「じゃ!ナルトをよろしくお願いします。
限界まで体使っちゃってるから……今日はもう動けないと思いますんで」
朝、タズナ宅の玄関で、ユウたちはツナミに見送りをしてもらっていた。
ちなみにそのメンバーの中にナルトはいない。
彼はよほど体を酷使してしまったのか、今日は起きられなかったのだ。
で、冒頭に至る。
「じゃ!超行ってくる」
「ハイ。ユウちゃんもいってらっしゃい」
「え、あ……い、いってきます」
緊張しているのか、オドオドしたその返答に、カカシは静かに微笑んだ。
この波の国の任務……ユウにこういう経験をさせるためには良かったのかもしれない。
そして、一行は出発した。
この物語の、一つの終わりへと向かって━━━━。
「な……なんだあコレはァ!!!」
建設中の橋に着いた先で見たもの。
それは、建設に携わっていた人々が血を流し、地に伏せている、目を塞いでしまいたくなるような惨状だった。
極めつけ、タズナが抱き起こした町民から苦しそうに、やっとのことで紡がれた言葉。
━━━━化け物。
その一言に、ユウは確信した。
再不斬と、そして白と━━━━。
再戦することになるのだと。
そんなユウたちを追い詰めるように、霧が立ち込め始めた。
「!来るぞォ!!」
「「「!」」」
それぞれクナイを構え、やってくる敵に備える。
緊張があたりを包む。
「ね!カカシ先生これって……これってあいつの霧隠れの術よね!」
サスケの体が震え始める。
「久しぶりだなカカシ、琥珀のガキ。
相変わらずそんなガキを連れて……。
また震えてるじゃないか……かわいそうに……」
心にもないことを、と内心毒づくユウたちの前に姿を現した、再不斬の水分身たち。
軽く10体はいるのではないだろうか。
そんな中、小馬鹿にされたサスケは不敵な笑みを浮かべた。
「武者震いだよ!」
「!!」
「やれ、サスケ」
許可の合図が出たと同時に、サスケは動いた。
一瞬で10体の水分身をクナイで切りつけ、切りつけられた水分身は成すすべなく飛沫をあげ、水となり、バシャリと音を立てて崩れ落ちる。
「ホー、水分身を見切ったか。あのガキかなり成長したな……。強敵出現ってとこだな……白」
再不斬から紡がれた名前に、鼓動がドクンと大きく波打った。
再不斬の斜め後ろに姿を現した白は頷く。
「そうみたいですね」
「あ!」
「どうやらオレの予想的中しちゃったみたいね……。
あのお面ちゃん……どう見たってザブザの仲間でしょ!
一緒に並んじゃって……」
「どの面下げて堂々と出て来ちゃってんのよ、アイツ」
サクラとカカシの会話も、どこか遠くに聞こえる。
もう、今はあの白じゃない。
抜け忍としての白……。
彼は敵、なんだ。
クナイをギュと握り締める。
感情を押し殺したユウの瞳に、誰も気付くことはなかった。
「アイツはオレがやる」
「え?」
「ヘタな芝居しやがって……オレはああいうスカしたガキが一番嫌いだ」
「カッコイイサスケ君」
「(サスケにはつっこまないんだよなァ……サクラの奴)」
ハートマークが語尾につきそうなサクラのセリフにユウは苦笑を、カカシは呆れた視線を向けた。
サクラはサスケが大好きだからな……。
一つため息をつき、サスケの前に立ちふさがる。
「サスケ、かっこよく決めてる所ゴメン。
あの人は、あたしがやる」
「ユウ!?お前、何言ってんだ!?
アイツはオレに任せろつってんだろ!!」
「でも……」
「じゃあオレが決めてやろうか」
再不斬は引かない両者にため息をつく。
彼としては早く戦いたくて仕方ないのだろう。
「白、黒髪のガキを先にやれ。
先手は先に打った、行け!」
「ハイ」
「ぅわッ!?」
瞬身で姿を消した白を見てサスケはユウを押し退け、クナイで千本に対抗する。
両者の武器は何度もぶつかり、火花が散る。
しかも素晴らしいスピードで、両者は一歩も引かない攻防を続けているのだ。
「サクラ!タズナさんを囲んでオレから離れるな。
アイツはサスケに任せる!
ユウはタズナさんを守りながら待機、サスケが危ないと思ったら援護に行け!!」
「うん!」
「了解!」
タズナをサクラと二人で前後を囲う。
辺りを警戒しながら、白とサスケの戦いを見守る。
……本当なら、あたしが白と戦わなきゃいけないのに……。
心のどこかでは、安心していた。
これで、白と戦わずに済む、と。
白にもサスケにも申し訳ない気持ちが止めど無く溢れた。
「君を殺したくはないのですが……。
引き下がってもらえはしないのでしょうね……」
「アホ言え……」
「やはり……しかし次、あなたはボクのスピードについてこれない。
それにボクはすでに2つの先手を打っている」
「2つの先手?」
「一つ目は辺りにまかれた水……。
そして二つ目にボクは君の片手をふさいだ……。
したがって君は、ボクの攻撃をただ防ぐだけ……」
そう宣言し、白は片手で印を結んでいく。
それを見たサスケとカカシは驚愕に目を見開いた。
━━━━秘術、千殺水翔!!
ダダン。
足で巻き上げた水が空中で千本の様な形を形成していき、気付いた時には大量の千本がサスケと白を取り囲むように浮遊していた。
「サスケ君!!」 「サスケ!!」
「(思い出せ……あの修行を……。
チャクラを一気に練り上げ……。脚へ!!)」
チャクラを練るサスケめがけ、千本は一斉に発射され、白は被害を被らないようにと後方に飛び退く。
サスケに突き刺さると思われた千本は、空中で互いにぶつかりあい、水が弾けた。
「!(消えた!?)」
しかしその中にサスケの姿はない。
居場所を把握しようとする白に向かい、上から手裏剣が放たれた。
手裏剣を交わしきった白の背後に、音も無く姿を現したのは黒髪を揺らすサスケ。
「案外トロいんだな……」
「!!」
「これからお前は……オレの攻撃をただ防ぐだけだ!」
二本のクナイを構え、宣言する。
攻撃を交わしていく白だったが、サスケのスピードについていけず、蹴り飛ばされた。
「(何っ……!あの白がスピード負けするとは……)」
「ぐっ!」
「どうやらスピードはオレの方が上みたいだな……」
余裕さえ伺える表情だ。
成長の速さにユウも驚いたように目を丸くする。
さすがサスケ、だね。
成長スピード早くてビックリするよ。
負けてられないな、と微笑む。
「ガキだガキだとウチのチームをなめてもらっちゃあ困るねぇ……。
こう見えてもサスケは木ノ葉の里のNo.1ルーキー。
ここにいるサクラは里一番の切れ者。
そんで、お前もご存知の通りこの子、ユウは里一番の美少女にしてくノ一1の秀才!!」
「カカシ先生……美少女でも秀才でもないって……」
ツッコミを入れるユウにもどこ吹く風、そのままカカシはもう一人の仲間を想い、どこか誇らしげに口を開いた。
「そしてもう一人は、目立ちたがり屋で意外性No.1のドタバタ忍者、ナルト」
「ククク……ククククッ……。
白……分かるか。このままじゃ琥珀のガキをもらい受けるどころか、返り討ちだぞ……」
「ええ……残念です」
突然、その場の温度が一気に下がったような気がした。
いや、実際下がったのだろう。
なぜなら白から冷気が漂っている。
━━━━秘術、魔鏡氷晶。
そして、再び水がまるで意思を持った生き物かのように浮かび上がり、サスケを囲むように何枚もの鏡を形成していった。
これ、は……。
白がこの前話してくれた血継限界の力……!?
鏡の前まで歩いてきた白は、そのまま吸い込まれるように一つの鏡の中に入っていった。
「!な……っ」
そう、文字通り鏡の中に入ったのだ。
白が鏡の中に入ると、サスケを囲んでいる鏡全てに彼の姿が映し出される。
「!」
ユウが視界の端でカカシを確認すると、どうやら再不斬に足止めを食らっている所のようだった。
「サクラ、あたしサスケの援護に行ってくる」
「え!?あ、うん!!ってユウどこ行くの?!」
一体の影分身を残し、サスケの援護に行く、と告げながら、まったく違う方向へ走り出すユウに焦ったような声が投げかけられた。
橋の端の方まで来たユウは、ゆっくり気付かれないようにサスケたちがいる方向へギリギリまで近寄り、しゃがみこんだ。
ゴメンね、サクラ……。
とりあえず、どんな術なのか確かめきゃ。
すっと瞬いた彼女の左目は、チラリと紅が覗いていた。
「じゃあ……そろそろ行きますよ。
ボクの本当のスピードをお見せしましょう」
言い残し、白が千本を構えた直後、サスケの左肩に痛みが走った。
それを認識した刹那、無数の攻撃がサスケを襲い、一瞬でその体は傷だらけになってしまった。
「!うぐぅっ!!」
「サスケ……!!」
「ぐあぁああ」
「サスケ君!!(ユウは何をやってるの!?)」
「うかつに動けばそっちの2人を殺るぞ!」
「くっ……」
駆けつけようとするもカカシは脅しに足を留め、ギッと再不斬を睨みつける。
「!!ぐっ、うわぁ………」
その間も止むことのないサスケの悲鳴。
ユウは眉間にシワを寄せながら、目を瞑り、印を結んでいた。
そんなユウの周りを囲うように真っ黒な線のような何か……ツタが伸びている。
じっと待ち構えていたユウは、チカッと鏡が光るのを見逃さなかった。
「、来た」
━━━━光・転移の術!!
すると、ユウの二本立てていた指を這い登るかのように黒いツタが伸び、指先に大輪の華を咲かせた。
それと同時に、鏡のドームの中にも周囲を一周するかのように真っ黒な線が突如、囲うように現れ、小さな華を咲かせていく。
そっと開いた手のひらに、闇色の大きな華が咲いていた。
「
指先に咲いた華が、そしてドームの中にある華たちが、真っ暗な花びらを舞わせた。
それを確認し、手のひらにあるそれにふぅっと息を吹きかけると、それは真っ直ぐ白の鏡へと小さく分裂しながら飛んでいく。
たどり着いたのを見たユウは、片手で印の形を作る。
「 爆 」
ドォーン!!
「くっ……!!」
「ッ!?(なんだ?……まさかユウか?!)」
外側からも内側からも爆発を受けた鏡のドームは、粉々に崩れ去る……かのように思えた。
しかし、突如目の前に現れた白に、それは間違いだったと悟る。
それと同時にユウは蹴り飛ばされ、サスケのいる鏡のドームの中へと引きずり込まれた。
「ぐっ……」
「!ユウ大丈夫か?!」
「あはは、大丈夫、残してきた影分身は消えちゃったけど。サスケの方こそ大丈夫?」
「オレは、平気に決まってるだろ……」
「まさか、ボクに気付かれないでここまでの攻撃を仕込めるとは思いませんでしたよ」
鏡の中へ戻ってきた白に、顔を見合わせていたユウとサスケはハッと向き直る。
「あはは、どうも!
この鏡、完全に壊せると思ったんだけど……」
チラ、と頭上にある鏡に目をやり、ため息をついた。
そう、ユウの爆華昇の術で周囲の鏡は粗方消し飛ばせたのだ。
だが、頭上にある鏡だけは壊せず、即座に再び形成されたドームの中に引きずり込まれ、このザマである。
「ユウ、今の術もう一度使えないか?」
「うーん、無理だと思う。
あれ、かなり集中するし、2つの術を同時に放ってるから……。
さっきのに似た術はあるけど、今度は彼のスピードが早すぎる」
基本、爆破系の術は攻撃する時もその前にも仕込みや計算に時間を要してしまうものだ。
当然、先ほどの術だってもっと爆発の威力をあげることも出来たが、あれ以上の規模となるとサスケの身の安全を保証できなかったのだ。
それをモロに影響を受けるだろうドームの中で術を使うには危険過ぎる。
「ごめん……ちょっと難しいかな」
「そうか、じゃあ無理はしなくていい。
オレの後ろにいろ」
「あはは、それも難しいね。
彼の攻撃方法は正に四方八方からだし、サスケを盾になんて出来ない。」
ほら、サクラに怒られちゃうし。
とおどけたように笑い、クナイを構える彼女にサスケは言葉を詰まらせる。
もう一度口を開こうとしたその時、突然ユウに突き飛ばされた。
「ッ!ぅ、ぁあ……ッ!」
「!?ユウ!!!」
「……」
サスケは小さく呻いた彼女の名を叫ぶ。
ユウがサスケを突き飛ばしてすぐ白が攻撃を仕掛けてきたのだ。
庇うことで頭が一杯だったユウは完全にはよけられず、数擊はクナイで防いで見せたが、残りは全て攻撃を受けてしまった。
体のあちこちに切り傷ができ、血が頬を伝う。
しかし彼女は眉一つ歪めず、サスケへと首だけで振り返った。
「サスケ!気を抜かないで!!」
「あ、ああ……!」
しかし、無情にもサスケが構える暇も与えられず、再び千本が襲いかかる。
上手く避け、時折クナイで応戦し、出来るだけサスケをフォローする。
が、そう完璧に出来る訳もなく、サスケの悲鳴が木霊し、彼を庇いながら戦うユウにも傷が増えていく。
「くッ……(これじゃあ防戦一方……なんとかしなくちゃ)」
必死に思考を巡らすユウの視界の端に、タズナから離れ、こちらにクナイを構えるサクラが映る。
「サスケ君!!ユウ!!!」
二人を助けるつもりで放ったクナイは、軽々と白に受け止められ、サクラは愕然とする。
が、その直後、どこからか放たれた手裏剣が白を襲った。
「!!
うっ!」
「!」
「……誰?」
氷の鏡から引きずり出された白は、地面に転がった。
サクラの問いかけに応じるかのようにボーンと白煙が舞う。
サスケを助け起こしながら、ユウは苦笑を浮かべた。
「(全く……来るの遅いよ)」
白煙の中からポーズを付けて現れたのは、金髪碧眼のドタバタ忍者。
「うずまきナルト!ただいま見参!!」