Muv-Luv Alternative ~鋼鉄の孤狼~   作:北洋

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キュピーン、スキル「悪運」発動。強運と悪運は絶対別物だろ、と思う今日この頃。


第4話 激突、犬と狼 4

【西暦2001年 11月21日 21時15分 国連横浜基地近辺 廃墟ビル群】 

 

 砕かれたビルの破片が雹のように降ってくる中、2機のロボットが月明かりに照らし出されている。

 

 月光によく映えるアルトアイゼン・リーゼと、対照的に闇に良く溶け込む夜間迷彩の不知火壱型丙。

 崩れたビルの瓦礫の上で不知火がアルトアイゼンに押し倒されていた。体格的にも出力的にも上のアルトアイゼンを押し返すだけの膂力を、不利な体勢もあり、不知火は捻出できないでいる。

 とどめ ── とばかりに、リボルビング・バンカーの切っ先が不知火のコクピットに突き付けられた。

 

「さぁ、決着(ショーダウン)だ」

 

 キョウスケの声に、オープンとなった回線で不知火のパイロットが答える。

 

『……私の……負けです』

 

 声は昨日知り合った女性軍曹、神宮司 まりものものだった。

 少なからず驚きを覚えたキョウスケだったが、彼女の宣言にバンカーの切っ先を納める。

 直後、指揮車の夕呼から状況終了の命が通達され、実弾を使った実戦試験はキョウスケに軍配が上がったのだった。

 

 

 

 Muv-Luv Alternative~鋼鉄の孤狼~

 第4話 激突、犬と狼 その4

 

 

 

【21時46分 廃墟ビル群 指揮車周辺】

 

 夕呼から撤収命令が下された後、キョウスケたちは夕呼たちの乗る指揮車の周辺に集合していた。

 

 試作01式電磁投射砲と120mm砲弾の攻撃により、アルトアイゼンの装甲はかなり傷ついてしまったが、貫通し内部構造を破壊した銃弾は1つもなかった。また内部構造のフレームや各種パーツが無傷であることが幸いし、アルトアイゼンは歩いてなんなく指揮車周辺に辿りついた。

 一方、まりもの不知火は、地面へ落着の衝撃で跳躍ユニットを破損、その他フレームにもダメージを負ったそうだが、主脚走行は可能だったためアルトアイゼンに追従して目的地に到達していた。

 指揮車から通信が入ってくる。

 

『2人ともお疲れ様』

 

 夕呼がモニター越しに微笑を向けてくる。

 

『おかげで良いデータが取れたわ。機体の突撃、突破能力は化け物級だし、それをあんな無茶苦茶な軌道で使いこなして平気そうなアンタも相当のものね。まりも、アンタはどう考える?』

『はっ』

 

 不知火のまりもが凛とした返事を返し、続ける。

 

『南部中尉の技量は相当……いえ、私のそれを凌駕していると考えます。11機いた撃震部隊を全て撃破、これは機体の性能による所は大きいでしょうが、あの馬鹿げた直進速度でブラックアウトも起こさず正確に撃震を撃ち抜くことは、私にはできそうもありません。

 加えて、最後に私を捉えた変則機動。あの速度であの機動、私にはできそうもありません……いえ、数いる衛士の中で、あの機動ができる衛士が果たしているかどうか……南部中尉は、まるであの機体に乗りこなすために生まれた最高の衛士、そのようにさえ思えます』

『最高、だってさ?』

 

 モニターの向こうで微笑を浮かべたまま夕呼が言った。

 

『良かったわね~、南部、まりものお墨付きがでたわよ。こう見えても、まりもは富士の教導隊にいたこともあるんだから。そんな女のお墨付きよ、胸張ってもいい栄誉だと思うわよ~? ベテラン衛士同士、いっそのこと付き合って結婚して子どもでも産んじゃえば? お国のために』

『ちょ、ちょっと夕 ── 香月博士! からかわないでください!』

 

 突拍子もない夕呼の暴言にまりもの顔がリンゴのように紅くなるが、

 

「教導隊、か」

『えッ、興味なし?!』

 

 反応の薄いキョウスケにまりもが大声でツッコんでいた。

 教導隊という単語はキョスウケにとって聞き馴染みのあるものだった。まりもが教導隊出身なら、キョウスケを手玉に取り追い詰めたことにも頷ける。キョウスケの知る元の世界での教導隊は、一癖も二癖も猛者揃いだったからだ。そんなことを考えているキョウスケを尻目に、モニターの隅ではまりもがギャグマンガのような涙を流して凹んでいた気がしたが、それはきっと気のせいだろう。

 あらゆるパイロットの模範となり、手本となるべきエリート集団。

 それが教導隊だった。

 まーた振られた、五月蠅いわね ── モニター上でいい年した女性2人が言い合っていたが、些細な事なので、まぁ放置する。

 

(レールガン……ビーム兵器が当たり前でなければ、俺の世界でもこの手の武器が発展していたかもしれんな。あの連射力は脅威だ。アルトでなければ間違いなく堕ちていた)

 

 実際、機体の性能に助けられ勝利したのは事実だった。

 心の何処かで油断が巣食っていたのかもしれないと、キョウスケは気を引き締める必要性を感じた。

 今回は緻密に準備されたまりもの罠に絡め取られたわけだが、似たような状況は戦場でならいついかなる時でも起こり得る。さらに相棒であるエクセレンとヴァイスリッターの不在だけでなく、様々な面でこの世界にいることはキョウスケにとって不利とさえ言えた。

 

(アヴァランチ・クレイモア……今回の戦闘で装弾数の4分の1を使ってしまった。けん制にも使ったためチェーンガンの残りも約3分の2、装甲も相当削られた……今後、補給の目途が立てばいいのだが)

 

 こればっかりはキョウスケにどうすることもできない、事情を知っている夕呼頼みだ。

 キョウスケが思案している内に、夕呼とまりもの言い合いはまりもの敗北と言う形でケリが付いたようで、夕呼が勝ち誇った表情で口を開いた。

 

『さてと、もう夜も遅いしそろそろ引き揚げましょうか?』

『はいはいはい! 白銀 武訓練生、南部中尉にお願いがあります!』

 

 急に、今まで黙っていた武が割り込んできた。

 

『白銀? なぜそこにいる? ……また香月博士の気まぐれですか?』

『まね。指揮車での記録作業、手伝ってもらおうかと思って』

「それで白銀。俺に何か用か?」

 

 キョウスケの問に、武はやはり大声で応えた。

 

『俺をそのロボットに乗せてください!』

「はぁ?」『はぁ?』

 

 キョウスケとまりもの声が重なった。

 

『俺、そのロボットに乗ってみたいんです! 南部中尉、お願いします!』

「駄目だ」

 

 即答。しかしキョウスケの返事は当然のものだろう。

 戦術機教練過程中の訓練兵を、異世界の操縦系統も違うPTに乗せられる訳がない。

 

『そこを何とかお願いします! 俺、いつか響介さんみたいな機動をしてみたいんです! そのために、そのロボットの動きを一度体験してみたいんだ!』

『白銀ぇ! いい加減にしろ! 南部中尉も困っておられるだろうが!』

 

 まりもの叱責が武に飛ぶが、

 

『まぁ、別にいいんじゃない』

 

 夕呼の一声がそれを跳ね除けた。

 

『馬鹿に付ける薬はないっていうでしょ? コクピットにハーネスで括りつけて、最大戦速でも味あわせてあげなさいな。ゆで上がった頭も少しは冷めるわよ』

『ちょっと香月博士! いいのですか?』

『いいのよ。私だって忙しいし、こんな問答で時間を浪費したくないから』

 

 酷く投げやりに聞こえる夕呼の言葉。おそらく、結果を予測したうえで言い放っているに違いない。あるいは、聞き分けのない悪がきの世話を押し付けようとしているような……そんな印象すらキョウスケは覚えた。

 

(俺が操縦するなら百歩譲って構わんが……)

 

 冷静に考えるなら、アルトアイゼンに武は乗せない方が良い。

 元々複座ではないためハーネスで体を固定して膝の上にでも乗せない限り同乗できない上に、武は耐G機能の備わった衛士強化装備を身に着けておらず、その状態で慣れない他人の操縦に揺られることになるのだ。

 元の世界でも、戦術機動を模したシュミレーターを使い、体調を崩した人間が続出した程度にはアルトアイゼンの突撃速度は凶悪だった。

 

(……結果は火を見るより明らかな気がするがな……)

 

 モニターに映る武の瞳は子どものようにキラキラと輝いていた。

 ロボットアニメを見ている時、友人のリュウセイ・ダテがこの様な目をしていたような気がする。絶賛興奮中のリュウセイにロボットアニメを見るのを止めろと言って、彼が受け入れるとは思えない……もし武が似たような状態にあるのなら、諦めさせるのは相当骨が折れそうだった。

 

「……紙袋は持参しろよ」

『はいッ、ありがとうございます!!』

 

 それはそれは、武は夢と希望に満ち満ちた笑顔で敬礼を返すのだった ──……

 

 

 

      ●

 

 

 

【22時06分 国連横浜基地 戦術機ハンガー】

 

 ……── 武の夢と希望に溢れていた顔は、蒼白な病人のような面へと変貌していた。

 

 元々1人の乗りのアルトアイゼンに無理やり乗り込み、衛士強化装備も装着していない状況では、当然、武には必要以上の無理がかかってくる。

 横浜基地への帰還を開始した後、武の要望に応え、廃墟ビル群をぐるっと一周してから、アルトアイゼンはハンガーに戻ってきた。出発直後は、凄いよこのロボットさすがクワガタムシのお兄さん、と気のせいか武が戯言をほざいていたような気がしたが、アルトアイゼンが巡航速度に加速したあたりから徐々に口数が少なくなり、短時間だけ戦闘速度に加速してやると目に見えて表情が青ざめ、結局、速度を落としてキョウスケは基地へと帰還したのだった。

 時間をかなり消費したため、夕呼とまりもは先にハンガーへ到着していた。

 コクピットから武が頼りない足取りで脱出し、キョウスケは防護用ヘルメットを外しながら平然と地面に足を付けた。

 

「で、感想は?」

 

 夕呼が武に質問した。

 

「…………」

「何とか言ったらどうかしら?」

 

 もうやめろ、白銀 武の体力はとっくにゼロだ。

 操縦した自分が言うのもアレだが、少々手加減を誤ったようだとキョウスケは反省していた。本人が希望したとはいえ、戦闘速度まで一瞬でも加速したのが間違いだったかもしれない。

 明らかに体調を崩した様子の武だったが、意地があるのか、引きつった笑顔をキョウスケたちに向けてきた。

 

「し……白銀 武はクールに去るぜ……」と武。

「馬鹿ね」と夕呼。

「馬鹿だわ」とまりも。

「……いいから馬鹿なこと言ってないで、さっさと行け。紙袋も忘れずにな」とキョウスケ。

 

 ううっすいません、とキョウスケから紙袋を受け取った武は、まるで生まれたての仔馬のような足取りでハンガーから立ち去っていく。

 行先きは言うまでもないだろう。

 

「さてと、改めて二人ともお疲れ様」

 

 残ったキョウスケとまりもに夕呼が言った。

 

「今回の実動データは、今取り組んでいる戦術機開発に大いに役立つはずよ。試作01式電磁投射砲の実射試験もできたし、量産できれば、戦術機の火力不足も幾分改善されるはずだわ。

 それにアルトアイゼンの運用方法の実際と南部の技量も知ることができた。伊隅にはこのデータを渡しておくわ。これでもし実戦投入されることになっても、布陣の調整が相当やりやすくなると思う」

 

 それは吉報だが、キョウスケには気になることが1つあった。

 

「一つ確認したい。今回消耗した実弾や装甲の補給はどうする?」

「可能な限り手配させてもらうわ。もちろん、軍費でね」

(……可能な限り、か)

 

 キョウスケは期待を抱きすぎるべきではないな、と感じていた。

 この世界でアルトアイゼンの本領 ── 圧倒的火力と突撃速度による正面突破を全力で行えるのは、良くて数回(・・)と考えるべきなのかもしれない。

 アルトアイゼンの火器はこの世界の物より全体的に火力が高い。自機の火器は温存し、87式突撃砲のような互換性のある武器を使うことも考慮しなければならない。

 補給の目途が立てばこの問題は解決するが、それまでは切り札として手元に置いた方が無難だろう。

 

「分かった。香月博士、アルトをよろしく頼む」

「素直でよろしい。じゃあ今晩はこれで解散にしましょう。

 あと、アンタの明日以降の予定は追って伝えるわ。実機のデータは今回で大分集まったから、煮詰めて問題点が出るまで少し時間はかかる筈だから」

 

 アルトアイゼンは異世界の機体だ。戦術機のデータ解析より時間は喰うのは間違いないだろう。キョウスケは納得して頷きを返した。

 

「じゃあまたね。あ、まりもは私と一緒に更衣室行きましょう。少し汗かいちゃったからシャワー浴びたいし」

「はぁ……シャワーなら自室の物を使えばいいのでは?」

「いいじゃないの、偶には。こんな機会、滅多にないでしょう?」

「まぁ、私はどちらにせよ着替えねばならないので構いませんが……」

 

 まりもは例の衛士強化装備を身に着けていた。皮膜に覆われているものの、豊満な胸が強調されていて目のやりどころに困る。

 講義で衛士強化装備の高性能さはよく理解できたが、デザインに関しては製作者の趣味が多分に反映されている気がしてキョウスケはならなかった。

 

「では南部中尉、我々はこれで失礼します」

 

 まりもがキョウスケに敬礼を送ってきた。

 キョウスケも敬礼を返しながら言う。

 

「ああ、おやすみ、神宮司軍曹」

「はい、おやすみなさい」

 

 まりもと夕呼は連れ添ってハンガーから立ち去って行く。

 残されたキョウスケもパイロットスーツの下は汗で汚れているので、更衣室にシャワールームがあるなら使いたかった。

 すぐに更衣室に向かおうかとも思ったが、おそらくトイレに向かったであろう武のことが気になった。

 

「……俺の操縦な訳だしな、様子ぐらい見に行くか」

 

 キョウスケは武を探しにハンガーから立ち去った。

 

 

 

 

 案の定、武はハンガーから出て最寄のトイレに立て籠っていた。

 

 吐いてはいないようだが、気分が大分悪いらしく洋式の便座に座っていた所を発見され、キョウスケに連れ出された。

 武も相当汗をかいていたため、更衣室を目指して一緒に廊下を歩いていく。

 

「南部中尉、ご迷惑をかけてすいませんでした」

「気にするな。パイロットスーツもなしでアルトに乗れば、誰もがそうなる。俺がもっとしっかり止めるべきだった」

「いえ、我が儘を言ったのは自分なので……本当にすいません」

 

 武の足取りはやはり遅く、キョウスケはそれに合わせて歩いた。

 白銀 武。夕呼の話では、この世界の未来時間を生きて転移してきた、厳密には並行世界人と言うべきこの世界の住人だと言う。

 まりもの講義で知った、この世界の置かれている状況 ── BETAという異星起源種との戦いでユーラシア大陸の大半を奪われ、完全に後手に回ってしまっている状況で、武が時折見せる年相応の少年のような子どもっぽい態度。

 そこがキョウスケは妙に気になっていた。

 絶望的な社会情勢の中で生まれ、異星の化け物の脅威を刷りこまれてきた人間とは思えない、根本的な部分での明るさ、悪く言えば軽さが残っているように思えた。

 もちろん、絶望的な世界にもそういう人物はいるだろう。

 あるいは、それは同じ時間をもう一度体験している余裕から来るものなのかもしれない。

 それでも、武はどこかが違う。未来時間を生きてきたという点を除いても、異世界から来たキョウスケに似た「特別」さを持っている……そんな気がしてならなかった。

 

「南部中尉」

 

 武が足を止め、声を掛けてきた。

 

「一つ聞きたいことふがあるんですけど、構わないでしょうか?」

「ああ、いいぞ。どうした?」

「南部中尉は何のために戦っているんですか?」

 

 思いがけない問いに、反射的にキョウスケの眉尻が動いた。

 キョウスケの答えは決まっている。

 だがそれを語るのに廊下という場所は不適切だろう。壁に耳あり、障子に目あり。誰が聞いているのか分からい状況で、並行世界に関する言葉は口にするべきではない。

 しかし武はキョウスケの事情を知っている。

 並行世界に関する言葉を伏せていても武には伝わるし、誰に聞かれていても本当の意味は分からない筈だ。

 

「帰るためだ」

 

 キョウスケは言い切った。

 

「愛する女の元へな」

「俺も昔はそうでした。でも今はそれだけじゃない」

 

 武が言い返してきた。

 

「俺はこの世界を救いたい。地球からBETAを追い出してこの世界を救い、笑ってあいつらの所に帰るんだ……! そのためには響介さん……あなたのような人の力が必要なんです!」

 

 この世界に骨を埋めるつもりは、キョウスケには毛頭なかった。

 並行世界に必要以上介入するべきではない、キョウスケはそう考えている。

 シャドウミラー ── かつてキョウスケの世界を、自分の世界を変えるための踏み台にしようとした連中を知っていたから。

 シャドウミラーは戦争と言う害悪を撒き散らして逝った。

 キョウスケに悪意があろうとなかろうと、この世界にとって異分子であることに変わりはない。本来ないはずの刺激で眠れる獅子が目覚めることも、穏やかだった風が暴風雨に変化することだってない訳ではないのだ。

 だからこそ帰る方法が見つかれば、すぐにでもキョウスケは姿を消すつもりだった。

 

「お願いします響介さん! 俺に ── 俺に力を貸してください!」

 

 黙ったままのキョウスケに武が痺れを切らした。

 

「響介さん! 俺は強くなりたんだ、この世界を救うために!」

「……響介さん、か……下の名で呼ばれるのも随分久しぶりの気がするな」

 

 目覚めてからまだ2日。にも関わらずそう感じてしまう。

 

「す、すいません! みんなに言われるけど、俺、なんか馴れ馴れしいみたいで……!」

「いいさ、好きに呼ぶと言い。その代り、俺も武と呼ばせてもらおう。ただしあまり人がいない所でだけにしろよ。上官を下の名で呼んでいるのを聞かれて困るのはお前だからな」

「はい! ありがとうございます!」

 

 素直な返事をする武にキョウスケは好感を持っていた。

 キョウスケとて表に出さないだけで、熱い男は嫌いじゃない。キョウスケの中にも宿る熱い魂、それを隠さず表現する武を嫌う理由がどこにあろうか。

 

(どの道、今日明日にも帰れる訳じゃない。不干渉が理想とはいえ、他人に関わらずに生きていける訳でもない。なら、事情を知るこの男に協力するのはやぶさかじゃない)

 

 キョウスケは答えを決めた。

 

「武。帰るまでの期限付きだが、俺でよければ力になろう」

「きょ、響介さん! ありがと ──── うっ」

 

 突然、武が口元を手で押さえた。

 顔色が悪い。

 

「……おい、大丈夫か?」

「ちょ、ちょっと喋りすぎたみたいで気分が……先に行ってもらえますか? 更衣室なら案内標識に従えば行けますから」

「分かった。すまんな」

 

 武は元来た道を小走りで引き返して行った。行先は……言うまでもないだろう。

 仕方ないのでキョウスケは一人で更衣室に向かうことにした。

 しばらく廊下を進むと、「更衣室」と書かれた案内標識を見つけた。

 

「こっちか」

 

 キョウスケは標識に従って進み、更衣室に向かった。

 

 

 

      ●

 

 

 

【22時33分 横浜基地 廊下】

 

 トイレでうがいを済ませた武は、幾分気分がマシになったためキョウスケの後を追っていた。

 

「あーマジで辛い……軽い加速度病じゃねえのコレ? ……やっぱり、衛士強化装備は偉大だなぁ」

 

 一人ごちしながら早足で廊下を進む。

 しばらくして、武はキョウスケが従った案内標識を見つけた。

 「更衣室」と書かれている。

 しかし武は気づいた。

 「更衣室」と書かれた金属製プレートの案内標識 ── その左端(・・)が欠けていることに。

 

「……なんだ、これ?」

 

 武は足元に落ちていた金属片を拾い上げた。

 「女子(・・)」。

 金属片にはそう書かれていた。

 

「ま、いっか。それより早くシャワーを浴びよう」

 

 武は案内標識に拾った金属片を嵌め込むと、キョウスケに合流するため、記憶を頼りに男子(・・)更衣室へと向かった。

 

 

 

      ●

 

 

 

【22時35分 更衣室 シャワールーム】

 

 汗だらけになったパイロットスーツを脱いだキョウスケは、更衣室内に備え付けられていたシャワールームに、ハンドタオル1つで前を隠して足を踏み入れた。

 

 既に先客がいるのか、シャワールーム内には白い湯気が立ち込めている。

 狭いシャワールーム内は数個の仕切りで区切られ、個人が体を洗うためのプライバシーを最低限確保していた。

 5つある個人用シャワースペース。その内、隣接した真ん中の2つから湯気が立ち上っていた。足元からは使用され溢れた湯が、中央の排水溝へと流れていく。

 

「ふぅー、気持ち良かった」

 

 真ん中のシャワースペースから溢れ出る湯の流れが止まった。キョウスケの聞き覚えのある声と共に。

 

(……嫌な予感がする)

 

 キョウスケの勘は良く当たる……ギャンブルを除いて、だが。

 聞き覚えのある声の主が、真ん中のシャワースペースから出てきた。

 

「ん?」

 

 香月 夕呼が現れた。バスタオルを巻いた湯上り直後の姿で。

 絡み合う視線。

 訪れる沈黙。

 そして……

 

「夕呼、どうしたのー? いつもだったら、早く出なさいよまりもー、とか言う癖に ──── ィ?」

 

 続けて神宮司 まりもが現れた。

 もちろん、生まれたままの姿に、バスタオルという名の薄布を巻きつけただけの姿で。

 もつれ合う視線。

 2度訪れた沈黙を破ったのは、まりもの金切り声だった。

 

「ど、どどどどどうして、女子更衣室(・・・・・)に南部中尉がいるのですか!? まさか覗き ──── キャッ!」

 

 余程動揺していたのか、まりもがシャワールームの湿った床で足を滑らせた。

 腰から落ちる時、まりもはタイルで右手を思い切り突いてしまう。

 それはもう、ぐきぃ、と擬音が聞こえてきそうな程で、転んだまりもは右手を押さえて悶絶していた。

 

「……すまん」

「二回死ねぇ!!」

 

 謝罪など聞く耳持たず、夕呼の鉄拳がキョウスケの顔面に炸裂したのだった ──……

 

 

 

 

 

 ……その後、キョウスケに言い渡された沙汰 ── まりもの負傷(腰部強打+右手首【利き腕】捻挫)が治るまで、彼女の業務を手伝うこと。

 

「そいつは重畳(ちょうじょう)……の真逆だな、これがな」

 

 仏滅の如き星めぐりの悪さを恨みながらも、翌日から、キョウスケは第207訓練小隊の訓練の補助を行うこととなったのだった。

 

 

 

 




<巻末おまけコーナー 次回予告「アルトの奇妙な冒険 第4部 ダイアモンドは砕けない」>
(注) このコーナーはメタフィクションです。登場するキャラがどれだけキャラ崩壊を起こしていても、連載中の本編とはいっさい関係ありません。ありませんったらありません。

 
【11月21日 午後20時23分 国連横浜基地近辺 廃墟ビル群】

 それはある晴れた夜のこと。
 キョウスケはリボルビング・バンカーで突撃級の装甲殻を砕いてみろ、と夕呼に無茶ブリされました。

キョウスケ「これを砕けばいいんだな?」

夕呼「そうよ。亀の甲羅のようにメメタァと砕いちゃって頂戴」

 夕呼はなにを言っているのでしょう? 
 キョウスケにはよく分かりませんでしたが、蛙の小便のごとき装甲殻などバンカーで撃ちぬいてやろうと思いました。

キョウスケ「良く見ていろ。この俺の連打を!」

 リボルビング・バンカーが唸りをあげます。
 しかし装甲殻は固く、文字通り歯が立ちません。
 
キョウスケ「オラッオラオラオラオラオラッ!」

 バンカーが炸薬で撃ち出され、装甲殻に連撃を加えます。
 1発、2発3発……全部で六発。
 全弾撃ちこんだ後、ぱっきーーーん、と金属音が響き渡ります。
 バンカーの切っ先は折れてしまいました。くるくる回って、ずぶっと地面に突き刺さります。

キョウスケ「…………」

夕呼「あ、言うの忘れてたけど、装甲殻はダイヤモンド以上に固いから」

キョウスケ「ク、クレイジーダイヤモンド!? こ、香月博士、無敵の因果律量子論で何とかしてくださいよぉ~~!!」

夕呼「あんたクビ」

 こうしてキョウスケは職を失い、路頭に迷いました。
 その後、彼の姿を見た者は誰もいませんでしたとさ……
 めでたしめでたし。





キョウスケ「めでたくない!」

エクセレン「そうよねー。もしバンカーの切っ先がただの鉄だったら、危うく『第3部ッ、完!』状態になる所だったわね?」

キョウスケ「うれしくない!」

エクセレン「でも『路頭に迷ったキョウスケ! なけなしの金で最後の勝負に出る!』とかキョウスケ好みの展開でしょ? 分の悪い賭けは?」

キョウスケ「嫌いじゃない!」

エクセレン「わお、じゃあみんな。また次回で会いましょう!」

キョウスケ「では次回予告、今日も元気に行ってみよう!」


<次回予告>

キョウスケ
「研ぎ澄まされた必殺の一撃がキョウスケの胸を抉る!
 再起不能の傷を負ったキョウスケ! どうした!? お前の伝説はここで終わってしまうか!?
 負けるなキョウスケ! 立ち上がれキョウスケ!
   次回「疾風伝説 特攻のキョウスケ」最終回!
              「開発、新OS」にレディィィィッゴオォォッ!!」

エクセレン「次回も私は出ないわよん♡」



(注)この次回予告の半分は嘘と優しさでできております。

 ひどいオチだ。
 キョウスケと武ちゃんはできるだけ絡めていきたいと思います。


【番外 第4話終了時のアルトアイゼンの状態(スパロボ風)】

 作者が考えているアルトアイゼンの状態を、戦闘があるたびに紹介していこうと思います。(あくまで予定)
 掲載する理由は、ただ単に作者がデータを数値化するのが好きだからです。
 意味ないことするななんて怒らないでねw
 掲載しているデータは第2次スーパーロボット大戦OGのデータを参考にしています(設定上はジ・インスペクター後ですが参考値なのでご了承を)。
 あくまでも参考ということでよろしくお願いします。
 今回は第4話戦闘終了時(戦闘でのダメージを反映したもの)の状態を紹介します。

・主人公機
  機体名:アルトアイゼン・リーゼ(ver.Alternative)
 【機体性能(4話戦闘直後)】
  HP:4000/6000
  EN:140 / 140
  装甲:     1650
  運動:      110
  照準:      145
  移動:        6
  適正:空B 陸A 海B 宇A 
  サイズ:M
  タイプ:陸

 【武器性能(威力・射程・残弾のみ表示)】
  ・5連チェーンガン
    威力2300 射程2-4 弾数10/15(交換用弾丸:87式突撃砲弾が第一候補)
  ・プラズマホーン
    威力2600 射程1   弾数無制限
  ・リボルビング・バンカー
    威力3800 射程1-3 弾数 4/ 6(交換用弾倉:数個予備あり)
  ・アヴァランチ・クレイモア
    威力4500 射程1-4 弾数 9/12(補充用弾丸:現在の所補給の目途立たず)
  ・エリアル・クレイモア
    威力5100 射程1   弾数 1/ 1(使用にはこの武装の弾数および他実弾武装の2割を使用する)
  ・ランページ・ゴースト
    威力5525 射程1-5 ヴァイスリッター不在のため使用不可

  オプション装備
  ・ビームソード
    威力2000 射程1   弾数無制限
  ・87式突撃砲(36mm)
    威力1600 射程1-3 弾数30/30
  ・87式突撃砲(120mm)
    威力2600 射程2-6 弾数 6/ 6

 以下、修復されない限りこのままの状態で戦闘に臨む予定。

 戦闘があった場合、その際のアルトアイゼンの性能などを記載してみようかなと思います。
 その方がイメージを想像しやすいかなぁ、と思ったので(もしかしたら余計かもしれませんが)。
 ちょっとした試みとして今後も続けていきたいです。
 突撃砲の威力弱すぎるかな? 色々な方に意見を頂き、ネットを調べるうちに、OGⅡのR-2パワードの「バルカン砲」程度かそれ以下が妥当な威力に感じます。ちなみにガンダムなどのバルカンの口径は約60mmくらいらしいです。
 まさに豆鉄砲(涙目)、火力が足りないという意見を頂いたことがありますが、納得の小ささですね。
 逆にBETA側の攻撃力は要撃級で3000以上ありそうだなと思ったりします(私はですが)。
 BETAVS人類は、イメージ的には野生の猛獣VS拳銃ばりの小口径弾を吐き出す機関銃を持った人間って感じです(あくまで私はですが)。

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