第18話 第七班、帰還
「やっと帰ってきたってばよー!!
(ようやくサスケとカカシ先生から開放されるってばよ……)」
「なんか久しぶりって感じだね」
ほのぼのと言うユウは涙目のナルトに気がつかないらしい。
ここで前回のあらすじ。
波の国から帰ってくる道中、帰ったら誰かと遊ぶ約束をしていたあたし。
そんなあたしは親友のサクラにだけ誰なのかを教え、内緒ね、と可愛らしくお願いし
「ちょっと待ってちょっと待って!?あれ?なんかこれあたしから特別に教えたみたいになってるんだけど?!
あれ?そうでしたっけ?!しかもサクラなんであたしの口真似をしてあらすじを?!」
「全くもう、うるさいわね~。同じようなもんでしょ?」
「全然違うよ?!脅したよねサクラ!?」
渾身のツッコミもサクラはスルーし、報告書を提出しに行って帰ってきたカカシを見上げる。
「それで、カカシ先生?
私たち明日から2日間休みを貰えるんですよね?」
「ん!まぁ、初めての長期任務だったしねー。
今はそんなに人手不足ってわけじゃないし……火影様も許可してくださったよ」
うーん、シカマルは明日か明後日、お休みかなぁ……
休みだったらいいな、と思っているとトン、とサクラに背中を押され、よろける。
「ホラ、こっちはもう終わったでしょ?
今すぐ会いに行ってきなさい」
「サクラ……」
「私は甘栗甘で待ってるから、ちゃんと来るのよ?」
応援してるからね、と綺麗に微笑んだサクラに自分でも表情が柔らかくなったのが分かった。
あたしが初めて友達と遊ぶんだって楽しみにしてること、バレちゃってたんだろうな……。
「ふふ、サクラには敵わないね。
じゃあ行ってくるね!!」
「はいはい、気を付けて行ってくるのよ?」
「うん!!それじゃあ、カカシ先生、ナルト、サスケまたね」
手を降って、あたしは頭に叩き込んだ住所先を目指し、駆け出した。
「よし、オレたちも行くぞカカシ、ナルト」
「ってオレも行くのかよ!?」
「でもユウって妙に鋭いから尾行するのも骨が折れそうだよね」
「また無視?!」
ヒソヒソと怪しいことこの上ない男性陣を見てサクラは怪訝そうな顔をする。
そんなサクラを視界の端に捉え、ナルトが縋り付くように駆け寄った。
「サクラちゃん!」
「な、なによ……」
「ユウの奴、誰に会いにいくのかおせーてくれ!!」
あの2人はオレには止められないんだってばよォー!っと叫ぶナルトを鬱陶しそうに見て口を開く。
「無理よ、誰にも言わないって約束したもの」
「サクラ頼む。教えてくれないか?」
「もちろんいいに決まってるじゃない!実はねぇ~」
「サクラちゃんまで酷いってばよォ!!」
思わずサスケの雰囲気に押され(?)教えてしまいそうになった時、ほんのりと頬を赤く染めて、嬉しそうに微笑むユウが脳裏に過ぎった。
「……ゴメンなさいサスケくん。やっぱり私には教えられないわ」
ズーンと沈み込んだサクラに、サスケは内心舌打ちを打った。
結局、サスケとカカシ、ナルトは、カカシの嗅覚を頼りに尾行することに。
「善は急げだ!行くぞ2人共!!」
「え~、マジでやんのかよ……」
「ホラさっさとしろウスラトンカチ」
「ホント、なんだったのかしら……ん?」
慌ただしく駆け出した三人を見送ったサクラの視界に顔なじみの2人の姿が映り、何かを閃いたようにイイ笑顔を浮かべた。
「!そうだわ……私ってば天才♪」
+++++++
「えっと……奈良、奈良……お、あった!」
大体の場所まできたユウは、表札を確認しながら歩く。
そしてお目当ての表札を見付け、見上げた。
「ふわぁああ、大きいなぁ……」
流石名家といった所だろうか、シカマルの家はかなり上等の物のように思えた。
だけど……もしシカマルがいなかったらどうしよう
シカマルのお母さんとか出てきたら……
あたし、追い返されちゃうよね
不安要素はあげてもあげてもキリがなく、うぅ、と玄関先で涙目になっているとユウの背後から袋の擦れるガサッという音がした。
「……ユウ?」
「!シカマル!!」
背後に立っていた人物がお目当ての人だとわかると、ユウはぱぁああっと表情を明るくし、ほっとしたように息をついた。
一方、シカマルは驚きのあまり固まっていたが、ようやく理解が追いついた頭で必死に言葉を探す。
「えと……今日帰ってきたんだけど、シカマルいなかったらどうしよう、とか、考えちゃって……」
えへへ、と恥ずかしそうにはにかむ。
そんな彼女に、シカマルは顔に熱が集中するのが解り、手のひらで口元を隠す。
「……そうか、とりあえず、長期任務お疲れさん。」
口元を覆っていた手を彼女の頭にポンッと置き、撫でる。
「おかえり」
「!……ただいま」
おかえり、なんて言われるのは慣れてないからか、くすぐったいような、あったかいような気持ちがユウの胸を満たし、ほわりとする。
その感情のまま微笑むと、シカマルは頭をかいて気恥ずかしげに視線を逸らした。
「まぁ、なんだ……。とりあえず家あがってけよ、お袋と親父がいるけど、気にしなくていいから」
「えと、じゃあ……少しだけお邪魔しようかな」
ドアを開け、ユウを先に家に入れる。
そして自分も玄関に足を踏み入れ、ドアを閉める前、警戒するようにチラリとある方角を睨んでから、バタン、と閉めた。
「へぇ~、ユウが会いにいくって言ってた奴はシカマルだったのか」
「……アイツ……!」
「オレたちに気付いてたみたいね……。
ご丁寧に一睨みしてくれちゃって……可愛げないねー最近のルーキーは……」
そう言いながらカカシは「うちのとこにもいたわ、可愛げのないルーキー」、となんともいえない表情でサスケを見下ろしたのだった。
+++++
「ただいま母ちゃん」
「シカマルお帰りなさい。ちゃんと買い物してきたんでしょうね……ってあなたは……」
「あ、お、お邪魔します」
シカマルの母親、ヨシノに見られ、思わず顔を強ばらせてしまう。
どうしよう……帰れ、とか言われたら……
もしシカマルに嫌われたりしたら……!
ぎゅぅ、と拳を握っていると、心配そうにこっちを見たシカマルが、そっと包み込むように手を握ってくれた。
ヨシノからは死角になるように。
それに驚いて顔をあげると、ヨシノは予想外なことに、優しい微笑を浮かべていた。
「ああ、あなたがユウちゃんね。よくシカマルから話しは聞いてるわ。
これからもシカマルと仲良くしてあげて頂戴ね?」
「え……い、いいんです、か?」
「ええ!当たり前よ!!
それにしても……シカマルに聞いていたけれど、予想以上に可愛らしい子ねぇ~。
どう?ウチにお嫁さんに来ない?」
「か、母ちゃん!!」
悪戯っぽくウインクするヨシノに目をぱちくりする。
自分に思うところはあるはずなのに、どうして笑いかけてくれるのだろう……?
「あら、いいじゃない。
ユウちゃんに毎日手料理作ってもらえるのよ?」
「~~~っ行くぞユウ」
「へ?うわ?!」
クスクスと笑っているヨシノの笑い声を背に、ズンズンと先を行くシカマルを追いながら、ほぅっと安堵の息をついた。
……怒られ、なかった。
表面上だけかもしれない、けど。
疎まれても、憎まれても、恐れられてもいなかった。
……どうしよう……
すごく嬉しい
気がついたらシカマルの部屋の中で、ハッと我に返る。
シカマルはあ~とかう~とか唸りながら頭を抱えており、心なしか耳が赤い。
「……お袋が突然悪かったな。ビックリしたろ?」
「ううん!そんなことないよ……お母さん、いい人だね……」
そう言うと、ユウは瞳をゆるりと細める。
その目が優しくて、くすぐったくなった。
「(つーかこれ……結構良い雰囲気なんじゃね?)」
思わずニヤけそうになる顔を必死で抑えながら、そういえば、と口を開く。
「帰ってきて真っ直ぐここに来てくれたのか?」
「え?そうだけど……」
なんで分かったの?
不思議そうに聞いてくる彼女に、思わず溢れた笑み。
くつくつとこぼれるそれに首を傾げる。
そんな彼女の背中を指さし、シカマルはまた笑った。
「だって、リュック背負ったまんまだぜ?」
「……あ!」
気付いた途端、恥ずかしそうに顔を真っ赤に染め、うぅ~、と両手で顔を覆うユウに愛おしさが募っていく。
彼女は今、どれだけシカマルが嬉しいか分からない。
こんなに舞い上がってるのにな、と内心苦笑して、シカマルはユウを見つめた。
「あ、そうだ!
ねぇ、シカマル、明日か明後日、お休み?」
「あ?ああ……明後日は休みもらえたぜ?」
「そうなんだ……あのね、あたしも明後日お休みなの!
それで、あの……良かったら遊びに行きたいなって」
不安半分、期待半分といったような表情でこちらを伺う彼女にぽかんと口を開けた。
まさかそれをユウの方から切り出してくれるとは思わなかったからだ。
しかも奇跡的に休みが被っているという。
これはもう、チャンスではないだろうか?
「そう、だな……じゃあ明後日にすっか」
「本当?良かった……」
「じゃあ11時に甘栗甘待ち合わせな。」
「うん!」
楽しみだなぁ、と呟くユウは、誘った時と変わらず本当に嬉しそうで。
ああ、めんどくさがらずに誘って良かったな、と改めて思った。
「じゃあ、今日はこの後サクラに呼ばれてるから……ん?」
ふと、ユウの視線がシカマルの背後へと向けられた。
それを追っていくと、片付け忘れていた将棋盤。
それを認識した瞬間、シカマルは幼馴染みの言葉を思い出し、やっちまった、と冷や汗をかく。
幼馴染み曰く、女の子は将棋などに興味を涌く子は滅多にいない、とのこと。
これで「将棋とかジジ臭~、マジないんですけど」とかユウに言われたら流石のシカマルも落ち込む。
チラリ、とユウの顔を見ると、意外なことに目をキラキラと輝かせていた。
「シカマル、将棋好きなの?」
「え?あ、ああ……まあな」
「あたしも将棋好きなの!
でもナルトとか将棋分からないから、打つ人いなくて……
シカマルさえ良かったら一局だけ打たない?」
一局くらいならサクラも待っててくれると思うし、と満面の笑顔でどうかな、と問いかけるユウに拍子抜けしてしまう。
どうやらユウは幼馴染みの言う“女の子”の枠には入らないらしい。
それにちょっぴり安堵して、将棋盤と駒をユウと自分の間に置く。
「むしろこっちからお願いするわ、オレも同年代のダチに打てる奴がいなくて暇しててよ。
に、しても意外だな」
「うん?」
「ユウは将棋なんて興味ねぇと思ってた」
パチリパチリと音を立てながら2人で駒を並べていく。
一瞬きょとりとしたユウは、苦笑いを浮かべた。
「まぁ、確かに実際に打つのはこれで2、3回目くらいかな。
後は全部本で読んだだけだから……」
まだまだ弱いと思うけどゴメンね、と笑うユウに口角をあげて答える。
並べ終わり、ユウから打っていくことになった。
会話もあまりなく、穏やかな静寂が訪れたシカマルの部屋にはパチッパチッと将棋特有の音が響く。
互いの呼吸音までもが聞こえてきそうなくらい静かな部屋は、シカマルを心が安らぐような、けれどドキドキと鼓動が高鳴っていくような、不思議な心地にさせた。
「……」
自分の番が終わり、チラリとユウの表情を盗み見る。
真剣な表情で持ち駒を確認し、その内の一駒を手で弄びながら、その視線は盤上を離れない。
いつものふんわりとした雰囲気は消え、凛としたその表情に深くにも鼓動が高鳴る。
ドクドクと収まりを見せないそれに顔が熱くなり、シカマルの顔はほんのりと朱く色付いている。
――――ユウに、触れてみたい
パチン。
駒を打つ音にハッと我に返る。
自分の駒を確認しながら、必死に顔を隠す。
(オレ今……何考えてッ……)
ドキドキと心臓の音が煩い。
顔を必死に隠すシカマルに気づく事なく、ユウの目はずっと将棋盤に落とされていた。
それから20分後、意外にも呆気なく勝負はついた。
「王手」
「……参りました」
勝者はシカマルだ。
いい感じで小競り合いが続いていたのだが、そこは経験の差という物だろう。
一瞬の隙をつき、一気に勝負を付けたのだ。
少し悔しそうに将棋盤を見つめるユウの表情が新鮮で笑ってしまう。
「さすがシカマル……強いなぁ」
「ユウだって強いじゃねーか。
アスマだったらもっと早い段階でヘマしてるぜ?」
「アスマさん?」
「オレんとこの担当上忍」
「ああ、そうなんだ?その、アスマ先生とよく将棋するの?」
「まぁな。将棋を教えたのもアイツだし」
めんどくせー奴だよな、と皮肉を言いつつもその表情は穏やかで、彼が本当はアスマを慕っていることが分かる。
ほわほわと顔を半分以上隠した自分の所の担当上忍を思い出し、クスリと笑みを浮かべた。
「じゃあ、そろそろ帰ろうかな」
「え?」
「このあとサクラに呼ばれてるから」
申し訳なさそうにそう申し出たユウにシカマルはそういえばと思い出す。
もう帰ってしまうことに名残惜しい気持ちもあるが、それ以上に少しでも自分と一緒にいてくれようとした彼女の気持ちが何より嬉しかった。
「そっか。んじゃあ送ってく」
「え、そんな悪いよ。シカマルに迷惑かけちゃう」
「こんくらい迷惑なんかじゃねーって。
……むしろもっと我が儘言えばいいのによ」
「うん?
ゴメン、最後の方聞こえなかったからもういっかい」
「いや、なんでもねー。
じゃあ行くぞ」
先に部屋を出たシカマルを慌てて追いかける。
居間を通る時、シカマルとそっくりの男を見つけ、目を瞬く。
男はシカマルの気配を感じ取ったのか、新聞に目を落としたまま口を開いた。
「なんだァ?シカマル、珍しいな。
お前が出かけるなんて」
「うっせーよ、親父。
ダチを送ってくだけだ」
「……友達?」
少し眉根を寄せ、怪訝そうに振り返る。
バチッと目が合った。
剣呑を含んだ鋭い眼光が突き刺さり、ユウに緊張が走る。
(……全く気配が読めなかった……この子があの……)
「こ、こんにちは……あ、あの、はじめまして!琥珀ユウと申します!」
ガバッと90度に体を折り曲げ、頭を下げるユウ。
そんなユウにシカマルの父、シカクは敵意を消し、穏やかに笑みを携えた。
「ああ、お前さんがシカマルの話してたユウちゃんか……。
話しは聞いてるぜ。
オレは奈良シカク。息子がいつも世話になってるな」
「あ、あたしの方こそシカマル君にはいつもお世話になっていて……」
「どんな挨拶だよ、そりゃ」
呆れたように強ばっているユウの頭を小突く。
小突かれた額を手で押さえ、涙目でシカマルを見上げた。
「だって……」
「ユウちゃんを送るって言ってたが、もう帰っちゃうのか?
夕飯食っていきゃいいのに」
「……?この後サクラに呼び出しくらってんだと。アイツ、約束とかすっぽかすとマジめんどくせーからな。
つか珍しいな。お袋はともかく、親父がオレのダチ呼び止めようとするなんて」
「まぁ、な……」
意味ありげな視線を向けられ、ユウはまた違う意味で緊張する。
もしかしたらシカクさんはあたしのことをただの―――――
もしそうならマズイ
シカマルの前では抵抗できない……
「まぁ、そういう理由があんなら仕方ねェな。
また今度、ゆっくり出来る時に連れてきな。
ユウちゃんとは、話したいこともあるしな」
「話したいこと、ですか……」
警戒心を露にし、敵か味方かを見定めるような眼差しに、シカクはぐっと胸が締め付けられた。
――――ああ、そうか……
この子は普通の女の子みたいに明るく振舞うことで自分で自分を偽って、自分で自分を殺して……
「ああ。なぁに、他愛のない話しだ。
シカマル、しっかり送っていってやるんだぞ?」
「……ああ」
「お邪魔しました」
シカマルは怪訝そうに眉間にシワを寄せ、渋々頷き、軽く挨拶をしたユウを引き連れて出て行った。
それを見送ったシカクは、深いため息をつく。
「……いつになったらあの子は開放されるんだかな……」
ポツン、零した独り言は虚しく部屋に響きわたった。
+++++
「……親父が突然悪かったな」
「ん?」
「いや、なんか地雷踏んじまったような気がしてよ」
「別にそんな大したことじゃ……!」
悪かった、と謝るシカマルに咄嗟に笑顔を作った。
しかし、それはシカマルの顔を見た瞬間、呆然とした表情へと変わる。
どうして、そんなに苦しそうな顔、するの……?
「なんでそんな顔、してるの?」
「……あ?」
「なんか、苦しそうだよ……?」
「……さぁ、なんでだろうな。
ただオレ、ユウのこと全然知らねーんだなって思い知らされたっつーか……」
少なくとも、シカマルの知るユウは、あんな表情をするような女の子じゃなかった。
いつも独りで何かを抱え込んでいることくらいなら、分かっていた。
負の感情や涙を決して表に出さず、いつも笑って、笑って、微笑んで
だけど誰も寄せ付けない、不思議な空気を纏っていた。
こんなふうに話すようになった今でも、必ずある一定の距離を保っていることも、よく見れば分かることだった。
それに正確に気付いていた同期メンバーは恐らくシカマルだけだろう。
だからこそ、新たな彼女の一面を見て、一番戸惑うのもシカマルだったのだ。
新しい彼女を知れて嬉しい反面、まだまだだったのか、と焦燥にも似た感情が彼の胸に渦巻いていた。
しかもその表情が、まるで、自分の周りには敵しかいないかのような……全てを拒絶し、恐怖している色がチラリと浮かんだのを、彼は見逃してはいなかった。
お前にそんな顔をさせてんのは一体……
「シカマル?」
「―――なんでもねー」
今考えても仕方のないことだ、と思考を止め、その後は他愛のない話しで盛り上がった。
下忍の任務の面倒くささや、人気の本の話し、将棋の話し、ナルトたちの話し、初めてのCランク任務の話し。
ユウとシカマルは意外にも話しが合い、話題が尽きることはなかった。
とは言っても10分程の短い時間ではあったが、ユウは本当に楽しそうに笑っていて、シカマルも表情を緩め、二人で過ごす幸せを噛み締めていた。
「ああ、あの論文の内容めちゃくちゃだったよね。あたし、すぐ飽きちゃった」
「オレも!
アレは文章構成とかの問題じゃなくて、まず観点がズレてんだよな」
「そうそう、そのせいで全く別の視点から無理矢理書かないといけなくなってるって感じ……。
あれ、結構今話題になってる奴だったから、楽しみにしてただけにすごく残念」
「確かに。アレは論文じゃなくて作文って感じだったな」
「それは酷くない?」
「本当のことだろ?」
まあ、そうかもしれないけど、と申し訳なさそうに苦笑する。
そして二人は甘栗甘の入口あたりで足を止めた。
「おっと……着いたぜ」
「あ、ホントだ。
……なんか、いつもよりあっという間だったなぁ」
「っ」
ポツリとさみしそうに呟く。
眉をハの字にするユウは、少し残念そうで、シカマルは急激に顔が熱くなっていくのを自覚した。
そんなこと言われたら、勘違いするじゃねーか……
お前がさみしそうなのは、オレと離れがたいのかもって
残念そうなのは、オレともっと一緒にいたくて、楽しかったからなんだって
都合のいいように、勘違いしてしまいたくなる
「シカマル、送ってくれてありがとう!
今日は楽しかった!」
「え?あ、ああ……オレも、楽しかった」
「それじゃあ、また明後日遊ぼうね!」
「っ待てよ」
店の中へ入っていこうとしたユウの細い腕を掴み、引き止めた。
ドクドクドクドク
心臓が、煩い。
それもこれも全部、――――ユウのせいだ。
「?どうしたの?シカマル」
「……あの、さ……」
視線をさ迷わせ、迷うような素振りを見せたシカマルは、肩の力を抜き、ユウの腕を離した。
「あー……やっぱいいや
明後日会ったときに、な」
「へ?今言わなくて大丈夫?」
「おう、これは急ぎじゃねーしな。
引き止めて悪かった」
「ううん、大丈夫。―――またね、シカマル」
ニコッ。
微笑んだ彼女は店内へと消えていった。
その背中を見送り、シカマルは空を仰ぐ。
「オレが見たいのは“そんな顔”じゃねーんだけど、な……」
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