Muv-Luv Alternative ~鋼鉄の孤狼~ 作:北洋
【西暦2001年 12月5日 0時 日本帝国 某所 戦略研究会集会所】
……── 人々が寝静まった深夜、その男たちは寒空の下に集まっていた。
「同志諸君、よくぞ集まってくれた」
場所は軍事基地の滑走路のようで、アスファルトの上に立つ面々に向かってリーダー格らしき男が声を張り上げていた。
吐く息が悉く白靄となる寒さの中、男たち ── 半数が女性ではあったが ── は全員衛士強化装備に身を包んでいた。集まっている面々の全てが、武のいる訓練過程を終了し衛士になった兵たちということになる。
男たちはリーダー格の男の演説に耳を傾けていた。
「私は帝国本土防衛軍、帝都守備連隊所属の
沙霧と名乗った男は眼鏡をかけ知的に見えたが、口からは過激な言葉が飛び出してくる。
「先日の天元山の噴火の折、政府は災害救助を名目に現地住民を避難させた。だが真実は諸君らも知ってのとおり、非武装の一般住民を武力によって強制退去させただけにすぎない。そこに住民の意思など欠片ほども介在してはいないのだ。
諸悪の根源たる政府はあろうことか将軍殿下を蔑ろにし続け、民に圧政を強いている。考えてみて欲しい。政府に大義はあるだろうか?
私はあえて断言しよう。政府に大義などありはしない。奴らこそ将軍殿下を謀反を繰り返し、日本を滅亡へと追い込む大逆の徒である! 戦略勉強会に集まってくれた民を想い、国を想い、未来を願う憂国の烈士たる諸君らにこそ大義はあるのだ!!」
沙霧は拳を振り上げて叫ぶ。
「時は来た! 諸君! 今こそ殿下の御心と民を分断し、日本を蝕む国賊を討つ時が来たのだ! 亡国の徒を滅すため、私に力を貸してほしい!!」
「「「「「「おおおおおおぉぉぉぉぉぉっっ!!!!」」」」」」
沙霧に呼応して、寒空の下で男たちの咆哮が響き渡る。
男たちの目には力が宿り、一片の迷いも見受けられなかった。
正しいことをしている。その自負が男たちの胸には刻み込まれているのだ。
「憂国の烈士たちよ、諸君らの健闘を祈る!!」
沙霧の思いに男たちは一矢乱れぬ敬礼で応えた。
その後、沙霧曰く憂国の烈士たちは、各々に与えらえた役割を果たすために動き始める。
●
やはり、沙霧 尚哉は国を想う素晴らしい上官であり男だと再認識する。
将軍の意思を反映させない効率のみを優先させた政治や、政府高官らによる汚職など現政権の問題点は、それこそ叩けば埃がでる布団のように情報統制され政府内部に隠されていることだろう。
沙霧はそれが許せなかった。
国の往く先を案じた沙霧に共感した若者が、今回の決起に呼応して咲代子の周りに人の壁を作り上げていた。ひとえに沙霧の正しさと人望があって初めて成せた成果だろう。
「憂国の烈士たちよ、諸君らの健闘を祈る!!」
沙霧の声に駒木は敬礼し、これから成す大事の前に心を引き締めた。
「ふん、下らん」
真横にいた男の呟きが聞こえたのは、正にそんな時だった。
筋骨隆々の中年男性が衛士強化装備に身を包んで立っている。敬礼はしていない。周りの男たちの視線を意に介さず、悠々と集団の中で笑っている。
咲代子は
「村田、貴様……ッ」
「大義など俺にはどうでも良いことだ。俺は
男の名は
元々武家の出身であるらしく、傭兵として活動していた男だったが、現在は沙霧率いる憂国の烈士に参加していた。
理由は単純明快。
【貴様らに付いた方が、強い奴らと戦えるからな】
あの時の言葉を咲代子は決して忘れない。
村田は沙霧の大義に賛同したわけではないのだ。ただ人を、戦術機を斬りたいだけ。本来なら烈士に肩を並べる資格を持たぬ男だったが、その実力故に沙霧に断り咲代子が仲間に引き入れた男だった。
特定の軍に所属していないにも関わらず、風のたよりで聞く程度には村田の強さは有名だったからだ。
村田は自作した特性の長刀「
「獅子王」と「武御雷」に村田が組み合わされば、単純な接近戦なら沙霧 尚哉ですら敵いはしないだろう。
これから軍事クーデターを起こす身として、強力な駒は1つでも多く欲した咲代子が見つけ勧誘した男が村田だった。
だが ──
「おい女、駒木と言ったか。貴様は沙霧の腹心だったな。俺の配置場所は一番危険な場所にしろ」
「……言われずともそうするわ」
「それでいい。雌伏の時は過ぎ去った。ふふ、久々に血が猛りおるわ」
── 気味の悪い微笑を浮かべ持ち場へと去って行く村田を見て、咲代子は一抹の不安を覚えていた。
果たして村田を引き入れて正解だったのか? 咲代子は内心穏やかではいられない。
しかし悔やんだ所でもう遅かった。
憂国の烈士による決起はもう始まるのだ。
村田が戦力になるのは事実だ。そう割り切って、咲代子は自分は成すべき事をするのみだと決意を新たにした。
「沙霧大尉、私はどこまでもお供いたします」
軍事クーデターが始まる ──……