絆道~始まりのミチシルベ~   作:レイリア@風雅

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第11話 束の間の休息

 

「大丈夫かい?先生!」

 

「いや……!一週間ほど動けないんです……」

 

 

タズナの娘、ツナミに問いかけられ、カカシは床に伏せたまま弱々しくそう答えた。

 

 

「なぁーによ!写輪眼ってスゴイけど、体にそんなに負担がかかるんじゃ考えものよね!!」

 

 

んー……写輪眼っていうよりカカシ先生場合、正当な血筋であるうちは一族じゃないっていうのが一番大きな原因なんだけどね。

 

とは口には出さず、苦笑してサクラを見る。

 

 

「でも、ま!今回あんな強い忍者を倒したんじゃ。

おかげでもうしばらくは安心じゃろう!」

 

 

汗を拭うタズナの言葉に、さっきと売って変わり、ユウは内心冷や汗をダラダラと流す。

 

い、言えない……。

本当は再不斬は仮死状態になっただけ、だなんて……!

 

それにカカシ先生が気付いてないのに自分が知っていたら怪しまれるだろう、と自己完結したユウの耳に、サクラのあの仮面の少年は何者だったのか、という疑問の声が聞こえた。

 

 

「アレは霧隠れの暗部……追い忍の特殊部隊がつける面だ。

彼らは通称死体処理班とも呼ばれ、死体をまるで消すかのごとく処理することで、その忍者が生きた痕跡の一切を消すことを任務としている」

 

「忍者の体は、その忍里で染み付いた忍術の秘密やチャクラの性質……。

その体に用いた秘薬の成分とか、様々なことを語っちゃうからね。

下手したら生きている忍より、死体に聞いた方が手っ取り早く済むパターンもあるし」

 

 

そう解説したユウに、なにそれ笑えない、と顔を引きつらせるサクラ。

 

 

「たとえば、オレが死んだ場合……写輪眼のような特異体質の秘密は全て調べあげられてしまい……。

下手をすれば敵に術ごと奪い取られてしまう可能性だってあるわけだ……。

ユウも言ってくれたように、忍者の死体はあまりにも多くの情報を語ってしまう。

つまり“追い忍”とは…里を捨て逃げた“抜け忍”を抹殺し、その死体を完全に消し去ることで……。

里の秘密が外部に漏れ出てしまうことをガードするスペシャリストなんだ」

 

 

音もなく嗅いもない……それが忍者の最後だ。

最後にそう締めくくったカカシに、サクラは青ざめた表情で口をひらいた。

 

 

「……じゃあ、あのザブザも死体バラバラにされて消されちゃうのォ……こわぁ~!!」

 

 

悲鳴にも似たそれに、ユウはつい、と視線をそらした。

 

……残念ながらというか、そうなることは今のところないかなぁ。

 

 

++++

 

 

「まずは口布を切って……血を吐かせてから……」

 

 

ハサミを口布へ持っていった少年を、再不斬が手を掴んで止めた。

それに少し驚いたように身じろぐ。

 

 

「……いい……自分で…やる……」

 

「なんだぁ…もう生きかえっちゃったんですか」

 

「ったく手荒いな……お前は……」

 

「あ!ザブザさんこそあまり手荒に抜かないでください。本当に死にますよ」

 

 

至って穏やかな少年に、再不斬はさっさとその面を外せ、と鬱陶しそうに言った。

それに素直に従い、面に手をかける。

 

 

「かつての名残でつい……それにサル芝居にも使えたので……」

 

 

あの金髪の少女には、バレてしまっていたかもしれませんが。

面を外した、女の子のような顔をした綺麗な少年は少し困ったような顔した。

 

 

「ボクが助けなかったら、アナタは確実に殺されてましたね」

 

「仮死状態にするなら、わざわざ首の秘孔を狙わなくても……。

もっと安全な体のツボでもよかっただろーが……。

相変わらず嫌なヤローだな…お前は……」

 

「そうですね!」

 

 

気にもとめていないかのように、手際よく口布を巻き終えた少年はよし、と微笑む。

その笑顔を黙って見つめる再不斬の瞳は、どこか穏やかだ。

 

 

「ザブザさんのキレーな体には、キズを付けたくなかったから……。

それに筋肉のあまりついていない首の方が確実にツボを狙えるんです。

……一週間程度はしびれて動けませんよ。

でも……再不斬さんならじき、動けるようになりますかね」

 

「……まったく。お前は純粋で賢く汚れがない……。

そういうところが気に入っている」

 

「フフ……ボクはまだ子どもですから」

 

 

嬉しそうに、綺麗に微笑んでみせた少年に、なぜか先刻戦った金髪の少女の微笑が重なった。

……奇妙な事を、言っていた。

そして、自分もらしくなかったことを再不斬は誰よりも知っている。

 

 

「琥珀のガキの話し……お前も聞いたことがあるだろう

ソイツと今日、戦った。あの金髪の小娘だ」

 

「え?!あの有名な……?」

 

 

目を見開く少年に、頷く。

何故自分の傷を蒸し返すようなことをいうのか、と戸惑った。

が、話すことに何故か嫌な感じはしなかった。

 

 

「そのガキと少し、話しをしてな……。

アイツ……オレのことを怖がらねェ上に……」

 

 

━━━━いや………悲しい話しだと思った。悪鬼と言われている人は……本当は優しい人なんだろうな、って。

 

━━━━きっと、その悪鬼は、もうそんな試験で他の子が苦しまないように、殺してあげたんだろうなぁって。

 

━━━━一人で汚れ役を背負って、冷たい目を浴びせられて、すごく…━━━━傷ついたんだろうなぁって…。

 

 

「同情でも、なんでもなく……。

ただ本心でそう言いやがった」

 

「そう、ですか……」

 

 

泣きそうな、けどそうではない、どこかすっきりした色を瞳に宿しているのを見た少年は、ゆるり、と微笑んだ。

 

 

「……いつの間にか……霧が晴れましたね」

 

 

鬼人の心に、一筋の光が照らしたのを、示すかのように。

 

 

「……次、大丈夫ですか?」

 

「次なら写輪眼を見切れる。

……琥珀のガキも、奪ってやる」

 

 

 

++++

 

 

同時刻、カカシのマスクを外そうとしているサクラとナルトをぼーっとサスケと一緒に傍観していたユウは、突如、奇妙な感覚に襲われた。

嫌な予感、のような……虫の知らせのようなそれに、冷や汗を流す。

そんなユウに気付いたサスケが、顔を覗き込む。

 

 

「ユウ、どうかしたか?」

 

「え?あ、いや……」

 

「「!!ギャーーーー!!」」

 

 

悲鳴をあげた二人の方を見れば、突然、ガバリとカカシが起き上がった所だったらしい。

それでマスクを外そうとしていた彼らは驚いた、というわけだ。

カカシは二人の様子を気にすることもなく、考え込むように顎に手を当てて黙り込む。

 

……これは、もしかして気が付いた?

 

 

「(違う……何かが変だ……。

まさか……オレとしたことが見落としていた!?)」

 

「どうしたんだってばよ!先生?」

 

「ん?ああ……。

……死体処理班ってのは、殺した者の死体はすぐその場で処理するものなんだ……」

 

 

その出だしの意図が読めず、サクラはそれが何なの?と問いかける。

 

 

「分からないか?

あの仮面の少年は、再不斬の死体をどう処理した?」

 

「「は?」」

 

「知るわけないじゃない!だって死体はあのお面が持って帰ったのよ」

 

「そうだ……殺した証拠なら首だけ持ち帰れば事足りるのに……だ」

 

「まぁ、追い忍の子が再不斬を殺した武器も問題かな」

 

「(……ただの千本……)

!!……まさか…」

 

「あーあ……そのまさかだな」

 

「「?」」

 

 

苦笑するユウ、冷や汗を流すサスケ、かったるそうに頭をかくカカシを、見つめる残りの二人は、まだよく分かっていないようだ。

 

 

「さっきからグチグチ何を言っとるんじゃお前たち……!?」

 

「おそらく再不斬は生きてる」

 

 

顎が外れてしまったのではないか、と思うくらい口を大きくあけ、固まるタズナとナルト、そしてサクラ。

予想通りの反応に、ユウは苦笑する。

 

 

「どーゆーことだってばよ!?」

 

「カカシ先生もユウも、アイツが死んだのちゃんと確認したじゃない!!」

 

「確かに、確認はしたけど、あれはおそらく仮死状態だと思うよ。

しかもあの追い忍の子が使った千本という武器は、急所に当たらない限り殺傷能力のかなり低い物で……。

そもそもツボ治療などの医療に使われることもあるくらいで元々暗殺には向かないんだよ」

 

「別名、死体処理班と呼ばれる追い忍は人体の構造を知り尽くしている……。

おそらく、人を仮死に至らしめることも容易なはず」

 

 

ユウに便乗する形でカカシはそう解説し、指を一本たてた。

 

 

「1、自分よりもかなり重いハズである再不斬の死体をわざわざ持って帰った。

2、殺傷能力の低い千本という武器を使用した。

この2点から導きだせる少年の目的は……。

再不斬を“殺しに来たのではなく助けに来た”、そう取れないこともない」

 

「……超考えすぎじゃないのか?

追い忍は抜け忍を狩るもんじゃろ!」

 

「いや……クサイとあたりをつけたのなら、出遅れる前に準備しておく。それも忍の鉄則!

ま!再不斬が死んでるにせよ生きてるにせよ、ガトーの手下にさらに強力な忍がいないとも限らん……」

 

 

しかし、カカシは目を見開くことになる。

なぜなら、再不斬の生存を聞いたにも関わらず、ナルトは歓喜に震えていたのだ。

 

 

「先生!出遅れる前の準備って何しておくの?先生とーぶん動けないのに……」

 

「クク……お前たちに修行を課す!!」

 

「えっ!修行って……!!」

 

「何!?先生!!修行って何するの!?」

 

 

キラキラと期待一杯の眼差しをカカシに向けるユウ。

修行馬鹿と自分で称すだけはあり、珍しくテンションが急上昇し、ワクワクしているのが分かる。

しかしギロっとサクラににらまれ、ビクッと押し黙ると、しょぼんと肩を落とした。

 

 

「先生!!私達が今ちょっと修行したところでたかが知れてるわよ!!

相手は写輪眼のカカシ先生が苦戦するほどの忍者よ!!(私たちを殺す気かしゃーんなろ!)」

 

「サクラ……その苦戦しているオレを救ったのは誰だった?

お前たちは急激に成長している。

とくにナルト!!お前が一番伸びてるよ!!」

 

「!」

 

 

それはユウも思っていたことだ。

鬼兄弟に恐怖し、動けなかったナルト。

しかし彼はその悔しさをバネにして鬼兄弟よりも圧倒的に強い相手を前に果敢に立ち向かったのだ。

戦闘においてのセンスがたった一日の間に大幅に成長したのは、先の再不斬戦で充分見て取れただろう。

下忍にして抜け忍にさえ立ち向かっていく根性と度量は誰にも負けないのではないかと思う。

 

 

「とは言ってもだ、オレが回復するまでの間の修行だ……。

まぁ、お前らだけじゃ勝てない相手に違いはないからな……」

 

「でも先生!!再不斬が生きてるとして、いつまた襲ってくるかも分からないのに修行なんて……」

 

「その点は問題ないよ。仮死状態になった人間が動けるようになるには、最低でも1週間かかるから」

 

「その間に修行ってわけだな!面白くなってきたってばよ!」

 

「うん!」

 

 

修行の二文字に意気揚々とする金髪コンビにサクラは呆れながらも微笑する。

 

 

「面白くなんかないよ……」

 

「お前は誰だー!!」

 

「おおイナリ!!どこへ行ってたんじゃ!!」

 

「お帰り、じいちゃん……」

 

「イナリ、ちゃんと挨拶なさい!

おじいちゃんを護衛してくれた忍者さん達だよ!」

 

 

不意に聞こえてきた新たな声。

その持ち主は、まだ小さな子どもで、タズナの孫であるイナリ少年だった。

挨拶するよう叱るツナミに対し、いいんじゃいいんじゃ、とタズナは破顔し、イナリを抱きしめる。

 

 

「ええと、イナリくん、でいいのかな……。

はじめまして、琥珀ユウです。よろしくね」

 

「……い、イナリ、です。よろしくユウ姉ちゃん」

 

 

視線を合わせるように屈み、笑顔を向けるユウに頬を赤らめ、おずおずと頷く。

少年がユウにだけ素直なように思え、ナルトたち3人はムッとする。

そんな3人の視線に気付いたのか、イナリはユウの服を握りしめ、彼らを睨む。

そしてすっと指を差し、口を開いた。

 

 

「母ちゃんこいつら死ぬよ……」

 

「なんだとォー!!!このガキってばよォー」

 

「ガトー達に刃向かって勝てるわけがないんだよ

 

「「「……」」」

 

「ンのガキィー!!」

 

「なに子供相手にムキになってんのよバカ!!」

 

「いいか!おイナリ!良く聞け!!

オレは将来、火影というスゴイ忍者になるスーパーヒーローだ!!

ガトーだかショコラだか知らねーが!そんなの全然目じゃないっつーの!!」

 

 

美味しそうというか、甘そう。

 

帰ったらお菓子でも作ろうかな、と考えていると、フン、と鼻で笑う声が耳に入り、イナリを見る。

 

 

「ヒーローなんてばっかみたい!!そんなのいるわけないじゃん!!!」

 

「!!な……なにをー!!」

 

「やめなさいってば!!」

 

 

掴みかかっていくナルトをどついて止めるサクラ。

イナリはユウの手をひき、そのまま踵を返す。

 

 

「死にたくないなら早く帰った方がいいよ……」

 

「そのお嬢ちゃん連れてどこ行くんじゃイナリ」

 

「部屋で海を眺めに行くんだ、ユウ姉ちゃんにも見てもらいたいし」

 

「あ、えーと……カカシ先生、先に行ってて!すぐに行くから!!」

 

 

泣きそうなイナリの瞳に気付いてしまった。

それがいつかのナルトの姿と重なり、ユウはそれを放っておくことなど出来なかった。

 

イナリの部屋に連れてこられたユウは、窓際から眺める海を見て、目を細めた。

 

 

「……綺麗。あたし、海なんて初めて見たな」

 

 

写真立てを片手に、ユウに縋り付くように抱きつくイナリは、ポロポロと泣いていて……。

ポンポン、と一定のリズムで背を叩いてやりながら、何も知らない顔をして無情なほど綺麗な海を眺めた。

 

 

「うっ…うっ……父ちゃん……」

 

 

部屋のドアの前で、戸惑うように空気が揺れ、やがて階下に降りていった一つの気配に、心の中でため息を一つ。

 

不器用なんだから、ナルトは……。

 

 

「ユウ、ねえちゃ…あのね……っ」

 

 

それから、イナリはこの波の国に……イナリに何があったのかを語った。

 

カイザと名乗る男に助けられ、父と呼ぶことを許されたこと。

父親とは血は繋がらずとも、本当の親子のように仲が良かったこと。

父親が、とある大雨の日に、自分の身を顧みず、激流に飲まれながらも自分たちを守ってくれたこと。

 

そして……カイザが、ガトーにより、公開処刑されたこと。

 

聞いていく内に、ユウは徐々に表情がなくなり、ただ耐えるように眉根を寄せ、拳を握り締めた。

 

 

「だからっ……ユウ姉ちゃんっ!お願いだからガトーに逆らわないで!!

そんなことしたら、今度はユウ姉ちゃんが殺されちゃうっ……!!」

 

 

子供のイナリには、どんなに辛いことだっただろう。

 

悲痛に顔を歪め、自分に助けを求めるかのように請う、この小さな男の子は、どれだけ辛い想いをしたのだろう。

 

たった一人の、歪んだ男の思想のせいで……。

 

 

「……ゴメンね、イナリくん。君のお願いは、聞いてあげられない」

 

「っなんで?ユウ姉ちゃんっ」

 

 

依頼を受けた忍として。

そして、琥珀ユウとしても。

 

そんな非道を許してはいけないのだ。

……”かつて”の惨劇を許してはならない。

その行為を肯定することなどしたくない。

 

 

「あたしは死なないから。絶対に。

信じろとは言わないけど……。ナルトを、ナルトたちの姿を、よく見てみて?」

 

 

きっと、世界が変わるよ。

 

笑顔でそう言い残し、涙をぬぐってやったユウは瞬く間にイナリの目の前から消えた。

 

 

 

 


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