Muv-Luv Alternative ~鋼鉄の孤狼~   作:北洋

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第3部は戦闘シーンが多くなる予定です。
第2部よりは少し長めになると思いますが、よろしければお付き合いください。


第3部 望蜀の下界 ~Phantom role~
第3部 プロローグ 炎のさだめ


【???】

 

 夢を見ていた。

 

「── なんなら、俺が起こしてやってもいい、これがな」

 

 キョウスケ・ナンブのすぐ傍で、アクセル・アルマーは確かにそう言った。

 場所は何処にあるかも分からない小さな酒場。趣味的な内装をした酒場の中で、キョウスケはアクセルと対面し言葉を交わす。目の前のカウンターの上にはアイスとウィスキーの入ったグラスが並び、2人は飲みながら語らっていたらしいことが分かる。

 ふと、キョウスケは疑問に思った。

 何故、アクセル・アルマーが生きているのか、と。

 アクセルは「インスペクター事件」の最終局面、並行世界のキョウスケの攻撃を受けて、乗機のソウルゲインは大破し宇宙に消えた筈だった。

 だからキョウスケは確信する。

 これは夢なのだと。

 あるいは ──……

 

(……俺を構成するという大因子(ファクター)が持つ過去の記憶……?)

 

 ……── キョウスケの思考を余所に、夢の中のキョウスケの口は独りでに動いていた。

 

「……アクセル……」

 

 静かではあるが、その奥に深い怒りが眠っている。そんな声だった。

 

「……もし、もしそんなことをすれば……俺はお前を ──」

 

 カウンターに座っている夢の中のキョウスケ。

 夢を見ているキョウスケにも、彼が抱いている感情が流れ込んでくる。

 夢の中のキョウスケの心の大半を占めていたのは、実直すぎる程にまっすぐな怒りだった。アクセルの言葉がキョウスケの心の琴線に触れた。そうとしか思えない……それ程に強い怒りがキョウスケの中で蠢いていた。

 キョウスケの中に、夢の中の自分の思考までもが流れ込んできた。

 

(アクセル……お前が平和を否定し、また……また戦争を起こすと言うのなら……)

 

 夢の中のキョウスケの口が動く。

 

「── お前を殺す」

 

 本気の一言。しかしアクセルは笑って受け止めていた。

 

ベーオウルフ(・・・・・・)、やはり貴様の根っこは俺と同じだよ。根を生やした場所が違ったというだけ、まったく、勿体ないの一言に尽きるぞ」

「…………」

「得意のだんまりか? まぁいいさ」

 

 アクセルはカウンターから腰を上げた。

 空のグラスをマスターに返し、椅子に腰かけたままのキョウスケを見下ろす。

 キョウスケは目を合わせようとはせず、半分程ウィスキーが残ったグラスを見つめていた。

 

「ご馳走になった」

 

 アクセルが礼を言う。

 

「また会おう。もっとも、次に会うのは戦場で、だがな ──……

 

 

 

 

      ●

 

 

 

【西暦2001年 12月4日 11時32分 国連横浜基地 仮設実験室】 

 

 ゆさゆさゆさ。

 そんな適度な強さの体の揺れで、キョウスケは夢の世界から引き戻された。

 重い、鉛のように重い瞼を開くと、社 霞が困った顔でキョウスケの方を見つめていた。

 徐々に醒めてきた頭が、自分はあの後実験室の中で寝てしまったのだと認識させる。座っている間に意識を失っていたらしく、そのまま体勢で誰かに毛布を掛けられて寝ていたようだ。

 

「……おはようございます」

「……ああ、おはよう」

 

 霞の挨拶に返答するキョウスケ。

 反射的に出た声が無愛想だったのか、霞はびくんと肩を震わせてキョウスケから少し離れてしまう。しかし目覚めの感覚は最悪としか言いようがなく、起き抜けの声に多少ドスが効いていても仕方ないように思えた。

 

(……夢……? いや、現実か……)

 

 霞の背後には、今は駆動していない転移装置が見えた。

 昨日 ── 12月3日、キョウスケは転移装置で元の世界に戻ることに成功した。

 キョウスケはその世界でエクセレンやブリットと再会したが、出会ってはならない(・・・・・・・・・)者とも遭遇することになった。

 もう1人のキョウスケ・ナンブとアルトアイゼン・リーゼ。

 訳も分からないままこの世界 ── 白銀 武たちのいる世界へと引き戻され、キョウスケは香月夕呼から自分の正体に関して言及されることになる。

 

(俺が……キョウスケ・ナンブの因子の集合体(・・・・・・)……?)

 

 一晩経ち、目が覚めてなお実感は沸いてこない。

 夕呼は得にならない嘘や冗談はつかないだろう。それにたった数日で転移装置の完成にまで漕ぎつけた天才でもある。彼女が実証されたという仮説には相当の信頼性があると考えていいだろう。

 では自分は……? 

 自分の中の何かが崩れ、胸にぽっかりと穴が空いたような喪失感がキョウスケを見舞う。

 

「……あ、あの……」

 

 霞が少し離れた位置から話しかけてきた。

 

「……そ、そんなに気を落とさないでください……」

「……ああ、すまんな。心配させてしまったようだ」

 

 気を落とすなと言うのが無理というモノだが、霞なりに精いっぱいキョウスケを励ましているのだろう。胸の穴は埋まる筈もなかったが、キョウスケは霞の気遣いに感謝した。

 こんな地下の実験室で腐っていても始まらない、それだけは確かだった。

 キョウスケは掛けられていた毛布を畳んで立ち上がる。

 

「……あの、これ……」

「何だ? メモ用紙?……香月博士からの伝言か」

 

 霞はメモをキョウスケに渡すと、お辞儀をし逃げるように実験室から去ってしまった。

 

「── 15時に研究室まで来るように。白銀……武も一緒にと書いてある」

 

 読み終えたメモ用紙を、愛用の赤いジャケットにしまった。

 仮設されただけの実験室には日時を示す物が何1つ見当たらない。時間は分からないが、霞が慌てて連れて行こうとしなかったので、15時にまではまだ時間があるのだろう。

 とその時、空気を読まずにキョウスケの腹の虫が泣き始めた。

 

「……こんな時でも腹は減る、か」

 

 キョウスケは苦笑を漏らし、地上にあるPXを目指すことにした。あそこなら食料も、時間を確認するための時計もあるからだ。

 妙に重い足を動かしながら、キョウスケは実験室を後にしたのだった。

 

 

 

 

Muv-Luv Alternative~鋼鉄の孤狼~

   第3部 望蜀の下界 ~Phantom role~

              To Be Continued ──……

 

 

 

 




今後は1更新4000文字程度で区切る予定です。
ただし書きたいことや、短めで区切りたいことがあるときは、2000-10000文字の間で更新文字数が変動します。
また週1-2回の不定期更新になります。更新時間は0時に統一する予定です。スパロボのキャラもマブラヴ世界の住民として登場予定(OG世界のキャラと別人)です。


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