手を引っ張り、三人を置いて店を出た。

 

瞬身の術で人気のない所まで移動すると、ユウと視線を合わせるため、屈む。

 

 

「ユウ、オレが誰だか分かるよな?」

 

「……カカシ、先生……」

 

「そうだ。オレたち第七班のメンバー、言えるか?」

 

「……あ、……え……?」

 

 

無機質だったユウの表情が困惑に染まる。

しかしすぐに恐怖で瞳を大きく見開き、強ばった表情で頭を下げた。

 

 

「っわから、ない……ごめんなさい……!」

 

「……ユウ、大丈夫だ、大丈夫だから落ち着け」

 

 

カタカタと小さく震える小さな体をそっと抱きしめる。

今にも壊れてしまいそうなユウに悲痛に顔を歪めた。

苦しそうに胸元を抑えるユウの背中を一定のリズムで撫でる。

 

 

「っ、はっ……―――っ」

 

「大丈夫、大丈夫だ―――“アイツら”はいない……いないんだよ、ユウ……

お前はもう……自由なんだ」

 

 

徐々に呼吸が落ちついてきて、虚ろな眼差しをカカシへと向ける。

まだ曇ってはいるものの、先程よりもハッキリとカカシを映していた。

 

 

「……カカシ先生……」

 

「ああ……七班のメンバー、言えるか?」

 

 

先程と同じ問いかけ。

錯乱しても対応できるようにとカカシは身構える。

ユウは自分を落ち着かせるように深く息を吐いて一度瞳を閉じる。

 

 

「……ナルトと、サクラと、サスケ……カカシ先生とあたしの“5人”……」

 

「ん。正解。……気分はどうだ?」

 

「……少し、しんどい……かな」

 

「そうか……」

 

 

体重を完全にカカシへ預け、グッタリとしながらユウは弱々しい声でそう応えた。

カカシの胸にもたれかかっているので、ユウの表情は全く見えない。

 

 

「少し休んどけ。丁度いい時間になったらちゃんと起こしてやるから」

 

「……カカシ先生」

 

「ん?」

 

「あたし……これからも何回も、こんな風になっちゃうのかな。

みんなにとっての“あたりまえ”が、あたしにとっての“あたりまえ”とは違うから……。

みんな、いなくなっちゃうのかな……」

 

 

不安そうに、今にも泣き出してしまいそうに震える声。

その声に胸が締め付けられる。

 

 

「……少なくとも、オレはどこにもいかないよ。

お前が望むのなら、オレはいつもユウの味方だ。」

 

 

それは優しくて、残酷な約束。

彼女の過去を、真実を知っている上で交わす、最低最悪な、残酷すぎる約束。

 

 

「先生……あたしは、どうしたら……」

 

「今は、眠っとけ」

 

 

な?、と優しくささやき、ユウの目を手の平で覆い隠した。

もう、何も見えないように。

自分が流す涙も、見られないように。

 

 

「……起きたら……また頑張れる、よね……」

 

 

ぼんやりとそう呟いた。

少しして微かな寝息が耳に入り、目元から手を離して頭を撫でる。

 

 

「なんでそう、頑張ろうとしちゃうのかね……。

頑張らなくていい……そう言えたら、どんなにいいだろうなぁ……」

 

 

でもそれはオレの役目じゃない。

カカシは一人誰に言うでもなく呟いて、空を仰ぎ見た。

 

 

+++++

 

 

 

「あっユウ!!」

 

「ユウちゃん、具合大丈夫?」

 

「うん、もう大丈夫だよ。迷惑かけちゃってゴメンね」

 

 

まだ少し青白い顔で微笑むと、心配そうに顔を歪める。

そんな彼女らの様子を見て、カカシはそっとユウの肩に手を置いた。

 

 

「ま、買い物終わるまでオレも付き合ってやるから、そう不安がるな」

 

「えー?!カカシ先生も一緒に買い物するんですか?!」

 

「ないわー、マジしらけるんですけどー」

 

「……君たちはホント容赦ないよね」

 

「カカシ先生も一緒なら安心だね」

 

「そ、そうだね……」

 

「君たちはホントいい子だよね」

 

 

サクラといのにももう少しこういうところがあってもいいと思う。

などとは口には出来ず、ユウの様子を見ながら買い物を続行することとなった。

 

 

「さっきまでユウに似合いそうな服、たくさん選んでたのよ?」

 

「だからまずはこっちからねー!サイズもあってるかみたいし」

 

「サイズはあってると思うけど、やっぱりユウちゃんに一度着てみてもらった方がイメージわくから……試着して欲しいな」

 

 

ドサリっ、と差し出された服の山に顔を引きつらせる。

そんなユウの様子をカカシは注意深く見る。

しかし、カカシの心配は杞憂となった。

 

 

「こんなにたくさん選んでくれてありがとう!

試着って出来るんだ?どこで着替えればいいかな?」

 

「あっちに試着室があるわー!行きましょ♪」

 

「うん!」

 

 

服が入った籠をいのと二人で分けて持ち、試着室へと消えた。

ほっと安堵の一息をついたカカシだったが、先程の様子を思い返し、眉を寄せる。

 

 

(ひょっとしたらユウは無理に明るく振舞って……

周りではなく、むしろ自分を騙してるのか?)

 

 

試着室へと向かった彼女らを追い、ゆっくりと歩いていると隣を歩いていたサクラが口を開いた。

 

 

「ねぇ、カカシ先生」

 

「!なんだ?サクラ」

 

「ユウ、大丈夫なの?何か持病とかあるの?あんなに顔色悪いの、絶対普通じゃないわよ」

 

「そ、それに……無理に明るくしてた気もしますし……」

 

「……ある意味、病気かもな」

 

 

曖昧なカカシの答えに怪訝そうな顔をする二人から視線をそらす。

これは、自分の言っていいことではないから。

 

 

「知らない方がいいことだって、世の中にゃたくさんある……。

ユウのことを本当に知りたいなら、急がずゆっくりこれから知っていけばいい。

アイツの方から打ち明けてくれる日がくるかもしれないだろう?」

 

「……その日が来なかったら?」

 

「さぁな。少なくとも、オレからは教えてあげられないよ。

事実、オレも深くは知らないんだ」

 

 

これは本当だ。

触りの部分はカカシも知っているが、本当のことを知っているのはユウ本人と関係者。

よくて三代目火影もってところだろう。

それくらい、一から十までを知る者は少ない。

気まずい雰囲気が流れたその時、タイミングよくひょっこりと顔を出したのはいの。

 

 

「みんなー!ユウの着替え、終わったわよー!」

 

「ちょ、ちょっといのちゃん!」

 

「なーに恥ずかしがっちゃってんの?こんなに可愛いのにー」

 

「う、うぅ~可愛くなんてないってば……」

 

「いいから出るわよ!」

 

 

ズイッと引っ張り出されたユウに一同は言葉を失う。

ハイネックの白いノースリーブのワンピースの上にふんわりとした色素の薄い水色のカーディガンを羽織り、いのの手によって軽く結えられた髪に控えめに飾られたカチューシャ。

黒のショートブーツに手持ちカバンを持ち、恥ずかしさでほんのりと頬を赤く染めるその姿は文句なしに可愛らしかった。

 

 

「……いのちゃん、やっぱりこの服似合わないってば」

 

「何言ってんのよ!この沈黙はねー、アンタに見蕩れて出来てんの!」

 

「ホント、ユウってオシャレするといつにも増して可愛くなるのね……

羨ましいわ」

 

「か、可愛いよユウちゃん!」

 

「……っ」

 

 

それぞれユウを褒め称える一方。

顔を真っ赤にして俯くカカシ。

 

ちょっとちょっとちょっとちょっとちょっと!!

なにこれ反則でしょ!?

え、なにユウって確かに前から可愛かったけどあんなに可愛かったっけ?

あーもう可愛いな持ち帰りたい……

 

 

「カカシ先生黙っちゃったままだよ?」

 

「「「ああ、あれはほっといて大丈夫だから」」」

 

「そ、そう……?」

 

「とりあえず、次の服行くわよ!」

 

 

完璧に固まったカカシを放置し、ドアを閉めた。

これをこうしてー、とコーディネートに悩むいのをチラリと盗み見る。

 

 

「ねぇ、いのちゃん」

 

「んー、メンド臭いわねー、いのでいいわよ?」

 

「う、うん……。ねぇ、いの。いの達にとって可愛いお洋服を買って、遊びに行くのは普通、なんだよね?」

 

「そうよ?ユウって変なこと聞くわねー」

 

「ご、ゴメン……。あまりそういうの、分からなくて……」

 

 

呆れられてしまっただろうか。

シュンと落ち込み、俯いたその額を軽く小突く。

 

 

「バカね。別に呆れてなんてないわよ?

分からないことをちゃんと“分からない”って聞けるのはある意味スゴイことだしね。

だいたいの人は知ったかぶっちゃうもの」

 

「……それって褒めてる?」

 

「あはは!褒めてる褒めてる!」

 

 

そうねー、と笑いながらちょっと考え込みつつ、次の候補の服をユウにあてがう。

小首を傾げるいのは、可愛いというより美人だな、なんて思っていると、考えがまとまったのか口を開いた。

 

 

「私にとっては女友達と服買いに来たり、可愛い服着て出かけたりするのって普通よー。

少なくとも、自分のために服を選んでくれる友達に戸惑ったりはしないわ。

……さっきのユウみたいにね」

 

「!気付いて、たんだ?」

 

「まーね!私、アカデミー時代リーダー的な子だったでしょ?

ああいうポジションに居続けるためにはねー、観察力とか、洞察力とか結構大事なのよねー。

ま、ユウは私が見てきた中でもダントツで分かりにくいけど。

……何があった、なんて聞かないから安心しなさい」

 

 

ウインク付きで微笑むいの。

驚きに目を見開いていたユウは次第に俯いていく。

 

 

「……ゴメン……まだ、言えない

誰にも話したこと、ないし……まだ話す自信、ない」

 

「いいのよ、言いたくなければ言わなくてもいいじゃない!

秘密があったら友達じゃないわけでもあるまいしー。

……アンタは、一人で我慢しすぎなのよ」

 

「!……ふふ、いのってシカマルと少し似てるかも」

 

「ああ、そりゃ幼馴染みだしね!多少は似てるかも。

でもシカマルに似てるなんて言われたの初めてだわー……」

 

 

サイアク~、と唇を尖らせるが、その表情はそう気分を害したようには見えない。

控えめにクスクスと笑うと、いのはビックリしたように目を丸くした。

 

 

「……イイ顔、出来るんじゃない」

 

「え?」

 

「んーん、なんでもないわ!

そうだ!一つイイコト教えてあげる♪

女の子はねー、好きな人と遊びに行く時はオシャレをするものなのよ♪」

 

「好きな人?」

 

「そ!好きな人って言っても男の子限定だけどね!

今度、2人っきりで遊びに行くって聞いたけど、それって男の子とでしょ?

その子はユウにとって好きな人?」

 

「あたしにとって……」

 

 

ほわほわ、と脳裏にシカマルが過ぎる。

 

シカマルのことが好きかって聞かれたら……

 

 

「うん……好き」

 

「なら!今日は可愛いお洋服いっぱい買って当日に備えなきゃね!

はい、それ脱いで次こっち着てね」

 

 

いのは着替え始めるユウを見つつ、苦笑した。

 

 

(結構わかりやすく言ったつもりだったんだけどなー、う~ん……

あれは確実に好きの意味勘違いしてるわねー……

こりゃ難解だわ。

シカマル、アンタ相当頑張んないとユウは落とせないわよー?)

 

 

面倒くさがりの幼馴染みへ心の中で応援をしたいのだった。

 

 

 


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