絆道~始まりのミチシルベ~   作:レイリア@風雅

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アカデミー編
第1話 うずまきナルトと琥珀ユウ


窓際の前から三番目の席に座り、本を読んでいた少女はふと落としていた視線を窓へ向ける。

何やら火影の顔色が見るも無残な落書きが施されており、思わず苦笑してしまう。

この惨事の元凶だろう金髪ツンツン頭の少年はというと、とうとう担任に捕まってしまったようだ。

 

少女―――琥珀ユウは眩しいものを見るかのようにその翡翠色の双眸を細めた。

 

彼が捕まったということはそろそろ遅れていた授業が始まるだろう。

それまでは、とユウは再び本に目を落とした。

 

 

 

 

 

金髪ツンツン頭の少年、うずまきナルトが縄で縛り上げられた格好でこのクラスの担任である海野イルカに引きずられるようにして教室に入ってきたのはその数分後のことである。

 

 

「フン」

 

 

ツーンとした態度で説教を聞き流す問題児一名(ナルト)

まったく反省の色が見られぬその態度にイルカは額に青筋を浮かべ怒鳴る。

 

 

「明日は忍者学校(アカデミー)の卒業試験だぞ!!お前は前回もその前も試験に落ちてる!!

外でいたずらしてる場合じゃないだろバカヤロ――!!」

 

「はいはい」

 

 

熱血先生よろしく怒鳴るがナルトからの反応は虚しい。

なにせため息をつきながらめんどくさそうなこの相槌だ。

ブチィっとイルカがキレるのも仕方がないというもので

 

 

「今日の授業は変化の術の復習テストだ、全員並べーーーーーーーーー!!!」

 

「「「「えーーーーーーーーーーー!!!」」」」

 

 

まさかの全生徒への腹いせにブーイングが沸き起こるが、先生そっくりに化けること!と指示を出すイルカは素知らぬ顔で取り消す気はないらしい。

ユウは思わず苦笑してしまうのだった。

 

 

 

 

横一列に並び、呼ばれた順にイルカに変化してから席に戻っていく。

そしてユウの隣に並んでいるのは事の元凶であるうずまきナルトその人だ。

ブッスー、と不貞腐れたような顔で両手を頭の後ろで組み、つまらなそうにつま先をトントンと叩いている。

元々他人と関わりの少ないユウはどうしたらいいか分からず、内心狼狽えたその時、

 

 

「またアイツかよ」

 

 

冷たい視線と一緒にそんな声が聞こえた。

 

 

「アイツって確か親いないんだぜ?」

 

「親がいないからって調子にのんなよって感じだよな!」

 

「ホントホント。親がいなくていいよなー!何つーかさ、束縛みたいなのされねぇじゃん」

 

「あー、オレと代わって欲しいくらいだぜ!」

 

 

ぐ、視界の端にナルトが拳を握り締めたのが見えた。

気にしてないわけがないのに、一心に睨むように前を見据えるナルトの横顔を横目に見て、自分の掌をそっと握り締める。

 

 

「あんな奴とだけは友達になんかなりたくないよな――」バン!

 

「「「!?」」」

 

 

突然響いた轟音に、教室内はシンと静まり返り、恐る恐る音源の方を見た。

そこには近くにあった机に拳を叩きつけているユウの姿があり、彼女の仕業であることは明白だったが、何よりも本人がこの教室内で誰よりも驚いたような顔をしているため、イルカは状況が掴めず、ポカンと口を開けてしまう。

また、その左手は赤く腫れあがっている様子から相当強く殴ったのだろうことが分かる。

おまけとしてはなんだが、隣りにいたナルトは相当ビックリしているようで、変な格好で目を見開いて固まっているようだ。

教室内の異様な空気に気付いたのか、ユウもハッと我に返った。

 

 

「ど、どうしたんだ?ユウ」

 

 

イルカもようやく我に返ったのか、珍しいな、と言いながら問いかける。

 

 

「え、えーっと……机に手を思いっきり叩きつけちゃいました…」

 

 

ジンジンと痺れている左手を右手で擦りながら苦笑し、すみませんでした、と頭を下げた。

(叩きつけちゃいましたって……)、と内心ツッコミつつ、イルカはそ、そうか、と頷く。

 

 

「……じゃ、じゃあ次、うちはサスケ!」

 

「「「きゃぁああああああ!サスケくぅ~~ん頑張ってぇええ!」」」

 

 

サスケの名前が出た途端、黄色い悲鳴が教室を包み込み、相変わらず人気に先とは違う意味で苦笑する。

 

それにしても……。

 

まさか突発的にあんな行動に出るとは自分でもビックリだ。

何しろユウは色々と木ノ葉の里の住人から毛嫌いされているが故に、あまり他人と関わることがない。

喧嘩(?)の仲裁なんて高レベルなものサッパリである。

 

 

「あ、あのさ……」

 

 

とりあえず話が逸れたことにほっとしてるとナルトが話しかけてきた。

 

 

「あ、ゴメンね、ナルトくん。

ビックリさせたよね……」

 

「え?あ、あぁいや……あんなんイルカ先生の怒鳴り声に比べたら全然へーきだってばよ!」

 

 

さぞかし驚かせてしまっただろうと謝ると、ナルトは少し戸惑うようにたじろいだものの、すぐに二カッと太陽のような笑みを浮かべ、親指をピッと立てる。

だから気にすんな!と言うナルトにユウはありがとうと微笑んで、はたと気が付いた。

 

今、あたし普通に人と会話してる……!

 

キラキラと目を輝かせ、感動に頬を桃色に染めてナルトを見上げるユウ。

心なしかあたりに花が咲いているように見える。

その様子にすら気付かないナルトはユウと同様かなりの鈍感である。

 

 

「ユウちゃんこそ、手ぇ大丈夫か?」

 

「うん、もう治ったし、自業自得だから平気だよ!心配してくれて有難う」

 

「く、クラスメートの心配するのは当然だってばよ!!」

 

 

ニコッと綺麗に微笑まれ、ナルトは後頭部を掻きながらへへっと笑う。

 

 

「あ、それよりオレの方こそありがとな」

 

「へ?」

 

 

はてなにかお礼を言われるようなことをしただろうかと首をこてりと傾げる。

 

 

「さっき、アイツらがオレの悪口言ってただろ?でも途中でユウちゃんが机ぶッ叩いてくれて……。

……あれ、ホントに嬉しかったんだってばよ!ユウちゃんがオレの味方してくれたみたいで、さ……」

 

 

最後の方は自信なさげにボソボソと呟くような声だったが、しっかりと聞こえていたユウは目を丸くする。

 

 

「ああ!!オレの勘違いかもしれねーけど!!ただ、お礼言いたかっただけなんだ!

だから……」

 

「勘違いじゃないよ?」

 

「……へ?」

 

 

途端に慌てだしてしまったナルトに告げたら今度はポカンとしていて、そのコロコロ変わる表情が可笑しくてユウは少しだけ吹き出してしまう。

つられるようにナルトも吹き出し、二人はくすくすと笑った。

 

 

「あ、そうだ!ユウちゃんオレと友達になってくれってばよ!」

 

「え?」

 

 

友達――――。

ずっと、憧れていた。

自分には、そんな綺麗な物は求めちゃいけないって、ずっと手を伸ばすことを諦めていた。

 

でも本当は、誰かとの繋がりがほしくて……。

ただの琥珀ユウとして見てくれる誰かがほしかったのだ。

 

自分を少しは人間に近付けてくれた、“彼”みたいに……。

 

 

「―ありがとう、ナルトくん……。

こちらこそあたしとお友達になってください」

 

「よっしゃ!」

 

 

これから俺達は友達だ!

嬉しそうに笑うナルトに、ユウも嬉しくなってうん!と微笑みながら頷く。

 

 

「有難う!ナルトくん、あたしの事は呼び捨てでいいよ?」

 

「じゃあユウもオレのこと呼び捨て、な?」

 

 

こくりと頷き、二人は顔を見合わせるとまた笑い合った。

 

 

「次!琥珀ユウ!」

 

「お!次はユウの番だな!

頑張るってばよ!!」

 

「うん!じゃあ行ってくるね、ナルト!」

 

 

その様子にイルカは驚いたように目を見開いたが、やがてフッと柔らかな微笑を浮かべた。

印を組み、ユウは見事イルカに変化する。

合格を伝えられるとナルトはピースし、ユウはぎこちないながらもピースで応えた。

 

 

「よーしいいぞ!じゃあ次!うずまきナルト!」

 

 

よーし、意気込んだナルトだったが、隣りに並んでいた男子からお前のせいだぞ、とボソッと嫌味を言われ、ムッとすると知るかよ、無愛想に吐き捨てた。

 

くそ!せっかくユウと友達になれたのに面白くねーな……よーしィ。

 

悪戯を思いついたように笑みを浮かべ、ゴーグルに触れる。

 

 

「変化!」

 

 

ボフンっと煙がナルトを包み込む。

様子を見守っていたユウは、後ろの席にいた黒髪の少年、サスケに突然目を塞がれた。

 

 

「へ?」

 

「いいから何も見るな……」

 

 

どこか呆れたようなサスケの声に首を傾げる。

それもそのはず、ナルトが変化したのは課題であるイルカでは無く、衣服を纏っていないボン!!キュッ!!ボン!!な女の子だったのである。

真正面からそれを見てしまったイルカは鼻血を噴出し、後ろにそっくり返った。

 

 

「ギャハハハハ!!名づけておいろけの術!!」

 

 

変化を解いたナルトは正に大・爆・笑。

 

 

「この大バカものーーーーーーーー!!!勝手にくだらん術を作るなっ!!!」

 

 

やっとサスケに開放され、何も知らないユウは飛び込んできた光景に、

 

「……どうなってるの?」

 

と呟くことしかできなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後。

忍者学校(アカデミー)の授業も終わり、ユウは何時も通り恒例になりつつある修行を行っていた。

自分の影分身を相手に組み手や忍術を駆使し、実戦する。

初めは1人、次は2人と相手にする影分身を増やしながら戦っていくのだ。

サバイバル演習なども影分身を使って行い、トラップ等も当然互いに遠慮や手加減一切せず仕掛けていく。

ただの分身と違い、影分身は実体なので経験値も蓄えることが出来るのでいろいろと便利である。

もちろん、術の会得なんかにも力を入れているほか、家では暗号の解析などもしていたり……。

 

つまるところ、ユウは趣味を修行と豪語する程度には凄まじい修行バカなのであった。

 

 

「ふぅ……明日は卒業試験だし、今日はこのくらいにしとこうかな。」

 

 

その言葉に影分身は頷くと消えた。

いつもなら日が暮れて真っ暗になるまでしているが、明日は卒業試験。

万が一にも遅刻などしてしまったらお話しにならない。

今日は暗号を解くのも術の巻物を読むのも程ほどにしようと思いながらユウは荷物を取り、最後の修行とばかりに走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?……ナルトと、イルカ先生?」

 

 

いつもならユウの貸切状態である火影の顔岩。

しかし落書きで変わり果てた姿になってしまった顔岩には先客がいた。

それもユウが良く知っている人物、イルカとナルトである。

ナルトは雑巾でその落書きを一生懸命拭いていて、イルカはそれを上から監視しているようだ。

 

 

「きれ~~~にするまで家には帰さんからな!!」

 

「別にいいよ……家に帰ったって誰もいねェーしよ!」

 

 

拗ねたようにフンっと鼻を鳴らし、俯いて再び手を動かし始めた。

そんなナルトも、上から見下ろしているイルカもどちらも寂しそうにユウには見えた。

一瞬俯くと、ナルトのいるゴンドラへと跳び、手すりへと音も無く着地する。

 

 

「ナルト」

 

「!ユウ!?帰ったんじゃ……?」

 

「修行してたから!ここはいつも家に帰る前に必ず寄る所なんだ。

……ねえイルカ先生!!あたし、手伝ってもいいかな?ってゆーか手伝うね!!」

 

「お、オイユウ……」

 

 

ニッコリ笑ったユウはバケツの中に入っていた雑巾を絞る。

最早手伝う気満々だ。

言っても聞かないと判断したイルカは苦笑しながらも分かった、と許可した。

 

 

「ユウ疲れてんじゃ……」

 

「あたしは大丈夫。コレも修行の一環ってことにすればやる気も倍増だし!

いつもならもっと遅くまで修行してるしね……。

何より、あたしが手伝いたいと思ったから手伝うんだよ」

 

 

だから、あまり気にしないで?と優しく問いかけるユウの優しさにナルトは泣きそうになったが、オウ!とぎこちなく笑って返事した。

 

その様子を見ていたイルカは頬を緩ませ、口角を上げる。

 

 

「ナルト、ユウ……」

 

「今度はなにィ?」

 

 

ナルトは不機嫌な顔で問いかけると、イルカは照れくさそうに頬を掻く。

 

 

「……ま……なんだ……。それ、全部きれいにしたら、今晩ラーメン奢ってやる!」

 

 

その申し出にパアアっとナルトに笑顔が広がった。

 

 

「よーし!!オレさ!オレさ!がんばっちゃお!!」

 

 

一生懸命拭き始めたナルトの様子を、その隣でユウも拭きながら優しく微笑み、見つめていた。

 

 

 

 

落書きを落とし終えたユウたちはラーメン一楽に来ていた。

イルカは遠慮なく頼め、と言ってくれたのだが、ユウは申し訳なさそうに晩御飯は作ってきてしまったのだと嘘をついて断った。

 

基本、人が作ってくれた物は食べれないからなぁ……。

 

ナルトの隣りで内心自嘲気味に笑む。

ナルトはと言えば、本当にラーメンが大好きなのだろう、満面の笑顔で麺をすすっていた。

 

 

「ナルト」

 

「んー?」

 

「なんであんなとこに落書きした!?火影様がどーいう人達か分かってんだろ……」

 

 

そのことはユウも気になってたのか、じっとナルトを見つめる。

ナルトはイルカの問いかけにあったり前じゃん!と答えた。

 

 

「よーするにィ、火影の名前を受けついだ人ってのは里一番の忍者だったってことだろ。

特に四代目火影って里をバケ狐から守った英雄らしいし」

 

「じゃなんで!?」

 

「このオレはいずれ火影の名を受けついで、んでよ!先代のどの火影をも超えてやるんだ!!!

でさでさ、里にオレの力を認めさせてやんだよ!!」

 

 

自分の夢を熱く語ったナルトにイルカは一瞬呆然とした。

パチクリと瞳を瞬かせ、ふわりとユウは微笑んだ。

 

 

「素敵な夢、だね!あたし応援するよ!!」

 

「!!……サンキューな!ユウ!!」

 

 

馬鹿にするでもなく、素直に応援すると言ったユウにナルトは一瞬驚いたようだったが、すぐに嬉しそうに、照れくさそうに笑った。

 

 

「……ところでさァ……先生。お願いあんだけどォ……」

 

「おかわりか?」

 

「んーにゃ、木ノ葉の額あてちっとやらしてー」

 

 

両手を合わせておねだりするナルト。

 

 

「……あーこれか……!?ダメダメ!!これは学校を卒業して一人前と認められたあかしだからな!お前は明日」

 

「けちー!!」

 

「ふふ、だからゴーグルはずしてたんだね、ナルト」

 

「おかわり!」

 

「あ!」

 

 

会計後、イルカはすっかり寂しくなってしまった自分の財布に涙を流し、そんなイルカに苦笑しながら慰めるユウと、満足したナルトが満面の笑みを浮かべていたのは余談だ。

 

 

 

 

 

 

 




”彼”が誰なのかはまだ秘密。
こちらはストックが多いので、もう一つの連載よりは断然早く更新できるかと……

こんな駄文ですが応援よろしくお願いします!

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