絆道~始まりのミチシルベ~   作:レイリア@風雅

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第16話 季節外れの雪

「おーおーハデにやられてェ

がっかりだよ……再不斬」

 

 

サングラスをかけた小柄な男。

その後ろにはゾロゾロと武器を持った屈強そうな男たちを従えている。

 

この人が、ガトーか……。

 

 

「……ガトー、どうしてお前がここに来る……。

……それになんだ……その部下どもは!?」

 

「ククク、少々作戦が変わってねェ……━━━━と言うよりは始めからこうするつもりだったんだが……。

再不斬、お前にはここで死んでもらうんだ」

 

「何だと?」

 

「お前に金を支払うつもりなんて初めから毛頭ないからねェ……。

正規の忍を里から雇えばやたらと金がかかる上、裏切れば面倒だ。

そこでだ……。あとあと処理のしやすいお前たちのような抜け忍をわざわざ雇ったのだ。

他流忍者同士の討合いで弱ったところを数でもろとも攻め殺す……。

金のかからんいい手だろう?」

 

 

それでは、あたしたちが戦った意味は、なんだというの……?

白の死は?サスケの死は?

全部、ガトーの手によって踊らされていた……?

 

 

「ま、1つだけ作戦ミスがあったといえばお前だ……再不斬。

霧隠れの鬼人が聞いてあきれるわ。

私から言わせりゃあなんだ……クク、ただのかわいい……子鬼ちゃん……ってとこだなァ」

 

「今のお前ならすぐぶち殺せるぜェ!!」

 

 

ガハハハハハハ、と下品な笑い声が辺りに響きわたる。

その笑い声に思わず顔をしかめた。

 

 

「カカシ……すまないな……闘いはここまでだ。

オレにタズナを狙う理由がなくなった以上、お前と闘う理由もなくなったわけだ」

 

「ああ……」

「え?」

 

「そうだな」

 

「……そういえば」

 

 

ふと、白の姿を認めたガトーは思い出したように口を開き、ユウと白の方へと脚を進める。

 

 

「コイツにはカリがあった。

私の腕を折れるまで握ってくれたねェ……」

 

 

ツン、と白の頬を靴のつま先でつつくガトー。

 

 

「くっ、死んじゃってるよコイツ」

 

 

白を蹴りつけようとしたその刹那、ガトーはぞっと背筋に冷たい物を感じ、表情を凍りつかせた。

並々ならぬ殺気。

それが目の前で俯いている金髪の少女が放っている物だと気付くのに少々時間を要した。

ようやく理解したその時、自分の振り上げた脚が動かせないことに気がつく。

少女の白い手が、ガトーの足をギリギリと掴んでいた。

 

 

「この人に……触らないで」

 

「ぐ、ぅ……!ひっ……!!」

 

 

思わず悲鳴をあげるガトー。

静かに、本当に静かにガトーを見上げるユウの瞳。

一瞬、翡翠の瞳に深い紫が走ったような気がした。

そんなユウの存在に恐怖を覚えたのだ。

 

 

「てめー!なにする気だってばよォコラァ!!」

 

「コラ!あの敵の数を見ろ、うかつに動くな!

……ユウも、落ち着け、冷静になれ」

 

「……ごめんなさい、カカシ先生」

 

 

すっと掴んでいた手を離すと、怯えたようにガトーは数歩後退する。

一方、ナルトは服の裾を掴まれ、動きを押さえつけられながらも再不斬を睨みつけた。

 

 

「お前も何とか言えよ仲間だったんだろ!!」

 

「だまれ小僧、白はもう死んだんだ」

 

「なっ……あんなことされてなんとも思わねェのかよォ!!

お前ってばずっと一緒だったんだろ!!」

 

「……ガトーがオレを利用したように……オレも白を利用してただけのことだ……。

言ったはずだ。

忍の世界には利用する人間と利用される人間のどちらかしかいない。

オレたち忍は道具だ。

オレが欲しかったのはアイツの血で、あいつ自身じゃない。

未練は、ない……」

 

「お前ってば……本気でそう言ってんのか……」

 

「やめろナルト!もうこいつとは争う必要はない……それに……」

 

「うるせェー!!オレの敵はまだこいつだァ!!!」

 

「なんだァ?あのガキは……さっきからうるせーな……」

 

 

肩を上下させ、荒い息を繰り返すナルト。

その指先と瞳は真っ直ぐと再不斬に向けられている。

 

 

「あいつは……あいつはお前のことがホントに好きだったんだぞ!!」

 

━━━━君には大切な人がいますか。

 

 

「あんなに大好きだったんだぞ!!」

 

━━━━人は……何かを守りたいと思った時に本当に強くなれるものなんです。

 

 

「それなのにホントに何とも思わねーのかァ!!」

 

━━━━ボクにとって……忍になりきることは難しい。

 

 

「ホントに……ホントにお前は何とも思わねーのかよォ!!?」

 

━━━━その人の夢を叶えたい……そのためならボクは忍になりきる。

 

 

「お前みたいに強くなったら……ホントにそうなっちまうのかよォ!!」

 

 

必死に叫び、訴え続けるナルトの瞳からは涙がこぼれ落ちる。

ユウの脳裏にも、白の姿が浮かんでは消え、浮かんでは消えてゆく。

 

 

「あいつはお前の為に命を捨てたんだぞ!!」

 

━━━━その人の夢を叶えたい。それがボクの夢。

 

 

「自分の夢も見れねーで……」

 

━━━━嬉しかった……!

 

 

「道具として死ぬなんて……。

そんなの……つらすぎるってばよォ……」

 

「……小僧。

……それ以上は……何も言うな……」

 

 

ポロポロと溢れた、再不斬の涙。

再不斬の本当の姿が、やっと見えた気がした。

 

 

「小僧……白は……あいつはオレだけじゃない。

お前らの為にも心を痛めながら闘ってた……オレには分かる。

あいつは優しすぎた」

 

 

口に巻いていた布を噛み切り、再び口を開く。

 

 

「最後にお前らとやれて良かった。

……そう……小僧、結局はお前の言うとおりだった……」

 

「!?……え?」

 

「忍も人間だ……感情のない道具にはなれないのかもしれないな……。

オレの負けだ。

……琥珀のガキ」

 

「!」

 

「色々と悪かったな。白はお前のことを本当に想っていた。

それに……―――いや、これ以上言うのはあいつも望んじゃいねェか……」

 

「再不斬……」

 

「お前とは、違う形で出会いたかった」

 

「え、それって、どういう……?」

 

 

困惑した様子の少女に、誰にも悟られない程度に小さく微笑んだ。

白以外では初めて、自分を正面から受け止めてくれた、小さな少女。

この少女のことは死んだって忘れないだろう。

 

 

「……小僧クナイを貸せ!」

 

「!!え?あ……」

 

 

それが、どんな意味を成すのか分からない程、ナルトも鈍くはない。

眉根を寄せ、うつむきがちにホルスターへと手を伸ばす。

そして、

 

 

「うん」

 

 

再不斬へと投げ渡した。

彼はそれを口咥え、ガトーへ向かって地面を蹴る。

 

 

「なっ……もういいお前らあいつらをやってしまえ!!」

 

 

まかせたぞ、と声をかけながら自分は部下の集団の中へと逃げ込んでいく。

そんなガトーを見逃すまいと目で追う。

 

 

「この人数を相手に深手を負った忍者が一人で勝てると思ってんの……!」

 

 

しかし、男たちの言葉が続く事はなかった。

再不斬の背後に鬼のようなおぞましい何かが見えたような気がし、怯んだからだ。

行く手の邪魔になる者はクナイでなぎ倒していくも、形振り構わないその突進でケガを負わないハズもなく、体に傷を増やしながら、ただひたすらにガトーを目指し、ガトーだけを見据えて突き進む。

 

その姿、正に鬼人。

 

そしてようやくガトーに辿り着き、その腹部目掛けてクナイを突き刺した。

 

 

「いい加減に死ね!!」

 

 

動きの止まった再不斬をいくつもの刃が貫く。

 

 

「そ……そんなに……仲間のもとへ……行きたいなら、お前一人で……行け……」

 

「あいにくだが……オレは……アイツと同じ…ところへ、行くつもりは……ねぇ……」

 

「な……なんだと……強がりおって……。くっ……」

 

 

痛みに呻くガトーを怒りの籠った眼差しでギロリと睨みつけ、再不斬は獰猛な笑みを浮かべた。

 

 

「フッ……てめーは……オレと一緒に 地獄へ行くんだよォ!!

大したことのねェ…霧隠れの鬼人も……死んで地獄なら本物の鬼になれるぜ」

 

「ぐっ」

 

 

ズボッと勢いよく引き抜かれるクナイに、激痛に顔を歪め、悲鳴をあげる。

 

 

「楽しみにしとけ!子鬼ちゃんかどうか、地獄でたっぷり確かめさせてやるよォ!!」

 

 

ガトーの首が、胴体から切り離され、宙を舞った。

悲鳴があちこちからあがる。

ギロリと再不斬に睨みつけられ、再び怯えた悲鳴が上がった。

それも束の間の事で、フラリとよろけた再不斬の口から、血とともに落ちていくクナイ。

 

 

━━━━ずっとお側に置いて下さい。

 

 

もう……さよならだよ白……。

今までありがとう……悪かったなあ。

 

そのまま崩れるように再不斬は倒れ込んだ。

 

 

「目を背けるな。

必死に生きた男の最期だ」

 

「……うん」

 

 

そんなナルトとカカシの会話すら、どこか遠くに聞こえた。

ユウも目を逸らさず、瞬きもせず、その瞳に焼き付けるように再不斬を見守っていた。

 

 

「ナルトォー!!ユウー!!」

 

「「!」」

 

「サスケくんは無事よォ!!ちゃんと生きてるわァ!!」

 

 

思わず勢い良く振り返ったユウとナルトの瞳に、片手をあげ、応えるサスケの姿が映る。

 

サスケは死んで、ない……?

生きて、た……!!

 

 

「よかった……」

 

 

くしゃりと前髪を掴み、絞り出すように、ようやく紡げた一言。

足元に横たわる白に視線を移し、しゃがみこみ、彼の冷たくなった頬にそっと触れた。

 

ありがとう、白……。

サスケを殺さないでくれて、本当にありがとう。

 

 

「ずっと気にかかってはいたんだが……。

サスケも無事か……良かった」

 

 

穏やかな空気が流れたその時。

 

 

「オイオイオイ……お前ら安心しすぎ!!」

 

「「「!」」」

 

「クソ忍者どもめ……せっかくの金づるを殺してくれちゃって……!!」

「お前らもう死んだよ!!」

「こーなったらオレら的には町を襲って」

「金目のものぜ~~んぶ頂いていくしかねーっつーの!!」

「そうそう!」

 

 

武器を構え直した彼らは「Let’s Begin!!」と叫び、こちらに向かってきた。

ユウたちは咄嗟に身構える。

 

 

「くっ……マズイな」

 

「カカシ先生、どかーっとやっつけちゃう術なんかないの?」

 

「無理だ!雷切に口寄せに写輪眼……チャクラを使い過ぎた!」

 

 

仕方ない、とユウが印を組んだその時、ユウたちと武装した男たちの間に弓矢が突き刺さった。

突然の事に驚き、振り返った先には武装したこの島の町民たちとボウガンを構えたイナリの姿。

 

 

「それ以上この島に近づく輩は……島の全町民の全勢力をもって!!

生かしちゃおかねェッ!!」

 

「……イナリ……お前たち……」

 

 

確かにそれは失ったはずの“勇気”を取り戻した光で、昔に戻ったかのようなその光景にタズナは目に涙を浮かべる。

 

 

「イナリィ!!」

「イナリ君!!」

 

「へへッ、ヒーローってのは遅れて登場するもんだからね!!」

 

 

得意げに答えて見せるイナリに、ユウは微笑みを称えた。

 

 

「よーしィ!オレも加勢するってばよ!!」

 

 

影分身を使い、5人に増えたナルトにたじろぐガトーの部下。

ユウも影分身で10人になり、人数を増やす。

更に印を結び、ユウは光の球体を一つ出現させると、数歩後ずさる彼らに向けて追い打ちをかけるように指で弾き飛ばした。

それは、まるで弾丸のように彼らのすぐ傍を突き抜ける。

冷や汗をダラッダラと流す彼らに向かい、ニッコリと微笑み、10人のユウたちは一斉に光の球体を出現させてみせた。

 

 

「「「ヒィーッ!!!」」」

 

 

一気に青ざめ、ガクガクと足を震わせる彼らにトドメと言わんばかりにカカシまでもが影分身する。

その人数はざっと30人といったところだろうか。

 

 

「さーあ……やるかァ!?」

 

「やりませェ~~ん!!」

「うわぁあ逃げとけェ~~!!」

 

「「「「「やったぁーーー!!」」」」」

 

 

恐れ慄いた彼らは脱兎のごとく逃げ出し、乗ってきたのであろう船に乗りこみ、早々と撤退していき、町民たちから歓喜の声があがる。

影分身を消したカカシが再不斬に歩み寄る。

 

 

「……終わったみたいだな……カカシ……」

 

「ああ……」

 

「カカシ……頼みがある」

 

「……何だ」

 

「あいつの……顔が…見てェんだ……」

 

「……ああ……」

 

 

カカシは悲哀の色を浮かべ、額当てを定位置に戻し、再不斬を抱え上げた。

その時、頬に冷たい何かが落ち、ユウは空を仰ぐ。

 

 

「……雪だ」

 

「こんな時期に……?」

 

 

不思議そうに誰かが呟いた。

はらはらとまるで花びらのように舞い落ちる季節外れの雪。

気がついたらカカシが再不斬を白の隣に横たわらせていた。

 

 

「……悪いな……カカシ」

 

 

一言、カカシに礼を述べ、再不斬は白の顔を愛おしそうに見つめる。

その瞳は、柔らかくて、暖かかくて、やっぱり悲しそうで。

動かない手を無理矢理動かし、白の頬に触れた再不斬は、一筋の涙をこぼした。

 

 

「できるなら……お前と……同じ所に……行きてェなぁ……。

……オレも……」

 

 

ポツリ、白の目の端に落ちた雪が溶け、涙のように白の頬を伝い落ちる。

まるで本当に白が泣いているかのように……。

再不斬はユウたちに見守られる中、そっと息を引き取った。

 

涙を流しながらナルトは白を見つめ、ポツリと呟く。

 

 

「……コイツ、雪のたくさん降る村で生まれたんだ……」

 

「そうか……雪の様に真っ白な少年だったな……」

 

 

きっといけるよ。

二人で、一緒に……。

 

ユウは祈るようにそっと瞳を閉じた。

 

忍として、そして人として大切なことを教えてくれた二人との別れは新米下忍である彼らにとって大きな物を与えたのだろう。

 

再不斬、白との戦いはこうして幕を閉じたのだった。

 


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