ここは木組みの家と石畳の街。
周辺の国で起きている血生臭い戦争とはかけ離れた、平和で静かな聖域。
そんな優しい土地でのんびりと経営している喫茶店「ラビットハウス」では、とても可愛らしい少女たちが今日も元気に働いていた。
そこへ、あまりにも風変わりな珍客が訪れる。
その青年の名は、ルルーシュ。
超大国の皇位継承者というとんでもない肩書きを持つ――シスコンだった。

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ご注文はうさぎですか? アニメ第2期製作決定を記念して作りました!
冒頭はシリアスですが本編はギャグなので、安心して(?)お読みください。
始まりは、第1期2話の冒頭からとなります。


コードラビット 妹愛のルルーシュ

 この物語の舞台となる極東の島国は、世界最大のサクラダイト産出国である。あらゆる技術に必要不可欠な希少鉱物を大量に保有しているため、その島国はとても裕福だった。それゆえに隣接する連邦国家から狙われ続け、度々大きな戦争を起こしていた。

 

 

 そのような時代背景を経ながらも島国は大いに繁栄し、世界でも上位の国力を得るに至ったが、近年になって最大の危機が訪れようとしていた。隣接する連邦国家が致命的な経済摩擦を打開するため侵略という手段に出て来たのである。

 圧倒的な物量を誇る相手の戦力は強大であり、まともに戦えば敗北してしまう。しかし、島国には頼もしい味方がいた。それは、新大陸に居を構える超大国だった。

 同じサクラダイト産出国として友好関係を築き、軍事協定も結んでいた彼らとの共同戦線によって、侵攻してきた連邦国家を撃退。島国は平和を維持する事が出来たのだ。その際初めて使用された人型自在戦闘装甲騎――ナイトメアフレームの活躍が彼らを救ったのである。

 

 

 戦争終結後、更に関係が強まった両国は互いに交流を深めていくことになり、超大国から皇族の者が留学してきた。第11皇子・第17皇位継承者として生まれた少年とその妹が島国にやって来たのだ。

 彼らは友好の象徴となるために送られたとても重要な存在で、後に親友となる総理大臣の息子と出会い、親交を深めていく。

 

 

 そして更に数年が経ち、少年が17歳になった時。彼の妹がとある場所へ行きたいと言い出したことで物語が動き出す。

 不思議なうさぎと縁のある2人の兄妹が、うさぎだらけの街へやって来たことで。

 

 

 ☆★☆★☆★☆

 

 

 ここは木組みの家と石畳の街。西洋風の家屋が目立つ街並みで、なぜか野生のうさぎが多数生息している不思議な場所。そんな風変わりな街に、ラビットハウスという名の喫茶店があった。

 この街にピッタリな名称を付けられたその店では、うさぎに負けないくらい可愛らしい少女たちが働いており、今日も真面目に社会活動をおこなっていた。

 

「ねぇねぇチノちゃん。この前お客さんに、ココアちゃんはシスターコンプレックスだねって言われちゃった!」

「え……」

「響きがカッコイイよねぇ♪」

 

 訂正、全然真面目ではなかった。というか、会話の内容がとてもアヤシイ。

 ラビットハウスに下宿しているココアがオーナーの孫娘であるチノを妹として可愛がっているがゆえの発言なのだが、間違った言葉を使って当人を困らせていた。

 しかも、間違いに気づいていない彼女は勢いを止めず、奇妙な騒ぎはバイト店員のリゼにまで飛び火する。

 

「リゼちゃん聞いて! 私、シスターコンプレックスなんだって!」

「えぇ!? あ、ああ、そうか……」

「シスターコンプレックス! シスターコンプレックス!」

「やばい……意味を分かってない……早く止めなきゃ……」

「やれやれ……」

 

 危険な単語を連呼するお茶目なココアに全員が呆れる。同僚の少女たちだけではなく、チノの頭上に乗っているティッピーも渋い声でため息をついてしまう。

 実を言うと、このティッピーは【アンゴラうさぎ】という小動物であって人間ではない。彼(?)はチノのお爺さんなのだが、どういうわけか精神だけがメスのうさぎに乗り移っているのである。

 つまりこの世界には、常識では説明できない不可思議な現象が存在しているのだ。

 その証拠に、彼と同じような存在がこの喫茶店に襲来してきた。ココアが問題発言を続けている状況で。

 

「シスターコンプレックス! シスターコンプレックス!」

「ほう。君もまたシスターコンプレックスなのか?」

「「「(一番嫌なタイミングでお客キター!?)」」」

 

 急に聞こえてきた男性の声にチノたちは驚く。一体誰が来たのだろうか。一斉に店の入り口へ視線を向ける。するとそこには、絵に描いたような美少年が立っていた。

 

「話は聞かせてもらったぞ、シスコン少女!」

「ん~、何者?」

「ふん、何者とは愚問だな。営業中の喫茶店に小腹をすかした美少年が来たと言えば、おのずと答えに行き着くだろう?」

「はっ、まさかあなたは!」

「そう。俺は、シスターコンプレックスという言葉を聞きつけて馳せ参じた、通りすがりのシスコンだ!」

「って、客じゃないのかよっ!?」

「しかも、変態っぽいです……」

 

 チノたちは予想もしていなかった展開にツッコミを入れる。

 それにしても、いきなり現れてシスコン宣言をかますこの少年は何者なのだろうか。興味を持ったみんなは、予期せぬ珍客を観察する。

 容姿端麗なその少年は見慣れない学生服を着ており、年齢はリゼと同じくらいのようだった。美しい黒髪と魅了されそうな紫の瞳を持ち、言動以外の所作からは品の良さを感じさせる。なんとなく、どこぞの権力者の御曹司のように見えるのだが、実際にその通りだった。リアルお嬢様のリゼは、大きなパーティ会場で彼の姿を見た記憶があったのである。

 

「あ――――――――――――っ!!?」

「ひゃうっ!? どどど、どうしたのリゼちゃん!? 突然大きな声出して!?」

「こ、こ、こ、こ」

「こけこっこー?」

「違う! こいつは、神聖ブリブリタニア帝国の皇子なんだよ!」

「へぇ~、そうなんだ~って、えぇ―――!? ブリブリタニアって、あのブリブリタニア!?」

「その通り。ブリティッシュテイストかつブリリアントな神聖ブリブリタニア帝国第11皇子、ルルーシュ・ヴィ・ブリブリタニアとは俺のことだ!」

 

 なんと、リゼによって驚愕の事実が判明した。このシスコン少年は、やんごとなき血筋の人間だったのだ。これには流石のココアも驚きを隠せない。

 しかし、チノだけはすぐに立ち直って、いつも通りの反応を示した。オーナー代理として、どうしても言わなければならないことがあったのだ。

 

「お店の中でブリブリ連呼しないでください」

「気にするトコはソコなの!?」

「まぁ、飲食店じゃからな」

 

 超大国の皇子を前にしてこのセリフ。見た目に反して度胸のある少女である。

 そんなチノに好感を抱いたルルーシュは、改めて少女たちを見た。すると、その中に見覚えのある顔があった。

 

「ほう。そこにいるのは天々座(てでざ)中将のご息女ではないか。このようなところで巡り会うとは奇遇だな」

「あ、ああ……そうだな」

「えっと、もしかしてリゼちゃんとお知り合いなの?」

「まぁな。彼女の父上は、奇跡の藤堂と並び賞される優秀な軍人でね。その関係で彼女とも出会う機会があったんだ」

「へぇ~、そうだったんだ~! リゼちゃんのお父さんってすごい人なんだね~! 思い切ってサイン頼んじゃおっかな~?」

「いや、今お前がタメ口で話してるヤツのほうがすごい人なんだが……」

 

 リゼは、ココアのマイペースさに呆れた。初対面の皇子ですら速攻でフレンド扱いするとは。すごいヤツなのか、天然おバカなのか。

 

「(その両方だな……)」

「ん~? どうしたのリゼちゃん? 私のことじっと見て」

「あーうん。これでもこいつは皇子だからな。一応言葉には気をつけろよ?」

「あっ、そうか。失礼つかまつって、申し訳なき候でございますことよ?」

「余計に失礼な状態になってるぞ」

 

 やはりココアはすごい天然おバカだった。

 

「すまないルルーシュ。こいつはちょっと残念系で……」

「残念系!?」

「ふっ、そんなことは気にしなくていい。今の俺はただの客だからな。君たちも気楽に話しかけてくれ」

「それじゃあルルーシュ君、私にサイン頂戴!」

「気楽すぎだろ!」

 

 あまりに自然なココアの暴走に、すかさずリゼがツッコミを入れる。世が世なら、その場で切り捨て御免な状況も、彼女が絡むとただのコントになってしまうから不思議である。

 

「ほんとにすまないルルーシュ。こいつはかなり残念系で……」

「なんかグレードアップしてる!?」

「いや、サインぐらいどうってことないさ。同じシスコン同士、親睦を深めあうのもいいだろう」

「ナイスアイデア! これを機にして、シスコン友達になっちゃいましょう!」

「それは勘弁してください」

 

 ルルーシュとココアのセリフに嫌な予感が走ったチノは、さりげなくツッコミを入れる。しかし、超マイペースな2人には届かなかった。

 

「ほら、これが俺のサインだ」

「わぁ~! 有名人からサインを貰えるなんて初めてだよ!」

「ふふっ、そんなに嬉しいか?」

「うん! 素敵な初体験をありがとう!」

「こちらこそ。君の初体験の相手に選ばれて光栄だ!」

「私も、ルルーシュ君が初体験の相手でとっても嬉しいよ!」

「あーもう、2人そろっていかがわいい言い方するな!」

 

 ちょっぴりアダルト(?)な会話にリゼが荒ぶる。こんな話をチノの前でさせるわけにはいかない。幸い彼女はこの手の話に疎くて、よく分かっていないようだが。

 

「まったく、チノの前でハレンチな言葉を連呼しおって。これだから最近の若者は……」

「おじいちゃん。初体験ってなんのこと……」

「あ――っ! お前にはまだ早い! 知らなくていい世界なんじゃ――っ!」

 

 孫に悪影響が及びそうになったので、ティッピーが荒ぶりだす。たとえラブリーな姿に成り果てたとしても中身は立派なおじいちゃんなのだ。

 しかし、周囲の人々にはただの可愛い毛玉ちゃんにしか見えないので、ルル-シュの興味を惹いた。

 

「今、その毛玉が喋らなかったか?」

「……いいえ、喋っていません」

「チノちゃんは腹話術が得意なんだよ」

「いや、さっきのは絶対腹話術じゃな「腹話術です」そ、そうか……」

 

 有無を言わせぬチノの気迫を受けて空気を読むルルーシュ。シスコンの彼は妹属性の彼女に逆らえなかった。

 

「それはともかく、あなたの抱いているうさぎも珍しいですね?」

「あっ、そー言えば! 実はすっごい気になってたんだけど、可愛い子だね~」

 

 そう言ってココアが視線を向けた先には、ルルーシュに抱かれている一羽の子うさぎがいた。見ると普通のうさぎではなく、なぜか頭の部分に綺麗な緑色の毛が伸びている。まるで長い髪のように。

 

「その緑色の毛ってウィッグかな?」

 

 疑問に思ったココアは素直に質問してみた。すると、すぐに答えが返って来た――そのうさぎ本人(?)の口から。

 

「ふん、失礼な小娘だな。これは私の地毛だ。カツラなどではない」

「……えっ」

「喋った!?」

 

 急に若い女性の声で話しかけられたココアが驚く。そりゃ、うさぎから話かけられたら当然だろう。しかし、彼女のビックリポイントは違った。

 

「すごーい! ルルーシュ君も腹話術が上手なんだね!」

「違うわバカ者」

 

 まさかの勘違いで、クールが持ち味のうさぎからツッコミを入れられる。とはいえ、それは仕方が無い。ココアたちはティッピーの秘密を知らないから、チノの言うように腹話術と思ったのである。

 だからこそ、真実を知っているチノとティッピーは、彼女たち以上に驚いた。

 

「おじいちゃん。もしかしてあのうさぎは……」

「うむ。恐らくわしと同じ境遇の者じゃろう……」

 

 こそこそと顔を寄せ合って、彼女(?)の正体を考察する。

 確かに、あのうさぎは自分の意思で喋っており、状況を把握してきたココアとリゼもその事実を受け入れ始める。

 

「ま、まさか……」

「ほんとにその子が喋ってるの?」

「さっきからそうだと言っているだろう。若いうちから疑ってばかりいると碌な大人にならんぞ?」

「うさぎに説教された!?」

 

 小動物に諭されて、ちょっとしたショックを受ける。当然ながら初めての経験で、流石のリゼもフリーズ気味だ。しかし、説教は慣れっこのココアは、いち早く再起動して更なる質問をする。

 

「ねぇ、ルルーシュ君。そのうさぎは一体なんなの?」

「ああ……こいつの名はC.C.。一言で言えば魔女だな」

「マジョ?」

「魔女ってあの物語に出てくる魔女のことか?」

「そうだ。円のように閉じた世界で、永遠におとぎ話を紡ぎ出す存在。地球という美しくも残酷な劇場で、殺戮と憎悪に満ちた物語を人間たちに演じさせるために神が作った舞台装置。それこそがこの女の正体――すなわち魔女だ」

 

 急に中二病的なことを言い出したルルーシュに全員が唖然とする。確かに、言葉を喋るうさぎがただ者でないことは理解できるが、まさか魔女なんて設定が出てくるとは。

 

「おじいちゃん。本当にあのうさぎは……」

「いや。恐らくただの妄想じゃろう……」

 

 自分がただの喫茶店マスターなので、冷静な判断を下すティッピーだった。

 そして、現実的なリゼもまた同じような答えを出した。

 

「何を言い出すかと思えば。魔女なんているわけないだろう?」

「では、こいつが喋っている理由はなんだ?」

「そ、それは……」

「やっぱり腹話術なんじゃない?」

「まだ言うか小娘。本当に喋っているか間近で確認してみろ」

 

 そう言うや否やルルーシュの腕から抜け出したC.C.は、ココアの胸めがけて跳躍した。一瞬何が起きたのか分からなかったが、白い物体が目の前に来たのが見えて咄嗟にキャッチする。

 

「きゃっ!?」

「どうだ小娘。私自身の口から声が聞こえるだろう?」

「う、うん……ほんとに喋ってるんだね」

「そうだ。お前が間違えたと理解したのなら、素直に誤りを認めろ。そして、慰謝料としてピザをよこせ」

「うん、ゴメンね……って、ピザ食べるの!?」

 

 変な要求をされて驚くココア。普段は面倒くさがりなC.C.が活発に動いた目的は、そこにあったらしい。はっきり言って、横暴な言いがかりである。

 だが、素直なココアは律儀に従う。

 

「チノちゃん、ピザひとつお願いします!」

「うちでは取り扱ってないです」

 

 速攻で却下された。コーヒーがメインのラビットハウスでは簡単な軽食しか作っておらず、本格的なピザは出せない。残念だが、メニューに無いのでは諦めるしかなかった。

 こうなってはどうしようもないので、わがままなC.C.も大人しく引き下がる。賢い彼女は不毛な争いをしないのだ。

 

「ふん。ピザが無いならこんな所に用は無い」

「うさぎのクセにすごい傲慢なヤツだな……」

「まぁ、魔女だからな」

 

 ココアの腕に抱かれながら不貞腐れているC.C.を見てルルーシュがつぶやく。こんな姿でもこいつは魔女なのだ。普段はピザばかり食べてるダメうさぎでしかないが。

 

「ところで、こいつのどこら辺が魔女なんだ? お前の言い方からすると、言葉が喋れるってだけじゃなさそうだが」

「ほう、流石に鋭いな。君の言うとおり、こいつには特殊な力がある。正確には、契約した俺がその力を行使できるのだがな」

「契約? 力?」

「だんだん魔女っぽくなってきたね!」

「はい……」

「でも、たんなる妄想じゃろ?」

 

 まだ疑っているティッピーだけ否定的な発言をする。それを耳聡く聞き取ったルルーシュは不敵な笑みを浮かべて反論する。

 

「ふん。どうやら、その毛玉は疑っているようだな。ならば、実際に確かめさせてやろう。俺が手に入れた【絶対遵守の力】を!」

「絶対遵守の力?」

「俺の言葉で、いかなる命令にも従わせることができる能力だ。それを今から君たちに使う」

「え……えぇーっ!?」

 

 ココアが驚きの声を上げる中、やたらとカッコイイポーズを決めたルルーシュがチノと向かい合う。そして、左腕をふりかざすと、あの決まり文句を唱えた。

 

「ルルーシュ・ヴィ・ブリブリタニアが命じる! ブルーマウンテンを一杯持って来い!」

「かしこまりました」

「すごーい! 照れ屋なチノちゃんが一発で言うこと聞いちゃった!」

「店員にメニューを注文しただけじゃないか!」

「というか、照れ屋じゃないです」

 

 ルルーシュが使ったらしい絶対遵守の力とやらは、ココア以外には受け入れられなかった。

 

「それでは次だ。ルルーシュ・ヴィ・ブリブリタニアが命じる! お前はシスコンになれ!」

「はっ! 何だか私、シスコンになっちゃったような気がする!」

「それは元々だろ!」

 

 速攻でリゼがつっこむ。やはり、今回もイマイチだった。こうなったら、最後のリゼにすべてをかけるしかない。

 

「ならば、これでどうだ。ルルーシュ・ヴィ・ブリブリタニアが命じる! お前は可愛い乙女になれ!」

「私は生まれた時から乙女だ!」

「それはどうかな。君は、君自身が持っている本当の魅力に気づいていない」

「なんだと!? それはどういう……」

「普段は男勝りな君だが、乙女らしく着飾ればもっと美しくなる。この俺ですら魅了してしまうほどにな」

「えっ!? う、美しいだなんて突然なにを!」

「そんなに不思議がることではない。俺は真実を言っているだけだからな」

「お、お前にそんなこと言われたって私は……」

「あー! リゼちゃんのほっぺが真っ赤になって、恋する乙女のように可愛くなったよ!?」

「それは照れてるだけです」

 

 カウンターにいるチノが、わざわざツッコミを入れる。いずれにしても、絶対遵守の力は立証できなかったようだ。

 

「結局なんだったんだよ……」

「ふっ。効果が無かったということは、この世界では不要な力だということさ」

「ようするに、ただの妄想じゃな」

「えー。私には効果があったけどなー」

「それは錯覚です」

 

 ブルーマウンテンを持ってきたチノが、すかさずツッコミを入れる。相変わらず天然発言をしているココアもそうだが、ルルーシュのおかしな言動もどうかと思う。なにやらかっこいい事を言って締めようとしても、もはや重度の中二病にしか見えない。

 しかし、それでいいとルルーシュは思う。ギアスの力を冗談話として使えるほどに【この世界】は穏やかなのだから。

 

「(向こうのC.C.が見たらどう思うか、想像するだけでも笑えるな……)」

 

 なぜかうさぎになってしまっているこの世界のC.C.を見つめながら、懐かしいあの場所へと思いを馳せる。チノから手渡されたブルーマウンテンの苦みが、苦しくも愛おしい記憶を呼び覚ましていく。

 そんな時だった。遠くから近づいてくる騒音が聞こえてきたのは。

 何かの走行音らしいがとても荒々しく、自動車ではなさそうだ。ココアとチノにとっては初めて聞く音なので、その正体が分からなかった。しかし、聞き覚えのあるルルーシュとリゼはすぐに理解した。

 

「この音は……」

「まさか!?」

 

 思わずお互いに顔を見合わせた途端、2人は弾かれたように外へ向かった。その様子に釣られて、ココアとチノも外に出ると、場違いな存在がこちらに向かって来ているのが見えた。

 それは真っ白い塗装をされた人型機動兵器、ナイトメアフレームだった。

 

「こいつはランスロットじゃないか!? なんでこんなところに……」

 

 その最新型ナイトメアフレーム――KMFを知っていたリゼは、驚きと同時に疑問符を浮かべる。確かこの機体の持ち主は、ルルーシュの妹であるナナリーの騎士だったはずだが、なぜこんなところにいるのだろうか……。

 

『ルルーシュ! ここにいたのか!』

「どうしたスザク。KMFで散策なんて横着すぎだぞ?」

「って、そういう問題じゃないだろ!」

 

 リゼは、のん気なことを言うルルーシュにツッコミを入れながら思い出す。そうだ、こいつを操縦しているのは枢木スザクだ。日本人でありながらナナリーの騎士となった変り種なのだが、そんな彼がなぜこんなところでKMFを乗り回しているのだろうか。

 

「それで、俺に何か用か?」

『ああそうだ。ナナリーから緊急連絡を受けたんだよ』

「なに!? 一体何が起きたと言うんだ!?」

『どうやら、この先にある公園で不良野良うさぎに囲まれてしまっているらしいんだ』

 

 いざ話を聞いてみたら何てことはなかった。しかし、シスコンのルルーシュにとっては看過できない状況だ。

 

「ええいっ、か弱いナナリーが凶暴な野生動物に襲われているだと!?」

「いやいや。相手はうさぎなんだから、そんなに騒ぐことじゃないだろ?」

「なにを言う! 妹の危機に奮い立たない兄がこの世にいるか? いや、いまい!」

「こいつめんどくさい!?」

 

 ナナリーのこととなると見境がなくなるルルーシュは確かにめんどくさかった。

 だからというわけではないが、呆然としたリゼたちは彼らの暴走をただ見つめるしかなかった。

 

「行くぞスザク! 助けを求めているナナリーのもとへ!」

『イエス・ユア・ハイネス!』

 

 ランスロットの手に乗ったルルーシュがスザクに命令する。それと同時にランドスピナーが高速回転して、土埃を巻き上げながらランスロットを加速させた。

 

「待ってろよナナリー! お兄様が今すぐ行くぞー!!」

 

 こうして、唐突に現れたシスコン皇子は嵐のように去っていった。

 後に残された少女たちは唖然としながら、遠ざかっていくKMFを見送り、これまでのやり取りを振り返った。

 

「……なんか、悪い夢を見ていたようだな。ナイトメアだけに」

「うん、そうだねー……」

「でも、儚い夢じゃありません。揺るぎ無い現実です」

 

 そう言ってチノが指差した地面を見ると、ランドスピナーによってボロボロになった石畳が無残な姿を晒していた。

 

「お店の前がめちゃくちゃになってる!?」

「しかも、コーヒー代を払っていません」

「なんてこった。歴史ある街の風景が……ラビットハウスの経営が……」

「はぁ。こうなったら、コーネリア皇女殿下に密告してやる!」

 

 目の前の惨状を見つめながらため息をつく少女たち&毛玉。

 しかし、ルルーシュが残していった厄介ごとはそれだけではなかった。彼が連れてきたあの魔女が、ココアの腕に抱かれたままになっているのだ。

 

「まったく、あのシスコンどもは騒がしいな」

「「「「とんでもないものを忘れていってる――――!!?」」」」

 

 ようやくC.C.の存在に気づいたみんなは、仲良くシャウトする。

 

「いや~、まさかシーツーを忘れていっちゃうなんてビックリだよ~」

「ソイツを抱いてることを忘れてたお前が言うなよ」

 

 自分のミスをさりげなく流そうとするココアにリゼのツッコミが決まる。その光景を黙って見ているチノとティッピーも何かを訴えるような視線を送る。

 

「やっぱり、シスコンは危険です」

「まぁ、シスコンは関係ないがな」

 

 少々的外れな意見を交わす孫と祖父であったが、大変な置き土産を残されたことは間違いない。この変なうさぎをどうするか。みんなで頭を悩ませる。

 そんな微妙な空気の中、ココアよりもマイペースなC.C.は、いつも通りに傲慢な態度で少女たちに語りかける。

 

「よりにもよってピザの無い喫茶店に置いていくとはな。腹が立ったら余計にピザが食いたくなったぞ」

「こいつはピザのことしか考えてないのか?」

「ふん。生きていくにはそれで十分だろう? おい小娘、今すぐピザハ○トに注文して来い」

「喫茶店で宅配ピザを頼むの!?」

「ものすごい屈辱です」

 

 あまりに無神経な物言いにプライドを傷つけられたチノがムカッとする。

 この時の憤りが彼女の料理人魂を奮起させ、後にラビットハウスのメニューにピザの項目が加わることになるのだが、結局C.C.を喜ばせるだけでモヤッとした結果に終わるのだった。

 

 

 何はともあれ、これがルルーシュと少女たちの最初の出会いだった。

 そして、この後も色んなドタバタを繰り広げることになるのだが、内容は皆様のご想像にお任せすることにする。

 

 

 ☆★☆★☆★☆ おまけエピソード ☆★☆★☆★☆

 

 

 時は少しさかのぼり、ラビットハウスにランスロットが到着する前。甘味処・甘兎庵(あまうさあん)では、看板娘の千夜とその友人であるシャロが仲良く会話をしていた。

 

「ねぇねぇシャロちゃん。たった今お店の前を、連邦の白い悪魔が通り過ぎていったわ~」

「って、今はそれどころじゃないでしょー!?」

 

 シャロは、猛スピードで走り去っていくランスロットには目もくれずに、のん気な様子の千夜に詰め寄る。その原因は、甘兎庵にいるお客のせいだった。

 豪奢な白髪を複数のロール状に巻いた奇抜すぎる髪型をしているやたらとでかい老人が、1人窓際の席に座って静かにお茶を飲んでいる。それ自体はいいのだが、彼はとっても有名人で、シャロは気になって仕方がなかった。

 

「ふぅ~。やっぱりぃ、日本に来たらぁ抹茶に限るなぁ~」

 

 必要以上に威厳溢れるダンディボイスで日本茶を褒めるこの男。実は、ルルーシュと関係深い人物だった。

 

「あの人って、神聖ブリブリタニア帝国第98代皇帝・シャルル・ジ・ブリブリタニアじゃないのー!?」

「え~? それはどうか分からないけど、店内でブリブリ連呼しちゃダメでしょ?」

「気にするトコはソコなの!? じゃなくて、アッチを気にしなさいよー!」

 

 あまりにのんびりすぎる友人に業を煮やしたシャロは、思わず叫んでしまう。それが災いして、そのお客――シャルル・ジ・ブリブリタニアに気づかれてしまった。

 

「そこで仲良く語らっているぅ、可憐な大和撫子たちよぉ!」

「きゃうっ!?」

「はい、なんでしょう?」

「君たちは勘違をしておるようだがぁ、私は神聖ブリブリタニア帝国皇帝・シャルル・ジ・ブリブリタニアなどではなぁぁぁい!! この国に留学している愛しい我が子らを影から見守るぅ、ただの父親であーるるるるるぅ!!!!!」

「ひぃぃぃぃぃ!?」

 

 意味もなく大迫力な発言にビビるシャロ。一方、となりにいる千夜は……いつもと変わらなかった。

 

「まぁ、お子さんを案じて来ただなんて、とても感動的なお話ですね♪」

「普通の反応!? あんた、どんだけ大物なのよ!?」

 

 とってもワカモトな皇帝陛下を前にしても全く動じない千夜を見て、もしかしてコイツはすごいヤツなのかもと思うシャロであった。




シスターコンプレックスつながりでコラボしてみました。
ココアのキャラに合わせたら、ルルーシュが変態になってしまいましたが……。
私としては、意外と上手く融合できたと満足しています。


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