絆道~始まりのミチシルベ~   作:レイリア@風雅

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第12話 修行

 

「あれ、どういう状況?」

 

 

何故か松葉杖をついたカカシが、木の枝に逆さまにぶら下がっている。

手を使わず、足だけで。

いや、アレはただ単にチャクラの応用技術だけども、と呆然とクナイ片手に駆け出したナルトたちを見る。

ナルトはチャクラが弱くて吸着力が生まれず、初っ端でつまづいて頭を打ち、サスケは途中でチャクラが強すぎて弾かれていた。

一方、サクラはというと……。

 

 

「案外カンタンね!」

 

「へぇ、やるなぁサクラ」

 

 

カカシと同じくらいの高さの枝に座り、舌を出して得意げに笑っていた。

そして、カカシがユウに気付いたのはその時だった。

 

 

「あ、ユウ。来てたんなら言ってちょうだいよ」

 

「みんな真剣だったから、邪魔しちゃうかなと思って」

 

「そうか。それじゃ、ユウにもクナイ渡すから、それで行けるところまで登ってみてよ」

 

「はい」

 

 

そのまま投げ渡されたクナイをキャッチし、歩き出す。

順調に登り、枝に逆さまになってみる。

 

 

「これでオーケー?」

 

「!(ユウ……)」

 

「スッゲェー!!サクラちゃんもユウも!!さすがはオレの見込んだ女!」

 

 

ガクッと肩を落とすサクラを見て、苦笑する。

おそらく、彼女はナルトではなくサスケに認めてもらいたかったのだろう。

 

 

「いやー!チャクラの知識もさることながら、“調節”“持続力”ともになかなかのもんだ。

この分だと……。

火影に近いのはユウとサクラかなァ……誰かさんとは違ってね。

それにうちは一族ってのも案外たいしたことないのね」

 

「うるさいわよ!!先生ってば!!」

 

 

サスケ君に嫌われちゃうじゃない!と怒鳴りつけるサクラなんてどこ吹く風。

清々しいほどである。

 

カカシ先生、焚きつけるの上手いなぁ。

 

睨み合うサスケとナルトに、ユウは苦笑するのだった。

カカシの考えもよく理解できる。

この修行に成功すれば、彼らにとって大きな財産となるのだから。

特にカカシにとってナルトの成長は楽しみに違いない。

この中で、自分を除けば、チャクラの潜在的な量が一番多いのは間違いなく彼なのだ。

 

 

「うォオオ……いってェー!!」

 

 

あれからしばらく、ユウたちはひたすら木を登っていた。

とはいってもユウは歩きで行い、天辺まで登って歩いて降り、を繰り返すのみだったが。

何回も転んでいるナルトの服はドロドロで、サスケも息を切らしていて、サクラはもう休憩するために横になっていた。

それが丁度、ユウが木の上から降りてきた、何度めになるかを数えるのをやめた頃のことだった。

走ってないからなのか、ユウはまだまだ余裕、といった表情で再び木を見るが、流石にもう飽きたのか、登りたくなさそうにため息をついていた。

 

 

「(3人とも、なんてスタミナしてんの……ユウなんてこれで何回目よ。

でも、ナルトの奴全く上達してないわね……そろそろあきらめてダダこねはじめるわね、きっと……)」

 

「くそ!」

 

「(ホラね!性格の読みやすい奴ね、まったくホン……)」

 

 

サクラが木に背を向けたナルトに呆れたような視線を向けていると、彼は何故か再び木を登ろうとしたユウを呼び止め、更に自分の方へ向かってくる。

 

 

「あのさ!あのさ!二人とも、コツ教えてくんない!」

 

「え?」

 

「もちろん!」

 

 

きょとん、とするサクラの隣で、ユウがやっと木から開放されたとばかりに晴れやかな笑顔を浮かべた。

 

 

 

数時間後、ユウはカカシにお願いし、一人で修行しに離れた場所まで来ていた。

カカシは、再不斬がユウを狙っていたこともあり、心配そうにしていたが、渋々OKをくれたのだ。

ちなみに、サクラはタズナの護衛、サスケとナルトは木登りの続きである。

 

 

「さて……。術の開発でもしようかな」

 

 

ユウに必要なのは頭の中にある術のイメージと、それに伴う印のみ。

とは言ってもユウの場合、印は術式を組み上げる補助手段などの一つに過ぎない。

要は頭の中で式を構成し、それに必要なチャクラの性質を組み込めれば良いのだ。

しかし印無しで術を使うのは注目されてしまう。

余程の非常事態でもない限り印を組んだ方がいい。

これ以上変に注目を集めるのは、ユウの望むところではなかった

 

 

「よし」

 

 

一瞬、左目が真紅に染まったその瞬間、その身体からチャクラが吹き荒れた。

 

 

夕方、帰ると既にナルトとサスケは帰宅していて、しかもツナミが夕食を皆に運んでいるところだった。

ユウは慌てて手を洗い手伝う。

 

 

「ユウちゃんいいのよ?疲れているでしょう?」

 

「いえ、あたしにもこれくらいお手伝いさせてください。

明日からは夕飯作りも手伝いますね」

 

「ユウちゃん……ありがとう、そこまで言うならお願いするわね」

 

 

感動したように、笑いかけてくれるツナミに胸が痛む。

 

そんな、綺麗な理由じゃない……。

ただ、あたしは……。

 

ユウは雑念を振り払うように、笑顔を浮かべた。

みんなで食卓につき、夕飯を食べる。

 

━━━━こんなのは初めてだから、ちょっとドキドキしてる。

 

一生懸命ツナミが作ってくれた夕飯を、不自然な動作が出ないようになるべく普通に食べすすめる。

 

 

「いやー超楽しいわい。こんなに大勢で食事するのは久しぶりじゃな!」

 

 

タズナも嬉しそうにしている所を見ると、ガトーの一件のせいなのだろう、と推測がたつ。

きっと、みんなでワイワイと食事をする余裕すらなかったのだろう。

一方、ひたすらガツガツとご飯をかきこむナルトとサスケの両名は、同時に茶碗をユウへと差し出した。

 

 

「「おかわり!」」

 

「え、まだ食べれるの?大丈夫……」

 

「うっ」

 

「……じゃ、ないね、やっぱ」

 

 

差し出された茶碗を受け取ったものの、苦笑しながら吐き出す彼らに苦笑を浮かべる。

 

 

「吐くんなら食べるのやめなさいよ!」

 

「……いや、食う!」

 

「我慢してでも食わなきゃ、早く強くなんなきゃなんねーんだから」

 

「い、いや……」

 

 

サクラの切実ともとれるツッコミに激しく同意なのだが、無駄にかっこよくそう言い返す彼らに、引きつった笑顔を浮かべてしまう。

 

吐くのは違うと思う、けどなぁ……。

 

よもや、カカシと同じことを考えているとは夢にも思わなかったユウであった。

 

 

 

食後のお茶で、まったりとしていた時。

サクラが写真立てを見付けた。

 

 

「あの~なんで破れた写真なんか飾ってるんですか?

イナリ君、食事中ずっとこれ見てたけど、なんか写ってた誰かを意図的に破ったって感じよね」

 

「「「!」」」

 

「「……」」

 

 

空気が凍りついた。

それもそのはずだ。

ユウは、その写真から切り取られた人物を知っていて、なおかつ事情も知っているから。

結構、サクラって地雷踏むタイプ?と冷や汗をかいていると、ツナミが口を開いた。

 

 

「……夫よ」

 

「……かつて…町の英雄と呼ばれた男じゃ……」

 

 

その話題が上がった時、イナリは席を立った。

何も言わず、自分の部屋へと向かう。

 

 

「イナリ!

父さん!イナリの前であの人の話はしないでって……いつも……!」

 

 

そのまま、ツナミはイナリを追いかけて部屋から姿を消してしまった。

それを黙って見送り、困惑したようなサクラが口を開く。

 

 

「……イナリ君どうしたっていうの?」

 

「何か訳ありのようですね……」

 

「……イナリには血の繋がらない父親がいた…。

超仲が良く、本当の親子のようじゃった……あの頃のイナリはほんとによく、笑う子じゃった……」

 

 

しかし、とタズナは怒りに、悲しみに、悔しさに体を震わせ、涙を目に浮かべた。

 

 

「イナリは変わってしまったんじゃ……。

……父親のあの事件以来……」

 

 

静寂の中、再び聞こえた音の主はユウだった。

サクラが驚いたようにユウを見上げると、ニコリと微笑む。

 

 

「修行、してくる、ね。

タズナさんのお話しは、もうイナリくん本人から聞いてるから」

 

 

異様な沈黙の中から逃げるようにユウは外へと駆け出した。

 

 

 

「けほ……おえ……」

 

 

手で首元を抑え、苦しそうに嘔吐いた。

そこは、たまたま修行の時に見付けた河原だった。

…本当は、別にもう一度あの話しを聞いたって良かった。

だが、正直の所限界だったのだ。

 

あーあ……本当に酷いことをしてるのは、いつもあたしだなぁ。

 

ツナミに対しての罪悪感や、自分への嫌悪感やらがごちゃ交ぜになり、体の震えが止まらない。

 

 

「う、ぅ……はぁ……」

 

 

胃の中のものを全部だし、少し楽になる。

深く息を吸い込み、湖面を見れば、赤い色が混じっていた。

それを見て、自嘲気味の笑みを浮かべ、口を濯ごう、と、近くに置いてあった水筒を取り、少しだけ口に含む。

 

 

「……っ」

 

 

その結果、再び吐いてしまった。

飲んでないのに、なんてどうしようもないことを思いながら再び嘔吐いていれば、そっと背中に当てられた温もり。

全く警戒せず、予期していなかったそれに、ユウの体は過剰に反応してしまった。

 

だ、れ……?

怖い、怖いこわいこわいこわいコワイコワイコワイコワイコワイ

 

コワイ!!

 

 

「大丈夫ですよ。ボクは何もしませんから。

大丈夫……大丈夫……」

 

 

優しくて温かい、声だった。

どこかで聞いたような気もする……。

どこだっただろうか?

思考力が低下している今、それを考えることもできず、一定のリズムであやすように背をさすってくれるそれに、らしくもなく安心してしまった。

精神が安定したのに比例したのか、吐き気もなくなり、ユウはふと気が遠くなった。

 

や、やばっ…このままねちゃったら……。

 

視界が暗転する直前、見えたのは、綺麗な少年の安心させるような、けれど今にも泣き出してしまいそうな笑顔だった。

 

 

 

 

遡ること10分前。

少年は、薬草摘みの下見などもかね、ここの河原に来ていた。

美しい自然に、ほぅっと息をつく。

そんな中、視界にうつったのは、一人の少女が真っ青な顔で、見ていて痛々しいほどに体を震わせ、嘔吐している姿だった。

やがて、落ち着いたのだろう。

深い息をつく少女の姿が、月明かりに照らされた。

輝く金色の髪に、はっと息をのむ。

 

 

「あの子……もしかして……」

 

 

忍ばせておいた暗器に手を伸ばした、その直後。

少女が見せた年齢に似つかわしくない、自嘲したような笑みに、少年は胸が締め付けられ、その手を止めた。

口を濯ごうとした時、再び嘔吐し始める少女に、気付いたら勝手に体が動いていた。

先ほど、暗器に手を伸ばそうとしたその手で、少女の背中をさすってやる。

手をおいた時、かわいそうなほど震え、瞳に怯えた色を浮かべた少女に、泣きたくなった。

 

 

「大丈夫ですよ。ボクは何もしませんから。

大丈夫……大丈夫……」

 

 

気づいたら、少女を気遣う言葉をかけていた。

少しでもいいから、安心させてあげたかった。

その願いが通じたのか、少女は落ち着きを取り戻し、そのまま崩れるように気絶して……。

そのまま河に落ちていきそうな小さな体を、引っ張り、抱き寄せた。

 

彼女は、苦しんでいる。

ならば、このまま連れ去ってしまおうか?

そのまま、自分の元で、たくさん甘やかして……それで……。

あの人だって、喜んでくれる……。

 

 

「なか、ないで……」

 

 

気を失った少女から発せられた声に、ハッとする。

さっき、自分で何もしないと、そう声をかけたんじゃないか。

だけど……。

迷っている内に、答えは出た。

一先ず、朝まで彼女を看てから決めよう、と。

少年は、ユウを膝枕し、目が覚めるまで飽きることなくその髪をなでていた。

 

そろり、と朝日が差し込み、瞼を開ける。

……昨日、結局どうなったんだっけ、と覚醒しきらない頭をフルに回転させるユウに声をかける。

 

 

「良かった……目が覚めたんですね?」

 

「え?」

 

 

女の子みたいに綺麗な人……。

 

少年に見とれていたユウは、ふと気が付いた。

なぜ、自分の目の前に少年の顔があるのか?

自分の状態を確認したユウは、軽いパニックを起こし、勢い良く上体を起こした。

が、いかんせんそれがいけなかった。

 

 

「う……」

 

「あー!!そんな勢いよく起きたらダメじゃないですか!!」

 

 

ほらフラフラしてる、と焦ったような少年の声に、ふらつく頭を抑え、涙目になりながらそちらを見る。

 

……背丈、声。

どっかで見たことがあると思ったら完璧あの追い忍の子だ。

いくら昨日は正常じゃなかったとはいえ、なんで気付かなかったのあたし!?

 

昨日に戻れるならまず、ユウは自分自身を殴りに行くだろう。

 

 

「あ、あの……昨日は、ホントにすみませんでした」

 

 

あんな所に居合わせて、さぞ居心地の悪かったことだろう。

そう思い、深々と頭を下げるユウに、少年は苦笑する。

 

 

「いえ、気にしないでください。ボクが勝手にしたことですから」

 

「……どうして、敵のあたしを助ける真似なんてしたんですか?」

 

 

警戒心むき出しで訪ねてくるユウに、目を見開く。

まさか、気付いていたとは万に一つも思っていなかったのだ。

 

 

「それは……あんな状態の君を放っておけなくて……」

 

「……」

 

「信じてもらえなくても、あたりまえだと思っています。

だから、ただの気まぐれだとでも思っていてください」

 

 

その、寂しそうな顔に目を丸くした。

少年の目は、あまりにも綺麗で、澄んでいて……。

なぜかは分からないが、彼のことを、信じてみたいと、そう思った。

 

 

「では、ボクはこれで……」

 

「あっ、ま、待ってください」

 

「?」

 

「そ、の……あり、がとう、ございました」

 

 

今度は、謝罪ではなく、お礼。

突然のそれに、今度は少年が目を丸くする。

 

 

「あたし、琥珀ユウっていいます。

もしかしたら、あの時見ていたし、再不斬から聞いているかもしれませんが……」

 

「え、あ、いや……でも、どうして?」

 

「……あたし達が敵同士という事実は変わらないです、けど……。

昨日あたしを介抱してくれたのも、また事実だから……。

なぜか、信じてみたいと思って」

 

 

俯きながら、最後は消え入りそうな声で言葉を必死に紡いだ。

ユウ本人が、一番驚いていたのである。

自分で、自分が分からなくなって、もう一度考えて。

 

ナルトたちの影響を受けすぎた……?

……いや、違う。

 

この少年が、何故か自分と似ている気がして、イマイチ警戒しきれないのだ。

 

 

「ユウさん、顔をあげていただけませんか?」

 

 

少年から優しく促され、恐る恐る顔をあげてみる。

視界に映ったのは、優しい少年の微笑み。

 

 

「ボクの名前は、白といいます。

確かに、ユウさんとは敵同士ですが……。

ボクは、今、正直自分が分からないんです。

だから、今だけは敵同士という関係を見ないことにしませんか?

……少し、昔話をしたいんです」

 

「……」

 

 

少年……白は、ユウが頷いたのを確認し、自分の生い立ちを話し始めた。

 

血継限界を厭う雪の降る国、そこで血継限界の母親から産まれ、一般人だった父親にそれを隠して生きていたこと。

しかし、ふとした切っ掛けで父親にバレてしまい、父親が母を殺し、自分の息子である白をもその手にかけようとしたこと。

 

そして━━━━白自身が、無意識下で血継限界の力を目覚めさせ、父親を殺してしまったこと。

その時……白は自分のことをこう思わざるを得なかった。

 

 

「自分がこの世にまるで……必要とされない存在だと、そう思った」

 

「……ッ」

 

 

それが、一番辛いことだと知った。

そう続け、白は力無く微笑みかけた。

ユウは、白の独白に、そっと目を伏せた。

 

━━━━ユウも、同じだから。

 

 

「独りで、彷徨って……。橋の上に座り込んでいた所を、再不斬さんが見つけてくださったんです」

 

「!再不斬、が」

 

「はい。そしてボクを必要だと言ってくれた。

━━━━ボクの存在を、認めてくれた。

共に行くことを、ずっと傍にいることを許してくれた……。

嬉しかった」

 

 

その時のことを思い出しているのか、嬉しそうに微笑んだ。

そんな白に釣られ、ユウも口元を緩める。

 

 

「……再不斬、早く良くなるといいですね」

 

 

その時は、敵同士になってしまうけど。

実は優しいのだろうあの鬼を思い、ユウは微笑みかけた。

それに驚いたように目を見開いた後、白は笑顔で頷くのだった。

 

 

「あの……この時間に明日もここで会えませんか?」

 

「?」

 

「もっと、あなたとお話ししたいと思って」

 

「……あたしも、白さんと色んな話しがしたいな」

 

「ありがとう。ボクのことは、呼び捨てでいいですよ」

 

 

再不斬が呼び捨てにされてるのに、自分はさん付けなのは居た堪れない、と困ったように言う。

白も出来るだけ敬称と敬語抜き、という条件でユウは呼び捨てとタメ口で話す事になり、翌日会う約束をして二人はわかれた。

 

 

 

「……仲良く、なっちゃったなぁ」

 

 

戦う時、辛いのは自分たちなのに。

嬉しい反面、これから起こる戦いに、憂いげに瞳を伏せた。

 

 

それから、夕飯の準備にはタズナ宅に戻るようにして夕飯作りの手伝いをし、食事が終わってお風呂を借り、再び外へ繰り出すというスケジュールとなった。

サクラやカカシには毎度心配そうにあれこれ言われるが、もう少しで術が完成するから、と言い逃れている。

もちろん嘘で、修行はしているが、もう当初の目的である術は習得し、他の物に手を付けている状態である。

修行なんて、今となれば白に毎日会いに行くための口実。

罪悪感を感じながら、あの河原付近で真夜中にて術の特訓と会得に力を注ぐ。

修行開始から、6日目の朝だ。

 

 

「……あれから、もう6日、か……。

もうすぐ白が来るし、片付けないと」

 

 

きっと、今日か明日が、白と会える最後の日となるだろう。

寂しいな、と思いながら辺りに散らばった忍具などを片付ける。

程なくして、現れた気配。

そちらを振り返れば、ちょうど白が籠を片手に着物姿でやってきた所だった。

相変わらず女の子のようにキレイな少年だ。

 

 

「お待たせ、ユウさん」

 

「ううん、あたしも今修行終わった所だから。

……それ、再不斬のために薬草摘み?」

 

「あぁ、うん……。大分良くなっては来てるんだけど、一応念の為に」

 

「あたしも手伝うよ。

お話しなら、どこでもできるでしょう?」

 

「いや、でも……うん、そうですね。それじゃあお願いします」

 

 

二人は並んで、どちらからともなく歩き出す。

隣を歩く少女を見れば、ふわりと微笑みを浮かべ、なに?と聞くように首を傾げるので、慌ててなんでもないと言い、正面を向く。

その顔は、耳まで真っ赤だった。

 

 

「……ずっと、この時が続けば……」

 

「そうだね……。立場が違ったら、ちゃんとした友だちになれたもんね」

 

「!……そう、ですね。(友だち、か……)」

 

 

この気持ちの名前を知った時、なんて叶わない物を抱いてしまったんだと嘆いた。

 

隣に、いられないのなら……。

一緒の時間が、もう刻めないのなら。

 

せめて、このまま時が止まってしまえばいいのに。

 

小鳥と戯れる少女に、ズキリと痛む胸。

薬草を摘みながら、時折少女を目で追ってしまう。

すると、少女が何かに気付いたようだ。

 

 

「あれ、ナルト……?」

 

「お仲間ですか?」

 

「うん、もう、あんな所で寝たら風邪ひいちゃうのに」

 

 

困ったように苦笑し、大の字で眠っている金色の少年の元へ向かう。

そんなユウを白は追いかけ、二人でナルトを起こすことにした。

 

 

「起きて、ナルト」

 

「こんなところで寝てると風邪ひきますよ」

 

「……ん……?」

 

 

軽く揺するとゆっくりと瞼が開き、ユウたちを視界に入れ、上体を起こした。

 

 

「んーー?アンタ……だれー?」

 

 

寝ぼけ眼で問いかけたのは、白についてだった。

 

 

 

 

 

「あのさ!あのさ!この草取ればいいの?」

 

「そうそう!それが薬草なんだよ」

 

「すいません、手伝わせちゃって」

 

「いいって!姉ちゃん朝から大変だな」

 

「君こそ!こんなところで朝から何をやってたんです?」

 

 

ナルトの意識が完全に覚醒すると、彼は薬草摘みを手伝うと申し出てくれた。

そして、このような会話の流れになったというわけだ。

白からの問いかけにドンと胸を張る。

 

 

「修行ォ!!」

 

「!君……もしかしてその額あてからして、ユウさんと同じで忍者なのかな?」

 

「!!そう見える!?そう!オレってば忍者!」

 

「へー、すごいんだね、君って」

 

 

得意げに笑うナルトに、ユウは少し安堵したように息をつく。

これがサスケあたりだったら、白の正体がバレてしまっていたかもしれない。

その後、何故修行をしているのか、との問いに答えていくナルト。

もっと強くなりたいと言うナルトに、白は表情を引き締める。

 

 

「それは……何の為に……」

 

「オレの里で一番の忍者になるため!みんなにオレの力を認めさせてやんだよ!

それに今はあることをあるヤツに証明するため!」

 

 

きっとイナリのことだろう、と思い、ユウは小さく微笑んだ。

 

 

「それは、誰かの為ですか?それとも自分の為にですか?」

 

「……は?」

 

 

きょとんとし、意味がよく分かっていないナルトに、思わずクスッと溢れた笑み。

 

白……その仕草、すごく女の子っぽい……。

これじゃあ勘違いされても仕方ないよ。

 

 

「何がおかしんだってばよ!」

 

「……君には大切な人がいますか?」

 

「!、?(むぅ~~何が言いたいのか、姉ちゃん……)」

 

 

どこか、遠い目をする白。

恐らく、自分の過去に思いを巡らせていたのだろう。

伏せていた目をスッとナルトに向けた。

 

 

「人は……大切な何かを守りたいと思った時に本当に強くなれるものなんです」

 

「……」

 

 

目を見開いていたナルトが、だんだん表情を緩めていくのをじっと見つめる。

そして、ニコッと彼は笑った。

 

 

「うん!それはオレもよく分かってるってばよ」

 

 

その答えに満足したように白も微笑み、穏やかな空気が流れた。

そんな中、立ち上がったユウは手に持っていた薬草を籠に入れる。

すると、ナルトに見えないように白からメモを手渡された。

受け取ったのを確認し、白は立ち上がる。

 

 

「君たちは強くなる……またどこかで会いましょう」

 

「うん!」

 

「え、あ……うん」

 

「あ……それと……。

ぼくは男ですよ!」

 

「!」

 

 

ガーンとショックを受けるナルトに、ユウは苦笑する。

誰だってあれじゃあ勘違いをする。

そして、白とすれ違うようにやってきたサスケが、白の後ろ姿をじっと睨むように見ていた。

 

翌日、ユウは白からのメッセージ通り、いつもより早めに修行を切り上げ、河原の所で座っていた。

 

今日で、7日目。

 

悲しげに目を細め、眉を八の字にする。

 

 

「ユウさん……」

 

「!白」

 

 

瞬身で、一陣の風と共に現れた白にぱあっと笑顔を浮かべた。

真正面から受けた白は、ボンッと赤面する。

 

 

「あ、あの……」

 

「?どうしたの?今日はいつもより早めに来て欲しい、なんて。ビックリした」

 

「ははは、すみません。……どうしてもユウさんと二人きりで話しがしたかったものですから」

 

 

ふわりと微笑んだ白は、何かを決意したような色を瞳に宿していた。

それに気付いたユウは首を傾げる。

その刹那、腕を引っ張られ、そのまま抱きしめられた。

自分が白の腕の中にいることに一瞬頭がフリーズする。

震えた少女に気付いた白は、腕に力を込めた。

 

 

「ユウ、さん……。ボク……ボクは……」

 

 

あなたのことが好きです。

たったの数日間だったけど、本当に楽しかった。

━━━━……幸せだった。

できることなら、このまま連れ去りたいとさえ思っています。

ねえ、ユウさん……。

もし、ボクたちが貴方と堂々と友だちでいられる立ち位置にいたら……。

ボクのことを、そういう対象で見てくれたのでしょうか……。

 

声にしてはならない想いが、弾けそうになって白は唇を噛み締める。

 

 

「……どうしたの?白」

 

 

あやすように背に当てられる、小さな手。

そういう対象では見られていないことなんて、分かっていた。

 

だからこそ、違う視点では、君の瞳にボクを映していたい。

 

 

「ユウさん。再不斬さんの体は、今日中に完治します。

襲撃するのは、明日です。

そしたら、ボクたちは敵同士です。

そして、この戦いでボクたちが勝ったら、あなたは連れていく手筈になっています」

 

「!」

 

 

ああ、そんな顔しないでください。

衝動が、抑えられなくなってしまうじゃないですか。

 

 

「お願いがあります」

 

「……な、に?」

 

「その時は、ボクと戦って欲しいんです。

酷いことを言ってるのは分かっています。

だけど、この戦いは、君と戦いたいんです。

ユウさん、お願いします」

 

「……それしか、ない、か……。

うん、分かったよ。

あたしが、やる」

 

 

震える声で、紡がれた承諾の返事。

ああ、泣かせてしまった。

決して表情に出してはいないけれど、心の中で泣いているのを、白は確かに感じた。

 

ごめんなさい、ユウさん……。

 

 

「この戦いが終わったら、これを見てください。

だけど、戦いが終わるまで絶対に見ないでくださいね」

 

 

懐から一つの手紙を出し、ユウの手に持たせ、柔らかく微笑んだ。

白は名残惜しそうに離れ、瞬身で姿を消す。

一人取り残されたユウは、呆然と今まで白がいた場所を見つめるのだった。

 

 

 

 

その日の夕方。

タズナ宅に着いたユウはリュックの中にあの手紙を入れる。

そしてそのままツナミの元へ夕飯の準備の手伝いに向かうが、どこか心ここにあらずで。

ぼーっと白とあの手紙のことを考えながら鍋をおたまでかき混ぜていると、その様子を心配そうに見ていたツナミに声をかけられた。

 

 

「ユウちゃんどうしたの?珍しくぼーっとしてるけど……」

 

「へ?!あ、だ、大丈夫ですよ!こんなのへっちゃらです!!

最ッ高にベストな状態です!!再不斬でも何でも来いって感じですよはい!!」

 

「(…全然大丈夫には見えないのだけど……ってもしかして!)

ねぇ、ユウちゃん……。もしかして……」

 

「なんですか?」

 

「恋、してる?」

 

 

冷や汗を流し、握りこぶしを作っていたユウはビシリと固まる。

さっき物凄くスベッたのは自覚していたからだ。

だが、まったく想像もしてなかった話題をふられ、内心首を傾げる。

 

 

「え、あの……」

 

「ああ!やっぱりそうなのね!?

そういうのは、話すだけで多少は楽になるものなのよ!

ところで相手は誰なの?サスケ君やナルト君とか?!」

 

「へ?へ??」

 

 

どうやら、先ほどの固まってしまったリアクションが、何やらツナミの納得するものだったらしい。

しかしどうしてナルトとサスケの名前が出るのだろうか?

まず、ユウには“こい”がどの“こい”なのかが分かっていないのだ。

 

 

「え、あの、違くてえーっとその……。

あ!ご飯出来たみたいです!!うん、味もバッチリ!!

そろそろナルトとサスケも帰ってくると思うので運んできまーす!!」

 

「あ!ちょっとユウちゃん!!……もう、もうちょっとで聞き出せると思ったのに……」

 

 

ユウが逃げるように台所から居間へ料理を運び、それを丁寧に指定位置へと並べていく。

 

 

「あ、ユウ!私も手伝った方がいい?」

 

「ううん、大丈夫だよ!サクラはタズナさんの護衛で疲れてるし……。

はい、タズナさん、カカシ先生」

 

「おお、嬢ちゃんすまないの!今日も美味しそうだわい」

 

「ホント、ユウは料理上手だよね」

 

「そ、そんなことないよ!これくらい誰でも作れると思う……。

ツナミさんにも手伝ってもらってるし」

 

 

大体手に入る食材が分かったユウは今、毎日の夕飯の献立を考え、作っているのだ。

お世話になってるからそのお礼のつもりも兼ねて作っているのだが、どうしてもとツナミがそのお手伝いしてくれているという形なのである。

ニコリと微笑むカカシに褒められ、恥ずかしそうに頬を染め、俯いた時、玄関のドアが開く音がした。

 

 

「お帰り、二人共」

 

「おう、今帰ったか!

……なんじゃ、お前ら、超ドロドロのバテバテじゃな」

 

「へへ……2人とも……てっぺんまで登ったぜ……」

 

 

息切れをするナルトには、一人で歩くことも出来ないようで、サスケに支えられているのを見たユウはエプロンを外し、椅子にかけて二人に駆け寄る。

 

 

「よし!ナルト、サスケ。明日からお前らもタズナさんの護衛につけ」

 

「押忍!!」

 

「ユウも、明日からいけるか?」

 

「……うん、修行はちょうど終わったところだし」

 

「?そうか。じゃあユウも明日から頼むぞ」

 

「了解」

 

 

一瞬間が空き、その時のユウの表情が見えなかったカカシは疑問符を浮かべたが、気のせいだろうと自己完結した。

カカシに了承の意を示したと同時にサスケとは反対のナルトの腕を肩に回す。

 

 

「サスケも疲れてるでしょう?

後はあたしに任せて、先に椅子に座ってても大丈夫だよ」

 

「……いや、これくらい大丈夫だ。」

 

「そう?じゃあ、一緒に行こうか」

 

「う~、すまねえってばよ、ユウ」

 

 

うなだれるナルトに、気にしないでと一声かけ、サスケと二人でナルトの定位置まで引きずっていく。

ナルトを椅子に座らせ、サスケも椅子に座り、ユウは台所へと再び向かった。

 

 

「フー、ワシも今日は橋作りでドロドロのバテバテじゃ。

なんせ、もう少しで橋も完成じゃからな」

 

「ナルト君も父さんもあまり無茶しないでね!もちろんユウちゃんも!!」

 

「うー」 「うむ」

「え、ツナミさんあたしもですか!?」

 

「毎日毎日朝から夕方まで修行に出かける子が何を言ってるの!」

 

 

全く、とため息を吐くツナミ。

とんだしっぺ返しだ、と少し顔を引きつらせ、定位置に腰掛ける。

すると、ずっと黙ってナルトを睨むように見ていたイナリが、突然涙を流し始めた。

何だァ?と疑問の声をあげるナルトに気付き、自然とイナリに視線が集まる。

 

 

「なんでそんなになるまで必死に頑張るんだよ!!

修行なんかしたってガトーの手下には敵いっこないんだよ!

いくらカッコイイこと言って努力したって本当に強いヤツの前じゃ弱いヤツはやられちゃうんだ!」

 

「「「……」」」

 

 

何も言えず、愕然とする大人組とサクラ、サスケ。

 

 

「うるせーなァ。お前とは違うんだってばよ」

 

 

しかしナルトは違かった。

かったるげに、だけどしっかりと、イナリを見据え、言い切ったのだ。

 

 

「お前みてるとムカツクんだ!

この国のこと何も知らないくせに出しゃばりやがって!

お前にボクの何が分かるんだ!

つらいことなんか何も知らないでいつも楽しそうにヘラヘラやってるお前とは違うんだよォ!」

 

「……だから悲劇の主人公気取ってビービー泣いてりゃいいってか……」

 

「!」

 

 

ナルトの声が、ワントーン下がった。

異様な沈黙の中、ギリとイナリを睨みつけ、ナルトは静かに口を開く。

 

 

「お前みたいなバカはずっと泣いてろ!泣き虫ヤローが!!」

 

 

ナルトは黙って席を立ち、あてがわれた部屋へと向かう。

 

 

「ナルト!アンタちょっと言い過ぎよ!」

 

「フン!」

 

「ナルト」

 

「!なんだよ」

 

「後でご飯持っていってあげるね。ゆっくり休んでおいで」

 

「!」

 

 

てっきりユウからも説教を喰らうと思ったのだろう、ナルトは拍子抜けしたようにポカンと口をあける。

そして、少し口角をあげ、部屋を出ていった。

 

 

 

 

夕飯の後。

トレイに茶碗をのせ、ノックする。

 

 

「ナルトー、今両手塞がってるから、ドア開けて?」

 

「おう」

 

 

不機嫌そうな顔のナルトに思わず笑ってしまう。

 

 

「大丈夫だよ。きっと、イナリくんにナルトの言葉、ちゃんと届いてる」

 

「!……まったく、ユウには敵わないってばよ!

イナリのヤツ、絶対誤解してるよな。

ユウ以上に敵わない相手なんていないってーの」

 

「ちょっとそれどういう意味?」

 

 

もう、と眉をハの字にして笑うと、ナルトがトレイを受け取る。

そして片手で持つとユウの背中をそっとおした。

 

 

「オレはもう大丈夫だってばよ!

イナリの所に行くんだろ?早く行ってやれって」

 

「!……ありがとう。食べ終わったら台所に置いておいてね!

後であたしが洗うから」

 

 

おー、と気のない返事に再び溢れるため息。

そして、ユウはイナリの元へ向かった。

 

 

イナリは、桟橋の所に一人で、膝を抱え、座っていた。

 

 

「イナリくん、ちょっといいかな」

 

「!姉ちゃん……」

 

 

了承の返事を聞き、隣に座る。

海の景色にほぅ、と息を吐いたユウは、徐に話し始めた。

 

 

「ナルトってね、不器用なんだ」

 

「?」

 

「不器用で、自分が辛い時も、それを誰かに伝えることができなくて……。

イナリくん、お父さんが亡くなったって、この前教えてくれたよね?

実はナルトもね、両親を亡くしてるんだ。

……それも、産まれてすぐに」

 

 

どこか遠くを見ながら話すユウ。

そして、カミングアウトされた衝撃の事実に、イナリは目を見開いた。

 

 

「君が経験した辛い気持ちは、君にしか分からない。

だけど、ナルトもね、辛い思いをして今まで生きてきたんだ。

……頼れる大人も、友だちも、誰もいなかった。」

 

「そんな……」

 

「けどね、ナルト、いつも明るくて、まるで光みたいなの。

どんなにつらくても、苦しくても……それを全部自分の中に溜め込んで、弱音も吐かないで……泣きもしないで……。

いつも誰かに認めてもらいたくて一生懸命で……。

自分が決めたことは絶対に曲げない、強い意志を持ってる。

“夢”を叶える為に、いつだって命懸けなんだ」

 

「……」

 

「ナルトはきっと、強いって事の本当の意味を知ってる……イナリくんのお父さんと同じように。」

 

 

だからね。

 

 

「ナルトのこと、否定だけはしないで欲しいなぁ」

 

「……」

 

 

コクッと確かに頷いたイナリを視界の端に確認し、よいしょっとユウは立ち上がる。

 

 

「一杯話し込んでゴメンね!ナルトのこと、誤解したままでいて欲しくなかったから……。

じゃ、あたし、先に戻ってるね」

 

 

おやすみ、とイナリに手を振り、ユウはタズナ宅へと消えていった。

そして、入れ替わるように現れたのは、カカシ。

 

 

「あーあ、オレが言いたいことだったのに、全部ユウに取られちゃったなぁ」

 

 

はは、と笑うカカシは、先ほどまでユウが座っていた位置に腰掛け、口を開く。

 

 

 

「イナリ君。オレが言いたかったのはね、ナルトのことだけじゃないんだ。

実は、ユウもナルトと同じで、親というものを知らない。

友だちだって、一人もいなかった。

それに、普通じゃ考えられないような辛く暗い過去を持っている。

君や、もしかしたらナルトよりも重い過去を。」

 

 

大人でさえ投げ出してしまいたくなるような、重い重い過去。

 

 

「えっ?」

 

「今でこそあんなに明るく笑ってるけど、今でも確かにその記憶は体に染み付いて離れない。

それくらい、ユウが受けた傷は酷いものだった。

誰にも助けての一言が言えず……誰にも頼れない……。

それどころか周りの人間は全て敵、見つかれば攻撃されるような環境だった」

 

 

それは、ユウから聞かされたナルトの過去よりも、壮絶で、ショッキングなものだった。

あんなに明るくて、何もかも受け止めてくれる、あの少女の壮絶な過去。

 

 

「だけど、ユウがスネたり泣いているところを今まで一度も見たことがない。

ナルトと一緒でもう、泣くことに疲れちまったんだろうな……。」

 

 

泣いても誰も助けてくれない、誰も手を差し伸べてくれないと理解してしまったユウは、カカシの前で涙を流したことがなかった。

それが、なんだか悔しくて。

 

 

「あの二人は君の気持ちを一番分かってるのかもしれないな」

 

「え?」

 

「アイツらどうやら……君のことが放っておけないみたいだから」

 

 

笑顔でそう言ったカカシを、イナリは黙って見上げることしか出来なかった。

そんな二人を、三日月が優しく照らしていた。

 

 

 


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